ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース 作:ゲオルギーJr
ザーザーという雨音―――。
発達した積乱雲は聖グロリアーナ女学院に猛烈な雨をもたらしていた。
「……」
そんな中、サザーランドは窓の外をボーっと眺めていた。
テーブルに肘をつけながら、虚ろな表情をしている。
別に視線の先に何かあるわけでもなく、ただひたすらに外の様子を見ているのだ。
「……あ」
外が一瞬だけ光り、直後ドーンという雷鳴が響く。朝から降り続いているこの雨は、午後になっても鎮まるどころか、より一層激しさを増していた。
「メイヨー……」
今の彼女の頭の中は、後輩のメイヨーが無事に救出されたかどうか、それだけを考えていた。
というより、それ以外の事が考えられない状態なのだ。彼女は読書をして気を紛らわそうとしたりもしたが、まったく手が付かない有様だった。
「おや?サザーランドじゃないか。どうしたんだい、ボーっとして?」
そんな魂の抜けたような彼女に話しかけたのは、整備班の班長、清美だった。普段は作業のために格納庫に籠りっぱなしのハズだが……。
「……きよみん。どうしてここに?」
「いやね。単純に整備する機体がなくて暇だっただけさ。今の格納庫はガラガラで寂しいね。」
先日のプラウダ戦、レッドバロン率いる黒森峰の襲来、そして数時間前に発生したエースと二番手による衝突。戦いに次ぐ戦いで、聖グロが保有する戦闘機はほとんどが損失したか、酷く損傷したような状況だった。こうなると整備員たちは仕事が無くて、お手上げ状態なのだと言う。
「まあ、サボれるから楽っちゃ楽なんだけどさ。やっぱり機体と人員でてんやわんやしていた頃が懐かしく思うよ」
「そう……」
清美が話を振っても、サザーランドは相変わらず死んだような目をして、外を眺めている。
「わかるよ。メイヨーのお嬢さんだろう?」
「よく分かったわね。何も喋ってないのに……」
「そりゃああんた、アタシと三年間の付き合いだからねぇ。テレパシーってやつさ」
清美はグッドサインをして、得意げに顔に指した。確かに二人は高校一年生からの長い付き合いだ。空を飛ぶ者と、それを陰で支える者。両者の関係は、一言では言い表せないほど密接である。お互いが何を言わずとも、感情を理解できるほどにだ。
「残念だけど、まだ救出されてないよ。まあこんな大荒れの天気じゃ、捜索も難航するだろうしねぇ」
「……メイヨー、大丈夫かしら?」
ひたむきに後輩の心配をするサザーランドを見て、清美はこんな事を言い出した。
「あんた、変わったねぇ。昔は無愛想で他人に興味がない感じだったのに……」
その言葉に思わずドキッとするサザーランド。確かに彼女は元々、他人と絡むことを嫌って一人で過ごすことが多い人間だった。それが今や、一人では不安で落ち着かないようになっていたのである。
「言われてみればその通りだわ。私は孤独を好む性格だったはず……」
「そうだろう?やっぱり三年生になってから。いや、正確にはメイヨーちゃんと組むようになってから、あんたが醸し出す雰囲気というかオーラみたいなのが段々変化してるよ。前は何となく近寄りがたい感じだったけど、今は単なる優しいお姉さんって感じだねぇ」
図星だろうか、サザーランドは更に動揺する。
「本当に?メイヨーと組んでから、私そんなに変わった?」
「変わったよ。理由は知らないけど、一時期みたいな誰と組んでもぎくしゃくしてた頃とは明らかに変わった。あの頃はあんたも随分と荒れてたねぇ」
メイヨーとタッグを結成する前にも、サザーランドは何人かのパイロットと一緒に任務を遂行したことはあった。ただ結局、そういう人物とはその場限りの付き合いで終わり、正式なウイングマンは存在していなかったのである。
ゆえに彼女は孤独を好む性格も含めて、聖グロのパイロット達の中では浮いていた。仲の悪い人こそいないが(ウェリントンは除く)、特別仲の良い人もいないといった感じであった。
数少ない友人であるミニットマンに関しても、学校が違うので交流する機会はさほど多くなかった。
「こんな私が、どうしてメイヨーにだけ優しくできるのかしら?」
「さあねえ。ああいう妹みたいな後輩が、実はあんたも欲しかったんじゃないかい?これはアタシの勝手な予想だけどさ」
妹。その言葉はサザーランドにとって聞きなれないものだった。
「私は一人っ子よ。兄弟も姉妹もいない。妹が欲しいなんて、考えたことも無かったわ」
「そうかい?でも知らず知らずのうちに、妹じゃなくてもどこかでそういう自分に従順な年下っていう存在は求めてたんじゃないのかい?そうじゃないと、あんなにベッタリくっつくことは有り得ないだろう?」
