ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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借りて支払うつもりのないものは、契約条件に気を配らない。

『ドン・キホーテ』


20.総大将

 日差しの降り注ぐ南の島。我々159名は優雅な客船生活から放り出され、無人島での生活を強いられることになった。漏れ出た不満は抑え込まれ、否応なしに動くことを強いられる。細々としたルールが話され、解散宣言がなされる。

 

「ルール説明は以上だ。これからは各クラスの担任が窓口になる。質問等があればそこで聞くように」

 

 先生はそのままAクラスのところにやって来ると、腕時計を配り始める。この手の監視装置にいい思い出は無いが、外すとペナルティと言われてはしょうがない。その後にトイレの説明を始めた。被災時の時に使う簡易トイレ。これには男女問わずに閉口している者が多い。

 

「これからお前たちは自由だ。ベースキャンプが決まったら報告してくれ。その近くにテントを構える。また、リーダーが決まったら報告をすること。その際にリーダーの名前が刻印されたキーカードを支給する。期限は今日の夜の点呼までだ。もし決めきれないようならこちらでランダムに決めることになる。今の段階で質問のある者は?」

「先生、質問よろしいでしょうか」

「良いぞ」

 

 周りのクラスの生徒がこちらの話を聞いていない事を視線の隅で確認して、質問を行う。

 

「ありがとうございます。リタイアの理由などは適当でも良いのでしょうか」

「リーダー以外の生徒は正直それでも構わない。ただし、リーダーは正当な理由なくしてはリタイア出来ない」

「なるほど。ポイントにマイナスの域はありますか?」

「いや、存在しない。0になればそれから何をしようともポイントマイナスのペナルティはない」

「では、もう1つだけ。偶然手慰みに作っていたキーカードもどきを他クラスが勝手に本物と誤解した場合はどうなりますか?」

「……特に罪に問われる事は無いだろう」

「分かりました。ありがとうございます」

「この段階で他に質問のある者はいるか?いないようならば始めてくれ」

 

 本格的な開始宣言がなされる。この試験においてまず指導者の存在は欠かせないだろう。それが=リーダーであるかは別として、指揮系統のない組織は危険である。そして、その点有利なのはBとCだ。彼らはそれぞれ一之瀬のカリスマと龍園の暴力的統治に従うことになるだろう。

 

 反面Dクラスはバラバラ。しかし、彼らも上手く協力することができればある意味一番民主的な生活が可能かもしれない。トラブルも多そうだが、乗り越えられればいい成長になるだろう。と考えると一番危険なのがAクラスだろうか。政治的内戦状態の中、片方が不在。ともすれば必然的にもう片方が音頭を取りやすくなる。そうなると坂柳派は面白くないだろう。

 

 だが、誰が主導権を握るかうんぬんよりもまず拠点を決める必要がある。この炎天下の中で話し合いをしても何の成果も無いだろうからだ。それに、まず自分の拠点を決めてから作戦行動を行うのは基本中の基本である。出来れば雨風をしのげるところ。それは同時に太陽を防ぐことにもつながる。日焼けもそうだが、暑さは天敵だ。熱中症などにも気を付ける必要が出てしまう。そう考えれば行き先は1つだった。

 

「リーダー決めも大事ですが、まずは移動しませんか。こんな暑い中で話していても疲れるだけでしょう。葛城君、目星はついていますね?」

「あぁ。先ほど船上からスポットと思われる場所を見つけている。山の中腹に洞窟があった。拠点としては最適だと思う」

「では早急に移動しましょう」

 

 私の発案に葛城を巻き込む。このまま均衡を保っていて欲しい私としては葛城にここで失敗されても困るのだ。サポートしていくしかないだろう。しかし表立ってやり過ぎると反対派の反発を買う。あくまでも中立的に。それが第一だ。

 

 

 

 

