ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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我々は神のオルガンに合わせて踊ってるに過ぎない

『ラインハルト・ハイドリヒ』


44.堆金積玉

 Bクラスとの連合計画に開始の目途がついた。これにより、クラスの資金計画についてもいよいよ真剣に考えないといけない。現状、40人全員を移籍させるには8億ものポイントが必要になる。順当な手段ではそれを稼ぎきるのは難しいだろう。今後行われる特別試験などにおいて、考えうる限り最適なポイントの稼ぎ方をしたとしても、恐らく実行にはかなりのハードルが存在する。これをどうにかしない限り、成功はあり得ないだろう。

 

 だからこそ、その金策をどうにかするべく、Aクラスの幹部陣が顔を突き合わせていた。しのぎの相談をしているヤクザの組会議みたいになっているのは、気付かなかったことにしたい。

 

「この度、先日の投票で決定されたBクラスの併合案について、向こうの了解が取れました」

「それは重畳ですね。ここまですんなりと通るとは」

 

 坂柳は薄っすらとした笑みを浮かべている。綾小路に年月を重ねたストーキングが露見した挙句振られ、一時期は闇落ちしかかっていたが最近は顔色が随分もとに戻って来た。何か良い事でもあったのか、或いはクラス単位で勝ち上がろうとしている綾小路をへし折るためなら私でも何でも利用する気になったのか。リーダーなんかやるよりは今のポジションの方が動けることが多いのに気付いたのかもしれない。いずれにしても、良い変化だとは思う。戦力としては貴重なのだ。

 

「何か条件などは出してこなかったか?」

「全員移籍させることが条件だと言ってきましたが、それ以外には特に何も。とにかく誰も失わないで三年間を終える。それが絶対条件のようです」

「そうか。妥当な要求だな。クラスのリーダーとしては真っ当な判断だろう」

 

 葛城は今回の発案者の一人である。その一人として、決定が通ったことは素直に喜ばしいようだ。彼の作戦は基本的に堅実である。併合案はぶっ飛んでいるかもしれないが、逆に言えば昨日の敵は今日の友、敵なら味方にしてしまえばいい。そういう考えの元で作成された案であると思えば、そうおかしな話でもないだろう。

 

 Bクラスを味方に出来たことは自身の堅実な策を支持してくれる地盤が出来たことを意味する。敵を味方にしてしまう。これは日本的な考えとも言えるだろう。将棋はそういうゲームだ。一方のチェスは坂柳の好むゲームだが、これは倒した駒は使えない。葛城と坂柳の考え方の違いを端的に表しているように思えた。

 

「じゃあ、これに関しては一歩前進。今後はBクラスを味方と思っていいってこと?」

「そうなります。とは言え、具体的な交渉はこれから。綿密に条件などを詰めていき、向こうが納得する形で仕上げる必要があるでしょう。まずは今回のペーパーシャッフル試験において、完全な八百長形式で向こうからこちらへポイントを流してもらう算段を立てました。ペーパーシャッフルについては、何をしようともこちらの勝ちです。それはそれとして、勉強は続けてもらいますが」

「分かってるわよ、それは」

「なら良いのですが」 

 

 葛城と同じくもう一人の発案者である真澄さんも作戦の成功自体は素直に喜んでいるようだ。元々Bクラスを攻撃する形で始まったアイデアだったが、予想外に向こうが素直に受け入れたため、ただの八百長試験になっている。

 

 とは言えあのディスカッション自体には意味があったので、それは問題ない。こちらとしても、存外一之瀬がさっさと併合案受諾を決めたのが想定外だったのだ。もう少し抵抗されるかと思ったが、向こうは向こうで色々危機感があったらしい。渡りに船、という事なのだろうか。

 

「さて、本日集まってもらったのは他でもない、金策についてです。これがこの作戦の一番の肝であり、最も難しい部分。順当な手段ではまず不可能な事態を可能にしようというのですからね。今後一之瀬さん達にも協力してもらうとは言え、こちらも無策というわけにはいきません。何かしら、提案をする必要があります。そのアイデアを求めたい」

