メロンと自称する少女は激怒していた。
飛び下り自殺をした坂井悠二と平井ゆかりは、ちゃんと生き返った。しかし死ななければ安いという問題ではない。そんな事を繰り返していたら、いつか本当に死んでしまうかも知れない。蘇生されて戻った2人に、メロンは怒りのまま襲いかかり、その顔を平手で打った。
「これからは自殺禁止! 分かったわね!」
「うう、痛い」
「メロンちゃん痛いよ―」
「死んだら治るんでしょ! もう、知らないんだから!」
「ごめん、分かったよ」
「ごめんね―、メロンちゃん」
ともかく蘇生は済んだ。
自殺に対するメロンの激情は兎も角、死亡保険の有用な点は分かった事だろう。メロンも自殺は禁止したけれど、死ぬことは禁止していない。それは紅世の徒と相対するため、ただの人間に必要なものだ。そこで次に問題となるのは、住所も知れない保険屋と会うことだった。そこでメロン一行は、保険契約を交わした喫茶店へ向かう。そこに伝言を残しておけば伝わるかも知れない――と思って入ったら、保険屋を発見した。
「私の仕事か?」
それはメロン一行を待っていた様子だ。
「もしかして蘇生されると、保険屋さんも分かりますか?」
「正確に言えば、死亡すると分かる。それを蘇生するのは私だ」
「あれって手動なの!?」
「自動化するとなると、この世界のシステムに組み込む必要がある」
「それは、できないと」
「いいや、可能だ。ただしシステムの規模を十分に検証しなければ、後で不具合も起きる」
たとえば最初の設計よりも低い建物はできる。
しかし、最初の設計よりも高い建物はできない。
無理に建てれば、建物は傾いてしまう。
「じゃあ今は、保険に基づく蘇生も検証の段階なんですか?」
「まずは小規模から始めるという事だ」
それは実験では?
ともかくメロンと保険屋は相対する。
フレイムヘイズとしての全てを奪われ、ただの人間へ戻されてしまった。その怒りは果てしのないものだ。ここで契約する必要なんてないかも知れない。もしかすると保険屋を殺せば、契約相手であったアラスト―ルも取り戻せるかも知れない。敵に等しい保険屋の契約なんて信用できない。たとえ殴り付けても意味は無いとして、そうしたかった。
「――保険契約を結びに来たわ」
メロンは契約の意思を告げる。
「悪いが、契約する意思のない者と、契約を結ぶことはできない」
「あるわよ! 私はフレイムヘイズになる! そのためなら信じてあげる!」
「そう、それだ。君は本心において契約する意思がない」
「なんですって!?」
「私の力なんて、君は借りたくない。しかし必要だから偽っている」
「それが悪いって言うの!?」
「もちろん悪いとも。君は本当は契約など望んでいない」
それは難題だった。
メロンは心を納得させる必要がある。たとえ心を押し潰しても、それは保険屋に見抜かれてしまう。本心を裏切っているのはメロンだ。その心に従えば、契約はできない。どれほど思い込もうとしても、それは本心を隠しているに過ぎない。たとえば坂井悠二や平井ゆかりのためであっても、それは変わらなかった。
「保険屋さんは、どうしてフレイムヘイズの力を奪ったんです?」
そこへ助け船を出したのは坂井悠二だった。
「攻撃されると思ったからだ。たしか封絶と言ったか」
「あれは紅世の関係者か、おまえを確かめるためよ」
「そうだな。しかし攻撃としか思えなかった」
「メロン、考えてみてよ。今のメロンの前にフレイムヘイズが現れた。そして武器を向けて封絶を使った」
それは恐ろしい事だろう。
封絶の解けた時、メロンは存在しないかも知れない。あるいはト―チとなっているかも知れない。その封絶という檻の中で行われている事を認識できない。人にとって、フレイムヘイズと紅世の徒は同じ怪物に過ぎない。フレイムヘイズは世のために戦っているのであって、人のために戦っているのではなかった。
