『孫子』
第1回目グループディスカッションが始まる数時間前。午前7時30分、カラオケルーム。Aクラスが大会議室にて諸葛孔明主導で会議を行っている中、Dクラスの面々はここに集合していた。先の試験で2位。トイレ紛争に始まり、下着泥棒やらマニュアル炎上(これは綾小路の自作自演であるが)などの多数ある問題を辛くも(ほぼ綾小路と少し堀北・平田・櫛田のおかげで)乗り越えたDクラスは、予想外の結末に歓喜していた。
綾小路の作戦により、今回の仕掛け人は堀北であることになっている。クラスを早々に自分も含めて団結させないといけないと感じた綾小路は堀北をクラスの代表にすることを選んだのである。少なくともBやCを出し抜いたことは彼らにとって大きな自尊心になっていたし、Aクラスの超有名人・諸葛孔明がDクラスのリーダー指名を回避したというのも、1位では無いものの強者に1本取ったような気分にさせていた。
そんなこんなでほぼ最下層を彷徨っていた堀北の人望は急激に上がりつつある。それは綾小路の意思に乗せられているとはいえ、堀北本人にとっても歓迎すべきことだった。使える物はなんでも使わないと諸葛を出し抜けないと分かっているからである。高くなった人望故に、Dクラスの面々は素直に招集に応じたのだった。高円寺を除いてではあるが。
朝っぱらから呼び出したにも拘わらず応じてくれたことに謝意を述べつつ、堀北は話を始めた。
「まずは集まってくれてありがとう、と言わせてもらうわ。その上で、早速本題に入らせてもらいたいの。今回の試験についてよ。前回の試験、この結果についてどう思っているかしら」
「どうってそりゃあねぇ……」
「まぁ俺たちにしては頑張ったんじゃねぇの?」
「そうそう。結局、どこのクラスもうちらのリーダーを当てられなかったしね」
口々にDクラスの面々は言う。半分くらいは特に頑張ったと言えるほどの功績は無いのだが。
「ええ、そうね。この結果は5月に0ポイントを叩き出したクラスとしてはよくやったと思う。でも、私は満足できていない。これではAクラスに上がるには、到底足りないもの。……けれどこれは私の個人的な願望。それに付き合わせるのは忍びないと考えていたわ。Aクラスというのは高すぎる頂き。そして、それを目指すのは並大抵のことではない。その前にCクラスやBクラスといった難敵が立ち塞がっている上に、それを上手く乗り越えたとしても、その先に待っているのは平均学力が最も高く、その中でも突出した英傑が率いるクラスだもの」
この言葉にDクラスの空気は重くなる。事実、第2回目のこの試験が無かった場合でも、Dクラスの獲得ポイントを合わせたクラスポイントはCにすら届かない。Aクラスに至ってはDの4倍以上のポイントを持っているのだから。
「それでも私はこのクラスがAになれると信じている。学校の意図を考えれば、その思いが尚更強まった。考えても見ましょう。私たちは、何かしらの問題があってこのクラスに配属された。けれど、多くいた受験生の中にはきっと、私たちより瑕疵のない人間がいたはず。にも拘わらず私たちが合格した。だからこそ言える。学校は、逆転を起こせる人間をここに配属した。このクラスには、そのポテンシャルがある!」
ここで1度堀北は言葉を区切り、全体を見渡した。
「ただ、私にAを目指すよう強制することは出来ない。そうであっても私に協力してくれる人は、ここに残って欲しい。どんな目的でも構わないわ。ポイントが欲しい、将来のため、見返してやりたい……理由なんて極論何でも構わない。それでもAを目指したいと思ってくれたなら、残って欲しい」
彼らは落ちこぼれが多かった。問題があって配属された生徒よりも、純粋に実力のない生徒の方が多数派だ。そんな彼らも、先の試験で少しだけ希望が見えた。だからこそ、この言葉は響いていた。そして、人は自分で決めた道だと、それがどんなに厳しいものであっても受け入れてしまうという習性がある。自分で決めた道だから、と苦難を正当化する。だから、彼女は自分の意思で選ばせた。その演説の後ろに、綾小路のアドバイスがある事は言うまでもない。
