真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第二十話

 東の川神学園に西の天神館。同じく神という漢字が入った両学園は仲が良いわけではない。共通してるところと言えば、学生間の決闘を許可している数少ない学園と言うところだろう。武闘派である天神館は近年の東高西低と言われているのが納得できないらしく、修学旅行を口実に学校ぐるみの決闘を申し込んできた。

 競争意識を高める教育をしている川神学園は当然この決闘を受ける。

 学年ごとの3本勝負。場所は川神の工場。時刻は夜。

 そして今まさに200人対200人の集団戦の真っ最中である。

 ルール無用で敵大将を倒せば勝ち。単純な決め事と言うこともあり、無人の工場地帯はあっという間に合戦の地へと変わった。

 工場の夜景は遠目には綺麗に見えるが、中にいる者にとっては興奮状態も合わさって異様な光景にも映る。

 膨れ上がる血管の様に無数のパイプが張り巡らされており、工場のライトは冥界を淡く照らす人魂のように鉄筋に反射して異端な景色を演出している。

 その景色を慶一はゆっくりと見据えていた。不規則に動く異物の影の群れに取り込まれないようにと。

 脳が動いてた。肩で息をするかのように、心臓が鼓動するかのように伸縮を繰り返して警報を鳴らしているようだ。

 脳が騒いでいた。吐く息が多い呼吸のように、早鐘のような重い鼓動も脳に直接響いてるように喚き散らしている。

 対して耳は静かだった。無駄な喧騒は意図的に消し去り必要な音だけを拾う。集中するべき器官は眼だ。全てを見据える必要はなく自分の間合いを見極める。敵の数が一人だろうが何百何千の軍勢だろうが間合いに入れる人数は限られているからだ。

 対峙する時間は長くは続かず、痺れを切らした一人が弾ける様に突然動き出した。

 振り下ろされた模造刀が空気を切り裂く音を引き連れて慶一に襲い掛かる。

 得物を持っていようが手先に囚われるな。見るべき場所は肩と腰。

 剣戟だろうが拳撃だろうが、肩と腰の回転を見れば次の行動が予測できる。回転がないものは全てダミーであり威力はなくダメージも少ないが、全てを迎撃する必要はない。防御はあくまで防御その場のしのぎでしかない。

 重要なのは避けること。前でも後ろでも左右どこでもいい。半歩動けば間合いが変わる。一歩動けば戦況が変わるからだ。

 防御と言う行為は、やがて来る痛みに備えなくてはいけないということでもあり、隙が生まれやすくなってしまう。牙をも通さない皮膚を持った動物だからこそ有効な技であり、鎧も着けていない人間にとっては悪手の一手になり得る。

 だからこそ慶一はその攻撃を受けない。右足を後ろに引き半身の状態になる。それだけで模造刀は空を切る。相手も予測していたのかすぐ切り返しの動作に入ろうとするが、慶一はその動作を見逃さない。

 武器を振り下ろした瞬間から伸びて弱点になった肘の関節に、軽く合わせるように打撃を当てるだけで相手は悲鳴を上げる。その声に怯む者は常闇に呑まれるように逃げていき、残り敵は今と同じように虚をつく無防備な部分を突破口にし戦闘不能へと導いていった。

