ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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前回の答えは……a/c/b/c/dが正解です。

<解説>

(1)は、真澄さんが「遅れてるんだけど?」と言ってるシーンです。30分という数字と何なら上の序文に大ヒントがあると言うね。late forで『遅れる』という意味になります。中学生でも上手くやれば解けます。

(2)は、真澄さんが意訳すると「私が待ち合わせ相手で良かったわね?」と言っています。thankful thatで『(…ということを)感謝して』という意味になります。

(3)は、真澄さんが「身近に契約ってあんまり無くない?(意訳)」と言ったのに対し、「そんな事ない」と返し、その後に結婚の話が例示されています。そして、驚いている真澄さんに「たとえ話だよ」と言うシーンで、「It's just for example.」と言っているので、『例えば』という意味のFor exampleが正解です。

(4)は、真澄さんがseverityってどういう意味?と聞いているシーンです。What do you mean by...?で『~って何?』や『~ってどういう意味?』というニュアンスの慣用表現になります。

(5)は、孔明が契約と約束の違いについて簡単な考えを述べ、それに対し真澄さんが「結構曖昧なのね」と言ったので、「詳しく説明すると大変」と述べたシーンです。in detailで『詳細に』という意味の副詞になります。

<ポイント>

最後の(5)がラストの台詞にあるのは、最後の台詞をしっかり読ませるため。空所補充は単語などの知識と、前後の文から意味を推測してあっている前置詞などを入れるのが大事になります。ただし、あまりにも遠いと関係ないので読まない可能性がありますのでね。

あと、最後の台詞。意訳すると「もし立派な人だと思われたいのならば、あなたは契約を守るべきだ」という意味になります。ただし、文的にはここの人称代名詞はweの方が相応しい。何故ならここでは真澄さんと孔明の会話であり、youだと真澄さんを指してしまいます。真澄さんは時間を守っている方なので、守っている人に遅刻した人が契約を守るべきというのも変な話。つまり、このyouが指すのは……?頭の良い人だから気付ける皮肉でした。


37.夢

勉強の苦しみは一瞬であるが、勉強しなかった後悔は一生続く

 

『ハーバード大学』

―――――――――――――――――――――――――

 

 小テストが実施される。問題自体は凄く簡単だ。それもそのはず、中学範囲なのだから。決して中学範囲を馬鹿にする意図はない。中学の基礎が出来ていないと、高校の勉強は基本全く意味をなさないと思って良いだろう。勉強とはピラミッド。基礎が脆ければ、上にいくら積み上げても崩れてしまう。

 

 とは言え、そんな基礎が無い人間が果たしてAクラスにいられるかというと否である。故に、このテストは普通に解けて当然なのだが……なのだが……満点じゃない人が結構いるのは何なんですかね。こ~れは少し問題だ。勿論、ケアレスミスは仕方ない。人間だれしもミスはある。ただ、明らかにケアレスミスではないよねと言う点数の人もいる。ガックリきてしまった。

 

 クラスの指名は一切被る事は無かった。Bクラスは直球勝負でAクラスを指名し、こちらもまた指名し返した。Dクラスは櫛田という裏切り者を抱えながらもCクラスを指名。当然のようにCクラスもDクラスを指名し、争うことになる。

 

 今回の小テストで1つ良かったことがあるとすれば、真澄さんは満点だった。良し、これで良し。中学の基礎が脆くなりかかっていたのに春ごろに気付けたため、そこを重点的にやってきた甲斐があった。基礎は完璧になっている。専属講師をしているのだからその分はしっかりとって貰わないと困る。正直、金をメッチャ貰ってるのにろくな仕事してない予備校とかに比べれば大分いい仕事しているつもりだ。

 

 そして私のペアは当然のように戸塚である。いまいちやる気が起きないのは何故だろう。可愛そうなのでそれは言わないであげる事にした。でも事実は事実なのだ。

 

 

 

 

