ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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抗日全軍の将兵諸士! 時機は既に到来せり! 吾等国民は心を一にして殺賊に努力し、攻撃のみを以て退却することなく、万悪の日本軍を駆逐し、以て我が中華民族の復興を図ろうではないか!

『蒋介石・廬山談話』


73.統一戦線

 一学年の各クラスリーダーが集結して会合をする、という事態は実は初めてかもしれない。一番近いのは船上試験だったが、あそこでは一之瀬が違うグループに配属されていた。そもそも集まったところですることがない、という問題も存在している。これまでの関係性の中で色々とお互いに思うところがあるのも原因としては大きいだろう。

 

 しかし、この期に及んではそんなことを言っている場合ではない。私の招集に応じるか、という問題は存在する。だがBクラスは来るだろう。Dクラスは当然やって来る。問題はCクラスの龍園だが、彼もまたこの事態に際し動揺している部分はあると思う。他クラスへの称賛票という存在のこともあるし、私が何をしようとしているのかを特定したいという意思はあるはずだ。

 

 Bクラスの意思はよくわからない。軽井沢は自分とその周囲が平穏ならそれでいいだろう。平田は博愛主義者だ。試験を潰せるとなれば協力してくれる可能性は高い。櫛田は……多分これで堀北を退学させれば最良だと思っている。堀北の運命に関してはそこまで興味を惹かれないけれど、この試験で退学されては困る。というより、この試験に何かしらの結果を残してもらっては困るのだ。試験そのものを破壊しようとしている身としては、試験を利用されてはたまったものではない。それも含めて、説得しないといけなかった。

 

 皆、拙速に動いてくれている。兵は神速を貴ぶ。戦場はまさにスピード勝負だ。一瞬一秒の判断が生死を分けることもある。ここでもそれは同じだろう。遅滞は許されない。その点、Aクラスの生徒たちは協力的だった。

 

「諸葛君!」

 

 せかせかと歩いていた廊下の向こうから手を振る姿と声がある。先ほど速攻で連絡を入れた一之瀬だった。4クラス合同での会議を行いたい旨は既に話している。了承はしてくれたが、その瞳には不安が色濃く浮かんでいた。無理もない話だろう。しばらくは安泰だと思った矢先にこんな馬鹿げた試験が降りかかってきたのだ。こんな試験があったのでは彼女の精神状態にも悪影響を及ぼしかねない。やっと改善できたとはいえ、彼女のメンタルケアはまだ途中。こんな事で妨害されていてはたまったもんじゃないのだ。

 

 駆け寄ってきた彼女は迷いと怯えを隠すように、気丈な声音を保とうとしていた。

 

「迅速な対応、ありがとうございます。クラスの様子はどうですか」

「大混乱、かな。私と神崎君で何とか一回落ち着いてもらって、諸葛君と相談しながら今後の対策を考えるってことでひとまずは終わったけど……」

「分かりました。今はそれで十分です。疑心暗鬼からのパニックが一番怖い。Aクラスの方では既に動き始めています。Dクラスの皆さんは?」

「まだ、教室に残ってもらってる」

「好都合です。この後直ちに会議を行いますが、その前にDクラスの皆さんに強くメッセージを発信しておきたかったので」

 

 一之瀬がクラスメイトを留めたままにしてくれたのは好都合だった。これは監視の意味もあるのだろう。人目のあるところでは何かしようもない。こんな訳のわからない試験に際し、パニックから他者を攻撃し始める可能性もある。また、流言飛語が飛び交い収拾がつかなくなる可能性もある。仮にすべてが収まっても、割れた傷は戻すのに時間がかかる。

 

 そういうのを防ぐための安全装置として、一之瀬はクラスメイトを残したのだろう。駆け引きや裏工作には弱い彼女だが、人心掌握と人間心理の把握、そこからくる人間のコントロールに関してはかなり長けている。それこそ、学年で1、2を争うほどと言っても良いだろう。普段はその善性のおかげで使用されないが、本気でやれば傾城にもなりうるとは常々思っている。

 

 そして、その人間心理に長けているという性質が、今回は非常に良い形で働いていた。こういう存在を同盟に引き入れることが出来たのはやはり大きい。こんな事態になったためではあるが、改めて彼女の価値と長所を認識した。このDクラス併合作戦を考え出した葛城と真澄さんには再度感謝する必要があるだろう。

 