最初に堀北に少なからず思いを寄せている須藤が賛成した。それに池や山内が続く。流れが堀北側にあると読んだ櫛田がそれに乗っかった。平田は元より賛成派に近い。去る者はいない。大勢は決したのだった。
「……ありがとう」
こうしてDクラスは全員の賛同によって優待者を把握する方針に舵を切った。そうすることがAへの近道であると説明されたからである。そして運命の7時59分。諸葛孔明による怪メールが天秤座グループの軽井沢、乙女座グループの櫛田、蟹座グループの南の元へ送られてくる。その直後、学校からの正式なメールが全員に送られてきた。
望む望まないに拘わらず優待者になってしまった3人は、その2つのメールを堀北に見せた。
「これは……7時59分。という事は、学校が発表する前? 発表する前に優待者を当てていた人物がいた、という事ね」
「え、それヤバいんじゃない?」
軽井沢の反応は瞬く間に伝播した。誰も考えもしなかった。優待者は学校から発表されるのを待つ。それが彼らの『常識』だったのだから。冷静に綾小路は思考する。こんな常識破りをやる、しかもサンプルケース無しというぶっ飛んだ賭けに出れるのは現在それが出来る余裕と智謀を持つ人物。諸葛孔明だと結論づけた。ざわめくクラスで綾小路は口を開く。彼自身の発言権も、一定以上に上げる必要があると思っていたからだ。
「堀北、そこまで慌てる必要は無いんじゃないか」
「どうしてかしら。私たちは優待者を当てられているのよ?」
「逆に考えろ。この送り主が速攻で決める気なら、既に試験は終了している。つまり、まだ交渉の余地があるという事だ。それに、これで1つはっきりしたことがある」
「どういうこと?」
「優待者を当てるための法則性が存在しているという事だ。当てずっぽうで3人とも的中はあり得ない。少なくとも、発表される前に当てるに至れる思考の道筋があると言える」
「そういうこと……」
「この送り主とは違い、俺たちにはサンプルケースもある。学校は各クラスの公平性を謳っていた。全クラス・全グループにおいて条件は同じはずだ」
綾小路の発言に、クラスが静まる。今まで目立たない生徒だった彼の思わぬ発言に注目が集まっていた。堀北のある種のブレーンとも言えるし、助言役ともいえる。彼らから見た綾小路の姿はそんなものだった。
「……あなたに法則性が見抜ける?」
「何とかしよう。もしディスカッションまでに終われば良いが、もし無理ならそれまでブラフを張るなどして耐えてくれ。お前のところには、あの男がいるからな」
「ええ、そうね。どうにかするわ」
ホワイトルームは与えられた問題に最適解を導くように育てる組織と言える。そこにあった問題は全て正解が存在していたともいえるだろう。そのため、この種の正解がある問題においては綾小路の方が優れていると言えよう。なんならサンプルケースのおまけ付きである。反対に諸葛孔明は正解のない政治や軍事において真の意味での高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することを出来る人間に育てられたと言えるだろう。器用貧乏から貧乏を取ればそれはもう変人なのだが。
「聞いてちょうだい。確かに先んじられたのは事実。けれど、まだ負けたわけではないわ。ここからは各グループにしか任せることは出来ないけれど、一応の方針を示しておくつもりよ。取り敢えずは、1度解散して、何も知らないフリをしましょう。決して先走って裏切らないようにお願いするわ」
無人島試験の立役者(という事になっている)人物からの激励に、もう1度やる気を取り戻りたクラスメイト達。かくしてかりそめの団結を見せつつ、獅子身中の虫を抱えながらDクラスは初回のディスカッションへと駒を進めることになる。この間、綾小路は必死に解読にいそしんでいた。とは言え、解けてもすぐに教える気はない。大勝してCに上がれたとしても今のDクラスにそれを維持する能力がないと考えているからだ。彼の計画では、今年度中にCに上がれば御の字である。
