ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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閑話 3.5章

<坂柳有栖の受難>

 

 8月の朝。夏休みに入った私ですが、いつも通りの朝を迎えます。数日前から1年生の私以外は全員バカンスという名の試験へ連れていかれました。船で南の島のバカンスに行くという話でしたが、まず間違いなく島にあると学校が言うペンションはありません。無人島にでも放り出されてサバイバル、と言うのが今回の試験でしょうか。恐らく期間は1週間。その後もう一度船上で試験がありそうな日程ですが、私には一切関係ありません。ただ、2週間ほど帰ってこないようなので、それまで私は1人で色々こなさないといけません。これまでは派閥の子たちに助けて貰っていたのですが、いないとなるとそれはそれで不便です。

 

 今回の試験を見越して、派閥の中でも優秀な橋本君には指令を出しておきました。葛城派を潰したいところですが、なかなかそれも出来そうにありません。現在の勢力図は五分五分。2人を除いた38名がどちらかの派閥に属しています。なので早く潰してしまいたいのですが……葛城派に失態が無い以上どうしようもないところがあります。

 

 ですので、今回の指示はこうしました。「葛城派が指揮を執るなら裏切っても構わない。その代わり、諸葛君が指揮を執るのならば裏切らないように」と、こういうものです。葛城君が指揮を執るのならば、彼の事です。堅実かつ非常につまらない作戦に打って出るでしょう。最悪、自滅もあり得ます。しかし、諸葛君相手に裏切りをするのはマズいです。彼は私や葛城君と同等、或いはそれ以上の超党派的人望を得ています。これを攻撃することは、私がクラスののけ者になる事を意味します。最悪、彼の一党独裁が始まるでしょう。それはもっと悪いと、私の退学を意味します。

 

 彼は嘯きます。己はリーダーに向いていないのだと。それを私は嘘だと思っています。彼の神室さんに見せた人心掌握は確かなものがありました。最初は嫌々だった彼女も、今や自らの意思で信頼を置き、従っています。明らかに人を率いる経験がないと出来ない動きでした。

 

 私がクラスを率いるという事をあきらめざるを得ないような環境に置かれているのかもしれません。少なくとも、諸葛君がいる以上、葛城派の失脚は望めないでしょう。ああ、残念な事です。とは言え、まだどうなるかは分かりません。もしかしたら、諸葛君の影響力を削ごうとするべく葛城君が指揮を執る可能性も残されていますから。

 

 朝の支度を終え、今日はどうしたものかと思っていると、ピリリと携帯が鳴りました。表示されている番号は初めから登録されていた学校の物です。お互いに用事など無いはずなので、生存確認かと思い電話に出ました。

 

「もしもし、坂柳です」

「坂柳有栖、今動ける状態にあるか?」

「はい。何かご用事ですか?」

「今日の正午、1年Aクラスの教室に来なさい」

「はぁ……分かりましたが……何をするんですか?」

「その時説明する。ともかく、来るように」

 

 それだけ言うと電話は切れました。全く失礼な事だと思います。一方的に呼びつけるとは。しかし、逆らうとどんなペナルティがあるのか分かったものではありません。なので、渋々ではありますが行くことにしました。私は脚が悪いのであまり移動するのは好きではありません。なので、出来れば行きたくは無いのですが……。

 

 何故呼ばれたのか。夏の特別試験に参加できないことへの代わりの何かでしょうか。成績処理の関係上、一応ピンピンしている私に何もさせず終了とは考えにくいからです。多分プリントなどの課題をやらされて終了でしょう。面倒極まりないと思いながら、部屋を出る支度をしました。

 

 

 

 

 正午。冷房の効いた教室に、私はポツンと座っています。時間になると教員の方が入ってきました。

 

「時間通りだな。ではこれより、特別試験を始める!」

「!?」

「今現在、お前のクラスメイト達は学校所有の無人島にて、特別試験を行っている。しかし、その際のルール設定において、こちら側に不手際があった。本来病欠の人間にはその数だけペナルティをクラスに与える事になっていた。しかし、Aクラスから坂柳は病欠ではなくドクターストップであり、元々ある疾患を抱えた生徒に対する配慮が何ら見られない。これは差別的行為であるとの主張があった。これにより学校側が協議した結果、お前に代替の試験を課し、それに合格すればクラスに与えられていたペナルティを取り消すことになった」

「……そうですか」

 

