ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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知りたいか。教えてやる。金を払え

『偽物語』


10.羞月閉花

 送ったメールにすぐに返信が来るとは正直驚いた。勿論、無視される可能性も十分にあり得たからである。しかし、話したこともない人間からのコンタクトを受けたのに対し、すぐに返信が出来るのはメリットデメリットの計算が出来る事を表している。もしかしたら特に何も考えていない可能性もあるが、そんな頭の足りない人間を担いでいるほど馬鹿の集まりではない筈である。

 

 いずれにしても、この交渉は順番と妥協点が大事だ。金のあるところからは搾り取れる反面、Bクラスは頭もAクラスほどではないにしろ、それなりの人間が集まっているはずだ。過去問なんていらないと突っぱねられる事もある。そうならないように持っていくのが腕の見せ所だ。

 

 まだ不安を抱えている生徒も多いだろう。難易度が全く不明の中、赤点は退学。そんなに成績が悪くなくても、絶対大丈夫と言い切れる人間は案外少ない。成績中間層は特にそういう不安を抱えやすい。自分の頭がいいとも言い切れず、かといって馬鹿であると言えるかと言われれば微妙だからだ。これまで積極的に他クラスとは絡んで来なかったが、彼らの能力の把握が今後大事だろう。こちらの仕事の内容とも一致している。面倒事は嫌いだが、どういう相手なのか知りたいという欲望は存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

「急なご連絡にも拘わらずこのように時間を作って下さり感謝の極みです」

 

 放課後。Bクラスには生徒が4人だけ残っていた。中央に椅子と机が1セットずつ向かい合わせで置かれており、そこに話し合いの当事者が座っている。その後ろにはそれぞれの腹心が立っている。こちらは言わずもがな。相手は神崎隆二と名乗る男子生徒だった。彼と一之瀬帆波がBクラスのまとめ役なのだろう。内輪もめしているAクラスよりもよっぽど健全に学校生活を送っている気がする。

 

「ううん、ちょっとびっくりしたけど、大事な話だったら仕方ないよね」 

「ご理解いただけたことに改めて感謝します。正直、ストーカーか何かで通報されてもおかしくない行動でした。しかし、それであってもお許しいただけるとは、我がクラス内での評判は事実のようですね」

「評判?」

「公明正大でコミュニケーション能力に優れた、まさしくAクラスでもおかしくない人材だという評判です。我がクラスの人間はその学力故かプライドの高い人種が多数なのですが、そんな彼らが手放しでほめると言うのはよっぽどの事だろうと思っていましたが……なるほど。腑に落ちましたよ」

「あはは……そんなに凄い人間じゃないんだけどなぁ、私は」

「ご謙遜を」

 

 いや、社交辞令でご謙遜をとは言ったが彼女は恐らく本心からそんな大それた人間ではないと思っている。自己評価の低さは何に起因するものなのだろうか。善人と多くが異口同音に答える彼女であるが、私は生憎底抜けの善人の存在を信じていない。必ず裏があるはずだ。とは言え、今のところそれを見せる兆しはない。もし裏があったとしてもこんな易々と見せるほど、甘くは無いか。

 

「それで、Bクラスのためになる取り引き、って何かな?」

「ええ、まさにそれですね。私はその話をするべく此処へ来たわけですから……。さて、単刀直入にお聞きします。今月初頭、大いに混乱したのではないですか?」

「うん、それはね……。仕方ないと思うな。プライベートポイントに関しては自己責任だって話は流れてたけど、まさかクラス対抗だとは思わなかったしね。それに、Aクラスしか卒業後の特権がないって言うのはBクラスでも大分混乱してたかな。みんなそれを信じてきたからね。それでも、プライベートポイント自己責任論のおかげで途中からだけどみんなが真面目に取り組んでくれたからクラスポイントの減少も抑えられたし悪い事ばかりじゃなかったかな。Bクラスでも感謝してる人は多いよ、Aクラスの救世主・孔明先生?」

「その渾名を貴女がご存じとは思いませんでした。それに、救世主とは言いすぎでしょうに」

「私は他クラスにも結構友達が多いからね。Aクラスの子が、同級生が入学式当日にシステムに注意を促してたって教えてくれたんだ」

「なるほど、そんなことが……」

 

