昭和石ノ森特撮世界転生~最強怪人を添えて~   作:大回転スカイミサイル

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第8話「仮面ライダー編その一 本郷猛という男」③

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ゴゴゴゴゴゴゴ―――!

 

地面が、唐突に揺れだした。

 

「うわっ」

 

私は椅子に座ったばかりで尻の位置を決めかねており、そのせいか揺れに耐えられずに思わず椅子ごと転びそうになる。

 

―――あっやべっ?!

 

このまま倒れたらこめかみを机の角で強打することになる!ヤバイッ!!

 

そう思ったときのことだった。

 

「おぉっと!」

 

ドアから入ってきた影が、私を抱きとめてくれた。

 

「危なかったね、ハリちゃん」

 

それは紛れもなく、本郷猛であった。

 

「あ、ありがとうございますぅ!!」

 

私は慌てて思いっきりそう言って、やはり内心で(違う、私はホモじゃない!)と叫ぶ羽目になった。

 

「大丈夫かい?」

 

落ち着いた私を椅子に座らせて、本郷さんはそう優しく聞いてくる。

 

「はい、もう全然」

 

私は努めて冷静にそう答えると、「地震、結構大きかったですね」と言って息を吐いた。

 

「うん……最近は多いな」

 

言葉少なにそういうと、「ところで立花さんは?」と確認してきた。

 

「多分、夜営業のための買い出しかなーと」と答える。

 

そうして、「そうか。入れ違いだったか」と言ってソファに座った本郷さんに私は。

 

「―――ショッカー絡みですか?」と小さな声で聞いた。

 

「ん……ああ、いやそう言うわけじゃないんだ。明日は晴れたらオートレースの訓練をする予定なんだよ」

 

優しくて太い声。

 

演じた俳優のイメージと、被りはするけど異なる印象。

 

本郷猛。

 

石ノ森萬画版では富豪の忘れ形見で、地下に研究所を持てるほどのお金持ちだが、TV版に近いと思われるこの世界の彼はおそらく違う。

 

ZXまでの仮面ライダーシリーズを企画、牽引した東映の平山亨プロデューサーの手による裏設定によれば―――

 

TV版の彼は、造船技師の父と音楽教師の母の間に生まれたが、父を高校生、母を大学生の頃に相次いで亡くし、途方に暮れていたところを立花さんに励まされてオートレースの道を選んだのだという。

 

それでいて劇中通りであれば城南大学生化学研究室の学生……年齢が22歳ということを考慮すれば、おそらくは大学院で優秀な成績を収めているのだという。

 

ショッカー首領によると「知能指数600、身体頑健」とのことだが―――まあそれはそれとしておこう。

 

ショッカーがはじき出した数値は、ショッカーの科学による計算方法なのだろうし。

 

そんな彼を、生化学の恩師である緑川博士はショッカーに推薦した。

 

―――多分、彼でなければショッカーと渡り合えないと思ったんだろう。

 

事実、小説版1971~1973世界の本郷猛は―――永久に唯一人の仮面ライダーとして戦い抜いたとされている。

 

でも、それは、残酷すぎやしませんか。

 

目の前で物憂げな瞳を床に向けている青年に、世界中に網を張る暗黒組織と戦う宿命を背負わせるなんて。

 

……不味い、めっちゃ話しづらい。

 

―――ら、ラジオでもつけよう。うん。

 

そうして私は、「ラジオつけてもいいですか?」と本郷さんに聞いた。

 

「ああ、いいよ」

 

本当に言葉少なだ。

 

旧1号編でも新1号編でもそんなにペラペラ喋る人って印象はなかったけど、全くそのとおりだ。

 

すごく、すごく真面目な人なんだなあと私は感嘆する。

 

そしてラジオのスイッチを入れる―――すると、先程の地震について流れていた。

 

『―――県、震度4。東京都は……』

 

うん、それなりに早い情報なのではないだろうか。

 

私の知る限り、緊急地震速報システムは90年代に入ってから実用化されたもので、今はまだほとんど地震予測や速報はできない時代だったはずだ。

 

それでこの速さなのだから、少し科学力は前世とは違うのかもしれない。

 

―――実際、トカゲロンが狙った東洋原子力研究所には原子力バリアー……劇中ではバーリアと呼称されていた防御システムが張り巡らされていた。

 

人間の何倍もの能力を持つ怪人の侵入を防ぐような電磁バーリアが1970年代初頭に存在するなど、自分が生きていた世界ではありえない。

 

だから、この早めの地震報道も同じように―――

 

そして私は思う。

 

『これは間違いなく次の事件の序章なのだ』と。

 

仮面ライダー第5話「怪人かまきり男」……これもまた本郷さんが過去との絆を打ち砕かれてしまう話だ。

 

ショッカーが本郷さんの幼馴染である地震学者の雨宮ちか子を拉致し、人工地震による日本壊滅を企むというエピソードだ。

 

最後に本郷さんは雨宮ちか子と会話することなく去っていった。

 

―――改造人間である自分の正体を知られたくなかった本郷さんは、再会することなく去っていったんだろう。

 

この、おそらくは前世の歴史にはない地震が起きているということは、ちか子さんはきっともうすぐ拉致されてしまうということ。

 

どうすればいいかはわからないが、ちか子さんを殺させるわけにも、本郷さんを催眠状態に陥った彼女に害させるわけにも行かない。

 

幸い―――明後日は日曜日である。

 

どうにか介入することは出来ないだろうか。

 

そんな事を考えていると―――

 

『マサチューセッツ工科大の光明寺博士が我が国に帰国して2年が……』ととんでもない言葉が聞こえた。

 

「むう……光明寺博士か」

 

本郷さんが思案するようにそう言って、私は思いっきり青ざめる。

 

「どうしたい?顔色が悪いぞ」

 

本郷さんはすぐにそれに気づいて、心配する声を掛けてくれた―――

 

「あ、あの……光明寺博士って……ラジオで言ってましたよね……」

 

「ああ、マサチューセッツ工科大卒でロボット工学の世界的な権威さ。日本に帰ってきてもう長いんだが、もしかしたらショッカーに狙われるかもしれない……」

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

ああああああああああああ!!

