ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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戦いは五分の勝利をもって上となし、七分を中となし、十分をもって下となる。五分は励みを生じ、七分は怠りを生じ、十分はおごりを生ず。

『武田信玄』


28.ゾディアック

「優待者が発表される前に、優待者を当てにいきます」

 

 とまぁ大言を吐いたわけだが、これで当てられないと私の沽券にかかわる。不可能であるとは思っていないが、タイムリミットがあるのが非常に面倒だ。これさえ無ければもう少し余裕をもって色々出来たのだが。

 

 現在時刻は22時。明日の朝8時に優待者はメールにてそれを知らされることになっている。つまり、制限時間は10時間。この間に何としてでも法則性を見つけなくてはいけない。恐らく結構遅くまで起きている、なんなら徹夜になるだろう。そんなゴソゴソ夜中までやっているのも同室の人に申し訳ないので、今は誰もいない船内の図書館に居た。こんなところを利用している物好きはいるんだろうか。

 

 ふわぁ~と大きなあくびが聞こえる。帰っていいと言ったのだが、付き合うと言って真澄さんは一緒に来ていた。話している間に何かヒントが見つかる可能性もあるので、別に悪い事ではないのだが。

 

「で、何か糸口はあるわけ?」

「無い訳ではない。このグループ名、これが糸口だ」

「理由は?」

「もし何の意味もないなら数字やアルファベットで良いだろう。にも拘らずわざわざ面倒な星座にしている。これで意味がないとしたらもうそれはお手上げだからな」

「じゃ、その星座に意味があるって事か……。でもなんでこの12個?星座ってもっとあるでしょ」

「ああ。国際天文学連合によれば現在公式登録されているのは88個だ。その中から12個、ともすればこれはサインだな」

「サイン?あの有名人の名前書く奴?」

「違う。サインは占星術の用語だ。西洋占星術などにおいて、黄道帯を黄経で12等分したそれぞれの領域を指す。黄道帯は、天球上の黄道を中心とした、惑星が運行する帯状の領域の事だな。宮と呼ばれていて、正確には星座では無いんだが……。とは言えこの12個の星座と関連性があるのはこのサインくらいしかないだろう」

「やっぱりこの12個が順番を示してるって事でしょ?」

「そういうことになるだろうな。何とかしてこの12個に数字を当てはめないといけない。とは言え……サインと対応できそうなものはたくさんあってだな。例えばサインの基点は白羊宮、簡単に言えば牡羊座で始まるわけだが、それ以外にも二十七宿やらエレメントやら惑星やら身体部位やらととにかく色んなものと関連している」

「誕生日って事もあるんじゃない?星座ってよくそれと絡めるでしょ、占いとかで」

「あぁ……そっちもあるのか。グループ名の星座と対応する誕生日の人が優待者の可能性もあるな」

「洗い出してみる? Aクラス分の連絡先はあるし、そこに誕生日も書いてあるから」

「仕方ない。やってみるか」

 

 手分けして1つ1つのグループのを当たってみる。他にも何人か連絡先を持っている他クラスの人間の分を合わせて確認していった。

 

「あーダメだ、早速被ってる。山羊で被りがある」

「こっちも水瓶で被ってる。違うみたいね」

「そう簡単にはいかない、か」

 

 これが違うとなると、やはり数詞的要素を当てはめないといけない。サインに順番的なものがあるとするならば白羊宮(牡羊座)を基点にしたやつくらいなものだが。黄経の360度を12に分けたものだ。というか今更だが誕生日説はやはり無い。誕生日は太陽がそこの領域を通過する期間を元に当てはめているのだろうが、その期間はトロピカル方式とサイデリアル方式の2種類がある。どっちが正しいと言う訳でもない以上、どちらかを採用すると言うのならそれ相応の根拠を示さないといけない。もしくはヒントを。

 

 記憶の中に何か違和感やヒントが無いかを探る。あの時見せられたルールの書いた紙。そこには12個のグループ名も並んでいた。上から順番に山羊座、射手座、蠍座、天秤座、乙女座、獅子座、蟹座、双子座、牡牛座、牡羊座、魚座、水瓶座。

