ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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破ぁ!!

『2ちゃんねるコピペ』


23.カウンター

 試験開始から2日目。我々Aクラスはさしたるトラブルもなく順調に試験を進めていた。そしてそんな我々を祝福するように、昼食が向こうからやって来たのである。こうなる事はある程度予想が付いていた。龍園の戦略は恐らく私が最初にクラスメイトに選ばせた3つの選択肢のウチの最後のもの。即ち全員リタイアし、リーダーだけが残って他クラスのリーダー当てを行うというものだ。

 

 だとするならば、Cクラスは試験を放棄したと思わせる必要がある。要するに警戒させない訳だ。その為には、『我々は試験を放棄してますよ~』と思わせないといけない。なので、ああして部下を使って煽りに来たわけだ。偵察に来させるために。だが馬鹿め、我々は利用できるものは利用し尽くすの精神でいる。

 

 哀れな龍園クン。彼には古今東西で通じるこの言葉を送りましょう。『他人の金で食う飯は美味い』。

 

 そして、取り敢えずはAクラスの人員を森に潜ませ、私と付き添いの真澄さんが2人で偵察に来た風を装い、彼らに接触する。Cクラスのいる浜辺へ行けば、仮設トイレにシャワー室、バーベキューセット、日光対策のターフやパラソル、スナック菓子、ドリンク、水上バイクなど何でもある。遠くでは海保の巡視船が彼らを見張っていた。海辺に居るからだろう。万が一の事故に備えているものと思われる。

 

「凄いわね、これ」

「確かに、絵面だけ見るとかなり楽しそうだ。今からCクラスに移住したいな、コレは」

 

 Cクラスの現状は理解していても、見てみるとまた違った呆れとも羨ましさとも言えない感情が湧き上がってくる。まぁでもこの後龍園は恐らく大変だろうし、同情する。砂浜を踏みしめれば、Cクラスの男子がギョッとしたようにこちらを見て、どこかへ走る。不正利用と言われても嫌なので、しばらく待っていればその男子生徒は戻ってきた。

 

「あ、あの、龍園さんが呼んでます……」

「そうですか。ありがとう」

「は、はい、それでは……」

 

 おずおずと彼は去っていった。恐怖政治とは大変そうだ。する方も、される方も。

 

「よう、お前らか。よく来たなぁ。さっき、鈴音も来てたぜ」

「おやまぁ、Dクラスもですか。その割には姿が見えませんが。まぁ大方あなたを罵倒して帰って行ったんでしょうけれども」

「ククク、よく分かってるじゃねぇか。あの真面目ちゃんには俺のような思考は出来ない。つまり」

「敵では無いと」

「ああ、そうだ。一之瀬も葛城も、真面目に試験をクリアすることしか考えちゃいねぇだろうなぁ。だから器も知れてる。敵じゃねぇ」

「そうかもしれませんね。ところで、先ほどあなたの部下が我々の元を訪れたのですが、その際に言っていたことは本当ですか?」

「あん? 俺を疑ってるのか? 見てみろよ、こんなに遊び惚けてるってのに今更1人2人増えたところで問題なんかねぇな」

「ポイントはまだ残っているんです?」

「まぁな。だが、それも今日までだ。今日で全部使い切る。あとはリタイアだ。学校の決めた試験なんか真面目にやってられっかよ」

「そうですか。それは良かった」

「なんだと?」

 

 急ににっこり笑いだした私に龍園は訝しむような目線を向けている。真澄さんはチラチラと焼いている肉の方に目線が行っている。大丈夫かな、この人。なんか最近の彼女、面白い人になってきている。

 

「皆さん期待していたので」

「皆さん……? おい、待て、まさか」

「確認が取れましたよ、皆さん! 徳の高い龍園君は我々にもこの楽園を共に享受する権利をくれるようです!」

 

 少しギョッとした龍園。それを知ってか知らずか、森の中からぞろぞろとAクラスの面々が姿を現す。そのメンバーは当然派閥も関係ない。葛城もいれば、橋本もいる。男女関係なく、全員がここにいた。なお、洞窟は締め切っている上に、盗難すれば窃盗になるので誰も入らない。入られたら警察沙汰にすればいい。そういうコンセプトで来ている。先生のテントも目の前にあるのに、犯行をする馬鹿もいないだろう。

