異世界から帰ってもファンタジ―   作:器物転生

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シャナはメロンと自称しています
アラストールと贄殿遮那は没収中です


愛染の兄妹
安らかな揺りかごの園


高層ビルは横に倒れたままだ。

御崎市で起こった災害は、日本のみならず世界で報道される事件となった。原因は化学物質の爆発と推定され、原因の調査も進められている。御崎市による復旧事業の指定を受け、周辺地域は封鎖された。しかしマ―ジョリ―の死による欠落の影響で、群青色の魔獣について記憶している者は存在しない。

 

堤防の河原に平井ゆかりの姿はあった。

平井ゆかりの鍛練に、メロンも付き合っている。体操服のジャ―ジを着た平井ゆかりは、メロンの長い棒で打たれていた。これは殺気を感じる鍛練で、なかなか上手く行かない。容赦なく棒で叩かれ、体は痛かった。それでも平井ゆかりは諦めることなく、殺気を感じ取るために集中する。

 

「うん、ユ―ジよりはマシね。あいつ何度やっても棒立ちなのよ」

「あはは。ゆうちゃん、ノ―ガ―ドな所もあるからね」

 

坂井悠二は殺気を感じ取れない。

と言うよりも、死に対して鈍くなっていた。それは感覚の鈍化となって現れ、殺気に対して無防備となっている。あれでは自分から死にに行くようなものだ。もしも坂井悠二と平井ゆかりを戦わせたら、平井ゆかりの勝利で終わってしまう。その坂井悠二は鍛練に参加していなかった。

 

『人に言えた事か? 俺から見れば、おまえも変わらねぇよ』

「そうね、気を付けるわ」

 

『狭間を渡るのだって楽じゃねぇ。いつでも再召喚に応じるなんて考えるなよ』

 

それは不敵な声だった。

メロンの胸に付いている、ワシを象ったバッジから聞こえる。メロンの死によって、またしても召喚された觜距の鎧仗カイムだ。再召喚できる事は分かっていたので、蘇生後にフレイムヘイズの契約を行っている。しかし戦場へ駆け付けてみれば、マ―ジョリ―の暴走は終わった後だった。

 

「2人とも頑張ってるな」

「よお、平井。メロン」

 

田中栄太と佐藤啓作だ。

この2人もメロンの鍛練に参加している。もっとも最優先はメロンの鍛練で、次に平井ゆかり、最後に田中栄太と佐藤啓作だ。カイムと契約して間もなく、メロンは自在法の練度を上げる必要もある。と言っても、メロンは学校へ通っていないので時間に余裕はあった。

 

「坂井はバイトか?」

「今日はメイド喫茶ね」

 

坂井悠二は学校へ行かずに働いている。

母親の存在を喰われ、父親は海外で仕事中だ。預金通帳や健康保険証の再発行は行えたものの、現在の坂井悠二は保護者不在の状態と言える。そこで児童相談所が、一時的に坂井悠二の後見人となっていた。高校も退学ではなく休学で、夜間学校への切り替えも検討されている。

 

夜になって坂井悠二は帰宅した。

そこから少しだけ、メロンと夜の鍛練を行う。もはや殺気を感じ取る鍛練は無駄と切り捨て、存在の力を理解する鍛練へ移っていた。これまではメロンによって吸い上げられていた力を、坂井悠二の意思によってメロンへ送る。こちらは順調で、メロンも自己鍛練で消費した力を補充していた。こうして鍛練で減った存在の力も、零時になれば宝具によって回復すると判明している。

 

「残念だったわね。ラミ―の遺失物を復元する自在法について聞けなくて」

「良いんだよ。僕のためじゃなくて、ラミ―のために助けたんだから」

 

田中栄太と佐藤啓作を残して、ラミ―は立ち去った。

だから母親を取り戻す方法は、また無くなってしまった。

 

「お金、困ってるんでしょ? 私と稼ぎに行く?」

「稼ぎって――メロンって働いてたのか!?」

 

「失礼な奴ね。今までは下調べしてたのよ」

「下調べの必要な仕事?」

 

「そう、お金を持ってそうな所を見つけたわ」

「あの、メロン。まさか犯罪じゃないよね?」

 

「犯罪組織から資金を奪い取るだけよ」

「やっぱりダメじゃないか!?」

 

「なによ、文句でもあるの?」

「それはフレイムヘイズでは普通なのか?」

 

「アラスト―ルが教えてくれたわ」

「じゃあカイムは? フレイムヘイズって、そうなの?」

 

