ようこそ孔明のいる教室へ   作:tanuu

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学べ、さもなくば去れ

『セネカ』


9.過去に学べ

 会議も終わりテスト前の期間に突入している。流石は優等生揃い、まだ突入して2日目なのに真面目に勉強している者ばかりだ。教室、図書館、空いている会議室や教室、誰かの部屋等々。各々の場所で勉学に励んでいる。

 

 そんな中、私は教室の管理をしていた。どういう事かと言われればそのままなのだが、教室で勉強会をやりたい場合、主催者が2人いるので取り合いになる。なので、教室をどちらのグループが使えるか管理している。今日は葛城グループ、明日は坂柳、その次はもう一度葛城……と言った具合に。私は学級委員でも何でもないのだが、その役割を担う羽目になった。そうした方が角が立たないと大勢が判断したのだろう。

 

 羽目になったと言ったがこれは良い傾向だ。私を信頼しているからこその判断だろう。今のところどちらの陣営にも偏ることなく公平に接している。人によって態度も変えていないし特定の派閥ともつるんでいない。これのおかげで中道派の孔明先生という名声は高まるのだ。ありがたい事である。紛争地域で仲介が出来る口利き役や地元の有力者は重宝される。それと同じ現象がここでも起きていた。

 

 その影響か、講師役を頼まれることも多い。これもバランスよく参加することで中立性を保っている。今もこうして講義をしているわけだ。現在は教室で葛城たちの会に参加している。

 

「英語学習は時間がかかります。言語を習得するのに一説では数千時間かかるとも言われています。近年問われるようになってきた四技能。読む、書く、聞く、そして話す。その内最も試験で問われるのは読むと聞くでしょう。ですが、思い出してみて下さい。私たちは日本語を習得する時、いきなり読み書きから始めましたか? そうでは無いですね。口を動かし話すところから始めました。本来英語もそのプロセスでやれたら楽なんですけどね。なので、耳を使ってみましょう。読む練習はさんざんさせられてきましたが、案外話す聞くはやって来ていません。なので、音読もしくはシャドーイング。1日1時間だけでもやれば大きく変わって来るのではないでしょうか。なにより、受験のその先や資格を取る事を考えると出来ないと困りますから」

 

 小テスト満点のおかげで私の発言には説得力が出ている。Aクラスの面子で大きく成績が悪い生徒はいない。だが、勉強法に悩んでる生徒はいる。それを助けた方が結果的に楽だと考えた。現に彼らはふんふんと頷きながらメモを取っている。

 

「勿論、人それぞれ異なったやり方があるでしょう。ご自身に合わせてやってください。ですが、言語学習は反復作業です。継続してやる事が何より大切ですから、毎日続けてみると良いでしょう。そして定期的にアウトプットしてください。使わないと忘れます」

「アウトプットって具体的には?」

「勉強の作業は大きくインプットとアウトプットに分かれます。インプットは単語や公式を覚える事。アウトプットはそれを使う事です。テストもそうですが、教えるはその最上級に当たりますね。教えるという事は自分がその事項に関して完全に理解していると言うことですので、究極のアウトプットと言えます。何はともあれ、自分の勉強法を確立し、春に若干サボってしまった部分を取り返したうえで習慣を作り上げることが肝要かと思います」

 

 この話はどっちの会でもしている。教え合いは正しくやればかなりの効果を発揮する。馬鹿が集まっても意味は無いが、真面目な奴を集めて教え合いをするとすさまじい影響力がある。何より、皆そこそこのプライドがあるのでしっかり勉強する。つまり、教えるのに必要なインプット作業をサボる人間がいないのだ。

 

 というか、本来この辺は学校教師が教えて然るべきなのだが、この学校はAクラスになって試験を受けずに大学へ入る事を生徒に目的とさせている。なので、受験に必要なテクニックやら勉強法を教えていない。センター試験の解き方とかがいい例だ。進学校だと定期テストや小テストで私大の過去問を出したり、授業中に紹介する例があるらしいがそういう物はまったくない。

 