「先日お話しした提案はどうなりましたか?」

「あぁ、その件もありましたね。南雲会長の件は無事会談に成功しました」

「それも重畳。の、割には随分と苦々しい表情のようですが」

「分かっているならば触れないで頂けると助かります」

「それは失礼しました」

 

 私が苦しんでいると喜ばしい坂柳には、この演技で十分だろう。確かに南雲のことは好きではないけれど、先日の会談でそれは多少薄れた。加えて言えば、彼の評価も上方修正されている。単なる自惚れた女好きの自信家だと思っていたが、それ以外の面が見えてきたのだ。それに政策自体は結構まともだった。

 

 しかしそんな事はおくびにも出さない。坂柳は私が苦しんでいることで溜飲が下がるのだ。それなら、彼女の機嫌を取るためにも私は苦々しい顔をしておくのが正解だろう。現に、目に見えて顔色が良くなっている。あまり喜んでいると高血圧になって心臓に負荷がかかると思うのだが、大丈夫なのだろうか。急に倒れられても困る。

 

「話を戻しますと、南雲会長はクラスに縛られる部分が強い現行の制度に対し、非常に激しい抵抗感を抱いているようでした。故にこそ、その変革をしようとしているようです。具体的な政策としては、個人の評価の可視化を行う事。それに加え、クラス間移動をよりやりやすくする事。これを中心に考えているようです。やりやすくする方策としては、二千万ppを最低でも半分にすると。或いはクラス移動を報酬・ペナルティとした特別試験などを考えているようです」

「個人競技とかで良い成績だったらAクラスに移動できるようにして、何かしらで基準を下回ったら強制的にDクラス行きってこと?」

「そういう事ではないかと。また、退学者のペナルティを減らすことも考えているようです」

「そうすれば、言い方は悪いが退学者のせいで出てしまう支出を減らす事が出来るということか」

「あら、それのどこが悪い言い方なのでしょう。実力不足で退学になる方など、()()で十分ではありませんか? お荷物の面倒を見る手間が省けることに喜ぶ存在も、一定数いるのではないでしょうか」

「……お前がそちら側に行く可能性はないと?」

「あり得ませんね」

「そうか」

 

 葛城と坂柳の間にはどうしても折り合いの悪さはある。それはもう仕方ないだろう。40人もクラスメイトがいて、しかもこちら側の意思は一切関係なく同じクラスに放り込まれたのだから、一人や二人折り合いの悪い生徒がいたとしても不思議な事ではないだろう。むしろ、そっちの方が自然とまで言えるかもしれない。

 

 坂柳の言う事は下位クラスで燻っている生徒には共感してもらえるだろうが、自分がお荷物になる可能性を一切考えていないのはどうかと思う。なにせ、彼女は彼女自身が悪いわけではないとは言え、持病を抱えている。

 

 動けない生徒は体育祭などを見れば分かるように色々とマイナスになってしまうこともある。無人島でも、危うくペナルティーを科せられそうになった。あそこで私が上手く参加した扱いにしたからよいモノの、そうなっていなければ来れないだけで30ポイントも引かれたことになる。

 それは見方によってはお荷物ではないだろうか。そんな事は言わないけれど、そういう風に考えることもできるという事。彼女はもう少し自分を客観視できるようになってほしい。そうすれば、謙虚という言葉を学んでくれると思う。

 

「ともかく! 南雲会長のアイデアはかなりまともでしたし、我々の作戦の利益になるアイデアでもあります。特にクラス間移動にかかるポイントを最低でも半分にしてくれれば、必要ポイントは4億で済む。それでも膨大ですが、8億よりはマシです。ですので、私はこのクラス間移動の容易化に関しては彼と手を結ぶことにしました。学校側との戦いが予想されますから、そこでの協力ですね」

