ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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偉大な思想は胃袋から生れる。

ヴォーヴナルグ『省察と格言』


22.貪食

 無人島生活1日目の夜が更けていく。食事を終えてしまえば、今日は動き回ったクラスメイトはすぐに寝る用意を始めた。洞窟内は元々水がある事も起因してかひんやりとしている。そこに扇風機も回っているので、そこまで不快感を覚える環境ではないはずだ。やや湿度は高いが、気温の低さでそれが緩和されている。

 

 中央の部屋の灯りを消すと、かなり真っ暗になる。しかし、仄かな光が差し込むため、意外と周りは見えていた。スポット占有の期限が切れるのは2日目の深夜0時過ぎ。その後は2日目の午前8時半頃だ。それまでは寝ることができる。男子、女子でそれぞれ洞窟の部屋を分け、仕切りも使っているが、私はそこではなく入り口付近の通路に座っている。

 

 寝ると言ってもごく短いものの連続だ。キリンが近いかもしれない。誰か接近する気配があれば起きることができる。どんな場所でも寝られる、そしてその中でも警戒を怠らない。そういう生活が長かったために染みついた悲しい習性だ。とは言え、することが無いのは結構疲れる。

 

 ぼんやりと虚空を眺めながら色々考えていると時間が近づいた。後回しでも良い洞窟のスポット占有ではなく、外のものから始めていく。凡そどのクラスもスポットの位置は把握しているとみて良いだろう。現在占有している洞窟含め6つのスポットを守りながら、増やさず減らさずの方針でいいと考えている。そもそも本命はこっちではないのだから。

 

 更新は1日目の16時、2日目の0時・8時・16時、3日目の0時・8時・16時、4日目の0時・8時・16時、5日目の0時・8時・16時、6日目の0時・8時・16時、7日目の0時・8時の計18回。大体の時間だがこれくらいの計算で良いだろう。スポット1回占有につき、1ポイントを加算なので、18回×6ポイントで理論値では108ポイント確保できることになっている。まぁリーダーを当てられるとこれは全て無に帰すわけだが。それに、深夜も動き回るのは他の生徒ではできないだろうから、実質的にほぼ空想の値になっているはずなのだ。学校側の認識では、だが。

 

 さて、そろそろ時間だと立ち上がり、夜の森を行く。

 

 

 

 空が白み始め、夜が明けていく。洞窟内の温度も少しだけ上がり始めた午前7時半頃。夢の世界に旅立っていたAクラスの全員が物音によって叩き起こされた。そもそも後30分もしないうちに点呼である。揃っていないと容赦なくマイナスされるため、これは必要な処置であった。まぁ一応腕時計に目覚まし設定があるのだが……誰もそれをしていなかったのである。

 

 何か叩かれる金属音で眠い目を擦りながらあくびをした彼らが目を覚まし、ぞろぞろと外に出てきて目にしたのは彼らの先生と呼ぶ同級生がフライパンとお玉を叩きながら立っている姿だった。

 

 

 

 

 深夜のスポット占有が終わった後に、一度洞窟に戻ってそのスポット占有を行い、そして再度外に出た。昨日中に人海戦術を用いて島を調べたのだが、まだ調べきれていない場所もある。その場所の探索を行い、地図の空白を埋めるためだった。ぶっちゃけ暇だったのである。その結果、まだ見つかっていなかった畑を見つけた。トウモロコシ畑やナス・ピーマン・トマト・キュウリは既に見つかっていたが、今回あったのはスイカ畑。後で回収することにする。

 

 その後歩いていると、海沿いに古い家屋。恐らくは昔島民がいた頃の名残。苔むした神社のようなものもある。太平洋戦争で硫黄島と並ぶ激戦地になったこの島には、戦前には島民が細々と漁業などで生計を立てていたそうだ。あの洞窟は恐らく、戦争時に皇軍の指揮所になっていた場所だろう。