 

「お前! これが狙いか。プライドの欠片もねぇみたいだな。Aクラスも落ちたもんだ」

「プライドなど犬にでも食わせておけばよろしいんですよ。使えるものは何でも使う。それが正しい行動です。それに、まさか拒否したりしませんよねぇ。偉大で寛大な龍園クン」

「チッ! 仕方ねぇ、好きにしろ」

「はーい、ありがとうございます。あと、好きにしろという事なので、我々の分の食料も注文しますね。重ね重ねありがとうございます!」

 

 彼は面子的に受けざるを得ない。そうでないとすんごくダサい奴と言う不名誉な称号が学年中にばらまかれる。それは、Cクラスの統治にも影響が出るだろう。なお、好きにしていい、と言う発言はカメラの録画機能を密かに使い録音してある。便利なものだ。

 

 苦い青汁を100杯くらい飲んだような顔をしている龍園を無視して、私ものんびり遊ぶことにした。

 

 

 

 

 

 

 カシャ、カシャとカメラでクラスメイトの様子を撮影していく。学校の水着よりももっと良いデザインの水着も注文できるという事で、女子はそれを借りている。1回借りるとそのまま最終日まで持っていられるらしい。お昼時という事もあり、バーベキューに興じる生徒も多い。龍園はもう諦めたようでパラソルの下のチェアで寝ている。食材調達班はCクラスの金で大量の米とジャガイモや玉ねぎなどの夏野菜ではない物を注文し、せっせと持ち帰っている。好きにしていいと言われたので好きにしている結果だ。

 

 真澄さんはCクラスの男子から肉を奪い取っている。Cクラスの男子連中はガラの悪いのが多いのだが、まったく物怖じしていないどころか逆にCの男子がタジタジになっている。随分たくましくなったものだ。まぁ十中八九、Cクラスの男子よりもヤバい私といるからだろうけれども。さて、折角なので私も食べるとしよう。

 

「これ食べて良い?」

「良いけど、こっちは私のゾーンだから」

「いや、Cクラスの人たちのゾーンでは?」

「別に良いわよね?」

 

 圧力をかけられたCクラスのボーイズはコクコクと頷いている。怖いな、Aクラス……。女子でもあの圧力かよ……。みたいな声が聞こえるが、もっきゅもっきゅと食べている身には聞こえないようだ。都合のいい耳だと半分呆れる。そんなこんなで飯を食べ、海で遊び、菓子とジュースも注文しまくり、たまに男子がセコセコと貰った物資を持ち帰り、時間が過ぎていった。

 

 午後4時近くなる。そろそろスポット占有の時間だ。そのため、Aクラスの面々に撤収の号令をかける。最後まで出来る限りCクラスの金で物を貰い、ほとんどの生徒がトンずらしていった。残りは真澄さん、私や葛城など数名になったので、龍園に挨拶に行く。別名煽りとも言う。坂柳派はみんな帰ってしまった。

 

「どうも本日はお世話になりました。おかげさまで物資ももらえましたし、皆さんもハッピーです。同盟も契約も無いのに御親切にして頂き助かりました。本当にありがとうございました」

「……そうか。二度と来んな」

 

 やつれた声で吐き捨てる龍園。哀れなり。そんな事を思っていると、森の中からCクラスと思しき男子生徒がやって来る。おかっぱと言うかキノコヘアと言うかな髪型に眼鏡をかけている男子だ。

 

「なんですか……これは……」

 

 そんなことを呟いている。彼に気付いた龍園は声をかけた。

 

「おう、金田か、ご苦労だったな」

「こ、これは一体!? どうしてAクラスが……」

「どうした? 何か問題か? 俺たちは元々試験を放棄してる。それならAの連中がいたって良いだろう?」

「しかし……。自分は元々この作戦には反対です。しかも放棄だけならまだしも敵に塩を送るような行為をするなど!」

「お前、随分偉そうな口を利くじゃねぇか」

 

