生ハムやサーモンや野菜を一口で食べられるサイズに切って上からピンで留める。本来は下にはパンを敷き上に食材をのせてピンで止める料理らしいが、最近はトマト、モッツァレラチーズ、イタリアンバジルにオリーブオイルを垂らしたものなど一品料理としての方が一般的になっている。
色とりどりの食材が白いテーブルクロスの上でカラフルに存在感を放っていた。
他の軽食もクロスが敷かれたテーブルの上に並べていく。
「ねぇねぇハゲ見てー、かわいいのが並んでるよー」
「おーいいねいいね。会場もしっかりしてるし飯も美味そうだし、思ったよりちゃんとしてるんだな」
気付けば会場には人が集まりだしおり、殺風景な会場に人の声が色を添えていた。豪華な料理を並べようがどんなに綺麗に飾りつけようが、こういう場を盛り上げるには人の声には敵わない。
「ピンチョスにしたからな、立ちながらでも食べやすくていいだろ」
「あはは~。ピンチョスだってー、変な名前ー」
「こらユキ! 失礼なことを言っちゃいけません!」
「だってセンスないよー」
「すまんな慶一。ユキに悪気はないんだが」
井上が子供が迷惑をかけた時の親のように謝る。
「いや、ピンチョスって元からある料理だから!」
自分が名前を考えたわけじゃなくても、気を使われるとこっちのセンスが悪い気がしてくる。いつもの仕返しに井上は知っててわざと言っているのだろう。
この二人がここにいると言うことは、当然もう一人もいると言うわけで……。
「これでやっと慶一君の手料理が食べられるんですね」
「バレンタインの時のチョコに混じってるんじゃないか?」
「量が多すぎてどれだかわかりませんでしたよ」
さらっと羨ましいことを言ってのけるものだ。ホワイトデーの時も見たが、かなりの量のお返しを用意してた。キャップはお返しを用意するタイプじゃないので二人の貰った正確な数値はわからない。今年のバレンタインはチョコを売りにいくよりも、学校に行ってどっちが貰ってるか数えるほうが面白そうだ。しかし今年やったチョコの屋台は評判が良かったし来年はもっと売り上げが伸びそうなところなので、かなりの悩みどころだ。
「まぁ、一番美味かったのがオレが作ったのだな」
「おやおや、珍しくずいぶん強く出ますね。惚れ直しそうですよ」
「最近は大和にお熱だと思ってたが」
「嫉妬も嬉しいですが、私の愛は無限なので許してください」
抱き締めてきそうな笑顔で近づいてくるので、距離をとるように片足を下げる。
「それにしてもクローン組が来ないな」
「先程、直江君が慌てて出て行きましたから何かあったんでしょう」
「このまま来ないってことはないよな。折角尻に火がつく思いで準備したのに」
「まぁまぁ、まだ正式な時間まで数分ありますし、のんびり待ちましょう」
手のひらで包むような形で数回ぽんぽんと尻を触られる。
「普通落ち着かせるときは背中を叩かないか?」
「えぇ、でもお尻に火がつくと言ってましたから。ケツは熱いうちに叩けと言うでしょう?」
葵と井上の周りを離れすぎないようにフラフラとしていた小雪が、その言葉に反応したのかこっちにやってくる。
「お尻が燃えてるの? 見せて見せてー」
「お宅のお嬢さんに悪影響出てるぞ」
「えぇ、ユキはやんちゃですから。困ったものです」
葵は困るどころか全く気にした様子がないように笑顔を浮かべていた。身内に甘いのはどこのグループも変わらないらしい。
「あれー燃えてないよ? ズボン脱がしたら燃えてるのかな?」
「ユキ! そんな汚いもの見ようとしたらダメでしょーがっ」
慶一のズボンに手を掛ける小雪を井上が慌てて止めていた。
「別に見せたいわけじゃないけど、その反応はむかつくな。マッチ棒みたいな頭してるくせに」
