ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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物事には必ず理由がある

『ドラマ・ガリレオ』


4章・神はサイコロを振らない
27.12個の星


<暗殺者の独白>

 

 誰も声を上げない。そこには、死のみが存在していた。山奥。反政府独立運動を掲げる義友軍の指揮所。数時間前まで血気盛んな勇者たちの集う地だったこの場所は、今や死体の置き捨て場と化していた。

 

 床に倒れ動かない躯。その中央に男はいた。その年にしては長身な身体。青みがかった長い髪。手には黒い拳銃。数十人が1人によって鎮圧された。この作戦は表に出る事は無く、彼らは事故死で処理されるだろう。大方、ガス爆発で。

 

「ばけ……ものめ!」

 

 まだ息のあったものが苦し紛れにそう叫ぶ。その絶叫を見ながら、男は引き金を引いた。何発も、何発も。

 

「ふ、ふはは、ははははは」

 

 狂ったように笑う。暫くそうしていた。ふと、男は顔をあげる。そこにはひび割れた鏡がある。その鏡面には残酷に笑い続ける男の顔が映されていた。まるで死を楽しむように。まるで、殺戮を喜ぶように。

 

「違う」

 

 小さく男は言った。

 

「違う違う違う! 私は、こんな人間じゃない! 私はッ!」

 

 死を愉しむような人間じゃない筈だったのに。そこに映っていたのは、死体の山よりも見たくない、自分の愉悦に嗤う姿だった。

 

「あぁ、ああああ!」

 

 男はその美麗な顔をかきむしる。次に顔をあげた時、その鏡の顔を見て、吐き気を催して目を逸らす。見たくない現実を、覆い隠すように。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 島の試験の終了。それは元々保証されていたはずのバカンスを楽しめる時間でもあった。映画、舞台、カラオケ、プール等々。様々な施設が使い放題だ。多くあるレストランもその例に漏れない。普段の学生生活ではポイントの使用を考え、あまり外食は出来ない。それこそ、よっぽどの大金を抱えていない限り不可能だろう。

 

 しかし、私は油断する気は無い。この航海日程を見る限り、まだまだ試験はありそうだからだ。前回が屋外でやるタイプならば、今回は屋内で頭脳的なものをやるのだろう。私としては、こっちの方が楽で助かるのだが。試験終了から3日経っている。そろそろではないかと睨んでいるが、まだその兆しはない。

 

「……よく食べるな」

「お腹空いたから。何か文句ある」

「いや、別に」

 

 試験があるよ、と伝えてあるがそれに対する気負いを一切感じさせず、真澄さんはご飯を食べている。今日はお昼のビュッフェ。スイーツ多めだ。コイツ、こんな食う感じの人だったのか。普段の生活ではあまり贅沢なものを食べているわけではないので、ここぞとばかりに食べているらしい。

 

「そもそも、私は今まで手料理なんてほとんど食べてないの。手料理って言うか、誰かの作ったご飯か」

「共働きだからか」

「そう。小さい頃はレンチンだった。ある程度の年齢になると自分で作るかコンビニで買ってきてた。ま、面倒だからほとんどコンビニだったけど」

「それでそのスタイル維持してるのバグだろ……」

「アンタも似たようなもんでしょ」

「いや、私はちゃんと……そうでもないな」

「ほら」

 

 作れるのはそういう風に教えられたから。しかも、何を考えたのか香港のホテルで年齢詐称して働かされたことがある。面倒だったなぁ、あの時間。フランス料理とか家庭じゃ作らないと言うのに。とは言え、料理何ぞ科学の実験と大して変わらない。覚えてしまえばだれでも出来るだろう。レシピを読んでいれば、という条件付きだが。

 

「だから食べれるときに食べてるの。無人島じゃ普通だったでしょ」

「ああ、そう言えばそうか。てっきり他の女子の前だからお淑やかにしてるのかと思ってた」

「そんな事しないわよ、面倒だし」

「それはそれでどうなんだ……」

 

