ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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いかなる犯罪の源泉も、若干の思慮分別の欠如、理性の錯誤、情熱の爆発的な力である。 

ホッブス 『政治哲学論』


17.天知る地知る

 翌日の午後3時半。うだるような暑さの特別棟に4人の男女がいる。手筈通りならば、此の地にもうすぐ待ち人がやって来る。ほどなくして不平不満を漏らしながらも階段を昇ってくる声が3つ。櫛田からのメールに胸を弾ませてきたのだろう。ここで疑問を持たない辺りが彼らの問題点だ。

 

 冷静に考えればそこまで接点のない人間がいきなり事件のあった現場に呼び出すだろうか。しかも1人ではなく3人まとめて。告白?デートの誘い?冗談じゃない。十中八九罠だろう。

 

 楽しそうに幻想を語る彼らの期待は、しかし綾小路を階段の上に発見したことで打ち砕かれた。

 

「……どういう事だ。なんでお前がここにいる」

 

 いの一番の威圧感を出しながら声をあげたのが石崎という男らしい。らしいと言うのは一之瀬から写真を見せられたことで初めて知ったからである。堀北の話では審議会では随分と殊勝な態度だったらしいが、その面影は今はない。

 

「櫛田なら来ないぞ。アレは嘘だ。オレが彼女に頼んで嘘のメールを送らせた」

「何の真似だ」

「こうでもしないとお前らは無視するだろう?話し合いがしたかったんだよ」

「話し合い? ……ハッ、いいか、俺たちは須藤に呼び出されて殴られた。それが真実だ。何をする気か知らねぇが、大人しく諦めろ。じゃあな」

 

 踵を返し去ろうとする3人に向かって鋭い一声が放たれる。

 

「良いのかしら。もしもあなた達がここを離れたら、一生後悔することになるわよ」

「何なんだよ、お前ら」

「行くぞ、気にするな」

「あれは何かしら」

「ンだよ……あっ!」

 

 堀北を無視して帰ろうとした3人の視線を誘導するように彼女は言葉を切った。それにつられ、彼らの視線は一点に集中する。そこには本来彼らの記憶の中では何もないはずだった場所に、今ではしっかりと監視カメラが赤いランプを灯していた。顔に露骨な動揺が走る。まるで監視カメラがあっては都合が悪いかのように。

 

「どうしたのかしら、そんなに動揺して」

「監視、カメラ……!?」

「この特別棟には理科室があって、劇物とされる薬品が沢山置かれているわ。カメラがあって当然でしょ」

「どうして…………いや、待てよ。もし監視カメラの映像が残ってるんだとしたら、お前らは何もしなくても無実を証明できるんじゃないのか。わざわざ俺たちに教えなくてもいいはずだ」

「この事件が起こった時点で、双方が痛みを負う事は確定しているんだ。事情はどうあれ、須藤はお前たちを殴った。その事実は変えられない」

 

 綾小路の言葉通り。須藤は罪を犯した。それが誘導されたものであったとしても、殴ったことに変わりはない。通常の手段であれば無罪放免になる確率は限りなく低いだろう。

 

「なら、お前たちだってカメラの映像は困るんじゃないのか」

「確かに須藤は処罰を免れないだろうな。だけど、お前たちは最悪、退学だぞ。悪質な嘘で学校中を巻き込んだんだ。そうなって当然だろ」

「そんな……」

 

 さて、ここまでは台本通り。ここからも引き続き私の描いた台本通りに進んで行ってほしいものだ。まずここまでで綾小路と堀北が彼らを追い詰める。そこに次の一手を。

 

「まぁまぁそう悲観することはないかな。まだ今なら引き返せる道もある事だし」

「い、一之瀬……?なんでお前がここにいる。Bクラスは今回何の関係もないはずだろ」

「う~んクラスとしてはそうだね。でも私の仕事はそれだけじゃないから」

 

 気温に反比例するかのように彼らの顔は青くなっていく。別に生徒会の仕事云々とは一言も言っていないのだが、一之瀬が生徒会にいるのは有名な話だ。当然彼らも知っている。勝手に生徒会の仕事と判断しただろう。もっと言ってしまえば、会長の指示であり、今回の件の真相を生徒会は知っているのではないか、とまで想像を働かせたのかもしれない。

