ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

23 / 89
心というものは、それ自身一つの独自の世界なのだ。地獄を天国に変え、天国を地獄に変えうるものなのだ。

『失楽園』


21.勝ち方

「お断りします」

 

 そう告げた時の龍園の顔は中々に滑稽なものだった。どうやら断られるとは思っていなかったらしい。今まで私が両派閥の間でフラフラしてきたのはどうやらこういうときに一気に差すためだと思われていたようだ。実際はまったくもってそんな事は無い。単に指揮を執る気が無いからやっていなかっただけだ。私の目的はここを無事卒業する事と、学校についての監視。クラスを勝利させることではない。これでもしDクラス配属とかならばやる気も出たかもしれないが……。Aクラスは元々私が何もしなくても勝利するだろう。

 

 そうでなくても受ける理由は無い。物資の横流しとリーダー当ての報酬を考えれば一見するとお得に見える。だが永続的というのは良くない。卒業までの3年間、Cクラスにポイントを搾り取られ続ける状況は避けるべきだ。毎月一定額引かれるのはかなりのストレスになるだろうし、いざという時にこれのスリップダメージのせいで動けない可能性もある。未来に何があるか分からない以上、マイナスに働く可能性はきちんと考慮しておくべきなのは当然と言える。

 

 そもそも法論を持って来れば無効に出来そうな話だが。それに、我が祖国には99年間租借とかいう訳分からんものを押し付けられた記憶がある。永続的に権利を与えるのは嫌いなのだ。

 

「まぁもし物資をくれると言うのであれば使ってあげるのもやぶさかではありませんが」

「ハッ、そんな条件呑めるかよ」

「そもそも、貴方は交渉をしに来たのでしょう?私は、いわばお客のようなもの。反対に、貴方は私に対して物資の代わりにppを渡し続けるという契約を結ばせなくてはいけないセールスマンのようなものです。セールスマンがいきなり高圧的に迫って来て契約したいと思いますかね。私は思いませんが」

 

 それに、彼らは弱点を抱えている。

 

「Aクラスと直接事を構えなかったことは評価しましょう。とは言え、貴方は敵を作り過ぎた。BもDも貴方とは組まない。それに、我々だって先の暴力事件の仕掛け人が誰であるかを知っていますので」

「おいおい、証拠でもあるのかよ」

「いいえ。ですが、疑われた時点で負けです」

 

 心象という物は大事だ。もしそれが悪い状態でも契約したいのであれば、そうせざるを得ない状況に相手を追い込まなくてはいけない。

 

「まぁ悪い事は言いません。どうやって他クラスの情報を盗む気かは知りませんが、頑張って試験を真っ当にクリアすることですね。もしこれ以上何か無いのでしたら、早々にお引き取りを」

「……ああ、分かった。今は退いてやる」

 

 特に悔しそうな顔をするでもなく、龍園はあっさりと引き下がる。これ以上やっても成果が得られない事を悟ったのだろう。その判断の速さは素直に認めるべきところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟内に戻れば、テントの組み立てをしていたクラスメイト達が不安そうな顔をしている。Aクラス内にも勿論腕の立つ者はいるだろうが、それでも普通の生徒も多い。

 

「どうだった?」

「大したことではありませんよ。契約を持ちかけてきましたが、明らかに我々に損な内容の上に、態度も尊大。まともに取り合うに値しない内容でしたから」

 

 そう言えば納得してくれる。Cクラスは全体的にあまり良い噂を聞かない。Dクラスは単に成績の低さから馬鹿にされている感はあるが、Cはまたちょっと別種の扱いを受けている。トップがアレなので、割と粗暴な人の多いクラスなのだろう。とは言え、Dに配属されるほどでは無かった……もしくはより問題のある人がいたのでCになった可能性もある。

 

 さて、テントの設営は終わったようだが、1つ問題がある。8人用のテントだが、当然数が足りない。2つしか支給されていないので、強引に押し込んだとしても20人が限界だろう。体格の良い者ではそれだと入らない場合がある。ただし、ここは屋外ではない。いや、正確には屋外なのだが、疑似的な屋内になっている。雨風も日光も気にする必要はない。ともすれば、女子だけ押し込んでおけば良いような気もする。

