ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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実体はなにもない。すべては心のやましさのなせるわざ。自分の行為を裏切りだと自覚しているから、相手の目のなかに、非難の色を読みとってしまうというわけだ。

『コナン・ドイル』


78.金糸雀の歌

 何なら勝てそうかの案を募集した翌日。早速凄い量が集まっている。各々の特技であったり、誰々は何が得意と言った情報も入ってきていた。他クラスとの勝負をする際にどういう風な策をとるべきかのアイデアも幾つか提示されている。流石にこちらは得意な事の記述に比べれば量は少ないが。

 

「日を置かずにの話し合いではありますが、素早い対応ありがとうございました。これで、早速本日より作戦立案に入ることが出来るでしょう。さて、今から皆さんを二つのグループに分けます。それぞれBクラスとCクラスを相手にする際の対応策を考えてください。こちらがどういう種目で勝負するべきか、相手がどう来るかと言ったところまで検討を進めてくださると幸いです。私はその間にDクラスの作戦を一之瀬さんと検討しますので」

 

 私が中に入るとバランスが崩れてしまうし、なるべく自分たちで考えるようにして欲しいのだ。この前のペーパーシャッフルでは今回と似たような手法を使い、良い結果を導き出すことが出来た。二匹目のどじょうではないけれど、もう一度同じように良い結果になることを期待しての施策である。

 

「では、行きましょう! レッツ、ルーレット」

 

 表示した画面では、各生徒の名前がグルグル回り、やがて二つに分けられた。対Bクラスのグループには司令塔役の坂柳を筆頭に真澄さんや橋本がいる。一学期の際、比較的坂柳に近いメンバーが集まっていた。反対に対Cクラスのグループは葛城とそれに近しかった生徒が集まっている。一部例外はあるが、これはこれで面白い構成になったと思う。

 

「それでは決まりましたね。ここからは皆さんにお任せします。明日には対決クラスが決定してしまいますので、なるべく今日中にある程度の方向性を決めたいですね。もし、我々に選択権がある場合、どこを選ぶのかも今回の話し合いを判断材料として考えますので。些か時間が短いですが、即断即決する能力もまた大事なモノです。では、各グループで集まって活動を始めてください」

 

 私の指示で各員が一斉に動き始めた。教室の対角線上に集まって話し合いを始めている。やはりこういう時に率先して動く人材と言うのはある程度決まっているものだ。坂柳と葛城を中心に人の輪が展開されていく。この様子ならば、しばらくは任せてしまって大丈夫だろう。という事で、私はDクラスへ赴くことにした。こちらはこちらで勝利させたいところだ。AD連合の完全勝利こそ、今回一番最良の結果となる。

 

 Dクラスでの協議を終え、私がクラスに戻ると、既にある程度の草案は出来上がっているようだった。流石私の生徒たち、優秀だ。そこから十分ほどでいずれのグループも方針が定まったようである。それまで、と議論を切り上げてもらい、発表の段階に移行した。この間に僅か一時間ほど。短期間で成果物を出す練習としては、両グループとも大成功だと判断していいはずだ。

 

 各グループの代表が提案する種目案を送って来る。私はそれを画面に映した。

 

「皆さん、お疲れ様でした。この短期間ですが、しっかりと話し合いを進めて上手くまとめてくださいましたね。素晴らしい対応力だと思います。今後もこういう即断即決を求められる機会はあるでしょうから、今回のを良い教訓としましょう。ではまずBクラスから。対Bクラス用に提案されたのは以下の16種目です」

 

1:現代文テスト

2:英語テスト

3:古文テスト

4:社会テスト

5:数学テスト

6:物理テスト

7:化学テスト

8:音楽史テスト

9:スポーツ史テスト

10:美術史テスト

11:漢字テスト

12:囲碁

13:チェス

14:将棋

15:カラオケ

16:サブカルチャー史テスト

 