 

 暑さゆえに思考力は奪われていく。そうなると負の思考はスパイラルを起こす。嘘は言っていない。彼らが勝手に解釈しただけなのだ。

 

「今回の事件を知った学校側の対応、随分とおかしくなかった?」

「あ?」

「どうして須藤君はすぐに処罰されなかったと思う?どうして君たちの怪我っていう物的証拠があるにも拘わらず処分が遅れてると思う?どうして審議会なんて面倒なものが開かれたと思う?素行不良で知られてる須藤君を処罰すれば早いのに」

「それは……」

 

 畳み掛けるように一之瀬は問いかける。どんどんと彼らに接近しながら。冷静な思考力を奪った後は考えさせるな。それが出した指示である。次々と出される質問に彼らの脳は答えようとしてしまっている。ダメ押しとばかりに彼らのすぐ横で囁く。

 

「答えは簡単。全部分かってるけど、私たちだけで解決できるか。その問題解決能力を試していたんだよ」

「もう……おしまいだ!」

 

 小宮が崩れ落ちる。近藤も頭を抱え込む。

 

「だから引き返せる道はある、って言ってるんだけどなぁ~」

「なん、だと」

「今回の事件を解決する方法。それはたった1つだ。お前たちが訴えを取り下げればその時点で事件は存在しないことになる。存在しない事件を、誰も裁くことは出来ない」

「そうすれば、あなた達も私たちも痛みを負わずに済む。これは最後のチャンスよ。退学か、取り下げか。あなた達に選べるのはこのどちらかだけよ」

 

 ケラケラと笑う一之瀬に続くように綾小路と堀北が強権的に提案を叩きつける。これは予想より早く折れるか、私の出番も無いかもしれない。そう思ったが、石崎だけは最後の抵抗を続けた。

 

「…………だがお前たちの話には証拠がない。最悪こっちだって玉砕特攻すれば!」

「証拠ならありますよ」

 

 仕方ない。本来のシナリオ通り、私が登場するしかないかと思い、今まで隠れていた場所からゆっくりと歩き出す。

 

「お前は……諸葛! Aクラスがなんで……BやDならともかく、お前たちには一切関わってないはずだ! それに証拠なんてどこにある!!」

「質問が多いですねぇ。要点を得ない質問をする人間ほど、試験の点数が低い傾向にあります。何故なら自分の考えをまとめられないから」

「さっさと答えろ!」

 

 悲痛そうな声で彼は言う。四面楚歌……ではないが、四方を包囲されているのは違いない。

 

「Aクラスは中立ですよ。しかし、個人がどうするかは個人の自由です。今回は個人的友誼によって参戦しました。そして証拠ですが……それは私の推理です。私の推理は一之瀬さんの仰った事と同内容を導きました」

「そんなもの、証拠になるかよ」

「おや、お忘れですか? 私が何を以て私の渾名を手に入れたのか。何を以て学年にその名を知られたのか」

「Sシステムを、見抜いたから……。そういう事か、今回も学校の思惑を見抜いて……!」

「その通り」

 

 ちゃんと考えれば滅茶苦茶な理論だ。前回合っていても今回合っているとは限らない。けれども、他の誰も導き出していなかった段階つまりは入学初日に全容とは行かずとも大半を解明した私によって救われた生徒は一定数いる。それはCにもいるだろう。全く分からないリーダー情報だが、そういった生活面の細々は漏れてくる。真澄さんが聞いたCクラスの女子の会話から分かった事も多い。

 

 そして、その私の行った大きい功績により、彼らは私の発言に真実性を見出してしまう。どんな無茶な暴論でも、私が見抜いたと言えば真実に聞こえてしまう。この状況ならば、尚更。何を言うかではない。誰が言うのか。それに人は案外左右されてしまうものだ。

 

「はぁ、はぁ……。1本電話をさせてくれ」

 