 

「設置、終わったけど。この後どうすんの?」

「取り敢えず偵察組の帰還を待つ。そっからは諸々の物資を購入する」

「食事は……現地調達?」

「上空からの映像でトウモロコシなどが植わっているのは事前に確認した。それを回収する」

「抜かりないわね。私は結局何をしてれば良いの?」

「特に何も。Aクラスの女子は理知的な人が多い。そうそう問題も起きないだろう。一応監督だけしてくれればいい。それと、女子内にいる両派閥のメンバーに不審な動きがないかどうかの監視を」

「分かった。……一応Cクラスが何しにきたのか知りたいんだけど」

「物資と他クラスのリーダー情報の代わりに我々から毎月一定額のppを貰うという契約だった。しかし、今後何があるのか分からない状態の中、毎月一定額が引かれていくのはマイナスが多い。物資があると楽にはなるだろうが、一時の快楽の引き換えにしては失うものが多すぎる。だから断った」

「ふ~ん。でも、それで終わりって事は無いと思うんだけど」

「まぁそれはそうだろう。だが、今は39人を無事に試験終了まで導く土台作りが先だ」

 

 そうこうしているうちに、偵察組がぞくぞくと帰還してくる。その情報を組み合わせ、地図に書き込んでいくとこの島の全貌が明らかになってきた。スポットはここを含めて全部で16。便宜上、これらにA~Pまでの番号を振っていく。自分達のいるこの洞窟がAなのは言うまでもない。

 

 全員の帰還を確認して、一度集合してもらう。

 

「まずは偵察ありがとうございました。これより、必要な物資に関しての話をしましょう。まずはトイレ。これは必須であると考えます。公衆衛生の観点からも、ストレス面の観点からも。先ほども言ったようにある程度の損失は受け入れるべきですから。また、同じ点からシャワー室も必要でしょう。なにか反対意見のある方は?」 

 

 特にいない。性別に拘わらず、被災用のトイレは嫌だと思うのが先進国で長年生きてきた人間の感情という物だろう。産まれた頃から水洗トイレの人間にはキツイ物があるはずだ。私に言わせればあるだけマシなのだが。これでマイナス25ポイント。トイレが20ポイントでシャワー室が5ポイントらしい。

 

「分かりました。この後注文しておきます。設置場所は入り口のすぐ横に置いておくので。では次に、テントは2つしかありません。8人用とありますが、まぁ女子ならば10人くらいは入るでしょう。ここは雨風のしのげる場所ですので、テントが無くてもまぁ何とかはなると思いますが、誰が使用しますか?」

 

 様々な意見が飛び出る。男子と女子に1つずつという意見。もしくは女子に譲ってしまうという意見等々。追加で購入した方が良いとする者もいるし、雨風がしのげる洞窟内なので、ある程度は我慢すべきだとする者もいる。幸い洞窟内に部屋は3つある。今いるのは一番大きい、入り口から真っすぐ進んだ部屋。その両脇に部屋がある。入り口にビニールシートで遮蔽を作れば、疑似的な扉になるだろう。異性の目を気にする必要も無くなるはずだ。

 

 なんにせよ誰かがバシッとこうすると決めていることの多い我がクラスでは活発な意見交流の場は少ない。大体身内で固まってしまうのだが、今はそうも言っていられないのだろう。なので、ちゃんと話し合えている。そこら辺理性的で助かる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「仕切りは作るだろうが、女子に譲った方が良いのではないか」という葛城の意見が通ったようだ。なるべくストレスフリーな状態にした方が良いのは事実。女子はどうしても体力的なものや性別の違いで必要な事が出てくる。ともすれば、しっかりここは譲った方が良いとの判断だったのだろう。

 

 それに、女子側も権利を主張するだけではない冷静さがある。家事面では男子を上回っていることも多い。協力することが何より必要な事だろう。

 