「そう怒るなよ、オレは一般論を言ったまでだ」
「あははー、確かに準の頭もマッチみたいで火がつきそー。やすりで擦っていい?」
「やめなさい! オレの頭から別の赤いものが出るでしょうが!」
小雪と井上の漫才のような会話を眺めていると、大和がクローンの三人を連れてやって来るところだった。
クローン組の三人の挨拶が終わるとようやく歓迎会が始まった。
せっかくの機会にクローン組に話しかけようと思ったが、早々に人だかりが出来て囲まれていた。人を掻き分けて話しに行くのもどうかと思い考えていると、一人その固まりから離れている与一が目に入った。
「よう。せっかくの主賓なのに輪に加わらないのか」
「オレはオレで楽しんでるさ。……もう戻ることが出来ない日常をな」
遠い目でなにかを見つめるとニヒリスティックに笑う。顔に手をかざして自己陶酔する様は、この歓談をする場ではあまりに間抜けに見えた。
「あんま斜に構えてばかりだと無駄に敵を作るぞ。学生らしく昨日見たテレビの話でもするか? またアザラシがどっかの川に迷い込んだらしいぞ」
「フ……。オマエも所詮マスコミに躍らせる一人か」
フ……っと息を漏らすように笑う奴を始めてみた。まぁ、人間自分に酔ってるときが一番楽しかったりするし、これはこれで与一も楽しんでるのだろうか。
「踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら踊らにゃって言うだろう。あっちも楽しそうだぞ」
絶えることなく人に囲まれている義経と弁慶の二人を指差す。義経は一人一人の言葉に反応し交流しており、弁慶はマイペースに川神水を飲んでいた。
「ハハ、オレは道化芝居を演じるつもりはない」
「それにしても初めて弁慶を見たけど、ありゃガクトが騒ぐのも無理ないわな。間違いなく美人だ」
「姉御か? やめとけ、腕力に押しつぶされて体がいくつあっても足りないぞ」
「まぁ、弁慶と言えば力自慢だしな。つーか、その言葉そっくりそのまま返すぞ」
「……なに?」
与一は鋭い目を更に細くさせて慶一を睨むように見る。
「だって、この距離なら絶対弁慶に聞こえてるぞ。今の台詞」
与一が慌てて後ろを振り返ると弁慶がにこりと笑っていた。慶一にとってはドキっと胸が高鳴るような美人の笑顔だったが、与一には違ったらしく震えだした。
「オ、オレは姉御に屈しねぇ。それにしても、よく姉御に聞こえてるのがわかったな。ハッ! ……オマエも特異点か!?」
「言ってる事はわからんけど、一緒にして欲しくねぇな……。察したのはアレだ。ウチにも地獄耳のパワーゴリラタイプっているから」
そう言って慶一が笑っていると、首に腕が巻かれるのと同時に頭を押さえつけられる。
「知ってるか? ゴリラって握力500キロ以上あるらしいぞー」
「こ、これは違う。川神先輩の凄さを伝えようと思ってだな」
「私もそろそろ思ってたんだよ。上下関係っての教えようと…なっ!」
「痛え! 痛えって」
万力のように頭を締め付ける握力はやっぱりゴリラ並だと言いたいが、言った瞬間にどうなるかわからないほど馬鹿ではない。
「三年はあっちで固まってるから平気だと思ってたのに」
「ユーミンがあの男に話があるんだとさ、私も暇だから付いて来た」
百代が顎で指した方を見てみると、眼鏡をかけたセンター分けの女性が与一を弓道部に勧誘しているところだった。
「そういえば与一って弓の名手で知られてるもんな」
「そうらしいな」
「ん? 興味ないのか?」
「私は義経ちゃんと戦いたいんだー」
慶一と百代の会話に割り込むようにクスクスと笑いが聞こえてくる。それは人を見下すような下卑た笑いではなくて、小鳥が囀る様な上品笑い声だった。
