真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第七十四話

 川神院で昼ご飯を作り終えた慶一は、それを食べずに買い物に出かけていた。目当ての物を買うと島津寮に向かい、今は調理場の前に立っている。その後ろではキャップとクリスが食台について、昼食が出来上がるのを待っていた。

「いやー、まゆっちも、ゲンさんもいないから助かるぜ!」

「最近まゆっちはよく遊びに行ってるな。伊予ちゃんとお茶でもしてるのかね」

「マルさんもドイツに戻ってるからな。お昼をどうしようかとキャップと話し合っていたところだ」

「オレも寮の調理場借りたかったし、ちょうど良かったな」

 フライパンにオリーブオイルを入れて、みじん切りをしたニンニクを加えて炒めるだけで、食欲を誘う芳ばしい香りが部屋に広がっていった。

 厚切りベーコンと鷹の爪を加え、ニンニクの香りが強くなってきたら小海老を投入する。加熱されることによって海老は赤く色づき、ニンニクの芳ばしさと海鮮の芳ばしい匂いが混ざっていく。

 それに更に茄子を加えて炒める。

 縦切りに半分にしたミニトマトを入れて、潰して芯を取り除いたトマトホール缶を加えると、食材が乱雑に散りばめられたフライパンの中は赤色に統一されて、見た目にも温かいトマトソースが出来上がった。

 塩コショウで軽く味を整えると、茹で上がったパスタを投入する。最後にオリーブオイルを廻しかけて、ソースを絡ませると器に盛り付ける。

「チーズは自分でかけてくれ」

 慶一はキャップの前に器を置いた。

「サンキュー! そういや、去年もパスタを作ってもらったな」

「川神院でパスタを人数分作るのは伸びたりして大変だけど、たまには作りたくなるからな。それに和食はまゆっちがいつも作ってくれてるんだろ?」

「なるほどなぁ。で、慶一は食わないのか?」

 買い物袋からガサゴソと何かを取り出している慶一の後ろ姿を見たキャップは、食べながら疑問を口にした。

「調理場を借りたいって言っただろ。腹が減ったら何か適当に摘むよ」

「何を作るんだ?」

 目を細めて美味しそうに黙々と食べていたクリスは、一息つくと慶一に話しかけた。

「デザート。食べ終わったら、クリスもキャップも手伝ってくれよ」

「えー、オレもかよ。腹いっぱいになったら、布団と遊ぶ約束したっていうのに」

 キャップが面倒臭そうに口を尖らせていた。

「そりゃ寝るだけだろ。それに、パスタ美味しかっただろ?」

「まぁ、今日は予定もないからいいけどよー」

「なら、文句言う必要なかったじゃねぇか」

「最初は本当に面倒くさいと思ったけど。オレは風。気持ちの切り替えも風の様に早いぜ!」

 ころころと態度が変わるキャップと違い、クリスはどうだと言わんばかりの顔で慶一を見ている。

「もちろん自分は最初から手伝う気だったぞ」

「素直なクリスにはミニトマトをあげよう」

「ありがとう。ん、あれ? これってただの余り物じゃないのか?」

「準備まで少し時間かかるから、その間にそれがご褒美か余り物かゆっくり考えてていいぞ」

 白玉粉、砂糖、水を鍋に入れて、へらを使い白玉粉を良く溶かしていく。乳白色の液体は弱火にかけて火を通す事によって、餅状になり粘りが出来て艶も出てくる。

 この状態になったら、よくこした白餡を加えて混ぜるように練っていく。練り始めはべたついているが、しばらく続けていくと水分が飛び、手で触ってもくっつかなくなる。この状態になれば、練りきり餡の完成だ。

 色を付けるには食用色素を使ったほうが楽だし調整もしやすいのだが、黄色はカボチャ、緑は抹茶、紫は紅芋、桃色は紅麹を使って色を付けて、味も変化させる。

 慶一は緑の練りきり餡を伸ばして葉っぱの形にすると、竹串で葉脈の模様を書いていく。

 続けて、白の練りきり餡で黒いこし餡を包んで手のひらで転がし丸を作ると、指で押して少しだけ平らにする。それを葉っぱの形に作った練りきりで挟むと、隣にいるクリスに見せた。

