ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

42 / 89
論争や討論の目的は勝利であってはならず、改革でなければならない

ジューベル 『パンセ』


37.ディスカッション

 各個人の思惑が交差しながらも、スケジュール通りの流れに沿って日常は進行し、定期テストが行われた。Dクラスなどでは死活問題かもしれないが、Aクラスにおいてはさして問題でもない。と言うより、学校の試験程度で揺らぐような教え方はしていない。

 

 試験結果が発表される時もさして騒ぐことはなかった。淡々とタスクを処理して行けるのはAクラスの良いところだろう。これまで当たり前のことを当たり前にやって来た成果だと思う。そういう生徒こそ、真に報われて欲しいものだ。

 

 この結果発表では多少の順位変動が起こる。普段は中くらいの生徒も、体育祭での得点によって上に上がっていたりした。特に点数を必要としない生徒はポイントに換算している。

 

 私の成績なんてどうでも良いのだ。基本ずっと1番上にいるのだから。坂柳も同率だが、残念なことにテストでは100点までしか測れない。それはどうでもよく、今大事なのは自分の事よりも教えている生徒の事だ。書かれている名前の中から神室真澄を探す。上から10番目に入っていた。確かに体育祭ではかなりの競技で1位をかっさらっていたのでそういう結果にもなるだろうとは思っていたが、それでも素の点数が低くては90点以上でないと入れないトップテンにはランクインできない。

 

 順調に成績が伸びているようで助かった。最初は最下位の方をうろうろしていたのだから。そして悲しき不名誉な最下位は戸塚。彼はなぁ……。見下しているCクラスやDクラスの生徒の1部に負けていることを反省した方が良い。堀北の方が頭は良いぞ。

 

「平均点においてもAクラスは安定の学年トップだ。慢心することなく勉強を続けているようで何より。これからも精進するように」

 

 先生のありがたいお言葉である。先生だってそういうところで競い合っていたりするのだろうから、自クラスが問題ない状況なのはありがたいのだろう。

 

「さて、既に各教科の先生方から繰り返し聞かされているだろうが、来週期末テストへ向けて10科目の問題が出される小テストを実施する」

 

 テストの次にまたテスト。何回もやるのは疲れる。またカリキュラムを組んで教えないといけない。まぁもっと凄い勢いで真澄さんの成績を伸ばす方法もあるのだが、それをやるほど緊急性がないので今はゆっくりやっている。それに、英語や国語(特に日本語力)は大学以降でも通じるものを教えてるつもりだ。最終的には海外大学でも平然と過ごせるような感じになって貰いたい。日本の英語はリーディング中心なので、それ以外も教えているためかなり時間がかかる。

 

「この小テストは全100問の100点満点。内容は全て中学3年レベルの問題で成績には一切影響しない。0点だろうと100点だろうと取って構わない。と言ってそのまま受け取る者はもういないだろうがな。その小テストの結果に基づき、クラス内の誰かと2人1組のペアを作り、そして次の期末試験はそのペアが一蓮托生で挑むことになる」

 

 ルールとしては、

 

・試験は5教科10科目の各100点満点、各科目50問の合計500問、1000点満点。

・各科目でペア同士の点数を合計して、60点未満なら赤点となり2人とも退学。

・総合点もペアで合計して、学校が設定したボーダーを下回れば赤点となり2人とも退学。ボーダーは例年だいたい900点前後。

 

 1人当たりの必要点数は45点か。まぁそれなら普通に突破できるだろう。例年退学者が出るそうだが、このクラスの最低点の戸塚ですら60点前後をキープしている。いわんやそれより上位者をや、だ。ペーパーシャッフルと呼ばれる試験名である事も発表される。今のところシャッフル要素は無いが、きっとまだ発表されていない部分にその名前の由来があるはずだ。

 