 石崎は心を折りかけながら携帯を取り出す。これも想定済み。彼らは所詮は駒に過ぎない。王は別にいる。彼ら自身では決定できない。だから許可を取ろうとするだろう。だがそんな隙は与えない。

 

「1人では何も決められないのかしら、惨めね」

 

 堀北が携帯を取り上げる。取り返そうとしたのを避けて、彼女は私の方へ携帯を投げる。これも決めていたこと。連絡を取ろうとした場合、3人の近くにいてかつ武道の心得のあるという堀北がそれを取り上げ、画面を消さずに私に投げる。そういう契約だった。放られた携帯をキャッチすれば画面には1人の名前が表示されている。

 

「ほぅ、君たちの黒幕は龍園と言うのですか。龍園(りゅうえん)でしょうか、それとも龍園(たつぞの)?下の名前は……(かける)(しょう)か。最近の子は読みづらいですね」

「返せ!」

「殴りますか、私を。このギャラリーの前で?良いですよ。私は無抵抗でそれを受け入れましょう」

 

 彼の振り上げた拳が空中で静止する。

 

「でも……良いんでしょうか。私は生憎とAクラス内に友人が多いんですよ。もしかしたら、Aクラスの生徒が恩義のある私のために総力を挙げて殴りかかってくるかもしれませんよ。坂柳さんも葛城君も、これを口実にCクラスを攻撃し、外交的成果とするために全力を出すかもしれません。後者はともかく……前者の小娘は意外と面倒ですよ?」

「くっ……! わかった……取り下げる……取り下げれば良いんだろ!」

「よろしい」

 

 崩れ落ちるように石崎は膝を着く。

 

「最初からお前の掌の上か?」

「さぁ、どうでしょう? 反省はこの後たっぷりとどうぞ。では一之瀬さん。後は手筈通りに」

「はいは~い。じゃ、今すぐに生徒会室に向かおうか。大丈夫、会長への取り成しは私がしてあげるから」

 

 3人を挟むようにして我々は移動を開始する。少しでも変な素振りを見せればすぐに動けるように警戒しながら。

 

 

 

 

 

 

 生徒会室にて彼らは訴えを取り下げ、晴れてこの事件は無かったことになった。これですべてが完了である。事態の収束を見届けると堀北はさっさと帰ってしまった。

 

「彼女はいつもああなんですかね?」

「ああ。平常運転だな」

「ふむ。これから苦労しそうだ。いや、それ故にDクラスなのかもしれませんが」

「今回の件は助かった。ポイントは契約通り必ず返す」

「まぁ気長に待つとしますよ」

 

 すっかり夕方になって空は茜色だ。着いてきていた一之瀬はスッキリしたような顔でベンチに座った。

 

「あ~スッキリした。Cクラスには色々ちょっかい出されてきたからね。諸葛君のシナリオ通りになって、かなり爽快だったよ」

「それは良かったです」

 

 ふぅ~と彼女はため息を吐き、腕を伸ばした。

 

「でも、諸葛君が手ごわいのは知ってたけど、綾小路君たちがCクラスに上がってきたらこれまた手ごわいライバルになりそうだね」

「そんな日がもし来たら、な」

「堀北さんがBクラスだったら、私たちはすぐにAクラスだったかも」

「かもな」

 

 綾小路は当たり障りのない回答をしていく。確かに、これでDクラスにも逸材はいる事が分かった。堀北は性格に難ありと言えども、それはウチのクラスの坂柳も同じ。むしろ堀北の方がマシかもしれないが……それはさておき彼女も十分脅威になるだろう。私は別にどのクラスでも構わないと言えば構わないが、好き好んで下に行きたい訳ではない。

 

 解散の雰囲気になった時に綾小路の電話が鳴る。

 

「佐倉……?」

 

 画面を見た時の彼の呟きに反応してしまう。佐倉。その名は今水面下で発生している事件の被害者の名だった。電話口からはまるで手で口を押えられているかのような曇った声。そして携帯が床に落ちる音。それだけが響いて、切れた。

 

