真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第二十四話

 約束通りクリス希望の稲荷寿司を昼に食べている。

「おぉ! 野沢菜がシャキシャキしてて美味しいぞ!」

 クリスが満面の笑みを浮かべ、ひとつひとつ稲荷寿司を食べて楽しんでいた。満足してくれているらしい。

 野沢菜漬と葉わさびの食感が少し被ったが、味が違うので飽きることなく食べられそうだ。

「余計に作ってあるからガクトも食っていいぞ」

「わりぃな。いただきまーす」

 ガクトは遠慮なく一口で稲荷寿司を食べる。美味いと一言感想を言った後、少し考えて慶一に話しかけた。

「これってクリスがリクエストしたんだよな」

「そうだよ、一応はババ抜きで負けた罰ゲームで」

「オレ様わかったことがあるぞ」

「弁慶と葉桜先輩とどっちと付き合うのか決めたのか?」

「昨日の段階では年上の葉桜先輩が優勢だったんだけどよ、松永先輩まで出てきて……オレはどうればいいんだ! ……じゃなくて!」

 井上まではいかないが、ガクトはガクトで転入生のことでテンションが上がっていた。

「一応結論は出てたのか……。で、なにがわかったんだ?」

「慶一が甘やかすタイプについてだよ」

「あー、僕もなんとなくわかったかも」

 ガクトとモロが分析を始める。

「まず筆頭のワン子!」

「自他共に認める甘やかしぶりだね」

 言われるまでもない。もし反論するところがあるなら慶一以外も一子には甘いということだが、慶一が甘やかしていることには変わりはない。

「次にクリス!」

「確かに、クリスにも甘いかもね。遊びでもわざと負けてあげるくらいだしね」

「どう意味だ! 自分は実力で勝ち取ったんだぞ!」

「直ぐに表情に出るクリスが、年中ポーカフェイスの慶一にババ抜きで勝てる要素はない!」

「うっ……」

 驚いたことに多少は自覚があるらしく、ガクトに突っ込まれて口を噤んでいた。

「最後はキャップだ!」

「んー。微妙なとこかも知れないけど、なんだかんだキャップの無茶振りに付き合ったりしてるしね」

 授業をサボって釣りに付き合ったり、無理な丼ツアーに付き合ったりと、思い当たる節は多少ある。

「結局は何が言いたいんだ?」

「ズバリ、慶一が甘やかすのは美味しそうに物を食う奴だ!」

「うん。僕も同じ結論だね」

 ガクトとモロ二人して頷き合っているが、納得がいかないというか……。そう言われればそうかもと思うだけの微妙なとこだ。

「美味しそうに物を食う奴だ! って言われても、だからどうしたとか返せないぞ」

「今までは慶一=食べ物ってイメージがあったから、納豆小町の松永先輩を掻っ攫っていかれると思ったからな。これで安心して誰を彼女にするか悩めるぜ」

「あぁ、それで……」

 松永燕。クローン組から一足遅れて今日転入してきた三年の謎の美少女。朝から百代と戦い話題を集めていた。

 決闘ではなかったらしく途中で戦いが終わってしまったが、大抵は数秒。長くても1分以内くらいには対戦相手を倒し終えている百代にとっては好敵手の出現と言ったところなのだろうか。

 珍しく長く戦っていたので、慶一も百代の戦いぶりを見ていた。

「ガクトはそう言うけど、慶一ってどっちかと言うと甘やかす対象は恋愛的に見ないんじゃないかな」

「モロの言う通り、今のところ一子には劣情をもよおしてないぞ」

「ワン子にはってことは……。もしかしてキャップには!?」

「……今まで我関せずだったのに突然入ってくるなよ京」

「くっくっくっ。男の友情と大和があるところに椎名京ありだよ」

「今、大和はここにいないけどな」

「大和はキャップと歓迎会の打ち合わせがてら外で食べてるよ」

 しっかりと大和の居場所は把握していた。

 

 