「それでは、2つのテントが今置かれている入り口から見て右側の部屋を女子の部屋にしましょう。後でビニールシートを貰ってくるので工作をお願いします。後、男子諸君もちゃんと寝床に関しては考えてあるのでご安心を。簡易トイレ用のビニール袋は無限に貰えるらしいので、大量発注すればいいと考えています。これを使えば、地面にそのまま寝る痛みはかなり軽減されるので。その上、膨らませて布でくるめば枕にもなりえるでしょう。結構大きな袋だったので、出来るはずです」

 

 最大の目的である雨風を凌ぐ、は既に達成されているので、特に文句も出ない。段ボールがあると楽だったんだがな。いや、待て。支給品を運んできた段ボールが大量にあったはず。あれの行き先がゴミ箱なら回収できるかもしれない。後で聞いてみよう。

 

「では、最後に。肝心な今日の食糧ですが、先ほどの探索で幾つか畑を見つけて下さった方々がいるようなので、回収してきていただきたい。それ以外にも、食せる果実などが多くありますので。ただし、キノコは回収しないように。これは志願制にしたいと思いますので、行って下さる方はいますか?」

 

 男子数名が手を挙げる。

 

「分かりました。地図をお渡し致します。また、念のため懐中電灯も。暗くなる前に戻って来て下さい。ビニール袋は未使用の簡易トイレの物を使えば楽でしょう。もし必要ならば好きなように。残った方は取り敢えず焚き火用の木の枝を拾ったりとやる事はあります。協力して動いていきましょう。その間私はスポット占有をしてきますので、何かありましたら真澄さんに指示を仰いでくださいね。では、解散です!」

 

 パンと手を叩けば一斉に人が動き出す。真澄さんの抗議の目が凄かったが、無視して行くことにした。

 

 

 

 

 

 真夏の森は鬱蒼としている。その中を駆けていく。スポットの場所は既に地図で把握した。近場から順番に。別に誰かに見られたところで大して気にする必要はないのだ。その点において、こちらはすたこらと動くことができる。他クラスは恐らく占有時は複数人で動いて誤魔化す作戦に出るはずなので、優位性がある。

 

「あれか……」

 

 森の中に不自然極まりない装置。これはどういう仕組みで動いているのだろうか。試しに見つけた物の近くの地面を削ってみるが、特に何もでない。恐らく地中深くにケーブルが繋がっているのだろう。と、言う事は電源装置がどこかにあるのか?流石に電池式という事は無いだろうから。

 

 近場の4つの占有が完了する。現在時刻は午後4時25分。8時間で切れると言っていたから、次は深夜か。それは問題ない。深夜でも動けるように私がこうしてリーダーをやっているのだから。

 

 これ、もし仮にどこかのクラスがベースキャンプに定めている場所の占有権が夜中に切れるのを見計らって占有出来たりしないのだろうか。そうすると1クラス全員がこの場合Aクラスのスポットを許可なく使用しているとしてマイナス50を与えられる。と、考えたがそんなヘマは犯さないだろう。多分。

 

 5つ目を占有し、6つ目に到達した時点での時刻は午後4時35分。そこを占有しようとした時に人気を感じる。視界内にいないという事はまだ向こうも恐らくこちらを視認できていない。もしスポット占有のために来ている別クラスだったら確認できるのではないか。そう考え、木の上にサッと上る。しっかりとした木なので、上の方にいても落ちる事は無いだろう。

 

 息を殺すのは慣れている。数分後、聞いたことのある声が聞こえてきた。Bクラスの面々である。なるほど、この近くに井戸のスポットがあるという話をしていた。そしてそこにBクラスがいるのを先ほど遠くから偵察組が確認している。ベースキャンプ設置が終わったのでスポット占有に動き始めた、という事か。

 

 Cクラスは海岸にベースキャンプを張っている。ここもスポットの1つだ。Dは……よくわからなかったようだ。途中でDクラスの偵察隊と思しきグループと接触したが、ベースキャンプの位置は定まっていなかったと思われる、という報告を受けている。

