ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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過ちて、改めざる。これを過ちと言う

『論語』


30.掌

第1回グループディスカッション後、夕食時。私はラーメンを啜っていた。

 

「女子連れてさ、来るところがラーメン屋ってのもどうかと思うわね」

「いや、メッチャカロリー高そうなの食べてる人に言われたくはないねぇ!」

 

 凄い食べてる人に言われたくないと心底思う。私は醤油なのだが、真澄さんはとんこつラーメンに加えて餃子と半チャーハンもついている。杏仁豆腐も頼んでた。もうダメかもしれない。こいつは一体どこを目指しているんだ。大食い選手権にでも出る気なのだろうか。何処に消えていくのかも分からない食品たちを吸い込み終わった後、彼女はやっと真面目モードに入った。

 

「それで、いつまでそのミスしちゃいましたって言う演技してるわけ」

「う~ん、演技では無いんだがなぁ。事実、優待者に法則があると気付くとは思ってなかった。Dにしろ、Cにしろ、優秀な人材がいるようだ。衝撃でその対応に奔走するのかと思いきや、意外と冷静に対応されて少し驚いたさ」

「敵の過小評価なんて、らしくないわね」

「そう、かもなぁ」

 

 私はこの国に来て2年と半年近く。大分温くなっているのかもしれない。昔なら、あんな見落としはしなかったはずなのに。情けない話だ。確かに、リカバリーは出来た。万が一、他クラスも優待者に法則がある事を見抜いていた場合の作戦だって用意してあった。しかし、ガックリ来ることには変わりがない。

 

 思い返してみれば、昔は1人で作戦立案はしてなかった。これまで1人でも支障がなかったが、やはりこういうところでガバが出る。疲れているだけかもしれないが。やれやれ、こんな調子では笑われてしまう。少し驕っていたのだろうか。しっかり立て直さないといけない。

 

 お粗末だよ、お粗末。はっきり言ってしょうもない。この仕事、辞めたら? と言われても文句は言えないだろう。とは言え、今回はリカバリーできたはずだし、死人も出ないからまだマシか。と、ここまで考えて気付いた。なるほど、死人が出る可能性が限りなくゼロだからこそあんなミスをするのか。油断してはいないつもりだったが気付かない間に油断していたようだ。情けない話。

 

「ま、どんな完璧な人間でもミスはするでしょ。それに、リカバリーできてるならそれでいいじゃない。まぁでも今回のは私でもよくよく考えれば気付く程度の物だったけど」

「リカバリー策を発動しないのが最善だからな。そう考えれば、落第点だ」

「これに関しては、私も同罪だからあんまり気にしないでくれると助かるんだけど。夜中だったせいで作戦の穴を指摘できなかった。それは相方としてどうなのか? って私の中でもう1人の私がグチグチうるさいからさ。それに、次回どうにかすればいいし。で、この後どうするの?」

「……よしっ!もうミスらないと決めたから、建設的な話をしよう。これからは談合のはじまりだ。恐らく試験は今日中に終わる」

「大きく出たのね。今度こそ大丈夫なんでしょうね?」

「勿論。過ちて改めないほど、私は愚かではないつもりだ」

 

 取り敢えず、だ。Aクラス分の優待者はどうにかなる。その為の布石は既に打っている。時間帯で言えばもうすぐだ。第2回のディスカッションが始まる前にけりをつけたいところだった。

 

『牡羊座グループの試験が終了いたしました。牡羊座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『射手座グループの試験が終了いたしました。射手座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『水瓶座グループの試験が終了いたしました。水瓶座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 3つの連絡が相次いで鳴り響く。この3つは全てAクラスの人間が優待者のグループだった。龍園の仕業で間違いないだろう。龍園はまだ他クラスの優待者の特定を出来ていない。そう踏んだ末の作戦だったが成功して良かった。もし失敗したらしたでまた別の方法は幾つも用意してあるが、今回は運が良いようだ。

 

「今の、何したの?」

「点数調整。Aクラスが±0で終わるようにしただけだ」

 