「諸葛君……私、誰も退学になんてなって欲しくない。何か出来ることがあるなら、何でもする。だから……!」

「分かっています。あなたと私は同じ気持ちですよ」

 

 不安に揺れる彼女のために、少しだけ腰を落として視線を合わせる。

 

「絶対にこんな試験には屈しません。私とて、誰にも退学などして欲しくはない。それも、こんな形でなど絶対に。ですから、力を貸してください。私にはあなたの協力が必要です」

「う、うん」

 

 彼女は目を白黒させ、やや頬を赤らめながら頷く。その様子に若干の違和感を覚えたが、問題のある様子ではない。今はそれよりも大事な事があるので一回それは横に置いておくことにした。

 

「Dクラスの皆さん!」

 

 ざわめきがあったクラスのドアを勢いよく開け、私はカツカツと教壇に立ち、大きな声を出しながら全員と視線を合わせる。そうすることで、場の全員の視線が私に注目し、意識がこちらに集まる。混沌としていた場は、沈静化する。空気が如実に大人しくなった。普段は理性的なクラス。その特徴がいかんなく発揮されている。

 

「これより、一之瀬さんと共にこの事態の解決に向けての協議を行います。その前にハッキリと皆さんにメッセージをお伝えしたい。我々は、そして私は決して皆さんを見捨てはしません! 繰り返します。私たちは決して皆さんを切り捨てない! ですからどうか、私と一之瀬さんを信じて、今は軽挙妄動に走らず落ち着いてください。絶対にあなたたちの未来を守ります。よろしいですか!」

「「「は、はい!」」」

 

 困惑がありつつも、私の力強い言葉に彼らは頷く。私は決して見捨てない。絶対に守る。そういう確固たるメッセージを発信することは、この先行き不透明な状況に直健した彼らにとって大きな意味を持つ。希望を与え、指針を示し、理性を取り戻させる。我々首脳陣への信頼がないとできない発言だったが、彼らからの信頼は十分得られているとの確信があった。それに、一之瀬がいる以上信頼されないわけがないという考えも当然ある。

 

「現在、Aクラスではかかる事態に際し、これを叩き潰すべく動き始めています。真澄さんが指揮を執っていますので、これに合流して指示を仰いでください」

「浜口君、麻子ちゃん、まとめてくれる? 神室さんの指示に従って欲しいな」

「分かりました」

「任せて!」

 

 一之瀬の言葉に二人は大きく頷いた。一之瀬の役に立ちたい。そういう想いを抱いている生徒は多い。であればこそ、この混沌とした状況でも彼女の指示ならば全力で遂行してくれるだろう。真澄さんの指示で動いたことのない彼らがすんなりと真澄さんの指揮を聞いてもらうには、一之瀬を経由するのが手っ取り早い。その辺は彼女もよく理解してくれているようだった。つくづく頼もしい。

 

「あなた達は私の生徒です。そして、あなた達は至らぬ私を指導者として、教師役として認めてくれた。であれば、教師が生徒を見捨てることはありません。何があろうと、決して。どうか安心して、私たちに力を貸してください。共に、この難局を乗り越えましょう。我々は一人ではありません。我々は、一つとなるのです!」

「「「オー!!」」」

 

 Aクラスよりも幾分情熱的に、Dクラスの生徒たちは叫んでいる。やはり一之瀬というカリスマがいる分、まとまりも早い。それも一長一短だが、今回は一貫していい方向に働いていた。これでDクラスの生徒を戦力に出来る。同時にAクラスと本格的に共同で動く第一歩になるだろう。

 

 何せ、敵は共通している。これほど最初の共闘においてありがたいことはない。意識の統一も容易だし、我々は一つであることを強調することで連携のための心理的ハードルを下げられた。ここからは彼らと真澄さんに任せてよいだろう。こちらはこちらの戦いを行う番なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、諸葛。何かしら策を提案するべきなのだろうが、何も思いつかなかった。俺たちにはポイントで何とかする以外の選択肢がない。忸怩たる思いだが……」

「いえ、実際そうする以外にないよう設計されています。ですから、他に案がないのも仕方ないでしょう。ただし通常のやり方では、ね」

 

 憔悴した顔の神崎のフォローをする。実際、ポイントでどうにかする以外に逃げ道がないようになっている。そして、学年末の特別試験用にポイントを温存していたのが功を奏した結果、ポイント自体はある。ただし、一人を救うのが限界だ。それではAクラスかDクラスの生徒のどちらかが犠牲になる。そんな未来は到底看過できない。だからこそ、破壊するのだ。この試験そのものを。