 龍園は彼の下にゆっくりと歩み寄る。金田と呼ばれた男子は少し後ずさるが、それを意に介さないように龍園は勢いよく彼を殴った。眼鏡が吹っ飛び、苦悶の声を上げた彼が砂浜に横たわる。

 

 なるほど、そういう事かと読めた。大根役者な演技もここまで来れば立派だ。なのでここは彼の思惑に乗ってあげよう。そうすることでかなりの手間が省ける。

 

「龍園君、これは些か座視できない行為ですね」

「どうしたってんだ? そんな怖い顔して。俺が何か問題行動でもしたか?」

「クラスメイトへの暴力は確かにマイナスにはなりません。しかし、だったらやっていいのかと言われればノーでしょう。伊吹さんという生徒を殴ったのもあなたで正解だったようですね」

「あぁ、伊吹か。アイツも俺に反抗的だったからな。灸をすえてやっただけだ。そうカッカするなよ」

「そうですか……大丈夫ですか」

 

 龍園を一旦無視し、金田の元へ近寄り手を差し伸べる。

 

「あ、ありがとうございます」

「金田君、でしたね。これ以上ここにいては更なる暴力を受ける可能性もあるでしょう。荷物をまとめてリタイアする……いえそれも危険ですね。だとしたら試験の間はどこか別のところにいる事をお勧めします。そうだ、もしよろしければ我々と来ますか?」

「で、ですが、自分はCクラスの人間です……」

「暴君に立ち向かった勇気へのリターンのようなものです。彼にはほとほと呆れていますので。よろしいですよね、龍園君」

「ああ、好きにすると良い」

「だ、そうです。洞窟は分かりますね?あそこに我々はいます。クラスメイト説得のために私たちは先に戻りますので、後でいらして下さい」

「わ、分かりました。ありがとうございます、諸葛氏」

 

 さて、これで大丈夫だろう。彼は確実にスパイだ。そして暴力を振るったことで誰かが止めに入る事を期待していたのだろう。そして、もしそうでなくても彼をわざと逃がし、Aクラスに助けを求めさせる算段だったはずだ。

 

 そんな事は百も承知だ。だからこそ荷物をまとめる時間を作った。龍園の寝ているチェアの近くにある机にトランシーバーがあるのが分かった。それは恐らくDにいる伊吹という生徒、そしてこの感じだとBにもいるであろう誰かの分もあるはずだ。だがトランシーバーは2台で1セット。という事は、もう1個あって然るべきだ。それを金田に持たせ、どこかに埋めておく戦略だろう。リーダー当てのためのスパイと言うところだな。

 

「龍園君、我々は去りますが、彼が洞窟に来た際に今よりも外傷がひどい場合、あなたを容赦なく警察に突き出しますのでそのつもりで」

 

 一応警告をして善人っぽいふるまいを残しつつ、残存メンバーで撤収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸葛、敢えて口を挟まなかったが、これも作戦の内という事で良いのか」

 

 洞窟への帰り道、誰も尾行してない事を確認した後に葛城が聞いてくる。真澄さんはまだ何か食べているが一応聞いてはいるように思える。

 

「ええ、勿論。Cクラスの策は兵法三十六計が第三十四計、その名も苦肉計です。それは一瞬で分かりましたので、後はそれを利用してこちらの優位に立つことが最善でしょう」

「しかし、自分から招き入れる事は無かったのではないか?」

「結末はあまり変わらなかったかもしれませんが、出来れば龍園君の警戒を解きたかったという側面があります。これで私を愚かだと思ってくれれば幸いですけれどね。ま、そう上手くいかずとも問題は無いでしょう。大事なのは彼、即ち金田君が我々の元にいて、スパイ活動をしてくれること。それだけなのですから」

「そうか。ならば何も言うまい」

「そうだ。葛城君。君にお願いがあります」

「なんだ、出来る事なら何でもしよう」

「ありがとうございます。橋本君を警戒してください。出来れば1人にしないように」

「なに? 橋本は確かに坂柳派だが、今のところ真面目に動いているように見えるが」

「はい。一見すると。それに坂柳さんからは私が指揮を執る場合、何もしないように指示が出ているようです。しかし、それはあくまでも橋本君自身の口から出た言葉。私は信用していません。そして彼はAクラス発足当時積極的に他クラス、特にBやCと交流を持っていました。その中には龍園君も含まれているでしょう」

