『徳川家康』
そして運命の6日目を迎えた。この日の行動で全てが決まる。まずはいつも通り深夜のスポット占有。そして朝を迎えるのだが……この時の行動パターンをいつもと変える。ここからは私の演技の腕の見せ所だ。
深夜のスポット占有の際に、軽く雨が降っていた。今日明日には雨だと思ってはいたが割と早かったようだ。そして私はしっかりと雨に打たれている。これは好都合だ。
まずは普段通りに朝ご飯を作る。そして叩き起こす。それまでは普段と同じ。ここからが勝負だ。まず、普段は何も装備せずに食事を作っているが、今日はタオルでマスクを作ってそれを装備する。そして時折咳をしておく。心配されても大丈夫で通し、朝飯を抜く。これで完璧。あとは真澄さんの演技に期待だ。
「ゲホゲホ……さて、今日が実質的な最終日です。昨日の深夜、雨が降りました。恐らく今日の午後からは雨です。なので、午前中の探索はほどほどにしておきましょう。午後は一応室内で出来る事を用意していますので、そちらを行ってください。では、ゲホッ! ……お願いします……」
「孔明先生、大丈夫……?」
「そうだぞ、ゆっくり休んでいてくれ」
「いや、しかしそういう訳には……!」
「はいはい。コイツの面倒は私が見ておくから、皆は言われた通りにしない?」
「そうだな。取り敢えず、諸葛のことは神室に任せておこう」
私が食い下がる素振りを見せれば真澄さんのアシストが入った。何かを察した葛城のサポートもあり、自然と休める状態になる。午前の食糧確保組、と言ってももう半分フルーツゲットと魚釣りに終始している感じだが、彼らが出かける。洗濯組も、今日はもう洗うものは特に無いので、外に出て貰った。
その後、全速力で朝のスポット占有を済ませてしまう。そうして洞窟に戻れば、まだ誰も帰ってきていない。当然と言えば当然だが、好都合な事だった。これでもう一回打ち合わせが出来る。
「よくやってくれた。これからは手筈通りに行くぞ」
「分かってる。まず、アンタが熱を出して、咳も酷いっていう状態になる。それで、リタイアするって皆に宣言する。その後、私が偽のリーダーになる。指揮は私と葛城が執る。で良いんでしょ?」
「その通りだ。大事なのはこの時、私はまだリーダーだという事。午後と深夜のスポット占有までは私はこの島に残る。リタイア時には真澄さんと私で先生のところへ行くという名目で外に出る。そうすればリタイアを疑う者はいないだろう。金田も騙せる」
「それで夜まで島に潜伏して、金田とB、Dに潜んでるCクラスの生徒のリタイアを見届ける。そうしたらアンタが私に各クラスのリーダー指名の指示を書いた紙を深夜に渡して、リタイア。この時に本当のリーダーを指名する。これでOK?」
「ああ、その通りだ。お前の演技とアシストにかかっている部分も大きい。くれぐれも頼んだぞ」
「分かってる。午後4時のスポット占有の時、ここはしないんでしょ?」
「ああ。その通りだ。だが、深夜の時はしようと思ってる」
「分かった。取り敢えず、アンタはここで寝てな」
「了解」
しばらくの間、睡眠して時間を過ごす。なに、風邪気味の演技など容易い。やろうと思えば自分で肩を外したりもできる。それに、実際に熱があるか測るための体温計は無く、触る役を真澄さんにやらせればいい。そうすれば誰も私を疑わないだろう。なにせ私はこれまで多くの信頼を積み上げてきた。それの成果を見せるときである。
時間はすぐに経過し、正午近くなりクラスメイトが戻ってくる。その時私はビニール袋を枕にして、ジャージを掛け布団代わりにし、寝ているふりをしていた。額には水で濡らしたタオルを設置。どう見ても病人だ。
「体温が高い。多分、38度近いと思う。ほとんど不眠不休で働いてたから無理はないと思うけど……これ以上は危険かもしれない。リタイアさせてあげて欲しいんだけど」
「……俺としては賛成だ。諸葛はここまで良く戦ってくれた。坂柳の分が相殺されてしまうが、元々は存在しなかったモノを諸葛が交渉で引き出してくれたものだ。ポイントには十分な余裕がある。これまでの働きに感謝こそすれ、リタイアを責めるのは筋違いだろう」