 

 これも発案者か許可した上の方の嫌らしい思惑に思えてならない。Aクラスのポイントについては把握しているはずだ。であればこそ、一人分は確実に救済出来る事も理解しているだろう。それでも試験を挙行したのは、私に選ばせるためという推測もできる。お前はどちらかしか選べないのだぞ、どちらを選ぶ? と言う底意地の悪い薄笑いが透けて見える気がした。被害妄想と言うのには、あまりにも状況相が揃いすぎている。

 

「気に病むことはありません。私とて、正攻法でこの試験をどうにかしようと思ったらポイントを使う以外には思いつきませんので。あなただけではありません。ですがだからこそ、こんな試験に律義に付き合う必要はない。そういう事でしょう?」

「その通りです」

 

 坂柳の言う通りだった。Dクラスの二人にはまだ今後の作戦については話していない。まとめて言った方が効率が良いからだ。それに、多分賛同してくれるだろうという信頼もある。

 

 葛城も生徒会などへの連絡を終えて会議室に合流してくれた。この部屋も生徒会権限で彼が借りている。坂柳と私と葛城がAクラスの参加者だ。Dクラスからは一之瀬と神崎が来ている。他の2クラスはまだ来ていなかった。

 

「失礼します」

 

 ノックの音と共に、3人が入室してくる。Bクラス代表として呼んだ軽井沢・平田・櫛田の姿が視界に映る。坂柳の指名でこの3名にしたが、私も正解だと思う。実力者という意味では一応堀北もいるし、高円寺もいる。だが彼らは会議に向いていない。高円寺は方針を決めたうえでメリットを提示して交渉するのが良いだろう。堀北は……最悪彼女の兄に頼るしかないか。

 

「諸葛君、今回は……」

「まぁ、まずは座ってください。まだCクラスの方が来ていませんので。お茶を用意していますので、それを飲んで少し落ち着きましょう。そうでもしないと、冷静な話し合いも出来ませんので」

 

 机に置いたティーカップは、葛城が生徒会室で使うかと思って貸したものだった。マイセンの良い品である。紅茶の湯気が仄かに漂い、その穏やかな香りが教室内を満たしていた。リラックス効果のあるフレーバーを用意している。ここで一回気持ちをリセットしてもらうことが目的だった。混乱したまま話し合っても成果はない。

 

 特に平田はかなり憔悴しているような感じがあった。軽井沢は分からない。彼女は安全圏だ、多分そこまで心配はしてないのだろう。それはそれとして不満はあるだろうが。櫛田はむしろ楽しそうですらあった。堀北を合法的に消すことが可能だと考えているのだろう。失点は探しやすい。であれば、彼女の人気と技術を以てすれば堀北を退学対象者にすることなど容易いだろう。

 

 ともあれ、Bクラスは揃った。後はCクラスだが……と思った瞬間に扉が開く。鋭いまなざしをこちらに向けながら、龍園が入室してきた。相変わらずの風貌と雰囲気だが、幾分かまとう空気感が洗練された気がする。綾小路にボコボコにされてから何か思うところがあったのか、彼の自称する「王」に一歩近づいたような気配があった。カリスマ性が前よりも良い方向に形成されていたのだ。これならばある程度建設的な話し合いになるかもしれない。

 

「龍園君、無言で入るのはどうかと思いますよ……」

 

 そう言いながら、椎名も入って来る。それは少し意外だった。龍園は一人で来ると思っていたからだ。椎名は確かに頭の切れる生徒であるし、Cクラスの学力面における貢献は著しい。とは言え、クラス間闘争には関心を示さないので龍園にとっては使えない駒判定だったようだが、何かしらあったのだろう。まぁ確かに諫言してくれる配下は貴重だ。性格も悪くないし、粗暴な人間の多いCクラスではそれを束ねる軍師役がどうしても必要になる。それに椎名を選んだのなら、その選択は正しいだろう。

 

「全員揃ったようですね。それでは始めましょうか。まずは今回の招集に応じて頂き、ありがとうございます」

「御託は良い。さっさと本題に入れ」

「そう急かずに、龍園君。この事態だからこそ、まずは冷静になることが大事です」

 

