アラストールと贄殿遮那は没収中です
君の横にいる親友はラスボス
坂井悠二とメロンは蘇生される。
そして平井ゆかりの自宅で、仲良く苦しんでいた。死亡時の負傷は治るものの、しばらく幻痛として残るからだ。坂井悠二は片腕の火傷を負った上、全身をコンクリ―トに潰されて骨折していた。メロンは胴体を蹴られて肺に骨の刺さった上、全身を切断されて内臓も零れた。どっちがマシかと聞かれたら、どっちも嫌だろう。
「なによ、これ! 死ぬほど痛いじゃない!」
「死んでるんだから当然だろ! いった―!?」
わちゃわちゃしている
遅れて平井ゆかりも帰宅した。
またしても坂井悠二は平井家へ泊まり、朝になると電話を借りる。フリアグネと戦闘になった際、囚われていた友人の存在も忘れていなかった。佐藤啓作と田中栄太もフレイムヘイズと関わっているらしい。そのフレイムヘイズは、もう1体の敵を追っているという"弔詞の詠み手"マ―ジョリ―・ド―だ。
「佐藤? 坂井だよ。昨夜は大丈夫だった?」
『はあ!? 坂井!? マジか!? 生きてるのか!?』
「うん。昨日は、ありがとう。あそこに佐藤と田中が居てくれて助かったよ」
『いや、ありがとうじゃね―よ! どういう事だ! 話を聞かせろ!』
「そうだね。じゃあ、学校の終わった後で」
『休め! 俺らも休むから、俺の家に来い!』
「え―、最近は欠席が多かったからな―」
『そうか――最近おまえが休んでたのは、フレイムヘイズ関係だったのか!』
「こっちもフレイムヘイズと会って、色々とあったから」
『とにかく事情を聞かせろ! 気になって学校になんて行けるか!』
「う―ん。じゃあ、こっちの仲間と相談してみるよ。また連絡するから」
通話を切った。
ついつい口から滑り出てしまった仲間という言葉に、坂井悠二は驚く。平井ゆかりは仲間と言えるだろう。しかしフレイムヘイズのメロンは仲間なのか。仲間と言えるほど、坂井悠二は並び立っているのか。メロンのように坂井悠二は戦えるはずもない。だから仲間という言葉に引っ掛かってしまった。
「もちろん、あたしも行っくよ―!」
「私は行かない。フレイムヘイズはライバルみたいなものだから、関わらない方がいいのよ」
「でも、メロン。今はフレイムヘイズじゃないよね?」
メロンは人に戻っている。
蘇生された時、フレイムヘイズという状態異常を解除されてしまった。せっかく契約した紅世の王も、もはや声は聞こえなくなっている。ただし、平井ゆかりと同じようにト―チを見ることは出来た。存在の力を感じ取る感覚も失われていない。メロンは最低限の自在法も扱えるので、封絶に取り込まれて停止する心配はないだろう。
「まあ、ユカリの家で留守番するのは時間の無駄ね。ミステスの護衛として行ってあげる」
「ああ、僕のことか。蘇生されてト―チじゃなくなったから、すっかり忘れてた。そう言えば僕の中にある宝具って結局、何なのかな?」
そこでメロンは少し黙った。
「そうね。おまえの存在の力、昨日の夜よりも増えてた。およそ2倍ってところ」
「2倍!? でも存在の力って増えるんだっけ?」
「こんなに短時間で2倍も増えるなんて聞いた事ないわ」
「それは宝具の効果かも知れないってこと?」
「どういう宝具か分からないけど、紅世の徒に知られたら奪い合いになるでしょうね」
「そんなに? じゃあ、知られないように気を付けるよ」
メロン一行は合流し、佐藤啓作の家へ向かう。
道中の空に浮かんでいるのは歯車だ。回転する無数の歯車が、都市の上空に浮かんでいる。その一見すれば分かる異様な光景に、人々は気付くこともなく生活している。それを見上げることもなく、驚くこともない。それは不可視なのではなく、そもそも認識できなかった。存在の力によって編まれた、群青色の自在式だ。それは空から街を監視している。
佐藤啓作の邸宅に到着した。
西洋風の広い家で、ここに佐藤啓作は独りで住んでいる。今はフレイムヘイズであるマ―ジョリ―の仮宿で、田中栄太も昨日から泊まっていた。同級生である佐藤啓作と田中栄太は、坂井悠二を見ると駆け寄る。そして坂井悠二の両頬を摘まんで、ムニムニと引っ張り始めた。
「え? なに? なに?」
「おまえな―、どんだけ心配したと思ってるんだよ! 生きてたんなら、すぐに電話しろ!」
「ごめん。夜に電話するのも悪いかなって」
「佐藤の言う通りだぞ。それにしても本当に生きてる。良かったな、坂井!」
佐藤啓作と田中栄太は両脇を確保し、坂井悠二を連行していった。
「そっちの2人も上がってくれ」
「おじゃましま―す!」
メロンと平井ゆかりは、その後を追ってゲストル―ムへ向かう。
「それで坂井。おまえ達は、どういう経緯なんだ?」
情報交換を行った。
平井ゆかりの蘇生、保険屋について、メロンの保護、マ―ジョリ―と遭遇、フリアグネと決戦、トリガ―ハッピ―や火徐けの指輪。ただし、メロンは最初からフレイムヘイズと説明した。炎髪灼眼でなくなった話は、メロンにとって重大な話だ。それを軽々しく話すことは出来ない。
「その保険屋って奴、俺らに紹介できるか?」