 

「あ、ここかぁ。これで2つ目だね……。ベースキャンプ作りに思った以上に時間かけちゃったかなぁ」

「いや、そんな事は無いだろう。しっかりと意思疎通をした上で土台造りから堅実に。俺たちBクラスらしい作戦だ。得意なことを活かしてやれば良いさ」

「だねぇ。今回の試験だと、Dクラスは簡易的な同盟があるし、Cクラスに注意かなぁ」

「Aは坂柳がいない以上、葛城が率いるのが普通か。ならば、そう問題行動はしないだろうし、奇抜な作戦も取らないだろう。ただ……」

「うん。諸葛君が参謀役を引き受けちゃうと苦しいかなぁ。坂柳さんについてる子たちも葛城君についてる子たちも、どっちからも人望あるもんなぁ。ちょっと反則気味だよ」

「それを言うなら一之瀬、お前だってそうじゃないか」

「う~んそうだと良いんだけどね」

 

 一之瀬と神崎。その後ろには女子数名。これがBクラスの主力部隊だろうか。今のところ私の存在に誰も気付いていない。これでバレたら私の立場が無いので正直安心した。特殊軍人舐めるな、と言ったところか。

 

 周囲を警戒して、誰もいない事を確認した彼らはスポットの周りに立った。

 

「じゃあ、千尋ちゃん、お願いできるかな」

「はい、分かりました」

 

 千尋、と呼ばれた女子生徒がカードをかざす。これでBクラスのリーダーは判明した。そのまま会話を続ける彼らが十分に離れ、声も気配も感じ取れなくなったところで地面に降りる。

 

 もしかしたらこちらの存在に気付いてブラフとして占有したフリをしている可能性もあったが、特にそんな事は無く装置にはしっかりとBクラスと書かれていた。まずは1人。しかし最終日まで油断は出来ない。リーダーだってリタイア可能なのだから。

 

 さて、温厚な彼らを騙すのは心苦しいが、ちょっと先回りするとしよう。再び山野を駆け、偶然出会った風を装うのだ。あと、これ現状の私は普通にBクラスのスポットを無断使用している。バレるとマズい。彼らの歩みは決して早くは無いのですぐに出会えた。

 

「おや。一之瀬さんと神崎君。貴方がたもスポット占有ですか?」

「あ、諸葛君。今はスポット探しかなぁ。まだ占有とかそういうのは出来そうにないよ。ベースキャンプも途中だしね」

「そうですか。クラスを率いるのは大変でしょうからね。心中お察しします」

 

 コイツ、サラッと嘘を吐いたな。確かにそうだと言ってしまうとこの中の数名からリーダーがいる事が当てられてしまう。確率論の話になってしまうだろうが、少なくとも40分の1よりははるかに当てられる可能性は高い。苦肉の策だろう。

 

「”も”ってことはAクラスはスポット占有をしてるのかな?」

「ええ。既にベースキャンプを含めて6つ」

「うひゃー早いねぇ」

「そろそろ戻ろうと思っていたんですけどね」

「うん?」

 

 ここで一之瀬と神崎は私の発言に違和感を覚えたらしい。

 

「すまない、諸葛。答えにくいようなら言わなくても構わないが、Aクラスのリーダーはお前なのか?」

「ええ、はい。そうですよ?それがどうかしましたか?」

 

 事も無げに言う私に、その場にいたBクラスの面々全員の顔が凍る。誰もが秘匿する情報をあっさりと言う。それに驚愕しているのだろう。

 

「も、諸葛君! 大丈夫? 暑さで疲れちゃったの? ちゃんと休んだ方が良いよ!」

「いえ、心身に特に不調はありませんが。どうしましたか急に」

「だって、リーダー情報を教えるなんて……!」

「諸葛、あまり心臓に良くない。一之瀬を揶揄うのもほどほどにしておいてくれ」

「別に揶揄ってなどいませんけどね。ほら」

 

