ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース 作:ゲオルギーJr
空の戦いなのにランド(陸)対決とはこれ如何に。
黒森峰女学園、学園艦の滑走路にて──―。
「よし、出席確認だ。キッテル、バルクホルン、クルピンスキー、リュッツオウ、シュタインホフ、ノヴォトニー……」
黒森峰ナンバー2パイロットであるガーランドは、自身が隊長を務める飛行隊のメンバーを集めていた。
今は名簿表で各隊員のTACネームを呼びながら、全員が揃っているかどうか確認しているところだ。
「ん?一人足りないな。9番の奴はどうした?」
「あー、あの人は牛乳飲んで昼寝してましたよ。スツーカ乗りたいって寝言しながら」
「むう。まあ良い。では今ここに集まったメンバーで、飛行隊を結成しようか」
なにやら欠員が一人いるようだが、ガーランドは構わず話を進めた。
「行き先は聖グロリアーナ女学院。最大のターゲットは敵エースパイロットだ。情報によれば、かなりの手練れと見受けられる。気を引き締めてかかれ。なに、作戦はいつも通りだ。私の指示に従ってくれれば問題ない。では各員、それぞれの搭乗機に乗り、発艦準備を始めろ」
「「「
戦闘機に乗り込み、次々と発艦していく黒森峰の飛行隊。
ガーランドは対エース用の秘策を用意していた。翼下に追加兵装のような物体が取り付けられている。
「各機、進路を南へとれ!」
*
聖グロリアーナ学園艦、パイロット待機所──―。
「先輩、ウェリントンさんの飛行隊が発艦していきますよ」
アラート任務でスクランブル発進に備えていたサザーランドとメイヨーは、滑走路から飛び立っていく戦闘機たちを見送った。
なにやら複数、見慣れない機体もあったが、それが何の戦闘機なのかは判別できなかった。
「私は無理だと思うわよ。あれでレッドバロンを落とすなんて」
サザーランドは不機嫌そうな様子で、発艦するウェリントンたちの機体を見つめていた。あのレッドバロン撃墜を掲げた戦闘機隊。それもエース不在での部隊だ。よっぽど上手い作戦でなければ、結成しようなどとは思わないだろう。
ただ、サザーランド達は会議の途中で締め出されてしまったので、それがどういった作戦なのかは知らされていなかったようだ。
「それにしても、今日は天気が悪いですね。こんな空模様じゃあ、空戦をしたい気分にはなりませんよ」
「そうね。雲が垂れ込めて視界もイマイチだし」
聖グロと黒森峰の一大決戦となるこの日は、あいにくの曇り空だった。これでは双方のパイロット達の士気も半減するというものだ。
{今日は全国的に雲に覆われ、午後からは大荒れの天気となるでしょう。暴風や高波に注意が必要です}
テレビの天気予報のキャスターが、雨雲レーダーを指しながら今後の天候不順を解説している。
戦闘機乗りに限らず、旅客機パイロットなども含めて空で活動する人間達にとって、悪天候での飛行はなるべく避けたいものだ。突発的な風や雷が発生する空では、予測不可能なトラブルも発生しやすい。
「まあ今日の私たちはアラート任務ですから、誰も空域に侵入しなければ出撃せずに済みますね」
「その通りだわ。まあ、こんな空模様のときにわざわざ戦闘機をすっ飛ばしてくる輩もいないでしょうけど……」
サザーランドがそう言いながら紅茶を飲んでいると、メイヨーがもじもじしながら、こんなことを聞いてきた。
「先輩、私は先輩のウイングマンとして、ちゃんと活躍できているんでしょうか?」
「どうしたの、突然?あなたは私の僚機として、十分な役目を果たしているじゃない」
「本当ですか?私、先輩の足を引っ張ってないですか?」
「そんなことないわよ。あなた以外に、私のウイングマンは務まらないし、第一他のパイロットに任せるつもりも無いわ。だから自信を持ちなさい」
サザーランドはそう言いながら、メイヨーの頭を撫でた。
「はうう……。なでなでされるのは慣れてないです……」
「うふふ。そう言われると、もっと撫でたくなっちゃうわね」
思えば、二人がタッグを組んでから結構な月日が経った。
最初のうちは上手く連携が取れなかったり、少しぎくしゃくした関係になったりもしたが、今では立派に互いを支え合う良きコンビとなった。それはこれまでの数々の熾烈な戦いを経て、ようやく築き上げたものだろう。