 15~20分ほど歩けば、森が開け山肌が露出する。そこに洞窟の入り口があった。支給されている懐中電灯をつけ、中を確認する。表からは分からないが、かなり広い。大きな部屋と呼ぶべき場所が3つ。一番奥にある下り坂を下れば細い地下水脈が流れていた。小さい隙間もあるので、空気は流れている。焚火などをしても、一酸化炭素中毒になる事は無いだろう。水を確保できたのは大きい事だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そして真ん中にスポットマシーン。ここにカードをかざすことで占有が出来るという寸法だ。リーダーになるかはともかく、この試験を指揮できる存在は3人。まずは葛城派の首魁・葛城康平。そして坂柳のいない今、坂柳派のナンバー2である橋本正義。集団に溶け込むのが上手く、能力も高い男だ。やや軽薄なところはあるが、それでも坂柳の右腕である事に変わりは無いだろう。そして3人目が私・諸葛孔明。葛城も橋本も反対派がいるのに対し、現状人望ではこの2人を凌駕していると自負している。自然と我々3人の中から選ぶ空気になった。

 

「さて、この状況下。指揮官不在ではどんな優秀なクラスであろうとも瓦解してしまうでしょう。司令塔は必須。どうしますか?」

「俺はリーダーっていう器じゃねぇな。カードに名前書くだけならまだしもよ。7日間俺を除いて38人を導けって言うのは無理があると思ってるぜ」

 

 坂柳不在の中、下手なことは出来ない。万が一やらかした場合、今後彼の被る災難は想像するにあまりある。彼は賢い男だ。それに、ここで葛城に指導者をやらせて失敗に追い込み、追い落とすことも可能だ。方法は簡単。他クラスのスポットをわざと誤使用すれば良い。それだけであっという間にポイントは無くなるだろうからだ。

 

「……俺は諸葛に任せるべきだと思っている」

「へぇ?そりゃどういう風の吹き回しだ、葛城。ウチの姫さんがいない今、お前がやるもんだとばかり思っていたが」

「俺も出来る事ならばこの手で、という思いはある。橋本、お前も謙遜しているが出来ない訳では無いだろう。だが、どちらが主導権を握っても、必ず不満を持つ者が出る。今回の試験は他クラスとの差を開くためには重要だ。そこでいがみ合い、結果が振るわないという事態になるくらいならば個人的なことは捨てるべきと考えた」

「……そうか。それなら異存はないぜ。ここまで聞いてどうなんだ? 孔明センセ」

 

 もし2人のうちどちらかが指揮することになったとしても上手くまとめる自信はあった。しかし、こうなることも勿論予想している。そして出来ない訳がない。とは言え、ガツガツ行くのは彼らの求める諸葛孔明のキャラクターに合わない。あくまでも向こうから推挙してくるようであれば引き受ける。そのつもりであり、そして今そうなっていた。

 

「分かりました。ここで断るのも角が立つというもの。不肖この諸葛孔明、指揮を執らせて頂きたく思います」

 

 洞窟内に大きな拍手が起こる。対立している派閥だってずっとバチバチしていたいのは少数派だ。それ故に、私の指示に従えば少なくとも対立とかは特になく、平和に暮らせる。そう思っている者も多かった。人は楽な方に流される。そして彼らも楽な道である平穏を求め、私を推戴したのだった。

 

「私の基本方針は1つ。皆さんが無事に試験を終了できることです。勿論、ポイントにおいて他クラスに勝つ事。これも重要でしょう。しかし、この通常と異なる空間では何が起こるか分かりません。ですので、安全と無事を最優先します。もし敗れるとも、まだまだリベンジの時は残されているのですから。そのことにどうかご理解いただきたい。その上で、少なくとも無様な敗北とはならない結果をお約束しましょう」

 

 女子の中の何人かがホッとした表情を見せる。少なくともポイント温存のために無理を強いられる可能性は少ないと思ったのだろう。実際、そうする気は無い。

 