「では、残る説明事項について話す。日程は期末試験は1日5科目で2日に分けて行われる。科目の順番もまた後日発表となる。ただし、勿論科目順に左右されないように勉強する事が肝心だ。万が一、体調不良で欠席する場合は、学校側が欠席の正当性を問い、やむを得ない事情が確認できた場合には、過去の試験から概算された見込み点が与えられる。がしかし休むに該当しない理由であった場合、欠席した試験はすべて0点扱いとなるので注意するように。なので、体調管理に気をつけることだ」

 

 相方が100点を取りまくってくれれば生き残れるだろうが、そうでないと厳しいだろう。

 

「ペアの決定方法は小テストの後に発表する。そしてこの試験の神髄はここからだ。期末試験では出題される問題をお前達が作成し、その問題を他の3クラスのどれかに割り当てる……つまりどれか1クラスに対して攻撃を仕掛けてもらう。お前達と相手のクラスの総合点を比べ、勝ったクラスが負けたクラスから50ポイントを得るというルールになっている」

 

 私の時代がやって来たのかもしれない。この手の作業はお手の物だ。普段やっている作業の延長線上に特別試験が存在しているのだから、楽以外の何物でもない。

 

「また、直接対決になった場合は1度に100ポイント移動する。また滅多に無いとは思うが、総合点が同じ場合ポイントは変動しない。さらに、提出された問題は我々教員が公平かつ厳正に審査する。指導要領を超えていたりよほど引っ掛けが悪質な問題等はその都度修正が指示され、そのチェックを繰り返すことによって問題文と解答を完成させていくことになる」

 

 言ってくれるじゃないか。私が指導範囲内で異様に難しい問題を作れないとでも? 選択肢を長くしたりするなど、対応は幾らでも出来る。簡単な単語しか使っていないのに難しい英語のテストだってこの世界には存在しているのだから。

 

「問題を作る際の方法には特に制限は存在しない。他クラスや他学年の生徒を頼ろうが教師に相談しようがネットを参考にしようが、全てお前達の自由となっている。万が一問題作成が間に合わなかった場合学校側が用意することになるが、難易度がかなり低めになるだろう。そして肝心の相手クラスがどこなのかだが、お前達が攻撃したいクラスを五日後までに私に報告し、その際別のクラスと希望が被った場合は代表者を呼び出してくじ引きを行う」  

 

 ここだけ随分と古典的なやり方になった。

 

「逆に指名が被らなければそのまま確定し、そのクラスに問題を出題する。どのクラスを指名するかは小テストの前日に聞くので、慎重に考えて決めるように。質問がなければ説明を終了する」

 

 そして先生による説明の時間は終了し、我がクラスは話し合いの時間に突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大手を振って試験の際に前に出れるのは案外楽なものだ。こういう立場になってから気付く。一々推戴を待っているのは手間がかかる。こうして何も言わずとも私が指揮を執るのが当たり前になっている環境と言うのはかなり楽なのだ。反発する声も無い。今のところ、クラスはまとまっていた。

 

 坂柳もその辺は理解していると思いたい。自分の地盤が整っていないのに活動することは出来ないのだ。自分が権力を握るにしろ何にしろ、まずはAクラスがまとまっており、かつAクラスであり続けることが求められる。なにせ、今迄の生活をクラスメイトは知っている。彼女に権力を渡した瞬間にクラスが下がったりした日には、総スカンを食らうだろう。手駒のいない彼女にはどうすることも出来ない。自分で動ける龍園などとは違うのだ。

 

「では、話し合いを始めましょうか。書記はいつも通りよろしく」

「はいはい」

 

 真澄さんはそう言うと立ち上がって、教卓の傍にある椅子に座る。この組み合わせで前に立っていても何も言われないのも、これまで稼いできた信頼のおかげだろう。体育祭は下位クラスがごたごたしていたおかげで勝てたものの、本来はAクラス向きの試験ではない。体力自慢がそこまで多くないのがウチのクラスの弱点だ。追々そこも補強しないといけないだろうが、それはともかく。今回の試験は我々向きだと思う。

