『サルスティウス』
新年を迎え、Bクラスには大きな激震が起こっていた。南雲雅による改革の発表もそうではあるが、それよりもずっと大きい激震である。それはすなわち、軽井沢恵によるAクラスとの交渉結果であった。
「ちょっと、いい?」
軽井沢は明日の用意をするように伝えた茶柱が去った後立ち上がる。クラスは自由化改革の影響の話で盛り上がっていた。SNSの半ば自由化やインターネット関連の改革は、正しく使えば大きな利点になる。知名度のある芸能人を抱えているBクラスにとって、これは本来アドバンテージとなるはずだった。しかし、それを知っている生徒は数少ない。
そして、何よりもインターネットという時間浪費装置は、元々怠け癖の多い人物を抱えるこのクラスにはまさに甘美な毒だった。堀北はそれを認識して苦い顔をしたままになっている。池や山内など、多くの生徒が浮かれているが、彼女からすればそれは呆けているように見えてならない。
「なんだよー軽井沢」
「大事な話があるから」
いきなり出てきた軽井沢にヤジを飛ばす声を無視して、彼女は前に立った。綾小路は堀北を隠れ蓑にしていたが、Aクラスとの間に大きなカードを持っている彼女にも同じような価値を感じ始めている。
「去年、堀北さんが言ってたAクラスがDクラスを吸収しようとしてるっていうのは、合ってるって分かった。それで、色々あったんだけど、結果だけ言うと私たちもこれに参加できる……かもしれない」
「待って、それはどういう事? どうしてそんな話になっているの」
「堀北さんが知りたい気持ちはわかるけど、それは言わない約束になってる。ただ、クラスに損があることはしてないし、当然裏切ったりもしてない。今回の改革、生徒会長が主導でやってるけど、会長が言ってた有志って言うのはAクラスの生徒で、その改革に私がちょっと協力した。その見返りに貰ったのがこの話」
自分の全くあずかり知らないところで何か大きな事が動いていた。そして自分は間違いなく蚊帳の外にある。堀北はそれを認識し、隣席の綾小路に問い詰める視線を送る。綾小路はそれを理解しながら、無視した。
「かもしれないっていうのはどういう事かな、軽井沢さん」
「まだちゃんと分からないから。Aクラスが優先してるのはDクラスで、私たちはおまけというか追加なの。それに、全員行けるわけじゃない。向こうが自分のクラスに入れても良いと思える人しか、参加できない」
「それはつまり……」
「行ける人と、行けない人がいるってこと」
平田の言葉に応えた軽井沢の発言により、Bクラスは一気に騒がしくなる。クラス全員が参加できるわけじゃない。本当にAクラスへ行けるのかも分からないが、行けたとしてもごく少数だけ。それは昨年堀北が告げた、個々人が勝手にするという案の内容と合致している。
唖然とした顔をしている堀北。彼女は自分で各々どうするのか考えて欲しいとは言ったモノの、一気にそこまで話が進むだろうとは思ってもいなかった。
「堀北さんがよく考えてって言ったように、私も考えて行動した」
「お、おい待てよ。前の堀北の話の通りなら、平田とか櫛田ちゃんみたいな子だけが行ける可能性があるんだろ?」
「多分ね」
「じゃあお前はどーなんだよ!」
「私は行けるわよ、そりゃ。もちろんその時まで私がこの学校にいればだけど。私が勝ち取って来たのに、なんで私が行けないのよ。これでも身体張って色々やったんだから。ずるいとか言わないでよね」
「うっ……」
これから言おうとしていた事に釘を刺されて、山内が口ごもる。クラスの中で比較的上層にいる生徒は、これにより本格的に自己研鑽と内通が現実味を帯びてくる。今から役に立つことを示せれば、或いはDクラスの生徒より優先して引き抜いてくれるかもしれない。そういう選択肢が目の前に大きくチラついていた。
とは言え、同時にこれはBクラスのチャンスでもあった。ここで団結し、全員で高め合う姿勢を見せるという選択肢もある。また、このままでは多くが対象とならないままなのだからというロジックで、成績の悪い生徒のやる気を引き出すことも出来る。しかしその考えにはまだ誰も至らない。