「それは良いんだけど、でも南雲会長の政策が上手く行くかは分からないんでしょ? だったら、8億必要って言う想定でプランニングしておいた方が良いんじゃない?」

「それはその通りです。真澄さんの言う通り、想定はより悪い方で考えておくべきでしょうからね」

「同感だ。可能性に縋っても意味はない。南雲会長には悪いが、政策が上手く行かない可能性を考慮して考えていくべきだろうな」

「学校側の意にそぐわない生徒会長と判断すれば、彼を排除しにかかる可能性もありますからね」

「学校側がか?」

「はい。私はそう想定しています。なにせ、退学させるかどうかは学校の一存にかかっているのですから。監視カメラを操作して、適当な罪状をでっちあげることも十分に可能なわけです。或いは監視カメラの無い場所で問題行動をしたと報告すれば、一発で退学させられる。生殺与奪の権は、元より我々の手には無いわけです。いかに権勢を振るおうと、いかに学校内で権力を築こうと、我々はあくまでもこの箱庭の中にいるキャラクターに過ぎない。この学校でオルガンを回すのは、神ではなく運営なのですし」

 

 葛城は複雑な表情をしている。坂柳もあまり気分の良いという表情では無かった。無理もない話だろう。しかし、私はあまり学校を信じていない。

 

「思い出してください。そもそも、最初からAクラスの特権などと謳い、無人島ではペンションでバカンスと謳いながらいきなりサバイバルを要求し、持病で参加できない生徒をペナルティー扱いし。信じる要素がどこにあるのです? 真嶋先生個人は好感の持てる人物ですが、彼と学校はイコールでは無いのですし」

「……では、あなたは南雲会長の政策に対し、妨害が入る可能性を危惧しているわけですね?」

「その通りです。もっと言えば、我々の併合作戦にも同様に妨害の入る可能性を危惧しています。なにせ、この作戦はこの学校のクラス間闘争という前提を根幹から破壊するものですから」

「俺たちは思ったよりも、根深い問題に足を突っ込んでしまったのかもしれないな」

「かもしれません。とは言え、それを言っても始まらないでしょう。やると決めた以上は、どうにかしてやらざるを得ない。それ故の金策です。CクラスとDクラスに問題を売る話もうまくどうにかなりそうです。Cクラスクラスからは既に50万ポイントをせしめました。Dクラスからどこまで絞れるかは分かりませんが、一之瀬さん経由でCクラスの半分は何とか奪取したいですね」

「8億分の75万、1066分の1ね……」

「とは言え、一歩前進です」

 

 全体の必要数からすれば雀の涙だが、千里の道も一歩よりという。無いよりはあった方が良いのも事実だ。

 

「さて、脱線してしまいましたが金策について考えましょう」

「まずポイント徴収するしかないんじゃない?」

「そうですね。神室さんに同意します。持っているモノをとにかく吐き出してもらうことがまず第一かと」

「これはその通りだな。限界まで引き出すしかない。最悪、0ポイント生活も考えざるを得ないだろう。実際問題、ほぼポイントを使い切ったDクラスが一ヶ月強生活出来ている。そう考えれば……不可能ではないはずだ」

 

 我々のこれまでの獲得ポイント数は一人当たり10万(4月)+9万7000(5・6月)+10万5400(7月・8月)+14万3900(9月)+14万8900(10月現在)=79万7600ppとなる。Aクラスで過ごしている一般生徒は、これまでの生活でこれだけの額を獲得していることになる。40人全員分だと3910万4000になる。理論値ではあるが、一人は移籍できる計算だ。

 

 これに加えて、私は過去問販売で30万、一之瀬と葛城の生徒会勧誘で20万、私と真澄さんはストーカー事件の口止め料で一人70万を得ている。また、船上試験でも50万を獲得した。諸々の総計は232万6600ポイント。これが私の現在持っているポイント数である。

 

「現在持っているポイントの大半を吐き出してもらい、加えてこれからもポイントをほぼ全額供出してもらう必要がありますね……。真澄さん、皆がどれくらい持っているかの統計を」

「アンタが始める前に聞いておいた」

「流石。返答はどうです?」

「八割方が教えてくれてる。残りは多分まだ見てない。教えてくれたのを見る限り……個人差はあるけど六割から八割は残ってるみたい」

「最低六割か……」

 