 

 そこで思う。なぜこの順番なんだ?牡羊座を基点にするならば牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座にしないといけないはずだ。にも拘らずこの順番ではない。偶然か?それとも適当に並べただけ?いや、必ず意味はある。こういう物には法則性があると決まっている。さもないと公平性やらを唱えている学校の理念と一致しない。

 

 表示されている星座の順番に意味があるはずだ。山羊座、磨羯宮、ラテン語ではCapricorn、膝を表し、自我を意味する。性質は活動、性別は女性、崇禎暦書によれば十二辰は子。……十二辰?

 

 ピンと頭の中で線が繋がった音がした。十二辰は天上の方角を表したもの。地上の方角である干支と同じ。射手座は丑、蠍座は寅、天秤座は卯、乙女座は辰、獅子座は巳、蟹座は午、双子座は未、牡牛座は申、牡羊座は酉、魚座は戌、水瓶座は亥。見事に順番通りだ。まず間違いない。これだ。これが正解のはず。

 

「解けた」 

「!? ……マジで?」

「ああ、大マジだとも。これはルール説明の時にグループ名が書かれた順番にヒントがあったのさ」

「順番?山羊座、射手座、蠍座、天秤座、乙女座、獅子座、蟹座、双子座、牡牛座、牡羊座、魚座、水瓶座ってやつ?」

「そう。本来サインの基点は牡羊座だ。そこから書き始めないといけない。にも拘らずそうなっていない。これは十二辰、天上を12の方角で割ったものと対応する順番だ。そしてその十二辰は十二支と同じ。つまり……」

「この星座の順番はイコールで十二支の順番と同じって事?」

「そうだ。だから数字に直す事も出来る。子は時刻だと最初に当たる0時を指しているだろう?この場合は1だが始まりという意味では同じだろう」

「ああ、古文のヤツね。丑三つ時とかの」

「その通り。さて、これで星座の順番の意味が分かったわけだが、今度はその数字がどう使われているのかを探らないといけない」

「うーわ、まだあるのか。面倒ね。出席番号順とかなら分かりやすいのに」

「ウチの学校にはどういう訳か存在していない概念だしな。席順も出席番号に沿ったものではないし、そもそも出席番号だとクラスの垣根を超えたことにならない」

「それもそうね」

 

Aクラス:葛城康平・西川亮子・諸葛孔明・矢野小春

Bクラス:安藤紗代・神崎隆二・津辺仁美

Cクラス:小田拓海・鈴木英俊・園田正志・龍園翔

Dクラス:櫛田桔梗・平田洋介・堀北鈴音

 

 与えられたグループのメンバーリストを見る。このメンバーをどうにかして順番に入れ替えないといけない。単純に考えるなら、Aクラスの最初に書いてある葛城が1番目。だから乙女座の場合5番目、Bクラスの安藤が優待者になる。

 

 それだと簡単すぎる。クラスの優待者を把握できる人間、例えば一之瀬や龍園が見たらすぐ気付いてしまう。例えば龍園の場合、蟹座・双子座・牡牛座とCクラスの人間が並んでいたら、その前3つがBで後ろ3つがDだと予想するだろう。もしBかDにCのスパイでも居た場合は、それを裏付けてしまう。いるとすればDだろうけども。

 

 それに、7番目である蟹座グループはこの理論だとCクラスが優待者だが、Aクラスが3名、Bクラスが4名いるため7番目の生徒はBになってしまう。よって違うだろう。

 

 何か条件があるはずなんだ。このメンバーの中で優待者を特定するための条件が。そしてそれは何らかの順番になっていて、乙女座グループの場合、5番目だ。

 

「うーん、これは難しい。灰色の脳細胞もお手上げだ」

「ま、仕方ないんじゃない?そんな簡単に当てられるようには出来てないでしょ」

「それはそうなんだがな……」

 

