ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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今回のサブタイトルの元ネタは、イギリスが1945年に立案した対ソ連計画<想像を絶する作戦>です。


想像を絶する戦い

プラウダ高校の会長室にて──―。

 

「遅い!継続は何時降伏するのだ?」

 

生徒会長の露音は苛立ちをあらわにしていた。

継続高校に戦闘機の大群を送り込んでしばらく経つ。

だが一向に敵が降参したという情報が入ってこない。

彼女の計算では、継続は直ぐに陥落するハズだった。

 

「芬君。無駄な抵抗を止めて、さっさと諦めれば良いものを……」

 

時計を見ながら机に指をトントンさせる露音。

このとき彼女には一種の焦りも生まれていた。

今回の作戦はプラウダのほぼ全航空戦力を使った総力戦だ。

それが失敗して多数の戦闘機を失ったとなると、自校の生徒達から批判の矛先を向けられる可能性が出てくる。

一応プラウダ高校の会長選びは通常の選挙ではなく、現会長が跡継ぎを指名する形式なので、仮に生徒からの支持を失っても無理やり今の座に居座り続けることもできる。

 

「我が経歴が汚される事だけは避けたいのだ……」

 

しかしそれでもプライドだけはどうしようもない。

露音は記念すべき開校100年目の生徒会長として功績を残したい、という欲望があった。

そんなイライラ状態の彼女に朗報が舞い込んだ。

 

「ご安心ください、偉大なる同志会長。只今コサックが現地に向かっています。エースの力を持ってすれば、我々は必ずや勝利できるでしょう」

 

「コサックが?よろしい。アイツがいるなら安心だな」

 

コサックの名を聞いて安堵する露音。

それだけエースに全幅の信頼を置いているのだろう。

彼女は熱いボルシチを飲むと、デスクワークに戻った。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

「サザーランド敵機撃墜!もう何機目かは数えてないわ!」

 

継続高校上空での空戦は終盤戦の様相を呈していた。

両陣営ともに多数の損失を出し、最初は合計100機以上いた戦闘機も半分以上が墜落、もしくは撤退した。

それでも50機程度は生き残っているのだから、まだまだ長引きそうだ。

 

「ミグにヤコブレフにラボーチキンと、よくネタが尽きませんね」

 

「今日だけで、一生分のソ連機を見た気がしますわ」

 

継続及び聖グロ連合側の状況は相変わらず厳しい。

聖グロ側は20機中、9機を損失。

継続側に至っては、エースのモルテン以外全滅という有り様だった。

 

「残り12機……。これ以上の損失は避けたいけど……」

 

「キツイのは敵も同じはず。ここが踏ん張りどころですわね!」

 

ウェリントンの推測は正しかった。

戦いが長引いて苦しいのは、プラウダとて同じことだろう。

 

「全てはエース対決の行方次第、ってとこかしら」

 

「モルテンさんが勝利するのを祈りましょう」

 

願うのは、モルテンがプラウダのエースを討ち取ってくれることだ。

彼女の実力ならば勝算も高い。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

 

「……追い詰める……!」

 

「フッ。中々楽しませてくれんじゃねえか、モルテン!」

 

その注目のカードは熾烈な争いになっていた。

継続側のモルテン単騎に対し、プラウダ側は増援の3機で迎え撃つ。

3対1の不利な対決だが、モルテンにとっては慣れたものである。

 

「……捉えた……」

 

僚機の2機を手早く始末し、コサックとの一騎打ちに持ち込んだ。

 

「それでこそ、俺に相応しい相手だぜ!」

 

最初は消極的だったコサックも、エース対決を前に戦意が高まる。

やはり彼女も生粋の戦闘機(ファイター)パイロットのようだ。

 

「……撃つ……!」

 

最初に仕掛けたのはモルテンだ。

自慢の正面火力での撃墜を試みる。

 

「当たるかよ!」

 

だがコサックも簡単には譲らない。

とっさのエルロンロールで回避していく。

 

「……よけられた……?だったら……」

 

その回避機動を見たモルテンが動き方を変えた。

いったん距離を置いてから旋回し、敵機と正面を向き合う姿勢に入る。

そう、お得意のヘッドオン戦法だ。

 

「上等だ!受けて立つぜ!」

 

コサックの方も今度は回避せず突っ込む。

まさかのエース同士のヘッドオン勝負が始まった。

 

「……覚悟して……!」

 

モルテンがヘッドオンを好む理由はJ21の武装にある。

12.7mm機銃が二門に20mm機関砲一門という、他を圧倒する正面火力で敵を粉砕するのだ。

この一斉掃射を食らえばひとたまりもない。

 

「面白くなってきたぜ。だが勝つのは俺だ!」

 

その事実を、コサックは把握しているのか否かは分からない。

だが正々堂々とヘッドオンに応じるなら、J21を超える火力が必要になる。

 

「……!」

「ウオオオオ!」

 

二機は急速に距離を縮め、同時に持ちうる全ての火力を出し切った。

お互いが交差した瞬間、大きな爆発が発生する。

 

 

「ヒューッ!間一髪だったぜ!」

 