 見事にテスト系が半数を占めている。五教科から副教科、中にはサブカルや漢字と言ったやや特殊な内容のモノも存在している。チェスは坂柳が出来るから選んだのだろう。ただ、彼女は司令塔なのでルールを細かく設定しないと実力を発揮できない。上手く噛み合えば、学校でも最強だと思う。綾小路の実力は知らないが、プロと互角に張り合えるようになってきた最近の坂柳ならワンチャンス以上はあるはずだ。YouTuberを舐めてもらっては困る。

 

 カラオケと囲碁、将棋は私が得意だからだろう。特にカラオケは真澄さんもよく知るところだ。なんならサブカル史のテストでも戦える自信はある。外村相手になりそうなので、もしかしたら引き分けてしまうかもしれないが。

 

「では、これを選んだ意図を説明してください」

「分かった」

 

 司令塔である坂柳ではなく、真澄さんが立ち上がる。グループでの話し合いでは坂柳の右腕的なポジションをしつつ、上手く議論を回していた。私の依怙贔屓ではなくちゃんとクラスの中でも有数の戦力として認められるようになったのは、間違いなく彼女自身の成長だった。

 

「Bクラス相手にはとにかく知識面、或いは絶対に勝てる手札で攻める作戦を提案します。Bクラスの問題点は平均値が低い事。逆に私たちは平均値が極めて高い。これを活かし、各テストは五人ほどを代表として出し、その合計点が高かった方が勝利とします。こうすることで、普段の平均点が高い私たちには有利に働くと判断しました。また、彼らが運動系を出してきた場合、私や柴田君、鬼頭君を中心に出ます。これならば十分勝機はあると考えます」

 

 平均点85点の生徒が5人と、平均点90点が2人に50点が3人だと、どちらが上かは言うまでもない。Bクラスの学力分布はそういう歪さを持っていた。こういう数値的データで攻めるのは真澄さんの好きなやり方らしい。ペーパーシャッフルでもそうしていたのを思い出す。あの時は今のDクラス相手だったが、今回も有効な手段だった。

 

「12から15は絶対に勝てるという自信がある生徒のいる種目です。13は言わずもがな坂柳さんの独壇場でしょう。戦績はみんな知っての通りだと思います」

 

 坂柳のチャンネルはYouTubeアカウントを持っている生徒――つまりはクラスの全員であるが――が登録しているらしい。しかも登録しているだけではなく、ちゃんと動画も見ているし「いいね」も押してTwitterなどで宣伝もしている。良いクラスメイトに恵まれたことに、彼女は心底感謝した方が良いだろう。

 

「他のものに関しても坂柳さんが勝てるそうですし、そうでなくても勝てる存在がいます。15は特にそこに特化しました。私たちのクラスの最強がフルスペックで戦うための舞台装置です。Bクラスにどの程度の歌うまがいるのかは不明ですが、どんな存在であっても負けることは無いでしょう。どれが本命でもいいですし、どれがダミーでもいいように仕上げました。あと、凄く個人的な理由ですが、私の彼氏の単独ライブを見たいという欲望もあります。以上です」

「……真澄さん」

「何?」

「いえ、何でも……」

 

 最後にぶち込んでくれたなぁおい、と苦笑する。生徒たちは特段驚いたりすることもなく流していた。一部推せる~と言ってる人は正常ではない可能性が高いので、一回受診した方が良いかもしれない。とは言え、推しを推してる時の自分もそんな感じなので、あまり人のことは言えないかもしれないが。

 

 とは言えだ。最後以外の理由は凄くしっかりしている。Aクラスの強みを存分に活かしつつ、確実に持っていける種目を用意することで決定打になるようにしているのだろう。運動系を持ってこられ場合の対処方法も考えてあるようだし、基本的に問題ないと思う。Bクラスがよほど変なモノを持ってこない限りは勝利できるだろう。

 

「では、次に対Cクラス用に提案されたのは以下の11種目です」

 

1:国語テスト

2:数学テスト

3:英語テスト

4:社会テスト

5:理科テスト

6:フラッシュ珠算

7:チェス

8:バレーボール

9:リレー

10:麻雀

11:ポーカー

 