 これは葛城君が指揮を執っていませんね。明らかに彼の取る戦略では無いです。高らかに笑っている長髪の男子の顔が浮かびました。踏んでやりたい気分です。これは明らかに私を差別されてしまった可哀想な人に貶める行為でしょう。善意でやってるわけがありません。

 

 引き攣る頬を抑える事にしました。取り敢えず、試験を受けないといけません。これでクリアできないというのは論外です。今後の私の立ち位置は一層低くなるでしょう。要介護者認定され、クラスメイトに介護されながら3年間を送るなどまっぴらごめんです。1人でやる試験など何も面白くありません。競う相手、叩ける相手がいない試験など面白みに欠けます。しかし、やらざるを得ないのでやります。

 

「試験のテーマは”自由”だ。期限は3日後の正午。この試験、全てが自由だ。与える課題は『この学校で行う特別試験の内容』だ。ルールやペナルティ、そして報酬。これらを自由に考え、その成果物を提出してもらう。何か質問はあるか?」

 

 自由。なるほど、これが今1年生が無人島でやっている試験の内容なのでしょう。サバイバルとは自由とも相性のいい試験です。そして私にも同テーマの内容を出してくるとは。捻りがないのでしょうか。面白くない運営です。ともあれ、中身はそこそこ興味の引かれる内容でした。私がゲームマスターになる、と考えれば分かりやすいでしょうね。

 

「いいえ、特には」

「そうか。では、解散だ」

「それと、1つお願いがあるのですが」

「なんだ」

「今クラスメイトの方々が受けている試験のルールを知りたいのです」

「分かった。あとでお前のメールアドレスに送信しておこう」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 さて、この試験ですが、何もしません。しなくてもクリアできる道筋があります。私だって別にずっと暇と言う訳ではないのです。具体的にはチェスの練習をしたりです。これを暇と言う人は文化的活動を理解できない可哀想な人でしょう。正直どうやっても私に大してメリットのない試験なので、最低限義務だけ果たそうという思いが最大です。

 

 午後にはメールに無人島での試験の詳細が送られてきました。なるほど、300ポイントが配られるはずでしたが、私のせいで30ポイントが削られていた。それの補填のための策だったのでしょう。自由度の高さはかなりのものがあると思います。遊び惚けてもいいでしょうし、切り詰めてもいい。しかし、切り詰めすぎるとクラスの反発を招きかねない。それに、このリーダー当てと言う要素がかなりの曲者になると言えそうです。

 

 防御7、攻撃3くらいの比重の試験だと判断しました。それに、このルールを見る限りリーダーのリタイアは正当な理由、恐らく体調不良などがあれば可能です。で、あるのならば最終日にリーダーをリタイアさせるだけで凡そ防御は出来るでしょう。もっとも、その戦略も見抜かれていたら終わりですが、ランダム指名も出来るようなので、よほどの幸運に恵まれない限り交代後のリーダーを当てる事は出来ないと思われます。

 

 諸葛君が指揮を執っているのならばこれに気付かない筈はありません。それに至るまで、どう切り抜けるのかに注目でしょう。それに、他クラスにも優秀な人間はいます。龍園君や一之瀬さん等々。彼らに諸葛君が敗れるとは思えませんが……とは言え何が起こるかなど分からないのが怖いところ。Dクラスにもまだまだ伏兵がいる可能性もありますので、結果報告を楽しみに待ちましょう。

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで3日が経ちました。

 

「それではお前の特別試験を終了する。提出してもらおうか」

「はい」

「? 成果物はどうした」

「ありません」

「何?」

「この試験は全てが自由だと説明されていました。ですので、課題をやらない自由も正解の1つであるはずですが」

「……なるほど。良いだろう。試験は合格とする」

 

 屁理屈と言われれば屁理屈かもしれませんが、そういうのも正解の1つのはずです。無人島での試験でも、豪遊して試験を放棄し、船に戻るのも正解のはずですから。……あり得ない話ではあるのですが、全クラスそうしたら学校はどうする気なんでしょうか。

 

 その3日後の夜。橋本君より電話がかかってきました。

 

「もしもし」 

「あぁ、出た。試験が終わりましたんで、ご報告をと思いまして」

「今日、終わったんですか?」

「いえ、終わったのは昨日です」

「……何故今日報告を?」

「色々してたら忘れていまして」

 