 一瞬時が止まり、1つの判断に辿り着く。遂に事が起こったのだ、と。綾小路は走り出す。間違いない、彼も彼女が受けている被害を知っていた。続いて私も走り出す。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 

 一之瀬が突然走り出した我々を理由も知らないだろうに追いかけてくる。しかし、この綾小路という男、見かけによらずかなり足が速い。とは言え、こちらも雪山やら四国の野山やらで走ってきた身。速度では負けるつもりはない。

 

「佐倉さんという事は、例のストーカーですか? 電気屋の」

「ああ……そうだ……どうしてそれを?」

 

 全力疾走で走りながら話しかければ、息を区切りながら彼は答えた。なおも疾走中である。一之瀬は後ろからなんとか追いついていた。彼女が陸上部だったのは既に仕入れた情報だ。相変わらず遅々として不登校の理由は明らかになっていないが、それ以外は大分手に入って来ていた。

 

「偶然私の友人が外出した際にストーカーがポストに手紙を投函している姿を目撃しましてね。その部屋番号から佐倉さんの名前が分かり、色々調べてストーカーの所在が分かったんですよ。この学校の施設の人間なんて限られてますから。早々に動こうと思っていたんですが、まさかこうも動きが早いとは。私としたことが遅きに失しました。それで彼女は今どこに?」

「ショッピングモールの、電気屋裏の、搬入口だ」

「了解!」

 

 用意してきた理由を答えれば彼は納得したようだった。別に不自然さは何処にもないのだから信じざるを得ないだろう。彼女の位置は恐らく携帯の位置情報から。連絡先を交換している人間同士は位置を確認できる。私は切っているが、そうでなければ分かるはずだ。今回はそれが功を奏したのだろう。学校のガバガバ個人情報システムもたまには役に立つ。そう思いながら携帯を取り出し電話をかける。お目当ての人物はワンコールで出た。

 

「真澄さん、今どこに?」

「は?」

「例の件で緊急事態です。至急回答を」

「ショッピングモールだけど」

「それは好都合。直ちに電気屋の搬入口へ行ってください。恐らく最悪の事態一歩手前です。映像で記録を残してください。接触は絶対にしないように、気付かれてはいけません。後数分で到着します。警察も呼んで結構!貴女なら出来ますね!?」

「分かった、すぐ行く!」

「ええ、信じていますよ」

 

 最後の私の言葉が終わるのを待たずに電話は切れる。それと同時に走り出す足音が聞こえた。彼女は彼女なりの正義感を持って走り出したのだろう。

 

「これで大丈夫のはずです。急ぎましょう。最悪を防ぐために」

「ああ」

「綾小路君は精神的におかしい人間が刃物を振り回している状況に遭遇したことは?」

「いや、無いが」

「そうですか。お気を付けを。こういう行為をする人間は、どこかしらネジが吹っ飛んでいるものですから。刃物を持っている可能性もありますからね」

「あ、ああ……よく走りながら平然と喋れるな」

「慣れてますので!」

 

 そう告げてまた加速した。いいタイミングで事が起きてくれたと歓喜しながら。

 

 

 

 

 電気屋の裏の搬入口。その狭い通路では1人の中肉中背の男が気持ち悪い台詞を吐きながら女子生徒に覆いかぶさっている。恐怖と怒りと色んな感情にぐちゃぐちゃになりながら彼女は男を見る。その敵意に一瞬ひるみ、男は激昂した。

 

「そんな目で僕を見るなぁぁ!!」

 

 ガシッと両手首を抑える。脚での必死の抵抗も、彼にとってすればスパイスだった。悲鳴も抵抗の声も。

 

「いい今から、ぼ僕が本当の愛を教えてあげるよ……。そうすれば、ししし、雫ちゃんもわ、分かってく、くくくれるはずだよ……」

 

 吐息がかかるくらいまで顔を近づけて、歪んだ愛を囁く男。その魔の手は彼女の胸に延ばされる。凶行に及ばれるのは確実。それに彼女が絶望しかけた時。

 

 カシャリとシャッター音がした。それは彼女にとっては女神の福音のように思えただろう。そして同時にストーカー男にとっては有罪を告げる断罪の鐘の音だった。

 

