昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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「ホラー映画の洋館ですか?悪魔峠の怪人館?」
私は車で連れてきてくれた立花さんに、目の前の洋館の印象を軽く話してしまった。
「ははは、やっぱりそう思うか。妻に先立たれてからろくに手入れが出来とらんからな。蔦だらけになってしまったし、何より掃除が出来ていないんだよ」
立花さんはそうして洋館の入り口に立ち、鍵を開けて入っていく。
「こんな大きな家に……」
「ああ、昔はでかい商売をやっていてね。戦争で運良く焼け残ったこの家を買ったのさ」
立花さんはそうして中に入り、電気をつけた。
シャンデリアとかあるが、それに灯りが灯ることはなく、緊急に設置したと思われるいくつかの白熱電球が点いてなんだか大変不気味な印象を醸し出している。
そ、そうきたかぁ~~~!?
私の中の烈海王がそう驚いてしまった。
「これ、絶対お化け屋敷扱いされますよね?」
「はっはっは。ガキンチョが近づかなくて助かってるよ」
気にした風でもなくそう返してきた立花さんに、私は「まあ入り口の広間がこの有様ってことは、生活スペースは別にあるってことなんですね?」と質問をしてみる。
「ああ、そうだ。使用人の宿直室をそのまんま使ってる。お前さんは……そうだな、宿直室はもう一つあるからそっちを掃除して使うようにしよう」
今夜は俺の部屋に泊まれ、と言って立花さんはそのまま部屋の中へと入っていく。
……妙に生活感がなく、質素なその部屋にベッドが一つ。
押し入れからおそらくは客用の布団を出して、その臭いを確認すると「こりゃ干さなきゃいかんな」と言って、上着を脱いでさっとパジャマに着替えてしまうとそのまま布団に寝転んでしまう。
「あの、私は……」「今日は俺のベッドを使ってくれ。風呂は……すまんが、明日にしてくれ。それじゃあおやすみ」
立花さんはそれだけ言って、目をつぶる。
私は……仕方ない、疲れているんだろう、と思ってベッドに腰を掛けて電気を消した。
「おやすみなさい、立花さん」
そうしてそのまま横になって毛布を被り目をつぶる……
―――その時、わずかに父の匂いがしたような気がした。
それから―――朝起きて、あまりの宿直室以外の場所の散らかりように私は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のゴミを除かねばならぬと決意した。
私には立花さんの事情はわからぬ。
私はただの転生者である。
けれど、汚れた部屋には人一倍敏感であった。
私は、今日が土曜日で半ドンなのを良いことに午後はぎっちり掃除をするぞと決意を固めていると、立花さんが起き出してくる。
時間は午前5時半。
しかしながら立花さんはもう店に行って、今日の仕込みをしなければならないのだろう。
「おはよう、ハリ。ずいぶん早いじゃないか」
「おはようございます立花さん……昨日は暗くてよく見えませんでしたけど、これひどいですね……掃除してもいいですか?」
私が硬い笑顔でそちらを向けば、私が怒っているということがわかったのだろう。
「お、おう。構わんぞ。俺も忙しくて手が出なかったところだからな」
そう、少しだけ言葉に詰まりつつこたえていたのだ。
まあ、詳しく聞く気はないけど……旧世界での設定通りに、奥さんやご家族を亡くしているのならこのくらい荒れてても仕方ないだろうな、とは思うのだ。
だからそれ以上責めるつもりはないし、むしろある程度しか私の今の体格では片付けられないのが心苦しいのだが……
……とはいえ、アパートやマンションでは襲撃があったときに周囲に迷惑がかかるので、こういう人が近づきがたい雰囲気は拠点としては間違いがないとも思う。
お化け屋敷扱いのまま、生活スペースだけは掃除しておかなければ。
私はその言葉を胸に、昨日はお風呂にも入れていないし、せめてシャワーだけでも浴びるためにお風呂へ向かうのであった。
それから1週間後の夜のこと。
アミーゴのカウンターで私は宿題をしながら、営業終了を待っていた。
掃除も一旦落ち着いて、今日は立花さんのことを待って一緒にご飯を食べるのだ。
そんな風に考えて、時計を見るともう8時だ―――それも土曜の。
テレビを付ければ、多分8時だョ!全員集合が始まってるんだろうけども……
「流石にすぐには連中も動けんか」
「ええ……」
二人が私になるべく聞かれないように、悟られないように資料を見ながら小声でお話をしているものだから、当然私もコント番組見て笑っているわけには行かないだろう。
小学生の勉強とは言え、色々すっぱり忘れているような国語や社会の内容だってあるわけで、私はそう考えて宿題に集中することにした。
―――そうして時間が20分ほど過ぎた頃。
バタン!カランカランカランッ!!