「ほら、柏餅」

「和菓子で和菓子を作るとは面白い発想だな。それにしても、うーん……。小さいせいか、上手くいかないなぁ」

 竹串を持ったクリスが、覚束ない手つきで慶一の真似をしている。

「波型の葉にしないで、楕円形にして先だけすぼめれば簡単だろ」

「騎士に妥協は許されないんだ」

「慣れてきてから、凝ったものを作ったほうがいいぞ」

 そう言った慶一は、向かい側にいるキャップに目を向けた。

 クリスも同じように視線をキャップに向けると、不思議な形をした物体が目に入ったので、思わず疑問の声が出ていた。

「キャップは何を作っているんだ?」

「小豆あらいだぜ! 小豆を小豆餡で作るってのがオツだろ」

 キャップは顔の造形の為に自分に向けていたものを、回転させてクリスの方に向ける。

「ひぃ! リアル過ぎだ! 今にも動き出しそうで怖いぞ! だいたい、なんでそんな不気味なものを作ってるんだ」

「夏といったら肝試し! 肝試しといったら妖怪に決まってんじゃん」

「……それ食べられるのか?」

「そりゃ、餡で出来てるんだから食べれるだろ。よっしゃぁ! 早く仕上げて、次はがしゃどくろに取り掛かるぜ!」

 キャップはそう言うと、水木テイストのハゲ頭の小豆あらいの仕上げに入りだした。

「あれはオレも食べたくねぇな……。まぁ、とにかくクリスは簡単なのからチャレンジすればいいって。さっきのも上手く出来てたし」

「でも、慶一の違って、ねじれてるような、歪んでるような。むむむ……」

「最後に型に入れて葛餅で周りを固めるから、そういうのも味があって良いと思うぞ」

「そ、そうか!? よーし! どんどん作るぞー!」

 得意顔になって笑顔を浮べたクリスは、緑色の練りきり餡を手に取り薄く伸ばし出す。

 その様子を見た慶一は、他の色の練りきり餡をクリスの目の前に置いた。

「同じのじゃなくて、キャップみたいに好きなの作っていいんだぞ?」

「最初に慶一に教えて貰ったのがこれだから、他のと言われてもなぁ」

「例えば、そうだな……。こういうのとかも夏っぽくていいと思うぞ」

 黒色の練りきり餡を、指の付け根の膨らみを利用して捻るように細くしていく。それを薄く押し広げた緑色の練りきり餡に数本押し付ける。

「こんな感じか?」

「そうそう。次は裏返して緑より厚めに伸ばした白の練りきり餡を合わせる。大きさはなるべく緑と同じくらいでな。そして更に、赤い練りきり餡を丸めて、さっき作った緑の餡で丸く包むと」

「わかったぞ! スイカだな!」

「当たりだ。でも、これだけじゃつまらないから――」

 慶一は出来上がったスイカを、本当のスイカを切るように包丁を入れて、少し大きめに六等分にした。

「――後はこうして、黒ゴマで種を作れば完成」

「おぉ! では、自分も……いざ!」

 慎重に包丁を入れたクリスのスイカは、力に耐え切れず押しつぶれたような切り口になってしまった。

「あー、ちょっと力を入れすぎちゃったな」

「くっ……。レイピアなら上手くいくのに」

「お菓子作りにそんな物騒なもの使うなよ……。まぁ、こうすればいいだろ」

 慶一は竹串で引っ掻くように適当に形を崩していく。黒ごまを数粒ふりかけて、練りきりで木の棒を作って添えると、スイカ割りに見立てた。

「お? おぉ! ナイスフォローだ慶一! それにしても、粘土遊びしてるみたいだな」

「まぁ、お菓子作りなんて粘土遊びと変わんないしな。違いは食えるか食えないかくらいなもんだよ。材料はいっぱいあるから、好きなの適当に作っておいてくれ。オレは他の下準備してくるから」

 

 