 

 難易度調整と問題の順番などを考えるために、プレテストを作った。最初なのである程度難しくしてある。当社比で10段階中10を最高とすると7くらいにした。難易度としては私立トップ大学、もしくは国立のトップ大学レベル。満点取れれば今すぐ東大受験と言うレベルだ。Aクラスでどれだけとれるのか。それを知りたかった。もし、これで散々な結果だった場合、難易度を大幅に下げないといけない。問題構成はもうほとんど決まっているので、後は本当に難易度だけなのだ。

 

 しかし、1問2点と配点が決まっているのが面倒くさい。記述式の回答が出しにくくなっている。例えば、単語や用語は書かせられるが、世界史の記述や英語の和訳問題はかなり出しにくい。まぁ1問2点でも容赦なく出題はするが、例えば200文字で記述せよとかを出せないので辛い。これが許可されるならば、日本史や世界史は1問25点×4題で全て記述式って言う問題形式にしていたのに。

 

 嫌がらせなんて幾らでも出来る。しかも、怒られない範囲で。例えば、選択肢の文を長くすればいい。現に、現代文の選択肢は凄い長くしてある。それに難易度だってそうだ。簡単な問題ではなくすんごい難しい問題を最初と最後に持ってくる。すると、どっちから解いても難しく、時間をロスさせられる。簡単な単語だけれど覚えていないだろうところを突いたり、資料集の隅っこから引っ張り出してくるなんてことも容易だ。

 

 英文法の方は結構色々あるが、読解の方は全部長文だけにしてある。しかも、出典は小説や私の作った適当な論文。内容は国際政治学や中国史。私の専門分野だ。小説を多く使用しているのは、論説文だとテクニックを使ってあっという間に解けてしまう方法があるからだ。小説はそれが使用できない。ほぼ全部読まないといけない。内容は『風と共に去りぬ』や『1984』など。そんなに難しくはないと思うのだが、どうだろう。英語の名言を使用して、意訳力や日本語力を求めたりだってできる。当然問題文は全て英語にしてある。センター試験リスペクトだ。

 

 数学も証明のプロセスを選ばせたりしているが、まぁこれは序の口。結構時間のかかる上に計算のプロセスが難しい計算問題をひたすらほぼ羅列している。それで問題の大半は埋まり、最後のページは文章題。これだってそんなに簡単な問題ではないつもりだ。

 

 それ以外にも現実のテストで使われている各種ギミックを多用して、とにかく時間がかかる上に難しい。そして引っかかりやすい問題にしてある。ただし、落ち着いて解法テクニックを用いれば終わらないという事は無い。点数もギリギリラインを超えられるようにはしているつもりだ。ただ、このギリギリはあくまでも個人の感想なのでプレテストが必要なのである。

 

 まぁでも、科挙よりは簡単でしょう。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 生徒会室。そこにあったかつての質実剛健な雰囲気は一掃され、新体制に相応しいかはともかくとしておきつつ、南雲雅の手によるレイアウトになっていた。

 

「攻略の目途はついたか?」

「ペアの法則はわかりました。でも、問題作成は……」

「あぁ、気持ちはわかるぜ。腐ってもAクラスだ。学力レベルはどうしてもBクラスより高くなっている。少しの差だが、その差が今は恨めしい。そうだろう?」

「……はい」

 

 一之瀬帆波は協力を仰いだ南雲によってこうして呼び出されていた。彼女の顔は暗い。クラスのために手を結んだとは言え、それは大いなる裏切りだ。そして、彼女は自分自身の過去から真っ当でいようと思った。だからこそ後ろめたさがある。クラスの為と大義名分を打ってはいるが、それでも隠しきれるものでは無かった。しかし個人的な感傷とクラスの行く末は関係のない事。諸葛孔明を倒すには、なんであれ使わねばならない。それは、無常なる事実だった。

 