 何かが頭の中で警報を鳴らしている。そこに答えがあると、長年の経験がそう叫んでいるのだ。先ほどの真澄さんの言葉も頭の中で明滅している。「出席番号順」。彼女はそう言った。そうだ、出席番号。これがヒントになる?カチカチと時計の針が動く音がする。はまりかけているパズル。もうすぐで答えが見えそうだった。

 

 そうだ。出席番号。これに関して連想していく。私はいつだったか、真澄さんにそんな話を……そう、出会った時だ。銃で脅して部屋に入れた時、私は彼女を脅迫した。彼女の親族や家族を使って。その時私は何て言った。彼女の従弟の個人情報の中で。……『千葉は誕生日順なのか』と言ったんだ。裏を返せば他はそうではないから言った。珍しかったから。他の県の出席番号は私の知る限り大抵―――――名前順。

 

「見えた」

「ホントに?」

「ああ。真澄さんのおかげだ、ありがとう」

「??」

「出席番号順、あれは間違いじゃなかった。いや、正確にはこの学校に存在しないものだから違うんだが、答えとなるのはその決め方だったんだ。だから出席番号順という言葉が大きなヒントになった。真澄さんの学校はどうやって決まってた?」

「五十音順だけど……?」

「そう。五十音順。今回もそれなんだよ。クラスの垣根を超えるって言うのはそういう意味だ。しかも、ご丁寧にグループメンバーリストは名前順になってるじゃないか。五十音順に名前を並べ替える。そうすると、各クラス均等に優待者が配置されているはずだ。調べるぞ」

「分かった」

 

 私は前のグループから。真澄さんは後ろのグループから。クラス関係なく五十音順にする。そして、星座に対応する十二辰に対応する数字を入れていく。作業が終わった後は確認だ。赤ペンで丸を付けた人間が均等に各クラスに居るか。1つの例外も無いか。

 

 そして――何1つ例外なく、全てのグループにこの法則が当てはまった。各クラス均等に優待者がいる。法則性に当てはまらないグループは無い。何度も何度も確認して、不備がない事が分かった。これが正解だ。

 

「予想終了だ。不備はない。よって、優待者全12名は全てほぼ99%特定完了した」

「お疲れ様。流石ね」

「いや、普通に思考の坩堝に入りかけていた。助かったよ、やはり、ホームズにしろモリアーティーにしろ、1人では動けない。頼れる相棒が必要という訳だ」

「ま、今回の私は何気なく名探偵コナンで言うところのヒントを言う人になってたわけだけど」

「それだって大事なことさ」

 

 ふぅと溜息を吐く。分かってしまえば簡単なものだった。しかし、ほぼノーヒントの状態でここまで持っていくのは面倒極まりない事だ。出来ないとは言わないが、人生には出来る事と出来ないことの間に出来るけどやりたくない事が無数に存在している。これはその1つと言えるだろう。自クラスだけでも優待者が発表されていたのならばもっと楽だっただろうけれど、生憎それでは少し遅い。

 

「で、当てたはいいけどこの後どうするの?」 

「正解かどうかの確認は8時に出来る。だが、それを待たずしてやることがある」

「なに?脅迫とか?」

「驚いた。ほぼ正解だ。なんでわかった?」

「情報を持ってる優位性をどう活かすかって言ったら、自分だけ秘匿するか、それを元に相手を脅すか、公開して試験を破綻させるかのどれかでしょ。1番今回に使えそうなのが2番目だから、それかなって。それに、大勝するなら相手を動揺させつつ出方を見れる上に下手な行動を牽制出来る2番目が最適でしょ」

「Excellent」

「どうも」

「7時くらいにAクラスの全員を叩き起こす。そして答え合わせをしつつ、他クラスの優待者の連絡先を知る。誰か1人くらい知ってる奴がいるだろ。そうしたら、そいつらに匿名で『お前が優待者だ』って送り付ける。7時59分に、な」

「そうすれば、送り主は不明だけど少なくとも誰かが優待者発表前に優待者を見抜いてたって証明になる。そうなると各クラスは対応を余儀なくされるって事ね」

「その通りだ」

「はー性格悪い。まぁでも、それで勝てるなら良いか」

「そういうこと。さぁて、明日に向けて寝るとしますか。いや、もう今日だな」

 