 ヘラヘラ笑っている顔が浮かんできて神経に障りました。まぁしかし、クラスメイトとの交流も大事な事です。坂柳派の印象を悪くするくらいなら、報告くらい後回しでも良いでしょう。

 

「それで、どうなりましたか?」

「ルールは把握している感じですか」

「ええ」

「え~まず結果だけ言いますと、大勝です。Aクラスは385ポイント。2位のDクラスの225ポイントと100ポイント以上差をつけての圧勝でした。3位のBクラスは40ポイント、最下位のCクラスは0ポイントです」

「…………さんびゃくはちじゅうご?」

「はい。385です」

「…………」

 

 私の予想では、いかに諸葛君指揮とは言え、彼1人で出来る事には限界があるはず。リーダー当てをしないという選択肢は取らないだろうとは思っていましたが、それでも250前後だと思っていました。残存ポイントが150程度、スポット占有が20前後、リーダー当てで2クラスくらいは行けるでしょうから100ポイント。どんなに頑張っても270が限界のはずだと思っているのですが。

 

「彼の戦略について、聞かせて下さい」

「分かりました。洞窟をベースキャンプに定めて住環境をクリアした後、まず、葛城が指揮を諸葛に譲るという提案をし、俺もそれを受けました。その後、ガン籠り作戦か攻守をバランスよくやるか、リーダー以外のリタイアかを選ばせました」

 

 それは真ん中を選ばせるための作戦に決まっています。両極端な選択肢を掲示し、常識的な思考の多いAクラスの面々にそれを選ばせたかったのでしょう。

 

「その後は食材を調達しつつ、環境を整備。不満が出ないように抑えていました。2日目には龍園の配下が煽りに来たのを利用し、Aクラス全員で押しかけて奴らのポイントで食料などを大量奪取。ここでCクラスの金田が暴力を振るわれていたので救出していました」

「なるほど、龍園君はスパイを送り込む作戦に出たわけですね」

「はい。尤も諸葛はそれを利用していましたが」

 

 龍園君はリーダーである自分とスパイ以外をリタイアさせ、島に潜伏する作戦を取ったのでしょう。理論値では150ポイント+αのスポット占有分を手に入れられるので悪くはない選択です。

 

「3日目の夜は怪談大会で盛り上がりました。いやぁ怖かったです。俺はホラーとか大丈夫だと思ってたんですが、諸葛の語りがとにかく上手くて。妙にリアルなのも恐怖を誘いましたね」

「……楽しそうですね」

「Aクラスが多分1番楽しんでたと思いますね。イベントごとも盛りだくさんでカメラで写真も撮りまくってましたし、派閥を超えての協力までしてたので、俺も何もできませんでした。と言うか、あそこであの空気を壊せる奴はいません」

「そうですか。では続きを」

「え~どこまで話しましたっけ? ああ、そうだ、4日目だ。その日は天体観測兼諸葛孔明星空ライブでした。すんげぇ上手かったです」

「……」

「5日目は花火でしたね。6日目には遂に諸葛も動いて、リタイアしました。今朝聞いた話では、リタイアするためにまずはクラスを騙し、同時に金田も騙して洞窟を去る。けれど、リタイアせずに島に潜伏し、他クラスにもいたCのスパイが全員いなくなるのを確認し、またDのリーダーがリタイアするのも確認してリタイアしたという事です。その間の偽のリーダーは神室でした。龍園はそのトラップに引っかかり、諸葛がリタイアせず潜伏していると判断して指名を誤ったようです」

「真のリーダーは誰にしたんですか?」

「曰く『せっかく参加してもらったんですし、坂柳さんにも花を持たせるつもりで~』だそうで」

「私を指名したと」

「そういう事ですね」

 

 なるほど、確かに私は第1回特別試験には参加していることになってます。そうでなければ代替の試験を受けた意味がありません。リーダーになる権利を付与できるというのも納得です。ただし、私はリーダー指名もスポット占有も出来ません。ですので、リーダー指名はポイントで権利を購入し、私の代理で誰かに書かせたのでしょう。恐らくそれは神室さんですね。彼が大役を他に任せるとは思えません。

 

 これでは確かに見抜けないでしょう。何1つルール違反を犯すことなく、クラスを派閥を超えて団結させ纏め上げ、衣食住は完璧で和気藹々とした生活を送らせ、おまけに娯楽までしっかり提供している。凡そ考え得る限り最良の中の最良とも言える結果です。他クラスが試験をしてる中で、Aクラスだけキャンプに行った帰りみたいな空気感になっているのが容易に想像出来ました。