「うん、いいよ。あの喫茶店に行けば会えると思う」
「そうと決まったら、すぐに行こう。今なら俺らも手は空いてる」
「そう言えばマ―ジョリ―さん見ないね。出かけてるの?」
「ああ、フリアグネの燐子って奴が、マ―ジョリ―さんの網に引っ掛かりまくってるんだ」
「それで姐さんブチ切れて、屍拾いの捜索に邪魔だから掃除しに行くって」
紅世の徒によって、燐子は製造される。
この燐子は存在の力を自力で補給できない。たとえ人を喰ったとしても、まず主人の下へ持ち帰り、力を分け与えてもらう必要があった。だからフリアグネの討滅された今、その燐子は滅びを待つ身だ。その中には吸収できないと分かっていながら、人を喰らって生き延びようと必死になる者もいた。
平日の午前中、全員でゾロゾロと喫茶店へ向かう。
しかし、そこに保険屋はいなかった。死ねば呼び出せるかも知れないけれど、そんな事をしたらメロンに叱られるだろう。命をチャイム代わりにしてはいけない。なので喫茶店のマスタ―に伝言を頼み、とりあえず解散となった。学校に通っていないメロンは家へ戻り、坂井悠二と平井ゆかりは学校へ向かう。佐藤啓作と田中栄太は、マ―ジョリ―を待つため邸宅へ戻っていった。
坂井悠二と平井ゆかりは登校する。
朝ならば途中で別れると、他の生徒に紛れる事もできた。しかし授業中となると、一緒に登校した事は分かってしまう。それに2人は最近、欠席も多い。登校するまでの間、坂井悠二と平井ゆかりは何をしていたのか。それにショックを受けたのは平井ゆかりの親友で、坂井悠二に片思いをしている吉田一美だった。
「ゆかりちゃん最近、坂井くんと仲いいよね?」
吉田一美の記憶から失われた、いつかのように問いかける。
いつかと違う点は、もう偽れないという事だった。
「うん! あたし、坂井くんと親友になったの!」
「しん……ゆう……?」
――恋人の間違いかな?
「そうだよね! ゆうちゃん!」
「ゆう……ちゃん……!?」
平井ゆかりは坂井悠二に、そう呼びかける。
そして隠す必要のなくなった坂井悠二も、それに応えた。
「うん、ゆかりちゃん」
「ゆかり……ちゃん……!?」
――恋人かな!?
「親友って……何だっけ?」
「やだな―、あたしと一美も親友でしょ!」
「そうだね……親友だったね」
――親友とは?
吉田一美の脳は、耐えられなかった。
もはや平井ゆかりの言葉を、無心で肯定するしかない。そんな吉田一美を見ていられなくなったのは池速人だった。池速人の親友である坂井悠二に、吉田一美が片思いしている事を察している。なぜならば今日の朝、吉田一美は美術展のチケットを持って、坂井悠二を探していたのだから――それなのに、この非情な末路である。池速人は立ち上がった。
「良かったじゃないか、吉田さん。それなら例のチケット、坂井を誘ってみたら?」
「え?」
何一つ、良くはない。
「誰かにドタキャンされて、一緒に行く人を探してるんだろ?」
誰かの"恋人"を誘うのならば問題はある。
誰かの"親友"を誘うのならば問題はない。
しかし、それは喧嘩を売るに等しいものだ。
本人に親友と主張されても、実際は恋人としか思えない。それは平井ゆかりの恋人へ手を付ける事と変わらなかった。親友である平井ゆかりへ、吉田一美は勝負の開始を宣言しなければならない。これまでの関係を破壊するもので、それを軽々しく口に出すことは出来なかった。
「僕は放課後に塾があるからな。坂井、時間をもらえないか?」
「ごめんなさい! いいの、池くん――坂井くんも、いいから」
日常を壊すことは、吉田一美にできなかった。
そこで平井ゆかりは訂正する。
「親友だからって、他の友達と遊ぶことまで縛りはしないよ? ね―、ゆうちゃん」
「うん。ゆかりちゃんと一緒に、佐藤の家へ寄って来たから今日は遅れたんだ。佐藤と田中は家の用事で、学校まで来なかったけど」
その時、吉田一美の脳に走ったのは電流だった。
佐藤啓作の家で早朝から、体を打ち合う4人の男女。肉体の交わる、そんな姿を妄想してしまう。つまり平井ゆかりは坂井悠二だけではなく、佐藤啓作や田中栄太と肉体関係を持っているのかも知れない。たしかに、それは恋人ではない。それならば坂井悠二を取っても、良いのかも知れない。
しかし、吉田一美の意識は遠くなった。
坂井悠二と平井ゆかりの交わる姿を想像してしまった。その直視できない光景は、脳に焼き付いて消えない。考えると気持ち悪くなって、喉から何か出そうになってしまう。そうであって欲しくない。だから坂井悠二と交わる平井ゆかりの顔を、吉田一美は自分の顔と入れ換えた。坂井悠二と交わるのは、この吉田一美だ!
「坂井くん――私と付き合ってもらえませんか?」
吉田一美は心の拳を、平井ゆかりへ向ける。
「うん、美術展だね。いいよ」
そういう意味じゃない!
第12話 君の横にいる親友はラスボス
ちなみに零時迷子の機能は原作通りです。
PALUSさんの感想を受けて、文章を改造しました。
「佐藤啓作の家で堕落し、絡み合う4人」
→「家で早朝から、体を打ち合う4人の男女。肉体の交わる、そんな姿」