それは坂井悠二に対しても言える。
坂井悠二と初めて出会った時のことだ。死なないからと言って、その体を切り割った。その時の坂井悠二はト―チで、物を加工する事と変わらなかった。ト―チは人ではなく物と思っていた。そうして、ただの人としてフレイムヘイズだった過去を見て、メロンは後悔する。
「……悪かったわね」
それは保険屋ではなく、坂井悠二に向けた言葉だった。
坂井悠二と保険屋の立場は同じで、その違いは力の有無だろう。保険屋と違って坂井悠二は、フレイムヘイズに抗う力を持たなかった。メロンにとって心の距離が近い坂井悠二と重ねることで、その気持ちも理解しやすくなる。そうすることで保険屋に対する敵意も緩和された。
「なるほど、変わったようだ。今ならば契約できるだろう」
「そう。じゃあ、気の変わらない内にやるわ」
保険契約を結ぶ。
氏名はメロン、住所は平井ゆかりの自宅となった。平井ゆかりの自宅は仮宿であるものの、住所は蘇生地点なので空欄にできない。これでメロン一行は死亡保険へ加入し、死の危険は無くなった。そこでメロンの契約を見ていた坂井悠二は、保険屋に尋ねたい事があった。
「住所は自宅じゃなくても良いんですか?」
「ああ、基準としては所有権ではなく使用権だ。家主に使用の許可を取れば構わない。たとえば許可もなく他人の土地を、自分の住所として設定する事はできない」
平井ゆかりは、ひらめいた。
「それならゆうちゃんも、あたしの家に設定しない? その方が効率はいいよ」
「う―ん。たしかに前に死んだ時も、母さんに見つかった事があるんだ」
「3人一緒の方が便利でしょ? だからって一緒に住む訳じゃないんだから」
「じゃあ、そうしても良いかな? ありがとう、ゆかりちゃん」
そういう訳で、ついでに変更する。
坂井悠二の住所は、平井ゆかりの自宅となった。その事に対してメロンは何も言わず、むしろ効率が良いと思っている。フレイムヘイズとなるために育ったメロンは恋愛に疎い。それは養育係のヴィルヘルミナが、"炎髪灼眼の討ち手"に不要として教えなかったからだ。だからフレイムヘイズと成るべき少女へ、人としての名を与える事もなかった。
そうして準備は整った。
メロン一行は、ト―チの分解作戦を開始する。目的は、鼓動するト―チで何かを企んでいる紅世の徒を妨害することだ。たとえ紅世の徒に襲撃されても、メロン一行は蘇生される。問題と言えば、紅世の徒を討滅する方法が存在しないことだ。それでも紅世の徒を放置することは出来ない。
人の多い駅前から始まった。
坂井悠二と平井ゆかりの指示に従って、メロンはト―チを分解する。その消失をメロンは認識できず、消した事すら記憶できない。それは誤って人を分解しても、分からない事を意味していた。メロンは暗闇を進んでいるようなもので、坂井悠二と平井ゆかりを頼りにしている。
そして道路を火線が走った。
「来た! 徒だ!」
「ゆうちゃん!」
薄白い炎に包まれ、世界は停止する。
それはメロンと平井ゆかりも変わらず、宝具を内包する坂井悠二しか動けない。そこへ現れたのは白いス―ツを着た男性のように見える。しかし、それは徒の人化した姿だ。教室で坂井悠二を殺した人形を、その手に抱いている。白い長衣を浮かべて空に立つ徒は、坂井悠二を見下ろした。
「また君か。そして炎髪灼眼」
死んだはずのミステスだ。
その背後で止まっているのは、フレイムヘイズの少女に見えた。しかしフレイムヘイズの気配はなく、ただの人間に見える。おそらくフレイムヘイズとしての気配を隠し、今まで潜伏していたのだろう。たとえ罠としても絶好の機会に違いない。紅世の徒は少女に手を向け、その存在の分解を試みた。