 会話は不意にキーンという甲高い音で遮られる。学校側から与えられた携帯の機能。マナーモードでも強制的に鳴り響くメールの通知。これは行事の変更などがあった時にしか使われない。他の学校からのメールは普通に送信されてくるので、格別重要なものの時だけ使用される機能なのだろう。

 

 そして、それとほぼ同時に船内アナウンスが入る。無人島のときと同じだ。

 

『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメッセージを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。非常に重要な内容となっておりますので、確認漏れのないようお願い致します。繰り返します──』

 

 メールをチェックしないことには始まらないようだ。箸をおき、携帯を開く。咳ばらいをして、気にせず食べようとしてる真澄さんを制止する。若干恨みの籠った目線を送りながら、彼女もメールを開いた。

 

『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日20時40分までに2階201号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなどを済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』

 

「20時40分とは随分と遅い時間だな」

「20時40分? 私は違うんだけど」

「ちょっと見せてくれ」

 

 渡された携帯を見る。文面はほぼ同じだが、時間と部屋が違う。

 

「なるほど。前回はクラス一丸となって臨むタイプだったが、今回は小さなグループに分けられるタイプか」

「グループ? その中で競い合うって事?」

「いや、恐らく違う。他クラスも同じように幾つかの小グループに分けられ、それが4クラス分ドッキングして1つの大きなグループを構成し、その中で競うものだろう。取り敢えず、この部屋に行くしかない。それまでは何も分からないのだからな」

「私の方が先だし、先に聞いたルールを送ろうか?」

「頼んだ」

「了解」

 

 ピリリと電話がかかってくる。相手は葛城。今回の試験における方針を話し合いたいのだろう。食事中に電話はマナー違反な気もするが、相方が気にしていなそうなので、出る事にした。

 

「もしもし」

「すまないな。メールは見たか?」

「ええ、勿論。そちらは何時のどこです?」

「20時40分の201だ」

「おや、同じですね。今回もよろしくお願いします」

「ああ。それで、クラスメイトから現在指示を乞われている。相談するのがベストだと思ったのだが、お前はどう思う」

「取り敢えず、試験はいつもルールが多く、複雑です。ですので、それを一言一句漏らさぬように覚えることを優先させてください」

「分かった。俺もまずはそこから始めるべきだと思っていた。どうも今回は人によってグループが違うようだからな」

「はい。それも肝になるでしょう。全てのグループの説明が終わり次第、どこかに集合でよろしいのではないかと」

「分かった。クラスのグループチャットに場所を書き込んでおく」

「了解しました」

 

 電話を切る。さて、試験が終わって油断しているところに次の試験とはなかなかに性格が悪い。だが、私に言わせればあからさますぎた。この試験、どう乗り切るかはそのルールにかかっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 20時30分。夕食を済ませ、2階へ向かう。10分前行動くらいはしなくてはいけない。既に集合していたのか、そこには葛城がいる。後は女子2名。西川亮子と矢野小春だ。いずれもAクラスでは成績上位に位置している。

 

「どうも、私が最後のようですね。しかし……結構人がいますね。恐らく偵察に来ている者でしょうけれど」

「ああ、しかしここにいる面子が皆同じ組だとすると……大分苦労することになりそうだ」

 

 Bクラスの神崎、そしてDの堀北や平田、櫛田がいる。一応ルールには目を通したので、彼らと組むことになるのはわかっている。まずは挨拶だろう。

 

「どうも、お久しぶりです。今回もお手柔らかにお願いしますね、神崎君」

「……あぁ。だが、それはこちらがむしろ言いたい台詞だ。Dには同盟を破棄され、かなり悲惨な点数だったからな」

「まぁそれは私の関知するところでは無いので」

「それはわかっている。ただの愚痴だ。俺たちは少し、守りに徹しすぎた」

「あまり、白波さんを責めないであげて下さいね。私が言える言葉ではないですけど」

「それは勿論だ。それに、一之瀬がそれを許さないだろう」

「確かに」

 

