ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース   作:ゲオルギーJr

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ただのエースだ

「お姉ちゃん大っ嫌い!もう私、空戦道なんて辞めてやるわ!」

 

「あっそ!じゃあ戦車道でも何でも好きにしたら!」

 

 

 

 

「……んがっ!」

 

ソファーの上で目を覚ましたレッドバロン。

ここは黒森峰の学園艦だ。

 

「何でウチ、こんな昔の夢を?」

 

目を擦りながら起き上がる彼女。

そこには後輩のハルトマンがいた。

 

「ああ、センパイ。おはようございます。何かうなされてましたけど、いい夢でも見ました?」

 

「別にー。ちょっと中学時代の嫌な事を思い出しただけー。」

 

淹れたてのコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり混ぜたカフェオレを、レッドバロンは飲んだ。

どうやら彼女は、かなりの甘党のようだ。

 

「はー、うま。やっぱこれしか勝たんわ。」

 

そこに別のパイロットが、二人のいる部屋に入ってきた。

そしてレッドバロンの前に散らかる、シュガースティックの袋とコーヒーフレッシュの容器を見て笑いだした。

 

「何だお前。高三にもなって未だにブラックコーヒーすら飲めないのか?」

 

その人物は、少し前にサンダース付属へ飛び立つ二人を見送った正体不明の生徒だった。

彼女はコーヒーに砂糖やミルクを入れず、ストレートで飲むのが好みのようだ。

 

「うっさい。人が飲むものにケチつけないでくれる?」

 

あからさまに不機嫌になるレッドバロン。

 

「カフェオレはフランス式の飲み方だぞ?さてはお前、マジノかBC自由のスパイか?」

 

「だーかーらー、私がどうやってコーヒーを飲もうが、アンタには関係ないっしょ?」

 

加熱しそうになる二人の喧嘩を、ハルトマンが仲裁に入った。

 

「まあまあ。ガーランドさん、お疲れ様です。センパイは寝起きで頭が回ってないんですよ。このへんで勘弁してもらえませんかね?」

 

「ちょっ、ハルトマン。地味に今ウチの悪口言った?」

 

ハルトマンがレッドバロンを小馬鹿にしたような発言をすると、ひとまず口論は落ち着いた。

 

「ふっ、よく分かってるじゃないか。コイツは常に頭が回ってないのさ。」

 

「ガーランド~!アンタ、所詮ナンバー2のくせに生意気じゃね?」

 

黒森峰のナンバー2パイロット、ガーランド―――。

比較的真面目で騎士道精神を重んじる彼女は、ある意味レッドバロンより黒森峰の生徒らしい人物かもしれない。(というよりレッドバロンが黒森峰の真面目な校風に似合わな過ぎる)

背番号は104。三年生パイロットだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ナンバー2だと?そのポジションはいずれお前のモノになるだろう。私がもうすぐエースの座を奪うからな。」

 

「アハッ、マジうける!ウチに勝てると思ってんの~?」

 

聖グロではサザーランドとウェリントンの仲が悪かったが、どうやら黒森峰でもエースとナンバー2の関係は冷え込んでいるようだ。

最も、それは空戦道では古今東西どの学校でも同じなのだが……。

 

「ガーランドさん。わざわざセンパイのところに来たってことは、何か用事があるんですか?それとも単なる冷やかしとか?」

 

「悪いが冷やかしに来るほど私は暇ではない。今日は会長からの伝令を伝えにきた。」

 

会長、という言葉を聞くとレッドバロンの表情が固くなった。

彼女には、会長から呼び出される心当たりがあったからだ。

 

「げぇっ。もしかして、あの件についてとか?」

 

「知らんな。とにかく、会長室に行ってこい。あのお方、かなりご立腹のようだったぞ。」

 

黒森峰の生徒会長がどういった人物なのかは不明だが、やはり生徒達から特別な扱いを受けているのは間違いないようだ。

エースパイロットであるレッドバロンを、直々に招集できる程度の権力は持っているらしい。

 

「ありゃりゃ。これは会長の鉄槌が炸裂しそうですね。」

 

「ハルトマン、お前も名指しで呼び出しされているぞ。」

 

「行くしかないか~。流石にあの家系の人間には、この学校だと逆らえないし~。」

 

レッドバロンとハルトマンは、渋々部屋を出て艦橋にある会長室に向かった。

そんな二人を眺めながら、ガーランドはブラックコーヒーを堪能した。

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

黒森峰女学院、会長室―――。

モダンな印象のこの一室には、聖グロと同様に限られた者だけが立ち入ることのできる空間だった。

そこに置かれた立派なデスク、生徒会長専用の椅子に一人の女性が座っていた。

 