「裏切るかもしれない、という事か」

「ええ。ですので、密かに見張っておいてください。出来れば君だけで。他の方の演技にはあまり期待できないものですから」

「手厳しいな。だが分かった。警戒しておこう」

「ええ。よろしくお願いします。彼を1人にしないように、ね」

 

 これでまた1つ、不穏分子を潰せた。

 

「ねぇ、苦肉の計ってなに」

 

 と、思っていたら私のカッコつけた発言の中身を実は理解していなかった真澄さんが声をかけてきた。流石に持っていたお菓子は食べ終わったらしい。これで太らないのおかしくない?クラスの女子に殺されるぞ。

 

「苦肉計とは人間というものは自分を傷つけることはない、と思い込む心理を利用して敵を騙す計略のことです。日本では苦肉の策とも言いますね」

 

 三国志では赤壁の戦いで使用されたものが有名だ。もっとも、これは史実ではなく演義なのだが。中身は黄蓋が周瑜に献じた偽計である。

 

 荊州から脱出した劉備一行は呉の孫権を頼る。渋る呉の臣下は諸葛亮が論破し、悩む孫権は魯粛が説得。周瑜も己の妻である小橋を曹操が嫁に欲しているという孔明の嘘だか本当だか分からない情報を信じ、開戦を決意した。

 

 赤壁に布陣した劉・孫連合軍に対し、曹操軍は3倍という兵数。周瑜配下の黄蓋はこの劣勢を前に有力な対抗案を出せないとして司令官である周瑜を罵倒した。これを咎めた周瑜は兵卒の面前で黄蓋を下半身鞭打ちの刑に処する。なお、この鞭とは今のような革製の物ではなくただの棍棒だ。なんとか呉の諸将の説得で周瑜の勘気が収まり、黄蓋は一命をとりとめる。しかし、これにより重傷を負った黄蓋は、敵である曹操軍に投降を申し出る。

 

 一連の出来事は間者が報告していたため、曹操はこれを受け入れて一旦自軍へ招く。しかし黄蓋の書面を見て策を看破し、「私を苦肉の計で騙そうというのか」と言うが、孫権軍の使者である闞沢が曹操を丸め込んで黄蓋の投降を成功させる。これと同時進行で周瑜は大軍を有する曹操を相手にするには火計しかないと判断し、計略を使いて荊州水軍の要である蔡瑁・張允を謀殺した。更に曹操の策によって偽りの降伏をしてきた蔡瑁の従弟の蔡中・蔡和を利用し、偽情報を曹操軍に流させる。これにより、有力な水軍指揮官がいなくなってしまった。

 

 加えて慣れない船に酔い、病人の続出していた曹操軍は龐統の唱える連環の計にあっさり引っかかり、船を鎖で固定してしまう。その後、諸葛亮孔明(私のオリジナル)が東南の風を吹かせ、偽装投降に成功した黄蓋は曹操軍に放火することに成功し、曹操軍は壊滅。こうして劉備・孫権連合軍は曹操軍の撃退に成功した。

 

 というものだ。元々は春秋戦国時代に鄭の武公が胡(異民族)を討つに先立って娘を嫁がせ、胡の討伐を進言した関其思を殺して胡を油断させたことや、前漢初め、斉への使者である酈食其が同盟を結んだ後に韓信が斉を攻撃して、酈食其が斉で烹殺されたことに由来している。

 

 苦肉計したという事は私は東南の風を吹かせないといけないのか?南西からの風ならもうすぐ来るだろうけれど。私の見立てではこの試験の最終日かその前日は雨だ。

 

 私の歴史解説をうんうんと頷いている葛城。もしかしたらこういうのが好きなのかもしれない。まぁ男の子は大体好きだろうさ、戦国時代と三国志は。そして分かったような分かっていないような顔をしている真澄さん。多分興味が無いのだと思われる。少し苦笑してしまった。