「俺も良いと思うぜ。誰だってこういう事はあるからな」
真澄さんの嘆願に対し、すぐに葛城が頷いた。それに追随するように橋本も続く。あまり葛城が出張ると主導権を握られかねないと思ったのだろう。だが私にしてみればナイスアシストだ。これにより、2大派閥の巨頭と、最小派閥ながらもここまで試験を導いてきた私の側近がリタイアを許可したことになる。これに表立って反対すれば自分が悪者だ。そうなりたい者はいないだろう。
「そういう訳だから、運営のところに一緒に行くよ」
「……申し訳ありません、皆さん。出来れば、こんなところで終わりたくなど無いのですが……ゲホッ! ゲホッ!」
「気にすんなよ!」
「船でゆっくり休めよな!」
「後の事は任せてね」
「皆さん……ありがとうございます。午後は、Cクラスのポイントで貰ったプラバンで昨日のうちにトランプを作っておきましたので、それを使ってください。あと、スイカ割り用に、そこら辺で冷やしていますので、そちらを……ゲホッ!」
「はいはい。分かったから。早く行くわよ」
「後の事は葛城君と橋本君、それから真澄さんにお任せします……皆さん、彼らの指示を守ってくれぐれも軽率には動かないように……それでは……ゲホッ!」
何も知らないクラスメイトに見送られながら、真澄さんを伴ってヨタヨタと洞窟を後にした。若干罪悪感があるが、これも勝つための戦略。暫く歩くと、雨がポツリポツリと降り始めてきた。
「真澄さん、ここまでで結構。これから私は潜伏します。どうかよろしく」
「了解」
「期待してますよ」
「ま、それなりにね」
頑張って、と言い残し、彼女は手をヒラヒラ振りながら洞窟に向かって戻って行った。さて、ここからである。まずは森の中で午後4時まで待機し、スポット占有を行う。この際洞窟内の物は物理的に出来ないので諦める。
そしてそれが済んでから移動した。龍園がリタイアしていないのは知っている。金田が行動を起こすとしたら今夜だろう。それも恐らく深夜。朝起きたらもぬけの殻……という寸法だろう。そして恐らくDクラスも今日の夜の点呼を終えた段階くらいで堀北がリタイアするはずだ。リタイアするためには船のすぐ近くにある運営のテントに行かねばならない。必ずそこを通る。つまり、そこを見張れば誰がリタイアしたのか分かるという事だ。そして、それを見張るための良い場所がある。
それは海である。誰もいない無人の小屋。管理用の資材などを置くためか、それとも昔の島民の残滓か。その辺は分からないが、海辺にあるその小屋で持ってきた荷物を開く。中には水着。これに着替え、服や装飾品(時計以外)を一式そこに置いた。ここは誰も来ない場所。だからこそ、隠れ家にしたりするには最適だ。龍園はここから見て島の反対側にいる。まず間違いなくここへは来ない。
「さて、行きますか」
そう呟いて徐々に波の高くなる海へ飛び込んだ。黒い海水がうねっているが、まぁこれくらいならどうとでもなる。泳いでいけば、運営のテントを監視できる岩場に着く。ここで潜伏していれば、その内現れるだろう。一般人なら気の遠くなるような時間に感じるかもしれないが、待つのは得意だ。息を殺しながらその時間を待った。
諸葛孔明が去った後の洞窟内はあまりいい雰囲気と言う訳では無かった。とは言え、ここで揉めたりしてはこれまで頑張ってきた孔明先生の意思が無駄になる。流石にそれは恩知らずにもほどがある。そう思ったAクラスの生徒たちは最後にやろうと企画してくれていたイベントであるスイカ割りをしたりして、思い思いに楽しんでいた。
しかし、万事順調とは流石にいかない訳で。ここにも揉め事の火種が発生しつつあった。原因は簡単。元々そんなに仲の良くない、と言うより今回の試験方針をめぐって争っていた神室真澄と戸塚弥彦の論戦だった。葛城を差し置いて指示を出していることの多い神室に対し、戸塚が突っかかった事が全ての始まりである。