 こっちは結構大雑把な括りにしてきた。これは対策させないというメリットを考えてのモノだろう。世界史、とか化学みたいに絞ってしまうと対策しやすい。そうではなく、幅広くすることで元々出来る生徒が有利になるように形成したという具合だろうか。後半も団結力が必要な運動系、存在は知っていてもルールは知らない生徒が多いであろう種目を選んでいる。この辺のバランス感覚は葛城の長所だと思う。

 

「では、この意図を説明してください」

「俺たちも先ほどの案と骨子は同じだ。違うのは、テストの範囲を広くしたことだろう。これにより、範囲を絞ってそこだけ暗記する、という手段を取りづらくした。これは全般的に平均点が高い俺たちならば有効に作用するが、相手には対策しづらい種目となるはずだ。ルールが意外と複雑な競技や真の意味での団結が求められる競技も入れることで相手の混乱も狙っている。先ほどはどの案も本命たり得るものだったが、こちらはあくまでも1~5番が本命となる。徹底的にこちらの土俵で戦う。龍園にはそれが有効だと判断した。以上だ」

「両グループともありがとうございました。いずれも良い案になっていると思います。共通点としては、どちらもこちらの土俵で戦うというところでしょう。相違点としては、対Bクラスは強力な一手を潜ませており、各教科を細かくテスト対象とするのに対して、Cクラス相手には範囲を広くして対策を防ぎ、とにかく堅実に勝ちに行くというところでしょうか」

 

 テストに関しては葛城たちの案が良いと思う。ただし、それだけに頼っているのも不安はあるので、真澄さんたちの出してきた強力な一手、つまりは坂柳のチェスや私の歌なども加えれば安全だろう。

 

 ここから誰がどれに出るのかを考えたいが、それは戦うクラスが決まってからでもいいだろう。坂柳はどう考えても遺恨のあるBクラスと戦いたそうだ。まぁそれでも構わないと思っている。Cクラスの方が楽ではあるが、一之瀬にBクラスの相手をさせるのは些か酷だとも思える。司令塔のやる気もあるし、ここは選択権があればBクラスと戦う方向に持っていくのが賢明だろうと判断した。

 

「いずれも素晴らしい案だと思います。双方に相違点と共通点があり、またメリットデメリットも当然存在しているでしょう。この中から種目を選ぶことに関して、私は問題ないと思います。司令塔はどうでしょうか?」

「私も問題ないと判断します」

「ありがとうございます。司令塔個人としては何か意見がありますか?」

「私としては皆さんが戦いやすいようなら何でも構いません。ただ、ルールに関しては想定しているものを詳しく説明する必要はあるのではないかと」

「確かに仰る通りです。ではまず対Bクラスの方から、それぞれ1つずつルールと司令塔の介入ポイントも教えてください。それをしっかり聞いたうえで、今後種目決定の際に考える材料としましょう」

 

 再び真澄さんが立ちあがり、説明を始める。凛と伸びたその背筋からは、確かな自信を感じる。堂々とした口ぶりは、多くの生徒がしっかりと耳を傾けるのも頷ける様相だ。巷では諸葛四天王と呼ばれているらしい。その中の一人が真澄さん、残りは葛城と坂柳と一之瀬だそうだ。凄まじい黄金メンバーだと思う。これで負ける方が難しい。

 

 学年の始まったころ、真澄さんがこの面子に肩を並べて評されることがあるとは本人ですら想定していなかっただろう。伸びた背筋は、成長の証だった。

 

 

 

 

 

 AD連合が順調に作戦会議を進める中、Bクラスは些か混沌としていた。問題となったのは誰が司令塔になるのか、というところ。他クラスならばある程度スムーズに決まるところであったが、ここではすんなりと決まるはずもない。如何せん分権状態であるため、それが悪い方向に作用していた。場合によっては退学となる職務を率先して引き受けたいと思う者はほとんどいない。

 

 堀北はここで功績を、と思う心があるが自分に実績と支持母体が無いことが足を引っ張っていることを自覚していた。その様子を虎視眈々と見ていた存在が約一名。それはすなわち、堀北を退学させたい思惑のある櫛田桔梗である。合法的に生徒を退学させるチャンスであると勘づいた櫛田は、ここを逃す手はないと挙手した。