 あの頃はまだ自己責任論が主流だった。当然クラス対抗制度なんてのも知らない訳で。この情報流出は止められないのも無理はないだろう。恐らく学年全体に広まっていたはずだ。それも私の名前とセットで。だが、この話を聞いてなおも0ポイントを叩き出したDクラスにはいっそ清々しさと言うかある種の畏怖を感じる。

 

「多くの秘密が明かされ、その上で公開された赤点は退学。このシステムには恐怖を感じている生徒も多いのではないでしょうか。例え成績は割と上位の方にいるBクラスであっても」

「まぁ、隠してもしょうがないよね。不安に思ってる子は多いと思うよ。私だって、何も心配してないって訳じゃないし。一応勉強会とかはしてるけどね……」

「そうでしたか……そんな一之瀬さんになら、今回のお話は役に立つと思います。まずはこれをご覧ください。真澄さん、よろしく」

「なにその呼び方。結局それにしたの」

「なんでもいいって言ったのはそちらでしょう。せっかくカッコよく決めようと思ったのに、台無しです。まぁ良いや、早く例のものを出してください」

 

 呆れ顔というか微妙な顔の彼女によって卓上に置かれたのは数枚の紙。全て1年生1学期中間考査の過去問だ。昨日受け取ったものを印刷している。なお、この学校は印刷系は基本勉学に使うならいくらでも使える。模造紙サイズの印刷もカラーコピーも可能だ。私用だと金を請求されるがそれでもその辺のコンビニより安いというクラスメイトの話だった。コンビニなど実家の付近に無かったので相場が分からないが、都会っ子が言うならそうなのだろう。

 

「これって……テスト問題?」

「はい。2年前、現在の3年生が1年生の時に行われた中間考査の過去問です。5科目10教科分ですね。これを条件次第ではありますが、お売り致しましょう」

「過去問……確かに有効だけど、そんなに言うほどキーアイテムかな?」

「それはもっともな疑問です。ですが、良くご覧ください。この世界史とか」

「……テスト範囲が違う?」

 

 返答を返したのは一之瀬ではなく神崎の方であった。

 

「その通りです、神崎君。そして追加でこれを」

「こっちは……この前の小テストか?」

「それの過去問です。2年前もまったく同じ問題が出されています。いきなりドサッと退学者を出しては学校側も不利益ですし、なにより甘ったれたDクラスの成績不良者がごっそりいなくなってしまいます。最初から退学させるつもりなら入学させた意味がありません。必ずそんな勉強から逃げてきた人を救済する方法があると思ってはいましたが……ご覧の通りですね」

 

 言わずとも中間の問題も同じである可能性が高いと分かってくれたようだ。一通り過去問を確認した後、彼女は私の目を真っすぐ見据えた。

 

「これを売ってくれたら凄く嬉しい。多分、みんなの不安も解消されるんじゃないかな。でも、1つだけ聞かせてね。どうして私たちに売ってくれるの? BクラスとAクラスの間にはポイント差はあるけど、追いつけないかと言われれば微妙だし、Dクラスよりは希望がある。もっと言っちゃえば、一番Aクラスを蹴落とす可能性の高いクラスだよね。自分のクラスを裏切ってることにはならないかな?」

「確かに、利敵行為に見えるかもしれませんね。しかし、私にも私なりの思いがあります。お恥ずかしながら、田舎出身でこれほどまで多くの人と接する機会がありませんでした。折角出会えたメンバーとこうも簡単にお別れとは寂しい限りですから。Aクラスの皆も大切な仲間ですが、切磋琢磨できる相手は彼らの為にも必要です。それに、個人的な意見ですが赤点は退学はやりすぎだと思っていますから」

「赤点退学については私も同意かな。もうちょっとチャンスがあっても良いとは思う。だったら無料で譲ってくれたり、なんて思っちゃうけど……ダメかな?」

「申し訳ありませんが、こちらも大したことないと言うにはいささか多すぎる金額を代償にしています。それに、タダで渡してしまっては私のクラス内での立場がありません。どうか一つ、呑んでいただきたい。情報には対価が必要なのが世の常です」

「う~ん、だよねぇ~。分かった。じゃあ、いくら払えばいいのかな?」

「40万でいかがでしょう」

 

 本気で言ってんのかコイツという視線が後ろからビシビシ飛んでくるが、当然そんな訳ない。勿論ここで素直にはい分かりましたと言って支払ってくれればそれに越した事は無いが、そんな都合よくはいかないだろう。

 

