進め!貧乏暇無し傭兵団!   作:ハチミツりんご

5 / 6
本日3/31の23:59分を持って募集を一旦締め切りとさせて頂きます。ご注意ください。といってもあと数十分もないけど。


Episode4:団員決議

 

 

『あー………久々じゃなドルツ。最後に会ったのは7年前ってとこか?信じられるか、あれから7年じゃぞ?お前さんのオッサンっぷりにも拍車が掛かっとるんだろうのぅ』

 

 

 ヒャッヒャッヒャッ、と笑い声を上げる半透明の映像の男_______英雄ノルンヴァーノ。

 

 随分と親しげな様子を見せるこの老人こそ、ヴァイエノ連合どころかアモール神聖帝国、はたまた他の近隣諸国にすらその名が知られている名将だ。

 

 

『まっ、時間が無いから手短に行くぞい_______と言っても、傭兵への話なんぞ大概が依頼と相場が決まっておるじゃろう』

 

 

 髭を擦りながらノルンヴァーノはそう呟く。7年ぶりの挨拶の為に再生機(リプレイター)を送った訳ではなく、仕事の話。

 幾ら友人だと言っても、傭兵に手紙を送るという行為は殆どがそういう事なのだ。

 

 

『依頼主は現マギ家当主_______ワシが仕えとる御方じゃ。んで、肝心の依頼内容なんじゃが…………()()()()()()()

 

 

 頭を掻き、溜息をつきながら首を横に振る。

 

 

『あー、わぁっとる。これが有り得ん内容だと言う事は、ワシが一番よぉーっく分かっとる。だが、言えん。この依頼は、対外的に公開する訳にはいかんのだ』

 

 

 この話が有り得ない内容である事は、ノルンヴァーノ自身も理解している。

 

 傭兵への依頼は、究極的に削ると2つの情報が必要不可欠だ。

 

 即ち『内容』、そして『報酬』。

 

 一体自分たちは何を行うのか、それをこなした結果幾らの金が貰えるのか。傭兵に対し、最低限この2つは開示しなければ話にならない。

 

 

 例えば、幾ら報酬が高かろうが内容が『邪教の為の生贄になれ』だとしたら受ける傭兵なんぞ居ない。死ぬ事になるためだ。

 逆に幾ら内容が簡単でも報酬が無給の場合、金にならないのだからこれまた受ける傭兵は居ないだろう。

 

 故に、傭兵に『内容』を開示しないなど有り得ないのだ。

 しかしノルンヴァーノは、それを分かった上で開示出来ないと言った。

 

 

『報酬に関しても、お前さんらの要求を出来る限り呑むが………充分な額を約束出来るとは限らん。もしそれでもいいのなら………受けてくれると言うのなら、27の日までに、お主を含め信頼のおける戦闘員を10人以上集めてウィスラにあるマギ家の館を訪ねてくれ。受けない場合は、このまま無視して構わん』

 

 

 ノルンヴァーノは映像越しに真っ直ぐ、ただ真っ直ぐドルツ達を見つめる。

 

 

『数が多いに越したことはないが、信頼のおけるかどうか、そして実力を第一に考えてくれ。お主の選んだ奴なら、賭け値なしで信用出来る』

 

 

 信頼のおける実力者を、最低10名。とどのつまり精鋭を集めろという事だ。同時にノルンヴァーノは、ドルツ・ベリーゲンという男の人の見る目を揺るぎなく信頼していた。

 

 

『_______虫のいい話だということは分かっとる。だがこの依頼を託せる相手は、ワシはお前さんしか思い浮かばんかった』

 

 

 そしてノルンヴァーノは、深く頭を下げてみせる。

 

 

『頼む、我が友よ。この老骨に代わって我が主の力となってくれ_______』

 

 

 その言葉を最後に、映像は途切れた。

 

 

 

☆★☆☆★

 

 

 

 映像を映し出さなくなった再生機(リプレイター)を回収しながら、ドルツは5人の方を向き直す。

 

 

「………で、だ。お前ら、この依頼どう思う?」

 

「どうもこうもありません。反対です」

 

 