 大多数対一人は、数人対一人に変わり、独り対一人に変わっていく。

 やがて慶一の目の前には立っている者はいなくなり、吹きぬける風が工場の凸凹に共鳴して不気味な声をあげている。

 代わりに現れたのは足元への射撃。

 これは威嚇でも警告なく、ゲームオーバーを知らせるための一本の矢。見上げると無数の弓兵の影が慶一の身を支配するように重なる。

「それでもオレは怯むことなく……。って千花ちゃん聞いてる?」

「はいはい。聞いてるわよー。喋るのはいいけど手は動かさないでよね。手当てし辛いじゃない」

 身振り手振りでを使って自分の活躍を伝えるが、あっさり嘘と見破られ呆れ顔をされる。

「千花ちゃん、そんな言い方可哀想ですよ。早々に脱落したと言っても慶一ちゃんも頑張っていたんですから」

「いいのよ真予。大法螺聞いてるほど暇じゃないんだから」

 話してる間にも怪我人が次々と運ばれてきており、救護班は忙しそうに動いている。

 救護施設として身を固めているこの一帯では、至る所にKUKIと書かれた太いパイプが張り巡らされいる。決闘場所がここに選ばれた理由が明白だった。

「はい、怪我に良く効くハーブだよ」

「悪いね、クマちゃん」

「僕に出来ることはこれくらいだからね」

「オレも救護班の方が良かったんだけどな」

「戦える人は大変だね」

 戦うほどの力がない生徒は後方支援の救護班にまわされているが、慶一は運動神経が悪いわけではないので戦闘に借り出されている。しかしガクトみたいに身体能力が高いわけでもなく、大和のように知恵を生かして軍師として活躍する程の知能もない。

 そうなると慶一の役目としては雑兵、分かりやすいくらいその他大勢の分類に属していることになる。悲しいかな、活躍するどころか西方十勇士と出会う前の雑兵同士の小競り合いでリタイアしている。

「今更だけど、学生同士の小競り合いで爆煙が舞うのはおかしいよな」

 窓から戦場の様子を覗くと爆音の後に煙が舞うので、大規模の戦闘がどこで行われているのかはっきりとわかった。

「同じ煙なら七輪で秋刀魚を焼いたの煙の方がいいよね」

「この時期ならホタテにバター醤油が味、匂い共に最高だな」

「うぅ……。お腹が減ってきたよぉ……」

 クマちゃんはどこから出したのかスナック菓子を食べて空腹を紛らわせていた。

「ちょっと! 元気なんだから手伝いなさいよね!」

 慶一は千花ちゃんに首根っこを掴まれて引きずられて行く。見渡すとかなりの数の怪我人が運び込まれていた。

「負傷者が多いけど、もしかして押されてるのか?」

「そうみたいね。優秀な大将が率いてる部隊はまだ運ばれてこないから大丈夫だと思うけど」

 風間ファミリーのメンバーに、Sクラスの有名どころの姿は見えない。各地で奮戦しているのだろう。

 東高西低と呼ばれているのは武神の影響が大きい。川神学園の2年の連合軍は天神館に勝てるのだろうか?

 キャップに英雄、両者とも負ける姿は想像出来ないしなんとなく大丈夫だろうと思うが、ここから戦況が窺えない分少し不安になる。特に怪我人の手当てをしていると、ほとんど戦線に立っている人数はいないのではないだろうか。

「前口君ってさぁ、実は結構鍛えたりする?」

「全然。川神院にお世話になってるって言っても修行とかはしてないからな。でも、突然どうした?」

「袖から覗く腕の筋肉がちょっといいなーって思って」

 怪我人に包帯を巻く慶一の腕は、力を入れる度に角張り筋肉を主張していた。

「あぁ、これは料理やってるからな。鍋とか重いから結構腕には筋肉つくんだよ」

 腕に力を入れて肘を曲げて二の腕の筋肉を強調させると思ったよりもこぶが出来ていた。それでも運動部に励む生徒に比べたら微々たるものかもしれない。

「やっぱり男の人はある程度筋肉なくちゃね」

「ガクトとかどうよ? そこらの男じゃ歯が立たないぞ」

「島津は筋肉ありすぎでありえないって、そもそも性格がアレじゃあねー」

 ガクトの一筋の希望の為にも一応話題を出してみたが、案の定というか取り合ってもらえず、あまつさえダメだしをされる。

「オレももう少し筋肉つけた方が見た目的にもいいんだろうな」

「んー、それくらいがいいかもよ。その方がさっきみたいにドキッとするかも」

「千花ちゃんに褒められるとは男冥利に尽きるねぇ」

 ガクト、ヨンパチ、スグルの三馬鹿は数えるまでもないが、他の男達よりは良い印象を持たれているらしい。男子に人気のある千花ちゃんに褒められるのは優越感もあり、その言葉は本心だった。