「まぁ任せておけ。今回の問題、2年生の優秀な奴らを集めて作らせている」

「それは……」

「問題は無いはずだぜ?説明の時に言われただろう。問題作成の方法は問わないってな。だから上級生に作らせるのだって問題ないはずだ」

「そう、ですね。ありがとうございます」

「気にするな。俺も諸葛は潰したい。その為の布石だ。今回退学者は出なくても、Bクラスに敗北したとなればアイツの求心力も下がるだろうからな。まだ時間はかかるが、提出期限までには余裕をもって作成できる。出来次第お前のアドレスに送信するから、それを提出しろ。良いな?」

「分かりました」

「必要なら教えるのが上手い奴も貸してやる。勝ちに行け。それと、もう1つやって貰いたい事がある」

「何でしょうか……?」

「諸葛と俺は接点が少ない。それは情報が少ないという事も意味する。方法も量も問わないが、諸葛を観察しろ。些細な事でも良い。情報があれば教えろ」

「偵察、という事でしょうか」

「言葉はこの際どうでも良いが、まぁそう言う風に言う事も出来るだろうな」

 

 一之瀬は一瞬だけ逡巡したものの、力なく頷いた。満足そうに頷き返し、南雲は一之瀬を退出させる。契約破りに偵察行為。明確な敵対行動だが、それでも南雲は諸葛孔明が一之瀬帆波を退学にさせる事は無いだろうと踏んでいる。その理由としては、やる気ならもうしているだろうと思っているからだ。南雲は傲慢だが、相手の実力は認めている。堀北前会長しかり、そして孔明しかりだ。

 

 故に、やろうと思えば初期段階で一之瀬の信頼を得てから依存状態にさせ、肝心な局面で手ひどく裏切り絶望させ追い詰める事も、彼女の隠している秘密を自ら教えるように仕向け、それを暴露することも孔明には可能だと考えている。そして、幸か不幸かそれは事実だった。南雲の恐れるのはAとBの合併である。BクラスがAクラス行きを放棄して、優雅な学生生活に舵を切り、なおかつ一之瀬の孔明に対する感情が一定値を超えて万が一にも恋人関係などになられた日には南雲にとっては悪夢である。AとBを同君連合下に置かれては、さしもの南雲もやりづらい。1年Dは代表者はあまりはっきりしておらず、Cの龍園は絶対に南雲とは相いれない。だからこそ、一之瀬を孔明から分離させる必要があった。

 

 だが、ここまでしてもあくまでも彼の本命は堀北学前生徒会長。彼を倒すのが至上命題である。敵わないかもしれないのは分かっているが、それでも挑みたかった。そして今Aクラス近辺に少しずつ介入しているのは1年の中に駒を作る目的と来年諸葛孔明と全面対決をすることになった際への布石の目的がある。

 

 その為に坂柳と言う不穏分子を動かした。南雲は実際に坂柳と相対し、面倒な相手だと実感した。だが、今の彼女は彼ですら倒せそうな存在であった。最早派閥は見る影もない。優秀な頭脳という自尊心だけで動いているような姿には、いっそ憐れみすら覚えた。そして坂柳に一之瀬を攻撃して退学させられれば復権もあり得ると囁き、一之瀬の隠している罪を教えた。だがまだ時ではないと言うのも忘れない。噂と言うのは徐々に徐々に浸透させていかなければ意味がない。まずはなんでもいいからちょっかいをかける。年が明けた頃が頃合いだろうと南雲は思っている。

 

 坂柳が一之瀬を退学に追い込めるとは思ってない。よしんば追い詰められたとしても、諸葛孔明の妨害が入るだろうと思っている。それは南雲も望むところだった。諸葛孔明の取る手段、思考回路の一端でも垣間見れれば幸運だし、そうでなくても坂柳という全学年にとってのブラックボックスを潰せる。一之瀬を退学させる意思は諸葛には無いだろうから、確実に妨害はされるはずだ。こうしてAとBを対立させ、組めないようにする。坂柳はきっと方針から逸脱した行動によって諸葛に激怒されるだろう。もしかしたら退学に追い込まれるかもしれない。

