ブラスターマスターゼロ3 IFストーリー 作:通りすがりのヌ・ナセ草
ミュータントからの襲撃の後、俺とイヴは周辺を念入りに調べてみたが、結局新しい反応や、怪しいもの等はなにも見つからなかった。
そして、イヴを連れている状態ではこれ以上の無理な探索は出来ないと判断して、襲って来たミュータントの死骸を回収し、地上に引き返す事になったのだが……
「ジェイソン。この子、どうしよっか……?」
「どうするって……超次元空間に帰ってもらうしかないと思う……」
「いーやー!」
俺達を助けてくれた謎のミュータントが、超次元空間に帰りたがらない所為で、地上へ向けて出発する事が出来ない状況になってしまっていた。
「困ったな……君は、イヴが君達にとって、えーと、偉い人っていうのは分かっているのかい?」
「うん!ママ、すごいよ!みんなに、だーってめいれいしちゃうもん!」
だー、というのがどういう感じなのかはよく分からないが、イヴが女王だという事は理解しているようだ。
それなら説得すれば帰ってもらう事は出来るかもしれない。
「そしたら、イヴが君に向こう側に戻ってほしいってお願いしたら、君も協力してくれるかい?」
「それはやーだー!」
ミュータントの返事にため息を吐いて、イヴの方に向き直る。どうやら俺ではこの状況を解決出来そうにない。
「すまない……どうやらイヴ自身から頼まないと駄目なようだ」
「うーん……正直、私も自信がないけどやってみるね」
困った表情を見せながら、イヴがミュータントの前にしゃがみ込む。
「ねえ、どうして帰りたくないの?」
「えーとね、わたしね、こっちにいなきゃいけないの。こっちでやらなきゃいけないことがあるの」
「えっ?やらなきゃいけない事?」
基本的に王からの命令を聞いて動くミュータントが、王の命令を無視してでもやらなければいけないと判断した事。
その内容については、俺もイヴも全く予想がつかない。
「やらなきゃいけない事って、一体何なの?」
「んー……あれ?なんだっけ……でも、すっごいだいじなこと!」
肝心の内容を思い出せないのでは俺達にはどうしようもない。だが、ミュータントが関わるのなら放っておく事は出来ない。
「……これは、ケインに相談してみるしかないか」
「ミュータントがこっちに来た事、私が襲われた事も報告しなきゃいけないよね……?」
「ああ……」
この2つの出来事は特に重大で、イヴと俺の暮らしに大きな影響を与える可能性を含んでいるが、黙っているという事は出来ない。
「イヴ、ここからケインに通信を繋ぐことは出来ないか?」
「えーと……ごめんなさい。ここだと通信状況が悪いみたい。一度地上に戻らないとまともに通信出来ないかも」
「そうなのか、それじゃあとりあえず地上に戻ろう。さて、頼むから地上に着くまで大人しくしていてくれよ」
「うんっ!」
ミュータントは俺の言葉に満面の笑みで頷くと、椅子にしがみつく。その様子を確認してから俺達はミュータントを連れて地上へ向けて出発した。
●
『……で、そのミュータントを連れて帰ってきたってわけか』
「ああ、勝手に判断してしまってすまない」
『まあ、状況を考えれば仕方ないだろう……それで、ジェイソン。お前はどう考えている?』
困った様に頭を掻いていたケインが真面目な顔でこちらに尋ねてくる。
「俺はあのミュータントとイヴが襲われた事、この2つは繋がりがあると考えている。イヴを攻撃したミュータント、イヴの指示を聞かないミュータント。関係ないという方が無理がある」
『ああ、それは俺も同感だ』
「ただ、そうなるとあのミュータントの目的が気になるな。大事な事って本人は言っていたが……」
結局のところ、その大事な内容というのが分からないと敵か味方かハッキリとさせるのが難しい状況だ。
目的の内容が俺達に害を及ぼす事ならば、全力で抵抗しなくてはならないし、逆に人類の平和に繋がる事ならば協力を惜しむ必要も無い。
『ところで、そのミュータントは今どこにいるんだ?』
「ああ、可哀想だけど今は倉庫の中で待っていてもらっている。入口はイヴが外から見張ってくれている」
倉庫の中には先程倒したミュータントの死骸が保管されていて景観は良くないが、少しの間我慢してもらうしかない。
『そうか。今のところは大丈夫でも、どんなタイミングで牙を剥くかわからんからな、油断するんじゃないぞ』