 

 だからこそ、各個人が考え、活発に意見を出して欲しいと思っている。今までの私は、二大政党制的な会議運営を進めてきたし、それが最良であると考えていた。しかしながら、それは派閥間の分断が解消されつつある今のAクラスには向かないだろう。派閥や交友関係を飛び越えて、議題ごとに意見を考えることのできる集団にしたい。つまりは、是々非々が出来る人間にしたいのだ。それこそがクラスのあるべき姿であり、今後社会に出た時に求められる人材だろう。

 

「さて、ここに立つにあたりまして、皆さんにお願いがあります。今後も特別試験の際にはこのようにして意見を募っていきたいと思いますが、その際には皆さんの積極的な発言を求めます。どのような内容であろうと、誹謗中傷などで無ければ構いません。特定の誰かに任せるのではなく、自分の意見を自分の口で述べられる事。それも大事な事であると私は考えていますし、皆さんにそういう存在でいて欲しいと思います。交友関係等あるとは思いますが、是々非々で考えてください。よろしくお願いします」

 

 軽く頭を下げる。多少の戸惑いはあるだろうけれど、言っていることが理解できないというわけではないだろう。最初の内は私がそういう風に議場を仕切ればいいだけの話だ。そうすればいずれ、自分の意見を述べることが自然体となり、よりよい議論の場が構成されていくはずである。私がやるのは最初の仕掛けだけ。教師とはそういう役割も求められている。生徒が自ら主体的に学び、行動する。その手助けをする仕掛けを用意する事も、教育学的には大事な使命だった。この学校がそれをしているのかは、ともかくとしておきつつではあるけれど。

 

「この試験で我々が考えるべきは如何にして勝つか、となるでしょう。このクラスは学力においては当たり前ですが学年上位層を占めています。そうである以上、敗北はアドバンテージを大きく喪失したことを意味します。それ故に、どのような問題であろうと、冷静に対処し、かつ高得点を獲得することが求められますね。その上でまず最初に考えるべきは、どのような手を打つべきか、という問題。しかし既に解答への糸口は存在しています。具体的には三つほど。さて、私が答えるのは簡単ですが……ここはひとつ、皆さんに考えて頂きましょうか。あぁ、坂柳さん、あなたはご遠慮くださいね。それでは全体の向上に繋がりません」

 

 勢いよく挙手しようとした彼女の出鼻をくじくようで申し訳ないが、彼女一人だけ優秀でもクラスはやっていけない。答えに自力でたどり着けるのか。それも求められている能力だ。まぁ正直さして難しい問いではないし、こんな問題の答えを実社会で必要なのかは疑問ではあるが、他人の言動をよく観察し、求められている解答を導き出すという能力は「察する」という言葉にまとめられて世間で必要とされているのも事実。それに、あと二年は最低でもこの中で暮らさないといけないのだ。フリーライダーでは困る。

 

 不満顔の坂柳ではあるが、しばしの我慢をしてもらおう。それに彼女とて、クラスメイトが指示待ちの無能では困るということくらいは理解できるはずだ。

 

「総合点のボーダーが決まってないっていうのは、何かしらの要素によって変更される可能性があるからってことだと思う。平均点が毎回変わるみたいな形で、ボーダーを変更するための理屈があるってこだと解釈したけど。そこから考えるに、多分試験を実施して見て、総合点の平均なんかを参考にするんじゃないかな」

 

 田宮が手を挙げて話す。続くように手を挙げて、生徒たちが話し始めた。あんまり促さなくてもフリーライダーやめてね、というのをオブラートに包んで話せば行動してくれるのは、民度の高さだろう。こういう当たり前のことを当たり前にしてくれること、さらに言えば他人任せの他責思考が無い事などがこれまで彼らを勉学面において成功に導いてきたのだと思う。このクラスでは上下があるけれど、聞く限り全員進学前は学年トップを占めているような生徒ばかりだ。

