ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース 作:ゲオルギーJr
「あぁ……」
中立高校での会談を終え、母校に帰った継続高校の生徒会長。
強いストレス状態で、ヨロヨロとした足取りである。
「私はこれからどうすれば……」
絶望の表情で会長室の席に座る会長。
ちょうどそこへ一本の電話がかかってきた。
「こんなときに……?」
弱弱しい手取りで受話器を取る。
そこから流れてきた声は、つい先程聞いた声と同じだった。
「プラウダの会長ですか?……え?最後通牒……?」
この一本の電話が日本空戦道史上最大クラスの戦い。
その幕開けを予兆させる電話だった。
*
「先輩、予想的中ですね」
聖グロリアーナの学園艦──―。
予感通り会長に呼び出しを受けた二人は、会長室に向かっていた。
「何でこうも、悪い予感ばかり的中するのかしら」
サザーランドの予感、それは生徒会長幸子の性格を知ったうえでのものだった。
以前あれほど大洗へ行けだの、サンダースへ行けだの言っていた人間が、急に静かになる。
そんなことはあり得ない、何か企んでいるはずだ。
事実、その予測が当たっているからこそ、今こうして呼び出されているのだから。
「着きましたね」
会長室の扉の前に到着した二人。
「ん……?誰かしら?」
そこには会長ではない、別の人物がいた。
空戦道で戦闘機に搭乗する際に着るジャケットをしている。
どうやらサザーランド達と同じ聖グロのパイロットのようだが……。
「あら、サザーランド。貴方もいらしてたんですの?」
典型的なお嬢様言葉を話す生徒。
「……こんなところで出会うとはね」
「その言葉、そっくり貴方にお返ししますわ」
二人の間を妙に険悪なムードが流れる。
それを感じたメイヨーは必死のフォローを試みる。
「えーっと……。初めまして。私、一年生でメイヨーっていいます」
「メイヨー?ああ、噂は聞いてますわ。サザーランドに可愛がられているんですの?」
鋭い視線をその生徒から向けられるメイヨー。
たまらず先輩に助け舟を求める。
「先輩、この人って……?」
「ウェリントンよ。一応この学校で二番目に強いパイロットね」
「
ウェリントン──―。
この聖グロリアーナにてサザーランドに次ぐ実力の持ち主だ。
ジャケットの背面には14の数字と<WELLINGTON>の文字が確認できる。
「今は二番手でも、いずれエースの座を奪ってみせますわ!」
「あらそう。精々頑張ってね」
サザーランドとウェリントンの間に漂う嫌悪感。
それはエースの称号を巡る対立が原因だった。
エースパイロットとはその学校で最も多くの撃墜数を挙げている人物のことを指す。
つまり、戦果に応じてエースの座が変わることもあるのだ。
故にエースと二番手のパイロットの間にはピリピリした空気が流れやすい。
「まあまあ、先輩方は同じ学校のパイロットですし、ここは仲良く……」
「それが出来たら苦労しませんわ!」
「ええ、まったくね」
何とも言えないギスギス感がありながらも、三人は会長室に入った。
*
「来たか。ウェリントンもいるな」
生徒会長の幸子はいつも通りの椅子に座っていた。
「わたくしが呼ばれるのは珍しいですわね」
基本的に生徒会長から呼び出しを受けるのはエースであることが多い。
エース以外のパイロットが名指しで指名されるのは異例の事だった。
「そうだな。今回は大事になる気配がするんでな」
「そんなに凄い出来事が?」
「ああ。これを見てくれ」
すると幸子がとある新聞の記事を出した。
「こいつはさっき出版されたばかりの今日の夕刊だ」
その記事の見出しに大きな活字が躍っている。
ご丁寧に速報の前置き付きだ。
「速報、継続とプラウダ間の交渉決裂……?」
「そうだ。その二校が今回の問題だ。三年生の二人は周知だろう?」
「北の火種ですか……」
「ついに爆発するんですの?」
継続高校とプラウダ高校は昔から中の悪い学校同士で有名だった。
両校とも北日本を中心に活動しているため、北の火種とも呼ばれていた。
「すみません、私は継続高校もプラウダ高校も知らないんですけど……」
「おやまあ、サザーランドは後輩への教育がなってませんわね?」
「大きなお世話よ」
継続高校は石川県に、プラウダ高校は青森県に母港を置く学園艦だ。
それぞれフィンランド人とロシア人が開校に携わっている。
プラウダの方は日本屈指の巨大校だが、継続の方は小規模な学校だった。
「へえ。でも何でその二校は仲が悪いんですか?」
「仲が悪いというより、プラウダ側が一方的にケチを付けてる印象だわ」