「なぁ、お前、何で葛城さんより偉そうに命令してるんだよ」
「は?いや、アイツに頼まれたからだけど。それともなに、ご不満でもある訳?それに偉そうにしてたつもりは無いんだけど。気に障ったならごめんなさいね」
「そういう態度だよ。そもそも諸葛の腰巾着の癖して」
「それはあなたも同じじゃないの? ブーメラン、刺さってるわよ」
「そもそも、その諸葛だって結局リタイアして、口先だけじゃないか。そんな奴の配下にいるお前が信用できると思うのか?」
この時クラスメイト達はプチっと神室真澄の中で何かがキレる音が聞こえた。いや、正確には聞こえるはずも無いのだが、集団で幻聴に陥っていた。無言で戸塚に近付いた神室の繰り出したグーパンチが横っ面にヒットする。続いて追撃をかまそうとしている彼女を、流石にヤバいと思った橋本が止めに入った。
「ちょっと、離して!」
「ここまでにしとけ、な。気持ちはわかるけどよ。ここで大事になったら孔明センセの意思も無駄になっちまう。それを、お前がやるっていうのはダメだろう?」
「……そうね、ごめんなさい」
制止され大人しくなる神室。見事に不意打ちを食らい吹っ飛んだ戸塚だが、ほとんどのクラスメイトは「神室さん、グーでいったな」「グーパンチだよ、怖いなぁ。怒らせないようにしよ」「神室ちゃん、メッチャキレてるじゃん」「そりゃそうだよなぁ……孔明先生馬鹿にされたらそりゃ怒るだろうに……」と言った感想を抱いており、特に被害者を心配している様子が無い。
なお、教員しか知らない事だが、神室真澄の運動能力はあの堀北と同じ位である。流石に武道経験で差が出るが、同じくらい高度な身体能力を活かして振るわれたパンチは可愛らしいものでは到底なかった。神室としては今までも今も身を挺して頑張っている相手に何をどういう思考回路をしていたらあんなことが言えるのか。お前が一体どんな貢献をしたんだよ。という思いで一杯であり、それ故に凶行に及んでいた。
「お前……! お前、これは暴力行為だぞ」
「戸塚、その辺で止めとけ」
ここで葛城派の男子、町田が止めに入った。葛城自体はどう処理するかを考えつつ、趨勢を見ている。
「今のはどう考えてもお前が悪い。確かに葛城さんが指揮を執れなくてお前の中で不満が溜まっていたのは理解してる。だけど、それを神室さんにぶつけるのは違うだろ。それに、お前だって諸葛の恩恵を受けてたじゃないか。俺たちは少なくともこの試験中は派閥とかを気にせず、多分他クラスよりも圧倒的にいい思い出を作れた。違うか?」
「それは……」
「戸塚、素直に謝れ。お前が先生に報告するのは勝手だが、少なくとも俺はその時戸塚が勝手に転んだだけだと証言する。俺を嘘つきにさせないでくれ」
「葛城さん……」
戸塚は最後に頼みの綱である葛城に頼った。ここで戸塚をかばうか否かで今後の趨勢が大きく変わる。それを理解している葛城は組んでいた腕をほどき、戸塚に向き合って言った。
「弥彦、素直に謝るんだ」
「え……」
「暴力に及んだ神室に問題があるのは事実だ。だがその発端はお前にある。謝罪すべきがどっちか、それは一目瞭然だろう」
「…………すみませんでした」
「ま、私も殴って悪かったわよ。私のことは嫌いでも良いけど、仕事はしてよね。それじゃ、この件は終わりでお願い。皆もそれでいい?」
神室の問いかけに周囲は頷き解散の雰囲気になる。ここで戸塚を叱れたのは、葛城にとっては大きな事だった。時には厳しくするのも優しさであるという事を、葛城は孔明を見て感じ取っていたのだった。
待つ事数時間が経過する。時刻は時計を見れば午後7時58分頃。遠くに人影が見えた。岩場を降り、潜水態勢に移行。その後、夜の真っ暗な海に紛れ、視認できる距離まで近づく。そこには堀北を抱えた綾小路がいた。その顔はいつも通り、無表情なまま。堀北の様子から見るにかなり高熱が出ているようだ。