ついで堀北は招集を無視した高円寺の元を訪れていた。
「見つけたわよ、高円寺君」
「おや、堀北ガール。どうしたのかね?」
「あなた、招集を無視したわね?」
「ふぅむ、私は生憎と所用があったのだよ」
「まぁそれは良いわ。あなた、優待者じゃなかったわね。ついでに言っておくと、あなたのいる牡牛座グループに、Dクラスの優待者はいないわ」
「ほぅ?」
「あなた、この試験をクリアする自信はある?」
「クリアの定義にもよるがねぇ」
「裏切る、という意味で捉えて貰って構わないわ」
「あぁ、それなら容易い事だろう。この試験は、嘘つきを見分けるゲームなのだろうからね」
「そう。では、行けると思ったらそうしてもらって構わないわ」
「私の独断専行を許すのかね?」
「そうよ。今は少しでも勝ち点が欲しい。あなただって、メリットのある話でしょう?」
「元よりそうするつもりだったがね」
「なら、頼んだわ」
去り行く堀北の背中を、高円寺は興味深そうに見る。
「堀北ガール。この私が1つ、助言をしてあげようじゃないか」
「何かしら」
「本質が違うものを目指すのは徒労だという事さ」
「……それはどういう意味?」
「さもなくば、ミスター諸葛には勝てないだろうね、フハハハハハ」
不遜に笑いながら、彼は泳ぎに行ってしまった。その姿を見ながら、彼の言葉をなんとか解釈するべく、堀北は頭を動かしていた。
堀北鈴音がまだ未覚醒であるとは言え、潜在的な
7時59分。この時刻はCクラスにとってもまた、大きな転換点を迎える時間だった。自クラスの優待者を把握するために全クラスメイトを集合させていた龍園にとって、送られてきた怪メールは衝撃的なものだった。だが、同時にこれの送り主にはすぐに見当が付いた。一気に決めに行かないという事は、それなりに余裕があるクラスの人間だと推理したのだ。つまり、送り主はAクラス。坂柳が未参加の現状、諸葛孔明以外に居るはずもないと判断している。
どうするべきか、恐る恐る指示を待っているCクラスの生徒。その不安げな眼差しを無視するように龍園は笑った。これで1つの確証が得られたからである。そして、それを証明できるであろう人材も、彼の元に既にいた。
「おい、慌てるな」
「で、でも龍園さん……」
「聞いてねぇのか石崎。慌てるな。これを送った奴は俺たちに重大なヒントをくれたのさ」
「ヒント、ですか?」
「あぁ。こいつは優待者の発表前に優待者を当てた頭のおかしい奴だ。だが、勘で当ててねぇなら、当てるための方法があったはずだ。この試験の優待者。これには何らかの法則性がある」
龍園の理論はまさにその通りであり、また筋道も立っているので生徒たちも納得の表情であった。しかし、このままでは一方的に送り主とその人物が所属する集団が有利なだけ。自分達もその法則性を当てないといけない。
「こいつを解かないことには、この頭のおかしい送り主には勝てねぇ。お前なら解明できるだろ?なぁ、ひより」
龍園翔も一目置くその人物は、ため息を吐いた。
「お前が争いごとが嫌いなのは知ってる。だが、これはクラスのための事だ。やらねぇとどうなるか。分かるよな?」
「…………はい。分かりました」
「いい返事だ」
Cクラスもまた、法則性の解明に動き出したのだった。
「ええ、勿論よ。私たちは既に、全クラスの優待者の情報を持っているもの」
この言葉が堀北の口から出てくるとは予想だにしていなかった。その為、私は目を見開く。堀北鈴音。冷静そうに見えて意外と短気な直情型でしかないと思っていたが、まさかブラフを使い始めるとは。ウソの苦手そうな顔で良くもまぁ。正直感心してしまった。
場の空気も驚きというよりかは困惑している。あの龍園が眉をひそめているくらいだ。神崎は微妙な顔。櫛田は顔が笑顔で凍ってる。葛城もあきれ顔だ。