 

「対決クラス決定の日も近いし、そろそろ司令塔を決めないといけないんじゃないかな」

 

 一応こういう場で音頭を取っているのは平田だが、先日の件でやや指導力が低下している。こういう難しい試験の場合、軽井沢はあまり上手く対応できない。綾小路は前に立つ気など無かった。であればこそ、司令塔が決まらない中で困っている平田に助け舟を出すというごく自然な形で彼女は立ち上がったのだ。

 

「そうだね……。ただ、これは中々責任重大な役職だ、もしよければ櫛田さんがやってくれるというのなら、僕は適任だと思うけど」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私じゃちょっと難しいかな……。だけど、決めないのもよくないと思うし、推薦したいなと思うの」

「推薦? 誰か、出来そうな人がいるならぜひ教えて欲しい」

「うん。私は、堀北さんが良いんじゃないかなって」

 

 予想外の発言に目を見開いたのは堀北だった。自分が指揮を執るのに一番足りない支持母体。それをどういうわけかクラス内外で人望が厚く、この前のクラス内投票試験撤回運動でも名を上げた櫛田が担ってくれたのだ。当然善意であるはずがないと疑いの視線を櫛田に向ける。それを意に介さず、櫛田は話を続けた。

 

「堀北さんは成績も優秀だし、これまでの特別試験でも積極的に動いてくれてたし。何より、勝ちたいっていう思いは強いと思うから、いい結果を持って帰ってくれるんじゃないかな。それに、Aクラスになりたいって前々から言ってるし、きっと私たちよりも他クラスについて沢山研究してると思う。そこから作戦を引っ張り出して、良い案を考えてくれるはずだから!」

「確かに、いいかもね」

「櫛田さんが言うなら……」

「桔梗ちゃんが言ってるんだし、そうかも……」

 

 積極的賛成が数人、あとは「櫛田が言うなら」という消極的賛成であった。しかしこれで場の空気は一気に櫛田の提案を受け入れる方向に移動する。一番蚊帳の外なのは、当事者である堀北であった。

 

「でも、相手は龍園に一之瀬に、もしかしたらAクラスだぜ? ちょっと無理なんじゃ……」

「確かにそれはあると思うよ。代わりに池君がやってみた方が案外上手く行ったりして?」

「い、いや流石にそれはないって」

「誰がやっても難しいとは思うけど、だからこそ他クラスの事を研究して、当然私たちの事もよく理解してくれている堀北さんにお願いするのがベストだと思うんだ。それに! 堀北さんのお兄さんは前の生徒会長さんだよ? もしかしたら、私たちに力を貸してくれるかもしれないよね」

 

 池め、余計なことをと思いつつも櫛田は上手く軌道修正する。堀北が自分が言った通りの人物ではないことも、堀北学が手を貸さないであろうことも、当然理解している。しかし、彼女は嘘は吐いていない。手を貸してくれる()()と強調しているし、他クラスの研究については「Aクラスに行きたい」という旨を口にしているのに研究してない方がおかしいと思った、という論理を使えば信じた櫛田を裏切ったという風にすることが出来る。

 

 推薦人でありながらどう転んでも櫛田は堀北敗戦の被害者になれるのだ。櫛田の評判は下がらないどころか、悲劇の存在になれる。こんなチャンスは滅多にない。十中八九負けると思っているが、何かしらの奇跡があって勝てたとしてもそれは人を見る目があるという評価に繋がって、いずれにしても櫛田の評判は傷つかない。

 

「確かに、櫛田さんの案は良いかもしれないね。僕も自信があるとは言いづらいし……もしよければ、堀北さんに引き受けて欲しい」

 

 堀北は困惑しながら目を白黒させていた。完全に櫛田が自分を罠に誘導していることは理解していた。全種目で敗戦すると司令塔は退学。普通は全種目で敗退なんてことはあり得ないのだが、Bクラスに限っては素のステータスが低い生徒が多い。Aクラスなどが勉強系で攻めてきた場合厳しいことが予想された。