 

 野菜はある程度確保できるし、魚も海で獲れるだろう。とは言え、肉や卵が無いのは辛いところだ。と思っていれば、また違う施設を発見する。大きな柵で囲まれたその中には……結構な量の鶏がいた。鶏である。家畜である鶏がこんな無人の島で大量に自然生息できるとは思えない。恐らく本土からこの試験用に持って来られたのだろう。栄養不足になられても困るだろうし。肉にもなるし、めんどりは卵も獲れる。取り敢えず6時頃になるまで待ってみたら、卵を産み始めたので、人数分確保して袋に入れてから洞窟に戻った。まぁ他クラスと分け合っても十分な数いたので大丈夫だろう。

 

 その後戻り、コンロをフル稼働して、朝早起きだった先生に調味料一式(無制限・油、醤油、味噌、塩、砂糖、酢など)を交換して貰った。5ポイントも取られたがまぁ使用制限のストレスが無いだけマシか。後は炭水化物があれば完璧なのだが、米は結構いいお値段している。その辺は追々相談するとして、朝飯はこれで勘弁してもらうとしましょう。

 

 用意が終わり始めたので、使っていない鍋とお玉を叩きながら起こし始める。眠そうな顔をしながらクラスメイト達が起きてきた。

 

「はい、おはようございます。もうすぐ点呼ですがその前にちゃちゃっとご飯を食べてしまってください。尤も、パンも米もありませんけども。……どうしました皆さん? あんまりそんなにじろじろ見ないでください。今すっぴんなんですから。化粧水も使えないですし、肌荒れしそうで嫌ですね、この試験は」

「いや、じろじろ見るなって言ったって、アンタ……。ご飯作ってたの?」

「ええ、まぁはい。真澄さん髪の毛跳ねてますよ」 

「うっさい。それはそうと、いや、普通にビックリするでしょ」

 

 誰もが首を縦に振っている。そんなに驚くことなのだろうか。

 

「これは習性みたいなものなので気にしないでください。実家では私が食事作っていましたから」

「それなら良いけど……いや良くないわね。ちゃんと寝てる?」

「一応」

「倒れないでちょうだいよ、全く……」

「さて、私の事はどうでも良いので早く食べてしまいましょう。冷めると美味しくないですからね」

 

 眠そうな顔をしていた面々がスッとその眠気が覚めた顔になり真剣な目つきで食べ始めた。野菜炒めと目玉焼きである。パンが欲しい。米でも可。

 

「目玉焼き何かける?」

「俺は塩」

「私は醤油」

「いや、ソース以外あり得ないだろ」

「ケチャップ派は異端ですか……?」

「ケチャップは論外」

「いや、醤油の方がおかしいだろ」

「なんだと?」

「やるかコラ?」

 

 くだらない会話が繰り広げられている。派閥間で固まって食べるみたいな事もなく、割と協力的なので助かっている。尤も相互監視はするような環境を作ってはいるが。

 

「「「孔明先生はどれだと思う!?」」」

「目玉焼きって何かかけるんですか?」

「「「……」」」

「アンタ……」

 

 真澄さんの憐れむ顔がちょっとムカついた。

 

 

 

 

「さて、全員いるようだな。まだ序盤だからこそ余裕があるかもしれないが、後半に行くにつれてどんどん体力的にも厳しくなるかもしれない。気を付けるように。また、繰り返しになるが海に近付く際は教員もしくは職員に必ず申し出てから行くようにしてくれ。では解散」

 

 先生のありがたいお言葉を貰い、定例点呼を終えるとまたスポット更新のお時間だ。その前に午前中の行動を指示しておく。

 

「では今から午前中の行動を指示します。まず今からクラスを3つのグループに分けます。それぞれA~Cと名付けますので、割り振られた班の人と一緒に行動してください。まずA班ですが、志願制です。釣りの上手い自信のある人は手を挙げて下さい」