「さて、指揮を任された後ではありますが、皆さんに問います。この試験の方向性についてです。選択肢は3つ。1つ目は真面目に節約しながら暮らすというものです。この際、他クラスのリーダー当てなどの一定のリスクを伴う行為は行いません。極めて堅実で、手堅い方法でしょう。幸い、この洞窟の入り口は1つ。ビニールシート等で被えば中は見えません。続いて2つ目は、1つ目と違い他クラスのリーダー当てなどの行為も積極的に行う方法です。勿論、リスクも伴いますがリターンも大きいでしょう。3つ目は試験の放棄です。ポイントを全て吐き出し数日遊興を行い、飽きたらリタイアする。その場合、私は少なくとも島に残ってリーダー当てなどを行いますが、皆さんは船内でバカンスです。1番楽な方法でしょう」

 

 どれにしますか、との問いに各々考え込んでいる。楽な方法に心惹かれる者も多いだろうが、別にそれならそれで構わない。私が1人で暴れまわる事が可能ならば、それはむしろ好都合だ。

 

「自分の意見は固まりましたか?私は皆さんの自主性を重んじているのでその決定に従い、皆さんの望む方法に従って策を立てるまでです。どうぞ、好きな物をお選びください。では、目を閉じて。……よろしいですか?まず1つ目が良い方」

 

 10人弱くらいがこれを選択した。悪くない選択肢だ。閉じこもっているだけに思えるかもしれないが、これが選ばれた場合は他クラスがつぶし合うように仕向けるつもりだったので問題ない。

 

「次に2つ目が良い方」

 

 今度は30人が手を挙げる。やはりこれが1番ベストと思ったのだろう。遊び惚けてリタイアはAクラスのプライドが許さなかったらしい。

 

「最後に3つ目」

 

 一応聞く。まぁいないと思ったが……と苦笑していたらピンと真澄さんだけ手を挙げてる。かなり真面目な顔で目を閉じているので冗談なのか判別がつかない。どうせ他に誰もいないだろうから手を挙げたのではないだろうか。もしくは、全部私に丸投げした方が上手く行くと考えているのかもしれない。どっちにしろ後で尋問だ。

 

「下ろしてください。ありがとうございました。目を開けて下さって結構です。結果、2つ目の方策が選択されました。反対の方もいるかもしれませんが、皆さんでお決めになった事ですので、普段の主義主張を横に置き、協力し合って難局を乗り越えましょう。この孔明、微力ながら皆さんのために粉骨砕身するつもりです」

 

 また拍手が起こる。優雅に一礼して次の話題に移る。

 

「今回の試験、ある程度のポイント消費は必要経費でしょう。まぁ半分ほど残ればベストですね。後は他クラスのリーダー当てを行う事がやはり大事になるはずです。試験における重要事項の基本骨子はこんなところでしょうか。何かご質問のある方は?」

「リーダーは結局誰がやるんだ?」

「ああ、橋本君、それについてですが……私がやります」

 

 若干のざわめきが起きる。それは通常では悪手に近い選択だからだ。

 

「でも……孔明先生、それだとすぐバレちゃうんじゃないかな」

「そうだぜ、葛城にしろ孔明先生にしろ、有名人をリーダーにするのはリスクが高いと思うが」

 

 次々と疑問が噴出してくる。良い事だ。リーダーの言う事に思考停止して従っているわけではない。疑問はちゃんと口に出して聞いておく。そうすることで集団の雰囲気も作業効率も上がる。疑問や質問を口にできるという事はそれだけ風通しが良い事の証左になるからだ。

 

「勿論、その可能性は高いでしょう。すぐに露見してしまうかもしれません。ですが、ご安心ください。既に敗北しないための道筋は見えています」

 

 むしろ露見してくれた方が助かる。どう頑張っても最終日の朝までは指名できないのだから。むしろどんどんバレてくれ。

 

「ま、良いんじゃないか。孔明センセがそこまで言うんだ。さぞ自信があるんだろう。信じて任せてみようぜ」

 

 橋本の言葉で空気が変わる。確かにそうかも……という声も聞こえ始めた。

 