「なにかしら」
「いやぁ、その理論だとあの怪メールを送ったのは堀北さんたちDクラスという事になりますが?」
「いいえ。それは違うわ」
「いや、その理屈はおかしいでしょう。優待者を全クラス分見抜いたと言っておきながら、あのメールは送っていない。どう考えても信じられる内容ではないと自分で言ってて分かりませんかね。貴女はもっと優秀な人だと思っていたんですが」
「信じて貰えようともらえまいとさして支障はないけれど、一応言っておくと私たちではないわ。今となってはむしろ、メールの送り主に感謝したいくらいよ」
「その心は?」
「それを言う義務はないわね」
「話になりませんね」
これはブラフ。しかも出来が悪い。とは言え、1つ引っかかる。どうしてこんな分の悪い賭けに出た。もし本当に優待者情報を把握している?だとするならどうして直に勝負を決めに行かないのか。確信が持てないだけ?仮にDの優待者を全員当てられたとしても他の全クラスの優待者を当てれば300クラスポイントは手に入る。
そうすれば、場合にもよるが例えばCがDの優待者を当てていない場合、Dクラスは612クラスポイントとなり、晴れてCクラスとなれる可能性もある。というか、普通に黙っていればいいはずなんだがな。何が狙いなのかいまいち読み切れない。狙いがない?時間稼ぎの可能性もあるか。他に誰か優秀な人間がいて、そいつが優待者を当てるべく必死に解いている可能性もある。
感謝したいという文言。つまり、あのメールによって得るものがあった、という事なのだろう。ここで気付く。しまった、あのメールのせいで優待者が発表される前に当てられる=何らかの思考の筋道、つまり法則性があると全クラスに教えてしまったことになっている。やらかした。流石に、この学校の生徒を舐め過ぎたと言えるかもしれない。これは私のミスだ。腹立たしい事だが、認めざるを得ない。ともあれ、この場を何とかしないといけない。
元々、今回の試験で私が目指しているのは現状維持。というよりは、無得点であっても無失点で終わる結果だ。私が無人島で稼いだ分からマイナスはされたくない。まぁされたとしても150ポイント。そうそう入れ替わる事など無いと思うが……何が起こるか分からないのが怖い。今回の試験で勝たせるべきは……Dクラス。そうすればCの、もっと言えば龍園の矛先はDへ向かう。Aを倒せてもまだまだBも強敵だからだ。彼の恐怖政治には結果が必要だ。独裁が肯定されるのは成果の出ている時だけである。逆に言えば、成果を出し続けていれば独裁も容認される。
様子見作戦、変更。仕方ない。非常に業腹だが、やるしかないだろう。少なくとも、失点を取り戻せるくらいには点数を稼がないといけない。現在Cクラスはサンプルケースが自クラスだけで戦っている状況のはずだ。これならまだどうにかなる。少なくとも、このグループは終わらせないといけない。クラスの代表格が一堂に会している状況では談合も出来やしない。
堀北の真意が分からず困惑している空気の中、私は葛城にチャットを送る。
『作戦変更です。私のミスでした、申し訳ない』
『どういう事だ』
『メールのせいで優待者に法則性があるとほぼ全クラスが気付いてしまいました。変なヒントになってしまったようです。穴があったら入りたいですね』
『分かった。誰にでもミスはある。それに、現状まだ他クラスは自クラスというサンプルケースだけで解読しているはずだ。それなら付け入る隙もあるだろう』
『ええ。ですので、取り敢えずこのグループは終わらせましょう。そうしないと我々が自由に動けませんから』
『だが、それだとお前がメールの送り主だとばらすことになるぞ。構わないのか?』
『もう半分バレていますし、むしろそれを利用する策も思いつきましたので』
『そうか、それなら俺に言う事は無い』
『ありがとうございます』
第1回のディスカッションも間もなく終了する。その時だった。
