『君の知らない物語』
さて、4日目が来た。我々Aクラスは新しい
特に代わり映えのしない日だ。だが、スポット占有に出かけた帰りにCクラスの状況を一応確認しておこうと思い海岸へ行く。案の定もぬけの殻だった。海にはビーチボールが所在なさげに転がっている。
作戦通り、Cクラスのメンバーは全員船に戻ったらしい。ポイントを(我々Aクラスのせいもありつつ)使い切ったのだから、いくらリタイアしてもマイナスは無い。その上で少数だけ残ってリーダー情報を集めれば理論上は150ポイントが手に入る。加えてA、B、Dのスポット占有によって得られるボーナスポイントを無くし、マイナス50ポイントのマイナスを押し付けられる。当然、Cクラスもボーナスポイントを持っているだろうから、場合によっては一位も夢ではないという事だ。我がクラスのポイント使用は少ないが、確かに全クラスから当てられればかなりキツイ。尤も、そうならないようにしているのだが。
次にやる事は定まった。Cクラスのリーダー当てである。私の知る限りではCクラスの人間は確定で2人島にいる。ウチのクラスにいる金田とDクラスにいる伊吹と言う生徒だ。だが私の勘が正しければ、もう2人いる。1人の場所は恐らく場所はBクラス。そして龍園もどこかにいるはずだ。彼が誰かにリーダーを任せるタイプには見えない。潜伏場所を今夜探すとしよう。
だがその前に予想は確定させておくべきだろう。行くべき場所はBクラスだ。
Bクラスのベースキャンプの近くに行けば、和気あいあいとした感じの光景が繰り広げられている。一之瀬主導の元、順調に進んでいるようだ。間もなく夕食時なのでクラスメイトがほとんど集まっていると踏んでいる。そして目視で人数を数えれば、41人いる。ビンゴだ。
その中でも積極的に働いている男性生徒がいる。小田君、とBクラスの面々には呼ばれているようだが、やはりBクラスの人間の対応に違和感を感じる。同じクラスにしてはよそよそしい。彼がCクラスの人間で間違いないだろう。
まだ顔は一致していないが、この学年の名簿には目を通してある。一度見た文章は忘れないという特技があるので、思い出すのは容易だ。Cクラスの名簿を頭の中で思い出せば、ヒットする名前があった。小田拓海。間違いない、彼がCクラスの人間だ。他に小田という名字の人間はこの学年にいないのだから。
これで私の想像の裏付けは取れた。もうここに長居している意味は無いだろう。スッと気取られぬように気配を殺し、その場を後にした。
「あのですねぇ、私の言った事、忘れました?」
夕食前。女子などの調理組が料理中に私は冷たい声でそう問いかけていた。なお、今日の夕飯はカレーらしい。ルーはCクラス産である。ありがたい事だ。ジャガイモや玉ねぎもCクラス産である。有機農家・龍園翔みたいなのを想像し軽く笑ってしまった。まぁそれは良い。今はこの事態の収拾である。
相手は坂柳派の男子である。彼の罪は1つ。Dクラスの人間から地図を盗んできたという事だ。正確には奪い取ったというところだろうか。そこにはDクラスが占領している分のスポット情報などが書いてある。しかし、一見有用なそれも、私がどのスポットをどこのクラスが占有しているか全て知っているため、無意味と化す。
「私は言ったはずですよね? 他クラスと、事を起こさないように、穏便にと。違いますか?」
「……違わない、です」
「では、何故これは貴方の手元にあるのでしょう」
「それは……Dクラスの情報が少しでも手に入ればと思って」
「それで強盗していては意味も無いでしょう。誰から奪い取ったんですか、これ」
「確か……綾小路とか言う陰キャっぽい奴から」
「ご迷惑をかけておいて陰キャっぽいとは何と言う言い草。良いですか、一歩間違えればルール違反で大きな失点を被っていたのは私たちですよ!」
「それくらいにしてやってくれ」
説教の途中ではあったが葛城が割り込んできた。しかし、ナイスタイミングである。このまま私がグチグチ言ってても良いのだが、ここは彼にしっかり存在感を出してもらおう。坂柳派でも庇う姿勢を見せれば寛容さがアピールできる。そして良くも悪くもこの試験で存在感を増した私に意見できるという意味でも勢力拡大に一歩役立つだろう。