 私がやったのは龍園のしたことと大して変わらない。自クラスに揉め事があるように見せかけ、上手く誘導することだ。派閥争いは知っている人には知っている話だし、坂柳の性格だって龍園には見抜かれているだろう。それならば利用できると考えた。坂柳派だってクラスのためには動いてくれる。私が頼めば2つ返事で了承してくれた。敢えて橋本を使わないのは、感情論に走る感じが彼に無いからだ。無意識のうちに感情で動く馬鹿の暴発だろうと龍園に見下して欲しかったのだ。

 

 それだけでなく、私の作戦(偽物)の中でCクラスが標的になっていると言わせる。これは別に嘘では無いので彼は信じるだろう。実際、契約が上手くいかなければDと組んでどうにか調整する気だった。

 

 それに、渡したリーダー情報の内、1人が偽物、2人が本物だ。敢えて1人の偽物を混ぜたのはCクラスのサンプルケース収拾を妨害するため。法則性を導き出そうにも意図的に混ぜた不正解がサンプルケースにあると計算が狂うだろう。無視して進むかもしれないが、普通はもしこの法則性が違ったら……となる。特に、龍園のような独裁者の家臣ならば尚更だろう。

 

 これで櫛田の分と結果4になった1グループ分の加算+100に対し、正答である分の損失-100がこれを相殺する。つまり、±0の状態と言う訳だ。Aクラスの点数はこれ以下には絶対にならない。何故なら、こちらからは絶対に優待者を指名しないからだ。なので、結果4になる事は無い。1と2では被害は無いし、もう当てられる優待者も存在しないのだから。

 

 手元の携帯に、綾小路よりの連絡が入る。至急話し合いたいとの事だ。予想通り、Dが先んじてきた。万が一Bが先んじてきた場合には、そういうときのための対応も用意してあったが、今回は使わなくて大丈夫だろう。Dからの連絡が入ったため、葛城に連絡し、Bクラスとの交渉に入ってもらう。タイミングは、丁度Dとの交渉が終わった頃。ここならば、Bクラスは対話に応じざるを得ない。そうでないと残るのは、大敗のみだ。

 

 

 

 

 

 Dクラスの動きはかなり早かった。どうにかして決着をつけたい。その重圧は綾小路が解けるのかどうかにかかっていた。そして、その綾小路だが、グループにおける一之瀬の話を適当に聞き流しながら優待者の法則性の解読には成功していた。

 

 だが、彼としては今C以上に上がるのはあまり望ましくない。そして、話し合いをしようとしたその矢先にAクラスが優待者だと思われる3グループが終了してしまう。残されているのはBクラス・2グループ。Cクラス・3グループ。そしてDクラス・2グループだ。ここで諸葛孔明の言う談合に参加することである程度は勝ち過ぎを阻止できる。彼はこう考えている。その為、堀北をAクラスと話し合う方向へもっていくのが最善の行動であった。

 

 デッキの机に向き合いながら、綾小路と堀北は今後の相談をする。

 

「ここで少しでもAクラスの点数を削いで、なおかつ私たちの得点にしておきたかったけれど、仕方ないわね。綾小路君、解けたの?」

「あぁ、一応な」

「それは上々ね。それでは早速報告しましょう」

「いや、待て」

「なに? まさか確証が持てないとか言うんじゃないでしょうね」

「それは大丈夫だ。だが、妙だと思わないか?」

「どういう事?」

「Aクラスだ。諸葛の事だ。自クラスが当てられる可能性は百も承知だろう。失点を取り戻したければ、後2グループ報告しないといけない。しかし、その動きは無い」

「これも彼の策略だと言うの?」

「そう考えるのが、自然じゃないのか。諸葛は談合を受けると言っていた。俺たちにも優待者の法則性が分かっているという大きなカードがあるんだ。一度、交渉に行くべきだろう。協力関係を結べれば、Aクラスの作戦も見えてくるかもしれない」

 

 これは堀北にとっては大事な事だった。諸葛孔明の作戦を読み取り、自分にも活かす。そうして思考の幅を広げなければ、今後勝つのは不可能だと分かっているからだ。

 

「今は忍従の時だ」

「分かっているわ」

 