 

「小テストの結果が一切成績に反映されないということは、成績を知りたいということではないんだろう。学校側が中間テストの次に日を置かずまたテストをするということは、それに意味があると見るべきだ」

「俺もその意見は賛成だな。意味無いのにやったりはしないだろうし。てことは、小テストをしないといけない理由がある。それに、小テストの後にペアを決めるのは、逆に言えば小テストをしないとペアを決められないってことだろ。組み合わせれば、小テストがペア決めの道具ってことになるよな」

 

 島崎の意見に続けるように、的場が言う。大したものだと素直に思った。特に促すまでもなく、三つ存在している解答への糸口をさっさと導き出している。別に全員が三つ思いつく必要性はないのだ。何かしら思いついたならば、ここでそれを共有し、掘り下げ、組み合わせ、思考を形作ればいい。共同作業とはそういうモノだし、本来の意味でのアクティブラーニングとはそういう作業のはずである。

 

 議論が良い感じに進んでいるのを確認しながら、葛城がこちらに視線を送る。そのまま進めて問題ないか、という確認だろう。彼は一議論者でありながら、こちら側の意図を察してくれているようで助かった。私に禅譲を申し出た身として、積極的に協力してくれている。問題があるならより良い方向に誘導しようとしてくれたのだろう。特に問題はないので軽く頷いた。これで意思疎通は問題ない。

 

「それが正しいと仮定して進めると、小テストでペアを決めるための何かしらが決定されるってことだよね。法則があるなら、導き出せるようになってるんじゃない? この前の船上試験みたいにさ」

「でもそんなに難しいかな、毎年やってるみたいな事言ってたし、誰かしら先輩に聞けば教えてくれそうだよね。葛城君は生徒会にいるんだし、三年生とか二年生に確認を取ってもらうのが良いんじゃないかな」

 

 中島について、塚地と発言が続く。葛城は頷いて、携帯で連絡を取り始めた。生徒会の知り合いなら、教えてくれる可能性が高い。特に堀北会長や彼を慕う勢力ならば、より一層。

 

「僕は今の塚地さんの意見にやや同じですね。法則性はさほど難しいモノではないと思います。それに加えて、仮に法則性が見抜けずともさほど壊滅的な結果にはならないのではないかと。なぜならば、見抜けないと壊滅的な結果を招いてしまうような試験だとするならば、例年もっと大勢の退学者を出しているはずです」

 

 真田がうまい具合にまとめてくれた。彼は意見をまとめるのが上手いらしい。これは貴重な知見だ。同じ空間にいても、まだまだ知らないことはある。派閥主義では見えてこない構成員一人一人の特技や意外な能力に気付けるのも、派閥制を解体した大きな意味となって来るだろう。そして私としては、今後の指導方針に大いに役立つ。

 

 ひと段落したところで、私が話を振る。こうすることで、普段参加しにくい人も強制的に壇上に引き上げられるのだ。少し酷かもしれないけれど、慣れておかないと後々苦労することになるだろう。楽しい事ばかりではないのが勉強というものの辛いところだ。

 

「山村さん、どう思いますか?」

「え、え、私、ですか……?」

「えぇ、あなたです」

「えっと……」

「どんな答えでも構いません。正解間違いはありますが、仮に間違えたとしてもそれはあなた自身の価値を貶めることには繋がらないのですから。大事なのは、自分の考えをしっかりと示した、という事ですので」

「あ、あの……も、もし点数の低い人同士でペアになったら、もっと沢山退学する人が出ると思います。なので、それが法則性の証明なんじゃないかと……」

「どういう意味だ?」

「え、あの、その」

「つまりは凄い数退学していないなら、『ペアの組み合わせは必然的にバランスの取れた組み合わせになっている』ということを山村美紀は言いたいのです。お分かりになりましたか、戸塚弥彦?」

