真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第七十五話

 夜も更けた島津寮では、夏休みの学生らしくキャップと大和の二人が時間も忘れてゲームに没頭していた。

「いくぜ! 大海原へ!」

「そのレベルじゃリスクあり過ぎるってキャップ」

「リスクがない冒険なんて冒険じゃねぇ! オレは行くぜ!」

 大海原を超えたキャップは新しい街へと辿り着き、次々と謎を解き明かして仲間と共に魔王を倒した。

「キャップが全然レベル上げないから、自然と低レベルクリアになったな」

「ちまちまレベルあげるのはオレの主義じゃねぇし、こっちの方がクリアの達成感あるだろ」

「オレはキャップがやってるのを見てるだけだったけど、確かになかなか楽しめたな。自分でプレイするのも面白いけど、アドバイスしながら見てるってのもいいもんだな」

 ゆっくりと体を伸ばして疲れをとっているキャップの横で、大和も同じように体を伸ばしながら答えた。

「やっぱり、勇者って王道がいいよな。世界を救ってやるって気持ちになるぜ」

「そうか? オレは世界を救う勇者ってよりも、みんなをサポートする僧侶とかの方が性に合ってるかな」

「直江大和君チミは、たまにはやる気を出したらどうかね」

「分をわきまえてるだけだって。それに、小さい頃からキャップのストッパー役をやってたら自然とそうなるよ」

 大和の言葉にキャップは口元に手を当てて、しばらく考えを巡らせる。それも直ぐに、面白いことを考えた顔付き変わった。

「オレ、いいこと考えちゃったもんねー」

「キャップのいいことって、あんまり聞きたくないな……」

「なにをーっ!」

 声を大きくするキャップに、大和は人差し指を口に当てて注意した。

「シー、みんな起きちゃうって。まぁ、今日はもう遅いし、詳細は明日聞くよ」

「明日を楽しみしてろよ大和!」

 キャップの部屋から自分の部屋へと戻った大和は、夜も遅いせいか、ずっとテレビ画面を眺めて疲れたせいか、直ぐに眠りについた。

 

 

 朝になり自分に乗りかかる重みに大和は目を覚ました。

「おはよう大和。夕べはお楽しみだったね」

「毎朝毎朝、布団に潜り込むのはやめていただきたい」

「あっ、違った」

 京は思い出したように少し瞳を開くと、抑揚のないリズムでメロディーを口ずさんだ。

「じゃじゃじゃじゃ、じゃじゃじゃじゃ、じゃーん。京があらわれた」

 ――京はいきなり襲いかかってきた。

「なんだ、いきなり!?」

 ――大和はひらりと身をかわした!

「むー、おしい」

「おしくない。で、なんだっていうんだよ」

「これならどうだ! えい!」

 ――京は縛り縄を道具として使ってみた。大和は縛り縄を身につけた。

「これはどういう……」

「ふふふ、すぐに分かるよ」

 ――京は不気味に笑っている。

「み、京さん……。顔が怖いですよ……。た、たすけてー!」

 ――大和は大声で助けを呼んだ。しかし、祈りは届かなかった。

「あんっ……。大和の息子は、大きな龍に姿を変えた! 私に会心の一撃!」

「うそうそ! 今のオレの息子はそんなことになってないって! “ミス。京にダメージを与えらない”状態だって!」

「もう、大和ったら。ミス川神だなんて、私はいつでもミス大和だよ」

「そっちのミスじゃないってーっ!」

 ――大和はおびえている!

 京は自分の唇を舌で一度舐めると、ゆくっりと大和に近づいていく。そして、大和のお腹に腰掛けると、姿勢を正して拝むように手のひらを合わせた。

「いただきます!」

 ――京は大きく息を吸い込んだ。

「チャンス!」

 ――大和は逃げ出した。しかし、回りこまれてしまった!