 堀北が連絡先を知らないため、綾小路が櫛田経由で聞き出した諸葛孔明の連絡先にメールを送る。すぐに返信は返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を済ませていない2人をラーメン屋に呼び出した諸葛孔明は神室真澄を従えて、彼らを迎え入れた。警戒心を露わにしている堀北と対照的に、綾小路は相変わらずの無表情。対する諸葛は薄い笑いをずっと浮かべたまま。神室は心底興味のなさそうな体を装っている。

 

「いらっしゃると思っていましたよ」

「単刀直入に言うわ。私たちは協力関係を結べると思っているの」

「ほぅ? では、何を材料に私たちと交渉しますか」

「私たちも全クラスの優待者を知っている。これで十分じゃないかしら。下位クラスの点数を調整したいAクラスと思惑が一致しているはずよ。それに、ここで交渉を成立させないと優待者当ては早い者勝ちになってしまう。それは、あなたの避けたいところだと予想しているけれど」

 

 確かに、それは諸葛にとって避けるべき事態だった。このままDクラスが大勝しても構わないが、そうなるとBやCがどうなるか分からない。目的はDを勝たせる、と言うよりはCの矛先をDに向けるというものだ。Dを勝たせるのは結果に過ぎない。そうなる可能性もあると言うだけだ。あくまでも大事なのはヘイトコントロールと言う目的。自分の部下を守るために行う、これのみである。

 

 また、これでBクラスなどが戦意を喪失し、クラス間競争から離脱されるのも彼的には好ましくないことだった。緩やかな衰退である現状維持と言う敗北の方がBクラスにはまだ受け入れられるだろうと思っている。

 

「分かりました。良いでしょう。優待者の法則の確認も含めて、共有していきましょうか」

「その前に1つ良いかしら」

「何でしょう?」

「さっきの放送、Aクラスの優待者が当てられていたようだけれど、それをみすみす見逃したの? Cクラスが優待者の法則を当てたにしては違和感があるわ。何故、Aクラスだけ狙い撃ちで他クラスは手を出さないのか。それがもしあなたの策略だったのなら、教えてくれると助かるわね。何しろ、協力関係を築くのだもの」

「……分かりました。良いでしょう」

 

 紙ナプキンにボールペンを走らせながら諸葛は話し始めた。

 

「先ほどの放送はAクラスが±0で終われるようにするための作戦でした」

「何故そんな事を?」

「隴を得て、蜀を望まず。この言葉はそちらもご存じでしょう?それに、私たちは無人島で十分な成果を出したからね。さて、話を戻しましょう。私はAクラスの2大派閥の片方である坂柳派を利用しました。彼らに頼み、私や葛城君への恨みから暴発行動を起こしたように見せかけたのです。そして、龍園君に偽の情報1グループ分と、正しい情報を2グループ分を与えました。そして龍園君はまだ優待者の法則を見破れていなかった」

「何故そう言い切れるのかしら」

「龍園なら、見抜いた瞬間に指名するだろうからな」

「綾小路君の仰る通り。ですので、サンプルケースの欲しかった龍園君は誘いに乗りました。その結果がこれです。結果、Aクラスは櫛田さんの分と龍園君が間違えた結果4のグループ分で100ポイント。龍園君が正解した分で-100ポイント。丁度±0、と言う結果になりました。私たちは指名をしない方針ですので、これ以上マイナスになる事はありません」

「そういう仕組みだったのね……」

「はい。これで目的は達成されました。次にDクラスですが、今回は100ポイントプラスで我慢して頂きたい」

「それは……どういう計算の結果出された数字なの?」

 

 諸葛は紙を裏返し、説明を続ける。

 

「まず、DクラスはBクラスの牡羊座以外の全グループを指名して頂きたい。そうすると、Bクラスは合計で-150ポイント。反対にDクラスは+100ポイントです。その上で更にCクラスの2グループ分を指名して頂く。そうすると、Cクラスは先ほどのAクラス分を差し引いても-50ポイント。Dクラスは先ほどのものに更に+100ポイントです。その後、Bクラスに乙女座以外のグループ分を指名され、-100ポイント。残ったCクラスの1グループ分をBが指名して終了です」

 

 図式化するとこうなる。

 

①第1回グループディスカッション時

 

Aクラス:50(乙女座指名)

Bクラス:-50(牡牛座被指名)