 こう言う形でも他人と交流することで、人間関係が産まれる。3年間同じ面子だからこそ、人間関係を作る事は大切なのだ。

 

「質問良いかな、この文なんだけど……」

「ああ、これは特殊な文型に見えますが、実際は分解するとそうでもありません。まず、ここの文頭に……」

 

 葛城派の勉強会は粛々と進んでいく。終わり際に、葛城から声をかけられる。

 

「諸葛、単刀直入に言う。クラスが2つの派閥に割れているのは理解しているな?」

「ええ。勿論」

「坂柳のグループと、僭越ながら俺のグループだ。この間の話し合いでも分かったと思うが、坂柳の策は攻撃性に富んでいる。他クラスと試験で競うのは仕方ない。だが、故意に他クラスを貶めるような行為は慎むべきだと俺は思っている。それも、学校に咎められる、つまりは犯罪行為を犯させるというのが言語道断だ。俺はお前が仲間になってくれればとても心強いと思っている」

「買い被り過ぎではありませんか?」

「成績は優秀、これまでの体育の授業でも上位の運動神経を持っている。クラス内の多くから支持を受けている。そして、システムを初日で半ば看破しクラスポイントシステムの情報を得て、他クラスを引き離し歴代最高点数を叩き出すのに多大な役割を担った。十分だと思うが?」

「そう評価してくれるのは、嬉しいですね」

「俺には坂柳のような手は思いつかない事もある。搦手に弱いのかもしれないな。だが、お前なら、気付けるだろう。どうだろうか」

「先日、坂柳さんにも同様のお話をいただきました。その時と同じことをお返しします。ありがたいお言葉ですが、今は承諾しかねます。最低3回は勧誘していただかないと、とね」

「……なるほど、三顧之礼、か。その名に相応しいな。分かった。結果を出してからもう一度お願いするとしよう」

「楽しみにお待ちしています」

 

 勧誘はこうしておけばしばらくは防げる。坂柳も葛城も、明確な結果を出してからでないと2回目の勧誘が出来ないからだ。このままの中立派を貫ける。そして、明日は坂柳派だ。場所は変わらず教室。ここまで勉強会などで評判を稼いできたわけだが、このままというのも芸がない。と、いう事で先輩にコンタクトを取った。

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。先輩を食堂に来てくれないかとお願いしたわけだが、快く引き受けてくれた。この前のクラスポイントシステム看破とその前の親切心(という事になっている)によるお手伝いが功を奏して、概ね好印象のようだ。

 

「すみません。呼びつけるような事をしてしまって。生徒会のお仕事も忙しいとは思ったのですが、お会いする方法がわからなくて……」

「いえ、気にしなくて構いませんよ。それで、今日はどうしましたか?もうすぐ中間テストだと思うので、それ関連とは予想しているのですが」

「流石、ご慧眼です」

「でも、諸葛君はAクラスですので勉強で困っている、という訳ではなさそうですが」

「はい。私自身は特に苦労しておりません。ですがまぁ、念には念をと申しますので、もしお持ちでしたら一年生の時のテストの過去問を送って下さると嬉しいのですが。勿論、それ相応のお礼はさせて頂きます」

「……過去問ですか」

「あぁ、マズかったですかね。私の出身中学では普通に取引されていたもので。問題は異なっていてもこういう問題が出るんだ、という参考にはなりますし、効率のいい勉強が出来るんですよ。まぁ正当な手段かと言われれば微妙ですが、赤本が世に出回ってるんですし、悪い事ではない筈です。どうでしょうか?」

「分かりました。お渡しします。その代わりに条件があります」

「なんでしょうか。私に出来る事であれば、何なりと」

「そう身構える事ではありません。堀北会長と会って頂きます。そして、今回の中間だけでなく今後の期末などの定期テスト全てを渡します。なので、それらを合わせて10万ポイント。本来は15万ほど請求したいですが、おまけです。それでどうでしょうか?」

 

 それをすることで彼女になんのメリットがあるのか。情報が少ないので、正確な事は予想できない。ただ、神室真澄が集めた情報によれば、堀北生徒会長は保守派。その反対に南雲生徒会副会長は革新派という。そしてどう考えても橘茜は堀北派だ。だとするのならば、政争の道具に使われる可能性がある。