「縄で縛られた体で逃げられるはずないよ大和。さ、覚悟を決めて。私は前世から覚悟を決めてるよ」

「ふっ、オレは京が立ち上がる瞬間を待っていたのさ」

 大和は京の足元の布団を勢い良く引っ張ると、倒れこんだ京を布団です巻きにして縄で縛った。京が動けなくなったのを確認すると、急いで部屋から飛び出していった。

「ちっ、大和ったらいつの間に縄抜けの術を……。でも、大和の匂いに包まれてるようで少し幸せかも」

 

 

「ふぅ……朝からなんだって言うんだ」

 勢いのまま部屋から出てしまった大和は寝間着のままだった。部屋に戻り着替える事も考えたが、何故か今戻ったら再び襲われそうな嫌な予感がしたので、身を隠すように寮の外へと出ることにした。

 幸い朝早いということもあって、人影は少なかった。それでも時折通りすがる人に、蔑むような、憐れむような視線を浴びせられ、居た堪れなくなった大和は、人通りの少ない道を選んで川神院に向かうことした。

 いつもより長い時間をかけて仲見世通りへと辿り着く。まだ店の準備をしている者はいなく、大和の気も少しは楽になっていた。

 大川神院の山門が見えたので少し足を速めると、箒を持って境内を掃除している慶一の姿が見えた。大和は思わず抱きつくような勢いで慶一の元へと駆け寄った。

「良かった! 慶一、服を貸してくれないか?」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

「け、慶一?」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 慶一は一語一句全く同じセリフを言うと、大和に手招きする。

「付いて行けばいいのか?」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 慶一は頷くと、大和を川神院にある自室へと案内した。

 大和は慶一の後を続き廊下を歩いている。その時にすれ違う修行僧は、みんな同じ言葉を繰り返して歩いて行く。

 慶一の部屋へと辿り着き、ほっと一息ついた大和は疑問を口にせずにはいられなかった。

「なんかみんな変だけど、そういうイベントあったっけか?」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 慶一は首を横に振ると、タンスから出したTシャツとジーンスを大和に渡した。

「ありがとう。でも、そんな変になってるのには慶一も入ってるんだけど……」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 相変わらず同じ言葉を繰り返す慶一を見て、大和はあることを思い出していた。

「もしかして、キャップが楽しみにしてろって言ってたのはこれなのか……」

 慶一は少し憐れむ目を大和に向けて、コクンと一度頷いた。

「……ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 ――慶一は気の毒に侵されている。心に1のダメージをおった。

「それで、慶一がRPGの村人みたいに同じ言葉しか繰り返さなくなったのか」

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」

 慶一は二回リズムよく頷くと、部屋から追い出すように大和の背中を押していく。

「少しくらい匿ってくれよ! 頼むって! おーねーがーいー!」

 大和の悲痛な声に慶一は顔を背けたが、大和の背中を押す手を止めなかった。

 大和は踏ん張って歩みを止めようとするが、靴下が廊下に滑るせいで進む足は止らない。少し歩かされた場所で慶一の押す力が止まった。

「あぁ……。思い直してくれてありがとう! 慶一!」

 振り向いて慶一の手を取り喜ぶが、大和の喜びも束の間。慶一が指を向けて何かを見ろと誘導している。

 大和が振り返ると、そこには鉄心が立っていた。

「が、学長! ま、まさか学長がボスってことはないですよねぇ……」

「たまには一度行った場所に戻ることも大切じゃぞ」

「良かったぁ……。学長は村の長老ポジションか……。それにしても一度行った場所と言っても、ここか島津寮くらいだよな」

 今のままだと島津寮に戻るしかなかったが、それは避けたい。この二人のうちどっちかが付いてきれくれるのならば、まだ少し道はひらけるのかもしれないが、この様子なら無理そうだ。

 大和が腕を組み考えに考えを重ねていると、誰かが肩を叩いた。

「多馬川には仲間を探してるさすらいの剣士がいるらしいネ」

「ルー先生まで……。でも、京に襲われるかもしれないし、仲間を作ってから戻った方がよさそうだ。なんか選択肢が増えて、だんだんRPGらしくなってきたな」

 大和は三人に頭を下げると、背を向けて玄関へと歩いて行った。

「ここは関東三山の一つ、川神院だよ」「たまには一度行った場所に戻ることも大切じゃぞ」「多馬川には仲間を探してるさすらいの剣士がいるらしいネ」

 慶一と鉄心とルーの三人は、それぞれ自分のセリフを言うと、親指を立てて大和にエールを送った。

 その時、一度だけ慶一が「ごめん」と、さっきと違うことを言っているのが聞こえた。

 川神院を出た大和は多馬川に向かい歩く。川神院へと向かう時とは違い、人通りが増えていた。

「今、七浜でセールやってるらしいよ」

「本当? でも今月金欠なんだよね」

「ウィンドウショッピングでもいいじゃん。時間を潰すだけなんだし」

「そうだね。いこっか」

 大和の横をそんな話をしながら二人組の女の子が通り過ぎていった。

「そうだ! なにも律儀に付き合わなくても、七浜に逃げればいいんだよな。そうと決まれば駅前へ向かうか!」

 