運営陣もバタバタと動き回り、堀北は担架に乗せられ船へ戻って行った。綾小路がキーカードを受け取っているのが見えるが、誰がリーダーかは流石に分からない。それに、リーダーをランダムで決めてもらうように学校側に頼んでいたら、推理は困難だ。ともあれ、Dクラスのリーダーを指名してはいけないという事が分かった。
どんどん風と波が強くなる。綾小路も流石にこんな環境にいるとは思わないだろうし、そもそも海に視線を向けすらもしなかった。気付かれた気配は皆無。であれば問題ない。彼の姿が完全に森に消えるのを待って、また岩場に戻った。
Aクラスの諸葛の契約を断られた俺は、作戦を切り替えた。元々はプライベートポイントを継続的に手に入れる目的だったが、それは出来ない。とすれば、リーダー当てに全てをかけるしかない。そしてその為にまず初日に伊吹と小田を使ってそれぞれD、Bに潜入させた。
その後、諸葛率いるAクラスに乞食されるという予想外の事態もあったが、その時に金田を送り込むことに成功した。あとは豪遊し、適当なタイミングでクラスの奴らを船に戻す。ポイントは0になっていたから、当然その分のペナルティは受けない。
そして俺は1人、島に潜伏した。それから今日まで待った。6日目の深夜。キャンプを抜けだした伊吹や金田、小田と合流する。トランシーバーを持たせ、それぞれのベースキャンプの近くに埋めさせていたから合流は簡単だった。伊吹は途中で脱走を咎める鈴音に捕まったらしいが、撃退できたと言っている。それなら問題ないだろう。鈴音は真面目ないい子ちゃんタイプだ。その上孤立型。誰にも頼れず終わるだろう。
「Bクラスのリーダーは白波千尋です」
「確かなのか」
「確認は出来ました」
「ならそれでいい。所詮、雑魚は雑魚だな。それで金田、Aはどうだ」
「はい、Aクラスのリーダーは諸葛氏でした」
「でした?」
「はい。本日の正午頃、体調不良という事で諸葛氏がリタイアしました。今のリーダーは神室真澄と言う生徒です」
「そうか」
そこで俺は疑問を抱いた。あの諸葛が何もせずにリタイアするか、という事だ。当然答えは否だろう。
「おい金田。その神室とかいう女がスポット占有をする瞬間は見たか?」
「いえ……確かにそう言えば、諸葛氏はいつも皆の前で堂々とスポット占有をしていました。確か、午後の4時にいつもしていたのですが、それを神室氏はしていませんでした」
「キーカードは?」
「彼女のポケットからチラッと覗くのが確認できました。名前しか見えませんでしたが、MASUMIと書いてあったので間違いないかと」
「諸葛がリタイアするところは誰か見たか?」
「いえ、その神室氏が付き添いに行っただけで……」
「見てねぇ、そうだな?」
「はい」
「教師は何か言っていたか?」
「いえ、特には」
なるほど、それなら合点がいく。あの不気味ないけ好かない奴の思惑が読めた。諸葛はリタイアしていない。リタイアしているように見せかけて、この島のどこかに潜伏しているはずだ。金田がスパイであることを見抜いていたからこそ、それを利用しようと目論んだ。そして神室を指名させてポイントを削ぐつもりだ。
誰もリタイアの瞬間を見ていない上に教師からの言及も無いのは流石に不自然だ。それに、昨日まではピンピンしていたと金田は言っている。十中八九それで間違いない。神室真澄は偽のリーダーだ。大方キーカードも偽物だろう。Cクラスの金でAクラスが乞食していた時の履歴にプラバンがあった。何に使うのかと思っていたが間違いない。これに使うためだ。
つまり、Aクラスのリーダーは諸葛孔明。これで決定だ。
「お前たち、ご苦労だった。リタイアして良いぞ」
「ありがとうございます」
「し、失礼します」
「……フン」
三者三様の反応で帰っていく。これで俺たちCクラスは150ポイントを得て、ボーナスポイントも合わせれば180近い。反対にA、B、Dはボーナスポイント無効の上に50ポイントは確実にマイナスだ。どのクラスも大体150~200くらい残っているはずだから、これで完全勝利とまでは行かなくても最下位は無いだろう。
