『バーナード・ショー』
学校側の準備が出来たようで、壇上に立った先生から指示が下される。
「ではこれより小グループを組むための場と時間を設ける。学年別で話し合い全部で6つのグループを作るように。大グループの作成は午後8時から行うことになっている。ちなみにだが、大小問わずグループの作成において、我々学校側が関知することは一切無いと補足しておく」
これを合図に各クラスがまとまる動きを見せた。我がクラスも私を中心にまとまりを見せる。神崎率いるDクラスの男子も、私のところへ集合した。総勢39名が私の指示を待っている。
「まず、先ほど葛城君が大変いい提案をしてくれました。それを採用することとし、今回の試験に関しては彼に任せる事にします。皆さん、しっかり指示に従ってください。それではお願いします」
「ああ。今回諸葛に指揮権を移譲して貰った。早速指示を出す。まずはこれから名前を呼ぶメンバーで1つに固まってくれ。その他はまたその時話す」
葛城の指示によりAD連合から選抜された13人の集団が出来上がった。Aクラスのメンバーが12人。そこにDクラスの1人が加わった形だ。このグループの中に私と葛城も存在している。1位を獲るべく構成されたグループなので、出し惜しみはしていない。
「次に同じようにもう一個13人の集団を作成する」
そしてまた13人の集団が出来る。今度はDクラスのメンバーが12人、Aクラスのメンバーが1人だ。これでAクラスの残りは8人、Dクラスの残りは6人だ。そして、このメンバーもAクラスの一人を除いて13人が形成された。その一人にはどこでもやっていけるであろう橋本が選ばれている。その動きに他クラスが注目する中、葛城は大きな声を出した。
「見ての通り俺達AクラスとDクラスは、この13人×3つの小グループを組む。BクラスとCクラスからあと1人ずつ加わればどのグループも規定を満たすので、加入希望者を募集する! だがそれだけでは不満も出るだろう。これより5分だけ時間を設ける。その際に此処に加入した生徒は何があっても道連れの退学にさせないと誓おう。無論、故意に点数を下げない場合においてのみではあるが。そしてこの橋本はどんな配置になっても文句は言わない方針だ」
ざわめきが場を支配する。その間、突っかかってくる者もいるが葛城は全てドンと構えて無視していた。次第に流れはAクラスの主張に従った方が良いというものに変わっていく。それはそうだ。誰だって退学したくはない。そこに現れた安全圏。ここへ入りたいと主張する者も多いだろう。BとCは元々の生徒層に不安があるため、一層その傾向が強いように思えた。
Aクラスが民主制なのは知られている話だ。なので、私以外が指揮を執っていたとしても不思議には思われない。しかも葛城は事実上のナンバーツーである。であれば不自然さは無いだろう。最終的には平田、金田が話し合いで希望者を募り、抽選でこちらへ来ることになる。こちらが構成した3つのグループに1人ずつ、各クラスから3人がやって来た。
じゃんけんの結果、私のいるグループにはBクラスの山内という生徒がこちらに加入することになった。私は良く知らない相手だが、まぁここに来るのを希望したという事はさして成績が良くないのだろう。こうしてまず1つ出来上がる。私はこの面子の中で多少は葛城に任せてのんびりできるはずだ。橋本の代わりに行っても良かったが、橋本の方が他クラスに顔が広いだろうから任せている。加えて言えば、彼の繋がりを増やすことで、私の外交チャンネル増加に役立つかもしれない。
「これで残った我々が好きにグループを作れるわけですか……。折角橋本氏がいるのです。勝利を目指せるようなグループを1つ作成しませんか?」
「確かに、少しでも多くのポイントを得るには必要なことだね。それには反対しないよ」
金田の提案に平田は同意している。綾小路は顔が半分死んでいた。いや、いつも死んでいるのだがいつも以上に死んでいる。あまりこういうコミュ力が問われる試験はしたくないのだろう。それに、彼個人の心情を除いても、彼はBクラスの男子から殆ど戦力として見られていないことも知っている。だからこそ、あまりこういう場でイニシアティブをとれない。まず何より退学させないこと、しないことが大事なのがBクラスにとっては大事なことになる。その為にはAクラスの方針に意を唱えない事を選んだのだと推測できた。
