ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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人を信じられることは確かに良いことだ。人を信じなくていいのはさらに良いことだ

『ベニート・ムッソリーニ』


5.システム

 さて、先日クラスポイントなるものの情報を手に入れた。現在は4月の1週目に学校が始まって2週間。なので、3週間目に突入したことになる。この情報をどう活用するかがポイントになって来るだろう。

 

 案は大きく3つ。まず1つ目は黙っておく。2つ目はクラスのリーダー格に言い、そこから広めてもらう。3つ目は自分で言う。1つ目は情報を秘匿する事が出来るが、それに特にメリットはない。ずっと隠されている情報ならともかく、恐らく5月に入れば開示されるだろう。さもなくば2年生が知っている理由が不明になってしまう。開示されてしまう、それも割と直近に、と言う情報を秘匿する意味はない。

 

 では、2つ目、クラスのリーダー格に言う。これもまぁナシでは無いが自分に有利には働きにくい。その人物からの覚えは良くなるだろうが、それくらいだ。更にその情報をどうするか、その人物の心情に委ねられてしまう。すなわちクラス全体に公開するか、自分の派閥にだけ教えて先見性のある人物としての崇拝を得るか。個人的には自分がリーダーだったら後者をやるが……。結局これでは自分へのメリットがない。誰かの下に付くつもりはない。もし一致団結して何かをやるとなるのであればその時の指示者の言う事には従うつもりだが、いつでも配下にいる気はない。

 

 最後に3つ目。これがベストだろうと思っている。自分の先見性をアピールできる。知識と行動力と発想力とが備わっている人材だという事でリーダー格からは一目置かれ、それ以外からも信頼を得られるだろう。その上で中立派として振舞えば益々信頼は増える。ネタバレは後14日後に必ず起こる。その時に私の予想が当たっていればの話だが。もし正解だったら知識と言う宝物を与えた影響力を作れる。

 

 だが、ここで一つ問題なのは私の予想のエビデンスが薄いという事だ。現在の推論は神室真澄が仕入れてきたネタから想像したに過ぎない。確固たる証拠と言うには弱い。彼女が全くの嘘八百を言っている可能性は限りなくゼロに近い。それが嘘だとバレた際にどうなるか分からないほど馬鹿ではないだろう。それに、嘘にしては出来過ぎている。内容の完成度が高すぎた。信じるに値するだろう。

 

 では、どうやって証拠を手に入れるか。教師は無理だ。なら、先輩に聞くしかない。接触を持ちやすいのは……先輩、か。ならば、と思い電話をかける。数コールのうちに不機嫌そうな声が応答した。 

 

「もしもし」

「ああ、やっと出てくれたな」

「お風呂入ってたんだけど」

「そうか、そんなことはさておき早速話がある」

「無視……まぁ良いわ。で?なに」

「3日あげるからこれから言う3人の情報を集めてきてくれ。人となりでいい」

「いいけど、誰」

「生徒会長、堀北学。そして副会長、南雲雅。出来れば書記、橘茜」

「……多い。出来るか分からないわよ。成果は期待しないで」

「出来ないと言うのは嘘つきの言葉だ。頑張ってくれ」

「はぁ……了解」

「それではおやすみ」

「あ、一応念のため言っとく。あんた部屋にヤバいもの沢山持ってそうだし」

「なんだ?」

「寮の部屋の鍵、管理人に頼むと合鍵作れるみたい」

「…………え?」

「知らなかったの。それじゃ言ったから」

 

 ツーツーツーと電話の切れた音が響く。クラスポイント云々より大事な情報だった。マズいマズい。何らかの形で合鍵を作られたら死ぬ。絶対に作らないように言いにいかねば。

 我ながら珍しく大慌てで管理人室へと駆け込んだ。結果、私が直接会って要求しない限り合鍵を作らせないように釘を刺すことに成功した。名前と部屋番号も伝えたのでこれで多分大丈夫だろう。最悪の事態に備えて、玄関からの廊下と居住空間を繋ぐ扉にも鍵を付ける細工をしておこう。危ないところだった。連絡先を交換した相手に位置情報がバレる機能が携帯にあるのは把握していたが、まさか寮の鍵がガバガバなんて思わないじゃないか。勘弁してほしい。大きくため息を吐いた。