 神崎と話していると堀北にガン見されている。何かしたのだろうか。いや、前回の試験で何かしたのは事実なのだが、そんな目を見開いてみなくても良いじゃないか。

 

「どうかしましたか、堀北さん」

「いえ……なんでもないわ」

「ああ、そうですか……」

 

 いや、そんな事ないだろうと思うが突っ込むのも面倒だ。次々フロアに人が集まる中、一際存在感を放つ人物が現れた。

 

「クク。1人を除いて随分と雑魚どもが群れてるじゃねえか。足りない脳みそ使って作戦会議か?俺も見学させてくれよ」

「お前もこの時間なのか」

「はっ、だったらどうした。」

「それに、1人を除いてとはどういう意味だ」

「ここにいるのは殆ど雑魚だろうよ。お前も含めてな、葛城。俺に敵うやつはいねぇ。コイツを除いては、な。流石の俺も、コイツを雑魚呼ばわりはしねぇよ。コイツは雑魚じゃねぇ。俺の倒すべき敵だ」

 

 露骨に相手にされていない様子に葛城はムッとする。龍園の目は葛城と会話しながらも猛禽のような気配をまといながら、私を見ている。顔をしかめた葛城は、腕を組みながら龍園を挑発した。

 

「この組は学力の高い生徒が集められていると思っていたが、お前とそのクラスメイトを見る限りそうではないかもしれないな」

「学力だぁ? くっだらねぇな。そんなもんに何の価値がある」

「それこそ残念な発言だ。学業の出来不出来は将来を左右する最も大切な要素だ。日本が学歴社会であることを知らないのか?」

「まぁ、学力に価値を見出すか否かは本人の送る生活環境によるでしょうね。しかし、価値がないとまでは言いきれないでしょう。人類全体で見た時に、学力は無いよりあるに越した事は無いでしょうしね」

「クク。お前がそう言うならそうなのかもな」

 

 徹底的に葛城を煽りたいのか、龍園は葛城の発言を小馬鹿にしつつも私の発言には素直に賛同した。それを理解している葛城の頭に青筋が立っている。

 

「まぁまぁそう怒らずに。そろそろ時間ですよ、行きましょう」

「……あぁ」

 

 鼻で嗤う龍園を尻目に、我々は指示された部屋の中に入った。

 

 

 

 

 

「既に他の者から試験の内容は聞いているかもしれないがこの説明を行うことは義務付けられている。黙って聞きなさい。質問の有無を問うた時以外は、質問もしないように。尤も、答えられるかは分からないがね」

 

 用意されていた教室にはCクラスの担任・坂上先生がいた。どうやら他クラスの先生が説明を行うらしい。密室の中で公平性を保つためだろう。自クラスの教師では自クラスに有利な話をしかねないからだ。

 

「今回の特別試験では一年全員を星座になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内で試験を行う。このグループは1つのクラスの人員のみで構成されるのではなく、各クラスから3人もしくは4人を集めて作られる試験になっている。問われるのは『シンキング能力』だ」

 

 シンキング、つまり考える力だ。そして、この辺の説明は既に聞いている。とは言え、新しい気付きがあるかもしれないので、聞き逃すことは出来ない。

 

「社会人に求められる基礎力には大きく分けて3つの種類がある。1つ目はアクション。2つ目はシンキング。3つ目はチームワーク。それらが備わった者が初めて優秀な大人になる資格を得るわけだ。先の無人島試験は3つ目のチームワークに比重が置かれた試験だった。だが、今回はシンキング。考え抜く力が必要な試験となる」

 

 団体戦であった前回に比べ、今回は小規模な団体戦と形容するのが相応しいかもしれない。アクションならば先んじるのはCクラスだろう。シンキングはAの領域だ。チームワークはBが得意としているだろう。Dは……全部欠けている気がする。全体としての団結が無いので行動が遅く、思考もバラバラ。前途多難そうだ。

 