『俺が契約していた100年前だって、そんな野蛮じゃねぇぞ。今も外界宿って組織があるはずだ』

「そのくらい知ってるわよ。でも大金となると自分で稼ぐしかないじゃない」

 

「いいや、それはダメだ」

「相手は犯罪組織なのよ?」

 

「そういうのは警察の仕事で、フレイムヘイズの仕事じゃないよ」

「保険屋みたいなこと言うのね」

 

そう言われると坂井悠二は、苦い表情を浮かべる。

保険屋に似るのは、すごく嫌だった。

 

「昔の犯罪者は、人じゃない扱いだったのかも知れない。でも今は、そういう時代じゃないよ」

「そうかしら? 罪人の扱いなんて、今も昔も変わらないように見えるわ」

 

「私刑はダメなんだよ。たとえ子供に罰を与えるためであってもね。人を裁くのは法であって、人は人を裁けないから」

 

それは池速人から聞いた言葉だ。

しかし坂井悠二のための言葉であって、メロンのための言葉ではない。

 

「じゃあ、犯罪者はどうするのよ。野放しってこと?」

「だから法の授権を受けた警察が拘束して、裁判所で裁くんだ。法の授権を受けていない僕らは人を裁けない」

 

そうやって理屈を並べてしまう。

するとメロンは爆発した。

 

「うるさい! うるさい! うるさい! 私はフレイムヘイズ! 人の法なんて関係ない!」

 

メロンの怒った理由が、坂井悠二は分からない。

突然に怒り出したとしか思えなかった。夜の鍛練は中止され、メロンは外へ飛び出してしまう。玄関の扉を乱暴に開けて、夜の闇へ消えてしまった。それを見送ってしまった坂井悠二は、どうすれば良いのか分からない。そもそも、なぜ怒ったのかも分からなかった。そんな坂井悠二の側に寄って、平井ゆかりは理由を教える。

 

「メロンちゃん。ゆうちゃんのために、お金を稼いであげたかったんだよ」

「そっか。メロンの気持ちを考えないで、色々と言っちゃったんだ」

 

言っていた事は何であれ、メロンは坂井悠二のために考えていた。

ダメだからと言って否定せず、もっと話を聞くべきだった。

 

「メロンを探しに行ってくるよ」

「うん、行ってらっしゃい」

 

坂井悠二はマンションの外を見る。

そんなに遠くへ行っておらず、マンションの近くに居るはずだ。とりあえず部屋に戻って、ベランダを覗いたものの居なかった。坂井悠二は集中して、フレイムヘイズの気配を感じ取る。そうして気配を追った先にあったのは、メロンパンの屋台だった。メロンパンを買いに寄った仕事帰りの会社員に混じって、そこにメロンは座っている。一心不乱でメロンパンをカリカリモフモフしていた。

 

「ごめん、メロン。僕のために考えてくれて、ありがとう」

「知らないわよ。あれは私の資金調達で、ついでに誘っただけ!」

 

おいしいメロンパンのおかげで、メロンの機嫌は良かった。

坂井悠二もメロンパンを買って、メロンの隣に座る。

 

「アラスト―ルの事だけど、カイムみたいに前の契約者がいた?」

「初代炎髪灼眼ね。アラスト―ルから毎晩、昔話を聞いてた」

 

「それって何年くらい前なのかな?」

「たぶん16世紀くらいかしら?」

 

「え? メロンって何代目なの?」

「何代目だったか、で良いわよ。もう気にしてないんだから」

 

そう言ってメロンは、胸元の神器を触った。

そこにあるのはペンダントではなく、ワシを象ったバッジだ。

 

「前の契約者が初代なんだから、私は二代目に決まってるでしょ?」

「三代目じゃないんだ。じゃあアラスト―ルは400年間、何してたの?」

 

「ずっと炎髪灼眼の器を探してたのよ」

「アラスト―ルが世界を回ってたの?」

 

「アラスト―ルは外出できなかったの。だからヴィルヘルミナが私を拾い上げたらしいわ」

 

ヴィルヘルミナという名は初耳だった。

しかし、とりあえず後回しだ。

 

「なるほど。ところでアラスト―ルから昔話以外の、近代の話は聞いた事ある?」

「……無いわね」

 

メロンも察してしまった。

呆れたカイムも口出しする。

 

『あの引きこもりの時代遅れめ、400年前から変わってねぇのか?』

「仕方ないじゃない。徒から見つからないように隠れ住んでいたもの」

 

メロンの野蛮な所は、アラスト―ルの影響もあるのだろう。

アラスト―ルの持つ400年前の常識に引っ張られていた。

 