Cクラス:0

Dクラス:0(牡牛座指名+50・乙女座被指名-50)

 

 

➁Aクラス試験終了時

 

Aクラス:0(龍園が水瓶座不正解で+50・龍園が牡羊座、射手座正解で-100)

Bクラス:-50

Cクラス:50(水瓶座不正解-50・牡羊座、射手座正解+100)

Dクラス:0

 

 

③Dクラスが行動すると

 

Aクラス:0

Bクラス:-150(山羊座、魚座被指名で-100)

Cクラス:-50(蠍座、獅子座被指名で-100)

Dクラス:200(山羊座、魚座、蠍座、獅子座指名で+200)

 

 

④その後Bクラスが行動すると

 

Aクラス:0

Bクラス:0(蟹座、天秤座、双子座指名で+150)

Cクラス:-100(双子座被指名で-50)

Dクラス:100ポイント(蟹座、天秤座被指名で-100)

 

 となるわけである。文字通り、Dクラスの1人勝ちであった。AとBは現状維持に終始し、Cは損害を被っている。その中で唯一Dだけがプラスを積み重ねていた。これを勝利と呼ばずして何と呼ぼうか。勿論、各グループの指名につき付与される50万のPPもあるので、一概には敗北といえないクラスもあるが、それでも今後に大きく関わるであろうクラスポイントとの間に価値の差はある。

 

「どうしてCクラスの指名を1グループ分Bクラスに譲る必要性があるのかしら」

「ああ、それですか。Bクラスに損害を与えないためです」

「損害を与えない?」

「あなた方は裏切り者だ。これ以上Bクラスに損害を与え続けると、温厚な一之瀬さんも激怒しながら立ち塞がってくる可能性もありますよ。彼女、人気ですからね。少なくとも、貴女より。生徒会にもいますし、Dクラスにとってはやりづらい敵となるはずですので。ま、龍園君と一之瀬さんを同時に相手するのは厳しいだろうという私からの優しさですよ。現状維持という名の衰退の方が、損害を被った末の敗北より受け入れてくれるでしょうしね。さて、どうしますか? 私が示した案通りに動いて頂けると助かるのですが」

「あなたの案通りに動かなかった場合、何か問題は?」

「特に。ただ、私からの心証が著しく下がります」

「……それは後々の問題が多そうね」

「堀北さん。この提案であなたたちに損害は無いんです。それに、計算しましたか? この結果ならDクラスはCに上がれることに」

「! ……そうね。綾小路君はどう思うかしら」

 

 綾小路は考えた。完全にこれは掌の上。それもヘイトコントロールの類をされている。間違いなくCクラスの目を自分達に向けさせるためのモノであると。これは堀北との差が如実に表れた結果でもあったし、また綾小路の初動が遅かったせいでもあった。諸葛孔明は最難関の敵。それに挑むには堀北のスキルはまだまだ不足している。と判断せざるを得なかった。それに比べれば、龍園はまだ何とかなるだろう。龍園を相手にすることで、奇策に対処する業を学ぶ。そうすれば、上位互換のような存在である諸葛の策略にも対処できる可能性が上がる。

 

 それに、自身の進退もかかっている。クラスをあげれば、少しの間だがあの担任も満足するだろう。退学になるのは非常にマズい彼からすれば、ここで成果を出して少しでも担任の慰めにしたかった。事実、あの第1回ディスカッションの後に呼び出されている。Aクラスのあまりに早い対応に危機感を覚えたらしい。

 

 Cに上がるには、Dクラスの質的にはまだまだ早い。しかし、それによって揉まれる事でもう一度落ちたとしても、今度はこういう形ではなく自分たちの力で上に行けるはずだと綾小路は考えた。その思考の結果出した返事は了承のそれである。作戦を変更し、一度Cへ上がる事を容認する事にしたのだ。

 

「オレは受けるべきだと思うぞ。来月からのプライベートポイント増加は士気の向上にもつながるだろうしな」

「……そうね。それなら……分かったわ。この話に乗りましょう」

「そうですか、ありがとうございます」

 

 堀北は携帯を操作する。そして数分後、アナウンスが鳴り響いた。

 