 

 

【挿絵表示】

 

寮の部屋の見取り図

 

 

 

 

 

「で、成果を聞こうか」

 

 期日の3日後になった。その間は特に動かない。と言うのも、彼女に探らせた方がこちらの存在がまだ露見しなくて済む。まだシステム関連を把握できていない今、上級生との接触は最低限にしたい。なので、生徒会を狙った。生徒会室があるので機密性も高く、大勢のいる往来の中でなくても話ができる。また、情報ソースとしての信頼度もある。故意に嘘をついていない場合は、だが。とは言え、嘘を吐くメリットは特にないはずだ。放課後に報告を聞く。

 

「超断片だけだけど」

「構わない。無いよりマシだ」

「あっそ。まず堀北学。才能のある生徒会長。保守的で真面目。評判は歴代生徒会長の中で最高。次に南雲雅。自信家の革新派。女たらし」

「面倒そうなやつだ」

「何が?」

「顔が良い女たらしは面倒だと相場が決まってる」

「嫌味? まぁ良いわ。……続けるわよ。最後に橘茜。会長の腰巾着。性格は会長が絡まなければ善良。こんなのがザっとした評価だったわ。細かい事は……怪しまれるし、時間が足りない」

「いや、今はこれで十分だ。そこまで詳しいことを知る必要は今はない。追々関係性も出てくるだろうが」

 

 そう言えば誰か生徒会に入りたいと言っていた奴がいたな。確か葛城か。彼が入ってくれればそこから何か聞けたりするかもしれないが。

 

「お疲れ様。3日で良く集めたな。命じておいてあれだが、どうやった」

「教室を観察して、その3人と仲良さそうにしてる人をピックアップして、1人になったタイミングで3人を持ち上げながら『憧れてて~』とか適当に言ったらペラペラ喋ってくれた」

「素晴らしい。お前のその純情少女の演技は抱腹絶倒ものだがそれはともかく方法としてはベストだ。では、次の指令まで待機しておいてくれ」

「はぁ……人使いが荒いわね」

「報酬は1人当たり1000ポイントで3000ポイントだ。この前のも合わせて1万も支払う羽目になったぞ、まったく。無駄遣いしてないだろうな」

「今73000残ってる。あんたからの送金は別口座作れるみたいだからそっちに放りこんだ」

「生活費で無料品以外も買うとそんなもんか」

「逆に今いくら残ってるの」

「90000だ。お前への送金以外に使ってないからな」

「霞でも食べてんの?」

「真澄と霞って似てるな」

「…………帰る」

「はい、おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 翌日。善は急げだ。早速情報のエビデンスをとろう。色々考えて聞くべき相手を選択した。副会長は止めた方が良い。個人的に好きだ嫌いではなく、どうも危険な香りがする。それに、野心家の革新派とか役満じゃないか。クーデターとか起こして短命政権作るタイプだ。自信過剰は中高生にありがちな行為だが、一歩間違えればただイキってるだけになりかねない。まぁ無能では無いから2年生の統率が執れるんだろうが。

 

 そうは言っても危険だ。なので、安全そうな奴を攻める。堀北学と橘茜。私の請け負ってる仕事としては堀北学に接触した方がその実力を測れて良いのだが……やや危険だ。最高とまで謳われるのだからよっぽどなのだろう。何をされる、もしくは要求されるか分かったもんじゃない。怖いのでパスだ。なので、橘茜。彼女から攻めよう。無能では無いだろうが、それでも会長よりかはマシだろうし、基本は善人だと言うのが私の部下(神室真澄)の調べだった。

 

 3年Aクラスに所属しているのは知っているが行動パターンまでは把握していない。が、私はついている。運がいいようだ。1人で歩いているところを発見した。手には多くの書類。向かう先は恐らく職員室だ。いかにも人が良い後輩を装って近づく。

 

「失礼、大丈夫ですか」

「あ、邪魔でしたか?」

「いえ、お荷物が多そうでしたので。良ければ半分お持ちします」

「すみません、お願いします」

 

 よっぽど重かったのだろう、すぐに彼女はそれを手放した。女子に持たせるなよ、3年生の教員。何考えてるんだろうかと思いながら、職員室に辿り着き、任務を終える。本番はここからだ。取り敢えず現在の彼女の中での私は荷物運びを手伝ってくれた後輩だ。これで悪印象を抱かれている可能性は少ないだろう。