 

 それならそれでも構わないと彼は思っている。サシでやり合いたいと言う思いがある。それに余計な茶々を入れかねない存在など、不快でしかないのだ。尤も、諸葛は自分と堀北学との対立にはさして興味は無さそう、というよりは学年やクラスの方にかかり切りだと、南雲視点ではそう見えている。

 

 一之瀬がダメージを受け、坂柳も行動不能になったのならば、その時1年で自分の相手になるのは諸葛だけだ。龍園では格が違い過ぎる。諸葛とも、自分とも。

 

「政敵排除の援護射撃だ。ありがたく利用しろよ、後輩?」

 

 自分の闘争欲のために嗤う彼は、早速Bクラスに与える問題作成の進捗に発破をかけるべく部下に連絡をした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 プレテストの返却をするべく、教壇に立ったのだが何と言うか、微妙な感想しか出てこない。うちのクラスのトップ10でこれなのか。

 

「それでは、返却します。ご協力ありがとうございました。え~総合点1位、坂柳さん。点数は10科目×50点満点で500点中、428点です。続いて、個人得点トップは数学!山村さん、50点。怖いです。私のテストで満点取られて凄い今自尊心が壊れそうなんですけど、簡単でした?」

「そんなに」

「良かった。簡単って言われたらハートブレイクでした」

 

 軽く笑いが起きる。そんな簡単にお前の心は砕けないだろ、と真澄さんは言いたげだ。そんな彼女の点数はテストを受けた私を除く9人中6位。まぁ良いだろう。 

 

「全科目平均は38点。まぁまぁでしょう。とは言え、40は超えると思ってたので難易度調整をします。提出はもう少しお待ちください。さて、それではAクラスの皆さんにはこれから授業します。トップ10でこれではちょっと不安が残りますので。Bクラスは優秀ですからね」

「そんなに警戒する必要あるのかよ」

「一之瀬さんは君よりは少なくとも優秀ですよ、戸塚君。人の振り見て我が振り直しましょうね」

「……」 

 

 不満そうな顔つきだ。これ、面倒だなぁ。腐った林檎では無いが、やる気のない生徒がいると雰囲気が悪くなったり空気が弛緩したりする。それは困るのだ。

 

「分かりました。いきなりやるのもアレなので、最初に少しガイダンスでもしましょうか。大学行きたい人、挙手!」

 

 いきなりの問いかけに少し固まるが、やがて少しずつ手が上がる。結局全員が大学へは進学を希望しているようだった。坂柳が行く必要があるのかは分からないが、天才になりたいのであればそうすると良いと思う。結局アインシュタインだってそれまでの物理学を知らなければ相対性理論なんて思いつかなかっただろう。大学はそういうある1本の分野に絞って各々が未来を作るための場所だ。

 

「そうですか。まぁ、良いと思います。次に、行くなら一般的に高学歴とされている学校へ行きたい人!」

 

 こちらも多くの人間が手を挙げる。まぁそうだろう。そうでないならここにはいないはずだ。どうせなら上に。そう考えている生徒が多いだろう。それは悪い事ではない。だが、その意味はしっかり考える必要がある。どうして、上を目指すべきなのか。

 

「じゃあ、どうして上の大学に行きたいんですか?別に名前さえ書けば入れるような大学なんてどこにでもあります。いい大学に入って、いい会社に就職して、そうすれば一生安泰?そんな時代はもう終わりました。残念ながらこの国は長い長い下り坂の真ん中にいます。かつてのいい会社は最早ほぼ全てブラック企業と呼ばれる会社になり下がりつつある上に、給金も下がっている。税金は上がる。保障は減る。年金なんてこの世代、いくら貰えるでしょうね。もう無いかもしれません」