『牡牛座グループの試験が終了いたしました。牡牛座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
急にこんなアナウンスが入る。全グループのメンバーリストを思い出す。あのグループの優待者はBクラス。いや、しかし誰が当てた。堀北が心なしか喜色を浮かべている。つまりDクラスの勝利。メンバーリストのDクラスには……あぁ、コイツか。高円寺六助。大財閥のお坊ちゃん。自由人だが能力は高いと噂の人間だ。なるほど、自由人だからこそ行けるタイミングで行くように指示したな。
緊張感が漂う。ここで堀北が口を開く。
「今のは私たちDクラスの攻撃よ。これで分かって貰えたかしら。私たちが全クラスの優待者を把握していると」
「お前の目的はなんだ、鈴音」
「結果3を目指す。それ以外にないわ。ただし、単独での勝利は難しい。元々どこかのクラスと組むことは考えていたの。とは言え、ブラフだと思われていてはしょうがないから、こうして攻撃を行ったのよ」
これは絶好の機会が巡ってきた。この際、Dクラスの情報が真実かどうかなどどうでも良い。だが、大事なのはこの後どうするかだ。メールを送信する。試験の運営当てにだ。優待者名は、櫛田桔梗。
『乙女座グループの試験が終了いたしました。乙女座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
「Dクラスがその気なら、私もやらざるを得ませんね。ええ、皆さんの予想は全て正解です。あのメールの送り主は私です。さて、その上で私たちの方針をお話しましょう。私たちの目的は談合です。元より、結果1や2を目指すのは難しい試験。ですので、談合で決着をつけたい。しかし、全クラスとするのは無理です。なので、どこか1クラスになりますね。さぁて、自分を売り込みに来るのはどこですか? 早くしないと、次のグループも指名させて頂きます。期限はそうですねぇ、次のディスカッションまでとしましょうか」
『以上で1回目のグループディスカッションを終了します』
微笑んだ私の背後で、終了を告げるアナウンスが流れた。その後は各クラス、一度方針を話しあうために解散していく。さて、ここからが正念場だ。
夕刻、船内下層部。船員しか基本来ないような裏の裏で、密談は行われていた。片方はCクラスの王・龍園翔。もう片方の陣営は複数人。いずれも坂柳派と呼ばれる人物たちだった。
「へぇ、Aクラスってのも、一枚岩じゃねぇんだなぁ」
「ああ。今は葛城と諸葛が実質二大巨頭で仕切っているが、本来のリーダーに相応しいのは坂柳さんだ。それにも拘わらず、あの男、特に諸葛は坂柳さんを蔑ろにしている!」
「だが、坂柳は前回の試験、欠席だったが重大な役割を果たしていた。それは蔑ろとは言えないはずだが?」
「いや、俺は聞いたんだ。諸葛が神室と坂柳さんを馬鹿にする内容を話しているのを。それはこの船内でも同じだ。証拠が欲しいか? 後で糾弾するために録音してある。それに、俺たちが協力しているように見えるのも全部諸葛のせいだ。アイツが逆らったらどうなるかと脅しをかけてきているんだ!」
「音声は良い。別に俺は坂柳がどう扱われてようと知った事じゃねぇ。しかし、良い思いをしておきながらこうして裏切るとは、つくづく最低な野郎だな」
「利用できるものは何でも利用する。お前だってそうだろう。それに、これは俺たちにとっては正義なんだ。坂柳さんの指示でもある。流石に諸葛たちに手柄を与えすぎたってな」
「そうかよ。それで、お前らが俺を呼び出したわけは何だ」
「今回の試験でのAクラスの優待者は全員葛城派だ。だから、葛城派の失態と加えてメール作戦とか言う訳分からない事を始めた諸葛の失態を作りたい。その上で、龍園、お前には……」
「優待者を指名して欲しい、って訳か」
「その通りだ。出来れば早い方が良い。早々に見抜かれた方が失態が大きいからな。それに、諸葛はこの後Dクラスと交渉してCを落とそうとしている。その時にDとAでお互いに攻撃し合ってトントンにしようとしているんだ。CクラスとBのさっき指名された牡牛座グループの分を向こうの取り分にするって言ってな」