BクラスとAクラスの差は圧倒的だ。それでも、Bクラスがcpを持ってその位置にいる限り、Aクラスを脅かす存在であることに変わりはない。諸葛孔明が軽井沢の提案を受けたのは、メリットを提示しとにかく一刻も早く国賠償の訴状を出すためでもあり、こういう風にBクラスを混乱させ分断させることも出来る、と考えたからという理由もあった。
「あなた、これを知っていたの?」
「いや、全く知らなかった。軽井沢も随分と上手く動くんだな」
綾小路は堀北の追求にしれっと嘘を吐く。綾小路と軽井沢のつながりを、堀北は当然知りもしない。特別試験を前に、Bクラスは軋んだ音を奏でていた。
始業式の翌日、全学年が一斉に移動を開始した。12台のバスに乗り込み、出発すると説明されている。教師陣は最初は五十音順で座らせようとしていたが、山道を行くという話だったので乗り物酔いしやすい人の配置を優先させるように変更した。その後バスの席決めという修学旅行あるあるをやって、今に至る。
男女も分けようとしていた学校に抵抗した私はクラスの男子からある種のヒーローのような目線を向けられた。女子は苦笑していたが、嫌がっていた感じは無いので良いだろう。この行動の動機に自分の個人的な欲望が存在していることは否定しない。
現在、バスはどことも知れぬ山道――まぁ普通に長野県方面に行ってるので信越辺りが目的地なのだろうが――を走っている。十中八九特別試験であろうとは察しがついているのか、皆特に緊張している様子がない。負けても問題ない位置に居る以上、そこまで不安にはならないのだろう。それに彼らにも私の庇護のもととは言え、勝ってきた自信がある。
「お菓子食べる?」
「食べる」
「どうぞ……七割持っていくのかぁ」
「ダメ?」
「許します」
「ありがと」
その顔は反則だろうと思いながら、視線を横に向ける。普段は静かに大人しく生活している真澄さんだけれど、私には結構ワガママを言ってくる事が多い。それは彼女なりの親愛であり、心を許してくれている事の証なのだろう。出発した時間が早かったせいか、まだ東京付近を走っている頃は私の肩に寄りかかって寝ていた。寝顔は随分とあどけなかったのを思い出す。
通路を挟んで反対側に座っている坂柳の顔が死んでいた。
「大丈夫ですか、坂柳さん。酔いましたか?」
「いえまぁ、色々と……」
「自分で砂糖の海に突き落としておいてその心配とは、随分とサディスティックな行いですね諸葛孔明」
「そんなつもりはないのですが、森下さん」
「そうでしたか。まぁ坂柳有栖が人よりもこの手の話に耐性が無いだけだとも思いますが」
坂柳を庇っているようで実は結構酷い事を言っている。坂柳の不可侵性が剥がれている事の結果であるとも言えるし、森下さん個人の性格に依拠するとも言えるだろう。やはり、この二人をコンビにして動画を作るのがよさそうだ。坂柳を主にしつつ、時々ゲストキャラとして出すのが需要と供給を考えれば理想だと思う。
トンネルを抜けた先で先生が立ち上がり、添乗員よろしくマイクを持った。観光案内でもしてくれるのだろうか。勿論そんな訳はないと知っているけれど、そうであって欲しかった自分がいる。
「これから君たちも薄々察しがついているとは思うが、特別試験の説明を行う。傾注するように」
資料をさっさと配りながら話が始まった。
「資料は行き渡ったな。……では始める。この後、我々はとある山中の林間学校へ到着する。部活に所属している生徒を除けば、普段の学校生活では上級生と触れ合う機会は少ないだろうが、今回の特別試験は学年の垣根を超えての集団行動を7泊8日の日程で行う。特別試験の名称は『混合合宿』というが……まぁ君たちに言わせれば名称はあまり興味がないだろう。一定期間学校外での生活となるが、流石に無人島ほど厳しいものではない。水も食料も、勿論寝床もしっかり用意されている」
流石に年度内に数回もあの規模の訓練……ではなく試験は出来ないか。外での生活は慣れているので別に苦では無かったけれど、面倒ではあるので助かる。