 

 

 

 

 

 

 洞窟に戻り、『今からCクラスの生徒が1人来るが、寛大な心で受け入れてあげて欲しい。彼はCクラスの暴君に逆らう勇気ある生徒だが、船に戻すのも危険なためここで人道上の問題として保護したい』と、そう言って説得した。機嫌の良い彼らは特に抵抗することもなくあっさり受け入れた。中にはこれも作戦だろうと気付いている者もいる。それならそれで問題は無い。そういう人は計略だと意識して金田を誘導したりしてくれるだろう。アシストに期待という事だ。

 

 そしてちゃちゃっとスポット占有を済ませて戻れば、金田が来ており、中に迎え入れられていた。先生への報告は済ませたらしい。夕飯の支度を始めたクラスメイト達に積極的に手伝いを申し出てイメージを稼いでいる。良い労働力だ。こき使おう。

 

 夕飯は女子が作る事が多い。そして私もそこに入っている。昔年齢詐称してホテルのレストランで働いていた事もあるので大人数の食事準備などお手の物だ。米も最終日まで毎食使っても問題ない量を強奪して……頂いてきた。ありがたい事だ。

 

 今日の夕食はワカメの味噌汁、ごはん、焼き魚と刺身。あと卵焼き。ザ・和食だ。食べれるだけ感謝して欲しい。楽しかった思い出話をしながら夜が更けていく。シャワーも済ませたら、すぐにみんな倒れるように寝てしまった。遊びまくって疲れていたのだろう。

 

 そして私は昨夜と同じように夜まで起きてスポット占有に行く。だが今日はその前に1つやりたいことがあった。昨日浮かんだ質問をしたかったのだ。

 

「先生、今お時間よろしいでしょうか」

「ああ、構わないぞ」

 

 夜だが先生は普通に起きていた。大きいテントの中には小型冷房もある。羨ましいことだ。だからスーツ姿なんだろうが。

 

「諸葛……生徒のバイタルチェックをしているが、ちゃんと寝てるか?」

「ええ、多少は寝ていますよ。それに、私は72時間くらいなら不眠でも動けますので、寝られるだけご褒美みたいなものですよ」

「そうか。だがまぁ、体調には気を付けるように」

「お気遣いありがとうございます。それで、本題なのですが質問よろしいでしょうか」

「なんだ」

「坂柳さんはどうなってます?」

「今試験を続行中らしい。もう間もなく終了するそうだ。試験内容はこちらにも知らされていないが……」

「なるほど。では坂柳さんは今回はいないようですけれども一般の不参加者と同じ扱いではなく、便宜上この夏季特別試験1回目に参加していたという事になる、という事でよろしいでしょうか」

「ああ、そうなるだろう。坂柳は参加扱いだ」

 

 それが分かったので、私は質問したかった本題を聞く。それを聞いた先生は複雑そうな顔をしていた。

 

「確かに理論上は可能だ。しかし、それをしてもスポット占有は行えないぞ。代理人も認められないし、連絡を取る事も出来ない。キーカードが貰えるだけだ」

「なるほど。ですがあくまでも可能ではある、ルールには抵触しないと考えて良いのでしょうか」

「ああ、その認識で構わない」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 それだけ聞くと先生の元を後にし、夜の森へ駆けて行った。計略が成功する道筋はもう見えている。坂柳の件は学校側が思ったよりも弱腰だったことに救われた。もう間もなく30ポイントが追加されるだろう。罠は複数張っておく方がいい。計画の成功を確信していた。

 

 

 

 

 

 3日目も同じような生活スタイルだ。朝は私が叩き起こし、飯を食わせる。その後は点呼。そしてスポット占有と食事調達組が動き出し、洗濯組が留まる。今日の午後も自由時間になっているので、各々したいことをしに行くのだろう。私は今日は洞窟内で寝る。先生に言ったように3日くらいなら余裕だが、そうは言っても寝れた方が良い事に変わりはない。なので、洞窟内に残った。

 

「お前は行かなくていいのか」

 