 

 カツカツと床を鳴らしながら私は教壇を歩く。

 

「今更ながら言いますが私はこの学校の特権制度なんてさして意味の無い物だと思っています。希望の学校に入学、希望の就職先へ就職。大いに結構。ただし、その後どうなるかは学校の知った事では無いですからね。退学になってしまったり、リストラされてしまったり。或いは倒産してしまったり。あり得る未来だと思いませんか?だからこそ勉強するんですよ。究極的な話、最低限やって後は一部の出来る人のおこぼれを貰ってAクラスで卒業し、何の役にも立たないしょうもない人間にならないために」

 

 結局、この学校の実力至上主義にも問題はある。Aクラスですらそうだ。例えば、戸塚は点数がAクラスで最も低い。その上、現状特に何か目立って努力している訳でも、部活動をしている訳でもない。それでも、ここに配属されたために私の恩恵を被っている。彼は、このまま普通にやって行けば私がミスしない限りAクラスで卒業して、好きな大学へ行くだろう。勝手にそうなってくれる分には構わないが、その後何もできない人間になられても困る。仮にも私にこうして教わっているのに、そんなしょうもない人材を送り出したとあっては私が恥ずかしい。

 

「夢もなく、特に目指したいものもないならとにかく勉強した方がよろしい。自分の窓を広げ、社会に出た時に視野を広く持つために。世間には龍園君など比べ物にならない邪悪さで、皆さんを騙そうとする連中がゴロゴロしています。間違った知識は、さも正しいかのように電子の海を独り歩きしている。それに惑わされないために、自分への投資のためにやるんです」

 

 私は私のために学んでいる。学んでいたし、これからもそうするだろう。

 

「学歴はスタートラインです。もし、皆さんがよりよい暮らしをしたいのであれば、学歴なんてあって当たり前の社会になりました。子供の数は減り、大学も淘汰されていくでしょう。その中で、どうやって自分を個性化していくか。どうやって生きがいを見つけるか。その為のスタートラインが学歴です。だから、あって当たり前。学歴+αで在学中に何をしたかが求められています。その結果、高い学歴に胡坐をかき遊び呆けた結果、上の大学でも就職できない人がいる。逆にしっかりやった結果、下の大学でも就職できる人もいる。でも、これはそれぞれのレアケースです。特異な値は参考にならないんですよ」

 

 ただやみくもに高学歴を求めたって、結局その先につながらない。受かるために勉強するのは大いに結構だが、その先を考えていなければ、受験勉強は出来るけど……という学生になるだけだ。

 

「大学受験は当たり前度を測定するテストです。定期テストだってそう。当たり前のことを当たり前にやれば受かる。やらなければ受からない。ただそれだけ。奇跡なんて必要ない。まして天才である必要はありません!むしろ、この中に天才は1人もいない!それは私も含めてそうです」

 

 天才なんていない。そんな言葉に、空気が少し凍る。坂柳が自らを天才と自負しているのはそこそこ知れている話だし、知らなくても何となく察しのつく空気感を出している。ただ、私に言わせればそれは天才ではない。

 

「0から1を作る。それが私の思う天才の条件です。アインシュタインは物理学に新たな世界を持ち込みました。マルクスは経済学を根底から覆しました。ナイチンゲールは様々なデータをもとに、医療界に新しい概念を創造した。芸術家や科学者にはそう言う人物は多い。当然、無から有を生み出しているわけではなく、ここでいう0から1とは巨人の肩に乗りながら、それを使って誰も成し得なかったことをするという意味です。勿論、違うという意見もあるでしょう。それはそれで大いに結構。その理論をしっかり論理的に説明できるのであれば、私も傾聴しましょう」

 