「君たちの配属されるグループは『乙女座』。これがそのメンバーのリストになっている。この用紙は退室時に返却させるので必要ならこの場で覚えていくことを勧める」

 

 葉書サイズの小さな紙が渡される。そこにはグループ名とその所属メンバーが全クラス分書いてあった。

 

Aクラス:葛城康平・西川亮子・諸葛孔明・矢野小春

 

Bクラス:安藤紗代・神崎隆二・津辺仁美

 

Cクラス:小田拓海・鈴木英俊・園田正志・龍園翔

 

Dクラス:櫛田桔梗・平田洋介・堀北鈴音

 

 いずれも各クラスで中心的な存在の人物だろう。中心的というより高成績なのかもしれないが。と言うより、高成績な人物が総じてクラスの中心と考えて良いのかもしれない。気になる事としては、一之瀬がいないことだろうか。アイツはどこのグループに放り込まれてるんだろうか。これが各担任の作為によるものだとしたら、Bクラスの星乃宮先生がどこかここ以外に注視しているグループがあるという事になる。

 

「今回の試験では大前提としてAからDまでのクラスの関係性を一度無視することが肝要だろう。それが試験をクリアするための鍵になってくる。つまり、君たちにはこれからAクラスとしてではなく乙女座グループとして行動してもらうことになるというわけだ。試験の結果もグループ毎に設定されているので、そのつもりでいたまえ」

 

 とは言え、他のグループを無視するわけにはいかないだろう。真澄さんもいるのだし。

 

「特別試験の各グループにおける結果は4通りのみになっている。例外は存在せず、必ず4つのいずれかの結果になるよう作られている。分かりやすく理解してもらうために結果を記したプリントも用意してあるが、これに関しても持ち出しや撮影は禁止されている。この場でしっかりと確認しておくようにしなさい」

 

 

 

〈夏季グループ別特別試験説明〉

 

本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を基点とした課題となる。定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。

 

 

・試験開始当日午前8時に一斉にメールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。

・試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。

・1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。

・話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。

・試験の解答は試験終了後、午後9時30分〜午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。

・解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。

・優待者にはメールにて答えを送る権利が無い。

・自身が配属されたグループ以外への解答は全て無効とする。

・試験結果の詳細は最終日の午後11時に全生徒にメールにて伝える。

 

 これが基本となるルールだ。これをしっかり理解しないと話にならない。優待者、というのがやはり鍵だ。話し合いとかどうでもいい。いや、よくは無いかもしれないが、必ずそれ以外にも優待者を特定できる方法があるはずだ。

 

 次の内容は4つの定められた結果についてだ。これが今後のクラスの状況を左右する。まぁよっぽどのことがない限り、大負けはしないだろうが。

 

 

 

・結果1

 

 グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のポイントを得る)

 

・結果2

 

 優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

 

「この試験の肝が『優待者』の存在なのは明白だろう。グループには必ず優待者が1人だけ存在している。つまり優待者の名前が試験の答えでもあるというわけだ。その答えを全員で共有し、結果1で試験を終了した場合、グループの全員が50万プライベートポイントを受け取ることができる。さらに優待者には結果1に導いた褒賞として倍の100万ポイントが支給される手筈となっている。そして結果2は、優待者だと学校に知らされた者が試験終了時までその正体を悟られなかった場合に適用される。黙秘、あるいは虚偽によって試験を乗り切れば、優待者に選ばれた者のみ50万ポイントを受け取ることができるという事だ。ここまでで質問は?」

 

 先生はチラリと見まわしたが、流石のAクラス。理解できていない生徒はいないようだ。

 

「では続けよう。では続いて残りの結果について説明を行う。各自手元のプリントを裏返すように」

 

以下の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも解答を受け付けるものとする。また試験終了後30分間も同じく解答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。

 

 

 

・結果3

 

 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時に正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。また優待者を見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが正解した場合、答えを無効とし試験は続行となる。

 

・結果4

 

