異世界から帰ってもファンタジ―   作:器物転生

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空色に染まる紅蓮の炎

メロン一行は美術展を訪れていた。

しかし、そこに屍拾いラミ―の姿はない。そもそもラミ―は前夜、坂井悠二の密告によってマ―ジョリ―に襲撃された。すでに屍拾いは逃走し、ここに戻って来ることはない。街中へ広がる群青色の歯車は、獲物を追い詰めるように増していく。そして、これまでと違う感覚をメロン一行は覚えた。

 

「これは封絶!?」

「あっちよ!」

 

張られた封絶を目印に向かう。

陽炎のド―ムに覆われていたのは人も多く、高層ビルの並ぶ商業区だ。しかし巨大な封絶に飲み込まれ、いくつも並んでいた高層ビルは姿を隠している。封絶の内部は隔絶されているため、外側から様子を探ることはできない。ここまで距離もあって、すでに封絶の展開から時間が経っていた。

 

「これを持っていれば、ユカリも封絶の中で動けるはずよ」

「ありがとう、メロンちゃん」

 

坂井悠二は素のまま、封絶の内部で動ける。

これは時間に干渉する宝具を内包しているからだ。それに対してメロンと平井ゆかりは、封絶に対する防御の自在式を備える。基本的な自在法しか修得していなかったメロンの力作だった。これによって平井ゆかりも封絶の内部で動けるようになる。しかし、それはマ―ジョリ―の自在式に比べると見るからに粗かった。

 

「あいつの自在式を真似てみたの。あくまでも封絶という自在法に対する耐性だから、防御は期待しないで」

「うん、とっても助かるよ」

 

平井ゆかりは嬉しそうだ。

しかし坂井悠二は不安そうだった。

 

「なによ、なにか不満でもあるの?」

「ゆかりちゃんはフレイムヘイズじゃないから、無理に戦う必要はないんじゃないかな?」

 

「私から見れば、おまえだって似たようなものよ」

「僕はミステスだろ?」

 

「前も言ったでしょ。フレイムヘイズとして戦えるから、フレイムヘイズじゃないの。フレイムヘイズとして在ろうとするから、私はフレイムヘイズなの。ゆかりだって同じよ」

「そうだよ。あたしはメロンちゃんや、ゆうちゃんと一緒に行きたい。もう置いて行かれるのは嫌だから!」

 

「そっか――うん、ごめん。一緒に居るって約束したからね」

 

メロン一行は封絶へ突入する。

空中を舞っているのは群青色の火の粉だ。見上げる高層ビルの内側で起こった爆発は、窓ガラスを吹き飛ばす。砕け散ったガラスは無数の破片となって、地上へ飛び散った。メロン一行はガラスの破片を回避しつつ、高層ビルへ侵入する。床に開いた穴を避けつつ、上を目指して非常階段を登った。

 

「もっと急がないと追い付けないわよ!」

「分かってる!」

 

先を行くメロンの背中を必死で追う。

爆発音はビルを揺らし、近付くに連れて大きくなった。やがてメロン一行は業務用の通路を経由して、高層ビルの屋上へ出る。するとビルの床面に開いた大穴と群青色の獣、それと老いた紳士の姿を借りた屍拾いの姿があった。すでに屋上のヘリポ―トと、その土台は残骸となって崩れ落ちている。

 

「屍拾いラミ―! ごめんなさい! あなたのことを僕は、マ―ジョリ―さんに教えてしまった!」

「そうだろうと思っていた。なに、気にする必要はないとも。君は人間で、私は紅世の徒だ」

 

「僕は気にしている。だから、あなたと交わした約束を果たしたい」

「たしかに約束は破っていないな。"弔詞の詠み手"に私の存在を知らせない事は、約束に入っていなかった」

 

「僕は、あなたを助けたい」

「勝手なものだ」

 

屍拾いラミ―は、顔を背ける。

 

「――あんた達。徒の味方をしようって言うの?」

『やっちまえよ! 我が麗しのゴブレット、マ―ジョリ―・ド―!』

 

群青色の獣は、牙を立てて唸る。

それは蹂躙の爪牙マルコシアスの契約者に与えられる炎の衣だ。マ―ジョリ―は獣の皮を被り、その姿は見えなくなっている。マ―ジョリ―を表すものは唯一、殺意に満ちた声だった。メロン一行は手を互いの手を繋ぎ、壁を作るようにラミ―の前へ立つ。しかし、あまりにも無力な人間だった。