「Bクラスのこれまでの収入は16万9000。1万×クラス全員分で40万。どうでしょうか?」

「ちょっと高過ぎかなぁ~。それに、私が全員から回収できるかわからないよ?」

「いいえ、貴女なら出来るはずですよ学級委員長。ねぇ、そうでしょう? 神崎君」

 

 こちらの問いに彼は頷いた。やはり、回収出来るくらいには信頼度があるという読みは正しかったことになる。

 

「とは言っても、1科目辺り10000ポイントはちょっとね。半額の一人当たり5000でどうかな?」

「分かりました。吹っ掛け過ぎたのは認めます。しかし、私も苦労したのです。9000で」

「確かにこの時期にこれだけハイスピードで持って来てくれたのは助かるし、勉強会以外にも活路が見出せたのは嬉しいから……6000」

「強欲なお方ですね。退学阻止には一番有効な手段だと言うのに。ですが、貴女からの信頼を得られるならば多少値引く価値もありそうです。8000」

「もう一声欲しい! 7000!」

「7500。これが限界です。もし、これを出してくれるのであれば、貴女の目的を達成するお手伝いをしましょう」

「目的?」

「生徒会、入りたいんでしょう?」

 

 分かりやすく動揺している。目も若干泳ぎ始めた。しかし、すぐに立ち直っている。案外強かなのかもしれない。彼女が当クラスの葛城と同じく生徒会入りを希望しているのは知っている。だが断られたと言うのも。これは別になにか探ったわけでもなく、目立つ人物の動きは知られやすい。自然と耳に入って来た。

 

「やっぱり知られちゃってるか~」

「一之瀬さんは色んな意味で目立ちますから。その性格も、行動も、容姿も。故に、自然と情報が入って来てしまいます。まぁそれはともかく、誰に断られました?」

「会長さんにダメってね……でも、もう一回チャンスはあるし立候補するつもり」

「生徒会には春の期間と秋の選挙の際に立候補が出来ますが、もう1つ入る方法があるのを知っていますか?」

「既存の役員からの推薦枠だよね?」

「その通りです。そしてこの過去問誰から貰ったと思いますか?」

「え……まさか、会長さん?」

「いいえ。ですが、それに近い方です」

「会長さんに近い人……橘先輩!?」

「はい。書記の橘茜先輩です。個人的に親交がありまして、大分吹っ掛けられましたが譲っては下さいました。ほら、連絡先もこの通り」

 

 彼女に見せた携帯には橘先輩と書かれた連絡先が表示されている。

 

「ホントだ……」

「1年生と3年生は部活動以外だとかかわりが薄い。そんな中では信頼を得ている方だと思います。そして、これを得る条件で生徒会長に会うように要求されました。その時にもう一度私から交渉してみましょう。もし会長が無理なら橘先輩に。私がそれを請け負う代わりに貴女は過去問代金7500ポイントを全員から回収する。どうでしょうか?」

「……神崎君はどう思う?」

「一之瀬の生徒会入り交渉の存在を除外しても7500が現実的な妥協ラインだと思う。元々諸葛は1万、一之瀬は5000を要求した。その中間ラインだし、払えない金額じゃないだろう。それに、一之瀬なら回収も容易いはずだ」

「そんなことはないと思うけど……分かった。1人7500ポイント×40人分で30万ポイントを払う代わりに今回の中間テストの過去問全教科分。これで契約成立だね」

「ありがとうございます。では、こちらにサインをどうぞ」

 

 差し出したのは書類。契約書と書かれている。金額面は今サッと足した。

 

 

 

 

 私、1年Aクラス諸葛孔明(以下甲)は1年Bクラス一之瀬帆波(以下乙)に対し、1年生1学期中間考査の過去問題集5科目(国語、数学、英語、社会、理科)10教科(現代文、古典、コミュニケーション英語、英語表現、世界史、日本史、化学、物理)分を30万ポイントで売却する。

 

1、乙はこの過去問題集を自クラス内においてのみ売却、譲渡、複製を行える。他クラスへの売却、譲渡、複製の一切を行えない。また、1年生1学期中間考査終了までこの過去問題集に関する一切の情報を他クラスに与える事が出来ない。これはBクラスの全生徒が同様の義務を負い、それを乙は監督し指導する義務を負う。