勢いよく扉が開いて、そこからシローさんとルリ子さん、それとルリ子さんの友人の野原ひろみさんが飛び込んできた。
「はぁはぁっ!?」
「何だお前たちは?」
「まるで幽霊にでもあったっていう顔をして……?」
息を切らして怯えている三人に、立花さんと本郷さんが心配して声をかける―――
この光景に私は絶望的に覚えがあった……
そう、これは仮面ライダー第6話「死神カメレオン」の冒頭に違いない。
「どうしたんです?」
思わず私は口を挟んでしまったが、ルリ子さんが「み、見たんです!」と怯えて引きつった声を出した。
「何を?」
「か、影が二つで、ひとりしかいないの!」
ひろみさんも同じようにそう言って、私は確信する。
間違いなく、あのナチスの鉄箱―――NAZIS……国家社会主義ドイツ労働者党の残党が、再起を期して日本に送ったという財宝に関する事件が起こりつつあるのだ。
戦後26年の時期とは言えアブネーネタだなあ、とファンの部分が言いつつも、この事件の被害者―――砂田元海軍少佐のことを考えればそんなことを思っている場合ではない。
「そんなバカな!」
呆れ気味な立花さんはそう言ったが、しかし本郷さんは険しい表情で―――私を見た。
私はコクリと頷いて、「もしかしてショッカーの仕業では?」と本郷さんの表情に応えるように言葉を放つ。
「うん、僕もそう思う。現場を教えてくれ、ルリ子さん」
本郷さんがそうしてルリ子さんに頼むと、彼女も「わ、わかったわ」と言って二人は出ていった。
「杞憂だと良いんだがな……」
パイプから煙を吐き出しつつ立花さんのそんな言葉が響く―――だが、私は知っているのだ。
これが杞憂で終わることはなく、大阪まで遠征しての戦いになるのだと。
私は静かに瞑目して、宿題のノートを閉じた。
―――どうか無事で。
その言葉を胸に秘めて。
結論から言えば、無事本郷さんは原作通りに砂田元少佐の娘さんを保護することには成功していたが、砂田氏自体は確保できなかった。
そして、本郷さんは少女から砂田氏の潜水艦の模型を借り受け、夜は更けていく。
―――きっと外ではカメレオン男が監視しているのだろうが。
いざとなれば私が砂田少佐の娘さん……ルミちゃんを守りにいかなければ。
彼女は病院に入院しているからな……
「……これは多摩川の上流だぞ」
潜水艦の模型から出した古びた地図を見た立花さんは、ひと目でそう断定する。
「一体何があるんでしょうね……」
私は、少しだけ眠い目をこすり、その地図を覗く。
―――知りながら、答えられない。
それが私の心に深くのしかかるが、仕方がなかった。
「ここで考えていても仕方ない。明日、僕がこの場所へ向かってみます」
そう言って本郷さんは、アミーゴを出ていく。
「それではまた」
「おう、気をつけてな。さて、俺たちもそろそろ帰ろうか」
「はい、わかりました」
すでに営業時間はとうに終わっている時間帯。
軽い片付けだけをして、私たちは外に出る。
時間はもう0時近く。
「いやあ、おそくなっちまったな」
「ホントですねえ……まあ、私、夜更かしは平気な方ですから気にしないでください」
立花さんの車の助手席に座りつつ、私はニコリとそう言ってみた。
彼は「そうか。だが夜更かしはいかんぞ、体が育たなくなっちまう」と冗談めかして返し、車のエンジンに火を入れる。
―――私はこの事件に深く関わることはあるまい。
そう思っていた。このときは―――