資料をパラパラとめくって脳内に叩き込む。部屋の写真や大浴場、食堂などが載っている。旅のしおりみたいで楽しい。特別試験についての文言もあるが、砂漠に放り出されるよりは全然楽なのでむしろ追加スパイスと化している。こういうイベントは個人的に好むところである。とは言え、生徒の行動などについても考えないといけないのだが。
「なお、資料は下車時に回収される。それまでに目を通しておきなさい。また、説明が早く終われば終わるほど、残された
コミュニケーション能力、大事なことだ。……真澄さん大丈夫かな? 最近では女子の友達もいるようだが、元々はあまりコミュニケーション能力は高くないので心配だ。私は自信がある分野と言っても過言ではない。相手の求める事を推察して動けば、大体は嫌われない。簡単な事だ。
「目的地に辿り着き次第男女別に分かれ、お前達には学年全体で話し合い6つの小グループを作ってもらう。なお詳しい内容は5ページに記載しているので、しっかりと目を通しておくように」
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<人数規定>
・1つのグループを形成する上で、その人数には上限と下限が定められている。その人数は学年及び男女を分けた総人数より算出される。
同一学年の生徒が、
①60人以上の場合……8人から13人
➁70人以上の場合……9人から14人
③80人以上の場合……10人から15人
・最低でも『2クラス以上の混合』が必須である。どのクラスから何人ずつ集まっても構わないが、絶対ルールとしてクラス構成は2以上が必要である。そして、グループ結成は話し合いにより満場一致の、反対者のいないものでなければならない。
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我々の場合は退学者がいないので80人以上の場合となる。1グループに最低10人となると、結構な大所帯になる気がする。問題なのは他クラスと組んでの物であること。体育祭の時以来だが、あの時は龍園とだけ協力すればよかった。しかし、今回は全然知らない誰かと共に過ごさねばならない。人によってはそのストレスは結構なものになるのではないか。
Dクラスと組めば大体の問題は解決するが、しかしそう簡単にはいかないと思う。
「特別試験の結果は林間学校最終日に行われるテストによって決められる。内容は資料に記載してあるのでチェックしておけ」
道徳、精神鍛錬、規律、主体性の4つを試験するらしい。……道徳? 私に無いものだ。チラリと隣を見れば目があった。同じことを考えてるらしい。思えば道徳の無い2人組だ。普通に酷いカップルである。
「6つの小グループは一心同体で、いかなる理由であっても脱退及びメンバーの入れ替えは不可能だ。もし仮に途中リタイアする生徒が出れば、グループ全員でその穴埋めを行い1週間を乗り切らなければならない。小グループは今回の試験期間限定の臨時のグループだが、様々なことで共同生活をすることになるだろう。授業を一緒に受けるだけではない。炊事、洗濯、清掃、入浴、就寝。すべてがそのグループとして行動する。当然、連帯責任も伴う」
まぁ要するに軍の訓練学校みたいなもんだろう。
「そして、1年生の中で6つの小グループを作り終えたら、同じく6つの小グループを作った上級生と合流し、最終的に1~3年からなる6つの大グループが出来上がるというシステムだ」
コミュニケーション能力を重視すると謳うだけあり、かなりコミュニケーションが大事な要素になってくるのは疑う余地も無いだろう。この学校の特別試験は微妙にピントがズレていると思ってはいたが、今回は割としっかりしているように思う。大事なことだけれどあまり積極的には磨きにくい技能を磨ける場所を用意しようというのだから。こういうのは強制的にやらざるを得ない状況にした方がかえって良かったりもする。