 見せたのはYOSHIAKI MOROKUZUと書かれたキーカード。今度こそ彼らの目の玉は眼孔から零れ落ちそうになっていく。

 

「おや、もうこんな時間。あまり遅くなると暗くなってしまいますからね。皆さまも十分にお気をつけて。それでは」

 

 混乱状態の彼らを放置してその場を後にする。これで良い。キーカードを見せたことで彼らの中で私がAクラスのリーダーという事実が印象付けられたのなら問題ない。これも嘘なのか、それとも本当に私がリーダーなのか。彼らはそれに思考を費やすだろう。良い試験妨害になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟に戻れば、注文していたトイレ、シャワー室、大量のビニール袋などが到着していた。トイレとシャワー室は洞窟の外に置かれている。ビニールシートで入り口から中が見えないようになっていた。この辺は全て終わったのだろう。後は食糧さえ確保できていれば、今夜と明日の飯は大丈夫だ。

 

「ただいま戻りました」

 

 お帰りなさーいという声があっちこっちから聞こえる。中央の集合場所の端っこにはうずたかく薪となる枝が積まれている。食料も回収できたようで行っていた面々が戻ってきている。私の声を聞きつけて、真澄さんが奥からやって来る。ちょっと疲れた顔をしていた。

 

「やっと戻ってきたわね……」

「どうなった?」

「一応基本準備は終わったわよ。ビニール袋の工作も終わったし。食料と燃料も確保した」

「その食料は?」 

「地下水が流れてたでしょ。あそこで冷やしてる。冷蔵庫が無いから、その代わりに」

「なるほど。素晴らしい判断だ。じゃ、後は環境整備と細々とした物の購入だな」

 

 そこへ今までいなかった先生が戻って来るのが見えた。先生は洞窟の外に大型のテントを構えている。中に入れば?と勧めたのだがそれは断られてしまった。教員の監視がない方が自由度も上がるからだろうか。それとも、依怙贔屓の防止か。前者だと修学旅行で消灯時間を過ぎているのに起きていても見逃してくれる先生みたいな感じがする。もっとも、私の修学旅行は10人しかいない近所でやる団体旅行みたいなもんだったが。

 

「失礼するぞ。大分整っているようだな。丁度いい。諸葛、全員集合させてくれるか?」

「点呼にはまだ早いはずですが」

「ああ。だが、先ほどの件で進展があった」

「分かりました。全員、集合してください」

 

 作業していたり、休んだりしていた全員がゾロゾロと集合する。

 

「先ほど諸葛から訴えがあった坂柳についての報告だ。学校側の運営に君達から抗議が来たことなどを話し、公平性についても議論した結果、追加ルールが出来た。今から発表する。追加ルールは『不参加の生徒には学校にて試験を課す。それに合格した場合、ペナルティをなくす。』というものだ。これより坂柳は学校で用意した試験をしてもらう。それを彼女がクリア出来たら、Aクラスに与えられていたペナルティは取り消されるだろう」

 

 学校側も問題になる事を恐れたのだろう。随分と弱腰な対応を取ってくれた。しかし、これで坂柳の分のマイナスが消えるだろう。まさか運動系の試験は出ないだろうし、とんでもないものではないのならクリアしてくるだろう。もしこれでクリアできなければ彼女の評判や支持に関わるし、そもそもプライドが許さないはずだ。精々頑張ってもらおう。嫌がらせは成功である。

 

 そしてこれはクラスにもいい影響を及ぼしていた。学校側を動かせたことで自分達にもそれなりに力がある事を認識したのだろう。どうしてもルールを制定する側とそれに従わなくてはいけない側で力関係はあるが、ここは独裁国家ではない。それなりにやりようはあるという物だ。

 

「先生、わざわざありがとうございました。皆さん、後は坂柳さんを信じて待っていましょう。しかし、これで無様な結果を晒しては折角1人で頑張って下さった坂柳さんにも申し訳が立ちません。負けないよう頑張っていきましょう!」

「「「おお────!」」」

 

 叫び声が聞こえる。空気はいい具合になっている。

 