 

 チラホラと手が挙がる。男子に多いようだが、女子も数人。

 

「分かりました。では、今挙げて頂いた方々はA班です。これより釣竿を貸しますので、これで釣ってきてください。先生への報告は忘れずに。後、魚は洞窟内の水場で冷やすようにお願いします」

 

 釣竿・網のセット×5を渡す。1セットにつき1ポイントだ。元よりリーダー当てを含め、200前後のポイントになることを想定している。これくらいの出費は問題ないはずだ。ここは橋本に任せておく。危険な行動はしないだろう。一応葛城派もいるので、単独で変な事は出来ない。

 

「次にB班のメンバーは食料採取に行ってきて下さい。地図はお渡しします。そこに畑が書いてあります。私が夜中に歩いて足した分もあるので、そこも回収してきて下さい。他クラスと遭遇した場合は穏便に。1人にトランシーバーを渡すので、連絡用に使ってください。私が片方を持ちます。ではメンバーを読み上げます……」

 

 両派閥の男子中心に上手く編成してある。ここは葛城に任せておけば問題ないだろう。力仕事の苦手な女子や一部の男子には別の仕事だ。

 

「以上です。では残りのメンバーは洗濯をしてください。主に下着がメインですので、しっかり時間を分けてやるように。干す場所はそれぞれの部屋の中で。扇風機を当てておけば早く乾くでしょう。仕切りも忘れずに。体操服の場合は外で干して下さい。いずれもツタをロープ代わりにすれば上手く行くかと。では、それぞれお願いします。わたしはスポット更新に行ってきますので」

 

 洗濯組には真澄さんを残し、不測の事態に備える。これで完璧なはずだ。動き出しを見ているが、両派閥ともちゃんと話し合って動いている。顔つきが真面目なので大丈夫だと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 スポット更新自体は流れ作業なのですぐに終わる。特にすることも無いのでそのまま洞窟に戻れば、ひらひらと外に洗濯物が揺れている。中に入れば、男子の部屋には下着がぶら下がっていることを確認した。

 

 坂を下り、水源に行けば、足湯のように涼みつつ話に興じる女性陣。男子陣はそれを眺めながら話していた。真澄さんもちゃんと他の女子と話せているようで少し安心する。あんなにツンツンしててボッチだったのに成長したね……と娘の成長を見守る親のような感覚に陥っていた。まぁ彼女の親は彼女の成長をあまり喜んでいるように見えなかったが。あくまで書類上は、ではあるけれども。

 

「皆さん、こちらにいましたか。洗濯物、随分お早いですね」

「あ~お帰りなさぁい」

「お疲れ様~」 

 

 女性陣に声をかけられ、男性陣は軽く手を挙げて私の声に応えた。

 

「まぁ~孔明先生1人に頑張らせるのもアレだし~ねぇ?」

「そうそう。女子として負けられないものはあるもんね」

「だよねぇ神室ちゃん?」

「私は別に……」

「ええ~そんなこと言ってぇ~?」

「ちょっ!」

 

 上手くコミュニケーションがとれている……のだろうか。多分そうだと思う事にした。

 

「ま、女子の言ってることもそうだし、お前に頼り切ってばっかじゃダメだってみんな朝思ったんだろうぜ。俺もだけどな。だから頑張ってるんだよ」

「竹本君……」

「おいおい、泣くなよ」

「いえ、少し感動してしまいまして。私が皆さんが団結するお役にたてたのならば喜ばしい事です」 

「ま、俺たちとしても坂柳さんのこと気にしてくれてたのは嬉しいしな」

「勿論ですとも。クラスメイトの1人であるのですから、当然です」

 

 何を白々しいと言いたげなジト目で真澄さんが見てくるが全力でスルーする。さて、他の班の様子でも見ていくか。と、その前に。

 

「はい、チーズ」

 