 

あーーーーーーーーー!!!!!

 

心のなかで私は絶叫する―――絶叫するしかないんだ!!

 

こ、この世界は―――昭和ライダー世界なんかじゃない……

 

最低でも―――スーパーヒーロー作戦かスーパーヒーロー烈伝あたりの世界ッ!!

 

最悪、石ノ森章太郎特撮世界―――否、ここに八手三郎が混じってきたらいくらなんでもどうしようもないッ!!

 

ま、待て……私を転生させたあの声はなんと言っていた?!

 

そう、たしかに「仕事仲間」と言っていたはずだ!

 

つまり、ここはあの推定八手三郎めいた何かが手の触れられない世界である可能性が高いッ!

 

最低でも石ノ森特撮だけと信じたいッ!

 

サイボーグ009とか混ざってきたらもうどうしようもないからぁァァァ!こんくるーじょんごっずうぉー!!!

 

ここまで3秒位で考えて、私は泣きそうな顔で本郷さんを見る。

 

「本当に大丈夫かい?!もしかして、記憶を……」

 

「い、いえそうじゃないんですけども!ただちょっと嫌な予感がしただけでして!」

 

嫌な予感なんてものではない。

 

私がここまで取り乱してしまったのは―――東映と石ノ森章太郎が送り出した特撮ヒーロー第3弾である人造人間キカイダーの主要人物がこの世界にいるとほぼ確定してしまったからなのだ。

 

人造人間キカイダー……1972年7月8日―――現在から約1年後からNETテレビ系列で放映されるはずの特撮ヒーロー番組である。

 

左右非対称の姿を持ち、「機械の心」として不完全な良心回路を装着された人造人間のジロー・キカイダーが、悪の科学者プロフェッサー・ギルと秘密組織ダークより生みの親である光明寺博士を救い出す物語である。

 

特撮版の終盤、石ノ森萬画版のラストは本当に語り継がれるべき素晴らしいストーリーとなっている名作だが、しかし……自分が関わるとなれば、これほど憂鬱なこともない。

 

光明寺博士はまだダークに拉致されてはいないようだから、今のうちに助けられればキカイダーが誕生することはないかもしれないし、ダークも仮面ライダーや他のヒーローが倒すかもしれない……

 

……問題はそんな事をした時、ダークがどんなことをするか、続編のキカイダー01に登場する世界大犯罪組織シャドウが何をするか。

 

全くの未知数であり、今は半分子供でしかない自分にそんな責任は負いきれない……!

 

何より、キカイダーは後年のジャッカー電撃隊VSゴレンジャーにおいては、モンゴルで国際犯罪組織クライムの拳闘士軍団を追い詰めたりしている。

 

仮面ライダーと同じく世界の平和を守るため、ずっと戦っていたのだろうと思えば―――軽々には動けない。

 

こ、これがずっと続くのか……

 

私は心配してくれている本郷さんに弱々しい顔を向けることしかできない。

 

私は―――無力な子供とそんなに変わらないんだと思い知らされる。

 

「……自分ではどうしようもないことがあるんだね、ハリちゃん」

 

そんな情けない顔をしている自分に、本郷さんは優しく声を掛けてくれた。

 

まるで、何もかも見透かされているようで……

 

だから、私は一言だけ「……もし幼馴染の方で気になる人がいたなら、どうか、助けに行ってあげてください」と。

 

それだけしか言うことは出来なかった。

 

「幼馴染……ふむ……」

 

本郷さんはその言葉を聞くと、顎に手を当てて思案しだす。

 

お願いだから、気づいてくれ……!今すぐ行けば間に合うかもしれないんだぁ……!

 

そして、もし能動的に仮面ライダーが動いていれば……ああいう心残りのある終わりにはならなかったはずなのだ。

 

しかし、私にはそれ以上言うことは出来なかった。

 

果たして、流れを変えた結果―――ちか子さんが死ぬかもしれないと考えたからだ。

 

堂々巡りである。

 

「……よし、わかった。僕の幼馴染に、地震学者の雨宮ちか子という人がいるんだ。すぐに連絡を取ってみることにしよう」

 

本郷さんはすぐさま立ち上がると、店の電話を用いて何処かへ―――おそらくはちか子さんの連絡先へ電話を掛けた。

 

そして―――1分ほど。

 

「……出ないな。まだ業務中の時間のはずだ」

 

時間はまだ16時半。

 

今日は5時間目まであったが、まだクラブ活動もない学年なので下校時間も14時半である。

 

そんな私のような子供はともかく大人はまだ仕事をしている時間で、何より中央地震研究所なる推定国立の研究機関が電話に出ないというのはなかなかおかしい……と思う。

 

本郷さんは当然その事実に私より数瞬早く気づいたのか、顔色を変えて外へ出ていこうとした。

 

「ハリちゃん。立花さんが帰ってきたら、事情を伝えてくれ。僕はちかこさんのところへ行ったとね」

 

彼はそう答えておっとり刀で出ていく。

 

―――頼む……間に合ってくれ……!

 

私は祈るような思いで出ていく本郷さんを見送り、そして―――

 




弾には深夜0時。
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