「とは言え、皆さんが体調不良になっては元も子もありません。そこはお互いに気を配っていきましょう。食料調達はご苦労様でした。これより調理、その後タイミングを見て就寝とします。調理器具を購入しましょう。後は寝ている間の環境整備として扇風機2台の購入。そして有事の際の連絡手段としてトランシーバー。最後にカメラを購入してひとまずの物品購入は終わりにしたいと思います。また何か必要なものがありましたら相談して下さい」

「カメラなんて何に使うんですか?」

「ああ、真田君、ありがとうございます。すっかり言い忘れていました。明日以降ですが、食料調達は午前中に済ませておきましょう。その後ですが……遊んで来て良いですよ。皆さん、学校指定の物ではありますが、水着持って来てますよね。ここに上陸する時の説明はペンションに泊まりながらビーチで遊ぶという物でしたので、水着を着替えセットに入れるよう学校側から指示があったはずですし。カメラはその為の道具です。思い出作りですよ、思い出作り」

 

 ざわざわとした声が広がる。

 

「確かに、切り詰めて我慢することも大事です。一見邪道かもしれませんし、真面目に取り組んでいないように思えるかもしれません。しかし、そればかりでは窮屈でしょう。精魂疲れてしまう人もいるかもしれません。どうせこんな環境に放り出されてしまったのです。精一杯楽しんだ方が得だと思いませんか? やらされている、よりも進んでやっている、の方が気持ちも楽でしょう。購入した物品も一応全員が価値を共有できるモノだけを選んでいるつもりですので、誰かだけに不利益とはならないよう配慮しているつもりです。贅沢は出来ませんが、これくらいならね。皆さんは、最初の話し合いで坂柳さんが言っていたように努力して得た権利を守るために戦っているのだと認識しています。ですがあくまでも私たちは学生。遊ぶことも大事ですし、何より……」

 

 そこで一回言葉を区切る。そうした方が全員の集中がこちらに向く。

 

「他のクラスが死にそうな顔してやってる中、努力しつつも楽しそうにして、最後に勝ってるのが一番カッコいいと思いませんか? 私は出来るだけ皆さんが楽しめるように心を配るつもりです。イベントも考えていますよ。出来る限り楽しみませんか?」

 

 とどめとばかりに少し微笑んでおく。さぞ私がみんなのためを思って行動してる人間に見える事だろう。クラスが勝てるように策を練りながら自分達の楽しみにも配慮してイベントとかを作ってくれている。そんな素晴らしい人間に見えているはずだ。何しろ、そういう風な事をしたり、言ったりしてもおかしくない人として振舞って来たのだから。感動した風な顔の人もいれば、ニヤッと笑っている人もいる。純粋に楽しみそうな顔の人も。最後のが大多数だ。

 

 先生もどこか満足そうな顔で話を聞いている。

 

「では、皆さん。何か反対の方はいますか?」

 

 当然誰も手を挙げない。

 

「それでは皆さん、ご唱和ください。ファイト~!」

「「「おお────!」」」

 

 もう一度大きく洞窟内に声が響いた。私の顔は今、優しそうに微笑んでいるはずだ。真澄さんが罪悪感を覚えるように目を逸らしたのだけが気になった。

 

 

 

―――――――――――――――――

高度育成高等学校第1回特別試験

 

<追加要素Ⅲ>

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■、■■■■■■■■■。

 

↓開示

 

不参加の生徒には学校にて試験を課す。それに合格した場合、ペナルティをなくす。

 

 

―――――――――――――――――

 

Aクラス支給ポイント:270ポイント(坂柳の30ポイントはまだどうなるか不明)

 

Aクラス消費ポイント:20ポイント(トイレ)、5ポイント(シャワー室)、5ポイント(調理器具一式。鍋、包丁、皿、ピーラーなど)、10ポイント(扇風機×2)、5ポイント(トランシーバー。2組1セット)、3ポイント(防水カメラ)、2ポイント(ビニールシート)

 

Aクラス残存ポイント:220ポイント(坂柳の分を除く)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。