それに、綾小路に関してはまだそこまで多くの生徒に知られているわけではない。この場での主導権は握りにくいものがある。
「7人を自クラスから出し、そこに橋本氏を埋め込むという形でどうでしょう」
「1回それで組んでみようか。問題があればすぐに解散して修正すればいい話だからね」
BとCの両クラス首脳は話し合い、一旦グループ分けが行われる。そして、一応の仮と言う形でグループ番号1~4まで出来上がった。グループ1はAクラスが13人・Dクラスが1人・Bクラスが1人・Cクラスが1人。Cクラスの一人は時任という生徒は来ている。責任者は葛城だ。
グループ2はDクラスが12人でその他から1人ずつ、責任者は神崎。グループ3はAクラスが7人・Dクラスが6人・その他から1人ずつ、責任者は真田。
グループ4はBクラスが7人、Cクラスが7人でそこに橋本が加わる。責任者は金田。
残りは20人。その内訳はBとCが10人ずつだ。この余り物たちで2つグループを組むことになる。
問題は龍園をどこに入れるかであり、それで凄い揉めていた。これ、結構本人のメンタル的に厳しいものがあるのでは……と思う。まぁ龍園がそんな程度でへこたれるような人間には見えないが。揉めに揉めたが引き受けてくれるグループが現れたため、龍園は引き取られていった。何だろう、修学旅行とかで嫌われている生徒が最後までたらい回しにされるアレに見える。
この試験で学校側が重んじるのは勿論コミュニケーション能力、そしてその向上だ。特別試験にあまり価値は感じないが、知らない人とのコミュニケーションは役立つのも事実ではある。荒療治、という意味では良いのかもしれない。しかし、同じクラスで固まることも可能なので、あまり意味をなさない可能性もあるが。
それに、ここで出来た人間関係が今後役に立つかもしれない。葛城が連合の13人で固まる事を提案した段階で、4クラス複合グループが出来る事はある程度予想できた。それが1番他クラスにしてみれば合理的な選択だからである。
私のいるグループは葛城を中心にしているので、問題なく1位を狙えるはずだ。Dクラスからは浜口が来ている。彼もDクラスでは優秀な存在。2クラスが組んでいるという状況は、場を動かすには非常にやりやすかった。
「大グループ分けまでにはまだ時間があります。どうですか、ここで一つ自己紹介をしては?」
「そうだな」
我々は便宜上グループ1という名前が付けられている。そのグループ1はAクラスが中心で構成されているため、アウェーであるBとCの二人には挨拶をしてもらわないと人となりが分からない。
「Cクラスの時任裕也だ。取り敢えず足を引っ張らないように努めるつもりでいる。よろしく頼む」
粗暴な人間が多いとされているCクラスの中では割とちゃんとした行動が出来るようだ。龍園とはあまり合わないタイプに思える。
「ありがとう。次に山内、頼めるか」
「おう! 俺は山内春樹。小学生の時は卓球で全国に、中学時代は野球部でエースで背番号は4番だった。けどインターハイで怪我をして今はリハビリ中だ。よろしくう」
「……」
葛城が困った顔をしている。どうしたものか考えているのだろう。インターハイのハイはハイスクールのハイであるはずだが。英語のInter-High School Championshipsから来ている名称だったはず。後、何で全国まで行ったのに野球に転向したのか。更には中学3年で仮に怪我したとして、体育祭では普通に動いていた記憶があるが、まだリハビリ中なのだろうか。
「インターハイって高校では……?」
「おいおいマジレスすんなよ~」
冗談、というのはニュアンスで理解は出来る。しかし、その冗談が全然面白くないのがポイントだ。ツッコミに対する反応もイマイチつまらない。普通の学校なら普通の生徒として終わりそうだが、どっちにしてもこの嘘は別にどこの学校でもウケないだろう。中二病的なモノなのかとも思ったが、それにしては設定がガバガバである。
