ブラスターマスターゼロ3 IFストーリー 作:通りすがりのヌ・ナセ草
「あっ、もうこんな時間。ジェイソーン、そろそろお昼ご飯にしましょー」
イヴの声を聞いて、俺はモニターから顔を上げる。
大きく身体を伸ばしてから、時計を見てみると12時を少し過ぎた所で、イヴの言う通り、昼にするにはいい時間だ。
「ああ、分かった。すぐ行くよ」
返事をして部屋から出ると、ちょうど洗濯物を抱えたイヴと出会う。俺は洗濯物を運ぶのを手伝いながら、一緒にリビングへと向かう。
リビングに着くと、イヴは洗濯物をソファの上に纏めて、すぐに昼食の準備を始める。
ケインとジェニファーさんの話から約1ヶ月。あの日以降、俺とイヴは何事もなく平和な時間を過ごしていた。
「私は午後から片付けとお掃除しちゃうけど、ジェイソンはどうする?」
「それなら俺も手伝うよ。ケインに渡す予定の研究レポートについても終わりが近いし」
俺が作っておいた昼食を食べながら、何気ない日常の会話をする。こんな当たり前の事がこの場所で再び出来ている、その事実に俺は嬉しくなる。
その気持ちは一緒なのか、日常の中でのイヴ自身も毎日嬉しそうに見える。
「いいの?それじゃあ遠慮なく甘えちゃおうかな。あ、そういえばお父さんからはミュータント達について、何か変わったお話とかは無かった?」
「ああ、イヴのお陰でミュータント達は大人しくしているらしい。被害報告も全く無いそうだ」
「そっか、それなら良かった。何かあったらどうしようって、たまに心配になっちゃうの」
女王となったイヴの命令(お願い?)の影響で、今まで俺達を苦しめて来たミュータント達は、今では姿を見せる事も無くなっていた。
「心配はいらないさ。何かあったら俺やケインもいるんだ。どうにかしてみせるさ」
「ゲコッ!」
少し離れた棚の上にいたフレッドも、大きく鳴いてピョンとジャンプする。
「勿論、フレッドも忘れてないさ」
「ふふっ。それなら安心だね」
フレッドと俺のやり取りに笑顔を浮かべるイヴに釣られて俺も笑ってしまう。
俺はSFから依頼された研究を行い、イヴが料理以外の家事や研究のサポートしてくれる日々。
空いた日には、周囲を警戒し、他人との接触を出来るだけ抑える必要があるが、一緒に買い物に行く事も出来る。
イヴの様子を毎日連絡を入れなければならないが、不自由な事はほとんど無い。
地球から飛び立った時に取り戻したかった日常が今ここにある。
「ご馳走様。さ、少し休んだら洗濯物を畳まーーーー」
そこまで言った瞬間、イヴの声は室内に響き渡る警告音にかき消された。
俺とイヴは顔を見合わせ、急いでG-ソフィアのある地下施設へと走り出した。
●
地下施設に辿り着くと俺達はすぐに警告音の原因を調べ始めた。
「ジェイソン!これを見て!」
「何か見つけたのか?」
「うん。さっきの警告音はこれが原因みたい」
そう言ってイヴが開いてくれた画面に映っていたのは、強大な生命反応の痕跡だった。なによりも驚くべきはその場所だ。
「ここは……人工海エリアじゃないか!?ここでいったい何が……」
「生命反応の方も調べてみたんだけど、ほんの一瞬の出来事だったみたいで、詳しいデータが何も拾えなかったみたいなの」
「そうなのか……行ってみるしかないか」
何があるか分からない。しかし放置しておくわけにもいかない。俺とイヴはすぐに探索への準備に取り掛かる。
イヴがG-ソフィアの起動準備を進めてくれている間に、俺はケインと連絡を取る。
今のイヴを、何が起きるか分からない場所に連絡も無しに連れていくわけにはいかない。
「ケイン!ケイン・ガードナー!応答してくれ!」
『こちらケイン・ガードナー。そんなに慌ててどうした?何かあったのか?』
定期連絡の時間が近かった事が幸いしたのか、俺の通信にケインはすぐに反応してくれた。
俺はケインに地球の地下で、謎の生命反応があった事、イヴを連れてそれを調べに行く事を伝えた。
『謎の生命反応、か……正直なところ、今のイヴの立場を考えるとあまり危険な所に連れていくのは賛成出来ないんだがな』
ミュータントの女王となったイヴに何かあれば、ミュータント達がどんな行動を起こすか分からない。
その事からイヴは安全な場所にいる事が望ましいというのは分かっている。
しかし、護衛役である俺が離れて1人で調べに行くわけにもいかないのが現状だ。
『今から俺やSFが向かったとしても時間がかかりすぎる、か……仕方がない、2人で行く事を許可する。ただし、何かあったらすぐに引き返せ』
「ああ。無茶はしないと約束する」
なんとかケインの許可も貰い、俺とイヴはG-ソフィアに乗り込み、急いでエンジンを起動させる。