清美からの鋭い指摘に、サザーランドは赤面しながら答えた。
「そんな、私がメイヨーのことを好きだなんて……」
「おや?アタシはメイヨーが好きかどうかなんて聞いてないのにねぇ?言っておくけど、サザーランドとメイヨーのカップルはウチらの間じゃ有名になってきてるよ。ベテランエースの先輩と、新米パイロットの後輩っていう組み合わせ。お似合いだと思うねぇ」
サザーランドは恥ずかしくなったのか、顔面を手で覆い隠してしまった。
「ほらほらそういう表情!二年生の頃には絶対やんなかったよ。こりゃもう明白に恋してる感じかい?青春だねぇ、ハッハッハッハッハ!」
「からかわないでよ、きよみん。こんな感情、人生で初めてだから」
このとき初めて、サザーランドは自分がメイヨーに寄せている好意に気が付いた。いや、自覚したという方が正しいか。これまで他者に心を閉ざしていた人間が、初めて恋を自覚した瞬間。ましてや同姓の年下となれば、動揺するのも無理はないだろう。
「はあ……。こんな情けない姿、メイヨーには見せられないわね」
ようやく恥ずかしさが収まったのか、サザーランドは顔を隠すのを止めた。
「いや、恋愛はいいもんだよ。誰にだって、人を好きになる瞬間ってのはあるさ。仮にそれが同性愛でもね。」
サザーランドは深呼吸をして、冷静さを取り戻す。
「ふう。やっと本調子に戻ったわ。ちょっと落ち込んでたけど、今の話でそれも吹き飛んじゃった」
「そりゃ良かった。お前さん意外とメンタル弱者だから、こうやってケアしないとずっと引きずるからねぇ」
そう。サザーランドはこう見えて精神的には弱く、しかも一人で抱え込みやすいタイプだ。なのでこうして、清美がカウンセリングのようなことをする時も多い。彼女は戦闘機などのメカニック面だけでなく、メンタルの面でも、エースを支えているのだ。
「ありがとう。色々お世話になるわね」
「ところで、お前さんに一つ、有益かもしれない情報があるんだけど……」
突然、清美が話題を変える。
「ん?何かしら?」
「捕虜の話さ。ついさっき、周辺海域で遭難していた黒森峰のパイロットが何人か、ウチの捜索隊に見つかって救助された。」
先ほどのガーランドとの戦いで、聖グロ側は数機のFw-190を撃墜していた。そうなると、撃墜されたパイロット達は捕虜になる。清美はその捕虜たちの中に、少し妙な人物がいると言う。
「でさ、一人だけ所属が違うってパイロットがいるらしいんだよ。自分はガーランドの部隊の所属ではありませんって言ってるんだ。変だろう?」
確かにこれは奇妙である。サザーランド達が落としたのは、ガーランド率いる飛行隊の機体だけのはずだ。なのに何故、それ以外の所属の黒森峰パイロットが捕まっているのだろうか?
サザーランドは少し考え込んだ後、ある可能性に気が付いた。
「……ねえ、それってもしかして、レッドバロンの僚機じゃない?」
「え?どうしてそう言えるんだい?」
「だって先に出発したウェリントンの飛行隊が、レッドバロンと戦ったはずでしょう?結果は知らないけれど、まだ帰還してないってことは、恐らく負けたんでしょうね。それで、レッドバロンの僚機が撃墜されて、そのまま聖グロまで流れ着いたのなら、辻褄が合うわ。だって今日は海が荒れてて、捜索が難航しているんでしょう?」
この推測が正しいかどうかはともかく、あり得る話ではある。実際、近海で撃墜されたメイヨーが未だ救助されいないのだから、かなり遠くまで海流に流されてしまっているかもしれない。それなら黒森峰周辺で撃墜されたパイロットが、聖グロ学園艦付近の海域まで流された可能性は十分ある。
「ふーむ。大分無理がある推測な気がするけど、それらしい反論もできないねぇ」
「私、そのパイロットに会いに行くわ。もし本当にレッドバロンの僚機なら、聞きたいことが沢山あるもの」
今のサザーランドにとって、レッドバロンに関する情報は貴重だ。もし僚機ならば、パートナーとして色々知っているかもしれない。仮にそうでなくとも、同じ黒森峰のパイロットならば、何かしらの情報を聞き出せるだろう。
どちらにしてもサザーランドは現在、特にやることもなく暇だったので、その捕虜と対面して話を聞きたい気分だった。
「レッドバロン……。奴の真の目的を暴くチャンスだわ」
大雨のなか、サザーランドは足早に艦内の捕虜収容所を目指した。
ここから先、しばらくはパイロット達の内面や生い立ちなどを掘り下げる話が続きそうです。
なんやかんやで、もうかなり終盤まで来てますからね。
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