 

 だがここで断れば、二度と上には立てない。勝てないにしても、接戦を演じることが出来れば戦える存在という風になれる。今まで全く運の無い展開の続く彼女にとって、ここが最初で最後の大チャンス。大博打ではあるし、櫛田は絶対裏切る気満々の獅子身中の虫。しかし今しかない。彼女はそう決断した。

 

「分かった。櫛田さんの推挙をありがたく受けさせてもらうわ」

「そうか……! ありがとう、堀北さん」

 

 平田も無事に体裁は取り繕えたことにホッとする。これで司令塔は最低限揃った。平田はリーダーとしての堀北にあまり高評価を出してはいないが、この際そんなことは二の次である。学校側がランダムに司令塔を出し、それが退学という事態は彼のもっとも恐れるところだった。故に、まぁ全敗はしないだろうという程度の信頼はある堀北はありがたい存在なのだ。

 

「嵌められたな」

「……そうね」

 

 横で頬杖をつきながら言う綾小路に、堀北はしばしの沈黙の後に応答した。

 

「あなたは……」

「悪いが、オレは作戦立案を手伝う気はない。本番で投入されたら仕事はするけどな」

「……そう。今はそれだけで十分よ。取り敢えず戦ってはくれるのでしょう?」

「まぁそうしないわけにもいかないだろうからな。オレだってクラスメイトからの心証は気にする。大抵のことは出来るつもりだ。必要ならいい具合に投入してくれ」

 

 やる気のあまり無い声で綾小路は言った。これで一応隣人に義理は通したつもりである。もっと無気力に何もできないと伝えることも出来たが、流石に死地に赴かんとする隣人にそれをするのは少々気が引けたのだ。それに、クラスメイトからの心証が悪いと今後の日常生活に支障が出る。

 

「任せて貰ったからには、勝てるようにしていきたいと思っているわ。倒しやすい敵、というモノは存在しない。であればこそ、私たちに出来る戦いをしていくしかない。このクラスは学力的な平均が低いけれど、それは決して全員が全員出来ないという事を意味するわけではないわ。個々人の強み、一芸に秀でているところを使うことで勝ちの芽も出てくるはずよ」

 

 一応堀北にもちゃんと戦略はある。学力面で勝負するのは厳しい。ただ、櫛田や平田、王や幸村のように出来る生徒はいる。これらを上手く配置すれば、勝ちを拾える可能性もある。運動面では須藤がいるのでバスケは必須。これに勝てる生徒はいない、と彼女は踏んでいた。運動系はCクラスも得意だが、龍園とは協力関係にある。ここでつぶし合うメリットは双方に無い。

 

「何が得意で何が不得意なのか、どう司令塔が干渉すれば勝ちに近付けるのか。私はそれを考えたい。私の知っている事はあるけれど、知らない事もあるはず。平田君と軽井沢さん、そして櫛田さんにはその辺りを教授して欲しいわね」 

「分かったよ」

「うーん、まぁ、いいよ」

 

 軽井沢はあまり乗り気ではない。Cクラスには単純にトラウマがあるし、AD連合とは敵対したくない。ここで万が一彼らに勝ってしまうと心証が悪くなる可能性がある。櫛田も曖昧に頷いたが、堀北に使われる立場になるのは提案しておきながらも不満であった。

 

 だが、ここで逆に考える。自分がこれを漏らしてしまえばいいのだと。Bクラスは何を本命にしていて、この種目には誰を出そうとしているのか。それを漏らさず伝えることで、自分のポイントを稼ぐと共に堀北を退学に追い込めるかもしれない。それを出来る能力が確実にある存在。その人物に、櫛田は一人だけ心当たりがあった。

 

 Aクラスと戦いたい。そうすれば、自分は坂柳を通じて裏切ることが出来る。最悪一之瀬相手でもいい。一之瀬の裏に諸葛孔明がいるならば同じことだ。やる気になっている堀北を見ながら、櫛田は内心で嘲笑う。3月23日の朝日はこの学校で拝めないであろう堀北の悲哀を想いながら。