闇に飲まれよ! 的な感じではないし、どういう理解をすればいいのか。自己を誇張して見せたがる性質、自己顕示欲というものなのかもしれない。
「ま、まぁ良いです。ようこそグループ1へ。1位になれるようにこれから頑張っていきましょう」
「俺の秘めたる力、期待してくれよな」
「はぁ……そうですか……」
秘めたる力とは何だろうか。零時迷子的な感じなのか。本当に何かしらの力があるのなら、Bクラスはとっくの昔に勝利していた事だろう。彼が一体どういう意思を持って行動しているのかは非常に気になるところである。
「あなたは何を目指して、この学校にいるんですか?」
「何をって言われてもなぁ。取り敢えず彼女が欲しいけど」
「将来的な事とかは、何か?」
「まだ分かんねぇなぁ、1年生だし」
最後の部分だけは普通の感性だと思う。確かに、この時期にやりたい事が決まっている人の方が少ない。この学校の触れ込み的には行きたいところにどこでも行ける事になっている。それならば、何も夢は無いけれど取り敢えず良い大学などへ。そういう考えを持っていてもおかしくはない。これに関しては私の質問が良くなかった。
「そうだそうだ! お前、彼女いるんだよな?」
「え、えぇいますけど……」
「どうやって作ればいいんだよ、教えてくれよ~」
「どうやって、と言われましても」
助けてくれと葛城に視線を送ったが、彼もどうしたモノか対応に迷っているようだった。真澄さんとの馴れ初めなんて絶対誰にも話せない案件だし、大分ろくでもない方法でお互いに関係を深めてきた。その方法論を説明したとて、再現性は全くないだろう。
そもそも、恋愛において他人のやり方というのは全くあてにならないと思う。ある程度の参考にはなるのかもしれないけれど、結局人と人との関係である以上、ステレオタイプ的な考え方は通用しない。告白して一発逆転、というのが無理であるということくらいは共通の真実と言ってもいいかもしれないが。
これは面倒そうだと内心でため息を吐いた。
男子組のグループ分けが進んでいる中、女子組も同様にグループ分けが行われていた。他学年はいざ知らず、一年生は既にAクラスとDクラスが連合状態にあり、それは最早公然の事実となりつつあった。学校側もようやくそれを把握しつつあるが、実態が正しくつかめていないため手が打てないでいる。
ADの両クラスはここだけでメンバーを完結させることもやろうと思えば出来た。2クラス以上であればよいのだから、メンバーの数を調整すれば総勢40人いる両クラスの女子を上手く分配することも不可能ではない。しかし、それでは貰えるポイント数には限りがある。Aクラスは作戦上、そしてDクラスは死活問題として、ポイントには妥協が出来ない状態であった。一之瀬は当然全力での攻勢を主張し、Aクラスの指揮を託された坂柳とお目付け役の神室も同意する。かくして、BクラスとCクラスへの交渉が始まろうとしていた。
「現状、どのクラスだってポイントは欲しいよね? 4クラス合同で組むことが出来ればもらえるポイント数が増加する。成功時の報酬を考えればこれが一番合理的じゃないかな? どう思う、椎名さん」
「私は……皆さんがそれで良いのなら」
交渉の矢面には一之瀬が立っていた。これは単純に信頼度の問題である。Aクラスの軍門に下ったとて、それは一之瀬個人への信頼を損なうことには繋がらない。当然、彼女の能力に問題があると思う生徒もいない。相変わらず、彼女は学年内の人気者だった。それを考えればAクラスの誰かが前に出るよりも顔が広く人望のある彼女を、というのが坂柳のプランである。ここで失敗すると自身への評価が著しく損なわれることは当然理解しているので、確実に成果を得るべく妥協した選択肢を取っていた。
「一之瀬も上手いわね」
「えぇ。明らかにどう考えてもうるさ型の堀北さんを懐柔するのは難しい。であれば、当然現在頭目不在のCクラスを狙った方が良い。その上、椎名さんは私もそこまで詳しくはありませんが穏やかな方。とすると、同意する可能性は極めて高いでしょう」