「ああ、そうそう。1つ言い忘れていましたが個人的な契約の都合上、DクラスはAクラスを攻撃できません。先の暴力事件の際に恩を売っておいた甲斐があったという物です。ですので、BとCの動きに注意を払って参りましょう。ただ、このことは内密に。よろしいですね?」

 

 今度クラス内に走ったのは衝撃。暴力事件と今回の試験を結び付けて有利に立ち回れるようにしようと考えが及んだ人間はこの中にはいないようだ。先見性はクラスポイントシステムを看破した時から変わらず健在という事が示せたのなら万々歳。

 

 

 

 

 そうこうしていると先生がやって来る。

 

「テントを運ぶ場所はここで良いのか」

「ええ、ここにお願いします」

「分かった。運営に伝えておく。リーダーは決まったか?」

「はい。僭越ながら私が務めさせて頂きます」

「そうか。後でキーカードを渡す。取りに来てくれ」

 

 先生は少し意外そうな顔をしながら了承の返事を返した。ついでに先生に言わなければならないことがあるので、一緒に済ませてしまおう。

 

「先生、少しよろしいですか」

「構わないが、どうした」

「皆さんもどうかお聞きください。では、先生、本題の前に1つお答えいただきたい。先ほど、全体でのルール説明の際に欠席者についてのお話をされていましたよね。何と仰いましたか?」

「欠席者についてか? 『特別試験のルールでは、体調不良などでリタイアした者がいるクラスはマイナス30ポイントのペナルティを与える決まりになっている。その為Aクラスのポイントから30を引く。』……とこう言ったはずだ」

「それはマニュアルでそういう台本になっているのですか?」

「ああ。そうだが」

「その台本は運営が作成したものですか?」

「それもその通りだ」

 

 だからどうしたんだ、という空気が蔓延している。私の質問は一見すると何の意味もない物に見える。まるで言われたことを忘れてしまったかのようにも想えるかもしれない。

 

「ペナルティ……なるほどペナルティですか。真澄さん、ペナルティを和訳すると?」

「なんで私に振るのよ……罰って意味だけど?」

「そう、その通りです。罰。ドストエフスキーの小説に代表されるようにしばしば罪と罰はセットで扱われます。罰が下されるのには、それを受ける原因となった(ギルティ)が存在しているはずですよね? 確かに、体調不良は罪だと言えるかもしれません。例えば、入試本番にて体調不良で試験が受けられなくてもそれは本人の責任ですし、自己管理が劣っていたと言えてしまうかもしれません」

 

 私が何を言いたいのか、全員よく分からないという顔をしている。もう少し察しが良いと助かるのだが、それをおくびにも出さずに私は話を続けた。ここまではまだ、前座である。

 

「では、坂柳さんは何の罪を犯したのでしょうか。彼女が欠席している理由はドクターストップによるもの。しかもそれは今日昨日に始まったものではなく生まれ持った疾患です。にも拘らず何の配慮も見せず普通の体調不良者と同じくくりでペナルティ、すなわち罰という単語を使う。そしてAクラスにそれを科す。まるでその疾患が罪だと言わんばかりに。これは立派な差別ではありませんか? 彼女が何の罪を犯したのでしょう。産まれてきた事が罪だと? 私は、彼女と生活を共にするクラスメイトとして学校側の認識を問わなくてはいけないと考えています」

「……ルールはあらかじめ定められていたものだ。容易に変更は出来ない。また、1人を特別扱いは出来ないだろう。条件は平等でなくてはいけない。Aクラスだけ不参加者がいるにも拘わらずノーペナルティは無理だ」

「先生、そもそも配慮を怠っている時点で平等ではありませんよ。例えば目が見えない方のために点字ブロックを作る。車椅子の方のためにスロープやエレベーターを設置する。これは特別扱いなのでしょうか。決してそうでは無いはずです。これらはこの世界に存在しているハンディキャップを抱えた方も健常者と同じように生活を営めるようにするための配慮です。これをしてやっと平等と辛うじて言う事が出来るでしょう。その配慮が全く見られないとは思いませんか」