あのすかした諸葛の顔に衝撃が刻まれるのを想像して、俺はほくそ笑んだ。
担任である茶柱に退学云々で脅されたオレは仕方なくこの試験を乗り越える方策を考えた。最初はスポット占有を地道にやる事を考えていたが、Aクラスに偵察に行ったときに考えを改めた。
あの諸葛がこうもあっさりとキーカードを見せてきたのには理由があると思っている。勿論、Dクラスとの契約があると思って油断している可能性はあった。しかし、あの契約をもう一度見直せばあれはDクラスではなく堀北個人と諸葛との契約になっている。という事は、堀北がAクラスのリーダー指名を行えば契約違反だが、そうでないなら問題は無い。説得義務はあったがそれに関する正否に関しては契約にない。
それならばと思い、まずはBクラスを探る事にした。Bとの協力関係は役に立つかとも考えたが、実際Bクラスが今まであまり役に立ったためしはない。それに、組むならばAクラスだ。Aクラスは一見最大の敵のようだが、だからこそその手法を学び上手く利用することができる。諸葛孔明が今回のように試験を率いるならば、それこそしばらくは協力関係を築けるはずだ。諸葛はどういう訳かDに好意的だからという理由もあるし、堀北を成長させるにはああいうのが近くにいた方がいい。それに、AにとってDは一番敵対の可能性が遠い。すなわち脅威ではないと思われているはずだ。だが、オレの進退もかかっている以上、手は抜けない。出来る事なら全クラスを攻撃したかった。
そう思いBに偵察に行った。その時にリーダーを探したが、それはすぐに分かった。あの一之瀬に告白した相手、白波千尋という生徒だ。平静を装っていたが、一之瀬や他の生徒に比べ明らかにオレや堀北への警戒心が強く見えた。それに動揺と焦りも。バレないように必死になっていることが、かえって裏目に出ていた。
そして伊吹がスパイなのは分かっていた。龍園のところへ偵察に行ったときに、龍園の側にあったトランシーバーと同じものがDクラスのベースキャンプの近く、俺たちが伊吹を発見した木の根元に埋まっていた。つまり、同時に龍園も島に残っていることを意味する。
なので、堀北の体調が限界になるのを見計らって、山内を誘導。山内が好意を向けている佐倉のアドレスを教える事を交換条件に、堀北を汚させ、水場へ移動させ、伊吹がキーカードを確認するタイミングを作った。その後わざとマニュアルを燃やし、火事騒ぎを演出。それに乗じて伊吹が脱出するよう仕向けた。
そして堀北を誘導して伊吹を追わせ、体力の限界になるようにした。倒れた堀北を背負い、移動。そしてリタイアさせる。砂浜に着けば、教員が気付いて近寄ってきた。
「ここへの立ち入りは禁止だ。失格になるぞ」
「急患です。彼女は熱を出して今は意識を喪失しています。すぐに休ませてあげて下さい」
教員は堀北を一瞥して、担架を持って来させる。
「彼女はリタイアという事で良いんだな」
「それで問題ないです。ただ、1つ確認させてください。今はまだ8時前ですので彼女の点呼は無効ですよね?」
「……確かに。ギリギリそうなるな。だがお前はアウトだぞ」
「分かっています。それともう1つ、リーダーの交代をお願いします」
「分かった。誰にする」
「綾小路清隆でお願いします」
「良いだろう」
すぐにキーカードが作られ、渡される。
「それではオレはこれで試験に戻ります。彼女をよろしくお願いします」
この場に留まる訳にも行かないので、ぐしょぐしょの格好のままキャンプへ戻る。これでDクラスは堀北のリタイアで30ポイント、オレの点呼不在で5ポイントを失った。
帰り道でAクラスについて考える。Aクラスが取っている戦略の可能性は3つ。1つは敢えてそのまま諸葛がリーダーを務めて心理の穴を突く。2つ目は諸葛もリタイアして誰か別の生徒にリーダーを託す。3つ目は龍園対策で1回リタイアしたフリをしてスパイを騙し、実はリタイアしていないというものだ。龍園がAにスパイを送り込んでいない訳がない。だとすれば、諸葛はそれを逆に利用した可能性もある。