今の二人ならば、並大抵の相手には負けないはずだ。それは彼女達も心の中で理解している。
しばらく待機していると、室内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
出撃要請が出たのである。
「これは驚いたわね。まさかこんな悪天候の日に来る物好きが実在するなんて」
「急ぎましょう、先輩!」
二人はダッシュで機体に駆けつけ、すぐさまエンジンを始動させる。
この一連の動作、メイヨーは最初の頃は手間取ってサザーランドから遅れて発艦することが常だった。
だが現在はすっかり手慣れた様子で始動させて、二人とも同じタイミングでの発艦ができるようになっていた。これぞ成長の証である。
「管制官さん、発艦許可をお願いします!」
「こちら管制塔、発艦を許可します。不明機は南方から接近しています。直ちに迎撃してください」
管制官からの指示を受け、スピットファイアとタイフーンは高度を上げつつ、南方方面を目指した。
すると突然、二人の無線に何者かの通信が割り込んできた。
『……せよ。こちらは……峰女学園。貴機に……』
そのオープン周波数らしき無線は音質が悪く、ノイズばかりで聞き取りにくい通信だった。
一番機のサザーランドが周波数帯を調整しつつ、謎の無線の送り主に対してコンタクトを模索する。
『こちら聖グロリアーナ所属の戦闘機よ。現在、あなたの機体は我が校の管轄空域内に侵入しているわ。撃ち落されたくなければ、今すぐ引き返すことね』
学籍不明機に警告を送ると、さらに不可解なメッセージが返ってきた。
『こちら黒森峰女学園の戦闘機隊。貴機は聖グロリアーナ女学院のエースパイロットか?』
どうやら侵入機は黒森峰の戦闘機らしい。だが黒森峰には現在ウェリントンの飛行隊が向かっているはずだ。もしやすれ違いが起きたのだろうか。
いずれにせよ、この真意不明の無線に答えなければならない。
『その通りよ。私は聖グロのエース、サザーランド。そういうあなたは何者かしら?まさかレッドバロンじゃないわよね?』
黒森峰の通信主に質問し返すと、その正体が判明した。
『我が名はガーランド。黒森峰の暫定ナンバー2だ。今日は貴君に戦いを挑みに来た』
この通信、侵入機が送る無線としては意味不明である。わざわざ自分たちの所属を明かして、さらに勝負を持ち掛けにくるというのは、これまで多くの迎撃任務をこなしたサザーランドにとっても初めてのパターンだった。
『何よそれ、騎士道精神とでも言うつもり?どちらにせよ、引き返さないのならば痛い目にあってもらうわ!』
上空には予報通り分厚い雲に覆われていて、敵機の機影は見えなかったが、段々と複数のプロペラが回転する音が聞こえてきた。目視できないので管制塔から、レーダーサイトの情報を要請する。
「こちら管制塔。敵の反応は……合計7機です!」
「7機……。ずいぶんと羽振りがいいわね」
聖グロ側の二機に対して、相手は7機。
かなりの劣勢だが、プラウダ戦を乗り越えた二人にとっては、そこまで驚くに値しない戦力差だった。
「レッドバロンが不在なら問題ないわ。いくわよメイヨー!」
「はい、先輩!」
雲間から見える僅かな機影とプロペラの音を頼りに、黒森峰の編隊の位置を確認する。
「先輩、目の前に一機、それらしき機影が見えます!」
メイヨーは同高度で飛行する敵の姿を発見した。早速、二機はそれを追いかけてみる。
「あの戦闘機は……、ドイツのFw-190でしょうか」
「フォッケウルフね。黒森峰の主力戦闘機だわ」
現状、黒森峰が運用しているとされる戦闘機は大きく分けて二種類。
Bf-109系と、Fw-190系の二つだ。
メッサーシュミットは比較的ほっそりとした胴体なのに対して、フォッケウルフはずんぐりとした構造の機体だ。今、目の前に見える機影は後者の方が近いだろう。ガーランドの飛行隊はFw-190を使用しているようだ。
「私が先に行くわ。メイヨーは後ろをついてきて」
「了解しました」
サザーランドは慎重に周りを確認しながら、前方の機体に接近する。
敵機が20mm機関砲の射程圏内に入ったと思われた次の瞬間、メイヨーが無線で叫びのような声で警告した。
「先輩、上です!」
