真剣で私に恋しなさい!N   作:挽きたて

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第八十話

 今日は金曜集会。用事があった慶一は、遅れて秘密基地へと向かうことになった。

「悪いな遅れて。九鬼で桃を仕入れたって連絡入ったから、桃のタルト作ってたんだ」

 部屋のドアを開けると、不思議な光景にが目に映る。女の子用の学生服に身を包んだモロが、恥ずかしそうにスカートの裾を掴んでいた。

「あっ、慶一……」

 慶一はその姿を一瞥すると、何事もなかったかのように部屋に入る。既にファミリーは揃っていて、皆が座っているソファーの中心にあるテーブルに紙袋を置いた。

「桃をコンポートにしてからタルト作りに入ったから、思ったより時間かかっちゃって」

「ちょっとちょっと! なんか言ってよ!」

「モロだけにモロッコにでも行く決心がついたのか?」

「酷い駄洒落だよ。あと、人が悩んでたみたいに言わないでよ!」

 モロのツッコミはいつも通りだが、少しでも激しく動くとスカートがひらめきだす。落ち着かなさそうに、スカートの前を押さえたり後ろを押さえたりする仕草は女の子そのものだった。

「九鬼に行くと、なんか駄洒落が感染るんだよな。つーか、金曜集会にその格好で来てたら、そういう議題だと思うだろ普通」

「遠からずってとこなんだけどね。文化祭までにあがり症を少しでも克服したいなーってさ」

「いまさら仲間内で女装見せても効果ないんじゃないのか?」

「女装じゃなくて変装だってば!」

「まぁ、実際その通りだからよ。モロが主役の劇でもやって少しでも慣れさせようってのが、今日の金曜集会の内容だぜ。ちなみに台本担当は京な」

 キャップはノートパソコンに向かって、ひたすら文字を打っている京を見て言った。

「いくら普段から本を読んでるって言っても、台本なんて書けるのか?」

 慶一は皿に桃のタルトを乗せると、京の前に置いた。

「大丈夫。既存の話をアレンジしてるだけだから。ちょうど出来たよ。台本はメールで皆の携帯に送ったからね。役もそこに書いてあるから」

「京が台本ねぇ……」

「ナレーションは私。それじゃ始めるよ」

 

 

 ――昔々、あるところに大和というお爺さんと慶一というお爺さんが住んでいました。二人は大変仲の良い夫婦でしたが、子宝には恵まれませんでした。

「ちょっと待った京。おかしいところがあるぞ」

「うん? 慶一×大和の方が良かった?」

「いやいや、そういうことじゃなくて。二人とも爺さんだったらおかしいだろ」

「おかしくないよ。だから子宝には恵まれなかったんだから。さ、続けるよ」

 ――ある日のこと、大和爺さんは山へ芝刈りに。慶一爺さんは川へ洗濯に行きました。慶一爺さんが川で洗濯していると、川上から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。

「これは大きな桃だ。帰って大和爺さんと一緒に食べることにしよう」

 ――慶一爺さんは大きな桃を川から引き上げると、さっそく家に持って帰ろうとしましたが、日頃の運動不足のせいでちっとも持ち上がりません。

「脚本の中でくらい、脚色してくれてもいいのに」

「私の脚本はリアリティーを大事にしてるから」

「……さよけ」

 ――慶一爺さんが途方に暮れていると、大和爺さんが百太郎(ももたろう)を連れてやってきました。百太郎は生まれた時から力が強かったのですが、近所の子供を泣かせては威張り散らす不器用な子供でした。大人相手に相撲を取っても負けないので、周りに相手がいなくなり、つまらなくなった百太郎は、一日中森のなかを歩きまわり強い相手を探していました。しかし、大きな闘気を背負っているので、人間どころか熊さえも襲ってはきません。溜まった鬱憤は大木を攻撃することによって晴らされていました。大木はあくまで大木。いくら攻撃をしても攻撃を返してはきません。技の練習にと百太郎が気弾を放ち木を倒した時です。声が聞こえてきました。