「肝心の試験結果は、大グループのメンバー全員の『平均点』で評価される。そして1~3位の大グループには生徒全員にプライベートポイントが支給され、クラスポイントが与えられる。逆に4位~最下位になった場合はペナルティを課されるが、詳しい内容は資料に記載してある。見ればわかると思うがあながち少数精鋭がいいとも限らない訳だ」
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<ポイント表>
1位…各員にそれぞれpp1万、cp3
2位…各員にそれぞれpp5000、cp2
3位…各員にそれぞれpp3000、cp1
4位…各員からpp-5000、cp-2
5位…各員からpp-1万、cp-3
6位…各員からpp-2万、cp-5
・仮にポイントがマイナスになる場合、累積赤字として記録される
<報酬倍率>
小グループごとに計算。
2クラス構成……1.0倍
3クラス構成……2.0倍
4クラス構成……3.0倍
09人構成……0.9倍
10人構成……1.0倍
11人構成……1.1倍
12人構成……1.2倍
13人構成……1.3倍
14人構成……1.4倍
15人構成……1.5倍
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「見てわかるように、報酬が最大となる理想値は『4クラス構成』『15人構成』を両方満たした上で、その小グループで自クラスが最大人数となる12人にすることだが……ただし、順位が低かった場合のマイナスも同じく報酬倍率によって変動するので注意が必要になってくる」
12人が同じクラスであり、そこに他クラスから1人ずつで構成された小グループが、1位になった場合は168ポイント。それが理論上の最高の数値となるだろう。これを目指すのはなかなか難しいだろうが、妥協するべきかと言われれば難しい。金策を必死にやらざるを得ない現状、出来る限り最善を目指したいところではある。
「また、最下位になった大グループにはペナルティとして退学措置が取られる。しかし退学になるのは最下位かつ学校側の用意したボーダーラインを、小グループの平均が下回ってしまった場合に限る。そしてボーダーを下回った場合、小グループの『責任者』は退学となる。ちなみに責任者は予め小グループ内で話し合って選任してもらう事になる。また退学になった責任者は、グループ内の人物1人を連帯責任として退学を命じることができる。わざと赤点を取ったり試験をボイコットしたりなど、平均点のボーダーを下回った原因の一因であると学校側から認められた生徒のみに限るがな」
これは上手くやれば、排除したい人物を孤立させて退学へ追い込むこともできる。小グループの構成メンバーを上手く調整すれば、十分に可能だろう。リーダーを救済できる資金力が存在するクラスであれば、これは容易に可能である。そしてそれが出来るのは現状二年生の南雲だけ。彼にとっては随分と望ましい試験だ。
一応ウチのクラスにもこれが出来ないわけではない。大方の資金は徴収しているが、まだ生徒の手元に残っているモノを供出してもらえれば可能ではある。尤も、それをするメリットなど何も存在していないけれど。
「責任者を務める生徒のクラスのグループ報酬はさらに2倍されると言うメリットもある。慎重にリスクとリターンを考える事だ。そしてもう一つ重要なことだが、退学者を出してしまったクラスには相応のペナルティが課される。内容は常に変化するが、今回の試験では退学者1人につきクラスポイントが100ポイント減少することになる。救済にはいつも通り300クラスポイントと2000万ポイントが必要だ」
他クラスがどう動くのかは分からないが、それ次第ではあるけれど責任者をなるべくAかDの人間が務められるように、同時に上位に入れるようにしたい。龍園という頭を失ったⅭクラスが何を考えているのか分からないが、Bクラスは軽井沢を経由して蒔いた種が芽吹いている事だろう。彼女の善意がクラスの団結を引き裂くことは容易に想像できる。
