ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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飛べないエースは

「ねえパパ。どうして名前を変えなきゃいけないの?」

 

「それはね、パパがママと別れてしまったからだよ。これからは東雲って苗字になるんだ。パパが結婚する前の苗字でさ……」

 

 

 

 

「……ハッ!」

 

ベッドの上で目を覚ましたサザーランド。

どうやら夢を見ていたようだ。

 

「かなり昔の事ね。どうして今更こんな夢を見るのかしら?」

 

ゆっくりとベッドから起き上がる彼女。

寝ぼけまなこでスマートフォンを確認する。

 

「……ん。通知が一件?」

 

見れば誰かからのメールが一件、受信されていた。

送り主は生徒会からだった。

 

「これは……、時が来たってやつかしら」

 

その内容は今日の午前中、生徒会長から重要な話をするので会長室に来るように、というメールだった。

それが意味するのは一つ、黒森峰への反撃を実行するタイミングが到来したということだろう。

レッドバロンに復讐する時間だ。

 

「待ちわびていたわ。アイツに煮え湯を飲まされるのも、これで終わりね」

 

サザーランドは手早く身支度を整え、会長への謁見に備える。

簡単な朝食と歯磨きをした後、自室を後にした。

 

 

 

*

 

 

 

「あっ、先輩!おはようございます!」

 

「メイヨー、おはよう。あのメール見た?」

 

会長室に向かう途中、メイヨーと合流した。

サザーランドの僚機を務めるパイロットとして、彼女も同様に呼び出されたのだろう。

 

「見ましたよ。いよいよですね!」

 

「黒森峰への代償、たっぷり支払わせてもらいましょう」

 

高ぶる戦意を何とか抑えながら、艦橋内のエレベーターに乗り込み、最上階へのボタンを押した。

生徒会室を足早に奥へ進んでいく二人。

 

 

「諸君、朝からご苦労。歓迎するぞ」

 

そこで生徒会長の幸子が出迎える。

周りには他にも何人かの聖グロ所属のパイロット達の姿があった。

その中には……、

 

「おはようございましサザーランド。それに後輩さん」

 

「やっぱり、あなたも参加するみたいね」

 

サザーランドに次ぐナンバー2であるパイロット、ウェリントンも到着していた。

ここまで勢揃いとなると、学園総出での決戦となるだろう。

 

「よし、全員集まったな?では始めようか。ドアを閉めてくれ」

 

会長室の扉が閉まり、室内には幸子以外は今回の作戦に参加するパイロットのみが残された。

部外者の入室は一切禁止、極秘の会議である。

 

以下しばらく幸子の独壇場

 

 

「さて諸君。薄々察している者もいるだろうが、今回お前達を招集したのは、これから大規模な航空作戦の説明をするためだ」

 

幸子はペンを手に取り、カレンダーの日付に丸をつける。

 

「この日、我々は最大の屈辱を受けた。とある学校の戦闘機の来襲で、数多くの機体が犠牲となる惨事となった。その元凶こそ、熊本県の黒森峰女学院だ!

 

怒りのこもった声で話し続ける幸子。

この状態の彼女に口出しする者はいない。

鬼気迫る迫力で、誰も横槍を入れる気が起きないのだ。

これは生徒会長として強烈なスキルだろう。

 

「そして今回の作戦こそ、その黒森峰への反攻作戦である。内容を簡潔に言えば、我々の航空隊を送りこんで奴らの迎撃機を返り討ちにする。要するに意趣返しだ」

 

この作戦は、いわば向こうが行った行為をそのまま真似するようなものだ。

そうすることで、聖グロ側として溜飲を下げたいのだろう。

 

「黒森峰……。あの学校は、我が校が没落した原因の一つだ。かつての栄光を取り戻すためにも、奴らには相応の罰を与えねばならない」

 

彼女の言う通り、黒森峰は聖グロ一強時代を終わらせた存在だった。

学問や武道を問わず、あらゆる分野で聖グロに挑戦し、王者の座を奪いとった。

もちろんそれは公正な勝負の結果だったが、幸子としては己の学校が落ちぶれた理由として個人的に恨んでいた。

それを抜きにしても、聖グロと黒森峰はお互いをライバル視する関係にあった。

 

 

「すまない。話が逸れたな。作戦の狙いについて話を戻そう。今回の最重要ターゲットは黒森峰のエース、レッドバロンだ。コイツは先日我が校に来襲した編隊のリーダーであった可能性が高い。俗に言う悪の親玉だ。そしてコイツをどうやって仕留めるかが、一番の課題となるだろう」

 

やはり登場したレッドバロンの名前。

彼女をどう攻略するのか?幸子は必死にそれを考え続け、ついにとっておきの秘策を閃いたようだ。

 

「これより打倒レッドバロンを目標とする部隊を結成する。隊長はウェリントンにやってもらおう」

 

「直々に任命して頂き光栄ですわ、会長」

 

一番機を担当するのはウェリントン。

その人選に異を唱えようとしたサザーランドだが、ここは一旦我慢した。

まだ幸子の話は続いているからだ。

 

「それ以外のメンバーも発表しよう。リッチモンド、グロスター、エイルザ、チャムリー、サフォーク、ギャロウェイ、そしてモートンだ。今指名したパイロット数名をもって、黒森峰に攻勢をかける」

 

「……あれ?」

 

部隊の人員が公表されるが、そこにサザーランドやメイヨーの名は無かった。

一体どういうことだろうか?