「遅いですね……。」

 

黒いおかっぱに赤い髪留めを付けたその女性は、腕時計をしきりに確認しながら目的の人物が来るのを待っていた。

すると会長室のドアが開かれ、その問題児は姿を現した。

 

「ちーっす。お疲れーっす。」

 

言うまでもなく、それはレッドバロン本人であった。

同学年とはいえ、仮にも目上の人への挨拶とは思えないほど軽い口調で入室してきた。

 

「レッドバロンさん?私は10時ピッタリに、ここへ来るように命令しました。現在時刻は10時6分。この遅れは何ですか?説明しなさい。」

 

開始早々、質問攻めを仕掛ける生徒会長。

 

「え~。別に5分くらい誤差ですよ誤差。」

 

「5分じゃありません。6分です。それにその気の抜けた態度。生徒会長と話をするには不適切です。もっと礼儀正しく振る舞いなさい。あなたのような気の緩んだ生徒が一人いるだけで、学校全体に悪影響を及ぼすのですよ?とりわけここ黒森峰女学院は風紀を重んじる校風です。そのためには、他校の生徒よりも一層厳しく、規律を守らなければなりません。それを理解した上で―――

 

「あー、もう結構です。ピリピリし過ぎだって~、西()()()()?」

 

レッドバロンが反省の意らしきものを見せると、生徒会長の言葉責めは収まった。

 

「まあ良いでしょう。この西住普美(にしずみふみ)、あいにくと不埒な輩は見逃さない主義です。今後も不適切な行為を繰り返す生徒には、徹底的な指導を行います。」

 

西住普美(にしずみふみ)―――。

それが黒森峰女学院の生徒会長の名だ。

元風紀委員である彼女には、絶対的な正義があった。

それは学校の風紀を乱す者には、容赦なく対処しなければならないという考えだった。

まさに黒森峰のトップに立つに相応しい人物だろう。

 

「さて、レッドバロンさん。あなたには一つ、ペナルティを与えなければなりません。」

 

「え?ペナルティ?何かウチ、悪いことしました?」

 

話が本題に移った。どうやら普美はレッドバロンに対して処罰を用意しているらしい。

 

「とぼけないように。あなたがここ最近、無許可で出撃して他校の空域に侵入を繰り返している件です。」

 

「うっ、それは……。」

 

本来、パイロットがスクランブルや訓練以外の目的で学園艦から発艦するには、生徒会長の許可が必要だ。

しかし、ことレッドバロンに関しては無許可での発艦を繰り返していた。

その目的は言うまでもなく()()()()()のためだったが、普美に対しては秘密にしていたのだ。

 

「一応あなたはエースパイロットですから、多少の違反には目を瞑りましょう。しかし、ここ最近の行動は例外です。いくら特別待遇でも、限度というものがありますからね。」

 

「……うっす。」

 

普段はウザい威勢のいいレッドバロンでさえ、会長から睨まれれば従うしかなかった。

数万人の生徒の頂点に立つ人物には、絶大な権力がつきものだ。

 

「今回のペナルティについては、一ヶ月間スクランブルを除いた発艦及び出撃の禁止です。これは謹慎処分の一環です。よって今後のあなたの行動次第では、更なる期間延長もあり得るという点を、よく頭に入れておくように。以上です。」

 

「うへえ、それはキツイっすわ~。反省しま~す。」

 

相変わらず本気で謝っているか微妙な態度だが、レッドバロンはこの謹慎処分を仕方なく受け入れた。

 

「言っておきますが、この処分は一年生のハルトマンさんも受けてもらいます。さっきから部屋の外で隠れているつもりでしょうが、私にはバレていますからね!」

 

室外にも聞こえるような大声で、ハルトマンにも厳重注意を言い渡した。

 

「ひえー、やっぱり生徒会長って恐ろしいですねぇ。」

 

「それなー。じゃあウチらはこの辺で失礼しまーす。」

 

普美による言いつけが終わると、レッドバロンとハルトマンは逃げるように生徒会室から立ち去ったのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「あー!マジ最悪!あと一歩で、ウチの目的が達成されたのにー!」

 

レッドバロンは元の部屋に戻ると、勢い良くソファーに飛び込んで座った。

相変わらずガーランドはブラックコーヒーを嗜んでいる。

 

「残念だったな。お前のエース狩りとやらも、ここで足止めだ。」

 