「その通りだサザーランド。プラウダにとって継続は都合の悪い存在なのだ」
航行する海域が比較的近い両校は昔から衝突が絶えなかったらしい。
戦闘機による空戦もしょっちゅう発生しているようだ。
「でも、平常運転じゃないですか?この程度なら……」
「いや、今回に限ってはそうはならない予感がするのだ」
対立する二校の会談が失敗に終わる程度なら、そこまで珍しいことでもない。
だが幸子は今回ばかりは違うと言う。
「と、言いますと?」
「現在、プラウダ側には継続を攻める明確な理由が二つ存在している。言わば大義名分だ」
「大義名分?物騒な話ですわね」
プラウダが継続に対して、何か行動を起こす理由が二つあるという。
「一つ、今年プラウダ高校は開校百周年の節目だ。それに合わせて何かしでかす可能性は否定できない。長年対立する学校を潰しにかかっても、おかしくはないだろう」
「なるほど、節目の年ですか……」
開校百周年の節目。それが一つ目の理由だった。
「だが肝心なのが二つ目だ。私はこれが一番危険だと考えている」
すると幸子は戦車の模型を手に取った。
「戦車というと、戦車道ですか?」
「そうだ。この戦車こそ、今最も注目されている要因だ」
二校の対立に戦車が関わる理由、そこがポイントだった。
「少し前の出来事だが、プラウダ高校の戦車一両が、ある日突然消失したらしい」
「戦車が無くなったと?」
「ああ。しかもそれは、継続高校と合同で戦車道の練習試合をした後に消えたようだ」
合同試合の直後にきえた戦車。
犯人の予想は難しくないだろう。
「ということは、継続側が戦車を盗んだとでも?」
「その確率は極めて高いだろう。事実、プラウダから鹵獲したと思われる戦車を使用している場面がいくつか目撃された、との情報も入っている」
どうやら継続高校の戦車道のメンバーが戦車を盗んだのは、ほぼ確実のようだ。
「今回、中立高校で開催された会談も、この戦車を巡る話し合いだったらしい」
「それが決裂した、という事ですわね」
「つまり、継続側は盗んだ戦車を返すつもりはないと?」
「そこまでは分からん。会談の具体的な内容までは報じられていないからな」
部外者には、戦車を巡ってどのような交渉が行われたかは明らかにされていない。
「でも、たかが戦車一両ですよね?プラウダはたくさん戦車を持ってるんじゃないですか?」
メイヨーの推測は正しかった。
プラウダ高校の戦車保有数は国内トップクラスだ。
一両失ったところで、戦力に大幅な支障をきたすことはないだろう。
「だからこその大義名分だ。実際の影響はどうあれ、プラウダ側は戦車の返却を求めている。もし継続側が、それに応じられないならば、実力行使という線も考えられるだろう」
幸子が危惧しているのは、プラウダが戦車奪還を名目に継続高校に脅しをかけるのではないか、という点だった。いや、脅しだけで済めばまだマシかもしれない。戦闘機の大群を差し向ける可能性もあるだろう。
そうなれば継続高校は為すすべもない。両校の戦力差は圧倒的だ。
「最悪の事態、つまりプラウダ側が継続高校を無理やり屈服させ、支配下に入れるとなれば、我が校にとっても只事ではない。奴らの勢力が増すことだけは避けたい」
聖グロの発展を第一に考える幸子にとって、他校の力が強くなるのは受け入れ難いことだった。
ましてやプラウダほどの一大勢力なら尚更だ。
「
「いりいち?誰のことですか?」
「プラウダの現生徒会長ね。以前写真で見たでしょう?」
プラウダの生徒会長として、今回の会談にも参加している。
「ああ、この前の写真で一番右に座ってた人ですね」*1
「実をいうと、あの時点で既に私は、奴の腹底に眠る野望を感じていたのだ」
幸子曰く、今年初めの三校会談の段階で露音のことを危険人物としてマークしていたという。
サンダース付属の久米子がどう思っていたかは不明のようだが。
「事情は把握しましたわ。でもどうするんですの?プラウダ側が何かアクションを起こさない限り、わたくしたちも迂闊に行動できないと思いますわ」
「ふむ。そこが問題なのだが……」
話が停滞しかけた、そのとき。
会長室の扉が勢い良く開かれた。
「会長、大変です!プラウダ側が継続高校に最後通牒を言い渡したとの事です!」
「ついに来たか……!」
「最後通牒?何ですかそれ?」
「つまりこれ以上譲歩できないってことよ」
プラウダ高校の生徒会長、露音が突き付けた最後通牒──―。
恐らく戦車の返却を求める最後のメッセージということだろう。
これに従わなければ実力行使もやむを得ないという脅しも兼ねていると思われる。