 真っ先に意見を述べたのは、ドルツ傭兵隊の軍師。天賦の才を持つ魔道士、シャルベットだった。

 呆れた様に肩を竦めるシャルベット。その表情は馬鹿げているとでも言いたげだった。

 

 

「依頼内容の非公開?話になりません、幾ら団長の知り合いだとしても、この依頼を受けるなんて有り得ません」

 

 

 シャルベットの意見は的確だ。

 

 幾ら団長であるドルツの知り合いだったとしても、無理をして依頼を受ける理由にはならない。もしそれで隊員の誰かが欠ける、なんて事になったら目も当てられない為だ。

 

 

「僕も正直反対だね。依頼内容を伏せ、報酬はこちらの要求に出来る限り答える………如何にも危険な匂いがするじゃないか。依頼者側の不義理を脇に置いて危険度だけに目を向けたとしても、僕は反対の方に天秤が傾くかな」

 

 

 次いで中性的な女性、アネットが反対の意を述べる。

 内容を公開できず、報酬はこちらの言い分で可、そんな話を持ってきたのは外部にあまり情報を漏らさないヴァイエノ連合の貴族家。怪しいと言うなという方が無理と言うものだ。

 

 故にアネットは冷静に判断を下し、この依頼はパスするべきだという意見を出した。

 

 

「んー、まぁ………だよなぁ………」

 

 

 ドルツは後ろ手に頭を掻きながら、当然だとボヤく。普通に考えればこの依頼は考えるまでも無くパス、満場一致でそうなるべき内容だ。

 

 しかしドルツはどうにも煮え切らない様子を見せていた。その感情が察せるだけに、シャルベットとアネットはため息をついた。

 

 

「はーい!私は別に受けてもいいよ!」

 

「ちょっ、リース!?」

 

 

 そんな中で快活そうな声を上げながらドルツを肯定する意見を飛ばす者がいた。

 ドルツ傭兵隊の剣士、メンバー内で末っ子扱いをされることの多い女性、リースだ。

 

 まさかの判断にアネットが驚いたような声をあげる。アネットと同じく反対側のシャルベットはもちろん、ドルツ自身も目を丸くしていた。

 

 

「リース、お前………マジで言ってんのか?」

 

「うん!大マジ!団長の知り合いなら変な人じゃないだろうし……あとあのお爺ちゃん強そうだし!修行にはもってこいだよ〜」

 

 

 へへーんっ、とリースは笑みを浮かべる。

 

 彼女が傭兵としてドルツの元に居る理由は、主に依頼を通して修行を積むことが出来るからだ。

 ドルツの知り合いだったリースの師匠から『修行ついでに世間知らずを直してくれ』と頼まれ、こうしてメンバーの一員として共に傭兵家業をこなしている。

 

 修行という目的の強いリースにとって、勝てないと確信出来る程の強さを誇るノルンヴァーノの存在は魅力的だ。その為彼女は、ノリ軽く賛成意見を口にした。

 

 

「はぁ………全くこの子は………お気楽過ぎませんか、リース」

 

「会議は自由だもーんっ!私は私の意見を言っただけ!」

 

 

 ドルツ傭兵隊の団議は、全員平等。

 

 少数傭兵団であれば依頼の可否を団長の独断で決められる事も多いのだが、ここでは全員が意見を述べ合って受理か否かを決める。

 隊員達の考える力を養うと共に、無理やり納得させるようなことはしたくないというドルツの主義だ。

 

 その為、リースの意見は何ら問題無い。彼女の意見は、彼女の意見として尊重されるのだ。

 

 

「………それで、アッシュとハリィはどうなんですか?先程から黙ってますけど」

 

 

 まさかの賛成意見を出した末っ子に思わず額に手を当てるシャルベットだったが、まだ意見を出していないほかの二名へと思考を向ける。

 

 未だに意見を述べていないのは、寡黙な男性マーセナリーのアッシュ、そして眠たげな目をした女性重装騎士(アーマーナイト)のハリガンだ。

 アッシュはドルツの意見に同調するところがあるのである程度内容は予測出来るが、ハリガンは意外に読めない。その為二人とも早く意見を述べろ、と言外に告げると、アッシュが喉元の黒いスカーフに手を当てながら言葉を発する。

 

 

「俺、は………どっちで、も」

 