「クラスの役に立ちたいという一心だったのだろう。方法に問題はあったが、その心意気までは責めないでやってくれ」
「しかしですね、ここで示しはつけないと後々に響きますよ」
「もう十分に反省してるだろう、そうだな」
「あ、あぁ……」
「はぁ~~まぁ良いです。もう、やってしまったものは仕方ないので。許しましょう。明日私が返しに行ってきますので、よく反省してください。それで不問にします。坂柳さんにも黙っておいてあげますから」
「あ、ありがとうございます」
「もう行っていいですよ」
ペコペコ頭を下げて彼は手伝いに行く。余計なことをしてくれたと思ったが大手を振ってDクラスの偵察に行けるいい機会だ。起きてしまったものは仕方ない。これをいかに最大限活かすかがポイントだ。
「葛城君、仲裁ありがとうございます」
「いや、大したことではない。気にするな」
「今後ともよろしくお願いします」
「ああ、勿論だ」
出来たよ~という声が聞こえる。確かにいい匂いが漂ってきた。食事面では我々が一番キャンプっぽい事をしているような気がする。少なくとも栄養食に頼っているよりかは百倍マシだろう。
「なんか余りそうだね」
「男子が沢山食べるから良いんじゃない?」
「先生でも呼んで来れば解決じゃね?」
「あ、それ良いね!」
確かに先生の飯はあんまり美味しくなさそうなカロリーメイトなどを食べていた。結構きついのは先生も同じかもしれない。
「私が呼んできましょうか?」
「お願いしまーす!」
配膳担当の女子からお願いされ、洞窟を後にして先生の元へ向かった。先生は引き続き入り口のすぐ近くにテントを張っている。この時間にいるかは分からなかったが、普通にいたようだ。
「先生、よろしいですか?」
「ああ、諸葛か。どうした」
「ご飯、食べません?」
「どういう意味だ?」
「そのままですよ。今夜はカレーらしいんですけど、大分沢山作ってしまったようなので、是非とも先生にも消費にご協力いただけたらなぁと」
「だがしかし……」
「先生がクラスの手助けをするのは禁止されていますけど、先生にご飯を作るのは禁止されてないですよね? これは手助けでは無いので問題ないと思いますが。公平性と言う部分でも、慕う担任の先生に生徒たちが善意で、という事で何とかなるでしょうし」
「……そうだな、折角のお誘いであれば断るのも悪いだろう。行かせてもらう」
「ありがとうございます。皆さんも喜ぶでしょう」
軽く荷物をまとめた先生はテントを後にする。鍵もかかるようだ。良い仕組みになっている。
「諸葛、昨日言っていた質問の内容、そのまま決行する気か?」
「ええ、そのつもりです」
「だが、昨日言い忘れた欠点も見つかったぞ。お前も気付いているかもしれないが、リーダー指名は自クラスのリーダーが行う。しかし、本土と連絡は取れない」
「ええ。ですがマニュアルにはこう書いてありました。『カタログ以外にもポイントで購入できるものはある』と。先生、リーダー指名を行う権利は幾らですか?」
「……本当のリーダー以外が他クラスのリーダーを指名する権利、と言う意味だな?」
「その通りです」
「そうだな……。その場合だと……30ポイントはするだろう」
「では、それを購入させて下さい」
「良いだろう。だが、誰に付与する」
「神室真澄さんに」
「神室だな。分かった。あとで引き落としておく」
「お願いします」
そうこうしているうちに洞窟までたどり着いた。
「皆さん、先生を連れてきましたよ」
「ありがと~!」
「夕食を頂く前にお前たちに報告がある。点呼の時に言おうと思っていたが、坂柳の試験が終了した。無事クリアしたそうだ。その為、Aクラスには30ポイントが追加で付与され、他クラス同様300ポイントでのスタートと同義になる」
口々に喜びの声が上がる。これで坂柳の面子も一応確保できただろう。それに、嫌がらせも成功し、ポイントも手に入った。良い事づくめだ。まぁまだ一仕事してもらうのだが。
