昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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―――そして、私と言えば。
「も、桃山玻璃です。8歳です。よろしくお願いします!」
私は緑川ルリ子の前でそう言って、ペコリと頭を下げた。
退院した私を彼女がバイクで迎えに来てくれ、今はスナック・アミーゴに私はいる……
どうやら親元がわかるまでの間、アミーゴに置いていてくれるようなのだが……
「よろしくね、ハリちゃん」
「よろしくな」
ルリ子の後にそう言ったのは、他ならぬ藤兵衛さんである。
「他に二人いるんだがな。そっちとの挨拶はまた今度にしよう。それじゃあ奥の部屋で休んでいてくれ」
「さ、こっちよ」
藤兵衛さんにそう言われて、私は素直に「わかりました」と言って、ルリ子に連れられるまま奥の部屋に連れて行ってもらった。
結局、私は自分が8歳である―――ということだけを思い出したということにして、退院した。
施設に入らないかという医師の言葉に、藤兵衛さんがしばらく置いてくれるということで引き取ってくれたのは素直に嬉しい。
―――ショッカーはもう私を認識しているかも知れない。
捕まってしまえばどうなるか……
私を元にどこかのショッカーグリードやら仮面ライダー3号やらめいた対仮面ライダー殺戮兵器が作られてしまったら取り返しがつかない。
否、それ以前に私自身が脳改造されてしまえば……
グランザイラスは作劇上の都合とは言え、10人ライダーをものともしなかった強豪怪人なのである。
私は怖気を震い、それを外に見せないように振る舞うことしかできない。
何より、あの姿に変身するのが怖い―――
私は―――戦闘員を。
そこまで考えて、思考を振り切る。
そうだ。
自分を守り、仮面ライダーを……本郷猛を守るには、ここにいるのが最適だろう。
「この世界に平成が混ざってたりしたら……確実に私は巻き込まれるもんなあ……」
小声でつぶやくと、ルリ子さんが「どうしたの?」と聞いてきた。
「ううん!なんでもない!」と子供のように―――実際に体は子供になっているが―――ニコリと笑って返す。
「そう?それじゃあしばらくここにいてね。退屈かもしれないけど……」
「大丈夫です!」
元気に手を上げてそう答えた私に、ルリ子さんは「そう?じゃあ……これでも読んで待っていて」と絵本を一つ渡して部屋の外に出ていった。
見回せば……そこはソファーとテーブル、幾つかのクローゼット、それに映写機が一つ置いてある部屋だ。
その部屋には覚えがあった。
「……確か、本郷さんと藤兵衛さんがさそり男の回で……」
そう、映写機が片付けられていなかったことに私は愕然とする。
その映写機にセットされているフィルムには―――仮面ライダー1号の身体能力をチェックするための映像が収められているはずだ。
それは仮面ライダー第3話のエピソードで使われたギミックだ。
「……もうさそり男の回が始まっている?」
仮面ライダー第3話「怪人さそり男」。
ショッカーが所有すると思われる謎の島でさそり男の実験台に処刑される強制労働者たち。
一人、本郷猛を抹殺するための餌として生き残らせられた伊藤老人。
そして現れる―――本郷猛のかつての親友「早瀬」。
しかし、彼はもはや本郷猛の親友などではなく、ショッカーによって改造された怪人さそり男なのだ。
本郷猛に勝つために改造されたとうそぶく早瀬だった存在に本郷は仮面ライダーとなって戦い……
彼はさそり男を倒し、そして本当に早瀬が自ら望んで改造されたのか、それとも脳改造の末にそう思わされていただけなのか……
それは本郷猛にも、我々視聴者にも永遠の謎となり、ただ恐るべきショッカーの指揮者―――首領、大首領と呼ばれる存在の不気味さだけを残して終わるというエピソードである。
「どうするべきなんだ?」
私には今は答えが見つからない。
だが、おそらく一両日中くらいだろうか。
そのくらいには決着がつくことだろう。
「……どうする?」