 くっ付いてる女子たちに向けて1枚。男子陣に向けても1枚。写真を撮っておく。こういう気を抜く要素も大事だろう。

 

「少し出かけてきますね。後はよろしくお願いします」

「「「は~い、いってらっしゃーい」」」

「……さ~て孔明先生もいなくなったし、好きな人吐いてもらうわよ~神室ちゃ~ん」

「え、は、ちょっ!待って……!」

 

 後ろから楽し気な声が聞こえる。彼女たちなりに満喫しているのならば問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 まず向かったのは魚釣り組。網で掬ったり、竿で釣ったりしている。

 

「どうですか、橋本君。釣れ具合の方は」

「まぁボチボチだぜ。捌けば全員分にはなるさ。夕飯用か?」

「はい。その予定です。今日の昼食は恐らく向こうからやって来るでしょう」

「カモがネギしょってくるのか?」

「まぁそんなところです」

「ほ~ん。ま、孔明センセの言う事だ。多分そうなるんだろうから信頼はしてるけどよ」

 

 橋本正義。集団に溶け込むのが上手く、能力も高い。坂柳派ではあるが、坂柳に忠誠を誓ってるわけでは無いだろう。恐らく、寝返るのに躊躇はしない男だ。長年の勘がそう言っている。使える間は良いのだが、絶対的な信頼はおいてはいけないタイプ。私はそう判断している。だが、今回の試験では特に動きはない。

 

「坂柳さんから何か、言われてきましたか」

「……」

 

 彼は視線で周りを窺う。他の釣り組はみんな聞いていない。それを確認した後口を開いた。

 

「あぁ、ウチの姫さんからはちゃんと命令が出されてるぜ」

「ほぅ、流石ですね」

「とは言っても曖昧なものだけどよ。葛城が仕切るなら背け。お前が仕切るなら何もするな、だそうだ」

「ははは、随分と警戒されたものですね。光栄と思えば良いのでしょうか」

「さぁな。でも、昨日の演説は面白かったぜ。姫さんも涼しい冷房効いた部屋でのんびりできると思ったらいきなりお呼び出しでぶぅたれてるかもな」

「おやおや、坂柳さんともあろう人がそこまでなるでしょうか」

「ま、あくまで憶測だけどよ。それはそうと俺も1つ聞いて良いか?」

「何でしょうか」

「どうして神室なんだ? アイツ以外にも人はいるだろうに。鬼頭とかだって武闘派だし、俺だって別に能力的に劣ってるとは思わない。側近にするなら他の奴だっているだろうに」

「そうですねぇ……どうしてでしょうかねぇ……?」

「おいおい、俺が聞いたんだけどな。あれか? 側近にするなら美人の方が良いとかそういう理由か?」

「そうだ、と言ったらどう思います?」

「気が合う、と思うな」

「では、そういう事にしておきましょう。実際、真澄さんは美人ですよ」

「やっぱり食えないヤツだぜ、孔明センセ」

 

 遠くで大きな魚が吊り上げられたようだ。遠目で見る限り鯛の仲間に見える。丁度いい、あれを中心に集合写真を撮ってしまうか。その前に個人の物を。

 

「お写真、撮りますね」

「お、カッコよく撮ってくれよ」

 

 橋本をカメラに収め、シャッターを切る。その後釣り組の集合写真を撮ったり、鯛を釣った奴の写真をゲットした魚とセットで撮ったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 その後はトランシーバーで連絡を取り、野菜組の元に向かう。葛城や先ほど話に出た鬼頭もここにいる。スイカ畑にいたのをパシャパシャ撮って、引き続きお願いして洞窟に戻ってきた。戻って一息吐こうとした時に入り口から声がする。

 

「誰かいるかしら」

 

 声から堀北であると分かった。だが気配は2人分。恐らく綾小路だろう。あの2人は一緒に動くことが多いように思える。例の暴力事件の時もそうだったように。外に出れば案の定想定通りの2人がいる。