「ああ、分かって……」
『ジェ、ジェイソンッ!大変!』
ケインの忠告に俺が返事をしようとした瞬間、倉庫で待っているはずのイヴが通信に割り込んできた。
「イヴ!?どうしたんだ!あのミュータントに何かされたのか!?」
「私は大丈夫。それより、あの子の様子をモニターで見てたんだけど……あの子倉庫にあったミュータントの死骸の一部を食べちゃったの!」
「え?た、食べ……え?」
イヴの言葉に一瞬困ってしまう。たしかに地下水道エリアで出会った『ゲロール』等、他のミュータントを捕食するミュータントはいたが……とりあえず通信越しに話を聞くよりも直接確認した方がいいと判断して、ケインとの通信を一旦中断してイヴの元へ向かう。
●
「君は、いったい何をしているんだ……」
イヴの元へ辿り着き、倉庫の中を見てみると、そこには蜂型ミュータントの針を齧っているミュータントの姿があった。
「えっとねー、すっごくまずいよ!!」
誰も味を聞いてはいない。しかも満面の笑みで不味いと言われてもどう返せばいいのか分からない。
そんな事に頭を痛めていると、よほど不味かったのか、ミュータントが針を吐き出すのが見えた。
「まったく、変な事しないで大人しくしていてくれ……」
ミュータントの吐き出した針はスライム状の液体が付着しており、針そのものは半分くらい欠けてしまっている。
「これは……砕けたのか?いや、違う。まるで分解された様な感じだ……」
「ジェイソン。私、この針を少し分析してみてもいい?なにか分かるかもしれない」
「ああ。何か分かったら教えてくれ」
イヴはすぐにその針を容器に移して研究室へと持って行く。その場に残されたミュータントは、何をしているのかよく分かっていないのか、ポカンとした顔で走り去って行くイヴを見送っていた。
「パパー。ママいそがしいのー?」
「ああ、そうだな。だから君は大人しくしていてくれ。無闇に周りの物に触らないようにしてくれよ」
「わかったー!」
元気のいい返事と先程までの行動に不安を覚えつつも、俺は倉庫の入り口にロックを掛けて、再びケインと通信をする為に通信設備の元へと戻った。
●
『結局、そのミュータントは興味本位で口に入れただけだったのか?』
「分からない。まるで子供の様で、何か目的を持って行動しているとはとても思えないんだ」
『子供の様なミュータント、か。とりあえずお前は警戒をしておけ。何を考えているか予想がしにくい分、逆に怖いからな』
実際、今こうしてる間もちゃんと大人しくしてくれているか不安になる。
「あ、ジェイソン、今大丈夫?」
話に一区切りついた所でイヴが部屋に入ってくる。その手には分析で使う端末が握られている。
「ああ、大丈夫だ。もう分析は終わったのか?」
「うん。お父さんも通信はそのままで聞いて。さっきの針を調べたんだけど……」
イヴが端末を通信機に繋いでデータをモニターに表示させていく。
「あの針に付着していた液体から、あの子についての情報は得られなかったんだけど、代わりにこんな情報が出てきたの」
『これは、あの蜂型ミュータントの生体データか?何でこんなデータが……いや、待て。なんだこのデータは!?ここまで詳細なデータはこっちのデータベースにだって無いぞ!?』
イヴが共有したデータを見てケインが驚きを顕にする。ケインの言う通り、表示されているデータには蜂型ミュータントの身体の構造や特徴、活動パターンから攻撃手段、弱点等様々な内容が事細かに記されていた。
「多分なんだけど……あの子は分解、吸収した物を分析出来るんだと思う。それもかなりの精度で……」
『それが本当だとしたら凄い事実だが……上の連中は面白い顔をしないだろうな』
ミュータントとの戦いが終わったと言っても、ミュータントに対策する為の研究も終わりを迎えたわけではない。
何かの拍子に再び襲われた時の事を考え、対抗する為の研究は日々続けてられている。
だからこそ今まで以上の情報を得られる手段というのはとても価値がある。ただ、問題はそれをミュータントに頼らなければならないという事だ。
『とりあえず上には今回の事はまとめて報告しておく。その後の事は上の判断次第になるだろう』
「分かった。それまであのミュータントは俺達の方で見ておく」
『ああ、頼む。何度も言うが、油断しすぎるんじゃないぞ』