「おまえ、メロンパンの食べ方も知らないの?」

「え?」

 

メロンパンの食べ方を、メロンは教える。

屋台で焼き立てのパンは温かく、夜の風で冷えた体も暖まっていった。空に星は見えないものの、代わりに街の灯りは輝いている。昼の仕事で疲れていた坂井悠二は安心して、だんだん眠くなってしまう。そうしてメロンに寄りかかってしまったものの、メロンは拒絶しなかった。

 

「ちょっと寝るのなら帰ってからにしなさいよ」

「……うん」

 

 

しかし、それは出来なかった。

空から舞い落ちるのは木の葉だ。どこからか涌き出た霧が広がっていく。自在法であると気付いたのは、結界に閉じ込められた後だった。屋台の店主も、メロンパンを持った会社員も、時を凍らせている。それと同時に紅世の徒の、まるで湧いて出たような気配を察知した。

 

「ユ―ジ、起きて!」

「これは封絶!? いや、自在法!?」

 

まずは高く、見通しのいい所へ移動する。

すると巨大な結界は、街の果てまで広がっていた。

 

「徒の気配は3つ。こっちに2つは来るけど、1つは動かない」

「紅世の徒が、3体も」

 

3体に増えたフリアグネを想像し、坂井悠二は緊張した。

 

「私が2体は引き受ける。その間にユ―ジは、もう1体を確認して」

「動かない1体に接触すると、動き出すかも知れない。先に2体を叩かないのは、どうして?」

 

それに答えたのはカイムだった。

 

『この封絶らしき自在法、維持するには大量の存在の力がいる。現時点で感じる力じゃ足りねぇくらいだ』

「動かない1体が、なにかしている可能性は高いわ。それを確認してほしいの」

 

「前みたいに、僕を止めたりしないんだね」

「もう、ここは檻の中だもの。今さら逃げても手遅れよ」

 

「分かった。メロンも頑張って」

「当然よ。おまえは、ほどほどにね」

 

そうして坂井悠二は街中を走る。

その途中で妙な気配を感じ取った。それはト―チではなく人間から感じる。念のため道中で確認したものの分からず、そのまま坂井悠二は先を急いだ。メロンの指示を優先し、3体目の気配を辿る。すると、そこは大きな河を横断する吊り橋だった。その上から気配を感じる。

 

「ほう、人間か」

「徒か!?」

 

紫炎の立ち昇るタバコを手に、鉄橋の屋根で寝転んでいる。

サングラスにオ―ルバックで、ス―ツを着ている男性だった。

 

「自在法、いや宝具か。運の良いことだ。俺は今、仕事中でな。この場を立ち去るのならば見逃してやろう」

 

坂井悠二は、まず相手の正体を知りたかった。

なので、返事は期待できないものの名乗ってみる。

 

「僕は人間、坂井悠二! おまえは何者だ!」

「俺を知らないのか? ならば記憶に刻んで行くがいい、俺の名は千変シュドナイ」

 

「千変シュドナイだって!? あの有名な千変か!」

「名は知っていたか。まあ、俺を知らない奴など、そう居るまい」

 

もちろん坂井悠二は初耳だった。

シュドナイの口調は誇るのではなく、それで当然という感じだ。それは自身を大きく見せているのではなく、周知の事実を告げているに過ぎない。それを察した坂井悠二は、千変シュドナイが有名であることは事実に近いと考える。つまり坂井悠二という人間は、それ以上の事実を知っていても不思議ではなかった。

 

「千変シュドナイの仕事と言えば――そうか!」

 

坂井悠二は知らずとも、シュドナイ自身は知っている。

護衛だ。

 

「おっと口を滑らせてしまったか。やれやれ仕方ない」

 

シュドナイは手を上げる。

そして坂井悠二の存在に対して、遠距離から分解を試みた。

 

「くぅ!」

 

しかし坂井悠二は干渉を跳ね退ける。

それはメロンと行った夜の鍛練の成果だ。

 

「なるほど。単なる人間という訳でもないか」

「この事を早くフレイムヘイズに伝えなければ!」

 

坂井悠二は知らないけれど、それは重要なことに違いない。

 

「それは叶わん望みだ。人の身で逃げ切れると思うなよ」

 

シュドナイは飛び下りる。

そうして逃げる坂井悠二の前に立ち塞がった。その首を掴み、絞め上げて呼吸を止める。あまりに強い力で、坂井悠二は悲鳴を上げることすらできない。空中に浮かんだ足をバタバタと跳ねさせて、その手から逃れようと必死で足掻いた。しかし、ボキリと骨を砕く音と共に、坂井悠二の体から力が抜ける。ダラリと手足は力無く、ぶら下がった。

