ガールズ&ファイター 聖グロリアーナのエース 作:ゲオルギーJr
黒森峰のエースパイロット、レッドバロン―――。
航空自衛官の父と、プロ空戦道選手の母の間に生まれた彼女は、言うなればサラブレッドだった。
幼少期の頃から空の世界に生きる人間と接してきた彼女の人生は、当然のことながら同じ空の世界へと引き寄せられる運命であった。
小学生の頃から早くもグライダーに興味を持ち、親と一緒にパラグライダーで遊ぶうちに、自然と空での動き方を学ぶ。
中学生となり、黒森峰へ入学。もちろん航空科で空戦道を選択。普通であれば、中等部の内はシミュレーター飛行での訓練から始まり、複葉機での練習はその後となるが、彼女は中一の冬になると早々に複葉機を乗りこなすようになる。早く単葉機での実戦に移ることを望んだ彼女だったが、規定によって不可能だった。
しかし彼女は諦めず、中三の時にドイツの複葉戦闘機ハインケルHe51で、高校生の操る単葉のBf-109Eに挑戦。あまりの時代差と性能差に、誰もが中学時代の彼女の敗北を予想するが、巧みなマニューバによって逆転勝利。この対決以降、彼女の校内での知名度は飛躍的に向上する。
また、レッドバロンのTACネームも、この時授かった。彼女は生粋の目立ちたがり屋で、自身の搭乗機を真っ赤に染めたがる癖があった。当初は親からも反対されたが、圧倒的な実力で黙らせてみせた。赤い戦闘機乗りの伝説は、ここから始まったのだった。
高等部に入っても、彼女の怒涛の勢いは止まらなかった。一年生の頃から同学年で最優秀成績を残して進級。二年生の冬に三年生パイロットが卒業すると、即座にエースの称号を手に入れる。パイロットとして順風満帆な日々を送っているかに見えたが、次第にある思いが湧いてくる。
<確かに自分は最強の存在になった。でもそれは黒森峰の中だけの話。全国のエースに勝たない限り、真の最強には成り得ない>
母親からスパルタ教育を受けて育った彼女は、ある種の完璧主義者でもあった。自分が最強であることを、黒森峰だけでなく、全国の、全ての空戦道パイロット達に認めさせたい。そんな野望が、彼女の心に渦巻いていた。
だが一つ問題があった。空戦道には戦車道を始めとした他のスポーツ及び武道と異なり、全国大会のようなものが存在しないのだ。これでは自分の強さを証明できない。そこで彼女は閃いた。
<各地の学園艦に喧嘩を売って、向かってきたエースを返り討ちにしてやる>
全国のエースに自分から会いに行くという、発想の逆転である。
<全てのエースを撃墜する、
自分以外の全学校のエースを倒せば、文句なしの最強パイロットとして君臨できる。こうして
まず第一に、自分から積極的に他校の空域に侵入する行為は、あまり褒められたものではない。基本的にパイロットが訓練かスクランブル発進以外で出撃する際は、生徒会長の許可が必要だが、これでは許可が降りそうにない。ましてや黒森峰の現会長は、風紀委員上がりで規律に厳しいことで有名な、あの西住普美だった。会長としても、黒森峰の評判が下がるような真似は、許すことができない。そこでレッドバロンは、エースパイロットの特権を利用することにした。
「エースであるウチを飛行禁止にしたら、黒森峰の航空戦力はガタ落ちするよ?」
これは巧妙な手口だった。理論上は生徒会長はパイロットの行動を制限できる権利があるとはいえ、エースが戦えなくなると困るという一面もあった。もしレッドバロンがエースでなければ、普美としても躊躇なく罰則を与えていただろうが、エースとしての特権が、それをためらわせた。
もう一つの問題は、自身の僚機、パートナーに関してだった。
彼女は元々、自分より弱いパイロットを相棒にするつもりはないという、孤高の態度を取っていた。しかし幾らエースとはいえ、単独行動は危険性が大きいことも理解していた。だが今更誰かとタッグを組もうとしても、過去のなりふりを見てきたパイロット達からは嫌われていたため、結成には至らないように思えた。
だが一人だけ、黒森峰にレッドバロンと組むに相応しい相手がいた。それは一年生の天才ルーキー、ハルトマンだった。中学時代から同学年の中で突出した成績を残していたこと。その強さがゆえに、周りから孤立していたこと。あらゆる面で、レッドバロンと重なる人物だった。
<この子なら、ウチの気持ちを理解してくれるかも……>
そんな思いを抱いた彼女は、早速ハルトマンに会いにいく。最初こそ互いにプライドの大きい人間だったため、ギスギスした雰囲気だったが、戦う内に徐々に意気投合し、正式なタッグとして結成する。
<さあ、ウチを止められるなら止めてみなって!>
これで全ての問題が解決した彼女は、ようやく
「黒森峰のエースはヤバい奴らしい」「赤い戦闘機を見たら警戒しろ」