 優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント失うペナルティを受け、優待者はプライベートポイントを50万ポイント得ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解した場合、答えを無効とし受け付けない。

 

 

 結果1と2だけなら優待者が有利なだけの試験となる。だがしかし、追加の2つのルールにより、裏切り者が出るのは必定だ。見抜いてしまえば、それで良いのだから。自クラスでさえなければそれでいい。他に必要な資格はない。優待者は大変そうだ。少なくとも、自クラス以外の人間を全員騙さないといけないのだから。

 

 私が優待者ならばまだいい。絶対に見抜かれない自信がある。むしろ見抜かれたら私の面子に関わるので勘弁してほしい。私と言うか、母国の面子にも関わるのだ。しかし、他の生徒だとこうはいかないだろう。ぼろを出すことがないと信じたいが、そうもいかないかもしれない。

 

「今回学校側は匿名性についても考慮している。試験終了時には各グループの結果とクラス単位でのポイント増減のみ発表する決まりになっている。つまり優待者や解答者の名前は公表しない。また、望めばポイントを振り込んだ仮IDを一時的に発行することや分割して受け取ることも可能だ。本人さえ黙っていれば試験後に発覚する恐れはない。もちろん隠す必要がなければ堂々とポイントを受け取っても構わない」

 

 匿名性。なるほど、Cクラスには存在しなそうな概念だ。この試験、まず自クラスの優待者を特定できたクラスが先んじる。有利なのはBとC。前者はクラスメイトが進んで情報を差し出すだろう。後者は強制的に開示だ。Aは微妙だが、私が出せと言えば出すだろうな。Dは……頑張れ。

 

「ここまでで理解したかね? 3つ目と4つ目の結果は他の2つとは異なるものになっている。グループ内でよく話し合って、どの結果を選ぶかよく考えて決めるように。最後にだが、君たちは明日から、午後1時、午後8時に指示された部屋に向かいたまえ。当日は部屋の前にそれぞれグループ名の書かれたプレートが掛けられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介を行うようにすること。また、室内に入ってから試験時間内の退室は基本的に認められていない。トイレなどは先に済ませてから行け。万が一我慢できなかったり体調不良の場合にはすぐに担任に連絡し申し出ろ」

 

 自己紹介の時点で問題が多そうだ。今から見えている未来だな。

 

「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに拘らず変更の要望などは一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁止とする。この点をしっかりと認識しておきなさい。以上で試験の説明は終了とする」

 

 メールは大きな証拠になるだろう。改変できないのはキツイな。コピーも封じられてしまった。偽のキーカードとか作ってた私への対策か?これ。まぁ良い。だが優待者には法則がある事は分かった。

 

 根拠は公平性と厳正な調整という言葉だ。別にそんなのしなくてもいいはずだ。例えば「乙女座グループの優待者はAクラスにいること」と決めたらその後は4人の中から誰を選んでも良いはず。しかし、そうなってはいないという事だ。つまり、何らかの基準に基づいて、優待者を決めているという事になる。

 

 そしてその法則性はクラスに関係なく適応されている、いやクラスの枠を超えて適応されているのか。だから最初の方にクラスの枠組みを無視して云々と言っていた訳だ。この学校の試験にしても教師にしても、迂遠な言い方をする。だがそれでいて、言葉には必ず意味がある。であるのならば、この言葉だって意味がキチンとあるはずなのだ。

 

 グループメンバーの名簿を見る。この中に書かれている面子内で何らかの法則性が働いている。それは他のグループも同じ。公平性の観点から見てウチのクラスの優待者は3人か。

 

 部屋を出てからも思考を続ける。物事には必ず一定の規則に則った法則性があるのだ。その規則、基準と言い換えてもいいかもしれない。それのヒントはきっと、このグループ名。もし何も基準がないなら数字やアルファベット、50音やいろはにほへとでも良いはずなのだ。ではないという事は、理由があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葛城の呼びかけに応え、Aクラスの全員が大きな会議室に集められた。流石の坂柳派もしっかり参加している。それに、前回の試験の影響でお互いの悪感情は少し減っているだろう。一部を除いては、と戸塚を見ながら思う。アイツホントにどうにかならないのかなぁ。ウチの真澄さんが顔見るたびに露骨に嫌そうな顔してるので困ってるんだが。