 

「ここから先はロリコニア王国! 許可がないものは立ち去れい!」

「やめてくれ、駅前でそんな言葉を吐かないでくれ! 同類だと思われたくない」

 駅前についた大和は井上に止められていた。

「どうしても通りたければ、このアナスタシア・ミスティーナと井上準を倒して行くんだよ」

「お姉さん誰です?」

 大和は朝から疲れていることもあり、いきなり参加してきた見知らぬ女性に冷ややかな目を送っていた。 

 その刺さるような視線を受けてアナスタシアは身悶えて転がっている。

「あぁん。久しぶりの蔑むような目線!」

 ――アナスタシアは不思議な踊りを踊った。大和のMPが10下がった。

「ちょっとちょっと! お姉さん! 駅前だからやめて! 変なプレイしてると思われちゃう!」

「はいご主人様」

 ――アナスタシアは、様子を見ている。

「熱を持った目でこっちを見ないでくださいって! 変態だと思われちゃいますよ!」

 ――アナスタシアは、ただジット耐えている!

「なんか耐えるが変な意味になってる! とりあえず立ちましょうよ。あっ」

 足元で身悶えるアナスタシアの膝が大和の足首に当たり、その拍子に大和はアナスタシアに覆いかぶさるように転んでしまった。

「す、すいません! 大丈夫ですか? ん? これは……」

 大和が慌てて立ち上がると、その手にはアナスタシアの破れた上着が握られていた。

「……わかりました。脱ぎます」

 ――大和はラッキースケベを唱えた。アナスタシアの守備力を20下げた。

「わーーっ! ちょっと待って下さい!」

「色即是空、空即是色」

 ――井上は般若心経を唱えた。なんと。アナスタシアは正体をあらわした!

「強くぶって! もしくはキツくぶって!」

「余計なことするなよ! てか、やっぱこの人ドMだったのか」

「私が重度のマゾヒストという弱みを握られて、どんなことをされちゃうんだろう……」

 ――アナスタシアが仲間になりたそうに大和を見ている。

「……」

「あ”ぁっ! 無視されてる! これが放置プレイ!」

「えぇ!? これにも反応するんですか?」

 大和がどうしたらいいか途方に暮れていると、蹴りの体勢に入った影が見えた。その脚はアナスタシアの尻を目掛けて影を伸ばした。

「駅前で恥ずかしいことしてんじゃねぇよ!」

 突如あらわれた女にアナスタシアは蹴りを入れると、大きく体を仰け反らせた。

「あぁ……!」

 アナスタシアは小刻みに体を引く付かせると、うっとりした表情を浮べる。

「はぁはぁ……。この粗暴で男まさりな蹴りは、おケイ」

「変な見分け方すんなってーの。ったく、最近はドSの女のご主人様見つけたって言ってたから鳴りを潜めてたっていうのに、川神まできてなにやってんだよ」

「前口に頼まれたんだよ。待ち合わせまでの時間でいいからって。それに、ご主人様川神に住んでるから、この現場見られたらオシオキされるかなと思って」

「前口に頼まれたからって、人様に迷惑かけんじゃねぇっての。ほら、行くぞ」

 アナスタシアはおケイと呼ばれた女性に、蹴りを入れられると嬌声をあげて体を仰け反らせて、その反動で前に進む。それを繰り返しながら駅へと向かっていった。

「なんだったんだ、あの人達は……」

「さぁ、オレも風間からのメールでここにいただけだしな」

「やっぱ、キャップかよ……。つーか、慶一の「ごめん」はこういう意味か」

「まぁ、七浜に行くのは諦めてくれ。昨日の夜中に依頼料貰っちまったからな。ここを通すわけには行かないぜ」

「キャップは寝ないでなにしてんだよ……。朝からずっと大声出して汗かいちゃったな。銭湯にでも行きたい気分だよ。財布もないってのに」

「オレはな、お父さんと一緒に銭湯に来る純粋無垢な少女を見るために毎日通ってんだ。オマエみたいに「軽く汗でも流していくか」なんて浮ついた気分で行っちゃいねぇんだよ」

 ――井上はいきりたって大和に襲いかかった!

「今日は厄日か!」

 

 

 

 

 




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