『山羊座グループの試験が終了いたしました。山羊座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『魚座グループの試験が終了いたしました。魚座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『蠍座グループの試験が終了いたしました。蠍座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『獅子座グループの試験が終了いたしました。獅子座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

「これにてDクラスの勝利はほぼ確定しました。おめでとうございます」

「……今回は乗せられてあげるけれど、次からはこうは行かないわよ」

「それはそれは。楽しみにしておりますよ」

 

 完全に上手く操られている。そういう自覚を持ちながら、堀北は綾小路を伴って店を出た。質が違いすぎる。それだけが彼女の心中を支配していた。兄はすさまじい才能を持っている。その兄と互角に渡り合えるであろう諸葛孔明に、自分が敵う訳がなかった。まだ自分は何者でもないのだから。

 

「悲観することは無い」

「綾小路君?」

「今回の件で、Dクラスはより動かしやすくなるだろうからな。勝利と言うのは、それが本当はどのようにしてもたらされたのかに拘わらず、それが見えない大衆にとっては甘美なものだからな。今度から龍園との戦いになる。自信はあるか?」

「正直、あるとは言えないわ。それでも、諸葛君に勝つのに龍園君に負けているようでは話にならないでしょう」

 

 高い目標があるからこそ、目の前のハードルは越えないといけない。それはそうだろう、しかし……高いハードルを見ているばかりに、目の前のハードルの高さと自分の跳べる高さを見誤っていないか?と綾小路は冷淡に堀北を見ていた。次の試験、一度堀北には龍園に痛めつけられる必要がある。そうすることで、彼女の覚醒への道は拓けると、綾小路は確信していた。

 

 

 

 

 

 

『山羊座グループの試験が終了いたしました。山羊座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『魚座グループの試験が終了いたしました。魚座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『蠍座グループの試験が終了いたしました。蠍座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『獅子座グループの試験が終了いたしました。獅子座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

 この4つのアナウンスに驚愕したのはBクラスだった。Cクラスも慌てているには慌てているが、肝心の椎名ひよりは、諸葛孔明の紛れ込ませたダミーの優待者のせいである程度掴みかけていた優待者の法則が無に帰したため、困惑しながらも再度解読しようとしていた。しかし、どうやっても上手く行かないので現状停滞状態である。

 

 さて、それはさておきBクラス。真っ先に優待者を高円寺によって当てられるのは、彼らにとっては非常に大きな損害だった。元々Bクラスの作戦は、議論を停滞させ、最終日に携帯の入れ替え機能を使って自クラスを守りつつ、他クラスには全員で見せ合って結果1を目指そう! と呼びかけるというものだった。つまり、最終日まで発動しない息の長いものである。これ自体は悪くなかった。しかし、如何せん相手が悪かった。

 

 7時59分のメールで雲行きの怪しさを感じながらも、取り敢えず様子見を選択したことが正解とは呼びにくい選択肢だったと言えよう。

 

 Bクラスの現在の状態は-150ポイント。全優待者を当てられている状態だった。このままでは待つのは敗北。前回の試験でも思うように結果を残せなかったBクラスとしては、敗北は看過できないことだった。そんな混乱の最中、Bクラスと交渉をするべく葛城がやって来るのだった。一之瀬は明らかに諸葛孔明のシナリオ通りだと思いながらも、拒むことは出来ない。拒んだ先に待つ未来は、考えるまでも無いからだ。

 

「それで、葛城君は何の用かな?」

「ふむ。大方予想はついていると思うが、Bクラスに対し交渉に来た」

「交渉……か。それで、私たちにどうして欲しいの?」

「Dクラスの優待者残り2名とCクラスの優待者残り1名を指名して欲しい。そうすることでBクラスは失点をカバーできるはずだ」

「確かにそうだね。AクラスはDクラスと手を結んだのなら、どうしてCクラスの分を残しておいたの? そこも指名してしまえばDクラスはもっとポイントが手に入る。勿論、Aクラスが指名してもね」