「あーっ、アッシュダメだよ!意見言わないと団議になんないでしょ!」

 

 

 自分は決まった内容に従うというある意味で傭兵らしい事を口にするアッシュだったが、ここは団議の場。

 個人の意見を出すことが大切なのであり、どちらでもいいと言うのはあまり宜しくない。その為リースが即座に突っ込むが、アッシュは子首を傾げる。

 

 

「?ドルツが、決めたら、俺は、着いてく」

 

 

 さも当然と言いたげなアッシュの一言に、思わず他のメンバーが顔を見合わせる。

 

 アッシュは腕は良く、文句も言わず黙々と依頼をこなす等傭兵としては非の付け所が無いレベルなのだが、この様に戦闘時以外の判断を任せることが多い。

 いや、判断を他の団員に任せるというか、ドルツを肯定しがち………とでも言うべきだろうか。

 

 ドルツがやるといったらやる、やらないと言ったらやらない。それがアッシュのスタンスなのだ。

 

 

「あー、アッシュ。依頼主に対して思ったことでもなんでもいい。なんかあるか?」

 

「思った、事………」

 

 

 ドルツから尋ねられ、顎に手を当てながら少し考える。

 暫くそのまま押し黙っていたアッシュだったが、ふと顔を上げていつもと変わらぬ表情で口を開いた。

 

 

「これ、は………不誠実、だけど、ドルツに、誠実」

 

「お、アッシュ〜。いい事言うねぇ〜」

 

 

 ポツリと呟くように口にしたアッシュの言葉。それに同意するように笑う人物が一人いた。

 

 アッシュと同じく先程まで黙っていた女、ハリガンだ。後ろ手を組んで背もたれに体重を預けるハリガンは、へ、へ、へ、と相変わらず独特な笑い声を上げていた。

 

 不誠実だがドルツに誠実。

 その言葉の意味はシャルベットやアネット、リースどころかドルツ本人も分かっていなかったが、どうやらハリガンは分かっているようだった。

 

 

「ハリィ、どういう事ですか?」

 

「ん〜?簡単さね、(やっこ)さんは悪意もなんも持ってないって事よね、アッシュ」

 

「ん」

 

 

 よく分かっていない4名を代表してシャルベットがハリガンに尋ねると、ゆるゆるっとした様子を崩さずアッシュに声を掛ける。

 小さく首肯するマーセナリーの青年に、小柄な重装騎士は満足気に頷き返した。

 

 

「ハリさーん、悪意無いってどういう事〜?確かにノルンヴァーノのお爺ちゃんは真摯に見えたけど」

 

「そうさねぇ〜………今回の依頼主が仮にドルツを騙して嵌めようとしてると仮定するじゃない?」

 

「うんうん」

 

「もし騙そうとしてるなら、もーっと良い方法があるとおもうんだよねぇ、これねぇ」

 

 

 はーい、と手を挙げて疑問を素直に述べるリースに、ハリガンは伸び〜っと身体を伸ばしながら人差し指を立てる。

 

 仮にノルンヴァーノ側、とどのつまりマギ家がドルツ達を騙そうとしていた場合。

 もしそうなのだとしたら、今回のやり方はあまりに非効率的だとハリガンは述べた。

 

 

「そうかい?依頼内容の非公開に報酬は具体的な提示なしでこちらの言い値に従う………怪しさしかないように感じるけど」

 

「そうだねぇ〜。少し分かりにくいけど、()()()()()()()()()()()()んだよねぇ、この依頼」

 

「…………あぁ、なるほど」

 

 

 アネットが当然の疑問を提示すると、ハリガンは『怪しいからこそ怪しくない』、とボヤっとした回答を返した。

 

 どういう事かとアネットとリースが首を傾げていると、そこにシャルベットが納得したような呟きを発する。

 

 

「シャルさん、分かったの?」

 

「えぇ、まぁ………そうですね…………リース、仮に団長騙すとしたらなんて言います?」

 

「え〜、ドルツさん騙すの?なんだろな〜、何言っても騙せそうだしなぁ」

 

「おいコラ」

 

 

 シャルベットからの問に、簡単過ぎて逆に悩むとでも言いたげな表情を浮かべるリース。ドルツが二人に抗議の視線を向けるが、実際問題この男はつい先日簡単に騙された実績がある。