 

 部活に興味が無かったのと、神室真澄捕獲作戦のために部活動紹介に行かなかったが、行った人間の話によれば生徒会は立候補をこの春の時期受け付けているという。また、既存役員からの推薦枠もあるようだ。政争の道具に使われたとしても、特に不都合はない。それに、いつかは接触しないといけない相手だった。ならばいいだろう。金はある。失敗の代償が退学のテストならば10万でも安いだろう。まぁ、増やす方法も考えている。

 

「……その条件でお願いします。お金は現物を頂いてからお支払いします。問題ありませんか?」

「はい、大丈夫です。私のテストは部屋に戻らないと無いので、夜になります。それと、会長との面会ですが……予定を見る限り、来週の火曜日と木曜日が空いています。そちらはどうですか?」

「火曜日でお願いします」

「分かりました。来週の火曜日の午後5時、生徒会室に来てください。場所は分かりますね?」

「はい。把握済みです。取引を受けて頂いてありがとうございます」

「こちらこそ、良い交流になりました。では、約束の時間にお待ちしています」

 

 そういうと、先輩は仕事に戻って行った。申し訳ない気もするが、逆に言えば生徒会の仕事を中断しても会う価値があると判断されたという事になる。それは大変都合の良い事だった。この複雑怪奇な学校で生きる上で2年間ないし1年間生き抜いてきた先輩の経験は役に立つ。そういう人物たちと繋がりを作るのは悪い事ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去問売買契約を結び、その日の放課後は坂柳グループの会だった。ここにも優秀な人材が多くいる。坂柳は初動が早い。なので、側近ともいえる層が既に形成されていた。

 

「本日は来ていただきありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

 

 彼女は私の前では丁寧さを前面に押し出している。理想的な君主であろうと努めている。それも勧誘に必要なことだと考えたようだ。

 

「孔明先生、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「はい、どうしましたか、中島さん?」

「私、社会が苦手でさ。ちゃんとノートは取ってるし先生の言ってることは分かるんだけど、いまいち伸びなくて」

「なるほど……ちなみに今ノートは持っていますか?」

「あ、うん。―――――はい、これ」

「ありがとうございます」

 

 ノートを見ると、特徴に気付く。

 

「なるほど。色分けが多いですね。これ、減らした方が良いですよ。色ペンやマーカーを多用するのはまぁこれも個人差はありますが、あまりお勧めできません。綺麗なノートを作る事に集中してしまい、内容をかみ砕かなくなるからですね。まとめノートにも同じことが言えますが、目的意識を持って授業に臨まないと内容は入ってきません。特に苦手な教科なら」

「うう……どうしたらいいと思う?」

「まずは授業用のノートに使うペンを減らすことからです。黒のシャーペン、赤ペンがあれば大丈夫です。青でも良いですけどね。あと、教科書を真っ黄色とか真っ赤にマーカーで塗るのも逆効果になりかねません。どこが大事なのかの取捨選択をした方が良いかと」

「でも、どこが大事か分かりづらいな」

「授業中に先生が強調しているところが主ですが、分からなければ質問に行きましょう。答えてくれるはずです。というか、それが仕事です」

「ありがとう!最後になんだけど、孔明先生のノートも見せてくれない?」

「参考になるかは不明ですが」

 

 ノートを渡す。正直、公立高に在りがちと聞くノート提出があった場合弾かれそうな出来だ。

 

「変わってるね、この形式」

「少し見せて下さい」

 

 全体の様子を見ていた坂柳が横からスッとのぞき込んできた。中島さんの発言で興味を持ったのだろう。なお、彼女はいたって真面目に授業を受けているので、シンプルながら綺麗なノートをとっていた記憶がある。隣の席なので、チラリと見える。もっとも彼女は私の方は見ていない。何故なら彼女は席の方が黒板に近い=視線はこちらを向かないからだ。

 