後輩からのとっさのひとことで、サザーランドはスピットファイアを大きく旋回させて回避機動を取った。この程度の不意打ちならば、彼女は簡単に予測できる。
「甘いわね。お見通しよ」
素早く機体を立て直し、先程上方から奇襲を仕掛けた敵機に反撃を試みる。が、またしても上から別のプロペラ音が聞こえてきた。
「くぅっ。しつこいわね!」
再び大きな回避機動を取らざるを得なくなったサザーランド。
『ふっ。捕まえたぞ、サザーランド。既にお前は我々の罠に嵌っているのだ』
ガーランドは編隊に指示を出し、聖グロ側の機体に向かわせていく。この対エース用の秘策を、サザーランドはようやく理解した。
「……なるほど。そういう戦法ね」
「何か気づいたんですか先輩?」
目の前の一機を攻撃しようとすると、上から別の一機が現れて邪魔をしてくる。それを回避して反撃しようとしても、更なる敵機が上から襲い掛かる。その間に最初の一機は上昇を終わらせて、次なる奇襲のチャンスを伺う。この無限ループを持ってエースを疲弊させ、あわよくば撃墜する。それがガーランドの戦法のタネだ。
『あなた、ガーランドだっけ?こんな巧妙な作戦の実行を、しかも編隊レベルで実現させるなんて中々やるじゃない』
『これはこれは、お褒め頂き感謝しよう。しかし、今日の私は本気でお前を倒しにきたのだ。手は緩めないぞ』
この戦法は一見すると単純に思えるかもしれないが、各機が突撃するタイミングなどを完璧に合わせられなければ成立しない作戦だ。そのため、編隊を指揮する隊長の技量が高いレベルで要求される。だがガーランドは、その要件を満たしているようだ。
「だったらこっちにも考えがあるわ。メイヨー、私の指示をよく聞いててね」
「了解です!」
サザーランドが行動を促し、メイヨーが所定の位置につく。
今、目の前にいるフォッケウルフを追いかけて、後続の一機を釣り出す。
「メイヨー、そいつは任せたわよ!」
その一機を、今度は後ろにいたメイヨーのタイフーンが捉える。
するとさらにもう一機、黒森峰側の編隊から援護が来る。
『甘い。その程度で私の秘策を破れるとでも──―
これでは先程の繰り返しかと思われたが、実は違っていた。
先頭の敵機を追いかけていたサザーランドのスピットファイアが瞬く間に一機撃墜し、さらに直後大きくバレルロールさせて、メイヨーの背後を狙っていたFw-190の後ろを取ったのだ。
さらにこの間、メイヨーがタイフーンの20mm機関砲で敵機を撃墜していた。
この瞬きする暇もない僅かな時間で、ガーランド自慢の飛行隊の調子が狂ってしまった。
「何っ!?急いで体制を立て直せ!」
編隊長としてガーランドが指示を送るも間に合わない。一機が反撃しようとする間に、前に出ていた戦闘機が落とされてしまってフォローが追いつかないのだ。これでは連携が取れない。黒森峰側は作戦の変更を余儀なくされた。
「なんてヤツ!我々の巣を打ち破るなんて!?」
「慌てるなノヴォトニー!冷静に隊長の、私の指示を聞け!」
総崩れの黒森峰側に対して、聖グロ側の二人は余裕しゃくしゃくだ。
「いいコンビネーションだったわね」
「バシッと決まりましたね、先輩!」
この調子でいけば、難なくガーランドの飛行隊に勝利できるだろう。
だがこの程度で折れるほど、黒森峰ナンバー2の意地は弱くなかった。
『流石はエースパイロット、いい腕だ。だが私にも奥の手はある!』
これまで高高度で指揮に専念していたガーランドの機体が降下し、二人に攻撃を仕掛ける。
「あの長い胴体、改良型のD型フォッケウルフです!」
「長っ鼻のドーラね。隊長だけあって、優秀な型を使ってるわ」
ガーランドのFw-190d-9、折しもレッドバロンと同形の戦闘機が襲い掛かる。だがこの機体には他とは違う仕掛けがあった。
「発射!」
ガーランドがそう言いながらレバーの赤いボタンを押すと、翼下から何かが射出された。
「!? すぐに回避しなさい!」
「うわっ!」
それは白い軌跡を描きながら空気を裂くように、素早くスピットファイアとタイフーンの間を通過した。明らかに機銃や機関砲とは異なる物体だ。
「まさか今のは、空対空ロケット弾!?」
「あのフォッケウルフ、そんな兵器を搭載してるんですかぁ!?」