 この中に、今は普通でも、もしかしたら何かをなす人間がいるかもしれない。狂気を踏み越えて、一歩先へ進める人間が。そう言う人物こそ、真に天才と呼ぶべきだと私は思っている。それが例え地道な研究の成果だっていい。ひらめきだけが天才を天才たらしめているわけではないのだから。地道な研究や実験の末に辿り着いた地平が未知の物であったのならば、それも総じて天才と呼ぶべきだ。

 

「最早天才に率いられる世界は終わりました。この世界は、誰でもこんな小さな金属の板で容易に変える事が出来る。アラブの春は1本の動画から始まりました。インターネットは現実社会を凌駕しつつある。グローバリズムは後10年以内に戦争、紛争、天災、飢餓、或いは疫病など、何らかの原因で縮小を迎えると思いますが……それでも消滅はしないでしょう。その中で生き残るには、学びを続けるしかありません。この行き先不透明な世界で、生きていくにはね」

 

 学習を止めた時に、その人の成長は終わる。それ以上ないと、自分の上限を自分の狭い視野で決めつけて勝手に諦める。万能は、究極の1には敵わない。

 

「さぁてお話はこれくらいにしてやりますか。入学した先で何をするかグローバリズムの終焉とかはまた今度話をしましょう。時間があれば、ですが。では行きますよ、私を含めて凡人でしかない皆さん。せめて、秀才にはなりましょう」

 

 雰囲気は凄い真面目なものになっている。これならば集中して取り組んでくれるだろうし、寝るなんて事は無いだろう。

 

「ああ、そうだ。天才になんてそうそうなれませんが、努力の天才になら誰でもなる資格を持っています。それだけはお忘れ無きように。では、授業を始めます。皆さんがこのテストだけではなくその先でも優秀であれるようにするために、ね」

 

 39人の視線が私に注がれる。気合は十分だ。これならば良い環境で行える。環境というのは勉強において、かなり重要な位置を占める。やる気、効率、環境。この3つが私の考える勉強に必要な3大要素だ。ノートを開く音、シャーペンの芯を出す音が響く。それを聞きながら黒板を向き、チョークを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後、疲れた顔でクラスメイトは教室を後にした。こってり絞られたからだろう。彼らは優秀だが、まだまだ自分達で自負しているほど優秀ではない。成長の余地など無限に残されている。この調子で行けば、肝心の本番までには問題なく点数が取れるようになっているだろう。今日の授業と今までの感じを見るに、それぞれの出来るところ出来ないところが見えるようになった。

 

 これにより、一気に指導は楽になる。理解度は手の動かし方を見れば分かる。集中力はその人の仕草を見れば読み取れる。そうそう難しい事ではない。訓練すれば誰でも出来るだろう。とは言え簡単には手に入らないので、先生方は苦労しているのだろうが。

 

 学習の最初は詰込みだと私は信じている。基礎が無いのに応用は出来ない。単語を知らないから英語が出来ないように、数式を知らないから問題が解けないように。最初は覚える事から始まる。覚えたものを詰め込み、応用していく。テストとは全て応用可能性の問題だ。習ったことをどこまで忘れずに引き出しから引っ張り出すか。それが勝負だ。はっきり言って、近年のアクティブラーニングはあまり好きではない。あれは、十分な前提知識を詰め込んでいる前提でやるべきだし、そう言うのは大学に行ってやれば良い。

 

「お疲れ様」

「別に、私はそんなに疲れてないけど」

 

 !?っという顔でまだクラス内に残ってる生徒たちが一斉に何か恐ろしいものを見るような目で真澄さんを見始める。当の本人は確かに集中力は持続していたし、出来も良かった。現在も涼しい顔をしている。

 

「いつものに比べれば大分緩くしたでしょ」

「そりゃ、そんないきなり最初から飛ばしたらみんな死んじゃうからな」

「それはそうかも。とは言えいきなりこれは厳しいと思うわよ。まさか100点取らせる気?」

「いやいや。流石に時間が足りない。もっと時間があるのならば、満点を全員に取らせることも出来無いわけではないけれど……そんな事したくない。疲れるから。相手の平均点は結構ギリギリになるように試験を作っている以上、それをそこそこ上回るようにしていれば勝てるのさ」