自分は今はただの子供―――とは言い難いが、自由に動ける身分ではない。
何より、グランザイラスにどう変身するかがわからないのだ。
これは大変な問題と言える。
身を守れないのだ。
このままでは。
まさか仮面ライダースーパー1・沖一也のように100人組み手の地獄稽古で習得するなんてことが出来るはずがない。
「んん~~!変身!」
―――とりあえず仮面ライダー新1号の変身ポーズをしてみるが、当然変身するなんてことがあるはずもなく。
一通り知っている変身ポーズを真似してみたが、全然駄目であった。
かれこれ三時間はたっただろうか。
すでに外は夜の闇に落ちていた。
「うっそだろ。ジオウでも駄目か……」
駄目なものは駄目であった。
そもそもクウガとアギトを除けば、大体はアイテムが必要な平成ライダーの変身ポーズを真似してもまぁまぁ仕方ないことはわかっていたが。
(キカイダーも01もだめ。イナズマンもだめだし、キョーダインとかバイクロッサーとかマシンマンみたいな真似しにくいのもなー……演っても無駄に近い……)
もう当然のようにゴレンジャーのゴー!は試してみたし、もうホントこれ命の危機にでもならない限りは無理なんじゃぁ……
ほぼほぼ変身の方法については諦めが来た頃―――
ルリ子の声が、遠くから聞こえた。
『えっ?本郷さんの?』
そして―――ルリ子さんの声ではない声も。
『そうなんですよ。今、どこにいるんですか?』
―――この声は。
自分は暗い気持ちになる。
間違いなく早瀬五郎―――本郷猛をいかなる理由か―――本当に勝てないからなのか、脳改造されたからなのか―――裏切った親友の声だった。
いくらかルリ子さんと早瀬は話して、ルリ子さんは彼を老人の、哀れな伊藤老人の下へ連れていき―――そして。
「あ、ごめんなさい。ハリちゃん。私、この方を案内する用事があるから―――お留守番していて?」
「はい、わかりました」
私は―――知らず表情を固めて、少しだけ顔を出した早瀬―――間違いなく早瀬五郎!
その顔を睨みつけていたのだろう。
「ごめんなさいね。まだここに来てすぐだから、不安だと思うんです」とルリ子が気を使ってくれた。
「いえ、いいですよ」
そう気さくな声で笑う男が、これからどれだけ非道なことをするのかを知っている。
知らず、猛烈な吐き気がした。
「いってらっしゃい」
私は、ルリ子にだけ笑顔を向けてそう送り出すことしかできない……
「はい、いってきます。藤兵衛さんが帰って来たら言っておいてね。それから、お布団は隣の部屋に敷いてあるから、眠くなったら寝てしまっていいわ」
それだけを言い残してふたりはアミーゴを出ていった。
その様に、私は怒りを禁じえない。
―――なんてザマだ。×××××。お前は、ヒーローに憧れていたんじゃあないのか?仮面ライダーに、キカイダーに、他にもいっぱいいたろ。
私は心の中へと問いかける。
「怒りだ。怒りしかない」
私はただの特撮ヲタクだ。
ただの。
ヒーローにはなれない。
アラン・ムーアが言ったように、スーパーパワーを手に入れてもソファーで寝っ転がってビール飲みながらテレビを見ているタイプの人間だ。
それでも、それでも尚。
「確実に死ぬ人がいるなら、助けなくっちゃ。私は……そうでなきゃもう二度とヒーロー番組が見れなくなる」
私はどうしてしまったのか。
口をついて出たのはそんな言葉であった。
その、瞬間。
腕が、左腕だけが、最初から身につけていた青いワンピースの袖が変化していく。
それは小さいが、たしかにあの最強怪人グランザイラスのもの。
―――ふと、その手でテーブルの上に置いあったティッシュボックスを持ち上げる。
それは一瞬で炎上し、跡形も残らない―――
延焼の心配がないことを確認した私は、先程とは別人のような断定的な足取りで部屋を出る。
「ヒーローのために。次のヒーローのために。次の次のヒーローのために」
幽鬼のように闇の街へと歩き出した私は、いつの間にか異形の怪人へと変じていたのであった。
酔生夢死……人はなんとなく生きて、なんとなく死ぬもので、それは嫌なものです。