 

 うーん、と腕を組んで考えていたリースだったが、ポンっと手を叩くと笑顔でハイハイと手を挙げた。

 

 

「団長!私、彼氏出来たから今度連れてくるね!」

 

「何処の馬の骨だうちの末っ子を誑かしたのはッ!!!お父さん許さんぞッ!!!」

 

「お父さんと言うよりおじちゃんでしょうに」

 

「おいシャル!!俺まだ28だぞっ!!」

 

「見た目は40ですけどね」

 

「ん打てば響くように罵倒っ!!!」

 

 

 シャルベットの辛辣な一言にドルツが机に突っ伏し、それを見たリースがケタケタケタと楽しそうに笑う。

 

 シャルベットもドルツの事は信頼している。信頼しているが故の気安さ………の筈だ。多分。恐らく。

 

 

 しくしくしく………と悲しむドルツの頭を「お〜撃沈だ〜」と笑いながらペシペシ叩くハリガンを他所に、シャルベットは一つ息を吐いてから肩を竦める。

 

 

「………まぁ、我らが団長様は、この様に非常に騙しやすい人です。罠に嵌めようと思ったのなら、こんなに目に見えて怪しい依頼を出す必要は無いんですよ」

 

「あぁ、成程………ちょっとした依頼をこなして欲しい、ついでに飲みながら昔話でもしよう………みたいな事言えば、間違いなく団長なら行くだろうね」

 

「団長って人と飲んだり食べたりするの好きだもんね〜。確かにそれなら、わざわざ依頼を言えない!なんてせずに適当に有りそうな内容を言っとけばいい訳だし」

 

 

 シャルベットの言葉にアネットとリースの二人が納得の表情を浮べる。

 

 この男を騙して嵌めるのならば、『依頼ついでに飯を食おう』とでも言えば一発だ。ノルンヴァーノとは旧知の仲の様であるし、隊員を連れていくかは兎も角として大して疑うことなくヴァイエノ連合へと向かう姿が容易に想像出来る。

 

 

 つまるところ、目に見えて怪しさを出しているこの依頼は、ドルツに対して騙そうという意思はなく、彼に真摯に対応していることの裏返しだという事だ。

 

 

 なるほどな、とシャルベットやアネットが納得する中で、ハリガンはへらへらっとした様子を崩さずに少し冷えた紅茶を飲み、テーブルにカップをコトリと置く。

 

 

 

「まっ、とどのつまり向こうは団長を騙すつもりは無いけど依頼内容を公開出来ないくらいヤバい内容を出してきたってことになるんだけどねぇ」

 

『あぁ〜………』

 

 

 結局のところ、厄介事が舞い込んでいるという事実は変わらない。少なくとも怪しい身元では無い事は証明出来たが、そのせいで余計に依頼内容の開示不可というのがやばさを醸し出す。

 

 戦闘国家ヴァイエノ連合、その中でも名将ノルンヴァーノを擁するマギ家。

 ここが手を焼く様な内容_______しかもノルンヴァーノの話し方から考えて手詰まりの所を救って欲しいという形にも聞こえる。

 

 

 歳を取ったとはいえ、ノルンヴァーノの実力は確かだ。でなければアッシュやリースが勝てないと感じる事は無いだろう。

 

 

 

「あのノルンヴァーノ将軍が労する内容って一体全体何なんですか………?」

 

「うーん………大規模な死霊(アンデッド)洞穴(ケイブ)を掘り当てちゃったとか?骸骨(スケルトン)動く死体(リビングデッド)とかならまだしも、悪鬼骸骨(ヘルボーン)とか死霊司祭(リッチー)だと大変だし。まさか骸の凶皇(デイダイモス)引き当てた訳では無いだろうけど」

 

「まぁ〜戦争ばっかりだったヴァイエノなら死霊(アンデッド)は多そうだけどねぇ〜。アタシらに頼む規模では無いねぇ、それねぇ」

 

「僕ら6人じゃ対処出来る所も限られるしね。ソロの傭兵を雇ったとしても、10人そこらじゃ分隊一つ増やすくらいの戦力にしかならないだろうし」

 

 

 魔物と呼ばれる、生命の理に反した生き物達。

 