 私の言葉に、龍園は鼻を鳴らした。しかしそれ以上何かを言う事はない。取り敢えず聞く姿勢はあるようだ。

 

「状況を再度整理しましょう。学校側は、我々の学年に退学者がいないことを理由として、クラス内投票という唾棄するべき試験の実行を宣言しました。各クラス内で賞賛票を三人まで、批判票を三人まで投じることが出来、その集計結果に従い賞賛票一位にはプロテクトポイントを、批判票一位は退学。また、他クラスの生徒にも一票だけ賞賛票を入れることが出来る。ここにいる皆さんは当然、このルールを理解できているとは思いますが念のため再度確認を行いました」

 

 ここまではあくまでも状況の整理だ。敵に臨む前に状況をもう一度整理しておくことは欠かせない。

 

「さて、ここからが本題です。私はこの試験を破壊することを考えています」

 

 この言葉に、3クラスの代表者からそれぞれの思惑が入り混じった視線が飛んでくる。平田や一之瀬のように希望を見出す目、龍園のように何をするのかという疑問の目、櫛田の余計なことを……という目。向けられた視線は様々だ。

 

「皆さんはそれぞれにこの試験への対応を考えていたことでしょう。しかし、それでは学校の思惑に従うだけになってしまいます。これは断固として回避するべき事態であると考えます。ただ対処するだけでは、こんなふざけたモノを用意した存在の用意した舞台の上で踊っているにすぎません。であればこそ、彼奴らの思惑を超えて、試験そのものを破壊するべきなのです。真面目に試験に取り組まねばならないという道理など、どこにもないでしょう。まさしく、無人島での龍園君のように」

 

 この言葉に、龍園は片眉を上げて私を見る。彼からすれば少し意外だったようだが、私は彼の対応を評価している。真面目に試験に取り組むことを考えていた我々とは違い、彼はクラスメイトと共同しての試験を放棄した。しかし結果は出せるように策を練っていた。これは彼の性格などに起因するところも大きいだろうが、作戦としては非常に独創性があると思っている。

 

「言いたいことは分かった。だがなぁ、俺にはそれを受けるメリットがないぜ」

「な、なにを言ってるんだい、龍園君。クラスメイトを守るつもりがない、という事かな?」

「甘いな、平田。俺だけじゃねぇ、そこのスカした野郎や坂柳はとっくに気付いてるだろう? この試験にはメリットもある」

「……」

「不良品をデリート出来る、という事ですね?」

 

 沈黙を選んだ私に対して、坂柳は静かに答えた。彼女の問いかけに、龍園は静かに頷く。確かにそれは彼にとってはメリットではあるだろう。私の下にそんな不良品と呼ぶべき生徒はいないだけで。

 

「気付いてるじゃねぇか」

「えぇまぁ。そういうメリットがあることは理解しています。特にあなたのクラスの真鍋さんのように、あなたに反抗的なトラブルメーカーを排除することが出来る。それも合法的に、何のマイナスもなく。それはBクラスとて同じでしょう。成績が低い、運動神経が悪い、それらよりももっと問題な性格や態度が悪い。そんな生徒をデリート出来るならば価値はある。そう考えれば、この試験は為政者にとってはメリットもあります。従順ならざる存在を排除できるのですからね」

 

 櫛田の同意するような視線が坂柳に注がれている。彼女にとっては堀北を排除できる千載一遇の好機なのだから仕方ない部分もあるだろう。

 

「坂柳さん」

「ご心配なく」

 

 私が余計なことを言わないでくれという意図を込めて放った呼びかけに、彼女は心配するなと言う返しをする。正直何を言うのか不安でしかないのだが、最近の行動を鑑みて取り敢えずは見守ることにした。

 

「確かに龍園君の言うことは正しいでしょう。しかし私はそれでも、諸葛君の意見に賛同します。この試験は潰すべき試験です」

「ほぅ? お前らしくないなぁ」

「私もいつまでも同じと言うわけではありませんよ、龍園君。人間は成長する生き物です。諸葛君、私の意見を述べても?」

「構いません」

「ありがとうございます。この試験を潰すべき理由、そして龍園君に限らずどんな生徒であろうとこの意見に賛同する理由は一つです。次が無いとは限らない。これに尽きるでしょう」

 