 

「皆、遅い時間だが集まって貰って感謝する。まず、もし疑問点があるならば共有しておきたい。何かある者はいるか?」

 

 誰も手を挙げる事がない。こういうときアベレージの高い集団は便利だ。低い集団だといちいち説明する手間がかかる。馬鹿に説明するのは骨が折れるし、まず馬鹿は話を聞いていない。

 

「それでだ、この試験における方針を定めたい。その前に、諸葛。お前の所感を聞いておきたい」

「私の?」

「ああ。前回の試験でもお前の活躍は大変大きいものだった。その慧眼を使いたい」

「分かりました。まず1番避けるべきであり、そして多く起こる可能性があるのは結果4でしょう。見抜こうとして失敗し、自爆。これが恐れるべきことであり、何も対策を練らないと多い事例でしょうね」

「ああ。だが、Aクラスはポイントを多く持っている者が多い。クラスポイントにダメージが行くが自身にダメージがないため、下位クラスではリスク度外視で動く者もいるだろうが、ここにはいないだろう。元より、諸葛の稼いだポイントを無駄に出来る者もいないだろうしな」

「だと良いのですけどね」

 

 まぁ性善説ではあるが、多分やらないだろう。彼の言った通り、私の功績を私利私欲で無にする=私に睨まれるを意味する。坂柳派の場合、もしそうなってしまった生徒がいたら速攻で切り捨てそうだ。

 

「俺としては結果1が理想だと思っている。これを目指せれば諸葛の成果を無駄にせず、守り通せる」

「だけどよ、それはAクラスだから許される方針じゃないのか? 他クラスからしたら、アイツらの視点だと孔明センセのせいで大きく開けられた差を詰めないといけない。絶対受け入れてはくれないだろうぜ」

「……確かにそれも一理あるだろう。だが、そもそも対話をしなければいい話ではないか? そうすれば見抜く術は失われるだろう」

「だんまりって事か? まぁ禁止されてはいないがよ」

「いや、それは難しいかもしれませんね」

「どういう意味だろうか」

「優待者には必ず法則性があります。もしそれが他クラスに見抜かれた場合、全滅もあり得ます」

「その根拠は?」

「厳正な調整という言葉。裏返せばランダムではないと言う意味です。それに、クラスの垣根を超えてと言う言葉も、各グループにそれぞれ同じ法則がクラス関係ないグループの人員全員に適応され、それを基準に優待者が決まっているという意味でしょう」

 

 橋本は唸り、葛城も考え込む。法則性を元に優待者を導かれた場合、そのクラスの1人勝ちだ。だが、やはり何も手段が無い訳でもない。

 

 山羊座、射手座、蠍座、天秤座、乙女座、獅子座、蟹座、双子座、牡牛座、牡羊座、魚座、水瓶座。これが今回のグループ分けに使われてる星座。これ以外にも無限に星座はあるのに、敢えてこの12個を選んだことが大きなヒントになっているだろう。

 

「兎にも角にも優待者を見抜かないといけません。ですので、今から皆さんにやって欲しいことがあります。これは方針の如何に拘わらず非常に重要な事ですし、むしろ方針を決定する為に必要な事とも言えるでしょう。それと言うのは、自分の所属しているグループのメンバーを全クラス分余すことなく書いて欲しいのです。そしてそれを私に下さい」

「それは構わないと思うが、何をする気だ?」

 

 葛城が訝し気な顔をしながら私に問う。クラス全員の視線が私に向けられた。この手の物事には必ず法則性があり、理由がある。ならば、人の手で作られたそれを看破するのは不可能ではあるまい。視線を一身に浴びながら私は告げた。

 

「優待者が発表される前に、優待者を当てにいきます」

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