爆発を起こしたのはモルテンのJ21だった。

彼女の十八番だったヘッドオン戦法で敗北を喫したのだ。

 

「……くっ……!」

 

激しく燃え盛る機体の中で、モルテンが急いで座席下のレバーを引っ張った。

するとキャノピーが吹き飛んで、操縦席が打ち上げられる。

それはレシプロ戦闘機では珍しい、初期の射出座席だった。

海面に激突する前に緊急脱出(ベイルアウト)したのだ。

 

「まずは一人っと……」

 

パラシュートで離脱するモルテン。

それを見送ったコサックは次のターゲットを探し始めた。

残るもう一人のエース、サザーランドだ。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

「さあ、大分片付いてきたわよ!」

 

一方の聖グロ側は善戦していた。

確実に敵機を減らしていき、五分五分の状況になっていく。

ここまで来れば、勝利も夢ではない。

 

「モルテンの方は大丈夫かしら?」

 

今のサザーランドの心配はエース対決の結果だった。

今の戦況で敵エースを落とせば、間違いなく優勢に立てるだろう。

 

「モルテン聞こえる?そっちはどう?」

 

無線でモルテンとの連絡を取ろうとする。

しかし返答が来ない。

いくら彼女が無口とは言え、応答されれば何か答えてくれるハズだ。

 

「……これはまさか?」

 

サザーランドが悪い予感を考える。

まさかモルテンはエース対決に敗北したのだろうか?

その予感を裏付けるように、別の無線が入ってきた。

 

『おい聖グロのエースさんよ、どうせいるんだろ?早く俺とやろうぜ!』

 

それは聞き慣れない男口調の声だった。

間違いなくモルテンの声ではない。

 

『誰かしら、あなた?味方じゃなさそうね』

 

サザーランドが無線の送り主に返答する。

 

『お、お前が聖グロのエースか?』

 

『そうよ。一応聞くけど、モルテンはどうしたの?』

 

『アイツは俺が落としたぜ。プラウダのエース、コサック様がな』

 

すると上空を一機の戦闘機が飛んでいった。

コサックの搭乗機だろうか。

それを見たメイヨーがすぐさま機体を特定した。

 

「先輩、あれはYak-9です!」

 

Yak-9はソ連空軍で運用された戦闘機だ。

プラウダでも主力機である可能性が高い。

 

「何だコイツ……。きゃあああ!」

 

聖グロのパイロット一人が撃墜された。

恐らくコサックの仕業だろう。

 

「頑丈なタイフーンが粉々に!?何よあの機体!」

 

やられたのはタイフーンだったが、ものの見事に粉砕されている。

高い防弾性を誇る機体だが、ここまで破壊されるのは滅多にない。

その破壊力を見たメイヨーが正体に気が付いた。

 

「これはもしや、37mmモーターカノンを積んだYak-9Tですか!?」

 

「37mmって、もはや戦車の主砲レベルじゃない!」

 

Yak-9には様々なバリエーションがあるが、コサックの機体は37mm砲搭載のT型だった。

本来は爆撃機や地上目標に対して使うものだが……。

 

「今日も俺は絶好調だぜ!」

 

コサックは何食わぬ顔で戦闘機相手に使用していた。

それもかなりの命中精度だ。

次々と聖グロの戦闘機を打ち落としていく。

 

『いいでしょう。私は聖グロリアーナのエース、サザーランドよ!いざ尋常に勝負!』

 

放っておけば大変なことになると察したサザーランドが、コサックとの対決に乗り出した。

事実、この場でコサックに対抗できるのは彼女しかいないだろう。

 

『へっ。そうこなくっちゃな!』

 

「ウェリントン、雑魚の始末は任せたわ!」

 

「いいですわ。稼ぎますわよ!」

 

 

 

 

サザーランドのスピットファイアと、コサックのYak-9Tが高度を上げた。

本日二度目のエース対決だが、次は無いだろう。

ここで全てが決まる。

 

『この37mm砲を食らいやがれ!』

 

まずはコサックの番だ。

お気に入りのモーターカノン、NS-37で攻撃する。

 

『くっ!こんな超火力、絶対に当たる訳には……!』

 

サザーランドはスピットファイアを急旋回させ、スレスレで回避する。

まともに被弾すれば即、致命傷になるだろう。

モルテンのJ21がヘッドオン対決で撃ち負けたのが、その証明だ。

 

『いい腕じゃねえか!黒森峰のアイツを思い出すぜ!』

 

『今度は、こっちのターンよ!』

 

サザーランドが機体をバレルロールさせ、形勢を逆転させる。

ここで一気に決着をつけたいところだ。

 

『当てれるもんなら当ててみな!』

 

『機体が小さくて、狙いにくいわ!』

 

コサックのYak-9Tは比較的小型の機体だ。

素早い機動をされると、照準に捉えるのは難しい。

 

『チィ!そろそろマズいか!?』

 

『動かないで!今、楽にしてあげるわ!』

 

それでも意地で敵機を射線に捕捉するサザーランド。

 

「とどめ!」

 

搭載する全ての武装のスイッチを押し込んだ。

 

「……あれ!?」

 

しかし機関銃は反応しない。

まさか故障したのだろうか?