 六割だと47万7600になる。これを40人分だと1910万4000だ。八割なら63万8080になる。40人分だと2552万3200だ。どちらにしても一人分を確保することくらいなら出来るだろう。最低の六割だったとしても、私個人が持っているポイントを吐き出せば2000万にはなる。誰か一人くらいこっちに移動させることが出来る。

 

「六割でも誰か一人くらいは移籍させられますね。移籍させるならさっさとさせてしまった方が良いのではありませんか? 現状でポイントを持っているのはAクラスの方ですから、そちらに早く人を集め、ppの総数を増やしていくことが必要でしょう。一人増えれば、単純計算で14万以上手に入るわけですし。それでも絶対的なポイント数は不足していますが……」

「Bクラスのポイントをこっちの持って来るっていうのは?」

「なるほど。ペーパーシャッフルを行う前からそうすれば、Bクラスの643cpが足され、加えてペーパーシャッフルの勝利分も足して11月からは22万3200ppが手に入るということですか。神室さんのアイデアは有益ですが、問題はどうやって移動するのかという事です。契約で可能なのかもしれませんが、その場合、我々の協力関係を外部に露見させることに繋がります。それを許容できるなら構いませんが……私はもう少し秘すべきだと考えますね」

 

 これは坂柳の言う通りだ。真澄さんのアイデアは私も考えた。Bクラスが0ポイントになってしまえば、ペーパーシャッフルをやってもマイナスには出来ないので、失うものは何もない。こちらは勝ったのだから100ポイントを得ることが出来る。これは良い策ではあるだろう。Bクラスは一時的にDクラスに落ちるとは言え、最終的にAに来れるならそれで良いはずだ。今後、あのクラスにはウチのクラスにとにかくcpとppを献上し続ける装置になってもらわないといけない。

 

「その辺はどう考えていますか、諸葛君」

「坂柳さんに同意ですね。この合併案はもう少し隠したい。葛城君、生徒会ではトラブル解決のためにクラスポイント移譲を行わせることがありますね?」

「あぁ、基本的には個人の持っているポイントで賄うが、それが出来ない場合はクラスにペナルティーを科すこともある。……それを利用するのか?」

「もうこの際なりふり構っている場合ではありません。何かしらのトラブル、それもAクラスが被害者となり、かつBクラスに退学者が出ない程度のトラブルを起こします。そして南雲会長に協力の見返りとして生徒会の調停をしてもらう。無論、この調停は形ばかりです。被害者も加害者も裁判官も全員同意の上での裁判なら、こちらの提示した和解案を無条件で受け入れた、という体裁でcpの全額移譲を行える。どうでしょうか?」

 

 かなり詐欺まがいの行いではあるが、そんな事は黙っていれば分からない。当事者たちは全員知っているが、極論学校側と他クラスに露見しなければ良いのだ。須藤の件はDクラスが情報提供を求めたので大っぴらになったが、元々学校側は他クラスに知らせるつもりはなかったようだ。その証拠に、Aクラスに対してはトラブルがあったとしか説明されていない。

 

 八百長示談とかいう正直スマートさの欠片も無いが、そんな事で機会を逃すわけにもいかないだろう。

 

「私は良いと思いますね。それ以外に方法がないなら、やるしかないでしょう。逆に最善の案を前にして、葛城君は何を怖気づいているのですか?」

「怖気づいているわけではない。ただ、道義的にどうなのかと逡巡していただけだ」

「私も迷いはありますが、生徒の未来のためです。80人の未来を守るためにならば、この程度さしたる問題ではないでしょう。道義的にはよろしくないかもしれませんが、それを言えばそもそもそれを追求できる側の学校が道義的によろしくない行いばかりを繰り返している。学校という手本たる存在がだまし討ちを肯定するのです。生徒がそれに従ったとて、教えの成果が十二分に発揮されているだけのことです。この程度の道義で皆さんの未来をより良いモノにできるならば、私はいくらでも手を染める覚悟でいます」