 いつの間にか日付が変わっていた。おやすみ~とあくびをして去っていく真澄さんを見送る。今回は大分助けられた。無意識にだろうが何だろうが、ヒントをもらえたことに変わりはない。それに、随分と思考力も育っている。これは選んで正解の部下だ。素晴らしい。誇らしい気持ちになってくる。

 

 だがしかし、1つだけ言っていないことがある。このまま大勝は危険だ。勝ちすぎても良くない。かと言ってボロ負けもいかん。勝ちすぎると全てが敵になる。最悪、Aクラスを潰してからその後の事を考えようと言ってB・C・Dが包囲網を組んでくる可能性もある。そうなると危険だ。Cがなりふり構わなくなると、Aクラス内にも少なからず被害が出るだろう。まずやられるのは間違いなく真澄さんだ。

 

 私は武力が未知数。だが、真澄さんの武力はどこまで行っても限界がある。それは流石に見抜かれているだろう。私にほぼ死角はない。Cクラスの全員が殴りかかって来ても勝てるだろう。だが、彼女だけは私の唯一のウィークポイントだ。そこを狙われるとマズい。ボロ負けした結果、無敵の人になられては困る。ただでさえこの学校は閉塞的でストレスの溜まり易い空間だ。多感な時期の人間がその閉塞感の中でストレスを貯め続けると、いつか爆発する危険がある。それは避けねばならない。

 

 Cは知らん。暴力がある限り龍園は負けないだろう。問題はBとDだ。元々ガタガタでそれ以外にも問題を抱えているDだが、ここで決定的な敗戦になると崩壊しかねない。それに、Bもだ。一之瀬の求心力が下がり、空中分解してしまうかもしれない。そもそも私の目的は高度育成高等学校の内部調査と生徒の実力把握。後者はなるべく最大値の物をという指令だ。なので退学者は避けたいのだが……。

 

 あと、もしB~Dクラスが戦意を喪失した場合、坂柳が発狂してしまいそうだ。流石にそれは可哀想になってくる。それに、学校側も問題視するかもしれない。上手く調整が必要だろう。他クラスが崩壊しない程度に甘い汁を吸わせる必要がある。なかなか厄介な事だが、どうにかすると決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 7時半。先日の会議室にAクラスの生徒が揃っていた。ロの字型に作られた机の一番目立つところ。議長席に私は座っている。斜め後ろには秘書みたいな雰囲気を醸し出している真澄さん。橋本が右側の私に一番近い位置、葛城がその向かい側だ。誰もが少し緊張した面持ちでいる。

 

「おはようございます。今日は試験日となりました。皆さん、よく眠れたでしょうか。そして私は、優待者をほぼ99%特定することに成功しました。まだ確定ではありません。学校から発表されるまで、完全な特定とは言えません。しかし、法則性から見て間違いないでしょう」

 

 ざわざわとざわめきが起こる。自クラスの優待者というサンプルケースがあれば、当てられる生徒もいるかもしれない。だが、それもない状態なのでクラスメイトからは半信半疑に思われてたようだ。

 

「今から各グループの優待者を発表します。書いた紙はこの場で回収しますので、よく覚えておいてください。赤い丸が付いている人がそれです」

 

 全グル―プ分のメンバーリストと優待者の書いた紙を渡す。

 

「それを元に、これより匿名で他クラスの優待者宛てにメールを送ります。連絡先を知っている人は教えてください」

 

 続々と連絡先が集まってきた。何とか全員分確保できたようだ。これで誰も連絡先を知らない人間が優待者だった場合、非常に苦労することになっていた。櫛田や一之瀬のように多くの連絡先を知っていることもアドバンテージとなるのだろう。

 

「その上で、これからの試験方針に提案があります。今回は下位クラスにも多少甘い汁を吸わせる結果にしましょう」

「どうしてだ。勝てるならばそれに越した事は無いだろう。話し合いなどせずに、一気に優待者を送信してしまえば、今日中に試験が終了するぞ」

「ええ。それも1つの正解でしょう。しかしそうなると、Aクラスは圧倒的首位。今後の試験では全クラスから敵視されるでしょうね。これは少々厄介だとは思いませんか?龍園君などは手段を益々選ばなくなるでしょうし、危険です」