 共通して他の生命を襲うという特徴を持ち、死んだ後にその姿を遺す事無く泡沫のように消える事から、殆どの国が共通して『人類の敵である』と断定。

 小規模なものならまだしも、国家を揺るがすような事態の際には因縁ある国々でも協力して討伐することもある。

 

 戦いを生業とする傭兵達に討伐の依頼が舞い込む事も少なくないので、ドルツ傭兵隊の面々も戦う機会は多い。

 

 

 その為リースは面倒な死霊(アンデッド)系の魔物の溜まり場になっている箇所を運悪く掘り当てたのでは?と予測。

 しかし大規模な溜まり場を掘り当てたのだとしても、総勢6名_______ノルンヴァーノの言う通り10名以上の信頼のおける面々を集めたとしても、一個の小規模部隊が増える程度の戦力でしかない。

 

 というかそれ以前に、死霊(アンデッド)に関わる騒動ならば近くの領主や国のお偉い方も動いてくれる。わざわざ秘密裏に傭兵を増やす必要性は薄い、というのが正直な意見だった。

 

 

 

「………というか団長。ノルンヴァーノ将軍とは旧知の仲の様ですが、今回の件について心当たりとか無いんですか?」

 

「んァ?あァ〜………ぶっちゃけると有る」

 

「いやあるんか〜い」

 

 

 ノルンヴァーノが7年前と口にしていた辺り、彼の老将とそれなりに長い付き合いがありそうなドルツ。

 少なくとも今ここにいるドルツ傭兵隊の面々の中で、団長と最も付き合いの長いシャルベットですら5年と少しだ。

 

 必然ドルツならば依頼の内容に察しが着いているのでは、と疑ったシャルベットだったが、どうやら当たりらしい。

 心当たりがある、と言ったドルツの頭に、ユルユルっとした声と共にハリガンのツッコミがペチンっと炸裂する。

 

 

「団長、心当たりがあるなら何故共有してくれないんだい?」

 

「そうだよー、一人だけズルいよ!」

 

「あ〜、アレだ。何となくコレじゃねぇかって察しは着いてんだが………ヴァイエノの貴族家がソレを傭兵に頼むなんざ有り得ねぇ話なんだよ」

 

 

 不満げな顔を向けるアネットとリースの二人に、ドルツはバツが悪そうに返答する。

 

 内容が分かっているのなら共有するのが傭兵団における常識だ。事前知識があるのと無いのとでは事前準備に雲泥の差が生まれる。

 特に今回の依頼はタダでさえ情報の少ないヴァイエノ連合からの依頼だ。内情をある程度知っていそうなドルツの知識くらいしか信頼のおける情報源は無い。

 

 ドルツ自身それを分かってはいるのだが、それでも共有するのを躊躇った。

 

 

「正直、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。下手に先入観持って、準備やらなんやらに影響出る方が不味い」

 

「だから言えない、と?」

 

「あぁ。不満か?」

 

「いいえ。それが貴方の判断ならば信頼しますよ、ドルツ」

 

 

 ドルツは直感的にコレではないか、という心当たりがある。しかし考えれば考えるほど、その答えは有り得ないだろうという思考に落ち着いてしまう。

 本能を理性が否定する、そんな状況で出す情報が頼りになるかと言うと微妙だ。下手な混乱を招く危険性すらある。

 

 故にドルツは団員に言えないという判断を下したが、シャルベットは軽く手を振って不満は無いと述べる。

 これが第三者の意見ならば不満もあるだろうが、ドルツ・ベリーゲンという男に関しては例外だ。シャルベットだけでなくほかの四人も、彼の判断ならば『それが正解だろう』と信頼することが出来た。

 

 

「_______でもさぁ、結局どうするの?」

 

「受けるか、否か。日数考えるとそう余裕も無いね」

 

 

 うだうだと話していても埒が明かない。今回の依頼を受けるのだとしたら、あまり悠長にしている訳にも行かなかった。

 自分たち以外に連れていく戦闘員の選抜と交渉、ここから依頼地であるウィスラまでの移動時間、その他諸々の準備に掛かる時間。やるべき事は山ほどあり、依頼日までの猶予もあまり無い。早期の決定が望ましい。