「その辺、一之瀬の人間関係構築スキルが役立ってるわね……」
「あれは強力な武器と言えるでしょう。やろうと思えば諸葛君にも出来るのでしょうが、天性でやっているのでやはり彼女の大きな才能であり武器、と言えそうですね」
「というか、なんで椎名が陣頭に出てるのよ。他に誰かいないの?」
「いないのでしょう。これは龍園君の大きなミスですね。男女別に試験が行われた場合、彼の代わりになる存在を育成しなかった。そのせいで、単純に成績が良い彼女が押し付けられたのでしょう。本当の首魁は恐らく……あちらに」
坂柳が静かに目で示す方向には、真鍋の姿がある。彼女が事実上現在のCクラスの女子における主導者だった。しかし、それは能力によるものではない。龍園の失脚により、声の大きい彼女が成り上がっただけの事である。金田や石崎、伊吹などの旧龍園派は現在失脚状態である。石崎や金田は元々の交流関係に救われたが、孤立気味だった伊吹などは絡む相手もいない日々を送っている。
「空中分解の末、分不相応な人がその地位に就く、か」
「これは絶対王政の失敗、独裁の欠点ですね。優秀な存在が消えると、国内がガタガタになってしまう。それまでに官僚機構を整備していれば、最低限国家はまわりますが。それこそ、スターリンが死んだ後のソ連のように」
「あれがフルシチョフには見えないわよ」
「それはその通り。ですので、あれは見せかけの楼閣。砂上の城でしょう。何か一突きあればあっという間に崩れてしまいます。或いは真鍋さんに一定以上の人徳があれば、最低限の支持は得られたかもしれませんが……」
あまり社交的ではないが、少なくとも温厚ではある椎名。それに対して、社交性は一定以上はあるものの、あまり優しい性格ではない上に言葉もキツい真鍋。どちらがいいかと言われれば、大多数が前者を選ぶのは明白だった。自分が仲間内以外に嫌われている可能性をあまり考えていないのが真鍋の欠点である。仲間内には優しいのだが、それで許されるのは普通の学校だったならばの話だろう。
「ほら、ご覧ください。その証拠と言ってはなんですが、自分で交渉を押し付けておきながら一之瀬さんが椎名さんを一定以上の実力者とみなしているのに苛立っています。あそこで泰然自若としているのならば、また違った評価も出来ますが」
「そうね……。それは良いんだけど、一之瀬は櫛田と軽井沢を落としに行ってるわね」
「堀北さんよりは楽ですからね、どう考えても」
神室の見つめる先では八面六臂の話術を見せている一之瀬の姿があった。憂いが無ければざっとこんなものである。
「どうかな、軽井沢さん。ppは欲しいよね? 私たちの作戦に従えば、Bクラスにもちゃんと取り分はあるよ。もし仮に合意してくれるなら、人数割合に関して多少の調整をしても良いと思ってるし」
「……それならまぁ、良いんじゃない?」
軽井沢は何とも言えない返事をする。彼女自身、そこまで試験の作戦などをよく理解しているわけではないけれど、現状を何とかやり過ごす事が彼女にとってのクラスを守る最善策であった。ついでに言えば、彼女は半分上がりが確定している。ここでAD連合の邪魔をしないことで、間接的に両クラスからの好感度を稼ぎ、早めに自身の安全を確保したい。
「もちろん、私たちDクラスやAクラスが多数派のグループには、成績が不安な子を迎え入れるよ。あ、何かあっても道連れにしたりはしないから、安心してね。これなら受け入れてもらえると思うんだけど……櫛田さんはどう?」
「それはいい条件、だと思うな」
博愛主義者のふりをしている櫛田に、これを断ることは出来ない。一之瀬は櫛田の仮面を見抜いているわけではないが、普段の櫛田の行動から見て断るまいと判断していた。他者への解像度。それが一之瀬の持っている大きな強みである。それは距離が近いほど、社交性が高く交流回数が多いほど発揮される。
このまま提案を受けるのが一番楽な道ではある。しかし、それではポイントの差は開くばかり。何もせずに座したままそれを見過ごせない堀北は一歩前に出た。