そこへ降り立ったのは群青の炎だ。
「"弔詞の詠み手"マ―ジョリ―・ド―、そして蹂躙の爪牙マルコシアスか」
薄白い炎を持つ紅世の徒は、その群青色の主へ意識を向ける。
『狩人フリアグネ! 人形好きの変態野郎じゃね―か!』
「へ―、大物じゃない。こんな所で、なにコソコソやってるのよ」
停止した世界に侵入した、それは新たなフレイムヘイズだった。
「まさかとは思うけど、私の邪魔をしていたのは君達かい?」
「何の事か知らないけど、そうだって言ったら、どうしてくれるわけ?」
マ―ジョリ―は自在師だ。
ミステスに戒禁を打ち込む事もできるだろう。古くから活動しているフレイムヘイズで、名も知られている。最近になって活動を始めた炎髪灼眼よりも、マ―ジョリ―の方が説得力はあった。それに現れたタイミングも良すぎる。炎髪灼眼を囮として動いていたように見えても不思議ではなかった。
狩人フリアグネと"弔詞の詠み手"マ―ジョリ―・ド―。
メロン一行の存在は捨て置かれ、紅世の徒とフレイムヘイズの戦いは始まった。坂井悠二に出来たのは平井ゆかりとメロンを、狩人の目が届かない所へ運ぶ程度だ。やがてフリアグネは去って、展開されていた封絶はマ―ジョリ―に引き継がれる。そのマ―ジョリ―によって、壊れた道路も修復されつつあった。
「すいません。フレイムヘイズですよね」
「外界宿の人間? 悪いけど、かまってられないのよね―」
――外界宿?
「あのフリアグネって紅世の徒と戦うんですか?」
「違うわよ。私の獲物は、この街に逃げ込んだ別の徒」
狩人フリアグネを置いても、優先する徒だ。
それはフリアグネよりも恐ろしい敵なのだろう。坂井悠二の知っている徒はフリアグネだけで、それよりも弱い徒は想像しにくい。フリアグネだけでも手に負えない状態で、さらに新たな紅世の徒を投入されてしまう。坂井悠二にとって最悪なのは、その新しい徒とフリアグネが協力する未来だった。
「そうですか。じゃあ、あのフリアグネって徒の方は、僕たちで何とかします」
「へえ。フレイムヘイズでも無いのに、どうにかする自信があるってわけ?」
「ト―チに仕掛けをして、なにか企んでるみたいなんです。だから、それを消して回ります」
「ふ―ん。まあ、せいぜい頑張りなさい」
「でも封絶の中で動けるのは、ミステスの僕だけなんです。なにか封絶の中でも動ける方法はありませんか?」
「タダで物をねだろうって言うの? ボランティアじゃないんだから出すもの出しなさい」
それは金か、情報か。
あるいは宿の提供でも良かった。
「じゃあ――この街には保険屋という人がいて、死んでも蘇ることが出来ます」
あまりにも理解の困難なことだった。
「さ―て、屍拾いを探しに行きましょう」
『ウハハハハ! 笑えよ、我が鋼鉄の魔女マ―ジョリ―・ド―!』
マ―ジョリ―は背を向ける。
その契約相手であるマルコシアスは、本型の神器を震わせて大爆笑した。
「待ってください! 本当なんです!」
「あのねぇ、子供の遊びに付き合ってる暇はないの。お分かり?」
「本当です。ここで僕を殺してもらって証明することも出来ます」
「あっそ」
坂井悠二は片腕を掴まれる。
その腕は炎に包まれ、群青色に燃え上がった。
「うわああああああ!?」
坂井悠二は悲鳴を上げる。
それは存在の力による干渉の現れではなく、現実に肌を焼く炎だ。その激痛は坂井悠二の思考を焼き、反射的に腕を振り回す。しかし、その腕はマ―ジョリ―に掴まれ、少しも動かなかった。やっと放され炎の治まった時、その片腕は血のように赤く変色し、黒い燃えカスと一体化していた。
『おお、ずいぶんとヤル気じゃねえか! やるか! やっちまうか!』
「お黙り、馬鹿マルコ」
やりすぎたと思ってはいる。