 

「ちなみにどこのクラスのリーダーを当てたのですか?」

「BとCだそうです。385ポイントの内訳は、最初の300からの残存が184。リーダー当てで100、残りはスポット占有で101だそうです」

「101……101!?」

「はい。なかなかぶっ飛んだ数字だそうで。教師陣も困惑していました。理論上のほぼ最大値だそうです」

「でしょうね……」

「ああ、今打ち上げしてるんですけど、諸葛に代わりますか? 熱唱中なので後少し待って欲しいんですけど」

「打ち上げですか」

「はい。Aクラス全員で船内のカラオケに。さっき唐突に思い出したんで今廊下で電話してます」

「それで背後が騒がしかったんですね。分かりました。代わって下さい」

「了解です」

 

 しばらくすると、電話の主が変更されました。

 

「はいはい。ハローハロー、ミス坂柳! お元気ですか?」

「……酔ってますか?」

「いいえ。別に酔ってはいませんけどね。それで、どうしましたか。私からのサプライズは楽しんで頂けました?」

「1人でやる特別試験とは実に退屈でした」

「そうでしたかぁ~残念です。まぁ私の作戦には役立ってくれたので感謝していますよ。何かクラスメイトに伝える事があれば聞きますけど」

「……もう、良いです。何も無いので……切りますね」

「は~い、それではお大事に~」

 

 名状しがたい敗北感が私を包みます。何でしょう、このとてつもない敗北感は。やるせない感情になります。無理はない事でしょう。私がもし仮にこの試験に参加していたとしても、いや実際書類上は参加した扱いなんですけれども、ここまでの成果を残せないでしょう。もし仮に結果が同じだったとしても、ここまで完璧な過程をたどる事は出来ないでしょう。この試験において彼が取ったクラスに対する行動は完璧な理想像そのものでした。

 

 団結させ、楽しむ。強者の態度ですらあります。控えめに言ってムカつきます。普通の女子高生ではないと自負していますが、今だけは普通の女子高生のような感想を抱いてしまいました。携帯を見ていると色々感情が出てくるので怒りに任せて枕に投げつけます。ポフンと跳ね返って私の大丈夫な方の脚に当たりました。痛いです。

 

 涙目になって悶えていると、メールが届きます。差出人は諸葛孔明。イラっとしながらメールを開きました。

 

『追伸:私、俗に言う見える人なんですよね。あの島、旧軍の英霊の方々が一杯いましたし、廃れた神社にはヤバそうな感じの気配がありました。それでなんですけど、貴女のお部屋、風水的に良くない位置にあるので気付いてないだけで色々あるかもです。夏はそういう時期ですので。それではGood Night!』

 

 ピチャンと水道から水滴が垂れました。この寮は今私以外いません。2年生や3年生は別の棟です。流石の私も心霊系にはどうしようもありません。いるという証明は出来ていませんが、いないという証明も出来ていません。否定は出来ない訳です。

 

「……ウソですよね??」

 

 豆電球をつけて寝る事にしました。

 

 

 

 

 

 

 

<ドラゴン無双①、参謀出仕編・IFルートCクラス>

 

 

「このクラスは今から俺が仕切る。文句のある奴はかかって来い」 

 

 4月の中頃、クラスを仕切るのだと男は言った。教卓に座りながら、ロン毛の男がニヤニヤと笑う。それに挑みかかった男子生徒が何人もいたが、それを難なく彼、龍園翔は破って行った。まるで不良の番長だ。とんでもないところに来てしまった。本国からの情報だと有数の進学校。しかも国立のはずなのだが、どうしてこんなヤバいのがいるのか。

 

「お前は来ないのか?」

 

 龍園は冷淡な目で見つめていた私にも声をかけてきた。

 

「それをして何の意味があると言うのですか?」

「ああ?」

「私になんの利益も無いでしょう。それをすることに」

「はっ! 腰抜けかよ」

「……」

 

 興味がない顔をしながら椅子から立つ。女子の中には怯えた顔をしている子も多い。そりゃあそうだ。いきなりこんな不良漫画みたいな事をし始めたのだから。教壇の前を通って教室を出ようとする。龍園はニヤニヤしながら小馬鹿にした笑いを浮かべている。女子の誰かは私が止めてくれると期待したのだろう。ため息が聞こえた。龍園が視線を逸らした。その瞬間に詰め寄り、彼の手首を掴むと宙で1回転させた。