「うわ出た。そろそろアンタも行かないと」
「もう少し、様子を見ます」
坂柳が何か素晴らしい代案があるのかもしれないと思い、堀北を見る。ここでまさかの大逆転作戦を出して来る可能性もゼロではない。
「一之瀬さん、あなたはそれで良いの?」
「良い、っていうのはどういう意味かな?」
「そのままの意味よ。Aクラスの門前に繋がれて、飼い馴らされて……今もAクラスの有利になるように動いている」
「私は別にAクラスのために動いているつもりはないんだけどな。私はいつでも、私のクラスのために動いているよ」
「……本当に?」
「疑われるような事、したかなぁ」
「この学校のクラス分けには基準がある。Aクラスほど優秀で、Dクラスに近づくほど能力が低いか欠点が多い。その点、私は欠点が多いとみなされた。それは周知の事実。じゃあ、あなたはどうなの一之瀬さん。成績優秀、運動神経もある、人望も高く、生徒会役員も務めている。学年クラスを超えた人気者。それがどうして、Aクラスにいないのかしら。その時点であなたには何か大きな欠陥が存在している。それはあなたの言葉を信用出来ない理由になる」
堀北の脳内には当然櫛田の事が念頭にある。櫛田は大きな欠点があった。必ずしも全部が全部彼女のせいではないとはいえ、学級崩壊に追い込んだ事実が。ついでに言えば、個人情報を特定できる形でネットに置いたネットリテラシーの無さもだが。そして彼女はDクラスとなった。では一之瀬はどうか。櫛田よりも能力値が全体的に高い。つまり、本来Aクラスでないとおかしい人材。それがどういう訳か初期配置はBクラスだった。一之瀬は信頼するに値する存在なのか。それを問う事で、CクラスやAクラスにヒビを入れる。それが割と八方塞がりな堀北に出来る最後の抵抗だった。
「破れかぶれの抵抗というか難癖ね」
「いえ、存外そうでもありません」
「そう?」
「確かに堀北さんの言う事は疑問点ではありました。一之瀬さんは面白みはないですが優秀です。現に諸葛君は様々な計略を以て彼女を引き入れた。Aクラスに最初からいれば、私たちの勝ちは確定していました。ですが、そうはならなかった。だからこそ諸葛君はわざわざ遠回りな作戦を敢行しているわけですし。彼女がBクラスにいたのはなぜか。そこに彼女の隠している何かがある。同盟者である以上言いませんでしたが……気にならないと言えば嘘になります」
坂柳が言う通り、この学校のクラス分けは割と明確になされている。学力を主軸にしつつ、高位はAクラスに、下位はDクラスに。それは学年を問わずにそうだった。学力が上であればAクラスになれる可能性が高いが、それを打ち消すマイナスが多ければ下位クラスとなる。幸村はそのコミュニケーション能力、堀北は狷介過ぎる性格、高円寺は態度によってDクラスに配属された。逆に言えば、運動が物理的に出来ない坂柳でもAクラスにはなれている。
同時に過去に問題を起こしているかどうかも評価基準として存在していた。櫛田は言わずもがなであり、逆に万引きが露見しなかった神室はAクラスに入れた。友達はいなかったけれど、コミュニケーション能力が無いわけではない。その辺を評価されてのAクラス入りだった。坂柳も恨みは買っているが、問題化していないので学校基準では問題ない。
一之瀬最大のウィークポイントがあるとすれば、何故お前はそんなに優秀なのに初期Bクラス配属だったのか? というものである。そしてここで破れかぶれにも近い考えでこのポイントを突き付けた堀北の行動は、ここまで調子の良かった一之瀬にクリーンヒットしていた。
「それで、どうなのかしら。一之瀬さん、あなたは一体何をマイナスに評価されてBクラスに入ることになったの?」
「……」
意気揚々と一之瀬を詰める堀北の隣で櫛田が怒り心頭であった。一之瀬が大きな問題を抱えているとしたら、初期でDクラスに配属された自分はそれこそ人殺しでもしていないといけないレベルの問題児であることになる。実際の人殺しはAクラスにいるとは思いもせず、櫛田の内心は冷や汗と怒りでぐちゃぐちゃであった。