「それを知ってどうする。聞いたところでどうにもなるまい。Bクラスには、どの道選べる選択肢は少ないはずだが」

「うん。だけど、相手の思惑も分からないまま誘いには乗れないしね」

「それも一理あるか。今回、Aクラスの狙いはヘイトコントロールだ。具体的にはCクラスのヘイトの行き先をコントロールしたかった」

「それでDクラスが勝てるようにしたって言う事?」

「その通りだ。Bクラスに交渉に来ているのは、この一環だ。Cクラスの最後の1グループ分、そしてDクラスの分を指名してもらう事で、Cクラスにポイントが入る事を防ぐのがこの交渉の目的となっている」

「そっか。そうすればCクラスは大きな損害を被る。1人勝ちしているDクラスにその分のヘイトが向くっていう訳だね。それに、Bクラスは優待者が当てられちゃった分を取り返して、取り敢えず±0に持っていける」

「受けない理由は無いはずだが」

 

 一之瀬帆波は考えた。ここで受けないと、待っているのはAクラスの更なるポイント加算か、Dクラスの怒涛の追い上げ。これをどうにかしないといけないのは事実。ここからポイントを+に持っていくことは不可能。だとするのならば、少なくともマイナスの状態になっている今よりも、±0で現状維持を優先した方が良い。それ以外にクラスを守る術は無かった。勿論、あまりいい気分ではない。全部掌の上、と言う奴だった。しかし、それでももうどうしようもないところがある。

 

「……分かったよ。その提案、受けるね」

「賢明な判断だ。これが優待者のリストだ。残存グループのものを指名してくれ」

「これが偽物って事は無いかな? Dクラスと結託して、結果4にさせようとしている、みたいなことになると困るなぁ」

「それを心配するのは尤もだ。だからこそ、契約書も持ってきている」

 

 葛城から渡された契約書には、もしDとCの優待者が異なって居た場合、Aクラスはそのミスによって損なわれた分のポイントを補填する。といった内容が書かれている。これを結ばないといけない理由は、Bクラスが優待者の法則を掴んでいないからだ。先ほどのDクラスは優待者の法則を掴んでいた。そのため、お互いに嵌められる心配がなかった。一之瀬はそれに署名し、自クラスの生徒に指示を出した。

 

 

『蟹座グループの試験が終了いたしました。蟹座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『天秤座グループの試験が終了いたしました。天秤座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

『双子座グループの試験が終了いたしました。双子座グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動してください』

 

「はぁ……全部諸葛君の掌の上、か……。う~ん、厳しいなぁ」

 

 一之瀬の深いため息と共に、全グループの試験が終了した。

 

 

 

 

 

 会議室。最後のグループの終了後、Aクラスはここに再び集まっていた。発表されるであろう結果を待つために。誰もが固唾をのんで見守る中、一斉に学校より通知が来る。

 

 

<第2回特別試験・結果>

 

山羊座──裏切り者の正解により結果3とする。

射手座──裏切り者の正解により結果3とする。

蠍座 ──裏切り者の正解により結果3とする。

天秤座──裏切り者の正解により結果3とする。

乙女座──裏切り者の正解により結果3とする。

獅子座──裏切り者の正解により結果3とする。

蟹座 ──裏切り者の正解により結果3とする。

双子座──裏切り者の正解により結果3とする。

牡牛座──裏切り者の正解により結果3とする。

牡羊座──裏切り者の正解により結果3とする。

魚座 ──裏切り者の正解により結果3とする。

水瓶座──裏切り者の不正解により結果4とする。

 

Aクラス:0クラスポイント、100万pp

Bクラス:0クラスポイント、150万pp

Cクラス:-100クラスポイント、100万pp

Dクラス:100クラスポイント、250万pp

 

<試験後暫定クラスポイント>

 

Aクラス:1439

Bクラス:743

Cクラス:402

Dクラス:412

 

よって、このまま8月にクラスポイント変動がない場合、9月1日よりCクラスはDクラスに、DクラスはCクラスとなる。

 

 

 

 

 試験は1日で終了したことになる。その背後に私がいたのは言うまでもない。葛城も、坂柳派も良くやってくれた。これによって、Aクラスは作戦目標である勝ち過ぎず負け過ぎないの究極である現状維持に成功した。そもそも前回の試験で勝っていたのだから、現状維持も大した問題ではない。逆に、積み重ねるべきだったとこで出来なかったBクラスの現状維持は、彼らからすれば大きな問題だろう。同じ現状維持でも置かれている状況によって、最善な策なのか緩やかな下り坂なのかが変わってくる。