 

「なにかご用ですか、堀北さん」

「少し話したいことがあるのよ。それと、中を見せて貰ってもいいかしら」

「ええ、構いませんよ。さしたるおもてなしは出来ませんが、それでもよろしければ」

「元々期待していないから問題ないわ」

 

 お前、そういう余計な一言が嫌われる原因になるんだぞ、と心の中で忠告しながら中に入れる。正直あまり見せてはいけないものは無い。扇風機は男女の部屋の中。仕切りで見えない。食器類は坂を下りた水場なので中央の部屋からは見えない。私のトランシーバーとカメラも見えないところにある。何を買ったのか、何ポイント残っているのかは判別できないだろう。外のシャワー室とトイレは分かるだろうが。

 

「昨日突如追加されたルールは貴方の仕業ね?」 

「ええ、まぁ。クラスメイトが不当な差別を受けている。それを見逃せるわけが無かったので」

「そう。まぁそれは良いわ。こちらに糾弾できる言い分は無いし、糾弾したら私たちが人でなし扱いされてAクラス全員から敵として見られるだけでしょうし」

「賢明な判断かと。それで、今回は偵察だけですか」

「ええ。どの道、私たちはAクラスを攻撃できない。それなら、中を見るくらいいいでしょう?」

「まぁ、それはそうですが。どうです、Dクラスは。順調ですか」

「……他クラスと比較できないからわからないわね」

 

 その長い沈黙が順調でないことを物語っていた。

 

「そう言えば、AクラスにCクラスの生徒は来ているかしら」

「Cクラス? いいえ、今現在はいませんが。昨日龍園君が謎の取引をしないかと持ち掛けてきただけです。勿論、すぐさまお断りしましたけれどね」

「そう。なら良いわ。昨日、森の中で伊吹さんというCクラスの生徒を保護したわ。Cクラス内で暴行を受けて脱出してきたという体ね。それが本当かどうかはわからないけれど、Cクラスが真っ当な戦略でない事だけは、一応忠告しておくから」

「ええ、ありがとうございます。Cクラスに関しては、我々の利害は一致していますから。あの危険なクラスは、下にいてもらうに越した事は無いでしょう」

 

 話しているうちに、外に出ていた組が帰って来た。一瞬堀北たちを見て怪訝そうな顔をするものの、大抵は私と話しているという事実に気付き、何らかの理由があるのだろうと思ってスルーしていく。下の水場で冷やすのが一番衛生的に良いので、どんどんと下へ運び込まれていく。

 

 さて、大抵の生徒はスルーすると言ったのには理由があり、中にはスルー出来ない者もいるようで……。

 

「おい、諸葛!」

「……あまり大きな声を出さないで貰えますか、響くので。それで、なんです、戸塚君」

「何ですかって、お前! せっかく隠してたのになんでDの奴らを中に入れてるんだよ!」

「別に問題ないでしょう。そもそも彼らは我々を攻撃できないんですから」

 

 正確には攻撃できないことになっているのだが。先日結んだ契約にはこう記されている。

『Ⅰ、私、堀北鈴音(以下甲)は諸葛孔明(以下乙)に対し、監視カメラ(7万ポイント)の購入を依頼する。

Ⅱ、その代価として甲は乙の許可なく夏季休暇中に行われる試験においてAクラスを攻撃することは出来ない。また、甲は前述の事項に対してクラス全員を説得する義務を負う。

Ⅲ、前述の試験における条項は、仮に試験が複数回行われた場合1回目のみを対象とする。

Ⅳ、甲は乙に対し、費用を今年中に返済する。

Ⅴ、契約不履行の場合は、被った損害の2倍の金額を払う。』

 