 

「マ―ジョリ―さんにとって、ラミ―は討滅するべき紅世の徒なんでしょう。でも僕にとっては、そうじゃないんです」

「なによ。私が間違ってるって言いたいわけ?」

 

「いいえ、邪魔をして、ごめんなさい。これは世界を守る戦いでも、悪を打倒する戦いでもありません。これは僕がラミ―を助けたいと、そう思って始めた戦いです」

「私は付き添いね。こいつ、すぐ死ぬから」

「私は親友だから、ゆうちゃんを手伝います!」

 

群青色の獣は、溜めた息を吐いた。

 

「まあ、いいわ。あんた達の事情は聞いてるから――まとめてブッ殺してあげる!」

 

群青色の炎が押し寄せる。

それを前にメロンは、炎弾の自在法を編んだ。それは封絶と同じように多用され、だからこそ構成する自在式も洗練されている自在法だ。ほぼ誰でも使える自在法と言える。坂井悠二と繋いだ手から存在の力を引き出し、巨大な炎弾を生み出す。それは勢いよく飛び出して――と思ったら、ポロリと床面に落ちた。

 

「あっ」

 

「ちょっとメロン!?」

「メロンちゃん!?」

 

封絶から身を守る防御の自在法だって、あらかじめ数時間もかけて構成しておいたものだ。

そもそもメロンは自在法に向いていない。

 

「ああ、もう! 自在法なんて、使うもんじゃないわね!」

 

それをメロンは蹴り飛ばす。

炎弾と言うか、炎弾と呼べない物体で、つまり巨大なボ―ルだった。それは青白い炎となって、群青色の炎と激突する。それでも相殺する事は叶わず、威力の軽減に留まった。メロン一行は吹き飛ばされ、屋上を転がる。なんとか屋上から落下する事は防いだものの、近くにあった屋上の出入口は潰されていた。

 

「おかしいわね――下手に触ったら爆発するはずなのに」

「そんなものを僕らの、すぐ側で蹴ったのか!?」

 

「うるさいわね。素手で殴りかかるよりはマシだったでしょ?」

 

話している間もない。

いくつもの姿に増えた群青色の獣が、屋上を取り囲んだ。

 

「狐の嫁入り天気雨、はっ!」『この3秒で御陀仏よっと!』

 

分身は実体を持ち、その全てから炎は吐き出される。

平井ゆかりは動けず、坂井悠二はラミ―を庇った。

 

そしてメロンは、

 

――これは世界を守る戦いではない

――これは悪を打倒する戦いではない

 

フレイムヘイズの使命と関係ない。

人喰いによって発生する歪みを防ぐために、紅世の王は人と契約する。王にとって小さな、人という器で休眠する。そもそも人喰いを行う紅世の徒も、紅世の王にとって同胞だ。歪みを防ぐという大義が無ければ、わざわざ同胞を殺して回るような殺人鬼と成り果てることは無かった。

 

人は討滅の道具だ。

死ぬまで王のために戦い、それを辞めれば契約を解除されて死ぬ。人の世を守るために、紅世の王は力を貸しているのではない。それでもメロンに力を貸す紅世の王が居るとすれば、それは変わり者だろう。世界のために戦わずとも許し、悪を打倒せずとも見逃す。それは全体の正義から解脱した、中正の王しかいない。

 

『ならば喚べ、俺の名を――』

 

――觜距の鎧仗カイム!

 

高層ビルの屋上は、群青色に染まった。

その中から空色の輝きは飛び出し、ビルの壁面に沿って落ちていく。その片手に坂井悠二とラミ―、もう片手に平井ゆかりを掴んでいた。全身を覆っている空色は、觜距の鎧仗カイムの契約者に与えられる力の衣だ。ただしマ―ジョリ―と違って、獣の皮を被るような形ではない。

 

それは王の再召喚だ。

フレイムヘイズは契約を終了すれば死に至るものだ。だから2回目は起こり得ない。契約によって生まれた繋がりも、契約の解除による死で失われる。しかしメロンは死んでも生き返り、その繋がりを保持していた。これにより繋がりを辿り、特定の王を召喚できる。それをラミ―は見抜き、そして驚いた。

 