しかしマ―ジョリ―は気に入らなかった。これは命を賭けているのではなく、命を軽く扱っている。本当に死者を蘇生できるとしても、こんな奴の言うことは信用ならなかった。命の価値が違う、命の基準が違う。こんな奴に付き合っていたら、いつか巻き込まれて死んでしまう。
「待って、ください、動ける方法を!」
「ああ、その話? 気に入らなかったから無し。他を探しなさい」
坂井悠二の意識は、激痛で混濁していた。
封絶の中で動く方法を探さなくちゃならない。その光景が思い出される。青白い炎、無数の歯車、崩れ落ちた教室、バラバラになった同級生、そして紅世の徒。それを知ってしまった時から生きている限り、紅世の徒に脅えて生きることを強いられる。そんな日常を坂井悠二は壊したかった。
「徒を、殺さなくちゃ、ならない」
足を止める。
マ―ジョリ―は復讐鬼だ。紅世の徒に日常を破壊され、フレイムヘイズとなった。だからと言って、坂井悠二に共感する訳でもない。むしろ無力な姿に嫌悪を覚えた。それは弱い自分を見ているようで嫌になる。マ―ジョリ―は本型の神器から縦長の
「こっちが回復の自在式で、こっちは防御の自在式。回復用を貼れば、その痛みもマシになるかもね。防御用は封絶から護ってくれる――好きな方を選びなさい」
もちろん防御用だ。
火傷は死ねば治るけれど、封絶は防げない。フレイムヘイズではないメロンに渡せば、封絶においても動けるようになる。それに封絶を認識すれば、メロンは自在法を認識できるようになるかも知れない。どれほど痛くても、最後は死ねばいい。終わりがあれば、それまで耐えられる。だから坂井悠二は痛みを後回しにできた。
「それは怪我の補償ってことにしてあげる」
『お―、お―! やさしいねぇ! やっぱりガキが趣味だったのか?』
「まさか、試しただけよ――本当に死んでも生き返るのなら問題ないでしょ?」
ペシペシと本型の神器を叩く。
そうしてマ―ジョリ―は封絶を解除すると、群青色の炎に包まれて消えた。辺りを見回しても当然、その姿は見つからない。マ―ジョリ―から貰った本の栞を、坂井悠二は無事な手で大切に包み込む。その代償として火傷を負った片腕は、まだ燃えているように熱かった。
「ゆうちゃん! 大丈夫!?」
「徒が出たの!?」
封絶は解けて、停まっていた人々も動き出す
メロンは封絶を認識できず、状況の理解は遅れていた。大火傷を負った坂井悠二を、人目のない場所へ移動する。坂井悠二は汚れるのも構わず地面に座り込み、荒い呼吸を繰り返す。時間の経過で静まるような痛みではなく、むしろ時間の経つほどに悪化する。痛みを乗り越えるように、精神を強く保つしかない。
「僕は大丈夫だけど……ゆかりちゃんとメロンは?」
「ぜんぜん大丈夫じゃないでしょ!」
「どこが大丈夫なのよ!」
存在を分解される寸前だったメロンも無事のようだ。
「紅世の徒の名を知れたよ、狩人フリアグネだ……それとフレイムヘイズが現れて、狩人と交戦していった……"弔詞の詠み手"マ―ジョリ―・ド―、そして蹂躙の爪牙マルコシアス……でも、こっちは他の徒を追っているらしい……フリアグネに構っている余裕はないみたいだ」
舌まで熱いのは、きっと気のせいだろう。
「そんな事より、病院に行こう? ね?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「いや、死ねば治るからいいよ……でも自殺はしない……このまま続けよう」
死ねば治る。
わざわざ病院で治療を受けるのは無駄だ。放って置けば治る傷に、余分な治療費も掛かってしまう。しかし自殺はメロンに禁じられていた。だから限界まで進めれば効率は良くなる。もしも自殺を禁じられていなかったら、こうして話すこともなく坂井悠二は自殺していた事だろう。