 

「さて、宝具は――ん?」

 

宝具らしき物を持っていない。

坂井悠二の服をビリビリと乱暴に破り、その中まで確認する。しかし、それらしい物は見当たらなかった。まさかミステスのように体内へ隠しているのかと思って、坂井悠二の体に手を突っ込む。坂井悠二の内側を手で探り、異物を探り当てた。その瞬間、宝具に触れたシュドナイの腕は、獣のように食い千切られる。それは宝具を守護する戒禁だった。

 

「なに!? まさか、これは零時迷子か!」

 

それに比べれば、腕など安いものだ。

喜びを浮かべたシュドナイは次の瞬間、目を疑った。

 

「バカな!? どこへ行った!? 無作為転移か!?」

 

坂井悠二の死体が消え、シュドナイは慌てる

ト―チでもない限り、それは起こるはずのない現象だった。周囲を見回しても、死体らしき物はない。自在法の発動した気配もなく、あとは宝具の効果としか思えなかった。何が起こったのかも分からず落ち込んだものの、ともかく護衛のため橋の上へ戻る。そこに隠されていたのは、自在法を奏でるミュ―ジックボックスだった。

 

 

第18話 安らかな揺りかごの園

 

 

メロンは体の自由を奪われていた。

体に絡み付いているのは、植物のツルだ。ただし自然のものではなく、自在法によって生み出された巨大なツルだった。辺り一面は巨大なツルで覆われ、その中心に可愛らしい紅世の幼子は寄り添っている。暖かい春を思わせる山吹色の炎は、双子のような兄と妹を美しく染め上げていた。

 

「すごぃね、ティリエル。捕まぇたね!」

「ええ、当然ですわ、お兄様。フレイムヘイズって頭が悪いんですもの。ここにあった大きな花を、私達の弱点とでも思われたのでしょう」

 

「ねぇ、ティリエル―。早くにぇとののしゃな! もぅ、ぃいよね! ね!」

「ええ、そうですわね。お兄様。では、そろそり渡していただけます?」

 

「もう持ってないわよ! 保険屋って奴に盗られたの!」

「あら、嘘はいけませんわ。お兄様の嗅覚は誤魔化せませんの」

 

「にぇとののしゃな―!」

 

無邪気な声と逆に、その剣技は冴えている。

兄であるソラトの大剣は、メロンの片腕を切断した。

 

「ぎいいいいい!?」

 

メロンは痛みを堪えて悲鳴を上げる。

斬り落とされた片腕は、地面に落ちて鈍い音を立てた。

 

「あれ? おかしぃな―?」

「どうなされたのですか、お兄様?」

 

「ぅ―ん、にぇとののしゃな。ここにぁるはずなのに―」

「あらあら、どこに隠しているのでしょうね。それならば切り開いてみては、いかがでしょう?」

 

妹であるティリエルは、クスクスと笑う。

手を頬に添えて、それは可憐な仕草だった。

 

「ぅん!」

 

ソラトは大剣を突き立てる。

それはメロンの胴体を縦に切り裂いた。

 

「痛あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″!!」

 

メロンは激痛に絶叫した。

涌き出した体液と共に、その中身もボトボトと零れ落ちる。

 

「どこかな―?」

 

メロンの肉体へ、ソラトは刃を突っ込む。

そうして中を掻き回し、乱暴に切り開いていった。

 

「ん―?」

「お兄様、見つかりませんの?」

 

「にぇとののしゃな……」

「それは困りましたわね」

 

しょんぼりしているソラト。

そんな愛らしいソラトを抱きしめ、困った様子で慰めるティリエル。頑丈なフレイムヘイズも、ここまで傷付けられれば死んでしまう。気の狂うような激痛を感じながら、メロンの意識は閉じていった。カイムと交わした契約は解除され、メロンという器は砕け散る。それは空色の炎となって、メロンという存在を焼き払った。

 




間違い探しコ―ナ― 提供:huntfieldさん
「ぞうかしら? 罪人の扱いなんて」→「そうかしら? 罪人の扱いなんて」

huntfieldさんの感想を受けて、ラミ―は生存しました
これはラミ―と坂井くんさえ居れば母親を復元できるという衝撃の事実が発覚し、なんとかラミ―を処分しようとしていた所、huntfieldさんの感想を受けて生存しました。
命拾いしてよかったですね!
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