 

 

 

 

 

 

 そして、対決クラスの決定日がやって来た。坂柳がくじ引き会場に向かった結果、Cクラスがくじを引き当てたらしい。そして彼らが指名したのはDクラスだった。これは大方の予想通り。奇策が得意な龍園は、王道で戦う一之瀬を相手にすることでその隙を突いた勝利をもぎ取るつもりだろう。私が参謀にいるとはいえ、当日は一之瀬が頑張るしかない。それも当然、彼の計算に入っていると思われる。

 

 そしてこれにより、自動的に我々の対戦相手がBクラスになった。綾小路のいるクラスと戦えるとあって、坂柳はいつも以上に生き生きとしている。ただ、綾小路は司令塔ではなく一兵士として戦うらしい。司令塔は堀北だ。真澄さんを経由した佐倉の話では、どうも櫛田に推挙されたらしい。

 

「さて、ここからは本格的にBクラスと戦う戦略を考えましょう。先の話し合いで出された対Bクラス案を中核にしつつ、練っていきたいと思います」

 

 私が全体の前に立つ。先日の対Bクラス案の骨子は「テスト重視」であった。Bクラスは平均値が低い。飛び出た数値を持つ生徒もいるが、それはごく少数。我々の高い平均値を利用すれば、学力系の試験で攻めるのは容易のはずだ、という趣旨である。そして同時に彼らはそれを自覚しているからこそ、一芸頼りに来る。それを粉砕しようという目論見だった。

 

「先日出てきた案についてですが、テストの範囲を広くするという点は葛城君たちの案が良い策であるように考えます。その点、何か反論などあるでしょうか」

 

 ここでは特に手が挙がらない。対Bクラスの案を考えた面子も、対Cクラス案の中にあった良さは認識していたようだ。これがグループ分けのメリットである。一つの事に対し、一つにまとまって考えるのも時には有効である。しかし、グループ分けをすることでより少数になることから、意見の活発化も期待できる。そして、他グループの意見を聞くことで無かった視点や自身の案の改良をすることが出来るのだ。

 

「では、五教科のテストはまとめてしまいましょう。そのうえで、これからアンケートを取りますので、本命とするべき種目を5個、ダミーとするべき種目を5個考えてください」

 

 選択肢は13個に再編されたが、そこに対Cクラス案からいくつか引っ張ってきている。その結果、全部で18個になった。

 

1:国語テスト

2:英語テスト

3:社会テスト

4:数学テスト

5:理科テスト

6:音楽史テスト

7:スポーツ史テスト

8:美術史テスト

9:囲碁

10:チェス

11:将棋

12:カラオケ

13:サブカルチャー史テスト

14:フラッシュ珠算

15:バレーボール

16:リレー

17:麻雀

18:ポーカー

 

 この中から選んでもらうことになる。基本的には票数の多かったものから選んでいくことになるだろう。こんなアンケートで大事な作戦を決めることに不安が無いわけではないが、これまで培ってきた経験と彼らの知性があれば、しっかりと論理的な思考を持って判断することが出来るはずだ。

 

 数分後、悩んでいた生徒たちが続々と投票を行い、結果が集計される。私を除いて41人の票が5つずつの票が集まっていた。

 

<本命候補>

 

1位:カラオケ  41票

2位:英語テスト 38票

3位:数学テスト 35票

4位:チェス   28票

5位:理科テスト 27票

 

<ダミー候補>

 

1位:囲碁     36票

2位:将棋     35票

3位:国語テスト  33票

4位:音楽史テスト 26票

5位:バレーボール 20票

 

 当日になるまで何が本命かは分からない。なので、それっぽいのを入れているが実はダミーでした、という事もあり得る。本命候補とダミー候補が被ることも考えられたが、上位5種目はいずれも被りはない。これまでの議論の中である程度同じ結論が出ていたのだろう。どういうわけか、カラオケが1位になっているのがイマイチ謎ではあるが、まさかAクラスがこれを本命にしてくるまいという印象を抱かせてBクラスを油断させられるかもしれない。その点では有効だろう。