「ふざけんなマジ!残りは聖グロのエースだけなのに~。」

 

レッドバロンが苛立つ理由は単純明快だ。自らの目的である全学校のエース撃墜は、サンダース付属のミニットマンを倒した今、サザーランドただ一人だけだった。しかしそれが普美からの謹慎処分によって、対決の機会が失われてしまったのだ。

 

「まあいいじゃないですかセンパイ。一応まだ向こう側からやって来る可能性もありますし。そうすればスクランブル発進なので合法ですよ。」

 

このとき黒森峰側は知るよしも無いだろうが、サザーランドも理由は違えど同じくスクランブル以外での出撃禁止令を受けていたので、二人のエース対決が実現する可能性は皆無になったのだ。お互いが戦いを望んでいるというのに、それが双方の生徒会長から咎められるというのは、何とも皮肉な結果である。

 

「哀れだな。最後のエースを目前にして、計画が頓挫するとは。」

 

「そのしたり顔、マジでムカつくからやめてくんない?」

 

他人の不幸は蜜の味とも言うが、今のガーランドがまさしくそうだろう。

 

「聖グロのエースか……。魅力的な響きだ。どうやらスピットファイアを華麗に操るパイロットらしいな」

 

「あれ?アンタ、サザーランドのこと知ってんの?ズッ友のコサックを撃墜したヤツ。」

 

サザーランドとガーランドは学園艦も違う上に面識もないはずだが、なぜかガーランドは知っている素振りを見せた。とはいえ、ここ最近サザーランドは色々な場所へ出向いているため、他校のパイロット達からも多少噂になる程度には知名度があったようだ。まあ、エース狩りをしているレッドバロンには遠く及ばないのだが。

 

「良いことを思いついた。お前より一足先に、聖グロのエースを制覇してやろう。私個人としても、ヤツの実力が如何ほどか気になっていたのでな。」

 

ガーランドがそんな発言をすると、レッドバロンは焦りを見せ始めた。

 

「ちょっとアンタ、サザーランドはウチの獲物だっての。それに言っておくけどアイツはエースだから、所詮ナンバー2のアンタが敵う相手じゃねーし。」

 

「ふっ、分かりやすいな。私が先に倒してしまいそうだから、そう言って脅そうとしているのか?あいにくだが、その程度で怖気づく私ではない。敵エースに対する戦法くらいは用意してある。悪いが、サザーランドの首を最初に獲るのは私だ。お前は精々、指を咥えながら悔しがるがいい。」

 

一体ガーランドがどういった戦法を用意しているのかは分からないが、サザーランドに対する勝機はあると見込んでいるらしい。仮にレッドバロンより先に勝利できれば、()()()()()の面目は丸つぶれだろう。もしかすると彼女はそれも狙っているかもしれない。

 

「あっそ!ウチはどうなってもしーらない!アンタの好きにすれば?」

 

「そうだな。私の好きにさせてもらう。ではさらばだ。」

 

そう言ってガーランドは部屋を後にした。

 

「あ~!やっぱアイツまじでムカつく!今度フリッツX*1でもぶちこんでやろっかなー!」

 

「やっぱりセンパイとガーランドさんは仲悪いですよね」

 

「ハルトマン~。ぶっちゃけガーランドの奴、勝てると思う?ゼッタイ返り討ちにされて終わる気がするんだけど~」

 

「知りませんよ。向こうの、サザーランドさん次第としか言えませんから。」

 

これは運命だろうか。黒森峰のナンバー2であるガーランドがサザーランドに挑もうとしているこの時、聖グロのナンバー2であるウェリントンもまた、レッドバロンに挑戦しようと模索していた。

ともあれ、聖グロと黒森峰の一度目の対決はお互いのエースと二番手が激突するという、奇妙な形式で行われることになる―――。

 

*1
ドイツが戦時中に開発した誘導爆弾




気付いている人もいるかもしれませんが、生徒会長の名前にはそれぞれのモチーフとなった国の漢字が使われています。
聖グロ→「英」山幸子(イギリス)
サンダース付属→寺野久「米」子(アメリカ)
継続→小峰「芬」(フィンランド)
プラウダ→入一「露」音(ロシア)
黒森峰→西住「普」美(プロイセン、ドイツ)

一番好きな学校は?

  • 大洗女子
  • 聖グロリアーナ
  • サンダース付属
  • アンツィオ
  • プラウダ
  • 黒森峰
  • 知波単
  • 継続
  • その他(BC自由等)
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