 ここに、説得した後に失敗した場合のペナルティは書いてない。仮に堀北がクラスメイトを説得し、失敗したとする。その後、DクラスがAクラスのリーダーを当てた。その場合は堀北が攻撃していないし、クラスメイトの説得をするという義務は果たしたことになっている。説得する義務はあっても、その結果成功させろという義務は無い。これは堀北がリーダーだと有効だが、そうでない場合には効力は低下する。

 

 これは私の仕込んだ罠だ。どうなっても良いようにしてある。もし真面目に攻撃しないのであればそれで良し。もし堀北以外が攻撃するようなことがあれば、その時はそいつを騙して失敗させればいい。最初はそういう認識だった。そしてここに来てそれは正しかったことを確信した。攻撃してこないのであればそれで良し。もしこの微かに存在している穴を突いて攻撃してくるのであれば失敗させればいい。そうすれば向こうは50ポイントの損失だ。

 

 それはさておき、この厄介な葛城派のナンバーツー(腰巾着)をどうにかしなくてはいけない。

 

「Dクラスに対してもこれくらいの誠意はあっても良いとは思いませんか?」

「はっ!不良品に払う誠意なんて無いな」

「あぁ、そうですか。その点、私とあなたとは見解を異にしているようですね。すみません、お2人とも。彼の言説はともかく、そろそろ我々もクラス単位での行動を開始するので、申し訳ないですが……」

「そうね。目的は果たしたわ。行くわよ、綾小路君」

「ああ、そうしよう」

「またいつでもお越しください。夜は止めて欲しいですけどね」

 

 出ていく2人を外まで送る。

 

「彼にはきつく言い聞かせておきますので、どうかお気をつけて」

「最後に1ついいかしら」

「何でしょう」

「Aクラスのリーダーは貴方?」

「ええ、その通りです。ほら、キーカードはここに」

「っ! ……私たちは攻撃できない。だから見せてくれた。そう解釈して良いわね?」

「はい」

「けれど、良いのかしら。これを他クラスに売るのは契約違反ではないはずよ」

「おおっと確かにそうですね。しかしまぁ、この情報にはなんの価値もないはずですが」

「なんですって?それはどういう……」

「それではごきげんよう。Have a nice day~」

 

 そう言いながら手を振り、釈然としない顔の堀北と相変わらず無表情な綾小路を強引に帰らせる。どうせ一之瀬も知っている情報だ。龍園にはこの後バレるだろうし、問題ない。全て順調だ。

 

 

 

 

 

 室内に戻れば、戸塚と真澄さんが何ゆえか争っている。ちょっと事態を飲み込めないので、しばらく見守る事にした。

 

「あのさぁ、Dクラスを内心見下すのは別に好きにすれば良いけど、それを本人たちの前で言うのはどうなの?」

「はぁ? 実際不良品なんだから別にいいだろ。あいつらへの評価は俺たちが勝手に言い出したわけじゃなくて学校側がそう決めたんだからよ」

「この学校が決めた基準でしかない枠組みで人を測るの、止めたら? 龍園だってCクラスだけど、実際私たちも含めて脅威だとは認識してる。それにさぁ、百歩譲ってそれで良いとして、もしアイツが堀北とかと交渉中だったらどうするの? もしかしたらクラスにとっていい交渉だったかもしれないのに、アンタのせいで機嫌損ねて不成立とかだったらどうする訳? 大好きな葛城に泣きつくの? 可哀想ね、葛城も。アンタの尻拭いとかやらされて」

「お前だって諸葛の能力を笠に着てるだけじゃないか!」

「だから?」

「……は?」

「だから?そんなのみんな知ってるでしょ。私よりアイツの方が優秀だってのは明らかじゃない。だけど、少なくともアンタよりは信頼されてるから。じゃなきゃ任せない。もし仮にアンタが信用されてるなら大事な仕事だって任されるはずでしょ。でも実際任されてるのは橋本か葛城じゃない」

「なんだとっ!」

 