「……包囲網を組まれる、という事か」

「はい。葛城君が指揮するにしろ、坂柳さんがやるにしろ、あまり良い事とは思えません。龍園君の事です。葛城君や私はともかく坂柳さんなど絶好の狙い目ですね。ああ、勿論暴力的な意味で、ですが」

 

 私の本心は坂柳などどうでもいい。龍園にボコされようが知った事ではない。本音は真澄さんの保護が第1目標だ。だが、多くを納得させるためには嘘も方便である。『坂柳がやられるなら別に良いじゃないか……葛城さんには有利だ』と周りに聞こえない声で唇を動かしている者もいるようだが。お前はさぁ……私ですらこうやって取り繕ってるのに。

 

「それは看過できない事態だな」

「ええ、葛城君の仰る通り。Aクラスは高い壁だけれども、頑張れば越えられない事も無いかも、という距離感が1番安全では無いかと。戦いは五分の勝利をもって上とする、という言葉もありますから」

「では、先ほどのメール作戦はあくまで牽制か?」

「そうなりますね」

「第1回のディスカッションでは様子見で行く。優待者の情報を持っているのだから、その優待者の様子を窺いながら周りに合わせる方針で行くのが最善だと思うが。その後、グループの様子を報告してもらい、再度どの程度他クラスにポイントを与えるか作戦を練る。これが最善だと思うが」

「私は元よりそのつもりです」

「橋本、お前はどう思う」

「まぁそれで良いんじゃねぇのか?一気に決めるのも爽快だけどよ。一応観察してみねぇと、万が一孔明センセの見抜きが違った場合に対応できないだろ」

「まさしくその通り。では皆さん、どうですかね。何かご意見のある方は?」

「話し合いの主導権は握った方が良いのか?」

「グループにお任せしますが……町田君のところには一之瀬さんがいるので、少し難しいかもしれません。その場合は、取り敢えず、様子見で」 

「分かった」

「他に何かある方は?」

 

 特に誰も手を挙げない。方針については徹底させられるだろう。両派閥の代表者の賛同と私の提言。逆らえるなら逆らって欲しいくらいだ。

 

「では、よろしくお願いします。間もなく8時ですので、私の予想の証明のために此処に残っていただければと思います」

 

 それまでの間は思い思いに会話をしている。主導権を取りに行くのか、それとも黙ってみているか。各々のグループのメンバーによってその方針は変わるだろう。私はその間メールを作成している。

 

 時間が7時59分になった瞬間に匿名で一斉送信した。発信元は学校でないと特定できない。その1分後、全員の携帯が鳴る。急いで確認した。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの1人として自覚を持って行動し試験に挑んで下さい。本日午後1時より試験を開始いたします。本試験は本日より3日間行われます。乙女座グループの方は2階乙女座の部屋に集合して下さい』

 

「わっ!」

 

 驚嘆の声が聞こえる。その生徒は私が優待者だと予想したAクラスの人間。手を震わせながらそのメールの文面を見せてくる。そこには優待者であることを示す文面が書かれていた。他の2名も同じ。この試験は公平性を重視している。他クラスの優待者も同じ条件で公平に選ばれている。よって、私の予想は完全に正しかったことになる。

 

 様々な感情の目線が私を見る。それに応えるように、私は薄く笑いながら言った。

 

「証明完了」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は12時58分。私はパソコンを小脇に抱えながら指示された部屋の前にいる。あと2分で試験が始まる。葛城達には先に行ってもらった。恐らく大抵の人間は10分くらい前に着いているだろうと思われる。敢えて少し遅めに行くことで、余計な追及を避ける狙いがある。葛城達には上手く誤魔化してくれるように頼んだ。彼らは優秀だ。それくらいの事は出来るだろう。真澄さんは大丈夫だろうか。少し心配になるが、彼女は優待者ではない。なので、そう悪い事にはならないはずだ。

 

