昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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―――館山シーサイドホテル。
仮面ライダー第3話のロケ地でもあり、この世界でも実在のホテルであるその場所に、私はいつの間にか到着していた。
もちろんグランザイラスに変身したままで……
どういうことだってばよ……
だが、そんな事を言っている場合でもない。
早くしなければ、伊藤老人が死ぬ。
それはちょっと勘弁願いたいところだ。
このホテルは、確か1970年くらいに建てられたところなんだよなあぁ……
前世では行ったことはなかったが、今は真新しい雰囲気が出ているなと、暗闇でも昼間とほとんど変わりなく見えるグランザイラスの目を通して周囲を見渡す。
……とりあえず誰かに見つかる前に伊藤老人とルリ子さんを探さないといけない。
そうして、怪人の身体能力を生かして周辺を探索することしばし……
私に与えられた優れた感覚は、その伊藤老人が死ぬはずの部屋を発見する。
間違いない。
ルリ子さんと伊藤老人だ。
私ががその場に押し入ったのは、ちょうどショッカーが人食いサソリ……その毒を浴びればたちまち体が人食いバクテリアによって溶けた人間の何百倍もの速度で溶かされ尽くす恐るべき改造サソリを部屋に放った瞬間であった。
即ち、間一髪というやつである。
ガシャーンッ!!
「キャーッ!!」
「う、う、うわーっ!?」
十数匹もの人食いサソリが出現したその部屋に、窓ガラスを破って私は侵入する。
―――不味い。このままでは。
そこまで考えた私の体は素直に動いてくれた。
ルリ子の悲鳴が響き、伊藤老人が腰を抜かして怯え這い回る。
が、私はそんなことを気にすることもなく、地面にばらまかれた人食いサソリたちを―――その腕から放つ火炎で、床を炎上させぬよう器用に焼き殺していった。
このくらいの調整は効くということか。
ふと鏡を見れば。
巨大なトカゲか、龍を思わせる頭部。
筋肉とも装甲ともつかない胸、奇怪な緑色のブツブツが痛々しい左腕と、先端に穴の空いた角のようになっている右腕を持つ怪人。
紛れもなくそれは、あの時の勘違いでもなんでもなく。
「―――我が名は最強怪人グランザイラス。仮面ライダーの手が届かぬことが起きると悟りこの地に参上した。見よ、伊藤老人は今にも殺されんとしていた」
鷹揚に演技をする自分の声にあったのは、悲しみの彩りであった、と思う。
だって、どんなヒーローでも届く腕の長さは決まっているんだから。
メダルで変身するいつかの明日を求めたライダーのことを思い、私は嘆息した。
「周到なのはショッカーだ。仮面ライダーが如何に天才と言えど、伸ばせる腕の長さには限度がある……今しばらく私が護衛しよう」
―――最初に変身したときよりもくぐもっていない声。
私はそう思って、膝をついた。
「……無事のようだな。伊藤老人」
「お、おっ、お前、お前はっ……!」
「安心しろ。私はショッカーの怪人ではない。もちろん、見てのとおりに人間でもないがな」
無理もないことだ。
彼は目の前で―――ショッカーの強制労働とは言えども苦楽をともにした仲間たちを恐ろしい方法で惨殺されたのだ。
この時期の怪人たちよりもある意味グロテスクな私の。
グランザイラスの姿は恐ろしかろう。
……かと言って正体を表すことは出来ない。
変身解除はなんとなく感覚でできそうなんだけども、再変身できるかなんかわからない。
どう考えても感情の昂りでプッツンいってここまで来たんだ、私は。
「……緑川ルリ子。老人を頼む」
そうして老人をルリ子へと預けた私は、周囲をレーダー……多分、レーダーで走査する。
――― 一つ大きな生体反応?らしきものが天井裏を去っていくのが感じられた。
(さそり男だな……)
私はそれをあえて追わなかった。