「あ、あぁ……」

 

 山村が詰まったというか言葉足らずだったところを森下がフォローしてくれている。彼女は何を考えているのか分からないところがあるが、Aクラスへの帰属意識はしっかりと持っているようで、それは大いに助かっている。こういう風に議論にも参加してくれているし、自由人であり変人ではあるけれど、仕事はしてくれる。その点は信用できる人材だった。意外と視野も広い。こういう風に掬い上げてくれるのは助かる。

 

「山村さんも森下さんもありがとうございます。さて、良い具合に議論が進んで行きましたね。法則性の特定まで話を進めてくださって、私は立っているだけの置物のようになってしまいました。これは大変すばらしい事ですね。特定個人に頼らずとも、皆さんはしっかりと自分で考えることが出来る。他のクラスの中心人物が頭を捻って考えている事項を、皆さんで協力すればあっという間に解決することが出来ています。三人寄れば文殊の知恵、という言葉の意味を実感しているところです。さて、これまでの意見、私は異論ありません。同感ですね。その上で、では坂柳さん。真打登場ですよ、カッコよく決めてくださいね。ずばり法則性とは?」

「『高得点を獲得した者と、低得点を獲得した者がペアを組む』です!」

「That's right!」

 

 ババーンと効果音でも鳴って良そうな勢いで、待ってましたとばかりのドヤ顔で彼女は告げた。私はそれを正解と告げて指を鳴らす。どんなもんだいという顔をしていたが、すぐに私に乗せられたことに気付いたらしい。彼女は悔しそうな顔でしおしおと自席に座った。まぁこれくらいはすぐに出来るだろうと思って話を振ったけれど、ちゃんと解答できているようで何よりだ。

 

 それに、彼女がどう思っているのかは知らないけれど、これは私からの温情でもある。ここでちゃんと発言する機会を設けたし、議論の最中は結論を出してしまいそうなので封印させてもらったけれど、最後の最後でキチンとまとめられたために彼女の評価は落ちていない。むしろ、一人で答えを出せる側の人間として、その実力は一層クラスの中で認められることに繋がっただろう。私がまとめを振ったという事も、彼女なら正解できるだろうという風に実力面では信頼を置いていることの証左として印象付けられるはず。その辺を考えて貰えば、私が彼女の不利益にならない行動をしていると気付いてもらえるだろう。まぁ、それそのものが嫌かもしれないけれど。

 

「坂柳さんの仰ってくださったことが正解でしょう。しかし、我々のクラスではそこまで心配することは無いですね。そして皆さん、小テストは全員満点を目指してください。誰が誰とペアを組んでも問題ない。それがこのAクラスというクラスのはずです。勉学面で最高評価を受けている生徒が集まった場所。それがここです。今回の試験は学校側が与えてくれた我々がこれまで培ってきた努力を活かして、正当に輝くことのできる舞台です。法則性は特定しました。これは不明瞭な部分を排除し問題解決への糸口を掴んだという点では大きな意味を持ちますが、試験においてこれを気にはしません。理由は今述べた通り。誰と組もうが、我々は問題ない。そういう勉強を、皆さんしてきたはずですからね」

 

 下位クラスは頑張って調整するのかもしれないが、このクラスではそこまでする必要はない。誰が誰と組もうと、問題は無いだろう。どの道実力に多少の差はあるので、自然と普段の成績通りの上位下位の組み合わせになるはずだ。色々な組み合わせパターンを想像しているが、特に問題は検出されない。このペア問題をスルー出来るのも、Aクラスの大きなアドバンテージだろう。

 

「では次の議題です。くじ引きをしないといけないとはいえ、どこのクラスを攻撃するのかは考えないといけません。それについてです」

 

