昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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―――そしてそれから。
「え?ええ?えええ???」
私は目の前に置かれた手紙を前に、激しく困惑していた。
予想に反したことが起きていたのである―――そう。
前の世界通りなら、あの後―――コブラ男を倒した後、ショッカーは第二次計画としてコブラ男に火炎放射機能を搭載して再改造し、国外へ運び出される金塊の輸送ルートを狙うはずなのだが……
なんと、その前に。
ある手紙がアミーゴに届いていたのである。
「えー……スナック・アミーゴに集まる愉快な仲間へ、滝和也。ねえ、この人さあ。去年の全日本モトクロス選手権の滝さんかしら?」
そう、その手紙は―――仮面ライダー第11話「吸血怪人ゲバコンドル」で初登場を果たすあの男。
泣く子も黙るFBI特命捜査官・滝和也の結婚……いや、偽装結婚のお知らせであった。
もちろん手紙の中にそんなことは書いてないし、立花さんも本郷さんもルリ子さんも……滝さんがFBIの捜査官だなんてことはまるで知る由もないことである。
「そうだよ。その滝だよ。まったく、あいつめ余裕があるな?全日本選手権を前に結婚とは……それに比べて猛のやつぁまぁ……」
前半はどこか嬉しそうに、後半はどこか心配そうにそういう立花さんを尻目に私は本当に盛大に混乱しまくっているのだ。
(何?私が流れを変えたから、スパロボとかみたいに話がショートカットでもされたっていうの?)
確かにこの3週間ほど何も起きていないのは確かなのだが、まさかショッカー首領が完全な失敗に転じる前に諦めて別計画に行くとは……?
しかし、ここで私は嫌な事実に気づく。
そう。
既にショッカーは再生怪人を何体も繰り出してきている。
そして次の怪人ゲバコンドルはこれまで現れた7体の改造人間―――蜘蛛男、蝙蝠男、さそり男、サラセニア人間、死神カメレオン、蜂女、そしてコブラ男の長所を集めた怪人とされる。
まさか……確実を期すために、改造コブラ男と一緒にぶつけてくる気か?
私は目の前でルリ子さんが、本郷さんがこのところ全くアミーゴに顔を見せていないことを心配するのを見ながら、ぐるぐるとそんな事を考えていた。
「んん~重要な研究がなんかあるらしいんだよ。本人も全日本モトクロス選手権のために相当走り込んでおきたいらしいんだが、研究もあるしな」
そうしてニコリと笑い、「二本立てで相当焦ってるんじゃないかな」と返してパイプを咥える。
しかし、ショッカーと相対してもどっしりしているように見える本郷さんが焦るなんてあるだろうか、と思った自分の脳裏に浮かんだのは藤岡弘探検隊の藤岡隊長の雄姿であった。
違う違う。本郷さんは焦る時は超焦るし、どっしりしてるように見えても寂しい笑顔を見せるゴツメン系イケメンなんだって。
―――しかも今回に限っては声が納谷六朗ではあるが、劇中でどうも実際焦っていたようだし。
私はそこまで考えて、いやもうなるようになれとばかりに「この滝さんっていう人はどういう人なんです?」と立花さんに聞いてみる。
「ああ、そうか。玻璃は会ったことがなかったな。こいつは猛と随分前から張り合ってるモトクロスのレーサーでな。今度の全日本選手権でもかち合う予定なのさ」
立花さんは嬉しさを隠すこともなくそう言って笑う。
本郷さんにも日常がある……たとえショッカーという恐るべき組織と戦っていたとしても、だ。
その象徴の一つだろう、と笑う立花さんに私は自分が全く悪くないのはわかっていてもどこか申し訳なく思ってしまう。
なぜなら、何度も言っているが―――滝和也はアメリカ連邦捜査局・FBIの特命捜査官なのである。
メタ的には仮面ライダー・本郷猛役、藤岡弘の事故を契機に投入された狂言回しで、最初は本郷さんのレーサー仲間として登場した。
平山亨Pの小説によると、彼はオクラホマ生まれの日系三世。
そこでタクシーの運ちゃんの黒人ジャッキーに敗れ、彼の師匠のジン・ルンという老師を探して西へ東へ。