 

 バタン! と大きな音が鳴り、教室が静まりかえる。先ほどまで偉そうにしていた龍園は、何が起きたか分からないという顔で地べたに寝そべっていた。手をパンパンとはたいて笑いかけてあげる。

 

「いついかなる時も、油断大敵ですよ。貴方は強そうですが、そういう弱点もある。その内、足元掬われるかもしれませんね。取り敢えず、暴力沙汰はここではこれ以上しないことをお勧めします。監視カメラの意味を理解することですね」

「面白れぇ。お前、俺の下につけ」

「ほう? 敗れてなお命令口調とは、大したものですね」

「この学校はどう考えても普通の学校じゃねぇ。お前なら気付いてるだろう」

「……」

「この学年に英傑がいるとすればお前と俺だけだ。手を組めば最強だと思わないか?」

 

 三国志で曹操が劉備に言った話だ。そう言えば、三国志は好きみたいな話を私がした。その後、最近の龍園は漫画版だが三国志を読んでいた。参謀に誘う人材に目星をつけ、それに接近する術を考えていたのだろう。先ほどの挑発も人間性と実力の確認をするためだと推察できる。

 

「分かりました。条件が3つ。それを守れるのならば、貴方の配下になりましょう」

「聞こう」

「1つはクラスメイトに暴力を振るわない事。2つ目は私の言う事に必ず耳を貸す事。3つ目は慢心をやめる事。これが出来るのならば従いましょう」

「出来ないなら、どうなる?」

「あなたを退学に追い込みます」

「……良いだろう。契約してやろうじゃねぇか」

 

 契約書が交わされ、それを手にした龍園は笑う。

 

「俺は1回で孔明を勧誘できたわけだ」

「そうなりますね。あなたの将来がどうなるかはさておき、少なくとも契約を守る間は私があなたの軍師となりましょう。よろしくどうぞ、我が玄徳殿」

「はっ、俺はあんな聖人君子じゃねぇよ」

「史実の劉備は無頼漢や任侠の輩の親分でした。そっくりじゃないですか」

 

 そんな事はどうでもいい。取り敢えず契約してしまったからには、調べ上げたことを放出せざるを得ないだろう。

 

「ではこれよりこの学校が秘匿しているSシステムの詳細について発表します。異論反論は受け付けません。質問は最後までお待ちを。帰宅は禁止、部活は休みなさい。それではこれより、Cクラスの下克上を始めます。よろしいですね?」

「ああ、好きにしろ。おい! お前ら、コイツの言う事は俺の言う事と同じだ。逆らったらどうなるか、分かるだろうな」

 

 水を得た魚みたいになっている龍園を眺めながら、これはこれで悪くない生活かもしれないと思う。私は、我が劉備を探していたのかもしれない。

 

 

 

 

<アルティメット堀北①、Dクラスの教導者編・IFルートDクラス>

 

 

「お前たちは本当に愚かだな」

 

 我らが担任・茶柱はそう言った。私は知っていたとも。この結末を。Sシステムの詳細など半月もすれば看破できた。だが、このクラスはほぼ学級崩壊寸前だった。私は真面目に授業を受けてきたが、それは単に自分は真面目だったというアリバイ作りである。

 

 こんな終わった状況なのも中々珍しいだろう。しかもこれが国立校の現状なのだから驚きだ。遅刻欠席は当たり前。居眠り、私語、携帯いじりにゲームに読書(漫画)。ポイントは大量に浪費し、男子は女子の胸囲ランキングなどという素晴らしく低俗なものの作成に明け暮れている。

 

 加えて返却された小テストも酷い有り様だ。中学レベルの内容で10点を切るなど、なかなか見ない阿呆である。私は問題なく100点を確保しているので問題ない。優秀な人間はいる。だが幸村や堀北は点数は良くても運動神経や人間性に難がある。ギャルグループは言わずもがな。この時点でここは不良品の置き場、掃き溜めなのだと分からされる。

 

 だが一部そうでない者もいた。平田や櫛田は少なくとも善良そうに見える。それを不思議に思ったのならばやることは調べること一択だ。そうすればあれよあれよと零れ落ちてくる。笑いが止まらないとはこのことだった。このクラスは先生の言う通り、クズばかり。私が配置されたのは、恐らく国籍の問題だろうと推察できる。同級生にそんなに成績は悪くないのにここにいる中国出身の生徒を発見したので多分合っているはずだ。