「じゃあ……僕たちもト―チの分解を再開しよう」
群青色の歯車が、空を駆ける。
それは広域を探査するマ―ジョリ―の自在法だった。メロン一行と別の所で、マ―ジョリ―も戦っているように思える。マ―ジョリ―の助力は得られず、メロン一行は自力で可能な限りの対応を行うしかなかった。またフリアグネの襲来する可能性はあるとしても、恐れて止まる事はできない。
「うん、ゆうちゃん――でも、風に触れると痛いから、包帯だけは巻こうね」
平井ゆかりは坂井悠二を肯定しつつ、その考えを補う。
「……なんなのよ」
メロンは分からなかった。
フレイムヘイズとして肯定するべきなのか。
それとも人として否定するべきなのか。
自殺を容認するべきなのか。
自殺を否定するべきなのか。
正しい事は、なにも。
分からなかった。
第8話 アラスト―ルの休日
薄白い炎を司る紅世の王、フリアグネ。
彼は拠点としているデパ―トで、その気配を隠していた。商品もなく空となっているデパ―トの室内に、巨大なビルや平たい家々が並んでいる。とある宝具によって再現された、この都市の立体模型だ。さらにト―チや自在法など、存在の力によって稼働する物体も映し出されている。逆に映って無いのは、フレイムヘイズや紅世の徒だった。
次々にト―チは消えていく。
さらに都市の各所へ、自在法の網が張られていた。このままト―チを消されると、準備を進めていた儀式の成功率は下がる。だからと言って飛び出せば、フレイムヘイズの妨害に会うだろう。出待ちされている事は明らかだった。マ―ジョリ―の目的は、フリアグネとしか考えられない。あまりにも遭遇のタイミングが良すぎる。
都喰らいの儀式を始めるしかない。
長い時間を費やし、幾人ものフレイムヘイズを撃退した。果てしなく思えた夢の実現は近く、その全てを捨てる事はできない。この機会を逃せば、もはや再起することは叶わないだろう。たとえ儀式の準備は万全でなくとも、それを補ってみせる。フリアグネは、そう決意した。
「本当に計画を実行に移されるのですか、ご主人様?」
「ああ、そうだよ。私の可愛いマリアンヌ」
「しかし、都喰らいは発動まで時間が掛かります。途中でフレイムヘイズに襲われたら御主人にも危険が」
「ああ、なんて君は優しいんだろうマリアンヌ。心配はいらないよ。ちゃんと策は講じてある」
人質を使ってフレイムヘイズを誘い出す。
そのために選ばれたのは、フレイムヘイズの側にいる人間だ。フレイムヘイズの仮宿から出た所を誘拐し、デパ―トの屋上まで連れてくる。フレイムヘイズの張った網に引っ掛かったので当然、フレイムヘイズは人間の誘拐に気付いた事だろう。フリアグネは舞台を整え、出演者を待ち構えていた。
一方、その頃。
群青色の炎を司るフレイムヘイズ、マ―ジョリ―・ド―。彼女の目的は屍拾いラミ―だ。その徒は人喰いを行わず、ト―チを摘み取る。そのため多くのフレイムヘイズから無害として見逃されている紅世の徒だった。しかし、そんなものは他のフレイムヘイズの都合だ。紅世の徒であればマ―ジョリ―にとって討滅の対象であり、逃げ足の早さを考えれば優先するべき獲物だった。
そのマ―ジョリ―は仮宿を得ている。
出会った学生の邸宅で、空中に描いた街の投影図を眺めていた。その学生は先ほど、フリアグネに誘拐されてしまっている。しかしマ―ジョリ―は座して動かなかった。各所に張った網へ、獲物がかかる時を待っている。マ―ジョリ―の獲物は屍拾いラミ―であり、狩人フリアグネは後回しだ。たとえ少々の情を持っても、復讐鬼は判断を誤らない。
「ま、あとで仇くらいは討ってあげるわよ」
『ひゅ―! 真夏の恋も覚める冷たさだなァ! 我が冷徹なる狩人マ―ジョリ―・ド―!』