だがどれも確証が持てない。何1つ証拠も無いのでは、迂闊な指名は避けるべきだろう。この選択肢を幾つも作り、迷わせ、結果的に指名を避けさせるのは諸葛の戦略と見てまず間違いない。考えれば考えるほど思考の坩堝にハマるように出来ている。
オレは今まで「最後にオレが勝っていればそれでいい」と考えてきた。堀北も、櫛田も平田もそれ以外も、その為の道具でしかないと。だが今回の一件と言い、諸葛を見ていて思わされる。オレにとっての「勝利条件」とは何かを。結果が全てで、過程などどうでもいい。あらゆる犠牲を払ってでも自分が勝つ。それがホワイトルームの教えだったし、オレが今まで10数年実行してきた事だった。
だが諸葛はどうだ。何一つ犠牲を出さず、勝利しようとしている。恐らく今回の試験の勝者はAクラスになるだろう。龍園では諸葛の戦略を見抜けない。多くを導き、教導し、勝利する。過程も結果も同時に得ようとしている。
ホワイトルームから、あの男―オレの父親から逃れるためにここに来た。あそこでの教育を否定したいとも思っている。にも拘らずオレのしてきた事はあそこでの模倣、延長に過ぎない。もし本当に否定したいのならば、あの男のやり方では無く、もっと違う方法での勝利が必要なのではないか。そう思わずにはいられない。
堀北に仲間が必要だと、そう言った。道具ではない、真の仲間が必要なのは、オレなのかもしれない。
深夜、またしても運営のテントに人がやって来る。岩場から降り、もう一度接近した。顔はすぐに確認できた。金田がいる。そして小田も。もう1人いる女子、あれが伊吹だろう。全員Cクラスのスパイだ。彼らは教員と何かを話した後、船に戻る小型船に乗っていく。その中に龍園の姿は無い。
島に残っていたCクラスの人間はスパイの3人と龍園の計4人だと調べはついている。その為、この時点でCのリーダーはやはり龍園であると分かる。早速服を置いていた小屋に戻り、着替える。そのままぬかるんだ夜の森を疾走する。不快ではあるが、ベトナムのジャングルとかよりは百倍マシだ。
最後のスポット占有を済ませ、洞窟へ辿り着く。全員スヤスヤと寝ている。そこのスポット占有も行い、真澄さんのテントのチャックを開け、寝ている彼女の横に置いてある服の上にリーダーをメモした紙を置いた。
Bクラス、白波千尋。Cクラス、龍園翔。Dクラス、指名禁止。これが出した指示である。これの通りに明日の朝に書いてくれれば完璧だ。そして私は万が一のためにリタイアをしておく。これで完璧だろう。作戦は後最後の1フェーズを以て終了する。
それを済ませるため、私は今度は陸上から運営のテントに向かった。風がかなり吹いている中、私の姿を視認した教員がやって来た。
「どうした」
「体調不良です。リタイアしたいのですが」
「分かった。……お前はリーダーか。リーダーがリタイアする場合は次のリーダーを指名できる。もししないのならばランダムだ。誰を指名する?」
そして、私は作戦の最終段階として、リタイア後のリーダーを指名する。
「坂柳有栖さんでお願いします」
Aクラス6日目開始時所持ポイント:219ポイント(5日目に坂柳試験成功で+30ポイント。その後、リーダー指名権を神室真澄に付与で−30ポイント)
Aクラス6日目消費ポイント:30ポイント(諸葛孔明リタイア)、5ポイント(諸葛孔明6日目午後の点呼不在ペナルティ)
Aクラス最終保持ポイント:184ポイント
Aクラス試験ボーナスポイント(スポット占有):1日目の16時、2日目の0時・8時・16時、3日目の0時・8時・16時、4日目の0時・8時・16時、5日目の0時・8時・16時、6日目の0時・8時・16時(洞窟以外)、7日目の0時。計:全6か所×17回ー6日目16時の洞窟分=101ポイント
Aクラスリーダー当て成功時の理論上獲得ポイント:100ポイント
Aクラス理論値最大ポイント:385ポイント