「お前も分かっているように、ここは実力至上主義だ。それもまた……」

「実力であると? ですが、ここは教育機関です。幾ら実力至上主義を謳っていても、教育機関であるこの学校はそういった配慮を行う事を必要としているのではありませんか? 高校はそのルールに従って行動している生徒を守る義務があるはずです。彼女は何のルール違反も犯していません。そもそも、この試験があると分かっていて、何の対策もせず、入学させたのは学校側ではありませんか。試験の際に参加できないと分かっているのならば、それの代替となるような手段を用意しておくべきではありませんか? それが真の平等というものでしょう。と言うのに、それを放棄し、我々を無人島に放り出し、クラスメイトを差別する。こんな状況を許していいのでしょうか?」

 

 全体に問いかければ確かに問題かもしれない、という声が散見される。人道的配慮やら障碍者差別云々は世間の目を恐れる事には外の学校と変わりのないこの学校の弱い点でもあるはずだ。幾ら実力至上主義を謳っていても、逃れられないものは存在する。ポリコレとかがそのいい例だ。今の時代、そういう平等性やらの部分は凄く厳しくなっている。問題にされてはたまらないのだろう。先生が返答に詰まっている。そして、坂柳派が尊敬の目を向けているのに若干笑いそうになる。別にこんな事言わなくても良いのだが、個人的な趣味だ。

 

「……」

「確かに坂柳さんは強い方です。ですので、多少色々あっても問題ないかもしれません。しかし、今後も同じような生徒が入学してこないとは限りませんよね。しかしその時の生徒は坂柳さんほど強くないかもしれません。もしかしたらイジメの原因になってしまうかもしれません。学校側の無配慮によって起こらなくてもいいはずのことが起こってしまうかもしれない。そういう可能性を持っているとしっかり考慮するべきだったのではありませんか?」

「その言い分は間違っていないと認めよう。その上でお前は何を希望する」

「1番良いのは彼女が参加できるよう学校側が手を尽くす事でしたが、今となってはもう遅いので仕方ありません。ですので、代替の試験を用意するくらいでしょうか。創造性を問われる自由度の高い試験でも出してみれば良いかと。どうせストックくらいあるでしょうから」

「……分かった。運営と話してくる。結果が出るまでは少し時間がかかるだろうから、その間は別の事をしているように」

「ありがとうございます。先生ならば、そうして下さると信じていました」

 

 元々先生も不本意だったところはあるのだろう。運営側も、理事長の娘だから特別扱いしていると思われたくないあまりにやり過ぎたと言ったところだ。ここはきっちり抗議して謝罪とペナルティの撤回をさせる。それが目的だった。正直坂柳がどうこうというのは心底どうでも良いが、利用できるのなら利用してしまった方が好都合だ。甘んじて可哀想な人になって貰おう。

 

 先生は洞窟を後にして、本部のある場所へと向かっていった。

 

「すみません、やや時間を取り過ぎました。これより皆さんをいくつかのグループに分けます。呼ばれた方は協力して島の探索を行ってきてください。恐らく、食料などが確保できる場所が存在しているはずですので」

 

 こちらで勝手に割り振ったメンバーを島の各地に派遣していく。大体2~4人のグループだ。両派閥を一緒に行動させることで相互監視になるだろう。ついでに交流してこい、というのが狙いだ。ただし、数人はここに残し、運営から運ばれてくるだろうテントの設営や基本的な生活環境の整備を行う事にする。分業体制こそ、人類の産み出した効率的な作業のための叡智だ。

 

 

 

 

 

「らしくないわね。あんな演説して、先生まで巻き込むなんて」

 

 クラスメイトを方々へ派遣した後、テントが運ばれる。それの設営をしている時、真澄さんはそう言った。洞窟内に残った面子は少ない。その面々も今は作業に集中していてこちらの会話を聞いている者はいない。彼女は私の代役として女子側の統括役になってもらう必要があるだろう。幸い、寝るときの空間くらいは分けられるだろうから、男子の入れない場所を作りトラブルを未然に防ぐ目的がある。しかし、そうはいっても代表者は必要だろうから、その役目を担ってもらう事になる。心底嫌そうだったが渋々引き受けてくれた。