 2人だけになった空間に真澄さんが残っている。彼女も女子に誘われていたが、今日は断ったらしい。なお、金田は男子グループが連れて行った。彼もすっかり馴染んでいるように見える。スパイ君には精々罪悪感を抱いてもらおう。戸塚なんかは密かに突っかかってきたが、真澄さんに幾度となく撃退されている。何故葛城は彼を側近にしているのだろう。分からない。

 

「別に行っても良いけど、そうしたらアンタはここに1人でしょ」

「まぁ、そうなるな」

「そうなると何があるか分かったもんじゃないから。残って見張りをしといてあげる」

「そうか。ま、それは助かるがな」

 

 彼女はゆっくりと私の隣に腰を下ろした。

 

「それで、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない。今回の作戦」

「作戦……そうだなぁ。良いだろう。だがその前に聞いておきたい。お前はどこまで読んでいる。想像で構わないから言ってみろ」

「アンタがリタイアしようとしているのは知ってる」

「そこまで見抜けていれば上々。この試験はリーダー当てが実質鍵となる。普通は300ポイントを使い切るなんて事は無い。そして大体その残ったポイントは同じくらいになる。だからこそ、+αを積めるかが重要だ。そしてそのリーダー当てに関する諸々のルールの中に、正当な理由があればリーダーだってリタイアできると書いてある。つまり、このリーダー当て自体を無効化したければ全クラスが最終日の点呼の数分前にリーダーをリタイアさせればいい。だがこれだけでは80点だな」

「80点……。だったらリタイアしたふりをして、点呼の分のポイントを犠牲にしつつ他クラスにはリタイアしたと嘘を吐いて潜伏するとか? 偽のキーカードを作るのは大丈夫かどうか、最初に聞いてたし」

「おお、90点。と言うかそれはやる。そしてその時の偽のリーダーはお前だ」

「まぁそうなるでしょうね。それで、残りの10点分はどこが足りないの?」

「う~んそれはその時になったら分かるさ」

「あっそ。またいつものヤツね。今はまだ語る時ではない、みたいなのでしょ」

「そうそう」

「アンタ、やっぱりホームズ好きでしょ」

「嫌いではないね。昔読んだきりだけれど、流石推理小説の金字塔と言われるだけの事はあると思ったな。自分がホームズやモリアーティー教授ならどうするか、とか考えたものだ。懐かしい」

「その場合、私はワトソンかモラン大佐って感じ?」

 

 なるほど、確かにそうなる訳だ。ここの学校内だけでの人間関係に置き換えればそうなるだろう。もっとも、私にはちゃんとした本来の副官がいる訳だが。

 

「多分、アンタはもっと優秀な部下がいるんだろうけど、少なくとも今は私がバディみたいなもんでしょ? 違う?」

「いや、違わないな……そろそろ寝て良いか?」

「ああ、そうだったわね。好きにすれば?」

「そうさせてもらうさ」

 

 お休みなさい、といつもより優しい声が聞こえて、眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 少し寝たことで元気になった。完全回復である。寝た時刻は午後1時頃。起きたのは3時半頃だった。私が起きた時には真澄さんは隣でクークーと寝息を立てていた。これでは残っていた意味があんまり無いなぁと苦笑しつつ、ジャージを羽織らせる。暑い南国でもこの洞窟内はひんやりしている。風邪などひかれては計画に支障が出てしまうし、部下の体調を気遣うのは当然だ。

 

 少し待って、ボチボチ何人か帰って来たのを見てスポット占有に出かけた。そして肝心の夜である。今日はちゃんとイベントを用意している。恐らく雨であろう6日目以外の3、4、5日目の夜にはそれぞれイベントを用意して、気を紛らわしてもらう作戦だ。

 

 夕食も終わった夜の洞窟の灯りが全て消され、蝋燭(5本セット・1ポイント)の灯りがゆらゆら灯っている。中央の部屋に集まったクラスメイト達は何が始まるのだろうという顔だ。寝たい人は寝て良いと言ったのだけれど、見逃さないようにしたいらしい。

 

「皆さん、3日目の生活お疲れさまでした。我々は学校に騙されこんなクソ暑い南国の島に放り出された挙句サバイバルを強いられている訳ですが、よく考えれば今は夏です。夏と言えば……?」