その中でパリ・ダカール・ラリーに参加して後に仮面ライダーとなる三人の男―――本郷さん、一文字さん、風見さんと出会ったり、ナムでベトコンと共同戦線を張ったり、ステイツに帰ったら国家反逆罪に問われそうになって、某マンガでわかるアサシンもといジョン・エドガー・フーヴァーFBI初代長官に救われて特命捜査官となり、日本に送り込まれたのだとか。
一文字さん初登場の描写をころっと忘れたかのような小説なので、ほぼ本編とは関係ない話なのだろうが、仮にこれが本当なら下手な仮面ライダーよりはるかに波乱万丈な人生送りすぎである。
そりゃ怪人と渡り合えるくらい強いわ、と思いながら目の前のパイプから紫煙をくゆらすおじさんを見て。
(そういえば立花さんも怪人に殴られても無事だったり、戦闘員をのしたり、大概だったわ……)
そう脳裏にライダーガールズのお嬢さんがたやライダー隊のちびっことともに戦闘員を叩きのめしてるシーンが思い出されて、私は少しくすりと笑ってしまった。
「ところで、私は呼ばれてないからお留守番でいいんですよね?」
「ああ、そうか。そうなっちまうな。さてどうするか……」
立花さんが私の言葉を思案していると、ルリ子さんが「子供なんだし、一人くらい連れて行っても平気じゃないかしら」とあっけらかんと指を立てた。
それもそうである。
別に披露宴をやるわけでもない結婚式みたいだし、ね……
「おう、そうだな。じゃあハリも行くか!」
「はい。わかりました」
私はニッと笑って立花さんを見て、それからすぐに後ろを振り向いた。
そこにはルリ子さんが読み終わって、カウンターに置いた手紙があった。
……やはり少しずつ変わっていくのか。変わらざるをえないのか。
私はそう心のなかで独り言つ。
だが、そうであるならば。
そうであるならば、私もいつか正体を明かすことができるだろう。
そうであればいいなあ、と思いつつ結婚式の招待状を見つめて、滝さんと本当に出会えるときを楽しみにしているの自分がいたのであった。
―――カラーン、カラーン、カラーン……
教会の鐘の音が鳴り響く。
新しい夫婦を祝う天の声が。
パチパチパチパチパチ……
指輪を交換した二人に、列席した人々が万雷の拍手をする……
ここに結婚の誓いはなされた。
荘厳なパイプオルガンの音が鳴り響く中、二人はバージンロードを逆に歩き出し、教会の外へ出ていく……
きっとこれが偽装結婚だなんて、誰も思わないだろう。
愛の口づけを交わす男と女……
その片方は、誰あろう―――滝和也その人である。
「遅いわね、猛さん……」
「間に合うように来るって行ってたんだがなあ」
ルリ子さんと立花さんが私の後ろで、そう小さく話し合っている。
……本郷さんはここに来ることはない。
今頃は研究室で研究の詰めに入っていて、そしておっとり刀で飛び出している頃だろう。
彼が間に合うのは、そう……
その時、私の聴覚に不気味な鳴き声が聞こえてきた。
『フゥエーエェェ~……』
『若い女の血を欲しがっているな……待て待て。中ではまずい。今日はちょっと列席者が多すぎる……』
そう、この声は。
吸血怪人ゲバコンドル。
若い女の血をエネルギー源にする、これまでの怪人の長所をよりすぐって改造された怪人の声。
そして高い知能を持たないと思われるゲバコンドルを指揮する戦闘員の声……なのだが、少し自分の記憶にある戦闘員と声が違うような気がして……
おめでとう、おめでとう、と祝福の声が響く。
そして滝さんとお嫁さんは教会の外で、サイドカーに乗ってそのまま新婚旅行へと出発する……という演出が始まった。
「レーサーだけあって面白い新婚旅行をやるなあ―――猛はとうとう間に合わなかったなあ」
私の後ろの立花さんが、前半は笑顔で、後半は憂いた顔でそう言った。
「……忙しいんですし、仕方ないですよ」
私はそう言って、遠くを見渡す。
おそらく既にゲバコンドルと戦闘員たちは滝さんを追っていっただろう。
私は―――
「ごめんなさい、立花さん。ちょっと私……お手洗いに行ってきてもいいですか?」
そう言って橘さんを見れば、「お、そうか。結構長かったもんな、式。行ってこい」となんでもない感じで言ってくれた。
「大丈夫?一人で行ける?」
「大丈夫です。場所は来たときに確認しました」
ルリ子さんの心配にそう返して、私は列席者を押し分けて教会へ入っていく……
まだ、なにかがある。なにかがいる。
そんな予感が拭えなかったから。