黄龍さんの間違いでは?   作:メケ子

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第零話 龍之刻 6

誰かの嘆きが聞こえる。

きっと、これは夢だ。夢なんだよ。

 

 

『宿命の星がーー。再び天に姿を現すその時まではーー。』

 

 

その言葉で意識が戻ったのを感じる。

見渡すと見慣れない部屋と布団。

あ、そうか。鳴滝さんの所に行って、道場に泊まらせてもらったんだ!!

 

光が漏れ出ているのを見て、そちらへ向かう事にする。

扉を開けると、私に気付いて鳴滝さんが振り向いた。

机で何か書類を書いていた。

 

 

「眠れないのかね?私も仕事があってね…。今夜は徹夜になりそうだ。」

 

 

確かに、目が冴えてこのままでは眠れないかな。

鳴滝さんが隣に座布団を置いてくれる。

甘えさせてもらい、座布団に座ると鳴滝さんも休憩するのか私の方を見る。

 

 

「龍麻さん…。君は強くなりたいという願望はあるかね?」

 

「…はい。あります。」

 

「何のために?強くなってどうする?」

 

 

きっとこの質問は私の為であって、私の為ではない。

鳴滝さんの中の疑問なのだろう。

 

 

「人を…、家族や友達はもちろん。他人を護る為に。」

 

「他人を…?そんな事を本気で考えているのか?そんな事が本当にできると…。」

 

 

戸惑う様に揺れる眼を見続ける。

きっと、私の言葉は別の人の言葉に聞こえるのだろうな。

 

 

「それでは、もしーーもし仮にだ…。君の大切な人が、今回の事件に巻き込まれたらどうする?相手に勝てないとわかっても闘うかね?」

 

「はい。救います。」

 

 

私の言葉に耐えきれなかったのか、鳴滝さんは言葉を荒げる。

 

 

「誰かを護るために自分の命を賭けるなんて馬鹿げているッ。誰かをーー何かを護るために死ぬなんて愚かな行為だ…。

後に残された者の気持ちを考えてみろ。その者たちの想いをーー。

お前は、それを、どうやって、受け止めてやれるんだ…。お前は…ッ…。」

 

 

その言葉は、父さんに言いたかったのだろう。

どれだけ慕われ、どれだけ傷つけたんだ。あんたは…。

こんなに苦しんでる人を、あと何人残したんだよ…。

 

 

「…すまない。」

 

 

冷静になった、鳴滝さんから謝られる。

私は、今、自分で言った言葉を曲げるつもりはないので素直に頷くだけで返した。

 

 

「不思議だな…。君と話していると、まるで弦麻と話しているようだよ。」

 

「眼は父さん似だと言われましたけど、頑固な所も似たんですかね…。」

 

 

長くしている前髪を上げ、鳴滝さんを見直す。

本当に懐かしそうに、見つめ返してくれるにが分かる。

 

 

「私は、君には平穏な暮らしをして欲しいと思っている。それがーー私が、弦麻と迦代さんから託された願いなんだ。」

 

「はい。」

 

「何かを護ろうとすればそれがかけがえのないものであるほど、人は、大きな代償を支払わなければならない。

君には、そういう生き方をして欲しいとは思わない。」

 

 

そう話した後は、明日の学校の事を話し、寝るように言われる。

布団に戻った私は、鳴滝さんの言った言葉を考える。

 

鳴滝さんは、父さんと母さんの言葉を護ろうと、私を護ろうとしてくれている。

でも、私自身の意思はーーきっと、やっぱり闘う選択を選ぶだろう。

 

 

 

1997年12月18日

 

道場から急いで家に戻り、今日の学校の準備をしてから学校へ向かう。

置き勉でもしとけば良かったかな…。

 

 

「ひーちゃん。」

 

 

ここ最近になって聞き慣れた声が私を呼び止める。

振り返れば、予想通りにさとみがいた。

 

 

「おはよ。」

 

「うん、おはよッ。比嘉くんが一緒の訳は…ないわよね。」

 

 

少し落ち込んだ様子で焚実の事を探す。

どうやら、さとみも昨日から会えていないらしい。

 

詳しく聞くと、あれから心配になったさとみが家に電話をかけたが、焚実は家に帰ってはいないらしい。

その為、早めに学校へ行き、校門で待つ事にしたのだ、と。

 

そんな話をしていると、校門から見覚えのある姿が出て行く。

焚実だ。

それに気付いたさとみが追いかけようとするのを、着いていく事にした。

 

 

 

着いた場所は、明日香公園だった。

そこで焚実を見失い、二人で辺りを見回す。

 

 

「青葉ーー。」

 

 

急に声をかけられて、驚き、声を出しながら振り向くと前に女子生徒に絡んでいた男子生徒達が立っていた。

 

 

「一緒に来い青葉。」

 

「なッ、何でーー。」

 

「沙草さんがお呼びだ…。」

 

 

その言葉を聞いた瞬間にさとみの前に立つ。

前に女子生徒に絡んでいた時よりも、気が大きくなっているのか馬鹿にするように笑う。

 

 

「どけッ邪魔をするとお前も痛い目に会うぞ。」

 

「無理矢理友達を連れて行こうとする相手に、言うこと聞く必要はないと思うけど?」

 

「何だとォ…。」

 

「女のくせに、生意気言いやがって…。少し、痛めつけておくか。」

 

「馬鹿な奴だぜ…。へっへっへ…。」

 

 

そう言って拳を振り上げる相手に素早く近づき、顎を狙って掌底を打つ。

油断していたのか、一発で気絶した

驚いて動けないでいる後ろに立っていた男子を蹴りを入れて吹き飛ばす。

残りの1人が、焦りながら私に向かって来るのを冷静に見ながら腹に掌底を叩き込み気絶させる。

 

 

「ふぅ…。」

 

 

少し熱くなった体を冷ます為に深呼吸をする。

 

 

「ひーちゃん…。」

 

「くッこいつ強ェ…。」

 

「うゥ…。」

 

 

 

呆然としているさとみの側へ近づき、学校へ戻ろうとすると焚実が現れる。

驚いたさとみの無事を確認すると、表情を和らげている。

 

しかし、そこに莎草が現れる。

青褪める焚実とさとみを笑いながら、痛みが落ち着いたのか立ち上がる男子生徒に命令する。

 

 

「おいッ、青葉を連れて来い。」

 

「え…?」

 

「やッ止めろッ、莎草ッ!!」

 

「どういうつもりかな…?見物だけで満足したら?莎草。」

 

 

騒ぐ私たちを無視する莎草に対して、動こうとする焚実に脅しをかける。

あの不思議な力を使おうとしているのが分かる。

そして一言。

 

 

「やれッー。」

 

「あッ比嘉くん危ないッ!!」

 

 

その瞬間に後ろに回り込んでいた男子生徒に殴られる。

呻く焚実に続けて蹴りを入れて動けないようにする。

それを見て、焦ってしまった私は他の人の動きに気付けなかった。

 

 

「緋勇…後ろだ…。」

 

 

焚実の言葉を聞いた時には後ろから頭を殴られていた。

グラグラする意識の中でさとみの悲鳴と焚実の悔しそうな声が聞こえた。

そして、もう一度殴られた私は完全に意識をなくした。

 

 

 




戦闘描写に悩んだりしてたら、リアルがまた面倒な事で遅れましたー。
これからの戦闘描写は似た感じになってもどうか許してほしいです。
本当はゴールデンウィーク中に更新する予定だったんです。申し訳ない!!

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