 坂柳の言葉は端的だが、正しかった。彼女の視野は広がっている。それは間違いない。前までなら、この試験で人を消すことを考えていただろう。その苦しみや痛みを喜びにしていたかもしれない。或いは、学校と戦うことをただ単純に楽しんでいたか。しかし今はしっかりと大局的にモノを見れている。本人の言う通り、成長しているのは確かだった。

 

「今回の試験、あなたが言うように不良品をデリート出来るという意味ではメリットもあります。しかし、本質的なところを見れば理不尽極まりない。それは同意していただけるでしょう?」

「まぁ、それはその通りだな」

「では、この理不尽がより強固な形で、より多くを犠牲にする形で、今後降りかからないとどうして言えるのでしょうか。今回の試験に我々が対処してしまったら、どんな形であれこの理不尽を押し通せたという成功例を学校側に与えてしまいます。前例を与えれば、次はよりエスカレートして行われるかもしれない。その可能性の芽を摘むためにも、ここは協力するべきです」

「加えて言えば、今回は良いとして次、そのまた次と行われたとき、ここにいる面子も無事とは限らないのだぞ。龍園、特にお前のような人間はクラス内に反対派も多いだろう」

 

 坂柳の言葉に補足するように葛城が言う。実際、今回の試験は秘密投票だ。誰が誰に投票したのかは分からないし、投票する際は監視されているため妨害も強制も出来ない。いかに命じたとて、投票する瞬間までは縛れないのだ。そこで造反される可能性も大いにある。

 

「お二人の言ってくれたことは私の言いたい事そのままですね。方法論は後回しにして、まずはこの試験に対し、試験そのものを破壊するという方向性で一致させたいと考えています。どうでしょうか?」

「私たちは乗るよ。当たり前だけど」

「そうだな。Dクラスは当然、全力を挙げてAクラスに追随する」

「ありがとうございます」

 

 いの一番に一之瀬と神崎が言う。まずは1つ。

 

「Bクラスはいかがですか」

「これは重大な問題だと思うんだ。だから一度……」

「そんな時間はありません。あなたのクラスが合議を敷かねばならない状態なのは理解していますが、そんな時間はないのです。平田君、この事態は一刻を争います。あなたと櫛田さん、軽井沢さんの力を以てすればたとえあなたのクラスといえど、まとめられるはずだと私は考えています」

「確かに大半は良いけどさ、高円寺君は分かんないよ?」

「軽井沢さんの懸念は尤もです。ですからもし高円寺君が難色を示す場合、私が説得に当たります。そこは任せてください」

「うーん、なら私は賛成する」

 

 軽井沢は懸念事項が消えたためかさっさと賛成派に回った。こうすることが一番と考えたようだ。保身が得意と言えば言い方は悪いが、それもまた大事な事である。仲間を守れるという意味では彼女もリーダーだろう。

 

「で、でも堀北さんはどうだろう……。こういう試験だと、龍園君みたいなことを考えてもおかしくないと思うよ。堀北さんはAクラスを諦めてないみたいだし、仲間を切り捨ててでも上に行けるなら、やっちゃうんじゃないかな」

 

 櫛田は相変わらず印象操作が上手い。龍園と私以外、彼女の正体を知らない。なので、堀北のイメージを悪化させようとしているなど誰も思わないだろう。彼女自身は賛成派だけど、懸念点を話しているだけという印象の形成に成功していた。その技術をもっと違うことに活かせばいいと思うのだが。

 

「彼女一人が反対しても意味はありませんし、そうした場合彼女は助かる手段があるのにそれを妨害しようとしている存在になります。つまりはパブリックエネミーでしょう。最終的に折れたとしても、今後Bクラス内での立場は最底辺になると思われます。まぁ万が一抗弁した場合の対処は考えていますので、ご安心を」

「そ、そっか……。なら、大丈夫、かな」

「はい。まぁ彼女が今後クラス内で暗澹たる立ち位置になる可能性はありますが、それは今回はどうでもいいので一回横に置いておきましょう」

「どうでもよくはないと思うけど……分かったよ。私も、諸葛君に賛成する。平田君、皆が助かるためには、協力しよう?」

「そうだね……。分かった、僕も出来る限りの協力をする」

「ありがとうございます」

 

 櫛田はこの流れで抵抗するのは難しいと悟ったようだ。逆に、堀北が私の案に反対したという風聞を流せば真実かどうかに拘わらず彼女をパブリックエネミーに出来る、という事に気づいたらしい。真実かどうかは関係ないのだ。言いそうだな、と相手に思わせればいいのだから。そして、櫛田はそう思わせるのに長けている。仮に疑われても、多分多くは櫛田を信じるだろう。