 

 

「取り敢えずリースは受ける側だとして、どうせ団長も受ける側だよねぇ〜?」

 

「あー………まぁ、そうだな」

 

「んじゃアッシュも自動的に賛成側だ」

 

「ん」

 

 

 「はいはーい!」と元気よく返事を返す女剣士のリース、少々バツが悪そうに口篭りながらも受けたいと肯定した団長のドルツ、そんな彼の意見に従う姿勢を見せる寡黙な青年アッシュ。

 

 この3名が賛成側だと宣言すると、ハリガンは残るアネットとシャルベットへと視線を向けた。

 

 

「2人は相変わらず?」

 

「そうだね。あのノルンヴァーノ将軍からの依頼ともなると少し気になるけど………僕は安全をとって反対したいかな」

 

「当初の通り反対です。貴族家からの依頼ならば最低限まとまった金額が手に入りそうなのは魅力ですが…………アネットの言う通り、安全には変えられませんし。ハリィ、貴方は?」

 

 

 団議の当初から二人が反対の姿勢を見せているのは明らかなので、この2人は変わらず依頼を受けない側だ。

 

 依頼相手が依頼相手なだけに、2人とも気になりはしているようだが無理に足を踏み入れるほどでは無い。

 

 

 となればあとはハリガンだけ。シャルベットから尋ね返されると、ハリガンはのび〜っと大きな伸びをしながら机にペトんと顎を乗せた。

 

 

「アタシは正直、反対寄りの中立ってとこなんだけどねぇ〜………ねぇドルツ、ひとついい?」

 

「ん?なんだハリィ」

 

 

 ハリガン自身はどちらでもいいが、どっちかと問われれば反対という意見らしい。

 

 とすれば現在は受ける側がドルツ、アッシュ、リース。

 受けない側がシャルベット、アネット、ハリガン。

 

 それぞれ3名ずつ。団議としては並行になってしまうが、そんな中でハリガンがドルツへと声を掛けた。

 

 

 

「正直に答えて欲しいんだけどねぇ〜………仮にこの依頼受けなかったとして、ぶっちゃけ()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!」

 

 

 ハリガンの垂れ気味の半目が少し細まる。

 

 もし仮に依頼は受けない、という意見で固まったとして。この男は団員をアイエノンに残したまま、単独でこの依頼を受けに動くのではないかという危惧がハリガンの中にあった。

 

 そんな意見を向けられたドルツは、腕を組んで天井を見上げる。「あ゛〜………」と汚い声を上げながらしばし悩む様子を見せると、後ろ手に頭を掻きながら視線を戻した。

 

 

「悪ぃ。絶対にやらねぇとは言えねぇ」

 

「そこまでして手助けしたいんですか?」

 

「マギ家は個人的に世話になった事もあるし、ノルンヴァーノの爺さんも友人だ。助けてぇのは山々だ………が、コレは俺の我儘だ。お前さんらを巻き込むのは筋違いってもんだろ?」

 

 

 だからそん時ゃお前らは巻き込まない、とドルツは背もたれに体重を預けながら言った。彼の重さで椅子がギィと悲鳴をあげる。

 

 

 確かに今回の依頼は、厳密に言えば『ドルツ傭兵隊』に向けた依頼と言うよりも『ドルツ個人』に向けた依頼と言った方が正しい。

 実際ノルンヴァーノは、再生機(リプレイター)の映像の中で一度もドルツ傭兵隊については言及していなかった。

 

 つまり団全体で受けることを決めたのならまだしも、団員が乗り気ではない依頼にドルツ個人の感情で彼らを引っ張っていくのはお門違いだろう、というのがドルツの主張だ。

 

 

 その為ドルツは仮に依頼を受けない、という話で纏まった場合は、この宿の女主人であるリボルに5人のことを暫く頼もうと思っていた。

 

 

 

「な〜んだ、それならそうと早く言ってよねぇ〜。ハリガンおねーさんは受ける側でヨロシク〜」

 

「はァ?」

 

 

 のっほほ〜んと笑ってそう言ったハリガン。不意を打たれたからか、ドルツの口から素っ頓狂な声が漏れた。

 