 

 何故分かっていて放置したのか。決まっている。人は痛みを覚えなければ変われない。正確には変わるのに時間がかかる。だから1回インパクトを与えたかったのだ。0ポイントという衝撃。史上最底辺らしい。笑えてくる。

 

 放課後。あの絶望的な状況の後、平田はクラスで話し合いを持とうとする。だが、それに聞く耳を持たない連中もいる。さてさて、このままでも良いのだが、私の中である感情が蠢いた。この状況、改善してAクラスに持っていこう。そして、全員志望校に受からせてみたい。中学時代の経験の再演がここでも出来るのか。それを試してみる気になった。その為には、このまとまりに欠けたクラスをどうにか統治しないといけない。

 

 平田が疑問を浮かべた顔でこちらを見てくるのを無視して私は教卓に腰掛けた。そして勢いよくそれを叩く。バンっ! と言う音と共に、全てが止まった。教室を出ようとした堀北や須藤すら、固まっている。

 

「座っていただけます?」

 

 最大限の殺気を込めて言う。堀北は青い顔をしながら座った。綾小路もそれを見て、空気を読むことを選択する。日頃ニコニコしている私の顔に、女子生徒が後ずさった。

 

「おい、なんでてめぇにそんな指図を!」

「聞いていませんでしたか、高校の推薦を暴力沙汰のせいで取り消された須藤君。貴方にも分かるようにもう一度言いましょう。座って下さい」

「……」

 

 ヘナヘナと腰が抜けたようになりながら彼は大人しく席に戻った。

 

「さ~て、このクラスは先生の言うように揃いも揃って問題児ばかり。勉強だけしか出来ないヤツ。運動だけしか出来ないヤツ。そのどっちも出来ないヤツ。どっちも出来るけれど脛に傷を持っていたり、人間性に問題のあるヤツ。しょうも無いですねぇ。本当に、最底辺です」

「ふざけんな!」

「なんでお前にそこまで言われなきゃいけないんだよ!」

「お前もDクラスにいる時点で同じだろ!」

「そうよ!」

 

 あちらこちらから不満の声が上がる。あの自由人の高円寺は足を机の上に乗っけてはいるが一応聞いてはいるようだ。

 

「ええ、確かに私にも何らかの理由があってこんな掃き溜めに送られたのでしょう。しかし、私がこの1か月間、何らかの問題を起こしましたか? 品行方正に過ごし、少なくとも私の人格面に疑問を持つ者はおらず、点数は満点。運動面でもそれ相応の結果を示しました。ですが、他の人はどうですか。何か1つでも、私に勝ってから言って頂こう」

「「「「……」」」」

「そんなカスみたいな皆さんですが、これよりAクラスを目指して貰います」

「「「……は?」」」

「聞こえませんでしたか? 耳鼻科に行ってくださいね。Aクラスを目指してもらうと言ったんです。あぁ、安心してください。私が勉強のできないしょうもない皆さんのためにしっかり教えますので。実績はちゃんとありますのでご安心を。最底辺の学力の中学生を9人、最上位の学校へ送りましたので。最高で灘です。必ず皆さんを志望校に合格し、世間で優秀と評価される学力にして差し上げましょう」

 

 Aクラスでなければ特権はない。それを知らされていた生徒たち。その中でも特権を求めていた層は今の言葉に揺れ始めた。

 

「待って欲しい、そんな急に言っても混乱するだけだと思うんだ」

「その優しさで今度は上手くいくと思ってるんですか、平田君。眠ったままの友人との別れは済ませましたか?」

「え……」

「暴行を受けたくないならもっと大人しくしていれば良いんですよ。それなのに威張っているからとんでもない目に遭うのでは? ねぇ軽井沢さん」

「ヒッ……!」

「ちょっと、諸葛君、いくらなんでもこれはやり過ぎだよ!」

「そのキャラクター、疲れそうですね。もうブログはやられていないんですか? 櫛田さん」

「…………は?」

「おお怖い怖い。流石は学級崩壊の元凶・堕天使クシダエルですね。堀北さんがそんなに嫌いなら殺してしまえばいいのに。ま、堀北さんもそんな性格だといつまで経ってもお兄さんの下位互換ですよ。孤高と孤独は違うんですけどね」