 

「龍園君はどうでしょうか」

「……」

「龍園君、ここは賛成するべきです。王たるもの、家臣を救うのも務めではないでしょうか」

 

 椎名の言葉に、彼は目を瞑って考える。私の案に乗るか、蹴るか。それぞれの損得を計算しているのだろう。

 

「私も乗るべきだと思うよ、龍園君。ここでもし蹴ったら、助かる手段を放棄したってクラスの子に思われちゃうんじゃないかな。私はともかく、それは龍園君にとってプラスじゃないんじゃない? 次は自分が切り捨てられるかもしれないっていう恐怖心がどう働くかは……言わなくても分かると思うな」

 

 一之瀬は暗に裏切られる可能性があるぞ、と脅している。表向きは穏やかな言葉だが、背後にはこの案を蹴るなという圧力が籠っている。彼女は何としてでもクラスメイトを守ろうとしている。その妨害をされては困る。だからここで龍園の首を縦に振らせるのだという確固たる決意を感じた。

 

「……いいぜ、乗ってやる。坂柳に踊らされてるポンコツ数人見せしめにしてやろうと思ってたが、クズはクズなりに使い道はある。いけ好かないが、お前の提案に乗ってやるよ」

「どうもありがとうございます。では、これにてひとまず一学年は全クラスを以てこの試験を破壊するべく動くという方針で決定致しました。ここに対学校学生統一戦線の結成を宣言致します! 共に万悪を駆逐しましょう!」

 

 ここは日中戦争に倣って統一戦線という名称を使った。抗日の英雄蒋介石の言葉をパクったのだが、地獄の彼が許してくれることを願う。まぁ私の曽祖父に負けて戦死した彼が許してくれるとは思えないが。

 

 ともあれ椎名もなんとか着地してくれた、という顔をしている。彼女とは図書館で何回か顔を合わせているし、言葉もそれなりに交わしている。一番話す回数の多いCクラスの生徒だろう。基本的には穏やかで博愛主義とまではいかないがクラスメイトには悪感情を抱いていない節がある。なので、退学者を防げるかもしれないということで、私の方針に賛同してくれているのだと思う。もしCクラスが肌に合わないならこちらに勧誘するつもりもあったが、どうやら望み薄のようだ。

 

「次に今後の動きについて。現在AクラスとDクラスが合同で他学年に呼びかける運動の準備を行っています。真澄さんが中心になって指揮をしていますので、各クラスはこれに合流していただきます。そして現生徒会と旧生徒会を口説き落とします。まずはここを味方にしたいですからね。葛城君、人選をお願いします」

「現生徒会は俺と坂柳が当たろう。一之瀬は旧生徒会を当たってくれないか」

「了解だよ」

「では、そのように。龍園君の役目は暴力装置です。万が一にも造反者が出ないように監視していてください。裏切られると非常に困ります。他学年にもあなたの悪名は響いている。睨みをきかせてくれるだけで抑止力になります」

「いいぜ、やってやる」

「Bクラスのお三方は、とにかくクラス内をまとめてください。申し訳ないですが、あなた方が一番不安要因です。高円寺君に関しては、難しければ私が対処しますが、他は何とかしていただきたい」

 

 Bクラスの三人が頷く。各クラスのリーダーにはそれぞれに役目がある。それに従って動いてくれれば、問題ないはずだ。

 

「生徒会の説得が終わり次第、明日か明後日にでも私が全校集会を開き、そこで全学年に対し訴えます。これを以て、全校を挙げて学校に対峙する姿勢を作ります」

「で、そこまでしてどうやって試験を破壊するんだ?」

 

 龍園の問いは根幹にかかわるものだ。この場にいる全員の視線が私に集まる。既に策は考えてあった。実行されれば学校側が一番困る方法を取らねばならない。すなわち、この学校が成立しなくなるような状況にすればいい。学校は生徒いることで成り立っている。いなければ、箱だけあったとて無意味。そこを突くのだ。

 

「やり方はシンプル、脅しをかけます。この理不尽な試験を撤回させるように全校生徒の署名捺印を以て嘆願し、もしそれが叶わない場合は……全校生徒が揃って自主退学を行う、とね」

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