「うわっ! 危ない! 誰だ?」

 ――大和爺さんは間一髪のところで迫り来る大木を避けると、原因である百太郎を睨みつけました。しかし、百太郎は悪びれることなく大和爺さんに近づいていき、こう言いました。

「なんだ。人間のくせにこの美少女を知らないのか」

 ――大和爺さんは村で噂の暴れん坊の百太郎だということに直ぐ気が付きましたが、倒れた大木を見て、コレは使えると思いました。もう2、3本木を倒してくれると、しばらくは薪集めをしなくてよいと考えたのです。

「いえ、話は伺っていたのですが、こんな絵にも描けないような美少女だとは知らなかったのです」

「お?」

「良かったらこれをお収めください」

 ――大和爺さんはポケットに入っていた野球カードを手渡しました。

「おぉ……。オマエはなかなか気が利くな」

「実はお願いがあるのですが――」

「よし! 今日からオマエは私の舎弟な」

「え?」

 ――全ては自分の手のひらの上と思っていたのですが、百太郎の自由奔放さは大和爺さんの手のひらでは支えられないほどでした。

「おい、京。私の扱いおかしくないか? 名前がももたろうなのに、やってることは金太郎だし」

「一応主役はモロだからねぇ。あと、大和から聞いた話だと、モモ先輩との出会いはこんな感じと」

「ほほう……」

 京を抱き寄せて抗議していた百代が、チラッと大和に視線を送った。

 慶一も、子供らしからぬ出会い方をしていた二人に呆れた視線を送る。

「牢名主に隠し持ったタバコを渡す新入りみたいなことやってたのか。オマエどんな子供だよ」

「驚くほど効果があった姉さんにも問題があると思うけど……」

 百代は大和に馬乗りになると、両手を押さえて身動きが取れないようにした。

「私が誰と付き合おうと、ここの上下関係は崩れることがないからな。覚えておけよ大和」

 ――百太郎は大和爺さんを組み敷くと、チャンスとばかりにナレーションの私も入り乱れることになりました。

「なりません」

 慶一は、大和に飛びかかる前に京の首根っこを掴みソファーに座らせる。

「むぅ……。邪魔が入った」

「他にも出番待ちいっぱいいるんだから」

「仕方ない」

 ――そんなこんなで百太郎の面倒を見ることになった大和爺さんは一度家に帰ったのですが、慶一爺さんが帰ってきません。心配になり探しに行ったところ、桃を前にして途方にくれている慶一じいさんを発見したのでした。桃は百太郎の好物ということもあり、二つ返事で重い桃を持ち上げると家へと運びました。

「慶一爺さんや、それにしてもえらい大きな桃だな」

「見事なもんだ。中が腐ってたら肥料にでもするか」

 ――慶一爺さんが包丁を入れようとすると、桃はひとりでにパカっと割れ、なんと中から裸の男の子が出てきました。子供のいない二人は、これはきっと神様が授けてくれたに違いないと大喜びです。あそこがモロ出しだったのでモロ太郎と名づけました。

「やっと出番が来たと思ったら、どんなネーミングセンスさ!」

「主役なんだし、いいじゃねぇか。モロ太郎」

「そうだぞ。ももたろうだったら姉さんと被るじゃないか。なぁモロ太郎」

 慶一と大和の二人はわざとらしく語尾にモロ太郎とつけると、からかうような笑みを浮べた。

「それ、定着させようとしないでくれます。もう……続けていいよ京」

 ――慶一爺さんと大和爺さんはモロ太郎を大事に育てました。時折、百太郎のスパルタの特訓があったので、モロ太郎はすっかりインドア思考になってしまいました。このままではいけないと思い悩んでいると、鬼退治の短期バイト募集のチラシが目につきました。多少荒療治ですが、どうせ怪我をするなら、百太郎でも鬼でも変わらないだろうと考え、モロ太郎は鬼退治に行く決心をしました。