 

「ペナルティを減らすために動いただけだ」

「そう? 私には個人的な感情からの行動に見えたけど」

「そういう側面がある事は否定しない。坂柳のようなプライドの高い人物が嫌いな事は何だと思う?」

「……馬鹿にされること?」

「惜しいな。正解は憐れまれることだ。可哀想な人と思われることに屈辱を感じるだろう。だから、日頃の意趣返しということで可哀想な人になって貰った。ついでに学校を仮想敵にすることも目的だったがな」

「仮想敵……意味は分かるけどそれ必要なの?」

「必要だとも。共通の敵を持てば集団は団結するだろう? 特別試験の存在はみんな事前に分かっていた。でもこんな風に無人島でサバイバルだと予測していた者は少数だ。予測出来ていたとしても喜んでいる者はいない。当然学校に無意識であっても悪感情を抱く。その燻ってる火にガソリンを撒きたかったのさ。現に坂柳派は自分の敬愛する指導者を貶した運営に敵意を持っている。葛城派だっていい気はしないだろうし、ここで余計なことを言うと自分が差別主義者のレッテルを貼られかねない。どっちみち良い事づくめだ」

「う~わ。じゃあもしうまく行ったらのんびり学校で優雅な夏休みをしている坂柳はいきなり個別試験に放り込まれるってわけ?」

「その通り。うーん、その時の感情を想像すると楽しいものがあるな」

「最低ね」

 

 言葉はきついが、彼女の目は呆れたように笑っている。どうも坂柳に微妙な苦手意識のある真澄さんからすれば少しスッとする思いなのかもしれない。

 

「孔明先生! ちょっと良いか? なんか外にヤバそうなのが来てて、葛城か諸葛を出せって言ってるんだが……」

 

 外に出て薪拾いを頼んでいたグループから伝令が来た。恐らく龍園だろう。BとDに確実に敵視されている以上、例えこの前ハメられた相手だとしてもAを頼らざるを得なかったのだろう。

 

「分かりました。すぐ行きます。真澄さんは待機で」

「了解」

 

 頑張れーとやる気のない返事をしながら彼女は手をひらひら振って見送ってきた。ずっと薄暗い洞窟にいたので、外に出ると眩しい。そこには傲岸不遜な顔をした龍園が立っていた。

 

「へぇ、お前が出てくるのか。葛城はどうした」

「彼は今探索中です」

「何……?あいつ、とんだチキンだなぁ。折角坂柳派を潰すチャンスだったのによ」

「彼の行動が英断か否か。それは結果だけが証明してくれるでしょう。尤も、定められた結果は勝利だけ。私が指揮を執るのです。当然の事でしょう」

「そうかよ。まぁそんな事はどうでも良い。俺には俺の目的がある」

「聞くだけ聞きましょうか」

 

 一切謙ることなく彼はこちらを見下しながら交渉内容を口にした。

 

「Aクラスと取引がしたい。Cクラスの物資をお前たちに提供する。ついでにBとDのリーダー情報もくれてやる。その代わりにお前たちは2万プライベートポイントを卒業まで毎月支払い続ける。どうだ?悪くない条件だとは思わないか」

「……」

「どうだ?今ならお前が坂柳派も葛城派も取り込んで一頭体制を作れるチャンスだ。それは分かってるだろう?どういう訳か葛城はお前に指揮権を譲った。坂柳はいない。坂柳派はその指導者がいなければ後は……なぁ?お前の能力なら鞍替えさせることも出来るだろうよ。乗るなら今だぜ」

 

 私の沈黙を思案、もしくは迷いと見たのか、龍園は誘い文句を述べてくる。確かに彼の言っているような事が不可能では無いのも事実。しかし、答えは交渉内容を聞いた時点から決まっている。なので、私はいい笑顔で答えてあげる事にした。

 

「お断りします」

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