「説明は以上だ。目的地までもうあと1時間ほどだが、この時間をどう使うのかは自由だ。先程言った通り資料は到着後に回収する。それから携帯電話は1週間使用禁止、同じく後ほど回収する。私物の持ち込みは食料品を除いて持ち込み自由だ」
携帯が使える間にやれることをしておく必要がありそうだ。しかし携帯没収は面倒くさい。連絡を取るのがかなり難しくなった。なんとか工夫してやっていくほかないだろう。マイクを貸して貰い、指示を出す準備をする。と言っても他クラスがどう動くかはまだ未知数なところが多い。
コミュ力の低い綾小路は恐らく自分がこの試験でほぼ役に立たないと自覚しているだろう。勿論やるべきことはそつなくこなせるだろうが。だがしかし、勝つための戦略を打ってくる可能性も高い。なかなか判断が難しいところだ。だが大事なのは無事にやり過ごすこと。あくまでも生徒の安全第一が優先であり、勝ちに行くことの優先順位は二番手以下になる。
「では皆さん、これより作戦説明に……と行きたいのですが今回は女子に関しては私が監督できません。思う通りに進まない事も多いでしょうから、女子に関しては別の方に指示をお願いすることになるでしょう。主にグループ分けに関して、ではありますが」
「私に、やらせては頂けないでしょうか」
先ほどまでグロッキーな顔をしていた坂柳が、シャキッとした顔で手を挙げる。どうやら精神的に参っていただけで、身体自体は元気だったようだ。彼女の指揮能力に関してはあまり疑ってはいないものの、実力がどの程度なのか分からない部分もある。交渉事などはそれなりにそつなくこなしてくれるとは思うけれど、それとリーダーとして集団をまとめる能力は別のモノだ。
ここで彼女に任せない選択肢もある。その場合、真澄さんにぶん投げることになるだろう。それでもちゃんとこなしてくれるとは思う。しかし、ここで坂柳に任せないという選択肢をすると、折角協力的である坂柳の態度が敵対的になる可能性もある。生徒を信じて任せてみる、というのも大事な事だろうと思い、彼女に任せることにした。
「分かりました。では、女子の方は坂柳さんを中心にして団結して物事に取り組んでください。真澄さんは補佐を」
「了解」
「両名とも、よろしくお願いします。先生、男女別という事でしたが、どこまで別なのでしょうか」
「基本的には寝床など全て分かれている。しかし、毎日一回だけ食事の際に同じ空間にいることが可能だ。その際、学校は介入しない」
「ありがとうございます。何かあれば、その時に即座に私に伝えてください。対応を考えます」
一之瀬から連絡が飛んでくる。彼女の方も他クラスの動きを見ながら臨機応変に動くことにしたらしい。女子の方は坂柳の運動能力に不安があるし、真澄さんのコミュニケーション能力にも若干の不安があるが、一之瀬がいれば上手くフォローしてくれるだろう。そこはかなりの安心材料だった。
男子の方も神崎と私と葛城とで上手く協力してグループ作成に取り組んでいけば問題ないはずだ。
携帯を没収されバスから降りれば寒い風が吹き寄せてくる。雪山に囲まれている森の中にその宿泊所はあった。物語ではこういう閉鎖空間で殺人事件や怪奇現象が発生すると相場が決まっている。そのどちらも無い事を祈っていよう。
「それでは女子の方はお任せしました」
「まぁ、ボチボチやるわ」
「……」
「坂柳さん、大丈夫ですか?」
「いえ、大丈夫です。……ここ、ちょっと気分悪くなりませんか?」
「そうですか? まぁバスの中との寒暖差がありますからね。無理はしないでください」
真澄さんが心配そうな目で坂柳を見つめている。彼女の調子がイマイチ奮わないのは単純な乗り物酔いか、寒暖差によるものか、或いはもっとそれ以外の通常では感知できない存在によるものなのか。山は古来より異界として扱われて来た。その世界の中にいる以上、都市部よりも
ともあれ、試験の方は問題なく出来るとの本人の談だったので、真澄さんと一之瀬に後事を託す。少し気分が悪くなる程度で、我慢は出来る範囲だそうだ。ここからは男女別行動となる。男子で並んでいる時に、葛城が話しかけてきた。