そして、二人に「ここは私が脱出させよう。空も白んできた」と外を見る。
今頃はルリ子さんの悲鳴を聞いた本郷猛が、ホテル内で大立ち回りしているはずである。
彼が来る前に脱出しなければ。
なんとか彼にはさそり男を追ってほしいのだが……
―――最悪、次のサラセニアンの回までさそり男が生き残って、いや、もっと最悪なのはそのままずっと生き残ることだろう。
「さぁ、こちらへ……?」
「ひっ」「ああっ……!?」
……うん。まあ、手間が省けて良いんだが、私の姿を見続けた二人はついに気絶してしまった。
「ごめんね、ルリ子さん」
私は普段の口調でそういうと、二人を抱えて窓に近づきそのままホテルの屋上にジャンプする。
下を見れば……
「伊藤さん!ルリ子さん!?」と本郷猛が叫ぶ声が聞こえた。
「本郷!本郷!ルリ子さんが車で連れ去られたぞ!!」
「ようし!」
そうして窓から頭を出した本郷さんが、ホテルの玄関から出てきた早瀬の言葉を聞いておっとり刀で飛び出していく。
「あの野郎。いけしゃあしゃあとルリ子さんがさらわれたことにしやがった」
ホテルの屋上でぐったりしているルリ子さんと伊藤老人を置き去りに、本郷猛はバイクで走り去っていく。
……後は、原作と少し違う形だが、決着がつくことだろう。
改造人間とされたものは、脳改造されたものは、もう救われない。
ピラザウルスやイソギンジャガーのような「よほどの幸運」がなければ。
「結局、ヒーローだろうが、怪人だろうが、何もかもを救うことなんか出来やしない。それでも、何もかもを救おうとしないと何もかも救われないんだから」
私は嘆息して、去っていく本郷猛と早瀬五郎を見送って。
「あ、ヤバイ」
二人を部屋に戻して、そんで護衛しないと。
しばらく変身が解けないと良いんだけど。
割った窓ガラスは……
本郷さん、立花さんが弁償することになるんだろうなあ……ごめんなさい!
私はそう心の中で謝って、二人を再び抱えると部屋に戻ったのであった。
―――そして。
「ここには緑川ルリ子はいないッ!おい、本郷!早瀬五郎は昔の名だ!今の俺はショッカーの幹部、さそり男だ!!」
本来の流れとは少し異なるものの。
「早瀬!目を覚ませ!親友・早瀬とは闘いたくないッ!」
「やれい!!」
ショッカーのアジトを脱出した本郷猛は―――
「ライダーシザーズ!」
仮面ライダーはさそり男を倒したのであった。
玻璃は―――さそり男が倒されたとほぼ同じ頃、ホテルの部屋で変身が解けて倒れてしまう。
目を覚ましたルリ子が玻璃を介抱している間に、本郷猛はホテルに戻り……
「ハリちゃん……どうしてここに?」
ルリ子が不思議そうに彼女をベッドに寝かしつけている中、本郷は部屋に戻ってきた。
ルリ子と気絶したままの伊藤老人がいることに彼は一瞬安堵する。
「ルリ子さん、伊藤さん!無事で良かった!」
「あっ猛さん!良かった!ハリちゃんが……」
「これはいったい……」
寝かされ、額に濡れ布巾を載せられて眠る玻璃を見て本郷が絶句する。
「東京から90km以上も離れたここに、なぜこの子が……?」
しかし、この場で答えが出ることでもなく―――
「詳しくは後で。今はチェックアウトしよう、ルリ子さん。ハリちゃんは君が。僕は伊藤さんを運ぶよ」
「わかったわ」
二人はそうして客室を出て受付へと向かった。
『―――1』
その時、どこからか数を数える声がどこからからした。
その声は―――
「……?」
本郷猛の優れた聴覚に残響を残し、風に紛れていく。
―――こうして一つの事件は終わりを告げた。
さそり男、早瀬五郎の本当の意志を知ることはもう永遠にできない。
それは一つの棘となって、本郷猛の心に残ることだろう。
猛は辛うじて命を拾った伊藤老人を背負いながら、在りし日を思うのであった。
―――転生者、桃山玻璃は最強怪人である!
彼女を転生させた存在は、きっと永遠に再び出会うことはないだろう。
桃山玻璃はこの仮面ライダーのいる世界で生きていくのだ。