 

 これには嘘偽りはない。生徒の未来を保証することが私の仕事だ。もしこの学校が普通の教育機関だったら、或いはもっとまともな場所だったら。私もこんなことはしないし、考えないだろう。しかしこの学校は被害者を守らない。騙されたなら騙した方が悪いのではなく騙された方が悪いのだ。前に詐欺で退学になった生徒がいると言っていたが、それは詐欺が発覚したからだと聞いている。一年生から訴えられたのだそうだ。逆に訴えられさえしなければ果たして退学にしたかどうか。私は多分していないと思っている。

 

 本来教師がするべきトラブル解決を放棄して、生徒会などという所詮は生徒でしかない存在の集団に丸投げしているのだから、その枠の中で何をしようととやかく言われる筋合いはない。それに、お互いに全部納得の上でのトラブルなら、それはトラブルではなくただの演劇だ。実際に警察沙汰になる犯罪行為をしていないなら、退学だのペナルティーだのを言われるのは筋違いだろう。

 

「……分かった。一之瀬たちとも十分に打ち合わせをして、向こうのクラスの同意を得られたなら、構わない」

「ありがとうございます。真澄さんはどうですか?」

「私? 私はアンタの言うことに従うだけだから」

「それはどうも。では、その方向で行きましょうか。坂柳さん、具体的な構想は任せます。上手い具合に問題化できるけれど警察を呼ばれる犯罪にならないレベルのトラブルを考えてください。ただし、暴力沙汰は無しで。それといい感じに証拠が残るようにもしてください」

「分かりました。問題作りはそちらにお任せしましたし、ここは私が主導で進めます」

「お願いします。骨子が出来ましたら連絡をお願いします」

 

 この手の悪辣なアイデアは坂柳に放り投げておけば大丈夫だ。後は報告・連絡・相談を欠かさなければ何とかペーパーシャッフルが決着するまでにポイントを移譲させることが出来るだろう。Bクラスとの会談はこちらが行い、調整できるようにしておく。これはこの後やらなければならないタスクだ。

 

「他に何かアイデアはありますか?」

「アルバイトみたいなの出来ればいいんだけど、募集して無いんでしょ? ……外部から金銭って手に入らない?」

「具体的には?」

「物を売るとか」

「……なるほど。君の絵とか?」

「あんなの売れないでしょ。とは言え、そういう感じ」

「いや、現代美術とかよく分からないものが売れる世界だし、存外わからない」

 

 音楽や動画を投稿しそれで収益を得る。文学作品を作成し、売ったり賞に出したりする。そういう活動が可能ならば、問題はないはずだ。どの程度外部と交流できないのかは不明だが、そう言えば佐倉はブログをやっていた。ブログはコメントこそ書き込めるものの、双方向のやり取りは出来ない。そういう具合で上手く調整すれば、金銭的な報酬も確保できる可能性は十分にある。

 

「物を売る、ということなら最悪私のティーカップとかも手放しますか。親から受け継いだモノではありますが……」

 

 セットなら50万くらいにはなるだろうか。オークションに出せばそれくらいは行くかもしれない。持ってきた骨董品もあるし、実家に置いてあるものや本国に置いてあるものもある。後は、出所を突っ込まれる可能性はあるが、私の持っている車を売れば目標金額の四分の一から半分くらいは確保できる……かもしれない。私の数年分の給料をつぎ込んだアストンマーティンDB5が消滅するので避けたいけれど。

 

「だが物を売るにしても、生徒が外部に物を発送することは出来ないぞ」

「いえ、それは大丈夫です。先生や学校内のお店で働く職員の方にお願いすれば大丈夫ですから。一度権利を委譲し、代理で販売してもらい、その後報酬を我々が得ればいいだけですので」

「妹の誕生日の時も、そうしてくれたのか?」

「はい。少々伝手を使いまして」

 