しかし、快刀乱麻で話していた一之瀬が言葉に詰まったのを見て、これはマズいと坂柳が前に出る。一之瀬が何を隠しているにしろ、今は同盟者。変なところで躓かれては困るのだ。
「まぁまぁ堀北さん。その辺にしませんか」
「Aクラスの首魁はあなたなの? 坂柳さん」
「えぇ」
「てっきり諸葛君は神室さんを選ぶと思っていたけれど」
「いつでも彼女が矢面に立っているわけではありませんよ。それよりも、グループ分けに移りませんか?」
「私もそうしたいけれど、そのグループ分けを主導しようとしている人の是非について論じない事には先に進めないでしょう」
「私とはどうも見解が異なるようですね。一之瀬さんは信用に足る相手ですよ。それはこれまでの実績が証明しています。仮に過去がどうであれ、それは現在には関係ないでしょう。それとも、あなたは一之瀬さんに相手にされずクラスのリーダーとしての実績も残せずお兄さんの後追いすらできないことに苛立っているのでしょうか? 借り物の功績で多少の成績を収めた結果、自らの能力を過信したのでないのなら、前向きな話をしようではありませんか」
堀北は青筋を立てて坂柳を睨みつける。しかし、その程度では坂柳は動じない。
「おや、どうしました? 体調がすぐれないなら申し出た方がいいでしょう。それともお怒りですか? 全く事実無根なら堂々としていればいいのにそのようにお怒りということは、多少なりとも思い当たる所があるという事ではないでしょうか。どう思いますか、神室さん」
「私に話を振らないでくれる……?」
人を合法的に煽れる機会がやって来た坂柳は久しぶりに全力で堀北を煽りに行っている。クラス内で大人しくしていたとはいえ、そう簡単に性質は変わらないのだ。それに、ここで一之瀬を守ることは自身の評価に繋がり、同時に椎名たちCクラスを自クラス側に引きずり込むために必要な行動だった。CクラスがBクラスと同調してしまうと、4クラス合同でのグループ作成が出来ない。逆にCクラスがAD連合に同意すれば、Bクラスは孤立化し、否が応でもグループ分けに参加しなくてはいけなくなる。
堀北は最低でも龍園の消えたCクラスを味方につけて、AD連合と対決したいと思っていた。しかし、彼女の抵抗は地盤の薄さが足を引っ張る。人望のある櫛田、櫛田ほどではないにしろ女子の中でグループを作っている軽井沢に対し、堀北には彼女を支持する地盤が無かった。
「堀北さん。私たち、そんな優秀じゃないからさぁ。こういう他クラスと合同の時には足引っ張る可能性高いし、一之瀬さんが成績に不安のある子を引き受けてくれるなら、それに乗りたいんだけど」
「軽井沢さん、このままいけばずっとAクラスに主導権を握られ続けるのよ」
「でも、誰も退学しないためには最善だからさ。私たち、誰も退学したくはないんだよね。やるなら、一人で好きにやって」
「……」
自分に味方がいない事を思い知らされ、堀北は押し黙る。そこで意を決したように椎名が口を開いた。
「堀北さんには申し訳ありませんが、私たちは一之瀬さんの手を取りたいと思います」
「椎名さん、ありがとう。それで……Bクラスはどうするかな? 私は誰も退学になって欲しいとは思ってないけど、もしBクラスがどうしても同意できないなら、申し訳ないけど私たちだけでグループを組むよ。どう? 堀北さん」
「……分かったわ。あなたの意見に従いましょう」
堀北は仕方なく同意した。これにより、ようやく女子のグループ分けが始まる。
「やっとこれで先に進めるわね」
「えぇ。しかし堀北さんも面白い着眼点に目を付けました。もしかしたら、これを機に一波乱あるかもしれませんね」
「やめてよね、めんどくさい」
薄く微笑む坂柳に、神室は小さくため息を吐く。一之瀬は話し合いの主導権を握り、男子と同じようなグループ分けを行おうとしている。神室はAクラスで一番動ける女子として動けない坂柳と同じグループに入ることでカバー役を担おうとしていた。
「ところで、さっきから視線を感じませんか?」
「特に何も感じないけど……気のせいじゃない?」
「……ですね」
小さな違和感を無視して、坂柳はグループ分けに意識を向けた。