2、甲はこの問題集が一昨年に行われたものであることを保証し、万が一異なっていた場合は取引金額の2倍を支払うものとする。

3、乙は甲がこの問題集のデータを過不足なく渡した際にのみ代金の支払い義務を負う。

4、甲は乙に対し、その生徒会入りを実現するべく当校生徒会長堀北学並びに生徒会書記の橘茜に対し出来る限りの交渉を行う義務を負う。

5、代金の支払い期間は今年度5月31日23時59分59秒までとする。それを過ぎた場合契約無効とみなす。

 

 この契約は双方の合意によってのみ成立し、違約があった場合は取引金額の倍額を違約金として支払う義務を負う。

 

 

 

 

 

 この書かれた紙が2枚。片方はBクラス用、もう片方は自分用だ。一通り目を通した一之瀬はそのままペンで2枚にサインを記入した。私のは既に書かれている。生徒会関連の交渉をするのは既定事項だった。ほぼ完全無欠の彼女の数少ないウィークポイントになりえるのがこれだったからだ。ともあれ、この契約書のおかげで過去問はBクラス内で完結する。Aクラスに漏れるのはもっと後だろう。これでいい。取り敢えず30万が手に入るのはほぼ確定事項だ。

 

 期間も長めに設定しておいた。クラス全員を説得するのに時間がかかっても大丈夫だ。しかも、支払いの前にものを渡すように契約してある。有利なのがどっちかと言えば向こう側だった。だが、これくらいの譲歩はしても良いだろう。学力も酷い訳ではない連中から金をとれるのは今しかない。それに、誠実な契約をすることでBクラスのリーダーとの信頼を築ける。これは後々役に立つはずだ。

 

「はい。確認できました。これで契約成立です。今、データをお送りしますね」

「――――うん。確認できたよ。じゃあ、これを急いで印刷しないとね。神崎君、悪いんだけど……」

「ああ、分かった。手伝おう」

「ありがとう! 諸葛君も、今回話を持ってきてくれてありがとね」

「いえ、こちらこそ良い取引が出来ました。感謝します。貴女と信頼関係を築けるのでしたら、それに越したことはありませんから」

 

 握手をして契約成立する。ついでに全員で連絡先を交換する。これにてBクラスでの案件は終了だ。やっと終わったと言う表情を隠さない神室真澄を引き連れ帰ろうとした際に、利敵行為と捉えかねない事をしてまで過去問をくれたお礼として良い情報を教えてくれた。曰く、クラス移動と退学阻止にはそれぞれ2000万ポイントが必要で、それをやってのけた生徒はいないとの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がめついわね」

 

 この学校で数少ない安全圏である自室に戻れば、開口一番神室真澄はそう言った。

 

「なにがだ」

「10万で手に入れたのを30万で売るって……なかなか吹っ掛けたと思っただけ」

「そうでもないさ。商売なんてそんなもんだろう? 縁日の綿あめを見てみろ。原価精々10数円の砂糖の塊が500円だぞ、500円。キャラものパッケージありとは言えなかなかおぞましい値段だ。それに、相手は恐らくこっちが30万かそれに近い値段を払ったと思ってる」

「どうして?」

「そう思わせるために君を連れて行ったんだ。今月と先月の我々Aクラスの収入は19万7000ポイント。君と私と、15万ずつ出せば30万だろ?」

「詐欺師が天職ね」

 

 呆れた顔で彼女は言った。

 

「でも、良かったわけ? 一之瀬も言ってたけど、普通にAクラスからしたら利敵行為。バレたら坂柳辺りがうるさいわよ」

「それなら問題ない。その為の策も用意してある。坂柳1人がキャンキャン吠えようとも、その他が説得出来れば問題ない。それに、アイツは私を引き入れたがってる。敵対行動はそうそう取って来ないさ。アイツの目下の敵は葛城派なのだからな」

「あっそ。あんたの下にいる以上、なんかあったら巻き込まれるの確定な訳だし、気を付けてよね」

「分かっているとも。……さて。では、お前にまたお仕事の時間だ。南雲雅の悪い噂を思いっきり何でもいい。正直眉唾物のものとかでも構わない。ありったけ集めてこい。期限は2週間後。だが、もっと早く集まるならそれが1番だ。よろしく」

「はいはい。どうせ逆らえないし、了解。でも、なんでそんなことするわけ?」

 

 説明するかどうか迷うが、結局する。人は目的の分かっている行動は積極的にやる傾向にある。

 

「南雲雅とはどんな人物だ」

「女たらしの革命希望」

「……聞き方が悪かったな。どんな功績がある」

「生徒会副会長で……BクラスからAクラスに上がった。あぁ、そういうこと?」

 