 あの時は電気屋を使った。今でもそのチャンネルは平常稼働しているので、やろうと思えばいつでも物資のやり取りが出来るだろう。佐倉のストーカー事件は、本人からしたらたまったものではないだろうけれど、我々にとっては思わぬ収穫を得る事に繋がった。あの気色悪いストーカーとそれを雇った身辺調査も出来ない学校の怠慢に、今は感謝しておくとする。

 

 私の簪には宝石が付いているので、これも価値にはなるだろう。売れば数百万円くらいは稼げるかもしれない。けれどこれは母親のほぼ唯一の形見と言っても差し支えないモノ。それを売ることは絶対に出来ない。

 

「或いは物を売る権利などを買えばいいだけの話です。少々値は張るかもしれませんが、初期投資と思えば。とは言えこれだけでは足りませんね。まだまだアイデアは欲しいところです。全部やって、やっと何とかなるというレベルではありますので」

「大人に代理してもらう事が可能なら、公営ギャンブルでもしますか? 大分リスクは高いですが……その分リターンも大きい。数百万を突っ込んで上手く回収できれば、十倍でも数千万に出来ます。万馬券が当たった日には数億円一気に回収できますよ」

「それも検討しないといけないかもしれませんね……」

 

 競馬にしろ競艇にしろ、出来るのは成人してからだ。だがこれも仮にさっきの金銭貸与が可能なら、誰かしら協力者の大人にポイントを使って賭けてもらい、儲けを全部こっちに還元してもらう。この三点方式みたいなやり方なら回収できるかもしれない。未成年の競馬ファンが馬券を買う際に親に代理してもらうみたいなシステムだ。望ましくはないが、不可能ではない。後は文科省と農林水産省で揉めるかもしれないが、そんなのはこちらの感知することではない。

 

「丁度来週末に菊花賞ですしね……。キタサンブラック狙いで4-11-17辺りに10万ppぶち込んでみますか……?」 

「不確実性が高いのが難点だな。さっきの物を売るよりも学校側が忌避してくる可能性は高い」

「そこが問題ですね」

 

 公営ギャンブルで金策します! 大人を使ってロンダリングしてます! という図式を教育機関が認めてくれるかどうかは怪しい。とは言え、別に犯罪行為ではない。法律で禁止されてなどいないのだから、とやかく言われる筋合いはない。とやかく言いたいなら、須藤の件をちゃんと処罰してから言うべきだ。訴えが取り消されたからと言って、あの場で須藤が暴力を振るったのは事実だ。仮にどちらから攻撃したにせよ。

 

 それをなかったことにしたのだから、ここでぐちぐち言われてたまるかという想いは正直ある。そもそも、ここにまともな教育機関ですという顔をして欲しくない。なので問題はやはり葛城の言う通りに確実性の薄さだろう。大金ぶち込んですっぺんぺんでは話にならない。

 

「物を売れるなら転売も出来るだろうから、古美術転売をするという手もある。幸い、諸葛はかなり目利きが出来るようだしな」

「一部だけですけどね、一部だけ。西洋絵画とかなら真澄さんの方が得意です」

「私だって真贋鑑定とかは出来ないわよ。明らかな偽物とかは分かるけど……」

「まぁ古美術は物の例えだが、褒められた手段ではないとはいえオークションなどを活用した転売も可能だろう。ちまちまとした収入だろうが、無いよりは良い。これもリスクはあるが……」

「……真っ当な方法、あるかもしれませんよ」

 

 不意に坂柳が凄く悪い笑顔になってこちらに視線を送る。急にそんな顔をするので何事かと思ってしまった。

 

「と、言うと?」

「投資です」

「投資……株式の?」

「株式、為替、物品、不動産、何でもです」

 

 そう言えば、今年の八月頃、私たちが無人島や船上で色々していた時期、中国株式は人民元切り下げをした。これが中国経済と世界経済の先行き不透明感を強めたことで世界中の株式市場にマイナスの影響を与えている。

 