 

 堀北は基本的に融通の利かないくそ真面目な性格をしている。であればこそ、Aクラスは勉学が得意だから自分の土俵で戦うはずだと決めつけてかかる可能性は高い。そうなった時に、本命がテスト系だけだと誤解してくれると助かるのだ。

 

 ただ、チェスは状況に応じて誰を出すかが決まって来る。最後の競技であり、それまでに私の出番がない場合は私を投入すればいいが、そうでない場合は誰か別の人物を投入する必要がある。そこら辺は彼女も考えているらしく、既に策は立ててあるとの回答を得ていた。

 

 

 

<本命>

 

1『カラオケ』必要人数1人 5曲分

ルール:カラオケ(同機種・同一採点モード)を行い、5曲分の点数を合計し高かった方が勝利。同点だった場合は決着がつくまで延長戦となる。曲は機種に登録されている限り自由に選ぶことが出来る。ただし、日本で発売。発表された曲に限る。

司令塔:任意の1曲をもう一度歌わせ、点数が高かった方を採用することが出来る。

 

2『英語テスト』必要人数8人 時間50分

ルール:英語の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見文章&設問とする。採点の都合上、記述式は無し。全てマークシートとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。

司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。

 

3『数学テスト』必要人数8人 時間50分

ルール:数学の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見文章&設問とする。また、証明問題などの筆記試験は無し。全てマークシートのみとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。

司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。

 

4『チェス』必要人数1人 持ち時間1時間(切れ負け)

ルール:通常のチェスルールに準ずる。ただし、41手目以降も持ち時間は増えない。引き分けの場合は再戦とする。

司令塔:任意のタイミングから持ち時間を使い最大30分間、指示を出すことが出来る。

 

5『理科テスト』必要人数7人 時間50分

ルール:1学年の学習範囲内で数学の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見とする。また、記述式は無し。全てマークシートのみとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。

司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。

 

 

<ダミー>

 

6『囲碁』必要人数3人 持ち時間1時間(切れ負け)

ルール:1対1を3局同時進行。ルールは通常の囲碁に準ずる。引き分けの場合は再戦。

司令塔:任意タイミングから持ち時間を使い最大15分だけ指示を出すことができる。(同時並行可能)

 

7『将棋』必要人数3人 持ち時間1時間(切れ負け)

ルール:1対1を3局同時進行。ルールは通常の将棋に準ずる。千日手の場合は再戦。

司令塔:任意タイミングから持ち時間を使い最大15分だけ指示を出すことができる。(同時並行可能)

 

8『国語テスト』必要人数10人 時間50分

ルール:現代文・古文・漢文が内包された国語の問題を解き、合計点を競う。記述式は無し。全てマークシートのみとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。

司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。

 

9『音楽史テスト』必要人数3人 時間50分

ルール:世界中の音楽の歴史に関する問題を解き、合計点を競う。記述式は無し。全てマークシートのみとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。

司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。

 

10『バレーボール』必要人数6人 時間制限10点先取3セット

ルール:日本バレーボール協会の定める通常のバレーボールに準ずる。

司令塔:任意のタイミングでメンバーを3人まで入れ替えられる。

 

 

 ルールも議論の末にしっかり練り上げられたものなった。ダミーのルールもしっかりと設定することで、いずれも本命に見えるようにしてある。司令塔の役目も問題ないレベルに収まっているだろう。知識系なら坂柳は問題ないし、カラオケは代わりに歌うのではなく点数の修正が出来るようにしてある。私はこの後セトリを考えておかなくては。

 

「では、このアンケート結果に従って種目を決定するということで、次に誰がどれに出るのかの基本的な方針を作成してしまいましょう」

 

 その時、坂柳の携帯がメールの着信を告げる。文面を見た彼女は薄く微笑んだ。それは多分にサディスティックさを含んでいる。そして、鈴の鳴るが如き楽しげな声で私に暗号を告げた。

 

金糸雀(カナリヤ)が鳴きました」

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