昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~ 作:大回転スカイミサイル
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スナック・アミーゴ。
さそり男事件の翌日のことである。
どうやら伊藤老人は無事助かったらしく、病院へと運ばれていった。
しかし、やはり私のせいで……精神が相当に衰弱していたようで、随分と怯えた様子で救急車に乗せられていってしまった。
―――救急車の中身は本物である。
私の、私のこの血色の瞳はグランザイラスのものと同じになってしまったのであろうか、来た人々が普通の人間であることを完全に判明させていた。
内心で伊藤老人には悪いことをした、と思う。
だが……それでも彼は救われた。
事後の襲撃や暗殺についてはおそらく心配することはないだろう。
さそり男を倒されたショッカーはおそらくすべての証拠を、あの謎の島ごと爆破していることは想像に難くない。
一度失敗した作戦に関わった一般人が殺されることは殆どない―――それが石ノ森特撮のみならず『東映の理』とでも言うべきものだ。
一見おかしくは見えるがショッカーの指揮者―――後に大首領と呼ばれる存在が失敗した作戦と怪人に執着することはないだろう。
伊藤老人は救われた、と見て良いはずである。
このまま回復してくれれば良いんだけども……
私はそう思いながら、去っていく救急車を見つめて、直ぐに目を背けた。
「さて、これで良し、と。それじゃあ説明してもらうぞ、ハリちゃん」
―――目を背けた先には、お冠の立花藤兵衛が腕を組んで仁王立ちしていた。
うっ……
とはいえ、本当のことを言うわけにも行かない。
私は「わかんないです……」と言葉少なに答えることしか出来ないのだった。
「立花さん。やはり彼女はショッカー、もしくはあの謎の怪人に狙われている。この不思議なこともそうとしか思えない」
助け舟を出してきてくれたのは……
誰あろう、仮面ライダー・本郷猛その人であった。
ひぇーかっこいぃー……
思わず溢れる脳汁に口が反応してそう言いそうになったが、ぐっとこらえてその物憂げな本郷さんを私は見つめた。
「……はじめまして。僕は本郷猛。立花さんの下でオートレーサーをしてるんだ」
子供に向けるその優しい瞳に、私はこれは間違いなく本物の本郷猛だと確信して―――
「はい、桃山玻璃です!よろしくお願いします!結婚してください!!」
―――自然に口からそんな言葉が出た。
何故だ。
私はホモじゃない。
ホモじゃないんだ。
信じてくれガンダム。
信じてくれウルトラマン。
若い頃の藤岡さんというか、本郷猛がかっこよすぎて思わず口をついただけなんだ。
思わず脳内で仮面ライダー1号とともにダークブレインと戦った機動戦士と光の巨人に助けを求めた私に、本郷さんは優しく話しかけてくれた。
「ハハハ、可愛いことを言うね君は。でも、後10年は待つことだ」
……すんごく真面目にいなされたぁ!
「全くませたお嬢さんだ。心配したんだぞ。どうやって館山のほうまで行ったんだお前は」
立花さんが本当に心配そうな様子でそう聞いてくる。
私は一瞬湯だった頭を整理して回答を考えたが、とりあえず本当になんであそこまでどうやって行ったかは全くわからなかったので、もう一度「ほんとにわからないんです」と答えるしかなかった。
何しろ自分への怒りでいっぱいになった瞬間、意識がどっかに行って気がついたら館山シーサイドホテルの看板の前にいたんだから。
そのおかげで伊藤老人は救助できたんだから、自分としては万々歳なんだけども……
「立花さん、そのくらいでいいでしょう。この子は嘘をついていないように思う」
本郷さんはそう言って、私の頭をなでてくれた。
「本当に知っていることはないかい?」
ニコッと笑ってそう聞いてくる彼に罪悪感を覚えるが、流石に自分が最強怪人だなんて言えるはずもない。
……ただ、わかることは。
さそり男は自分を認識していて、その上で私に接触しないように立ち回っていた……と思えるということ。
つまり、自分はショッカーにすでに完全にバッチリ認識されていると見て良さそうなことであった。
「覚えているのは、気がついたら館山シーサイドホテルという看板の前にいたことと、ウロウロしていたらあのおじいさんとルリ子さんを見つけたこと、それからいつの間にか気を失っていたことだけです」
……完全に嘘はついていないが、一部をぼかした言い方でそう答えると本郷さんは難しい顔で私を見つめてくる。
「そうか……それと、君は『ショッカー』を知っているね?」
……真剣な目だ。
誠実に答えなければならないと思わせる眼だ。
私は。
「はい。ただ、過去の記憶のない私は、彼らとどのような関わりがあったのか、全くわかりません。そして彼らが改造人間を用いて世界制覇を企む悪の秘密結社であるということしか、私にもわかることはないんです」
……そう、そうなのだ。
ショッカーの構成はあくまでテレビ番組とそれに付随する設定資料や雑誌、漫画で知っているだけで、それがこの世界で正しいことなのかは全くわからない。
軽々に答えれば、仮面ライダーやその仲間たちを危険に晒す。
今の私に答えられるのはこれが精一杯であった。
「……私は、怖いです」
自分の体も、ショッカーとその後継組織たちのことも。
もしかしたらいるかもしれない、ショッカーに由来しない他の悪の組織や異星人、悪魔、超能力者、超電脳たちも……
「そうか、わかった。辛かったね」
本郷さんはそう言って、私の肩に優しく手をおいて「ここにいれば安心だ」と言ってくれた。
撫でる、手を置くと全く力を入れてないように思えたのは、彼なりの気遣いだろう。
……この頃の本郷猛はまだ自分の膂力を制御できていない。
―――次のエピソード、「人喰いサラセニアン」では、少年の手を思わず強く握ってしまい怪我をさせるところであった。
やっぱり優しい人なんだな。
だから、ショッカーなんてものを許せないんだろう。
……忘れて生きるということができない男。
抜け忍として逃げ続けることも選ばない勇者。
ただ、人々のために立ち向かうことを選ぶ戦士。
それはなんと眩しく見えることだろう。
「さ!それじゃあお前も戻ってきたことだし、ハリちゃんの歓迎会をしようじゃないか。もう店の予約はとっているからな」と立花さんが言い出した。
その瞬間に奥からルリ子さんも現れる。
「それじゃあ行きましょうか」
「はい!」
私はルリ子さんに手を取られて、アミーゴを出る。
前を歩く本郷さんの背中がとても大きく、しかし逆にとても小さく見えたことは、後々までよく覚えていることであった。