「いいぜ、契約してやろう。それで、Aクラスの優待者は誰だ」
男たちは紙を見せる。そこには3名の名前。龍園はある程度信じた。両派閥の対立構造は有名であったし、前回の試験こそ上手くやっているように見えたが、それは諸葛が自分のように影で押さえつけていただけであると判断したからだ。また、諸葛孔明の戦略が本当なら、Cクラスはかなり危機的状況にいる。椎名ひよりの解読作業は難航中だ。サンプルケースが少なすぎると文句を言っている。
裏に坂柳がいるにしても、敵対者を蹴落とすために一時的とはいえ自クラスに被害が出るのも承諾するというのは坂柳らしい戦略だと思ったのだ。どの道、自クラスに損は無い。
「こいつらが優待者である証拠は?」
「勿論ある。これだ」
「これは……ボイスレコーダーか」
中から音声が流れる。Aクラスの会議の様子だった。そこでは確かに優待者3人に名指しで指示を行う諸葛孔明の声が録音されている。完全にクラスメイトの団結を信じている声だった。聞こえてくる他の声も、まさに会議の様子と言うに相応しい雰囲気である。
龍園には優待者の法則がまだわかっていない。しかし、これでサンプルケースが増えた。椎名ひよりに任せている法則性当てもこれでやりやすくなるだろうと思っている。BとDの優待者を当てるためにだ。
「良いぜ。じゃあAクラスを終わらせてやろうじゃないか。分け前はどうする」
「優待者当てで貰えるクラスポイントはそのままお前たちCクラスで良い。ただし、プライベートポイントの方をくれ。全部とは言わない。10万でもあるだけマシだ。それであの男たちが蹴落とせるなら十分だ」
「分かった。契約は完了だ。どうなっても恨むなよ」
「ああ、分かってる」
「他クラスの優待者や法則性は知らないのか?」
「それは教えてくれなかった。その判断だけは諸葛本人がするつもりなんだろう。それに、アイツは基本神室以外を信用していない。前回の試験の戦略も、俺たちの誰にも話してなかった」
「肝心なところだけ自分でやるのか。いかにもって感じだ」
龍園がスマホを操作した。クラスの人間に指名させているのである。数分後、アナウンスが響いた。
『牡羊座グループの試験が終了いたしました。牡羊座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
『射手座グループの試験が終了いたしました。射手座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
『水瓶座グループの試験が終了いたしました。水瓶座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』
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試験開始初日、第1回グループディスカッション終了後、残存グループ、後7つ。
現状残りグループにおける優待者数:Aクラス……0人
Bクラス……2人
Cクラス……3人
Dクラス……2人
<おまけ・その頃の坂柳>
「なるほど、優待者を当てる試験……。それで先んじて優待者を当てに行くとは大胆な戦法を取りましたね」
今は昼。怪現象は少し治まっています。思考が大丈夫な今のうちに橋本君に電話をし、試験の詳細を聞きました。
「それでは引き続き頑張って……」
「あの、すいません。1つ良いですか?」
「何でしょう」
「テレビつけてます?聞き取りにくいんで次から消して貰っても良いですか?」
「……」
あれ、おかしいですね。部屋の四方に塩を盛ればそれでいいとネットに……。とにかく誤魔化して橋本君との通話を切りました。私の眼前には真っ暗なテレビ画面。当然、つけてなどいません。
「…………どうしろと?」
泣きたくなりました。