「どうだクリス! 出目金だぜ」

「それは素直に凄いと思うが、キャップのは殆ど妖怪だろ。それに比べて自分のは万人受けするものばかりだぞ」

「でも、慶一に作り方教えてもらったやつばっかだろ。オリジナリティーがねぇよ。見ろ! オレの作ったがしゃどくろのあばらのリアルさを!」

「むっ。でも、このクマさんは自分のオリジナルだぞ。どうだ! 可愛いだろ!」

 慶一は後ろで騒ぐ二人の声を聞きながら、本葛粉を溶かしていた。

「慶一! オレの方が良い出来だよな?」

「自分の方が可愛らしいだろ!」

「どっちでもいいから、透明なタピオカ粉で固めたいのと、葛粉で少し濁りめに固めたいのとわけといてくれよ」

 騒ぎ立てる二人邪魔されながらも下準備を続けていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。 

「なんで慶一は島津寮で幼稚園の先生してるんだ?」

「さぁ? とりあえず来たなら二人の面倒を見といてくれよ、百代先生」

「んー、状況が理解できないのに、いきなりそう言われもな。それに、こういう時は面倒を見られる側につくに限る」

 そう言った百代は後ろから慶一の肩に抱きついて、じゃれついてくる。

「これじゃ、邪魔な子供が増えただけだな」

「昼から遊ぼうと思ったのに、いなくなった慶一が悪いんだぞー。料理ならいつも川神院でやってるじゃないか」

「だって、川神院で作ってるのバレたら、人数分作んないといけないだろ。ひとつひとつ人数分を作るのは流石に面倒くさいからな」

「そういえば何作ってるんだ?」

 百代は背中に埋めていた顔を肩から覗かせて、慶一の手元を見ていた。

「夏らしい和菓子作り。味見するか?」

「あーん」

 慶一が練りきりを一つ手にとって百代の目の前でチラつかせると、百代は返事の代わりに口を開けて答えた。

「美味いか?」

「美味しいけど、少しだけ舌に甘さじゃない違和感がきたような……」

「紅麹で桃色付けたからな。他に赤っぽい色付けて甘いのに合うのって思いつかなかったんだよ。でも、練れた旨みが白餡の甘さを引き立てるだろ?」

「うーん、わからん。自分で味見してみたらどうだ?」

 少し強く抱きしめられると、百代の顔が近づいてきた。

「失敗しちゃったやつだからな。桃をつくろうとしたけど、丸めすぎて尻みたいになっちまったから、味見する気なくなっちゃんだよな」

「おい、流石にこの空気でそういうこと言うのは納得いかないぞ」

「だからだよ。キャップとクリスがいる前でイチャイチャするのはあんまりなぁ」

「でも、見てないぞ」

 キャップとクリスは、自分が作ったものの一つ一つを品評会のように、説明しあっていた。

「見てないからと言ってもなぁ……」

「慶一がよく言うじゃないか。今更だろって。な?」

 百代に流されて、少し慶一が顔を近づけていくと「私は見てるけどね」と京の声が聞こえてきた。

「いつの間に……」

「赤っぽい色を付けるのがないって辺りからだね。赤なら私のタバスコを使っても良かったのに」

「そこから聞いてたなら、甘いのに合うやつっても聞こえてだろ」

「慶一なのに知らないの? タバスコは何にでも合うように作られた魔法の調味料なんだよ」

 京は試してみてと言わんばかりに、タバスコを慶一に近づける。

「いや、もうその段階は終了してるから。後は百均で買ってきたデカ氷の器に、葛餅を引いて練りきりを入れて、上からまた葛餅をかけて冷やせば完成」

「あー、だから夏っぽいって言ったのか」

「目で涼む透明感溢れる夏の和菓子ってとこだな。それより、やっぱり人前でイチャイチャするのは、こういうことあるから危ないって」

「京の気配なら気付いてたぞ。支障がないから黙ってたけど」

「オレからしたら、ありありなんだけど」

「むっ、私とイチャイチャするのを見られると恥ずかしいって言うのか?」

 すねた顔の百代に、さっきとは違う非難の意味で強く抱きしめられる。

「二人っきりじゃないと、甘い雰囲気で落ち着けないってだけだって」

 慶一は首を百代の方に傾けて頭をコツンと合わせる。

 

 

 二人の様子を見ていた京は、お茶にタバスコを垂らして一息つけると、じっと考えていた。

(ていうか、傍目からは充分イチャイチャしてるように見えてるけど……。慶一もだんだん麻痺してきてるんだなぁ。あっ、メモしとかなきゃ。つれない男は徐々に状況に麻痺させていくのが効果的っと)

「少しヒートアップしたら喉が渇いたぞ。お? お茶を一口もらうぞ京」

「どぞー」

 クリスは京の目の前のカップを手に取ると、喉を鳴らすように飲み込んだ。

「ふぅー。……。か……からーいっ! 毒水を飲まされたぞ!」

「そんな、毒水なんてひどい……。傷つくよ」

「傷ついたのは自分の舌だ!」

 舌を伸ばして外気に晒しているが、空気に触れたせいで余計に辛さがクリスの舌を走っていた。

「でも、飲んだのはクリスの意思でしょ? 私は悪くないよ。クリスの騎士道っていうのは、自分の過失を人のせいにすることなの?」

「うっ……。悪かった京。自分は謝罪する」

「なーんてね。気にしてないよ。お茶と同じく、コメントも辛口なのでした。ちゃんちゃん」

「こんな終わり方は納得いかないぞ!!」

 

 

 

 

 




練りきり:和菓子屋でよく見かける、花とか葉の形に細工されてるカラフルな餡子のお菓子です。

そういえばマルギッテと直接絡んだ話がないなぁ……。
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