 世界経済の動きをキャッチするのには些か面倒な場所だが、そこは私が外部と通信できるので問題ないだろう。投資は結構アリかもしれない。元々私が持っていた株式があるので、その優待がたまに送られてくるけれど、ここから買うことも可能だろう。しかも投資系は学校から出ることも、外部とやり取りすることも無く行える。銀行などを介したい時はこの学校に支店を持ってきてもらえばいいだけの話だ。それくらいは出来るだろう。

 

 不動産も結構やりようはあるかもしれない。数千万円あれば土地は買えるし、それを転がすことも出来なくはない。一億ポイントたまればそれなりに出来ることもあるだろう。例えば、マンション建設計画を事前に私が掴み、そこのほんの一部を色々手を尽くして購入する。そうすれば、ハウスメーカーなどはその一部を買い取るためにこちらの購入額よりも多い金額を提示してくれる可能性が高い。これを繰り返せば、一年くらいのスパンはかかるにしても億単位を得ることも可能かもしれない。

 

 他にも不動産のオーナーになれば、そのテナント料を得ることもできる。もっと小さなマンションとかアパートの大家くらいなら数千万の資金でも不可能ではない。或いは会社を立ち上げるとか、買収するとかも視野に入れる必要がありそうだ。

 

 いずれにしても可能性の域を出ないが、ポイントで買えないモノはないというのがこの学校の触れ込みだ。嘘ばっかり吐いている学校だが「買えないモノはない」と言っているという言質を取ったうえで、嘘を吐くのかと揺さぶりをかければいい。詐欺罪で訴えられるのは学校も望まないだろう。

 

 もうなんだかどんな手を使ってでも金策に走らねばならず嫌になって来るが、仕方ない。元手を作るためにもとにかくポイントを徴収し、作品販売や転売、ギャンブル、投資、起業……犯罪にならないなら何でもやるしかない。それが我々の選んだ道なのだから。

 

「葛城君はこれまで出たアイデアが実現できるのか、場合によっては南雲会長を頼っても構いませんので確認を。学校側に認識されると面倒な可能性もありますから、最初に『ポイントで買えないモノは無いんですよね、法に触れない限り』と聞いて言質を取ったうえで進めてください」

「了解した」

「坂柳さんは先ほど申し上げた通り、Bクラスの八百長示談の準備を。手が空きましたら金策についてより具体化したプランを作成してください。クラスに説明するのもお願いすることになるかもしれません」

「分かりました」

「真澄さんと私は引き続きBクラスとの調整を行います。終わり次第お二人の助力も行います。真澄さん、よろしい?」

「聞かれるまでも無く」

「どうも。それでは皆様、抜かりなく」

 

 前代未聞の8億ポイント獲得のためには手段など選んではいられない。学校側が信用できない以上、自分達で上手く切り抜けながらどうにか資金を確保しないといけないだろう。CクラスもDクラスも諦めるつもりはないと思う。だからこそ、彼らを相手にしながら特別試験では必ず勝利することも求められる。中々の難題だ。だが、全く不可能ではない。

 

 もし仮に、何もかも上手く行って予想以上にポイントを確保でき、移動コストも半減以下になったなら、CクラスやDクラスの面子も移動させることが出来る可能性があるのだから。そうすれば誰も傷つかないで卒業させることが出来る。この学校の理念からは外れるかもしれないが、そんな事は知ったことではない。子供が幸福な未来を掴みとれるなら、その人数は一人でも多い方が良いし、泣くことになる生徒が一人もいないならその方が正しいに決まっているのだ。




<報告>
 Bクラスを併合する運びとなった。

<要求>
 全員移籍させるために最大8億を稼ぐ必要がある。何か策は無いか。

<返信>
 学校に下部構成員を送り込み、適当に傷害事件でも起こしてその示談金を巻き上げる策を参謀長が出しております。後はあの空母を売り払えばいいのではないでしょうか。艦隊司令の殿下も現在出産のため病院ですので。

<Re.返信>
 もっとこう、学校のルール内で収めろ。隙あらば艦を売ろうとするな。いい加減もう少し仲良くしてくれ。あともう臨月なのか……産休の期間を聞いておけ。

<RE.Re返答>
 善処致します。
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