「ああ、これは樹形図ですね。大学生などが良く使っている印象ですが」

「社会は得意科目ですし、今更新しく教わる事もほとんどないので、確認がてらこんな感じにしています。黒と青しかペンは使ってないので、凄く地味な上に字も行書体ですからね。慣れないと見にくいと思います。数学とかもこんな感じですよ」

「青なのには理由があるんですか?」

「青色の方が覚えやすいと聞いたもので。後、個人的に赤は嫌いなんです」

「なるほど…」

「私としてはこの右側が気になりますけどね」

 

 中島さんの疑問に答えていると、坂柳が差したのは見開きのノートの右側。授業では板書されていないことを書いているページだった。

 

「ああ、これは過去問です。大学の。その授業と関連する大学入試の過去問を引っ張って来て、右側に書いてます。むしろこっちが本命だったりしますね。センターから東大京大一橋、旧帝に早慶上理、GMARCH、ICUとかの過去問で頻出という事は、そこが問われやすく重要だと言う事になりますし」

「Aクラスで卒業したらいらない事だと思いますが」

「卒業しても勉強はそこで終わりじゃありませんし。それに、備えあれば患いなしです。まぁ私は多分Aクラスで卒業できると確定しても普通に受験すると思いますけど。そっちの方が勉強のモチベーションになりそうですしね」

 

 それ以外にも理由はあるが。そんな私を坂柳は面白いものを見るような目つきで見てくる。私たち2人のやり取りをほへーと見ていた中島さんはハッとしたように私にノートを返却した。

 

「見せてくれてありがとう。もうちょっと工夫の仕方を変えてみるね」

「はい。自分なりの学習法を見つけられるように頑張って下さい」

 

 そう言うと次の人の質問に移っていく。男女問わずに話しかけられるのは、そこそこコミュニケーションをとれている証だろう。中立派というのも案外悪くない。自分の派閥のリーダーに向ける信頼とはまた別ベクトルの信頼を得られている様に思えた。

 

 

 

 

 

 この学校はつくづく色々なモノが置いてある。また、色々な店がある。普段授業中は閑古鳥が鳴いているだろうに、その電気代などは全て国費で賄っているのだろう。経済大国日本の財政からすれば雀の涙かもしれないが、ムダ金という見方を免れることは出来ないと思う。

 

 田舎には無い、無駄に広いドラッグストアの棚を前にして、私はそう思った。この煌々と光っている蛍光灯の光や、この広い空間を満たすために必要な空調、或いは絶対に完売することはないだろうから適度に廃棄しないといけない商品群。絶対に利益など出るはずの無い店舗が何重と軒を連ねている。ゴーストタウンのようでもあるが、それでいて営業だけは元気にしているのが不気味でもあった。

 

「おや」

 

 その声に振り向く。藍色の髪をした少女がこちらを見上げていた。彼女の名前は知っている。何故なら、同じクラスの生徒だからだ。その存在はAクラスの中ではある意味異端者だろう。どっちつかずでフラフラしていることが多いが、どちらかと言えば坂柳に近いかもしれない。慇懃無礼と言うべきか、口調は丁寧だが、相手の事情をあまり考慮せずに自己都合で話を進めたり、歯に衣着せぬ発言や毒舌を吐く存在だ。名前を森下藍。その名の通り、藍色の髪をしている。

 

「奇遇ですね、諸葛孔明」

 

 このフルネームで名前を呼ぶ癖も、特徴の一つだった。

 

「それとも、私も孔明先生とお呼びした方が?」

「いえ、お好きなように」

「そうですか」

 

 彼女の視線は私の持っている買い物かごの中に注がれた。

 

「口紅?」

「はい、そうです。普段から付けてるのはご存知と思っていましたが」

 

 人間の唇は自然に桜貝色になったりしない。この色が好きだから使っているだけで、他にも色々と種類は持っている。今の時代は便利になった。コスプレ専門店に行けば、大抵の用具は手に入るし、ドラッグストアもこういう大きい店になればなるほど、置いている商品の種類も多い。

 