 

「お疲れさまでした。これによって、龍園君の視線はDクラス……失敬、旧Dクラスに向けられるでしょう。ほぼ倍の点数をつけているBクラスとの差は大きいですし、しばらくは安泰。全て作戦通りとはいきませんでしたが、作戦目標は達せられたと思っていいでしょう。ご協力ありがとうございました」

 

 頭を下げてお礼を言う。拍手が飛んできた。その拍手の中には、面倒な試験が1日で終了したことへの喜びも混じっているだろう。また、私が全クラスを上手く動かして状況を作り上げたことへの称賛もあるかもしれない。いずれにしろ、これで私の信頼度は揺るがない。問題のない結果に終わった。

 

 第2回目のディスカッションが無くなったので、クラスメイト達は会議室を出て思い思いの行動をとる。寝る人、遊ぶ人、様々だろう。私も最後に会議室の電気を消して部屋を出た。

 

「真澄さんもディスカッションお疲れ様。頑張ってたって他の生徒から聞いたぞ。他クラスに会話の主導権を与えないように司会役をやってたそうじゃないか」

「……何のことだか」

「照れなくてもいいのに。まぁ、これで試験は終わりだ。残りの期間は、のんびりしようじゃないか。帰ったら忙しいだろうし」

「何かあるの?」

「う~ん、どうも坂柳さんが怪奇現象に見舞われているらしくて」

「はぁ? 怪奇現象?」

「ま、それは今はどうでも良いか。この後夜食でも食べようと思ってるんだが……」

「行く!」

「はいはい」

 

 本土の坂柳が少し気がかりだが、残りの期間を楽しむ事にした。これくらいの休暇は許されてしかるべきだろう。




<おまけ・その頃の坂柳>

 もうダメです。心霊現象は日に日に増しています。なんだか人型の影も見えるような気がしますし、日中でも誰かに覗かれているような気がします。買い物に行った際に、私が通った後、一度閉まったはずの寮のエントランスにある自動ドアが狂ったように開け閉めしたりもしていました。こうなったのも全部あのメールのせいです。取り敢えず、その元凶に電話をすることにしました。

「ハローハローミス坂柳? どうしましたか?」

 陽気な声がイラつきますが、今は頼るしかありません。私の身に起きている現象を全て漏らすところなく語りました。すると、電話向こうの気配が少し変わった感覚がありました。

「おかしいですね」

 ひどく冷静でかつ険しい声で彼は言いました。電話に出た際のそれとはまったく違います。

「貴女の部屋が風水的に微妙なのはそうですが、家具の配置でどうとでもなる程度のはずですけどね。間違ってもそんな心霊現象のデパートみたいなことにはなりません。今部屋に何かしてますか?」
「一応盛り塩を部屋の四隅に……」
「四隅!? 今すぐ止めなさい!」
「え、いやでも」
「大方ネットでも見ましたね? 盛り塩には確かに結界を作る機能があります。軽度の不浄を寄せ付けません。しかし、四隅に置くと中にいるモノも出られなくなります」
「……え」
「せめてやるにしても玄関だけにして下さい。後、私が帰るまでに私の声がしても開けないように」
「そ、それはどういう……」
「貴女は今、現状の問題解決能力が私にしかないと思っていますね?私が来たらドアを開けるでしょう?」
「はい」
「強力な怪異は、外から影響を及ぼせても中には入れません。招かれない限りは。見分ける方法は、同じ言葉を2回繰り返せない事が多いので『もしもし』とか言わせてください。言えなければ……わかりますね?」
「は、はい……」
「取り敢えず、その塩をどうにかしてください。もうすぐ戻りますので、それまで耐えられなそうなら避難を。いいですね?」
「は、はい……」

 ため息を吐きながら電話を切りました。流石に迷信にもほどがあるでしょう。文化を否定はしませんが、そんな馬鹿な、と思い盛り塩を見に行くと。

 ……真っ黒になってました。拝啓、お父様。私は死ぬのかもしれません。
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