 そんなハリガンとドルツを見て、反対派の二人、アネットとシャルベットは互いに顔を合わせるとどちらともなく苦笑を浮かべ、肩を竦めてドルツに目を向けた。

 

 

「確かにそれなら話は変わるね。僕も受けるの賛成で」

 

「同じく賛成。つまり満場一致でこの依頼を受理するということで_______」

 

「おいおいおいおい待て待て待て待て」

 

 

 サラッと意見をひっくり返したアネット。同じく意見を変えたシャルベットが話を纏めようとしたところに、ドルツが慌てた様子で待ったを掛ける。

 

 

「何でそうなんだよッ!?」

 

「だって、放っておいたら団長は勝手に行ってしまうんだろう?それは看過できないね、またどこかで孤児の一人でも拾ってくるんじゃないかと心配で堪らないよ僕は」

 

「アネット、お前なぁ…………俺の事なんだと思ってんだよ」

 

「つい先日みえっみえの嘘に騙されて号泣してずっと貯めてた当面の自分の装備更新費用をマルっと騙し取られ掛けた所をリボルさんに助けられたにも関わらず謎理論振りかざしてそれを騙してきた相手に全額渡した馬鹿の極みだと思っていますが」

 

「…………なぁシャル、今日なんかいつにも増して俺に辛辣じゃねぇか?」

 

「別に?」

 

 

 この男は非常に人がいい。

 

 簡単に金を騙し取られるし、それを恨んだりもしないし、金が無いくせして人に奢ったりする事もよくある。

 困っている相手の依頼は断らず、金銭面に問題があり依頼料が払えない相手の場合は相場からは考えられない金額で受理してしまうなんてこともある、とんでもない馬鹿団長だ。はっきり言って組織のトップには向いていない。

 

 

「…………はぁ、全く。いい加減察したらどうなんです?」

 

 

 いや。だからこそ。この男だからこそ。

 

 

 

「_______私たち全員、貴方の我儘に付き合うくらいの覚悟は常に有りますよ、団長」

 

 

 ドルツ・ベリーゲンだからこそ、自分たちはついて行くことを決めているのだが。

 

 

 

 呆れと得意げな表情が混ざったような顔を向けるシャルベットに、思わずドルツは目を丸くする。

 

 少し目を向ければハリガンは相変わらずユルっとした表情のままピースサインを向けてくるし、アネットは優しげな表情で頷き。

 リースはニカッと満面の笑みを覗かせており、アッシュは目を閉じたまま小さく笑っていた。

 

 

「………あ゛〜…………ったく、揃いも揃ってお人好しめ………」

 

「ドルツさんに言われたくなーい!」

「右に同じく」

「ん」

 

「うるせぇ年下組!団長に敬意を払えぇーいっ!」

 

「せめて騙されないようになってから言ったらどうなんです?」

 

 

 内容も報酬も分からない、ただただ助けて欲しいということしか伝わらない依頼。

 それを、団長が助けたがっているからという理由だけでついて行こうとする。それがどれだけ傭兵らしくない行動なのか、ドルツ自身が良く知っていた。

 

 あまりにお人好しが過ぎると隊員達に言えば、隊の歳下3人組に『どの口が言ってんだ』と言外に返される。

 そんなやり取りを聞きながらシャルベットは呆れ笑いを浮かべているし、ハリガンもへ、へ、へ、という独特な笑い声を上げて見守っていた。

 

 

「_______良いんだな?大仕事になるぞ」

 

「くどいですよ団長」

 

「おっしゃ。そんならこの依頼は受理だ、ウィスラへの移動時間を考えると時間はあんまねぇ」

 

 

 ドルツは姿勢を直すと、トン、と指でテーブルを叩いた。

 

 

「シャル、移動方法や道順は任せていいか?」

 

「ハリィとアネットが着いてきてくれたら今日中にでも」

 

「分かった。2人はシャルの指示に従ってくれ。リース!お前は得意先を回って暫く依頼を受けられないってことを伝えといてくれ」

 

「らじゃー!パパッと終わらせちゃうよ!」

 

「んぇ〜、アタシ居るかいシャル〜?めんどくさいねぇ〜………」

 

「まぁまぁ、ハリさん」

 

 

 シャルベットに目配せをしたドルツは、彼女の答えを指標に各員に指示を出す。

 