「その割には種類が多いですね」

「使う機会があるかもしれませんので。仕事で使っていたので、慣れているのです」

「仕事。俳優ですか? それともコスプレイヤー?」

「まぁ、そんなところです。コスプレイヤーが仕事なのかはともかくとしておきつつ」

「その髪も橋本正義のように染めているのかと思いまして」

「いえ、これは地毛ですよ」

 

 私はハーフなので、こういう髪色になっている。別に染めているわけではない。染めることも出来なくはないけれど、あまり好きでは無かった。とは言え、青みがかったこの色では目立つので、時折黒かそれっぽい色にしているのだが、東京は素晴らしい。青どころか紫でも虹色でもそこまで誰も気にしていない。ここまで他人に無関心な都市もそうそう無いだろう。

 

「森下さんは、何か困っていることなどありますか? もしありましたら、何でもおっしゃってくださいね」

「この学校にカブトムシが来るのかどうかは気になっています」

「コンクリートジャングルと東京湾に囲まれていますから、難しいかもしれませんね」

「それ以外は特には。しかし、どうしてそんな事を? 諸葛孔明は博愛主義者でしたか?」

「いいえ。ただ、先生などと呼ばれているとどうしても。名は体を表すとは言いますが、名前に引っ張られることもままあるモノです。それに、私はこういう事は向いているようですから」

「そうですか。まるで貴重な休みにクソゲーを消化しているみたいな人生ですね」

 

 休み、という言葉に一瞬答えが出ない。確かに私のこれまでの人生と比べれば、ここでの三年間など休みみたいなものだろう。いきなり殺し合いでも始まらない限りは、少々不自由な休暇と言っても差し支えはないかもしれない。ここでの様々な出来事が彼女の言うクソゲーであるかは、まだ始まって間もないので分からない。願わくばその反対であってほしいが。

 

 彼女はフラフラとまたどこかへ去っていく。自由な人間だ。果たして彼女はクラスの決定事項に従ってくれるのだろうか。一応Aクラスでの卒業に興味はあるだろうし、この前の話し合いにも参加していたので、行動は自由でもやることはやる、という事なのだろう。そうであって欲しいと思う。わけわからない事をする存在の相手は慣れている方ではあるが、出来ればもっと分かりやすい方が望ましいのも事実だった。私のここでの部下のように。

 

 

 

 

 夜になると、ピロン、と携帯から音がした。見れば、橘茜からの連絡。PDFファイル化した5教科10科目(現代文、古典、コミュニケーション英語、英語表現、数学Ⅰ、数学A、化学基礎、物理基礎、世界史A、日本史A)のテストの問題と答えだ。これが1年生の間の分全部。更に、前回の小テストもついている。終わったテストを何故……と思ったが、問題を見ると全く同じだった。という事は、過去問と同じ問題が出る可能性が高い。更に、問題をよくよく見ると、提示されているテスト範囲外の事項を問う問題がある。テスト範囲も変わる可能性が大だ。では、これをどうするか。自分で使うのは勿論だが、それだけではない。Aはともかく、下のクラスになればなるほど成績不振者が集められている。つまり、退学のリスクが高い。この過去問に縋る人間も多いだろう。それはイコールで売れるという事だ。不安を抱えた人が多い今、これは有効な武器になる。

 

 10万を払うのを了承したのも、リターンが見込めたから。利敵行為になりそうにも見えるが、それに対する反論は用意している。それに、他のクラスの生徒も観察対象だ。簡単に退学されても困る。特にDクラス。成績不振だったりする生徒を何故学校が合格させたのか。その理由を知るまではいなくなられては問題だ。売る相手を選ぶべく、神室真澄に連絡する。

 

「もしもし? 何の用?」 

「知っていればで良いから教えろ。B、C、Dの取りまとめ役みたいなのはいないのか。いたら誰なのか」

「Bは簡単。一之瀬帆波ってやつ」

「名前は知ってるが……」

「ストロベリーブロンドの明るい感じ。行けば分かる。あと胸が大きいからそっちでもわかるかも」

「最後のは心底どうでも良い。性格面はどうなんだ?」

「善人って評判だけど」

「なるほど。ただの善人ならまぁ良いが。分かった。Cはどうだ」

「分からない。一番秘密主義かもしれないわ」

「ああそう。なら、Dは?」

「あんま詳しくないけど、具体的なリーダーって言うのはいないっぽいとは聞いた。強いて言えば平田って男と櫛田って子ね。平田はサッカー部らしい。後、モテてる。性格までは知らない」