 

「ありがとうございました」

「お役に立てたのならばよかったです」

「1年生……ですよね?」

「これは申し遅れました。1年Aクラスの諸葛孔明と申します。以後お見知りおきを。3年Aクラスの橘茜先輩でよろしい、ですよね?」

「はい。良く知っていますね」

「生徒会でご活躍されていらっしゃる優秀な先輩方ですから。参考にしたいと思っていますので」

「そ、そうですか」

 

 口角を上げて好青年風を演出する。大分心を開いてきている。少なくとも初対面の人から親切な後輩くらいにはランクアップしただろう。

 

「それにしても当代の生徒会長はとても素晴らしい方だとか。入学式で拝見しましたが、威風堂々としておられたように思います」

「よく分かってますね! 堀北会長はとても優秀な方なんです。特に…………」

 

 そこからはしばらくマシンガントークで紡がれる会長素晴らしいストーリーに相槌を打つ。ここで敢えて聞き役に徹する事が大事だ。概ね女子は意見ではなく共感を欲している。相槌で相手の話に興味を継続して持っているように見せて、共感してますよというアピールもしておく。5~6分して我に返ったようだった。

 

「ご、ごめんなさい、長々と付き合わせてしまいました」

「いえいえ。大変興味深いお話でした」

「これから困ったことがあったらいつでも生徒会や私にでもいいので相談して下さい!」

「ありがとうございます。優秀な先輩のお力をお借りできればありがたいです」

「この学校は大変な事も多いかもしれませんが、頑張って下さいね」

「はい。取り敢えず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 会話の途中にいきなりぶち込んだワードに、彼女は途端にギョッとしたような顔をする。いきなり挙動が不審になり、目が泳いでいる。判断に迷っているのだろう。だが、取り敢えずここで話すのは危険だと判断したようだ。

 

「ごめんなさい、少し聞きたいことがあるので着いてきてくれませんか?」

「はい。構いませんよ」

 

 連れてこられたのは小さな会議室。どうやら内々に処理することに決めたようだ。もしくは会長に報告するべき案件か判断する為かもしれない。

 

「どうして君がそれを知ってるんですか? まだ4月なので1年生には……」

「隠さないんですね」

「もう知ってしまった人に隠しても、あんまり意味はないと思うので」

「まぁその通りですね。知った経緯は偶然です。あくまで偶然。それに、私もその全容を掴んでいるわけではありません。あくまで断片からの推測でしかないのです」

「私に声をかけたのも、その推測を確かめるためですか」

「そういう目的があったのは否定しません。しかし、お助けしたのは純粋に手助けしたいと思ったからです。他意はありません」

 

 それを聞いて少しホッとしたような顔をしていた。全て利用されていたと思うのは嫌だろう。だからこそ、彼女が感謝の感情を持った私の行動は善意によるものだと言う事で、少し気が楽になる。誰かに動かされるのを人は嫌う生き物だからな。しかし、この反応で彼女が善人と呼ばれる理由が垣間見える。

 

「あくまで私の推論ですが聞いて頂きたい。まず、この学校には我々の貰えるポイントの他にクラスポイントと呼ばれるポイントが存在している。そしてクラスポイントは我々が貰えるポイントの額面に直結している。そして、クラスポイントによってはクラスの上下もあり得る。なので、10万ポイントを毎月貰えるとは限らず、逆にそれ以上になる事もある。最後に、個人の行動はクラスのポイントに影響して、それによって貰えるポイントも左右される。どうでしょうか」

「それを全て、断片から拾い集めて推理したんですか?」

「まぁ、割と直接的な事を漏らしている人がいまして。おおよそ教えないように緘口令でも出てるんでしょうが、愚痴までは止められないものですね。運よく聞けたのは幸運でしたが」

 

 考え込む仕草をしている先輩。彼女の反応からおおよそ私の推論は正解であると読み取れたが、それでも確証が欲しいところだった。これで撤退しても良いのだが折角だ。もう少し様子を見よう。

 