 

 

 

 

「家電量販店の店員が女子高生に乱暴。明日はテレビで、一躍有名人だな」

「ち、違う!これはっ!」

「何が違うんです? 証拠はバッチリ撮影済みですが」

 

 綾小路が携帯片手に冷徹に告げる。否定するストーカーを追い詰めるべく、私が続けた。私の言葉に応えるように、我々の背後からここまでの流れを撮影していた真澄さんがカメラのレンズを向けながらチラリと顔を覗かせる。しかも近くには監視カメラも複数。証拠はバッチリだ。

 

「未成年に性的暴行未遂ですか? これまでのストーキング行為もセットですからね。どう頑張っても刑事告発されて失職。家族の家までマスコミが押し寄せ、実名付きで報道。卒業アルバムまで晒されるんですかね。一躍有名人ですね、東亜電気社員、楠田ゆきつさん?」

「あんた、人生終わったな」

 

 綾小路が肩を掴む。通路の反対側には立ちはだかるように一之瀬が立っている。サイレンの音もする。被害者の佐倉は隙をついて男の側から脱出し、今は真澄さんが保護している。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

 

 諦めたように項垂れていた男がいきなり叫び綾小路を突き飛ばす。不意を突かれてやや後退した彼を振り払い、男が忍ばせていたナイフを出す。やはりと言うべきか、被害者に決死の抵抗をされた際にはそれで脅すつもりだったのだろう。場に一気に緊張感が走る。ナイフというのはかなり危ない凶器だ。しかも素人が使っているほど動きが読めない。軍人ですらどこの国の者であっても危険視する。

 

「ち、近づくな! それ以上寄ったら刺すぞぉ!」

 

 四方八方にそれを振り回しながら男は目で一之瀬に狙いを定めたようだった。実に的確だ。こういう時にそう言う判断は出来るのが腹立たしい。一番弱いのは明らかに彼女である。死人が出る前に片付けないといけない。一瞬だけ、視線が再度一之瀬に向く。その隙を狙って一気に間を詰めた。

 

 こちらを視界に捉えたようだが、私に言わせれば遅い。足でナイフを持った手ごと横に蹴飛ばす。男の手首が派手に曲がり、ナイフが弾き飛ばされた。続けざまに簪を抜き放ち首元に当てる。

 

「動くな。これ以上抵抗すると指の骨を全部折った後に目をくり抜いて東京湾に沈めるぞ」

 

 激痛に悶えながら首筋からスーッと流れ出した血を認識したのか、男は小さく悲鳴を上げて気を失った。その股間からは液体が漏れ出している。何をどう考えても失禁していた。思わず飛びのいてその場を離れる。

 

「うわっ! 汚いなぁ……人間性も行動も言動も汚いとか救いようがないですね」

「お前、凄いな……」

「田舎には突進してくる猪という名の害獣やらがいますので。荒事には多少慣れています。私に言わせれば、猪やら熊の方が恐ろしいですね」

「そ、そうなのか……」

 

 綾小路が少し引き気味に見ている。それはさておき、警察が来たようだ。一之瀬と真澄さんが応対している。気絶しているまますぐに連行されていった。事情聴取のために我々も同行を求められている。被害者の佐倉は警察から別日を提案されていたが、気丈にも今日応じるようだ。

 

「これで佐倉の件は一件落着か」

「一件落着? 何を言っているんですか綾小路君」

「?」

 

 何を言っているんだ? と言いたげな彼の空気を感じながら私は冷静に、淡々と答える。いつも通り、少しだけ上がった口角によって作りだされる人当たりの良さそうな顔をしながら。

 

「むしろここからが本番ですよ」




<報告>
 ストーカーは逮捕された。ひとまずのイレギュラー要素は排除したと言っていいだろう。

<要求>
 東亜電気の内部資料を送られたし。ついでに関係各所に根回しを。賠償請求問題になる可能性もあるが、その際支払いを拒むようなら提示しないといけない。早急に求む。

<返信>
 承知した。
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