「あぁそう。そんな奴でもD、か……」

「思考にふけってるところ悪いけど、続けるわよ。櫛田って子は一之瀬と同じような感じらしいわね。明るく社交的ってさ。あと胸が」

「だからそれはどうでも良い。まぁ、概ね分かった。それと、話は変わるが勉強ははかどっているか?」

「そこそこじゃない? なんで」

「過去問を送るのでそれで勉強しろ」

「は? まぁ良いわ。あんたに色々聞いても面倒だし、くれるって言うなら貰っておく」

「そうか。では、後で送る。ああ、それと」

「なに? まだ何かある訳?」 

「私の中で君の呼称についてどうするか悩んでいるのだが、何て呼ばれたい?何も希望が無いとパシリと呼ぶが」

「別に何でも良いわよ。常識的な範囲なら」

「なら適当に考えておく。では、引き続き勉学に励んでくれたまえ」

 

 そう言って電話を切る。まぁ名前の呼び方なんてのは何でも良いだろう。ついでだったから一応本人の希望を聞いてあげたがなんでも良いと言うのならお望み通りそうしてやろうではないか。神室真澄なので、神室さんでも良いのだが、それだと他と同じだ。差別化が必要だろう。なので、まぁ真澄さんとかで良いか。これが楽だろう。下の名前で呼び捨てはあまり好きではなさそうだし、あらぬ誤解を呼びかねない。

 

 それより大事なのは他クラスの情報だ。Cは後回し。そしてまた名前を聞いた、櫛田と一之瀬。前にクラスメイトが話していた。性格が明るく社交的で他クラスとも交流が多い。なら、こいつらにコンタクトをとるのが早いだろう。まとまりのないDよりも先にBから行ってみるか。取り敢えず明日のするべきことは決まった。Bクラスを訪ねる。どういう人物かを見定めることが出来れば楽だが、そう簡単にはいかないだろう。ただの善人か、それとも私と同じ穴の狢か。それくらいは見極められるはずだ。

 

 

 

 ピロンともう一度携帯が鳴る。誰からだろうと思っていると、神室真澄からメールだった。

 

『一応私が持ってる連絡先を渡しておく。今クラスメイトから教えてもらった。一之瀬と櫛田のだけだけど』

 

 こう書かれた本文の下には2件の連絡先。『助かる』と返し、一之瀬帆波という生徒宛にメールを送る。

 

『突然のご連絡をお許し下さい。一之瀬様に重要な用事があり、同級生から連絡先を教えてもらいました。ご不快に思われましたら大変申し訳ございません。ですが、Bクラスのためになる取引のお話があります。決して悪い話ではないと確信しております。お時間よろしければ、明日の放課後教室でお待ちいただけると幸いです。1年Aクラス、諸葛孔明』 

 

 しばらくした後に返信が来る。

 

『分かりました。明日、待ってます』

 

 取り敢えず交渉のテーブルには着いてくれそうであることが分かり、計画通りと口角を上げた。




<報告>
 他クラスとの接触フェーズに入る。能力把握、また学校の求めている人物像の把握が可能になる事と思われる。また、赤点退学システムにも裏が存在し、過去問入手によって免れることが可能。恐らく今まで勉学に励んで来なかったため基礎学力の足りないDクラス生徒を救済することがメインの目的と思われる。その証左に今期中間考査の試験問題は恐らく例年同じである。とは言え、落とし穴として予期せぬタイミングでテスト範囲変更がある可能性大。
 生徒会長との接触機会を得る。優秀と評判のため、用心して臨む。また、橘茜の情報提供に感謝する。引き続き、よろしく頼む。

<要求>
 要求ではないが、支援状況は変わらないか。

<返答>
 用心に用心を重ねて挑まれたし。また、貴官への支援は変わらない。引き続き励まれることを期待する。
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