「こうやって一緒に探索に向かうのがなんだか凄く久しぶりな気がするね」
「地球に帰って来てからずっと平和だったからかもな。いつも以上に気を引き締めていかないといけないな」
俺は大きく息を吐いてG-ソフィアを発進させた。
●
森林エリア、居住エリア、地下水道を抜け、俺達は順調にG-ソフィアを走らせ続ける。
初めて訪れた時は、多数のミュータント達が俺達に向かって来た記憶があるが、今はイヴのお陰でミュータント達の姿は全く見られない。
「ミュータント達がいないとこんなに静かなのか……」
「進みやすいけど、なんだか変な感じ……」
「とはいえ気を抜くわけにはいかない。イヴ、もうすぐ人工海エリアだけど、何か反応は無いか?」
「えっと……あっ!反応があった!ここに向かって!」
イヴに送られて来たデータを確認すれば、以前は向かわなかった岩礁地帯の奥に何か小さな反応があった。
「分かった。とりあえず、行ってみよう」
警戒をしながらも俺は『リコイルジャンプ』や『ホバー』を駆使して岩礁地帯の奥へと進んでいく。
「あっ、ジェイソン。反応はその洞窟の奥からみたい」
「こんなところに洞窟が……しかも結構広いぞ」
イヴが示してくれた洞窟に侵入し、進んでいくと、一際広く、明るい空洞に到着した。
(ここは……そうか、天井に穴が空いているお陰で、ここには光が入って来ているのか)
「ジェイソン!すぐ近くに反応が!」
イヴに言われて急いで周囲を確認すると、少し離れた場所に何かが倒れているのが見えた。
俺はイヴにG-ソフィア内で待機するように伝え、外に出た。
キーライフルを構えながら倒れている生物にゆっくり近づいていくが、未だにその生物は動く気配を見せない。
「生きて、いるのか……?」
「ん……ぁ……」
俺の声に反応したのかその生物はゆっくりと、ふらつきながらも身体を起こす。
キーライフルを構えてその生物の動きに警戒するが、その顔を見た瞬間、俺は驚きに包まれた。
その顔はイヴをもっと幼くしたらこうなるだろうと、彼女によく似た顔つきだったからだ。
『えっ!?嘘、なんで……』
「イヴ!?どうしたんだ!何かあったのか!?」
目の前の生物に驚いていると、通信の向こうでも驚きの声が上がる。
『ジェイソン!目の前のその生物からミュータント反応!それと、なにこれ、私と同じような反応……?』
「なんだって!?」
イヴの指示を無視してミュータントが現れたという事、ミュータントがイヴを真似た事。多くの情報に俺達が驚いていると、更に驚くべき事態が起きた。
「……んー?だーれー?」
「なっ!?しゃ、喋った!?」
目の前のミュータントが俺達を指差しながら首を傾げて尋ねて来たのだ。
あまりに想像を超えた状況に俺とイヴは戸惑ってしまうが、とりあえず、俺はそのミュータントに声をかけてみる事にした。
「君はいったい……?」
「むー」
ミュータントは俺の言葉に返事をする事もなく、こちらの背後をジッと睨んでいる。
横目で背後を確認してみるが、あるのはG-ソフィアだけだ。
「こわいのりもの!!」
「こ、怖い?」
『ジェイソン。多分だけど、ミュータント達はMAと戦った情報が共有されているから、敵に見えちゃってるのかも』
イヴの説明で初めて地下に降りて来た時の事を思い出す。あの時もミュータント達はソフィアⅢに対して強い敵対心を抱いていた。
そんな事を考えていると、目の前のミュータントは滑るようにG-ソフィアの横に移動して、スライムのような腕でG-ソフィアを叩き始める。
「おい!何をやってるんだ!」
「こわいのりものよくないもん!」
正直、叩かれたくらいではG-ソフィアの装甲にダメージは無い。しかもスライム状の腕の所為でその威力は更に低下している。
だが、俺達の知らない所で影響を与える可能性だってあるかもしれない事から、放っておくわけにもいかない。
「どうにか止めないと……って、おい!登るんじゃない!」
その見た目と言葉を理解するという特殊さから、攻撃をする事を躊躇っている内に、そのミュータントはG-ソフィアをよじ登り始めていた。
まるで子供のような行動力に俺は振り回されてしまう。
『こらっ!何してるの!』
「わぁっ!?」
ミュータントがキャノピーの正面辺りまで登った所で、外部スピーカーからイヴの声が響き渡る。
突然の声にミュータントがびっくりして動きを止める。
『どうしてあなたはこっち側に来てるの!他のみんなと一緒に大人しくしてなきゃダメでしょ!バレたら大変な事になっちゃうのよ!』
「…………」
イヴの言う通り、女王からの指示を無視してこっち側に出て来ている事がバレたら、俺達にもミュータント達にもいい事にはならない。