「ほら~喜ぶの分かるけど、冷めないうちに食べて!」
「先生、これが先生の分です。どうぞ!」
「ああ、頂こう」
調理班の女子たちから先生にもカレーの入った皿が渡される。それを口に運ぶのを調理班の面々はソワソワしながら見守っていた。
「どう、ですか?」
「うむ、美味しいぞ」
「「「やった~」」」
舌の肥えている大人に美味しいと言って貰えたので安心しているのだろう。私も口をつけるが、確かにこれは美味い。Cクラスの金で買ったものだと思うともっと美味しい。今頃龍園は何を食べてるんだろうな。蛇か?そう考えると美味しさがどんどん上がっていく気がする。
私がそんな最低すぎる感想を抱いている中、先生は生徒たちに囲まれている。普段あまり交流することのない堅物の担任だが、まぁこういう交流も悪くないだろう。これだって、キャンプというか課外学習の醍醐味である気がする。普段は見れない先生の意外な一面が見える、と言うのも。一番楽していたのはCクラスだが、一番充実しているのはAクラスと言う自信があった。
結構な量を食べていった先生のおかげか、男子高校生の食欲のおかげか、鍋はすっかり空っぽになった。調理班の子たちが嬉しそうにしている。先生は、自分の分はしっかり片付けると礼を言って去っていった。
そして片付けも終わると皆何かを期待するようにこちらを見ている。勿論、イベントはしっかり用意していますとも。
「え~、それでは皆さん、お揃いという事で。本日のイベントを始めましょう」
「「「「イエ~イ!」」」」
「こほん。では今日のイベントですが、外に出ます。普段夜は皆さんこの洞窟の中に基本いるので、外にはトイレくらいしか出ないと思います。ですが、折角人家のない無人島に来たのですから、それっぽい体験はした方が良いかなと」
「き、肝試しじゃないですよね?」
「やりたいですか?」
「結構です!」
「おや、残念。さて、話を戻しますが、一応危ないので最後方には葛城君が懐中電灯を持っていて下さい。そんなに長くは移動しませんけど。私が先導しますので2列に適当に並んで付いてきて下さい。ではレッツゴー!」
ゾロゾロと夜道を歩いていく。一応足元に注意するように呼び掛けておき、安全面を確保。洞窟のある山の中腹から少し上がったところに開けた草原がある。そんなに広い訳ではないが、40人が過ごすには十分だ。
最後方がやって来たのを確認し、灯りを消すように指示する。しかし、真っ暗闇にはならない。それもそのはず。しっかり空には星が出ているからだ。
「それではご覧下さい。都会にいると全く分かりませんが、これが天然のプラネタリウムです!」
空を指させば一斉に視線が夜空に向かう。宝石箱をひっくり返したような満天の星空が輝いている。「すげぇ……」と誰かがこぼした。天の川もくっきりと見える。ド田舎に住んでいた身からすれば大して珍しくも無いのだが、ここにいるのは殆ど都会育ち。夜空を見上げても辛うじて一等星が見えるか見えないかくらいの感じだったはずだ。
「じゃあちょっと解説でもやりましょうか。え~まずあそこにあるでっかい星がデネブです。そこからスーッと移動してあの辺にあるのがアルタイルですね。三角形を作っている最後の一個ベガはあっちです」
夏の空は冬に比べれば水蒸気の関係で星が見えにくいが、それでも今日はよく見えている。明日の天気は多分曇りっぽい晴れだろうと思われるので今日のうちにやってしまいたかった。
プラネタリウムの解説員みたいな感じで説明していくと、皆の視線が移動して行ってるのが分かり面白い。
「怖いくらい綺麗ね」
隣にいた真澄さんはそう言う。視線は天の川に注がれている。
「パレットと絵筆が欲しいくらい」
「吸い込まれそう、と思えてくるだろ?」
「そうね……私の画力じゃこの綺麗すぎるからこそ怖い、みたいな感じは表現できないかも。ゴッホが星月夜を書いた時の気持ちが少しだけ分かる気がする」
「それは精進あるのみだなぁ。ま、その感性は大事にした方がいいね」
「こんな空……初めて見た」
彼女の目は感動していると共に画家の目になっている。次の作品は期待できるかもしれない。