「……」

「ああ、松下さん。私が何とかしてAに上げますので、ちゃんと実力を出してもらって構いませんので」

「へぇ?」

「私は何故、Dクラスの生徒がDクラスたるかの理由を全て知っています。努々、変な気は起こさぬように」

「お、お前はどうなんだよ! お前だって、理由があるんだろ!」

「ええ。その通りですよ、山内君。君が女子にモテない理由を私は無限に列挙できますが、今はその言葉に応えましょう。勿論、私がここにいる理由は推察しています。しかし、それを教えるとでも? 自分にとって有利な秘密は黙っているから価値があるんですよ。さて、今日はこんなところにしましょうか。あの役に立たなそうな担任に代わって、皆さんを指導する用意をしないといけませんので」

 

 0ポイントが分かった時よりも阿鼻叫喚に包まれている教室を一瞥し、鼻で笑いながら私はそこを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後の屋上。私はそこで友人と2人、立っていた。

 

「あれはお前の作戦なのか」

「ええ。全て一度ぶっ壊す必要がありました。虚飾にまみれた状態ではろくなことになりません。ここから立て直す方が早いと判断しました」

「そうか……。お前は、オレがここにいる理由も知っているのか?」

「ええ。ホワイトルーム、でしたっけ? 言わない方が良いと思ったので言いませんでしたが」

「そうか。助かった」

「いいえ。ですが、このまま安穏とはしていられませんよ」

「どういう意味だ?」

「あんな頭おかしい施設を運営していた男が、脱走者である君をみすみす見逃すと思いますか? 必ず取り返しに来るでしょう」

「それは……確かにあり得る話だ」

「ですが、心配はご無用。担任が君を脅そうとも、私は君の味方ですから。堀北さんを隠れ蓑にしようとしていたみたいですが、それをせずとも私が隠れ蓑になりましょう。それと、実力を少しずつ出していってください」

「どうしてだ?」

「私が教えれば必ずこのクラスのアベレージは上昇します。その中でもとりわけ地頭が優秀だったとすれば、平穏な学生生活に支障は無いでしょう」

「恩に着る……だが1つ教えてくれ。どうしてオレを助ける」

「? 友人を助ける事に、何か問題でも? 当然の事でしょう」

「そうか……ありがとう」

「どういたしまして。ああ、それと、これを読んでおいてください」

「なんだ、これは?」

「友達を作る方法100という本と、私が作った平凡な学生はこうするんだという社会常識マニュアルです。これで少しはマシになるでしょう」

「! ……助かった」

「では、これからも良き友人として、お願いしますね。清隆君」

「ああ。孔明」

 

 彼は今までの経歴的に非常に同情の余地があった。境遇をつい重ねてしまう。そうでなくても、彼は人間として問題な行動をしていなかったし、Dクラスの中では友人としたい存在だった。例え彼の事情を知らなくても友人を続けただろう。それに、友人になったのは事情を知る前だ。

 

 

 

 

 翌日のクラスの雰囲気は重苦しいというか最早半分地獄だ。高円寺は我関せず。堀北は半分抜け殻みたいになっているし、平田は苦しそうな顔だ。3バカ連中はガタガタ震えながら座っている。軽井沢は目を泳がせ、櫛田は裏の自分を隠そうともしない。わが友は無表情。いつも通りだ。

 

 放課後。それでも誰も席を立たない。少しは昨日のが効いたらしい。憎しみや恐怖、好奇や歓喜。色んな視線を受けながら私は教壇に立ち、口を開いた。

 

「始めるとしましょうか。Dクラスと言う、底辺に振り分けられた皆さんの逆襲です。諸君、ようこそ実力至上主義の教室へ。これより、授業を始めます」




Dクラスルートだと普通に綾小路君と友人をやっているので、彼が矢面に立つ事は無く、従って茶柱先生からも脅されず、当初の望み通り平穏な学生生活を送ったまま卒業できます。多分、彼女の1人くらいは自力で作れるでしょう。厄介な幼馴染み(一方的なストーカー予備軍のロリ)や月城オジサンは孔明が相手してくれますからね。

まだ堀北覚醒はしてませんが、これから死ぬほど教導を受けて覚醒に至ります。まだ前座ですけどね。こんな未来もあったんだよ、と言う没になったプロットを再利用したお話でした。あくまでも没! ですからね? 完成度はお察しなので、そこら辺はお願いします。
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