「……この学校のシステムについて上級生は5月になるまで積極的に教えないように、と言う緘口令は出ています。しかし、これには例外があります。もし、下級生が4月中にシステムについて看破した場合、それを肯定ないし否定することは許可されています。つまり、推論を考えた後輩がその解答を聞いてきたら正解か不正解か言えると言う事ですね。今までこのルールが適用されたことは殆どありませんでした」

「と、仰って下さるということは?」

「はい。諸葛君の推論で正解です。なお、私たちの貰えるポイント、通常ではプライベートポイント(pp)と言いますがこれはクラスポイントに100をかけた数字です」

「では1年生には最初に1000クラスポイントが与えられていた。そして4月中の生活態度でその値は変化する、と」

「その通りです。もっとも増えたことは今まで一度もありませんが」

「なるほど。しかし、そこまで教えてよろしいのですか?」

「システムを見抜いたご褒美……みたいなものです」

「ご厚意ありがとうございます。この情報を他言することは許可されますか?」

「……私もあまり詳しくはありません。なにせこのルールが適用されたのが10年単位で前なんです。ですが恐らく他言を禁止する権利は学校にも発生しないかと。確認に来た場合のみ発動するルールですので、例えば諸葛君が私に尋ねずにクラスや学年に公表した場合は咎められませんので」

 

 それは正直助かった。他言無用とか言われたら死んでいた。破ると最悪退学になりかねない。学校を敵に回すのは現段階では危険すぎる。

 

「お時間いただきありがとうございました。もしよろしければ連絡先をお教え願えないでしょうか」

「構いませんが、何に使うんですか?」

「今後も何かありましたら相談させて頂きたく思っています。橘先輩なら、後輩に優しく寄り添って下さると思ったので」

「こちらが私の連絡先です。……諸葛君は優秀ですが、そんな優秀な人も苦戦を強いられることがあります。一人では解決できない事や不平等や理不尽に苦しむこともあるかもしれません。でも、この学校は大変だと思いますが有意義な体験も沢山出来ると思いますので、頑張って下さい」

「ありがとうございます」

「それでは私は失礼しますね」

 

 そう言って先輩は去って行く。どうもこの学校にはまだまだ隠されたルールが沢山存在していそうだ。公開されていないのには理由があるのだろう。それを早く導けるかが鍵だ。やはり情報は命。そして彼女は1つ間違いを言った。この世界は、もっと言えばこの学校にスケールダウンしても、不平等などではない。人はみんな()()()()()という点で平等だ。なら、それで十分ではないか。貧困は是正されるべきだが、格差は当然存在していなくてはおかしい概念だ。人が2人以上集まって社会を作るのだから差が出るのは当然だ。それを無くそうとすると原始共産主義に辿り着くだろう。

 

 ともあれ、情報はこれでその正しさが証明された。後は、それを効果的に開示するだけである。ふぅ……と息を吐きだす。そして吸い込んだ空気に、かつて身にまとった硝煙の匂いがした気がした。




<報告>
 前回報告のcpについての情報が確定。クラスに与えられる評価値であり、我々に配られるポイント(以後プライベートポイント、ppと呼称)はその値に×100をした額となる。cpは生徒の成績、生活態度などに応じて上下する。3年生の生徒会書記から得た情報なので、信憑性は高い。嘘を吐かれてるリスクが低い。なお、録音データもあるので、万が一偽りだった場合それをもとに交渉を優位に進められると思われる。
 また、会話中の激励で『一人では解決できない事』と言うワードが出てきた。今後、クラス対抗で物事を進める際に他者=クラスメイトとの協力が必須であると言う意味か。隠されているルール・法則・システムも多いと推察できる。要注意の後、観察を継続する。
 支援物資感謝する。

<要求>

 坂柳有栖の情報はまだ時間がかかるか、進捗状況をお教え願う。
 
<返答>
 繰り返すがその書記に絆されたが故の情報漏洩には最大限の注意を。要求に関してはやはり隠匿されている情報多し。これ以上となると時間と資金がよりかかるが、それでも続行するか。葛城康平に関しては揃った為送る。

<Re.返答>
 確かに受け取った。坂柳有栖の件は一旦切り上げ、現状分だけでも送られたし。また、橘茜の情報に調査対象を切り替える事を望む。

<Re:RE.返答>
 承知した。こちらも1週間以上は待たれたし。
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