 

いや、反応はしているのだ。

だがチチチ……と空回りした音しか出てこない。

 

「弾切れ!?こんなときに……!」

 

彼女のスピットファイアは弾切れを起こしていた。

無理もない。一連の大空戦が始まってから、既に何機もの敵機を打ち落としてきた。

全ての弾丸を撃ち尽くすのも、時間の問題だっただろう。

だがそのタイミングが悪すぎた。

敵エースを撃墜できるという、千載一遇のチャンスを失ったのだ。

 

『へっ!どうやら運が悪かったみてえだな?サザーランドさんよぉ!』

 

相手が弾切れを起こしたとみるや、コサックは宙返りして再び背後を取った。

 

『これは……、厳しいわね』

 

またしても37mmの脅威に晒されるサザーランド。

今度は逃げ切れないかもしれない。

 

『もうテメーに勝ち目はねえぜ!』

 

いや、仮に逃げ切れたとしても、サザーランドに打つ手は無い。

何せ相手に撃つ弾がなくなったのだ。

もう戦闘機としての役目は果たせないだろう。

 

「ここまで粘ったのに……、負けるっていうの?」

 

操縦席で行き場のない憤りを感じるサザーランド。

この対決の敗北は即ち、継続高校の敗北を意味する。

そうなれば今までの努力や犠牲も水の泡だ。

 

「私には何も出来ないっていうの!?」

 

サザーランドは悔し涙を浮かべた。

エースパイロットなのに、敵と戦えない。

芬に約束した勝利も達成できない。

その無力感に苛まれていた。

 

『これで終わりだぜ。あばよ!』

 

「…………」

 

いよいよ海面高度まで追い詰められたサザーランド。

エネルギーも使い果たし、これ以上の回避機動は無理だろう。

彼女が自身の敗北を悟った、その時だった。

 

 

「たりゃあああっ!!」

 

 

突如として上空に別の機体が現れたと思うと、コサックのYak-9T目掛けて弾丸を注いだ。

 

『何だお前!?どっから来て……!?』

 

コサックは誰に撃墜されたかも理解できないまま、炎上する機体の中で叫んだ。

 

CYKABLYAT(スーカブリャット)!』*1

 

そのまま猛烈な勢いで海面に衝突した。

 

 

 

「……え?助かったの、私……?」

 

サザーランドも何が起きたのか分からなかった。

少なくとも、自分以外の誰かがコサックを撃墜したことは理解できたが……。

 

「大丈夫でしたか?先輩!」

 

すると隣にメイヨーのタイフーンが並んできた。

 

「もしかして、あなたがやったの?メイヨー」

 

「はい!一か八かの賭けでしたが、上手くいって良かったです!」

 

どうやらメイヨーのお手柄らしい。

それを知ったサザーランドが思わず笑みを浮かべた。

 

「まさか、あなたに助けられる日が来るなんてね……」

 

「いつも先輩に頼り切りでしたからね。これぐらいはウイングマンとして当然です!」

 

最初は頼りなかった後輩も、いつの間にか僚機として立派に成長したのだ。

サザーランドはその感動を、心の中で嚙みしめていた。

 

 

 

 

「あら?プラウダの連中が撤退していきますわよ?」

 

コサックが撃墜されると、他のプラウダのパイロット達が続々と撤退を始めた。

まるで主を失った集団のように、だ。

 

「エースがやられて、数的有利も失った。もう勝ち目は無いと判断したのね」

 

敵は完全に戦意を喪失した。

だから引き下がっていったのだろう。

 

「こちら管制塔。当空域から全ての敵航空機の離脱を確認しました!」

 

管制官から全機離脱の報を受けると、パイロット達は肩をなで下ろした。

ようやく長い戦いが終わったのだ。

 

「聖グロリアーナの皆さん、本当にありがとうございました。着艦許可を出します。一緒に祝杯を挙げましょう!」

 

「くうーっ。ようやく終わったんですのね!」

 

「苦しい戦いだったわ。でも達成感もひとしおね」

 

「本当に疲れました……。一生の思い出になりそうです」

 

聖グロの戦闘機が着艦のために高度を降ろしたとき、艦上から声援が聞こえた。

 

「ありがとよーっ!」「お前たちは英雄だーっ!」

 

それは継続高校の生徒や住民からの感謝の気持ちだった。

自分たちの脅威だったプラウダの軍勢を押しのけた英雄として、彼女たちは迎えられた。

 

「何か、ここまで感謝されると、今までパイロットを続けて良かったって思うわ」

 

「同感ですわ。空戦道は誇り高き武道ですわね」

 

「モルテンさんや、継続高校のパイロットの人たちにも感謝しないと」

 

聖グロのパイロット達は勝利の余韻に浸りながら、継続の学園艦に帰還した。

こうして、日本空戦道史上最大クラスの戦いは幕を閉じた。

 

*1
ロシア語で凄まじい怒りを表現したスラング




長かったプラウダ編も、いよいよ終わりが近づいてきました。

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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