 

 鞄を掴み、教室を後にする。ここで終わりではなく、彼女はこの後も夜の部が残っている。今日のカリキュラムはしっかりやるつもりだ。そこを妥協するつもりは無い。最終的に、彼女がどの進路を選んでも必ず実現できるようにさせたい。そのためには学校の勉強だけでは足りない。もっと色んな知識を体系的に詰め込んでもらう必要がある。だから、テストになど絶対出ない美術史とかも教えている。

 

 すっかり暗くなってしまった廊下。他クラスも勉強会をあちらこちらでしているようだ。教室でしているところもあれば、図書室でしているところもあるだろう。

 

「アンタは何のために勉強してるの?大学行くため?」

「いや、違うな。私は私の夢のために学んでいる」

「夢?」

「そうだ。……叶えるべきかは分からないが」

「ふ~ん」

「私は99点で良いのさ。その代わり、全ステータスを99にする必要がある。代わりに100以上の数値は別の誰かが取ってくれる。私はそういう人たちの力を借りて、成したいことを成す。勿論私にだって100を超えているものも存在している訳だけど」

「勉強とか?」

「残念ながらなぁ……私より出来る奴がいるんだよ」

 

 副官である。アイツの脳内はどうなっているのだろうか。正直私にすら理解が及ばない。単純な頭の良さなら向こうが上回るだろう。教える能力やその他の数値の結果、彼女は私の副官として指示に従い、今日も本国で代理人を務めいている。ただ、コミュニケーション能力は微妙だし、隻眼なので戦闘では不利だ。

 

「バイオリンは世界でトップクラスの自信はある。後、他にも幾つか」

「弾けるの!?」

「なんなら私の一番得意とするところだぞ」

 

 他国に入る時は大体25歳のプロバイオリニストという肩書だった。バイオリンケースは色々便利なのだ。具体的には銃火器を入れて持ち歩くのに。というか、部屋にあるんだから弾けるに決まってるだろうに。弾けないのに置いている意味もない。飾りならもっと違う物があるのだから。

 

「それだけあれば十分でしょ」

「さぁて。あって困る事は無いが、無くて困る事はある。私に求められているのは適材適所を配置する能力と、状況判断能力だ。それが1番必要なものだったから」

「それが今こうしてクラスを率いるのに役立ってるって訳ね」

「そうかもしれないな」

「ま、私はアンタの夢、応援してあげるわよ」

「中身も聞いてないのにか?どんなものか知らないのに?」

「邪悪なものじゃないでしょ?私はそこら辺は信頼している。アンタは誰かを不幸にすることは容易に出来るけど、その怖さを知ってると思うから。もし容赦なくやるなら、一之瀬も堀北も櫛田も坂柳も皆今頃この学校にいないだろうし」

「……どうだろうな」

「そういう良く分からない優しさというか、特別試験の時限定だけどルール内で勝負しようとしている姿勢、私は好き。出会いは最悪だったわけだけど、結局のところアレのおかげで今の私がいるわけだし?あのまま腐ってただろう私は今こうして普通に暮らしてる。そして、夢だってできた。だから、きっとアンタの夢だって叶うべきものなんだと思う」

「私利私欲に塗れているし、個人的な感情の産物なんだがな」

「良いじゃない、夢なんてそんなもんでしょう?」

 

 中央政府の打倒。国家転覆。祖国の民主化と自由化。それが私の成すべき事で、私の夢だ。その為の手段はもう幾つも取っている。多大な犠牲の末にだが、軍は既にほぼこちら側だ。財界にも、政界にも色んな所に種を蒔いている。それももうすぐ芽吹くだろう。そうすれば、数年の混乱と不況の後に、世界は新たな世紀を目撃するはずだ。

 