「それについても十分承知しているさ。それじゃ通信を終えるぞ」
忠告してくれるケインに返事をして通信を終える。そして、そのままイヴと一緒にあのミュータントの元へと向かう。
少しでも会話をして情報を得ておけば、今後の動き方も考えやすくなるだろう。
●
「あー、パパとママだー」
倉庫の中へ入るとミュータントが寄って来る。ミュータントは俺達の周りを楽しそうに回っていて、この様子だけだと何も考えてない様にしか見えない。
「なあ、君の言っていたやらなければいけない事っていうのは、何か思い出せたりはしないのか?」
「んー……ぜんぜんでてこないー」
ミュータントは動きを止めて少し考えてこっちの質問に答えてくれる。嘘をついている様には見えないが、だからこそ手がかりが無くて困ってしまう。
「ねえ、ジェイソン。私思ったんだけど、この子に名前って無いのかな?」
「名前?うーん、今まで話が出来るミュータントなんて会った事なかったしな……なあ、君に名前ってあるのか?」
俺は再び周囲を回り始めていたミュータントを呼び止めて尋ねてみる。
「なまえー?うーん……なまえ?」
ミュータントは首を傾げてしばらく考え、またもう一度首を傾げる。この様子だと名前は無さそうだ。
「いつもいつもこのミュータント、あのミュータントって呼んでるのも呼びにくいし、名前つけてあげない?」
「たしかにそうだけど……情が移りすぎてしまわないか?」
「それは……でも、私にとってはこの子も家族みたいなものだから……」
イヴの言葉にハッとする。今のイヴの状態を考えれば、このミュータントはイヴにとってどういう存在なのか、その答えに至るのにそう時間は掛からなかった。
「すまない……イヴの言う通り、名前をつけてやってもいいかもしれないな」
「あっ、ワガママ言ってごめんね……」
「いいさ。それより名前か……パッと思いつくものではないか……」
機械や道具につける名称なんかではない。そう考えると良い名前は何かと悩んでしまい、考えがどんどん複雑化していってしまっているのが自分でも分かる。
「あっ。ミュータントだからミューなんてどうかな?」
「えっ」
「ジェーイーソーンー?今の反応は何?」
あまりに安直すぎるネーミングに思わず出てしまった声に反応して、イヴがジト目でこちらを見て来る。
「あ、いや。分かりやすくていいんじゃないか」
「ふーん。どーせ安直なネーミングですよー」
イヴが頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。どうにか機嫌を取らなければと考えていたら、そばにいたミュータントが目を輝かせて俺達の方を見ている事に気付く。
イヴもそれに気付いたのか、前屈みでミュータントの様子を見る。
「ミュー、わたしのなまえ?」
「その予定だけど、もしかして気に入ってくれたの?」
「うんっ!!ミュー!うれしい!ミュー!わたしのなまえ!」
そう言ってミュータント、ミューはイヴに抱きつく。慌ててイヴはミューを受け止め、それを俺が支える。
「ジェイソン、ありがとう。こらっ、ビックリしちゃったでしょ」
「えへへー。ごめんなさーい」
そう言ってイヴに抱きつく様子を見ていると、この2人が本当の親子のように見えて来る。
この2人がこのまま平穏な時間を過ごしてほしい。そう思える様な光景だ。
「ねーねー、パパもー」
2人の様子を見ているとミューが不満そうに手を伸ばしている事に気づく。
「ジェイソン。お父さんの言っていた事も分かるけど、今だけ油断してあげられないかな?」
「……ああ、そうだな」
イヴの問いに応える様に俺はミューの手を取ると、ミューとイヴの2人は嬉しそうに微笑んでくれた。
今後、ミューとどんな関係になるかはケインの報告での結果次第だろうが、出来る事なら敵対する事無く、イヴを襲って来た他のミュータントについて、共に解決を図る関係になってほしい。
甘いかもしれないが、俺はそう願っていた。
今回も読んでいただきありがとうございます。
というわけで、彼女の名前は『ミュー』になります。変に捻り過ぎずに安直な名前で行ってみようと思い、この名前になりました。
彼女の言うやらなければならない事、それはどんな形で判明していくのか、どんな事に繋がっていくのか、しっかりと書いていける様に頑張っていけたらいいなと思います。
今回も感想等をお待ちしております。