「諸葛、提案があるのだが良いか」
「どうしましたか、葛城君」
「今回のグループ構造だが、出来る限り最大ポイントを狙いに行きたい」
「ですね。金策において、我々には猶予などありませんから。今のところ他クラスの動きを観察しようと考えています」
「だがそれでは主導権を握れない可能性があるだろう?」
「確かにそうですね」
「そこでだ。先んじて俺たちでグループ分けを提案する」
「なるほど……」
先んじてこちらが提案を行うことで、他クラスに主導権を握らせない魂胆だろう。非常に良い行動だと思う。私はあまり行動の読めない状況で動くのは好きではないけれど、少し守りに入り過ぎていたかもしれない。葛城も成長している。生徒に教えられることもあるのがこの仕事の面白いところでもあった。
「Bクラスは平田、Cクラスは金田辺りが代表となるだろう。うるさ型の龍園が沈黙している今は最大のチャンスだ。これを活かして、15人の4クラス構成グループで上位独占を図りたい。Aクラスの12人に他クラスから1人ずつの15人、Dクラスの12人に他クラスとAクラスから1人ずつの15人グループを中核にする。これで1位と2位を独占するつもりだ」
「AとDの残りはどうしますか」
「13人を組んで、そこにBとCから1人ずつの15人、残りは他クラスの方が人数の多いグループに入れても構わない人物を選抜する。これでどうだろうか」
悪くないアイデアだ。AとDが組んでいるからこそ出来る戦略である。Dクラスの獲得した報酬の内、cpは全部こちらへと入って来る。
「しかし、BクラスとCクラスは抵抗してくる可能性がありますよ? なにせ、こちらの狙いは明白なのですから」
「それは当然承知の上だ。しかし、両クラスは資金面と実力面で問題を抱えている。ポイントを得るチャンスを逃したくはないだろうし、僅かだが他クラスにも利益分配はある。そして、1人ずつ受け入れる生徒はどんな成績でも巻き添え退学にはさせないと約束する。そうすればどこのクラスも成績不安の人間を送りたいと思うだろう。特にBクラスは棚ぼた的にBクラスになっただけで、実態が伴っていない。退学の可能性のある生徒はこぞって志願する。もしくはしたいと思う。それを押しとどめるのは神崎や龍園のいないDクラス、それに平田などでは難しいだろうと考えた。加えて言えば、退学者の分のcpは彼らには痛すぎる」
「なるほど、そこまで考えているのであればよいでしょう。今回の指揮は君が執って下さい。任せます。ただし、責任者もやる事。よろしいですね?」
「俺に任せるので構わないのか?」
「ええもちろん。まとめ役は私がやりますが、グループのリーダーはあなたがやるのが良いでしょう」
攻撃的な保守が出来るようになっている。この戦略はかなりいいものだし、リスクについても考えられている。こちらが狙いたいモノを狙いに行くことが出来るし、同時に他クラスが抵抗しようとしてもそれを封じる条件もちゃんと持っていた。Bクラスは烏合の衆であるから、平田の言う通りに動いてくれるわけがない。Cクラスも龍園がいないと首の取れた蛇の如くのたうち回る以外は大した脅威ではないだろう。各生徒が自分の欲望を満たすために行動してくれれば、葛城の案はすぐに通る。
特に自信の無い生徒は何としても退学したくないはずだ。口では否定するかも知れないが、巻き添え退学の指名に自分が使われる可能性を把握していると思う。それを回避できる手段を与えれば、飛びつくはずだ。加えて言えば、クラスのリーダー格もcpマイナスを防ぐためにこの案には乗りたいと考えるだろう。
一番問題のある面子を送り込んでくる可能性は高いが、人数的にはAD連合の方が圧倒的に数が多い。資金を得られるチャンスを逃すわけにはいかない。ここで葛城の計画通りに進めば、1位グループで175cp、2位グループで117cp、3位グループで54cpを得られる計算だ。残りの2名のグループが4位ならマイナスになるcpは4。合計で男子だけで342cpが手に入る。これは貴重なチャンスだった。