「なんか、夏の大三角みたいな歌無かった?」
「あ~なんだっけ」
「アニメのなんかで使われてた気がする」
「『君の知らない物語』ですね?」
「あ~それ。金田君、詳しいね」
「アニメ・『化物語』のエンディングでしたね。作者はあの名曲ボカロソング『メルト』の作者と同じです。懐かしいですねぇ」
金田はどうやらアニメ好きのようだ。私も知ってるのだが。
「私、その歌知らないんだけど。アンタ知ってる?」
真澄さんは意外とアニメとかは見ないタイプなのかもしれない。私は日本の習俗を学ぶために有名どころは一通り見た。表現力や画力、アニソンに至るまで名作にはその理由があった。規制をかけてる本国は何してるんだろうと複雑な気持ちになったのを覚えている。
「まぁ一応。え~、『あれがデネブ、アルタイル、ベガ』 君は指さす夏の大三角 覚えて空を見る。ってやつですよね?」
全員の目線がこちらに集中する。いきなり視線を向けられてちょっとビビってしまった。そりゃ急にそうされたら誰でも驚く。
「アンタ……歌上手いわね」
「まぁ、苦手では無いですよ」
「フルで聞かせて!」
「聞きてぇ!」
「「「孔明!孔明!」」」
謎のコールが起こる。本来はこうする予定では無かったのだが、期待されたのならば断わるのも野暮だろう。
それに、本国時代に嫌と言うほど練習させられた覚えがある。あのクソみたいな組織だったが、個人の個性を徹底的に伸ばすという点ではとても優れていたと思う。まぁそれでも酷い場所だったが。私は統率者たるように育てられたが、こういう芸術面の技能もやらされた。美術より音楽に適性があったのでそっちを重点的にだが。
「では、ご期待にお応えして。行きます」
アカペラなのでリズムが取りずらいが、それくらいなら何とかなる。息を吸い込んで、歌い始めた。
「夜を越えて 遠い思い出の君が 指をさす 無邪気な声で」
歌い終われば拍手が起きる。泣いてる人もいるのは流石にちょっと予想外だったが、中学時代の失恋の悲しみを思い出したり、アニメの感動を思い出したり人によって様々だった。あの葛城が涙ぐんでいるのはギョッとしたが。何でもこの歌の主人公の気持ちに共感させられたらしい。
「「「「アンコール! アンコール!」」」」
響くアンコールの声。その後、喉が枯れるまで星空ライブをやらされた。まぁ、クラスメイトが楽しかったのならそれで良いだろう。
5日目。折り返しも終わり、残すところ今日を入れて後3日。最終日は半日だけなので、実質後2.5日だ。モーニングルーティンは変わらない。だが、今日は点呼の後、スポット占有を済ませた後に行く場所がある。昨日我がクラスメイトが奪ってきた地図を綾小路に返し、その上で偵察を行うという仕事だ。恐らくDのリーダーは堀北だと思っているが……違う可能性もある。一応チェックしておきたい。
森の中を抜けていくと、川がある。その上流の方がDクラスのスポットなのは知っていた。その為、川を遡って歩いていく。昨日の夜に龍園を発見した。地べたに寝転んでいる姿は少し可哀想でもあったが、まぁ自分で選んだ道だ。好きにすればいい。これで島に残っているCクラスのメンバーは龍園、金田、小田、伊吹の4名になる。誰がリーダーかは最終日までにリタイアした人間を考えれば分かるだろう。
川に沿って歩いていれば開けた場所に出た。ここからはDクラスの占有地。勝手に使用して怒られたくはない。なので、声をかけることにした。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」
全く反応がない。おかしいと思いながら占有地の中を進む。すると、向こうの方から声がしているのに気が付いた。どうやら集合しているらしい……がどうにもただ事ではなさそうだ。剣呑な雰囲気が漂っている上に男子と女子で真っ二つだ。
どうしたものかと思ったが、これは正直私の知った話ではない。Dクラスに何か問題が起きていたとしても、それは私の用事とは無関係な話だ。さっさと渡すものを渡して帰ろう。
「男子は信用できない! このまま同じ空間なんて……絶対無理……!」