イヴの説教を聞いている間、ミュータントはポカンとした様子でキャノピーの中に見えるイヴを眺めている。
『もー!ちゃんと聞いてるの!』
「ま……」
『ま?』
「ママ!」
「『……え?』」
ミュータントの発した言葉に俺達2人は揃って固まってしまう。肝心のミュータントの様子はというと、キャノピーにべったり貼り付き、さっきまでの様子はどこに行ったのか、ご機嫌な満面の笑みでイヴに手を振っている。
「ママー!」
『マ、ママ!?え、えっと……たしかに私はあなた達の女王だけど、ママじゃないのよ?たしかにいつかは私もママになるかもしれないけど、まだ早いって言うか、身体の事だって色々調べなきゃいけないかもしれないし、心の準備だってーーーー』
「イ、イヴ!一旦、落ち着くんだ!」
『え!?あ、ご、ごめんなさい!私ったら変な事を言っちゃって……!』
混乱するイヴをなんとか落ち着かせ、G-ソフィアを見上げるとミュータントがゆっくり滑空する様に降りて来ていた。
「ママといっしょ……んーと、パパ!!」
「いや、俺は君のパパじゃ……」
ある意味、予想していた言葉に頭を痛めていると、上空にワームホールが開かれ、中から蜂型のミュータントが複数体現れるのが見えた。
「またミュータントが現れた?いったいどうなっているんだ……?」
次々と起こるミュータント達の謎の行動に考えを巡らせていると、蜂型のミュータント達は突然G-ソフィア目掛けて攻撃を始めた。
『きゃあっ!!』
「なっ!?イヴがいるのに攻撃を!?」
女王であるイヴはミュータント達にとって代え難い存在の筈だ。だからこそ、イヴを護るような動きはあっても、攻撃するなんてことはあり得ないと思っていた。
「いったいなんで……!いや、今はそんな事を考えている場合じゃない!イヴ!大丈夫か!?」
『う、うん。衝撃が来たけど大丈夫。でもこのままずっと攻撃を食らい続けるのはマズイかも……』
「すぐに戻る!それまで耐えてくれ!」
俺が外にいる状態では、俺をG-ソフィアの攻撃に巻き込んでしまう事を考えて、イヴも反撃をすることが出来ない。
そう思って走り出した俺を止めるように、敵が行手を阻む。
「くっ!邪魔をするな!」
G-ソフィアを攻撃する敵を目掛けて攻撃を放つが、空中にいる相手ではなかなか攻撃が当たらない。
『ロックオンストライカー』に切り替えるべきかと考えた瞬間、敵の周囲が不思議な空間に包まれ、動きが目に見えて鈍くなる。
「ママにこうげき、めっ!」
「これは、アンチェインD.D.F!?」
声のした方を見れば、俺のそばにいた謎のミュータントが、腕を掲げて何かをしていた。
「これは君が……?」
「ママ、だいじ!」
俺は一瞬、躊躇いはしたが、謎のミュータントを脇に抱えると、動きの鈍った敵の合間を走り抜けてG-ソフィアに乗り込んだ。
「イヴ!遅くなってすまない!」
「私は大丈夫。って、ジェイソン!その子連れて来ちゃったの!?」
「俺達を助けてくれたし、少なくとも敵意は無いと思うんだ」
俺に抱えられたミュータントは、手足をブラブラさせながら、興味津々といった様子でG-ソフィアの中を見回している。
「それはそうだけど……」
「それより今は敵を倒さないと!」
俺は急いで操縦席に座り、モニターのメニューからサブウェポンを選んでトリガーを引く。
その瞬間、G-ソフィアの周辺に超音波の壁が発生して敵を纏めて吹き飛ばす。
『インパクトウェーブ』。こういった場面で何度も助けられたサブウェポンだ。
「ふぅ……今の攻撃で周辺の敵はまとめて倒せたか。イヴ、念の為周辺の反応を調べてくれ」
「う、うん。分かった。少し待ってて」
ミュータント達が自分を攻撃して来た。その事実に、イヴが戸惑っているという事は顔を見なくても感じられた。
今、G-ソフィアの中から外を眺めている謎のミュータント。そして、王の資格を持つはずのイヴを攻撃してきたミュータント達。
平和になったと思っていた日常が、思わぬ方向に動き出している。
イヴだけでなく、俺の中にも不安は渦巻き始めていた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
ついに登場したオリジナルキャラ、読んで気づいていた方が大半だと思われるのですが、ブラマス3で敵として登場している『イヴィル・イヴ』ちゃんです。
原作と違って喋って懐いてオリジナル設定入れてるからオリジナルキャラ……のはず!
新たな子も登場して、この先どんな展開になっていくか楽しみにしながら待っていただけたら嬉しいです!
そして毎度ながら感想などありましたらお願いします。