 綾小路は契約上龍園のいるCクラスを攻撃しないといけないことになっている。それにどの道DクラスはCクラスを攻撃したいだろう。なにせ、学力的に近いのだから。しかしながら、あの契約は片務的だ。我々は特段何の契約もしていないので、Dクラスを攻撃することも可能ではあるし、Cを攻撃しようとするDに被せてくじ引きに持ち込むこともできる。そうなった場合、学力的に近いCを狙って対策をしていたはずのDクラスはBかAを攻撃せざるを得ず、必然的に苦しい戦いを強いられる。

 

 Dクラスにも優秀な生徒はいる。綾小路に堀北に平田。裏切り者とは言え櫛田もそうだろう。しかし、いかに優秀な存在がいようとも、彼等だけですべてに勝利できるわけではない。一般層の質、つまりは平均値を上げない事には、Dクラスに勝利は無いだろう。それに勝利できたとしてもそれを維持できない。すぐに下に転落していくはずだ。

 

「さて、三クラスの内どこを攻撃するのか。どこに攻撃されても防御は難しい事ではないと考えていますが、攻撃対象は重要です。しかしすぐに意見を出せ、と言っても中々難しい人もいるでしょう。考えるためのデータも欲しいでしょうし。真澄さん、よろしく」

「はいはい」

 

 彼女は議事録の作製と黒板に出た意見を書いていく作業を行っていた。書記の仕事をしっかりこなしてくれている。その彼女にプロジェクター用のシートを用意してもらった。

 

「そこで……こちらをご覧ください」

 

 プロジェクターに映し出されたのは私のパソコンの画面。そこには私を除いたAクラス39人の名前が表になった表計算ソフトがある。いきなり何を始めるのか、と生徒たちは訝し気な目で画面を見ていた。

 

「ここに三つの可愛らしいイラストがありますね。ウサギ、蛇、ハリネズミです」

「え、あ、ちょっと!」

「これは真澄さんが私の作った教材の余白に落書きしていたものを回収して使用しました。可愛いですね」

「使用許可出してないんですけど」

「人の手塩に掛けた教材に落書きしたんだ、これくらいは甘んじて受け入れてくれないと」

 

 ムーと唸っている彼女に対して、教室内の真面目な空気は少し和んだ。デフォルメされたイラストとは言え、流石は美術部。その動物と分かるイラストになっている。何よりちゃんと可愛らしさがある。クールな少女と思われている彼女の描いた絵に、こういう絵を描くんだぁという温かい空気が流れた。その視線を向けられた当人はそっぽ向いている。恥ずかしいのだろう。

 

「では、皆さんをこのイラストに分けていきます。真澄さん、ストップコールをよろしく」

「……ストップ」

「はい、ありがとう」

 

 彼女のコールでエンターキーを押した。それぞれの名前の隣のセルに、イラストが配置される。

 

「あの、これは一体……?」

「今、皆さんを三つのグループに分けました。私を除いた39人なので、一グループ13人ですね。ではちょっと移動しましょうか。ウサギグループは廊下側、蛇グループは真ん中、ハリネズミグループは窓側に座りましょう」

 

 何をしたいのか分からないけれど、取り敢えず私が言うんだから従うか……という空気の中、生徒たちが移動し始める。坂柳に移動してもらうのは申し訳ないが、教室内くらいは許して欲しい。そして、普段交流のあるなしに拘わらず、或いは男女比に拘わらず、彼らは分けられて座っている。

 

「中々面白いグループ分けになりましたね。それではみなさん、お待たせしました。何をしたいのか、と疑問に思っている方も大勢いらっしゃると思いますので、ここで種明かしです。五日後にどこを攻撃したいのか、先生に告げるための期日です。今から皆さんに三日間お渡しします。皆さんには、今いるグループで話し合いをして頂きます。話し合いの場は放課後、休み時間、チャット上でも対面でも構いません。どのような論拠、データを使用しても良いとします。また、話し合いは全員揃っているうえで実行してください。全員発言をきちんとすること。誰かに丸投げしないようにしましょうね」