 12時59分。ドアを開け放つ。既に私以外のメンバーは集合していた。テーブルは中華テーブルのように円形の形をしている。そこに座っているメンバーからは、色んな思惑の籠った目線を感じる。それを一身に浴びながら、私は空いている席に座った。隣は葛城。もう反対側の隣は堀北だった。私が座り、脚を組んだところでアナウンスが鳴り響く。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 簡素なアナウンス。多くは語らないという事か。誰もが様子を窺う。そりゃそうだ。初対面の者もいるし、状況も相手の人柄も良く分からない中では誰も話し始めない。だからこそ率先することに意味がある。

 

「では、自己紹介を始めましょうか。私はご存じの方も多そうですが一応。諸葛孔明と申します。初めての方はよろしくどうぞ」

「Aクラス、葛城康平だ」

「西川亮子です」

「矢野小春です、よろしくお願いします」

 

 Aクラスが先手を取ったが、その後にすぐBクラスも続く。Cクラスも一応やるべきことはやった方が良いと判断したのか、名乗りはした。最後にDクラス。これで一応の義務は果たしたことになる。この後は何をするにしても自由だ。

 

「どんな結果を目指すとかそんな事よりも先にまず聞かねぇといけないことがあるよなぁ」

「そうね。非常に業腹だけれども、今はあなたに同意するわ、龍園君」

「あの怪メールを送り付けたのはお前か?諸葛」

「怪メール? あぁ、あの妙なメールですか。私のところにも、クラスの方から相談が来ましたよ。私としては、君の仕業だと疑っていたんですけどね、龍園君」

 

 私の予想が正しければ、このグループの優待者は櫛田だ。彼女の様子は特段おかしなところは無い。しっかりメールは届いているはずなので、もし本当に優待者ならばたいした度胸だ。もしくは演技力が優れているのか。

 

「惚けるのもいい加減にしろよ」

「そんなつもりは無いのですけれどね。それに、君と共に詰問してくる堀北さんが実は……という可能性だってあるのでは?」

「鈴音は真面目ちゃんだ。そんなことができる器じゃねぇ」

「しかし、現に君は無人島試験においてDクラスにもリーダーを特定されたそうじゃないですか」

 

 ポイントの内訳は既に細かく公表されていた。

 

「あぁ、そうだ。だが、少なくともコイツじゃねぇのは事実だ。Dの中にも俺を嵌めたヤツがいる。だけどよ、明らかに怪しいのはお前のはずだぜ」

「ふ~む、困りましたね。どうしたものか」

「まぁまぁ、証拠も無い事で言い争っても仕方ないんじゃないかな」

 

 見かねた平田が仲裁に入る。この男はこういうタイプなのだろう。クラスの中心には立てるが、決定権は持たせない方が良いタイプの人間だ。

 

「チッ、いつか化けの皮剥がしてやるよ」

「そう言われましてもね」

「この際この件は一旦横に置きましょう。私たちのするべきことはこの試験をどうするのか。これを決める事よ。そして、私たちDクラスは結果3を狙っているわ。勿論、私たちが裏切る形で」

「そうだろうな。裏切りは得意だろう?」

 

 神崎が堀北に嫌味を言う。確かにBは前回の試験で全クラスから叩かれていた。それでもポイントが残っていたのは凄い事だと素直に思うが、彼らの中では当然腹の虫は治まらないだろう。

 

 しかし、いきなり裏切りますと宣言するとは大きく出たな。龍園ですら、軽く驚いている。とは言え、裏切るにはそれ相応の根拠が必要だ。

 

「結果3を狙うのは良いですが、全クラスの優待者を当てる事が、貴女に出来るんですか?」

「ええ、勿論よ。私たちは既に、全クラスの優待者の情報を持っているもの」

 

 次は私が目を見開く番だった。




おまけ

<その頃の坂柳>

 あのメールが諸葛君より送られてから、どういう訳かお風呂で気配を感じたり、テレビが砂嵐になっていたり、電気が勝手に消えたりします。金縛りも経験しました。助けて下さい、誰か……。早く帰って来て……。
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