「でも、男女が離れて生活するのはちょっと問題じゃないかな……。試験はもう少しで終わる。だからこそ、僕たちは仲間なんだから信じあい、協力し合わないと」
「……それはそうだけど。でも下着泥棒と一緒の場所なんて耐えられない!」
あそこで宥めているのが恐らくDクラスの中心人物の一人、平田洋介だろう。あのギャルっぽい金髪の子は誰だろうか。名前と顔が一致していない弊害が出ている。ともあれ、状況は察した。下着泥棒が出て、男子が疑われているという事だ。周りを見渡せば興味なさそうにしている堀北と……女子がもう一人。あれがCクラスの伊吹だろう。さて、用事をとっとと済ませるか。
「すみません」
Dクラスの面々の視線が一斉に背後にいた私に突き刺さった。
「お話し中申し訳ありません。先日、私のクラスメイトがこちらのクラスの方にご迷惑をおかけしてしまったという事ですので、謝罪に参った次第でございます。綾小路君はいらっしゃいますか?」
「ねぇ、話してるの、分からない?」
「ですから、しっかり断った上でお声かけしたんですけれどね」
ショートヘアの気の強そうな女子が食ってかかるが、それに櫛田が耳打ちをしている。
「え、じゃああの人が孔明先生? ウソ……!」
「お初にお目にかかります。Aクラス所属、諸葛孔明と申します。Dクラスの方々におかれましては以後、お見知りおきを」
「そ、そう……。ゴメンね、いきなり怒鳴って。綾小路君、行ってあげたら?」
「……ああ」
気の強そうだった子は急に声がしぼみ、チラチラこちらを見ながら謝ってきた。何が作用したのかよくわからないが、取り敢えず綾小路を借りれるならそれで良いだろう。近くの森の中へ行く。
「先日、うちのクラスの者が貴方の所持品を持っていってしまったこと、深くお詫び申し上げます。一応現物は返却させて頂きます。ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。当人も深く反省させましたので、どうか私の顔に免じてお許しいただければと思います」
「いや……別にそこまでではないからな。返してくれるならそれで良い」
「ありがとうございます。何か、お困りですか?」
「軽井沢の下着が盗まれたとかでな。今朝からあの調子だ」
「持ち物検査でもすれば良いのでは?」
「それはもうした。結果、どこからも出てこなかった」
「対象は男子だけですか?」
「そうだ」
「なるほど……綾小路君的にはこの事件、どう見ます?」
「オレの意見か? 大したものはないが」
「それでも構いませんよ」
「そうだな……男子が犯人にしてはお粗末すぎる。盗みたければ機会はいくらでもあったし、隠す場所だっていくらでもある」
「同感ですね。あなたは犯人じゃないでしょう?」
「ああ」
「でも疑われている」
「ああ」
「ところで話は変わりますがDクラスのリーダーは堀北さんですか?」
「……どうだろうな」
ビンゴ。まぁそうだろうなぁと思ってカマをかけたが正解のようだ。目の動きを見れば分かる。ほんの一瞬、堀北の方を向いた。だが、一つ疑問が残る。
私は先日の暴力事件を解決に導いたのは堀北ではなくこの眼前にいる無表情な男だと思っている。もし、そうだとしたら、どうしてバレるような真似をした?答えはバレて欲しいから。正確には今この段階ではバレても全く問題ないから。つまり彼の戦略もリーダーリタイア。これによってリーダー当てを防ごうという算段だろう。だから私の思考を誘導しようとわざとトラップに引っかかった。
勿論、これは私の思い過ごしの可能性もある。堀北の体調が悪いのは見れば分かったが、とは言え、最終日まで持たないほどとは言えない。どちらにしろ確認が必要だろう。明日は張り込みだな。
「すみませんね、急に変な事聞いて」
「いや、これもクラスのためだろう。気にするな」
「しかし……うるさいですねぇ」
まだキンキンとした声で女子と男子が争っている。まぁどうでも良い事だ。綾小路を連れてまた争いのど真ん中に戻った。
「それでは私は失礼します。お忙しい中失礼しました」
「ああ、うん。気を付けて」