 真澄さんが強い。感情的になっている戸塚に対し、至極冷静な顔と声で対応している。そこはかとなく面倒だなぁという顔をしているのもポイント高い。あしらっている感があって強者っぽいからだ。どうも女子を味方につけているらしく、派閥を超えてあんまり良くない感情が戸塚に向けられ始めている。そろそろ潮時だろう。

「両者そこまで! 身内で相争っても何も良い事はありません。謝れとは言いませんが、お互いにもう少し言葉に気を付けるように。分かりましたか?」

「は~い」

「……チッ! 分かったよ」

 

 余裕そうな真澄さんに対し、戸塚は余裕がない。

 

「戸塚君。私に従うのにあまり納得できないのは分かります。しかし、今はこうすることが敬愛する葛城君のためになると思ってどうか堪えて頂きたい。それにですが、臣下を以て王を測る定規とすることもあります。君の行動が、君を側に置いている葛城君の評判を傷つけかねないという事を留意しておいてくださいね」

 

 特にそれに返事をすることなく彼は去って行く。小さくため息を漏らした。何がいけなかったのかと言えばそれはもう私がリーダーをやっていることだろう。もっと言えばリーダーは私だとしても仕切っているのが私であることだろう。事実、リーダーと実際の指揮者は同じである必要はない。難儀なものだと思い、もう一度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 魚組も戻って来て、全員揃う。そのタイミングを見計らってなのか偶然なのか(恐らく後者であろうけれども、)来訪者が来る。そう、待ち望んでいたお昼ご飯である。彼の行動原理から考え、示威行動をするだろうとは予測が付いていた。そしてそれは早い段階であろうとも。恐らく彼の取る戦略は私の考えた3つのうちの最後の1つなのだろうから。

 

 ポテトチップスとコーラという凡そ無人島には相応しくない食べ物を持ちながら彼らは煽りにやって来た。

 

「よう、Aクラスのガリ勉ども。どうせギスギスしてるんだろ……いや、そうでもねぇなぁ……」

「とは言え、どうせろくでもないもん食ってるんだろ」

「そ、そうだそうだ。龍園さんからの伝言だぜ。お前ら、こんなバカみたいな暮らしが嫌になったら俺たちCクラスの所に来てみろよ!」

 

 ムッとした顔で彼らを見るクラスメイト。その代表として、私は彼らに問う。

 

「なるほど。では、龍園君はCクラスのところに行けば飲み食い出来ると言ったんですね?」

「あ、あぁそうだぞ」

「そうですか。もう帰ってよろしいですよ。伝言は確かに受け取りましたので、あなたがたの王様に怒られる事は無いでしょうから」

「そ、そうかよ。じゃあな!」

 

 捨て台詞を吐いて彼らは去って行く。それをいいカモが来たと思いながら見送った。洞窟内に戻れば、葛城がやって来る。

 

「諸葛、今のCクラスの発言、どうする気だ」

「ええ。丁度いい機会です。渡りに船とでも申しましょうか」

「なに?どうする気だ」

「今からお昼ご飯ですね?」

「お昼ご飯……?そういう事か……。まぁ良いだろう。利用できるものは利用していくべきだろうしな」

 

 彼の納得も得られたところで私は全員に向かって言う。

 

「聞きましたね、皆さん。彼らは言いました。Cクラスのところに行けば飲み食い出来ると。では、お言葉に甘える事にします。この際プライドは捨て、遊び、そして食べましょう。これより、全員でCクラスのところへ移動します。敵の金で、敵の糧食を喰らい尽くしてやろうではありませんか。ポイントの余すところなく、ね」

 

―――――――――――――――――

 

Aクラス2日目開始時所持ポイント:220ポイント(坂柳は以下略)

 

Aクラス現状消費ポイント:5ポイント(調味料一式・無制限・油、醤油、味噌、塩、砂糖、酢など)、5ポイント(釣竿・網のセット×5)

 

Aクラス2日目現状所持ポイント:210ポイント




私は塩派です。
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