「前口君って結構タラシ?」

「そりゃ、聞き捨てならんな。どうしてまた?」

「こないだのサルが言ってた話とかもあるし、今みたいに女心をくすぐる感じがそうっぽいなーって」

「それならキャップくらいわかりやすくモテてみたいもんだ」

「風間君は別格。あれと比べられる人なんてそうそういないって」

 千花ちゃんはそう言うが、イケメン四天王と言うわかりやすい存在がいるわけで、肩を並べられる男が三人もいる。しかもその内の二人は同学年だ。

「まぁ、嫌われてるわけじゃないってだけでもよしとするかな」

「羽黒が言うにはワイルドさが足りないってさ。私からしたら大人っぽくて結構ポイント高いよ」

「おっ、いいな大人っぽいって。じじくさいばっかり言われてるから新鮮な感じ」

「落ち着きすぎてるからじゃない? 朴念仁ってわけじゃないけど、あからさまに恋愛と友情に線を引いてるのが見え見えって感じ。島津の言ってた枯れてるっても、あながち間違いじゃないかなーって思ったり」

 人のことを良く見ている。それに加えて核心をズバッと言うタイプだ。それが一部の男達に性格に難有りと反感を買っているが、慶一にしてみればこれくらいわかりやすい方がいい。

「キャップと同ランクに立つには 輪廻転生を繰り返すしかなさそうだな」

「今は料理出来る男の人って言うのもモテるし、前口君は今のまんまでいいんじゃないかな?」

「それって結局モテないってことじゃ」

「あはは、そうかもね」

 怪我人の手当てをしながらも談笑をしていると、遠くで勝ち鬨の声が上がった。それが津波のように怒号となり慶一のいる場所まで押し寄せてくる。

 形勢は不利だと思われたが、誰かが相手方の総大将首を落としたらしい。

 

 

 東西交流戦は川神学園が勝利で終え、今は戦友となった天神館を駅で見送っている。

「へー、じゃあ総大将を倒したのはその義経って奴なのか」

「上からいきなり駆け降りて来るからびっくりしたわよ。あっという間に倒しちゃったし」

「でも、一子も大将首を上げたんだろ? たいしたもんだ」

 わしゃわしゃと一子の頭を撫でると本当に尻尾を振ってるようにポニーテールも揺れている。

「わーい、褒められたわぁ」

「このまま西まで名が売れるといいな」

「そうねぇ。でも、まだまだ精進だわ! そう言えば慶一は見当たらなかったけどなにしてたの?」

「よく言えば一番槍ってとこかな」

「あはは……なんとなく分かったわ。それで天神館の人と話してないのね」

 それぞれ対峙したであろう者達と会話をしているが、何をしたわけでもない慶一は特に話すことがなく暇を持て余していた。

「武道経験がない連中にとっては、こういうイベントは楽しめないか?」

 悪い聞いちまったと言いながら、街灯に頭を反射させ井上が話しかけてくる。

「そういうわけでもないけど、終わった後の充実感は微妙なとこだな。オレ個人は友情を深めたわけでもないし」

「うんうん。戦って愛を深めるなら小学生くらいがいいよな」

「小学生と戦闘したら、そりゃただの虐待だよ」

「いやいや、オレはロリからの攻撃なら全てを受け入れる自信があるね。むしろバッチコォオーーッイってとこだな」

 相変わらず素っ頓狂なことを言っているが、周りと比べてつまらなさそうにしていた慶一に気を使ってくれたのかもしれない。

「まぁ、今回のまとめとして言えることは……。オレはショタコンじゃねぇ!」

 ……かもしれない。

 

 

 

 

 

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