昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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―――エキスポランドとはなにか。
それはかつて大阪府吹田市に存在したアミューズメント施設である。
元は1970年の日本万国博覧会、通称大阪万博の会場に作られたアミューズメントゾーンだった。
2007年のジェットコースター事故を契機に客足が大減少し、そのまま破産、消滅の憂き目にあったが、2022年時点ではEXPOCITYとして復活を遂げている。
現在、即ち1971年はまだエキスポランドとして独立開業していない、本当にただの万博跡地である。
だからこそ仮面ライダーのロケ地として選ばれたんだろうが……
というか、ジェットコースターの上で格闘とか真面目にクソ危険なコトしてたから、完全閉業中でもなきゃあんなことはできまい……と普通は思うのだが、これ以降も東映は普通に遊園地でロケしてるからもう危険度とか色々ガバガバな時代であった。
―――とはいえ、この状況ではこんな呑気なこともろくに考えてはいられない。
私は、立花さんとルリ子さんと一緒に、エキスポランドの象徴的な建造物エキスポタワーの非常階段の途中に縛られていた。
ああ、どうせなら普通に旅行で来たかった……ここは構造上老朽化しやすい建物で、2003年には解体されてなくなってしまうのだ。
当時の私は思いっきり大学院生、それも学費を奨学金で賄っていた貧乏学生だったので、見に来ることもできずに悔しい思いをしたのを覚えている……
それはともかく今頃はきっとジェットコースターの上で本郷さんが格闘中だろう。
―――なんとかしてこの拘束を引きちぎり、脱出したいところだが―――
「おい、大丈夫かハリ」
「はい、大丈夫です。きっと本郷さんが助けに来てくれますよ」
私は気遣ってくれた立花さんに微笑みを返して、内心で嘆息する。
二人と一緒では、手だけ変身して……というのもなかなか難しい。
「こんな子供まで……ショッカー……!」
ルリ子さんが怒りをあらわにしているが、まあそりゃそうだ。
私は今、ただの子供で……きっと、自分が大人の姿のままであったなら同じように怒っているだろうと思い、また内心で嘆息した。
(早く来てくれ本郷さん……!そしたら、腕だけ変身するスキもできるだろうし!)
私はきっと必ず来てくれると信じながら、その時をじっと待っている……
大丈夫、大丈夫と心に言い聞かせながら。
―――その時、遠くからバイクのエンジン音が聞こえた。
「……来た」
「なんだと?」
「遠くからバイクが―――多分本郷さんが来る、と思います。私、耳が良いんです」
私のつぶやきに反応した立花さんに笑顔で返すと、そのとおりにエキスポタワーに向かってくるバイクが一台はっきり見えた。
間違いない。本郷さんだ。
エキスポタワーの直下にサイクロンを停めて、彼は全力でここへ走ってくるはずだ。
―――その時がチャンス。
果たして数十秒後、本郷さんはエキスポタワーを駆け上がり、私達を拘束している場所までやってきていた―――
「本郷さん!」「本郷!油断するな!あの怪物は、カメレオンのように変色する能力を持っているぞ!」
「危ないから来ないで!」
立花さんとルリ子さんの声が響く―――そのとおりだ。
私のグランザイラスとしての感覚は、正確に何者かが周辺に蠢いていることを感知していた。
捕まったときは集中できてなくて使えなかったが、今は違う。
やはり原作通りに、驚くべき速度で死神カメレオンはこの場へとやってきていたのだ。
その言葉に本郷さんは一瞬ストップし、そしてその一瞬で私達の前にカメレオン男が姿を表す……
もう少し、もう少しだ。
私は自分を拘束している手錠を、左手だけ怪人の姿に変えて壊そうと足掻く―――
ミヂ……ギヂ……
身長が違うせいで、二人とは拘束の手段が違っていたのは助かるが……それでも気づかれる訳にはいかない。
そして、きっと目の前の本郷さんも同じようなことを思っているはずだ……
『ヒィヒヒヒヒヒ……』
立花さんの警告どおりに、死神カメレオンは虚空から姿を現し、本郷さんに無言で迫る―――
きっと彼は、改造人間であることを知られることを厭って……
『どうした本郷……かかってこい……!』
カメレオン男は、きっと彼がルリ子さんや私の前で変身することを厭っていることを知っている。
だから挑発をするのだ……!