「きび団子を作ったから持っておいき」

「ありがとう。慶一お爺さん」

 ――モロ太郎はきび団子を受け取ると、お爺さんたちの声援を背に歩いていきました。しばらく歩いていると、やたらと人懐っこい犬がやって来ました。

「モロ太郎さんモロ太郎さん。お腰につけたきび団子、一つ私にくださいワン」

「うん。いいよ」

 ――慶一爺さんから大量に貰ったきび団子は、少食のモロ太郎に多すぎるものでした。モロ太郎は一つ取り出し自分の口へと運ぶと、残りは袋ごと犬に渡しました。

「こんなにいいの? わーい! まぐまぐ。うぅ……まぐまぐ」

 一子は空気を食べるように、何も掴んでいない指をひたすら口元に運んでいる。

「ちょっとなんで泣いてるのさ!」

「食べる真似だけって虚しすぎるわ……」

 ――でも、心配には及びません。モロ太郎が心配でこっそりと後を付けていた慶一爺さんがどうにかしました。

 そう言って京は慶一の方を見る。

「オレは食わないから、残った桃のタルトを食べながらやれって」

「これならバッチリ役に入り込めるわ! まぐまぐ……。えっと、モロ太郎はどこに行く途中なの?」

「鬼退治に行くんだよ」

「え!? きび団子一つしか食べれないような華奢な体で!? 無理にもほどがあるわよ!」

「本気で心配しないでよ! セリフが違うでしょ!」

 ――モロ太郎が心配になった犬は、きび団子もとい桃のタルトの恩を返すために、お供をすることに決めました。

「そういえば袋の奥にこれが入っていたわよ」

 ――なんと、袋の底には現実主義者の大和爺さんがこっそり隠し入れた万札がありました。

「金の力がチラつく昔話って、なんか嫌だなぁ……」

 ――しばらく二人で歩いていると、今度は猿と出会いました。

「モロ太郎さんモロ太郎さん。お腰につけたきび団子一つ私にくださいウキー。って、なんで自分が猿なんだ!」

「ぷぷっ、お似合いよクリ」

「なんだと! 犬なんて犬そのままじゃないか」

「私のはハマリ役って言うのよ」

 ――犬猿の仲。そんな言葉が浮かんだモロ太郎でしたが、犬一匹では心許ないので、猿も仲間にしようと考えました。

「僕はこれから鬼退治に行くんだけど、良かったら一緒に来ない?」

「ちょっと待ちなさいモロ! クリなんて必要ないわ! 鬼なんて私一人いれば充分よ!」

「鬼と言えば悪。悪を成敗するのは自分の役目だ!」

「第一、きび団子は私一人で全部食べちゃったわ!」

「ふふん。正義とは見返りを求めないもの。自分はそんなものはいらぬ。ただ、正義の為に剣をふるうのみ!」

「むむむ……。人間のパートナーは太古の昔から犬って決まってるのよ! さぁ、どっちか一人を選びなさいモロ!」

 ――まるで、ハーレムアニメの主人公にでもなったようで、満更でもないモロ太郎でした。

「ナレーションまで変なアドリブいれないでよ! 話が進まないから二人とも連れて行くよ」

 ――お供が増え、またしばらく歩いていると、今度は雉に出会いました。

「鬼退治をするんだって? おもしろそうだからオレも連れ行けよ!」

「話が早くて助かるよ」

「よーし! みんなオレに付いて来い!」

 ――自由な雉は皆を先導します。いつしか雉はキャップと呼ばれていました。リーダーに向いていないモロ太郎は、ひたすら雉に感謝しました。肩の荷が降りるだけでこんなにも、気持ちが楽になるのかと実感します。しかし、雉はあえて危険な道を選んだり遠回りをして、スリルを楽しむ性格だったのです。犬と猿はともかく、インドアだったモロ太郎は鬼ヶ島に付く前にボロボロになってしまいました。このままでは自分が戦力ならないと悟り、大和爺さんから貰ったお金を使って、傭兵を雇うことにしました。