「ごめんね。モモちゃんが怖い顔して君の方に向かって行ったのに楽しそうにじゃれてるのが、なんだがおかしくて」
「えっと……。始めましてですよね?」
「そうだね、葉桜清楚です。よろしくね」
「前口慶一です。よろしくお願いします」
自己紹介の後らしく握手をしよとしたら、背後にいた百代に両頬をつねられた。
「です? ます? また猫かぶって生意気だぞー」
「いきなりタメ口の方が生意気だろう」
「きーにーくーわーんー」
「それじゃ、こっち食っとけ」
テーブルに並べられている軽食を適当に取って百代に渡すと、文句を言いながらも食いついていた。
「そういえば葉桜先輩の誕生日は今日じゃないんですか?」
慶一が目を向けた先には聖誕祭と幕が下がっていた。義経、弁慶、与一と同じクローンの葉桜先輩は違うのだろうか。
「うん。私は三月六日だよ」
「皆同じってわけじゃないんですね」
「そうだね。私だけ年上だし、誰のクローンかも教えてもらってないしね」
「当たりをつけたりしてないんですか?」
他のクローンとは違う、この学校では珍しいおしとやかなタイプの葉桜先輩は、戦闘力に長けた偉人ではなさそうに思う。
「うーん。読書好きだし、私としては清少納言あたりじゃないかと思ってるの」
「それだけ美人だと小野小町って言う線も捨てがたいですね」
「ええ!?」
「なぁに口説いてるんだよー」
抱きつかれるように首を絞めらるので、結果的に背中に胸を押し付けられる形になった。最近こういうスキンシップが多くなってきた気がする。
「ええい! じじくさいって言われてるのを払拭しようとしてる努力がわからんのか!」
振り払うように暴れると首に巻かれた腕の締め付けが強くなってくる。こうなるとおとなしくする他ない。
「軟派と若者らしいは違うだろー」
「あはは、やっぱりモモちゃんが言う通り、風間ファミリーの人たちはおもしろいね」
「他のメンバーには会ったんですか?」
「うん。このあいだ一緒に登校してるとこでお話したよ。前口君はいなかったけど」
「あー、朝はいつもギリギリですからね。ファミリーの皆とは一緒に登校してないんですよ」
二度寝のせいで一緒に登校することはほとんどない。百代の決闘でファミリーが停滞してる時に一緒になるくらいだ。大抵は秒殺で決闘が終わってしまうので、他に事件が重なって歩みが遅くなった時に慶一が追いつくのは、本当にたまにしかない。
「あっ、京極君が呼んでるからちょっと行ってくるね」
柔和な笑みで別れを告げると、葉桜先輩は行ってしまった。
「見れば見るほど戦闘タイプのクローンじゃなさそうだな」
「でも、あれで結構運動神経良かったりするんだぞ」
「へー、ただの純情可憐ってわけでもないんだな」
なんでも卒なくこなすタイプなのだろうか、というよりクローン組は皆Sクラスだし基本レベルが高いのだろう。
「私にはなにかないのか?」
「一騎当千ってぴったりの言葉があるじゃないか」
「それは嫌いじゃないけど、もっと他のがいい」
「万夫不当とか?」
「それ意味変わらないだろ!」
お気に召さなかったのか、不貞腐れながら大和の方へと行ってしまった。
しばらくすると着物少女がぶつくさ文句を言いながら歩いてくる。
「ほんに風間ファミリーの連中は気に食わんのじゃ!」
「まぁ、そう言うなよ」
「ええい、同じ風間ファミリーの山猿が話しかけるでないわ!」
「ご機嫌斜めだな節穴は」
「ふ・し・か・わ・じゃ! 高貴な此方の苗字を間違えるとは何事じゃ!」
大和あたりにでもからかわれてきたらしく、えらく不機嫌だった。これ以上を気分を害するのも可哀想なので立ち去ることにしよう。
「じゃあな牛皮」
「だから、ふ・し・あ・な・じゃと言うとるのに!」
自分の名前を間違えているのにも気付かず不死川心は叫んでいた。