 

「ではこれより具体的な作戦の詳細について──―

「待ってください、会長。私の名前が呼ばれていませんが……」

 

サザーランドが口を挟むと、幸子は露骨に不機嫌な顔をした。

 

「お前たち二人は参加させない。代わりにアラート任務に就いてもらう」

 

「え?スクランブルに備えろってことですか?でもそれって……」

 

「いいか?エースであるお前は、我々の最後の切り札だ。故にお前が落とされては困る。だから今回は戦力温存という形をとらせてもらった」

 

「会長、自分が何を言っているのか理解していますか?今回の狙いは敵エースの討伐でしょう?だとすれば何故、私を出撃させないのですか?」

 

半ギレ状態で質問するサザーランド。

彼女が怒るのは当然だった。

空戦道において、エースに対抗できるのはエースだけだ。

それは今までの戦いで幸子も承知しているはずだろう。

だと言うのに、今回はサザーランドを温存してレッドバロンを倒そうというのだ。

いくら聖グロが追い詰められているとはいえ、この選択は悪手と言わざるを得ない。

 

「先輩の意見に賛成します!今は出し惜しみをしてはいけないと思います!」

 

メイヨーも、サザーランドの意見に同調する。

これまで会長に怯えてばかりの彼女でさえ、幸子の愚策には黙っていられなかった。

 

「頼む。理解してくれ。この作戦はエース抜きでも成立する。必ずや、レッドバロンを撃墜できるはずだ。だからお前達は参加させない方針でいく」

 

「どんな戦法を取るのか知りませんが、レッドバロンに奇策は通用しないでしょう。数多のエースを打ち負かした実力を侮ってはいけません」

 

 

二人が口論していると、会長室の電話が鳴りはじめた。

 

「おっと失礼。……私だ。……ふむ、そうか……」

 

 

 

 

 

通話を終えると、幸子は受話器を置いた。

 

「誰からですか?」

 

「サンダースの久米子からだ。どうやら向こうのエースが、何者かに撃墜されたらしい。十中八九、レッドバロンの仕業だろうがな」

 

サンダース付属のエース、つまりミニットマンが撃墜されたとの情報が、プレジデントの久米子から伝えられたようだ。

つまりレッドバロンがサンダースに勝利したということだ。

となると、残るエースは聖グロのサザーランドただ一人になる。

()()()()()の魔の手が、もう目前まで迫りつつあった。

 

「会長。いい加減お分かりでしょう。ミニットマンすら敵わない相手に、姑息な戦法を仕掛ける場合ではないんです。エースである私を出撃させなければ、サンダースの二の舞を踏むだけです」

 

「そうですよ!今サザーランド先輩を戦わせずして、どこで戦わせるんですか?」

 

ますます反抗的になっていく二人に、幸子は堪忍袋の緒が切れた。

そしてこんな指示を下した。

 

 

「風紀委員、この二人を部屋から連れ出せ」

 

会長が指示を出すと、即座に風紀委員数名が入室し、サザーランドとメイヨーを強引に取り押さえた。

 

「ちょっ、会長!私の話を聞いて……!」

 

「離してください!何も悪いことはしてないですよ!」

 

「黙れ。私に逆らったのが悪い。とにかく、今後しばらくはスクランブル以外での発艦及び出撃は禁ずる。以上」

 

抵抗虚しく、二人はそのまま無理やり会長室から退室させられた。

周りで止める者はいなかった。

下手に意見しては、自分も同じ目にあうことを察していたからだ。

 

 

 

「さて、邪魔者は消えたな。話を再開しようか」

 

「……了解ですわ」

 

この仕打ちには流石のウェリントンも同情した。

とはいえ、到底それを口に出せる雰囲気ではなかった。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

二人が風紀委員から解放されたのは、艦橋の外だった。

 

「ああっ、もうイライラする!」

 

サザーランドはかつてないほどまでに、幸子への怒りを募らせていた。

元々会長の権力濫用っぷりには不快感を示していた彼女だったが、先ほどの件でそれは決定的となった。

いくら生徒会長の権限が強いとは言え、ここまでの暴挙をされると許すことは出来なかった。

だが彼女がイライラする原因は、それだけではない。

今回の作戦に参加できなかったことで、レッドバロンとの対決が遠のいてしまったのだ。

そのダブルパンチで、彼女の怒りは最高潮に達していた。

 

「先輩、とりあえず冷静に──―

「あのクソ女!今度スピットファイアで機銃掃射してやろうかしら!?」

 

普段はどちらかというと落ち着いた印象のサザーランドだが、今回ばかりはミニットマン顔負けのハイテンション気分だった。悪い意味で、だが。

 

「20ミリ機関砲じゃ足りないわ!トールボーイ*1で艦橋ごと吹き飛ばさいと気が済まないわよこんなの!」

 

(ダメだこの先輩、早く何とかしないと……)

 

英語のSPITFIRE(スピットファイア)には()()()()()()()()()と言った軽蔑の意味も含まれるが、今の彼女がまさしくそうだろう。おまけにスピットファイア乗りのパイロットなのだから傑作だ。

 

「そこのナレーター!やかましいわよ!」

 

あっ、ごめんなさい……。

 

「この怒り、ローストビーフ丼特盛を二杯……。いや三杯食べないと収まらないわ!今すぐ食堂に向かいましょう!」

 

「ああ先輩、待ってください!私も行きますから!」

 

そのまま彼女は猛スピードで食堂にダッシュしていった。

ローストビーフ丼を四杯も完食したところで、ようやく怒りは収まったのだった。

 

*1
イギリスが大戦中に開発した巨大爆弾。頑丈な建築物を破壊するために5トンもの重量を誇っている。

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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