「海!」

「花火!」

「スイカ割り!」

「そう、怪談ですね」

「「「????」」」

 

 思い思いの夏っぽい行事を口にするクラスメイト達をちょっと無視して言葉を続ける。

 

「と言う訳で、納涼大怪談大会を開始しま~す!いえ~い」

「「「……」」」

「さて、怖い話が苦手な人は避ける事をお勧めします。心臓の弱い方も一応ご注意を。……大丈夫ですね?では始めます。まずは私から。これは私の住んでいた家の話です」

「ちょちょちょ」

「なんですか真澄さん」

「え、いや、アンタ、事故物件に住んでたの?」

「ええ、はい。四国のド田舎、森に埋もれた道のそのずっと奥、空き家ばっかりになってしまった集落の最後の一軒である和風の屋敷。それが我が家です。色々ホラー要素には事欠かない家でしたね。懐かしい」

「そ、そう……」

「では、話を続けますね。あれは私が15歳の時……」

 

 

 

「と言う訳で開かずの間を開けてしまった私の大叔母は結局見つからなかったのです」

 

 ここまで約1時間。ずっとベラベラ喋っていた訳だが、誰1人目を離すことなく聞いていた。そんなに面白かったのだろうか。ガタガタ震えている人も結構いるのが気になるところだが。こういうのが平気そうな顔の人たちも心なしか青ざめている。

 

「な、なぁ……今までの話って全部作り話……だよな?」

「いいえ、橋本君。残念ながら全て実話です。私も作り話だったら良かったんですけどねぇ」

「……」

「さて、最後にとっておきを。今ここでこうして過ごしているこの島ですが、実は太平洋戦争当時は激戦地でした。この洞窟は旧軍の指揮所だった場所でしょう。米軍に接収された後に返還され、それからはずっと日本領みたいですけど……例に漏れずここでも出るんでしょうね。軍人の亡霊が。ほら、例えばアレみたいに」

 

 指さした方向には皆がいない間に木の棒で作った人間ぽい案山子。暗くして吊り下げている紐を隠し、お尻で踏んでいた。今それを離したので案山子は自立し、暗闇に佇む霊みたいになってしまった。

 

「「「「ギャーーーー!!!」」」」

 

 文字通りの悲鳴が響き渡る。何事かと先生が駆けつけてきてしまった。

 

「どうした、大丈夫か!」

「ああ、先生。ご心配なく。怪談で少し怖がらせ過ぎてしまいまして」

「そ、そうか……。ほどほどにな……」

「すみません、つい調子に乗ってしまいました。大丈夫ですよ、今のところ深夜に毎日起きていますが、特に何も見かけませんから。さて、単調な毎日だとつまらないと思い企画しましたが、どうでしたか?面白かったならば幸いですね」

 

 反応を見る限り怖かったけど面白かったという声が大きいので良しとしよう。どんなに成績が良くても怖いものは怖いという人間の本能には逆らえないのだ。私はビビってる人の反応を見て面白かったので楽しかったが。

 

「怖すぎるだろ……」「心臓に悪い……」「寿命が縮まった」等々話しながら彼らは床についた。

 

 

 

 

 

 深夜、誰もが寝静まった洞窟。私はいつものように起きている。さて、私の話した怪談会での話は凡そ真実。だが、1つ嘘を吐いた。「ここに来てから何も見かけていないので大丈夫」と言ったが、これは嘘である。

 

「だって言えないよなぁ、流石に」

 

 風の音に混じって微かに聞こえる人の足音。それも1人ではなく複数人。毎回姿は見えないが、決まってこの洞窟の前で止まる。まるで、この前で整列しているかのように。

 

 試験は4日目へと突入していく。明日で半分が終わりだ。そう考えながら気を紛らわす。そして「そう言えば」と、呟き思い出す。

 

 もうすぐ8月15日だった。




Aクラス2日目開始時所持ポイント:220ポイント(坂柳は以下略)
Aクラス現状消費ポイント:1ポイント(蝋燭、5本1セット)
Aクラス2日目現状所持ポイント:219ポイント
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