「まさか再召喚とはな。これが自在法であれば、棺の織手に並ぶ絶技と言える」

「あいにくだけど、自在法は期待しないで! 見ての通り、飛べないのよ!」

 

メロンは飛行できない。

地面を蹴った反動で跳ぶことと、風に乗ることは違った。空色の衣は身を包むもので、翼のように伸ばすことは出来ない。それなのに遠くなりつつある高層ビルの屋上から、群青色の獣は飛び込んできた。群青色の炎弾は、そこから雨のように降ってくる。落ちるよりも速く、メロン一行に迫っていた。ついでに壁面のガラスも粉砕され、炎弾を追うように砕け散っていく。

 

「メロン、飛んで!」

「メロンちゃん、がんばって!」

 

坂井悠二と平井ゆかりは応援するしかない。

 

「無茶な注文ね! ああ、もう! 飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

やり方も分からず、メロンは絶叫する。

それでも空色の衣は落ち続けた。

 

『そうじゃねぇよ、未熟者! 自分に願って、どうする! この空を飛ぶのは、おまえだ! その翼は荒れ狂う風を裂き、その爪は獲物を引き千切る! この俺と契約を交わしたフレイムヘイズ、"空裏の裂き手"だ!』

 

それは身の内より流れ出る。

自身の外側にある力を操作するのではなく、自身を外側へ拡張して力を振るう。カイムから与えられたイメ―ジは、メロンに進むべき道を指し示した。これまでフレイムヘイズとして定まっていなかった形は、急速に確かなイメ―ジとなって定着する。それは炎髪灼眼として培われた、これまでのメロンを塗り潰していった。

 

「そうか! 私が! "空裏の裂き手"!!」

 

空色の衣は、大きな翼を成す。

メロンは体の一部として、それを自在に扱えた。

 

『やれば出来るじゃねぇか――その自在法の名はサックコ―ト、"空裏の裂き手"である証だ』

 

 

第16話 空色に染まる紅蓮の炎

 

 

バットが落下して、真っ二つになった。

それは平井ゆかりの持参した木製のバットだ。それに遅れて群青色の炎も激突し、さらに高層ビルから落下したガラスやコンクリ―トの破片も降りかかる。その衝撃で折れたバットは道路の上を跳ね回り、原型も分からないほど砕け散った。群青色の炎に焼かれて、黒い煙を噴き出している。

 

メロンは飛翔している。

高層ビルの周囲を旋回し、群青色の獣を振り切った。坂井悠二と平井ゆかりは千切れそうなほど引っ張られる手へ、振り落とされないよう必死に力を込める。そうして地上へ着陸すると、メロンは両手に持っていた荷物を降ろした。建物の影に隠れ、メロン一行は相談する。

 

「すぐに見つかるでしょうね。だから、ユ―ジとユカリはラミ―を避難させて」

「分かった。マ―ジョリ―さんの足止めは頼むよ」

 

「それと、存在の力をもらって行くわ」

 

坂井悠二の胸部に、メロンは手を当てる。

その補充された力の量で、坂井悠二は理解した。

 

「やっぱり僕も行くよ。存在の力、かなり減ったんだろ?」

「もう補充したから十分よ」

 

「マ―ジョリ―さんを撃退しないと、またラミ―は追われる」

「私だけじゃ、あいつを倒せないって言いたいの?」

 

「僕とメロンの力を合わせて、全力で行こう」

 

メロンと坂井悠二は、至近距離で見合う。

そしてメロンは、そのまま頭突きを坂井悠二に食らわせた。

 

「いったあ!?」

「言い争ってる時間はないの! 付いて来たら殺すから!」

 

そう言ってメロンは飛び出す。

 

「ゆかりちゃん、あとは頼むよ! ラミ―を封絶の外まで連れて行って!」

「ちょっと、ゆうちゃん! それはズルいでしょ―!」

 

坂井悠二は慌てて、メロンを追いかけていった。

 

「苦労しているようだね」

「本当、いっつもいっつも、あたしを置いて行くんです!」

 

プンプンと怒りながら、ラミ―に労ってもらう。

仕方なく平井ゆかりはラミ―を連れて、封絶の外へ走った。

 

 




間違い探しコーナー 提供:kuzuchiさん
素手で殴るかかるよりはマシだったでしょ?→素手で殴りかかるよりはマシだったでしょ?
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