 これは多くの白骨と血の海の上に成り立っている、呪われた夢だ。それでも、私はいつの日か必ず。そうしなければならないと誓った。そしてそれを信じている者たちがいる。彼女は私の夢は叶うべきだと言った。もし、私のこの隠された全てを知ってもなお、そう言ってくれるのだろうか。そんな訳ないだろうと自嘲する。

 

 

 

 

 だが、どうしてだろう。言い続けていて欲しい自分がいた。




<今回は古文だぜ☆これが最も簡単なレベル。どれだけ頑張っても6点満点なんですけどね>

以下の文章を読んで、問いに答えなさい。


さて、土御門より東ざまに率て出だし参らせ給ふに、晴明が家の前を渡らせ給へば、自らの声にて、手をおびたたしくはたはたと打ちて、

「帝おりさせ給ふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。参りて奏せむ。車に装束疾うせよ」

と言ふ声聞かせ給ひけむ、さりともあはれには思し召しけむかし。

「かつがつ、式神一人内裏に参れ」と申しければ、目には見えぬものの、戸を押し開けて、御後ろをや見参らせけむ、「ただ今、これより過ぎさせおはしますめり」といらへけりとかや。

その家、土御門町口なれば、御道なりけり。花山寺におはしまし着きて、御髪おろさせ給ひて後にぞ、粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ」と申し給ひければ、「朕をば謀るなりけり」とてこそ泣かせ給ひけれ。あはれに悲しきことなりな。

日ごろ、「よく御弟子にて候はむ」と契りて、すかし申し給ひけむがおそろしさよ。

東三条殿は、「もしさることやし給ふ」とあやふさに、さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添へられたりけれ。京のほどは隠れて、堤のわたりよりぞうち出で参りける。寺などにては、「もし、おして人などやなし奉る」とて、一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。

『大鏡・花山院の出家』

※晴明……安倍晴明。平安時代の陰陽師
※栗田殿……藤原道兼
※帝……花山天皇
※式神……陰陽師の使う使い魔。目には見えない。
※東三条殿……藤原兼家。栗田殿の父親。

問1:大鏡は平安時代後期から室町時代前期までに成立した「鏡物」と呼ばれる歴史書の内の1つである。その中でも代表的な4つを総称して四鏡と言うが、その書かれた順番を正しく並べたものを以下の選択肢、A~Dの中から1つ選び、記号で答えなさい。

A;今鏡→大鏡→増鏡→水鏡
B;増鏡→今鏡→大鏡→東鑑
C;大鏡→今鏡→水鏡→増鏡
D;大鏡→今鏡→東鑑→増鏡

問2:文中にて「あはれに悲しきことなりな」と言っているのは誰の感想か。以下のA~Dの選択肢の内から1つ選び、記号で答えなさい。

A;作者
B;藤原道兼
C;花山天皇
D;藤原兼家

問3:以下の選択肢、A~Dの内、文章の内容を正しく表している物を1つ選び、記号で答えなさい。

A;安倍晴明は自宅の前を通った天皇の乗っている車を目撃し、天皇の意思が出家に無い事に気付いた。その為晴明は式神を宮中に派遣し、出家を思いとどまらせようとした。

B;兼家は道兼と天皇が一緒に出家してしまっては大変だと思い、源氏の武者を寺へ送った。寺では僧侶たちが出家の意思のない道兼までおも出家させようとしており、源氏の武者たちはその僧侶たちを脅して出家を中止させた。

C;天皇は出家させられてしまったことで、騙されたと気付き泣いたが、その後道兼に復讐するべく源氏の武者に命じて戻ってきた道兼を寺にて襲わせようとした。

D;道兼は自らも出家することで天皇への忠義を示すと言って巧みに連れ出し、出家を強行した。だが、道兼本人に出家の意思は無く、父親に最後に出家前の姿を見せると言って退出し、騙したまま戻って来る事は無かった。

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