「ええ!?それって大分マズい状況なのでは?」
「マズい所じゃありませんわ!衝突一歩手前ですわよ!」
「吞気なこと言ってる場合じゃあなさそうね」
慌ただしくなる場の雰囲気を幸子が鎮める。
「安心しろ!手は既に打ってある。この前サザーランドに託した手紙がそれだ」
「あのサンダース付属の会長に渡した手紙ですか?」
数週間ほど前、サザーランド達は幸子からの手紙を持ってサンダース付属へ赴いた。
そのとき、向こうの会長の久米子に渡した手紙が布石だという。
「あの手紙には、もしプラウダ高校が継続高校に対して宣戦布告をしてきた場合、聖グロとサンダースが継続側に付いてプラウダと戦うという極秘の条約を書いたのだ」
「あの手紙はそんな内容だったんですね」
「絶対に情報漏洩したくない観点から、手紙というアナログな手段を取らせてもらった。電話やメールではどこから盗み聞きされるか分からんからな」
言ってしまえば、これは密約だ。
聖グロとサンダースが裏取引をしていることがバレたら問題になる。
それを防ぐために、書面によるやり取りに抑えたのだった。
「それじゃあ、もしプラウダが動いてもサンダースと一緒に戦えるってことですね?」
「ああそうだ。二校の力を合わせれば、プラウダといえど恐るるに足らずという訳だ」
いくらプラウダ高校が強大な戦力を保持しているとはいえ、聖グロとサンダースにタッグを組まれては勝ち目が無いだろう。幸子の采配が光る場面だった。
「時は満ちた。これから継続高校に我々の戦闘機を派遣する。そこでサンダース付属とも合流できる予定だ。サザーランド、またしても共闘の機会ができたな」
「またミニットマンさんに会えますね、先輩!」
「ええそうね。あいつが一緒なら百人力だわ」
再び友との共闘が出来そうなことに、サザーランドは喜んでいた。
「さあ準備を始めろ。今回は相当数の戦力を送る予定だ。ウェリントン、お前も行け」
「会長の命令とあれば、何処へでも馳せ参じますわ!」
ウキウキで出発準備を始めようとするウェリントン。
しかし幸子からこんなことを言い渡される。
「ああ、ウェリントン。まだ
「あら、残念ですわね。わたくし、あの戦闘機が好きでしたのに……」
思わせぶりな感じだが、ウェリントンは部屋を後にした。
「私たちも行きましょう、先輩!」
「これは大仕事になりそうね!」
サザーランドとメイヨーも準備のため、退室しようとする。
が、またしても幸子に止められた。
「待った。二人は継続高校の生徒会長に面会してくれないか?」
「継続の会長、ですか?」
「そうだ。名前は確か、
継続高校の生徒会長、
今回の会談で継続側の代表として参加した人物だ。
テレビ中継では、かなり精神的に追い詰められている様子だったが……。
「了解しました。一連の件もお伝えしておきます」
「頼むぞ。明日の早朝に出発だ」
ようやく退室できたサザーランドとメイヨー。
こうして二人も、継続高校への出撃準備を始めた。
この時点では、幸子含めて誰もが楽観的な姿勢だった。
何せ、国内最大規模の航空戦力を持つサンダース付属が味方なのだ。
それならいくら継続高校が弱くても問題はない。
だがこの考えはいずれ、覆えることになるのであった──―。
ウェリントンのメイン機体は後の章で明らかにします。
一番好きな学校は?
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大洗女子
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聖グロリアーナ
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サンダース付属
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アンツィオ
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プラウダ
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黒森峰
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知波単
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継続
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その他(BC自由等)