 学校が終わり歓迎を開くための食材の準備をしていたら、すっかり辺りは暗くなってしまった。

 この時間帯は外を歩いていても、夕飯の残り香が町を漂い空腹を刺激してくる。そうなると自然に梅屋へと足が向いていた。

 券売機で牛飯の並盛のボタンを押す。理由は一番早く用意できるからだ。それにしても並盛で743kcalとはダイエットしてる人が見たら卒倒しそうだ。

 食券を片手に持って重い扉を開ける。

「いらっしゃい。一名様空いてる席へどうぞ」

 梅屋の明るい色をしたエプロンが全く似合わない店員が慶一に席を勧める。

 その無愛想な顔の男には見覚えがあった。

「牛飯並盛一丁ー! 今お持ちしますね」

「ちょっとちょっと」

 すっと奥の調理場に向かう男に慌てて話しかける。

「どうしました? お客さん」

「系統としては思ってたのと違ったけど、やっぱり飲食店関係の人じゃないですか!」

「この間会った時は違ったんだよ。時代は変わるねぇ」

 川原で会ったときと変わらない胡散臭い笑顔で、慶一の前に味噌汁を置く。

「この先道は交わることはないとかカッコいいこと言ってたけど、ずいぶん早く合流しましたね」

「そういうのは思い出しても言うんじゃねぇよ。まぁ、さっきも言ったとおり時代が変わったんだよ。ほい、お待ち」

 目の前に置かれた牛飯に紅生姜のせ七味をかける。ファストフードらしく掻っ込むと、赤ワインで煮込んだコクが口の中に広がっていく。それでも劇的に美味いというわけでもなく、値段相応の味を楽しむ。