「オラがいれば安心だぜモロボーイ」

「私“達”ですよ松風」

「そうだったぜ、オラとまゆっち二人で2000万パワーズだ!」

 ――モロ太郎は“無口”な傭兵を連れて、ようやく鬼が島が見える場所まで辿り着いたのです。

「あれ? 喋ることを禁止されました」

「ファイトだぜ、まゆっち」

「よーしオレがひとっ飛び。鬼ヶ島の様子を見てくるぜ」

 ――そう言ってキャップは飛んでいきました。しかし、何時間経とうか、何日経とうがキャップは帰ってきません。そうです。キャップはもっと大きな敵を探しに空の彼方へと飛んでいってしまったのです。仕方なくキャップを抜いた三人で鬼ヶ島へと向かうことになり、小舟に乗り込みました。大きな門の前でモロ太郎がどうやって開こうか悩んでいると、犬が任せろと言わんばかりに門の前に立ったのです。

「私達の前に立ちふさがる壁はないわ! 勇往邁進! でりゃー!」

「ちょっと! そんな派手にやったら鬼が起きちゃうでしょ!」

 ――犬が扉をぶち破ると、続いて猿が飛び出しました。

「このクリスティアーネ・フリードリヒが悪い鬼を成敗しに参った! 正々堂々勝負!」

「奇襲しておいて正々堂々はないって!」

 ――ツッコミながらも三人の強さに安心したモロ太郎でしたが、そこに突如大きな鬼が現れたのです。

「オレ様の城で暴れるとはいい度胸だ。気に入った。オレ様のハーレムに加えてやろう」

「アレを倒した方の勝ちよ、クリ!」

「犬には遅れを取らないぞ!」

「え? え!? 段取りちがうじゃねぇか!」

 ――あっという間に鬼は倒され、その横ではどちらがトドメをさしたかと犬と猿が揉めています。モロ太郎は倒れた鬼に近寄ると、手を差し出しました。

「大丈夫ガクト?」

「あいてて、アドリブというよりハプニングだぜこりゃ」

「あはは、ガクトは頑丈だから、みんな遠慮しないもんね」

「ナイスガイなオレ様に頼りたくなる気持ちはわかるが、もうちょっと手加減して欲しいもんだぜ」

 ――残念ながら、財宝はトレーニング器具に使われありませんでしたが、モロ太郎は本当の愛を見つけたのでした。

「これ、そういう流れなの!?」

 ――短期バイトのお金をもらうと、鬼とモロ太郎はひっそりと二人で暮らし始めました。男と男、二人を見る村の人の目は偏見にあふれていたました。でも大丈夫です。モロ太郎は慶一爺さんと大和爺さんが幸せそうに暮らしてるのを見てたのですから。

 

 

 京は満足そうに「めでたし、めでたし」と言うと、手付かずだった桃のタルトにフォークを伸ばした。

「いくらなんでも、京の趣味全開過ぎるでしょ!」

「そうだぜ、いくら女装してるからってオレ様とモロが……ねぇ。ハハッ」

 ガクトはモロのスカートの制服姿を見ると、気恥ずかしそうに笑った。

「ちょっと、頬を赤らめないでくれます。シャレにならないから!」

「こ、これは、シャレならガクトさんでも良いということでしょうか!?」

「まゆっちも変な解釈しないでよ!」

 叫び疲れたモロがソファーに腰掛けると、ガクトがペットボトルを渡した。

「おいおい、モロ。あんまり大きな声出すと、喉が枯れちまうぜ。ジュースでも飲みな」

「ありがとうガクト」

 その姿を見てコソコソとクリスと一子が話をしていた。

「や、やっぱりそうなのか」

「うーん……。まぁ、お似合いの二人ではあるわね」

「僕が好きなのは女の子だって! それに、二人はノーマルのはずでしょ。京に感化されないでよ」

 モロが慌てて自分のフォローをしていると、京の目つきが一際するどくなる。

「フォモが嫌いな女の子なんて――」

「いっぱいいるよーーーっ!」

 

 

 

 

 




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