廃屋へ着いた時には、月が高く昇っていた。
入り口から中に入ると、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、焚実が少しボロボロの立っていた。
「よくここがわかったな?」
「ちょっとした、伝手かな。」
「そうか、莎草の奴が、さっき奥へ入っていった―。さとみもきっと、そこだ。」
「じゃ、入ろっか!」
お互いに顔を見合わせてから、覚悟を決めて奥へと進む。
奥は先程の場所より暗く、よく見えない。
足下に気をつけながら、奥へ、奥へ……。
「あれは…」
先を進んでいた焚実の声に目を凝らす。
さとみがそこにいた。
しかし、彼女はまるで拘束されているかのような体制で服が少しはだけていた。
さとみの名前を叫び、近寄るが彼女は意識がないようだ。
「何だ、これは……。何も見えないのに、まるで何かに吊られているような…いったい、これは……。」
「!……焚実、気を引き締めて。莎草だ。」
莎草は笑いながら、ゆっくりと現れる。
まるで、私たちを脅威になんて思ってないかのように。
「莎草ッ!!お前ッさとみに何をしたッ!!」
「まあ、同意って訳じゃないよね、趣味悪い……。」
私たちの言葉に対して笑い声を上げながら異様な雰囲気を放つ。
その瞬間に焚実が息を飲む。
「目障りなんだよ…比嘉。」
「くッ…。身体が…動かない。」
咄嗟に焚実を助ける為に、動こうとするのを莎草が止める。
「ちょっとでも動いたら、こいつもそこの女もどうなるか、わかってんだろうな?」
「っ…。」
「いくら足掻いた所でお前らは俺には敵わない。平凡なヒトであるお前らは俺に勝つ事などできない。」
莎草はそのまま続ける。
自分には<運命の糸>が見え、操る事が出来る。
明日香学園に転校する前に、その<力>で人を殺した、と。
その話を笑いながら誇らしげに言う莎草は狂ってるように思えた。
そして<力>を見せつけるように焚実の腕が勝手に動き出す。
「うッ…腕が勝手に…。」
焚実はまるで自分の手で自分の首を締め上げている。
それを、私は見ているしかできない。……。
本当に……?
「そらそら、締まるぞ…。比嘉を始末したら、次は、緋勇―お前を始末してやる。」
「……くだらない。」
「あァ?」
「操るだけ操って、自分で手を出す訳でもない。お前は何も変わってないよ、莎草。」
莎草の顔色が変わる。
焚実に向けていた手を下ろして、私に向き直る。
息苦しさから解放された焚実が、咳をするのを安心しながら見る。
「そうか…わかったよ。貴様から、先に始末してやるぜ―――緋勇ッ!」
「ぐゥッ……!」
先程の焚実の様に、勝手に手が自分の首を締め上げていく。
酸欠になり、薄れる意識の中で莎草の高笑いが聞こえる。
ここで、……ここで私が死んだらさとみや焚実はどうなる……。
鳴滝さんとの約束は……どうなるんだッ……!!
「誰も俺を止める事などッ……!?」
莎草のが自分の勝利を確信した時だった。
もうすぐ死ぬはずだった、少女から強い<力>を感じ取った。
目醒めよ―――
「なッ何だ、この光は――ッ!!」
目醒めよ―――
「くッくそッ!!俺の<力>で操ってやる!!操って――ッ!?」
莎草は信じられないモノを見る目で、龍麻を見つめる。
見えない。
今まで見えて操っていた、少女の糸が、見えないッ!!
「さ……のくさ……。」
「ひィッ!!俺は<力>を手に入れたんだぞ、俺は――。」
少女の普段隠れている眼が見える。
黄金のような光が見える。
少女の声に自分が怖気づいてしまうのが分かってしまった。
「お前なんかに…負けるわ…け…」
認めてしまった瞬間だった。
空気が変わった。
今まで自分の<力>だったモノが、自分に牙を向く。
「うッ…ぐおォォッ!!あ…頭が…割れる…グオォォォッ!!」
「莎草……?」
呻き苦しむ莎草の姿がどんどんと変わっていく。
まるで、一本の角を持つ青い肌の鬼。
「グオォォォッッッ!!」
まだ動けないさとみと焚実を護る為に、龍麻は前を向く。
もはや、言葉を話せなくなった同級生を見つめる。
人ならざる存在、<魔人>との初めての戦いだった。
多分、龍麻の初めてのトラウマでございますね!