「いらっしゃい。三名様空いてる席へどうぞ」

 店員がそう言っているのにもかからず、わざわざ慶一の横に腰掛けてきた。どれだけ図々しい奴かと思い顔を見てやろうとすると、百代と一子と大和の三人だった。

「なんだ大和達か」

「歓迎会の準備をしてたらお腹が空いてね」

「あー、お疲れさん。オレが忙しいのは明日もか……」

 慶一は義経達の歓迎会の料理を作るのだが、クマちゃんにまゆっちもいるので実際そこまで負担はかからない。

「ちょうどいいから奢ってくれにゃん」

 一名本当に図々しい奴が混じっていた。

「もう、食券買ったんだから遅いだろ」

 隙あらば……。いや、あってもなくても人に奢らせようとする百代と話していると店員が注文を取りに来る。と思ったら、思いがけないことを言い出した。

「お? 感動のご対面ってやつか?」

「わー、釈迦堂さんにそっくりの店員さんね」

「いや、ワン子……。そっくりと言うか本人だろ」

 感動のご対面の意味は分からないが、川神姉妹は店員と知り合いのようだ。

「なんだ? 生き別れの親族かなんかですか?」

「いや、オレはオマエと百代に言ったんだよ」

 百代の顔を見るが、同じく分からないと言う顔をしていた。直接男に聞いてみるしかなさそうだ。

「どういうことですか?」

「百代の昔の遊び相手だろ? 急に居なくなっちまってコイツ寂しそうにしてよー、目には――」

「わーわー! 釈迦堂さん余計なこと言わなくていいですよ!」

 思い出したのか百代は慌てて言葉尻を消すように騒ぎ出す。その姿は珍しく分かりやすいくらいにわたわたしていた。

「それをなんでおじさんが知ってんです?」

「せめて苗字で呼べよ」

 そう言ってネームプレートを慶一が読みやすいように傾ける。

「それで、釈迦堂さんは川神院の関係者かなんかなんですか?」

「まぁ、元が付くけどな。何回か川神院に百代を送りに来ただろ? そこでオマエとも会ってるはずだけどな」

「いや、そこは覚えてないです」

 お世話になり始めで川神院を見た時も、そんなことを思いもしなかった。小さい頃のことだし、そこらの寺と区別がつかなかったのかもしれない。

「なんだ、姉さんと昔からの知り合いだったらな教えてくれればよかったのに」

「今みたいに覚えてないことだらけで、どう説明すればいいか分からなかったんだよ」

 話しこんでしまいタイミングを逃した一子が、ここがチャンスと言わんばかりに食券を渡す。

「釈迦堂さんこれ食券ね」 

 三人分の食券を受け取ると厨房で調理を始める。

「それにしても寂しかったんなら、思い出したときに言ってくれりゃいいのに。明日遊ぼうよー」

 百代の頭を撫でながら、なるべく子供っぽく遊びに誘う。

「あーもー! そういう反応するのがわかってたから言わなかったんだ!」

「うわっ。姉さん顔真っ赤」

「珍しいこともあるものねー」

 大和との一子の言う通り、湯気が出そうなくらい百代の顔が赤くなっている。まぁ、子供時代のことをからかわれたら、顔を赤くするか青くするかの二択だろう。

「見るなーっ! 見るなー!」

 百代は顔を隠すようにそっぽ向いた。

 いつもなら気を使って話を変える大和だが、好奇心が勝ったのか話を続ける。

「慶一がいなくなって姉さんが寂しがるくらい仲良かったの?」

「うーん。記憶がそんなに定かじゃないけど、モモは友達少なかったからな。遊び相手が居なくなって寂しくなったんだろ。友達が少ないのは、今と照らし合わせると偉そうな態度が原因っぽいな」

 慶一がうんうんと自分の言葉に頷いてると、わき腹にいつもより強めの拳が襲う。

「あんまり余計なことを言うな!」

「飯食ってるときに腹はやめてくれよ……。こういうのも原因だろうな」

「確かに。屋根の上から上級生を落としたり怖かったな」

 大和も昔を思い出しているのか腕を組み、うんうんと頷いている。

「あれは大和が私を助っ人に呼んだんだろうが!」

「私はお姉さまの強さに憧れたわよ!」

「ワン子ー! やっぱり妹はかわゆいなー」

 一子が百代に抱きつかれ、わふわふしていると肉の焼ける匂いが近づいてくる。

「はい、おまち。一子には豚皿もおまけだ」

「わーい。ありがとう釈迦堂さん」

「でたよ、えこひいきだよ。昔からワン子には甘いんですから」

「オマエはボーイフレンドが二人いるんだから、そのどっちかにでも奢ってもらえ」

 釈迦堂は慶一と大和の二人を指差す。

「オレは一子を甘やかす派だから。頼んだぞボーイフレンド」

 慶一はぽんと大和の肩を叩く。

「断る! 姉さんを甘やかしたら際限ないことは慶一もわかってるだろ」

「そんな照れて遠慮しあわなくても、私は二人の愛を受け入れるくらいの度量を持ってるぞ」

「姉さん……。それって、要は二人とも奢れってことでしょ」

「そうとも言うにゃん♪」

 いつもの調子を取り戻した百代だが、折角だしもうちょっとからかってみることにした。

「仕方がない。寂しい思いさせた分奢ってやるか」

「あー、そのこと蒸し返すなよー! わかったよ。我慢すればいいんだろ」

「てか、姉さんばっかからかってるけど慶一は寂しくなかったのか?」

「親が死んだのがちょうどそのくらいだったからな。たぶん、モモに会いに行かなくなったもその当たりが理由だろ」

 のんびりと遊ぶことだけを考えていた子供時代は、そこから慌しく駆けて行った。そして風間ファミリーと出会ってからは、またのんびりとした時間を過ごしている。

「前も聞いたけど、子供時代苦労してるもんな」

「そうそう。モモが目に涙を溜めるほど悲しくても、オレにも理由があったんだから」

「聞こえてたのか!」

「おいお前ら、仲が良いのわかったけど声がでかいぞ」

「うぅー。元はといえば釈迦堂さんが余計な情報教えるからじゃないですか」

 

 

 梅屋を出て、大和と別れ、慶一と百代と一子の三人で歩いている。

「それにしても、お姉さまと慶一が幼馴染だったなんて驚いたわ」

「1週間くらいだしな、あれを幼馴染と呼んでいいのか微妙だな。友達だったのは確かだけど」

「そうだな。私も幼馴染というと大和達って感じがするからな」

 チグハグだった記憶が、釈迦堂さんに会ってからだんだんと形を作っていっている。少なくとも、小さい頃に遊んでいた相手が百代だと言うことは間違いないと言える。

「あー、でも川神院にお世話になって初めて合った時の変な感じはそれかもな」

「変な感じ?」

「初対面の時オレに興味がないって目してただろ? その時のモヤモヤっとした気分は、たぶん記憶どっかには出会ってたことを覚えてたんだろうな」

「……今更フォローしても遅いぞ」

 不貞腐れているような、嬉しそうなのか。二つの感情が入り混じった顔は、朧に照らす電灯の光だけではよく見えなかった。

 

 

 

 




少しだけ伏線を回収。
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