『死ねッ!本郷!!』
「あっ!」「ああっ!」
その合図とともに、隠れていた戦闘員たちが本郷さんに網を、おそらくは通常の素材ではない網をかける。
ルリ子さんと立花さんの悲鳴が響き、そして。
―――本郷さんは網に絡み取られ、そして私もまた―――
私は自分を拘束している手錠を力尽くで引っ張る。
ビギンッ!
手錠の鎖は対人間用だったのか、なんの抵抗もなく千切れてしまった。
後は……本郷さんがこの場に留まれるように―――或いは、私がフリーハンドを得るための最善の手段を取るだけ。
「させるかぁ!?」
『なんだと!?』
私はカメレオン男の驚愕を無視して、本郷さんを掴む―――
だが、もうすでに本郷さんは落下コース!
そのまま私も一緒に落ちるしかない!
ごめんなさい、立花さんッ!ルリ子さんッ!
そうして私は本郷さんの体を―――掴んだ。
「ハリ!」「ハリちゃん!!」
「ハリちゃん!?」「きゃーッ!!」
驚きの声を上げる本郷さんとともに、私は地面へと落ちていく。
「うわぁ――――――ッ!!」
本郷さんの悲鳴、私を寸でで抱きとめてもなお、この高さは。
下は地面、奈落、あの世だ。
だが、私は死なない。
本郷さんも死なない。
60メートルはあるその落下を、私は何の恐怖もなく受け入れていた。
―――そうして本郷猛は私を抱きとめたまま落ちていく。
落ちて、風を受け、彼の意志とは無関係に彼の体は変わっていく。
本郷猛はベルトの風車に風を受けることにより、仮面ライダーへと変身するのだ。
彼は私を空中でお姫様抱っこして、そのまま地面へふわりと降り立つ。
仮面ライダーのショックアブソーバーはどういう出来なのだろうか、私には何の痛痒も衝撃もない……
私は……私を見つめる仮面ライダーの、悲しく辛そうな姿に、ニコリと笑い返した。
「……やはり気づいていたんだね」
「はい。私は、多分、あなたを知っています。最初から、知っていました」
私は真実の一端をそうしてなんでもないことのように仮面ライダーに話す。
「記憶が戻ったんだね?」
「はい、少しだけ。私は……仮面ライダーが本郷猛だと知っています。あなたが……」
私はそこで声を詰まらせた。
知っているからだ。
彼は仲間が出来てもずっと、永久に戦い続ける存在なのだということを。
涙が一つ零れたけども、私は気にしないで「話は後で。行ってください。立花さんたちが危ないです」と懇願した。
そうだ。
カメレオン男はまだ私たちが生きていることを知っている。
ナチスの秘宝が眠る墓地で、仮面ライダーに邪魔されぬように立花さんたちを人質にしたまま向かっているはずだ。
彼にはすぐにも行ってもらわなければ。
―――テレビ番組のキャラクターではなく、生身の人間である立花さんたちが傷つくことが許せない。
許せないからだ。
「……わかった。君はここから動かないでくれ」
本郷さんは、仮面ライダーはそうして踵を返してサイクロン号にまたがる。
「心配しないでください。私、こう見えてオトナですから」
その言葉に、本郷さんがふっと笑った気がした。
―――そう、私は見た目はともかく、中身は大人なのだ。
グォォォォォォォン!
原子力エンジンの作り出す250馬力もの怪力が、仮面ライダーとサイクロン号をあっという間にはるかへ連れ去っていく。
後は、私が何をすべきかは。
この身に満ちる怒りが教えていてくれていた。