 

 人数を分けたうえでのグループディスカッションかな? と思った生徒が多いだろう。このグループの中で話し合いをして、異なる意見と交流するというイベントという解釈だ。それはそれで悪くない。ただ、それではグループを分けた意味が薄く。これにはちゃんと意味がある。それを今から告げるのだ。

 

「ただし! ウサギグループはBクラスを、蛇グループはCクラスを、そしてハリネズミグループはDクラスを攻撃したいと三日後に、全体の場で主張してもらいます。その上で各グループで論点をまとめ、担当クラスを攻撃するべき理由或いは他クラスを攻撃するべきではない理由を述べ、他グループのメンバー並びに私を説得してください」

 

 ざわめきがクラス内に満ちる。これまでやったことの無い取り組みであるが、これは今を置いて他にやるタイミングが無いと判断した。この試験はAクラスにとってはある意味でのボーナスステージ。勉学ならば大いにアドバンテージがある。そのアドバンテージを利用して、クラス内にある溝を一気に全部埋めて、是々非々で考えるための土壌を作る。同時にクラス内の交流促進にもなるだろう。それに、いつでもどこでも自分の言いたい意見を主張できるとは限らない。自分とは異なる意見だけれど、それを支持しないといけないこともある。その練習にはうってつけだ。

 

 メンバーは面白い振り分けになった。ウサギには葛城や森下、真澄さんがいる。蛇には真田や橋本、鬼頭。ハリネズミには坂柳に戸塚など。坂柳と戸塚など普段は犬猿という関係性だが、今この時は同志だ。どういう風にやっていくのか、楽しみである。全員参加で無いと話し合いをしてはいけないとルール設定をしたので、坂柳は戸塚を排除できないし、逆もまた然りである。

 

「当然反論も許可します。予想される反論を想定し、相手のグループの論拠を倒すための算段も考えておきましょう。論戦の後に、様々な意見を聞き、自分の攻撃するべきと考えたクラスを一つ投票してもらいます。その際は当然、グループの主張と変更しても構いません。なお、前提条件として必ずそのクラスを攻撃できるものとします。くじ引きの件は一旦忘れてください。また、誹謗中傷や人格否定、場外乱闘、スパイ行為などは禁止します。あくまでも自力で論拠を組み立てましょう」

「これ、意味あるのか……?」

 

 橋本が半信半疑という具合で呟く。彼も完全に無意味とは思っていないのだろうが、効果のほどを疑問視しているのだろう。しかし、私は意味があると考えている。やってもらわないと困るのだ。Aクラスが真の意味で団結するためにも、普段異なる考えであろうとも、或いは性格が合わない相手であろうとも、協力することが出来ないといけない。無人島試験でその下地は作った。これが仕上げになる事を期待している。

 

「えぇ、もちろん。私はこれを、Aクラスが勝利するために必要な事であるとしています。当事者意識を持ってクラスの勝利のために貢献すると考え、必ず真剣に取り組んでください。もしそれが確認できない場合は……些か厳しい対応をしないといけないかもしれませんね。他に何か質問はありますか? 必要なデータや機材などがあれば提供しますので、申し出てください」

「問題はいつ作成するのですか?」

「それはご心配なく。皆さんが頑張って論拠を固めている三日間の間に私が頑張って作成しますので。それでは皆さん、レッツディスカッション!」

 

 私の掛け声に、生徒達は戸惑いながらも頷いた。




AクラスメンバーCV
諸葛孔明:村瀬歩(イメージ)
神室真澄:佐倉綾音
坂柳有栖:日高里菜
葛城康平:日野聡
戸塚弥彦:本橋大輔
橋本正義:阿座上洋平
鬼頭隼:野津山幸宏

こう見ると割と豪華ですね。山村、森下、白石、真田辺りも誰がCVなのか知りたいところ。皆さんの予想があれば是非教えて欲しいですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。