平田に言葉をかけられる。なるほど、彼はモテそうな善人感が漂っている。同時に平和主義者の側面も見えたが。こういう揉め事には弱いタイプだろう。Dクラスの面々に頭を下げ、その場を後にした。
収穫は大いにあった。Dクラス。やはりただの落ちこぼれの集まりではないようだ。
クラスに戻れば、いつものルーティン通りに皆が行動している。そんな中私はCクラスの金で買ったプラバンと持ってきた筆記具で工作をしていた。偽装キーカード制作である。
「何してんの」
「作ってワクワクってやつですよ」
「その番組、結構前に終わったわよ」
「……え?」
「え、じゃなくて」
情報をアップデートできていないことにちょっとショックを受けながら、工作をする。そうだ、と思い真澄さんにDクラスの状況を話した。
「ふーん、下着泥棒ね」
「さて、真澄さん。誰が犯人だと思いますか」
「誰って言われてもね。容疑者は5パターンでしょ」
「続けて」
「1つのパターン目は男子が犯人。2つ目のパターンは女子で、その軽井沢って子に恨みを抱いている人が犯人。3つ目は嫌いな男子がいて、そいつに罪を擦り付けたい軽井沢って子の自作自演。4つ目は伊吹っていうCクラスの子が犯人。5つ目はそれ以外」
「ふむ。良いじゃないですか、ワトソン君」
「5つ目はもう分からないから飛ばすけど、それ以外は正直絞れなくない?」
「こういった犯人が分からない場合、大事なのは
「何故……軽井沢が嫌いとか性欲とか?でも最初の動機でも最後の動機でもやろうと思えばいつでも出来たわけだし、何も今日やる必要はない。それに、Dクラスが負けたら被害を被るのは自分も一緒な訳だし、お粗末すぎる……。だとすると、被害を受けず、男子でもないから疑われにくくて『Dクラスの混乱を望んでいる』が動機になる……犯人は伊吹って子?」
「パーフェクト。ほぼ99%彼女だと踏んでいる。素晴らしい、良い推理ですよ」
「はいはい。高育のホームズさんに褒められたのなら光栄です」
しかし、思考回路がしっかりしてきている。始めに比べればかなり成長していると言えるだろう。これならばより有能な部下になってくれること間違いないだろう。その分、裏切られないように繋ぎとめておく必要がある訳だが。
「そうだ。明日はいよいよ私がいなくなる。偽装リーダー、よろしく頼むぞ。ついでに今から打ち合わせをする。覚えて必ず実行してくれ」
「分かった」
「まず……」
全部の内容を話終わると彼女は苦い顔をしていた。
「それ、ホントに上手くいくの?」
「私を信じろ。これでどれだけ他クラスが巧妙に動いても必ず看破できる」
「……分かった。任せておいて」
「頼んだぞ、相棒」
「はいはい」
パンと片手でハイタッチする。これで万全だ。丁度偽装キーカードも出来上がった。本物と見まごう形になっている。抜かりはない。スパイである金田もクラスに上手く溶け込みつつ、様子を窺っている。私に言わせれば、学生としては上手い方だが本職には到底かなわない。そしてこちらがその本職なのだ。
その後、5日目は何事もなく終了した。やはり順調だ。物事が順調だと気分がいいが、それでも油断はしない。好事魔多し、とも言うからだ。
「それでは今日のイベント、Cクラスの金でかっぱらってきた花火で花火大会をしまーす!」
「「「「イエーイ!!」」」」
色とりどりの火薬が宙を舞う。良い感じに洞窟の水もあるし、蝋燭も残りがある。線香花火に火をつけて精霊流しでも歌おうとしたらすぐ消えてしまった。ムッとしてどこのメーカーだよと思い、裏を見たら中国製と書いてある。何と言うか、こう、複雑な気持ちだった。最後には金田撮影で先生も入れた集合写真の撮影も行い、無事に6日目を迎えるのだった。
ホワイトルームでも歌は教えるようで、綾小路君も上手いです。採点では100点を出せるでしょう。ただし、人を感動させることは出来ません。感情が籠ってないですからね。
反対に孔明は感情を良く知っていますし、人間っぽさは明らかにホワイトルーム生よりあるので、正確性は99点ですが歌手デビューできるのはこっち、みたいな感じをイメージしてます。