これこそがガーランドの第二の作戦、ロケット弾による奇襲だった。通所の場合、レシプロ戦闘機が空中戦においてロケット弾を使用するのは対爆撃機などのタイミングに限られる。それは戦闘機相手ならば、より小回りのきく機銃や機関砲の方が扱いやすいからだ。
『このR4Mロケット弾はタイフーンすら貫く!覚悟しろ!』
しかしガーランドはその圧倒的な威力に着目して、今回の対聖グロ戦に投入した。確かにロケット弾を命中させれば、装甲の厚いメイヨーのタイフーンも一撃で仕留められるだろう。
「往生際が悪いわね!今更そんなロケット弾くらいで、戦況を覆せるとでも思っているのかしら?」
サザーランドが素早く機体を反転、インメルマンターンさせ敵機を追いかける。
だがガーランドも負けじと縦旋回させながら、スピットファイアの背後を取ろうとする。
『黒森峰ナンバー2として、お前を落としてみせる!』
『やれるものならやってみなさい!』
激しい機動戦の最中、ほんの一瞬、ガーランドの機体の照準器にサザーランドのスピットファイアが映った。
『
すかさず、ガーランドはロケット弾の射出ボタンを押し込む。
「しまっ──―
ロケット弾は高速で、サザーランドの元へと飛んでくる。当たれば即死モノの攻撃を回避すべく旋回しようとするも、ギリギリで間に合いそうにない。
「先輩、危ない!」
そこに突如としてメイヨーのタイフーンが、かばうように射線に入ってきた。
ロケット弾はタイフーンの分厚い翼をいとも簡単にへし折り、機体は海に真っ逆さまに突っ込んでいく。
「メイヨー?応答してメイヨー!」
断末魔を上げる暇もなく、メイヨーはロケット弾の餌食になって撃墜された。
「ぬう。そろそろ燃料が厳しくなってきた。敵エースを逃すのは惜しいが、ここは撤退する頃合いか」
ガーランドはメイヨーを仕留めると急速に離脱して、聖グロ学園艦上空からの撤退を始めた。
『待ちなさい!私のメイヨーを落として、やすやすと帰れると思うわけ!?』
撤退する黒森峰の編隊を、サザーランドは必死に追いかける。
スピットファイアのスロットルレバーを全開にし、出力を最大にする。
大切なパートナーを撃ち落とされた彼女は、ガーランドに対して復讐の怒りに駆られていた。
そこに聖グロの管制官から無線が入ってきた。
「管制塔から33番へ。敵機は周辺空域から離脱しました。追撃の必要はありません。直ちに帰投してください」
その帰還命令に対して、サザーランドは反論する。
「お断りするわ!このままじゃ私の気が収まらないもの!」
今のままフルスロットルで敵に向かえば、第二ラウンドに持ち込めるだろう。ましてやメイヨーの仇を討たなければ、サザーランドも溜飲が下がらない。
しかし管制官の返答は無情なものだった。
「許可できません。生徒会長より戦力温存のため、あなたに対して追撃許可を出さないように言われています。繰り返します。直ちに帰投してください」
「くうぅぅっ!分かったわよ!ここは下がれってことね!」
基本的に空の世界において、航空管制官からの命令は絶対だ。空を管理する立場にある人間達の指示には、どんな凄腕パイロットであっても従わなければならないのが、古今東西で共通のルールだ。事実それによって、航空機同士の秩序は保たれているのだ。それは空戦道とて例外ではない。
しかも今回は生徒会長である幸子からの命令も含まれていた。こうなればエースたるサザーランドとしても、大人しく従うしかない。
「ごめんなさい、メイヨー……」
サザーランドは着艦の途中、大荒れの海を見てそう呟いた。
彼女の願いは後輩が無事救出されること、ただそれだけだった。
一番好きな学校は?
-
大洗女子
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聖グロリアーナ
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サンダース付属
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アンツィオ
-
プラウダ
-
黒森峰
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知波単
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継続
-
その他(BC自由等)