 歩兵組の中で最も身軽なリースがアイエノンのお得意先を巡って遠出することを伝え、シャルベットを筆頭に頭の回る3人は移動手段や日数の計算などを担当。

 ハリガンは少々面倒くさそうにしているが、指示を出せば仕事はする。故に問題は無い。

 

 

「アッシュ!団の共通品の在庫を確認しといてくれ。足りねぇもんや、あった方が良さそうなもんがあったらシャルに報告!」

 

「基準、は?」

 

「お前の経験と勘を信じてる」

 

「分かっ、た」

 

 

 仕事が正確で黙々と作業をこなすアッシュは、傭兵隊メンバー間で共通して使用する細々とした品物の確認。集中力のある彼なら手早く終わらせるだろうし、アッシュ自身の経験やそれに基づいた第六感はこのメンバーの中でも随一だ。

 彼が必要だと感じたのなら、それは間違いなくあった方がいい品。そうドルツが信じられるくらいには、彼の六感は正確だった。

 

 

「団長は?」

 

「連れていくのは戦闘員10名以上、俺らを除きゃ最低あと4人だ。だが、まずは向こう(ウィスラ)についてから動ける情報屋が欲しい」

 

「あー…………なるほど。彼を?」

 

「あぁ。妖精鼠(フェアリーラット)を引き込む。前金要求すっかもしれねぇから少し余裕持たせといてくれると助かる」

 

「了解です、善処します」

 

 

 最後に残ったドルツは、どうやら人の勧誘に向かう模様。このアイエノンでも有名な人物の一人、二つ名持ちの情報屋へ接触を謀るようだ。

 

 

「よし。最後の確認だ」

 

 

 全員の目を見渡し、ドルツは握り拳で自身の胸を強く叩いた。

 

 

「俺たちドルツ傭兵隊は」

 

決して依頼人を裏切らない

 

「だけど向こうが裏切った時は?」

 

星の果てまでぶっ飛ばすッ!!

 

 

「っしゃあ!!ここ一番の大仕事だ、気合い入れんぞッ!!」

 

『了解ッ!!』

 

 

 かくして、彼らの依頼は幕を上げた。

 

 

 

 これが彼等の、過去最大の戦いになるとも知らないで_______

 

 

 




・ドルツ傭兵隊

 ドルツ・ベリーゲンが立ち上げた小規模傭兵団。特定のメンバーの総称と言うよりも彼と共に戦っている面々を指す言葉に近く、割とメンバーの入脱退がある。

 現メンバーはドルツを除いて5名。

 氷魔導士のシャルベット・アクアライ厶。
 マーセナリーのアッシュ。
 重装騎士のハリガン。
 剣士のリース。
 馬上騎士のアネット・ファルナリア。


 過去にはスカーフェイスのアイリスとロウーユも所属しているが、ドルツ曰く『ガキん時に立ち上げたからコイツら以上の古株は結構いる』との事。
 実際、アイエノン内にあと二人、元ドルツ傭兵隊がいる。ただしその二人は傭兵を退職、現在は結婚して家庭を築いており、平和に暮らしている。その為余程緊急で切羽詰まった内容でもない限り、ドルツがこの二人を巻き込む事は無いと推測される。

 余談だが、ドルツと知り合った年数だけで言えばシャルベットはアイリス、ロウーユ両名よりも古い知り合い。彼と出会ってから暫く時を置いて加入している。


 基本的に隊員が希望した場合は当面の資金を持たされた上で手厚く送り出されるが、ドルツが『もう自分がいなくても大丈夫』と判断した場合も卒業扱いで送り出される。
 実際、スカーフェイスの2人は望んで脱退したのではなくドルツから卒業扱いされて送り出されている。但しその際ロウーユが結構駄々を捏ねたとか捏ねてないとか。真相は当人達と店主のリボル、その直後にドルツに拾われて傭兵隊入りしたアッシュ位しか知らない。


 ちなみにこの話をロウーユにすると容赦無く剣を抜いて襲いかかって来るので要注意。そしてその後アイリスかドルツにも襲い掛かる。
 本人曰く『リボルさんやアッシュが話す訳無いでしょこの口軽共!!!!』との事。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。