 この説明で何となくわかったらしい。そもそも超優秀ならば最初からAクラスのはずだ。にも拘らずBな理由は恐らく3つのうちいずれか。1つ目は過去に問題行動を起こしている可能性。2つ目は性格が終わっている可能性。3つ目は何か一つ突出して劣っている可能性。勉学も運動も出来てカリスマ性も一応あるならこの辺だ。その理論で行くと一之瀬帆波もなにか欠点と判断される事項を有していることになるが。

 

「そうだ。BクラスからAクラスに下剋上したカリスマ。そして生徒会にてあの会長相手に大きな影響力を保持している。その姿に自分を重ねて憧れを抱いても無理はない。そこでこう囁けばいい。『堀北会長はともかく、俺は君を認めている。Bクラスからの下剋上だって出来るはずだ。俺の力で生徒会に入れるように取り計らおう。境遇の似ている後輩に、せめてもの贈り物だ』とね。あっという間に傀儡の出来上がりだ。大体、革命を叫んでる奴にろくな奴はいない」

「すっごい偏見ね」

「そうか? まぁ良い。でだ、これは契約にある通りに会長相手に交渉する材料になる。断られた理由は簡単だ。自分の政敵の派閥に入られたくなかったんだろう。なら、そうはならないと説得すれば折れる可能性がある。が、その時一之瀬帆波がもし南雲派閥に入ると俺がただの嘘つきだ。それはマズい。なので、どう転んでも一之瀬には南雲の悪口を言わないといけない。分かったか?」

「もし南雲が特に何も貶められそうなことしてなかったらどうするの」

「捏造するか、過去をでっちあげる。だが安心しろ。女を物扱いしてる男は多分クソだ。叩けば埃くらいは出る。噂がある以上、何かしらあるのだろう。火のない所に煙は立たぬ、というだろう。それに、私の個人的な感情だけれど、そういう相手は好きになれそうにない」

「あぁそう。まぁあんたのその感情はどうでもいいとして、取り敢えず仕事に関しては分かった。でも、そろそろ部活に出ないと怒られるから、その分は活動できないけど、よろしく」

「ああそう、部活……部活? お前部活入ってたのか?」

「知らなかったの? 一応美術部。ほとんど幽霊だけど」

「心の底から興味なかった。なら仕方ないな。部活にはまぁ、最低限出ておけ」

 

 目の前の人間が真面目に絵を描いている姿を想像できなかった。もし描いていて完成したのなら見てみたい気もする。

 

「話は終わり? それじゃ、帰るから。テスト勉強続けないといけないし」

「ああ、そうか。では、戻ると良い。何かあれば連絡する」

「はいはい」

 

 去り行く背中を見つめながら、今後の展開を思案する。次はDクラス辺りに売りつけたいが、奴らの今月の支給額は驚異の0だ。とは言え、多少は持っている人間もいるだろう。適当に理由を付けて格安で売ってしまおう。契約書に書いたため、Bクラスは過去問の存在を話せない。なので、こっちが売り放題だ。Cに接触するかは迷っている。秘密のベールで覆われているのはそう指示している人間がいるからだろう。

 

 どういう人物かは分からないが、その内行動を起こすはずだ。その時に接触するのでもいいかもしれない。それよりも、Dに売りつける前に自クラスに配らないといけない。自クラスからは流石に金をとれない。というか取らない方が株が上がるはずだ。

 

 取り敢えずの方針を決め、明日Aクラスに過去問をばら撒くための前準備を始めた。




<報告>
 Bの指導者との接触に成功。品行方正かつ人徳に優れ、成績も優秀、非の打ち所がないと声高に言われる人材であった。しかしながら、前述のクラス分けの理論に従えば何らかの欠点があり、Bクラスにいると思われる。

<要求>
 一之瀬帆波の全データを何としてでも入手されたし。なにか、秘密があると睨んでいる。これとは直接の関係は無いが、余裕があれば我が元級友たちの様子も見てきて欲しい。

<返答>
 前者の件は了解した。また、後者に関しては各々志望校にて順風満帆な日々を過ごしている模様。ハブられている貴官を除き、メッセージのやり取りも頻繁のようである。

<Re.返答>
 お前上官に向かってよくもまぁ言えたもんだと感心している。外に出たら覚えていると良い。

<RE.Re返答>
 大変申し訳ありませんでした。
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