そんな噂が、瞬く間に全国に広がっていった。事実、レッドバロンは怒涛の勢いで、各校のエースを撃破しつつあった。
ナルシストだが実力は確かな、アンツィオ高校のジェノバ、
サザーランドを下した格闘戦の名手、大洗女子学園のムサシ、
聖グロとサンダースのダブルエースコンビも手こずった、知波単学園のカグツチ、
二年生エースにして守護神の異名を持つ、継続高校のモルテン、
そして空戦道で日本一の規模を誇るサンダース付属高校のミニットマン……。
並み居る猛者たちを返り討ちにし、エース狩りは順調に進行していた―――。
*
黒森峰女学園の学園艦―――。
巨大な温泉施設のある大浴場の休憩室に、レッドバロンはいた。
「……」
ソファーで横になり、天井をボーっと見つめている。風呂上りなのか、金色の髪からはシャンプーの爽やかな香りが漂っている。
「あー……」
彼女は今、無心になっていた。聖グロから送り込まれた刺客、ウェリントン及びその飛行隊を撃破するも、僚機のハルトマンを喪失。学園艦のそばの海域だったので直ぐに救出されるはずだったが、悪天候だったため行方不明。
「ハルトマン……」
普段はエースであることを盾になりふり構わぬ態度を取っていたレッドバロン。そんな彼女が、ここまで落ち込んだ気分になるのは珍しかった。
そんな状態の人間が一人だけいた部屋の扉が、勢い良く開いた。
「ふう、ようやくシャワーを……ん?」
入室してきた人物は、黒森峰ナンバー2パイロットのガーランドだった。
「あれ?アンタ、よく帰ってこれたね?」
これはレッドバロンにとって予想外の来訪者だった。彼女の予測では、ガーランドはすっかりサザーランドに返り討ちにされて、聖グロの捕虜になるはずだった。
「まあな。今回は辛うじて生き延びた」
「まさか……、サザーランドを?」
レッドバロンは自分の最後の獲物であるサザーランドを横取りされたのではないかと危惧した。ただ、それは杞憂であった。
「いや、エースは仕留め損ねた。残念ながらな」
「……だよね~!やっぱアンタ如きじゃ敵う相手じゃないっての!」
からかう姿勢を見せながらも、レッドバロンは内心で肩をなで下ろした。まだサザーランドは破られていない。やはりエースを倒すべきはエースだけだ。そんな感情が、彼女の本音だった。
「相変わらず癪に障る奴だ。言っておくがエースの相方を倒すところまでは追い詰めたぞ。あいにく燃料が厳しくなったので引き返した。なに、次に会ったとき倒せば済む話だ」
このガーランドの台詞は、レッドバロンにとって不満だった。所詮は二番手なのだから余計なことをせずに引っ込んで欲しい。彼女のガーランドに対する考えは、エースと二番手という関係になってから不変のものだった。
「ところで、ハルトマンはどうした?」
ガーランドが不思議そうに質問する。なぜならレッドバロンはハルトマンと四六時中一緒であることが多かったからだ。
「別に?アンタが知る必要ないっしょ?」
「……さては撃墜されたな?」
レッドバロンはとぼけたフリを見せたが、一瞬でガーランドに看破されてしまった。
「ハハハ。それで一人寂しく、ここで寝転んでいたのか?」
「うっさい、余計なお世話だし」
ガーランドはシャワーを浴びるために服を脱ぎながら続ける。
「まあ今日の天気じゃ、そうそう救出されるのは難しいかもな。海は大荒れだったぞ」
このときハルトマンは聖グロリアーナ女学院によって救助されていたが、もちろん今の二人は知るよしも無い。
「ふーん……」
不貞腐れるレッドバロンを見かねて、ガーランドはこう伝えた。
「そうだ。お前に一つ、面白い事を教えてやろう。さっき聖グロのパイロットが何人か、ウチの捕虜になったのだが、その中に一人、場違いな一年生がいた。これは私の勘だが、そいつはもしかすると、サザーランドの僚機だった奴かもしれん。どうせ暇なら、会って話をしたらどうだ?」
それを聞いてレッドバロンは飛び起きた。サザーランドがレッドバロンの情報を求めていたのと同じように、レッドバロンもまた、サザーランドの情報を求めていたからだ。
「マジで?じゃあいこっかな?」
「好きにしろ。私は一年生パイロットをいたぶる趣味は無いからな」
ガーランドは下着を脱ぎ終えて、タオルを片手に浴場に進んでいく。そのとき、意味深な忠告を言った。
「強さへの願望とは無限に続くものだ。レッドバロン、お前が仮に全てのエースを倒せたとしても、その欲求は収まらないだろう。いや、むしろ増えていくかもしれん。肥大していく欲望に溺れ、苦しむ姿がありありと目に浮かぶ。このまま
「……ッ!?」
レッドバロンの心臓がドクッと鳴る。強さを求めすぎるがあまり、その欲求に苦しむ……。そんな状態は、彼女が今まさになりつつある状況だったからだ。
「ア、アンタには関係ないっしょ!何はともあれ、サザーランドはこのウチが絶対にぶっ潰す!だから邪魔しないでよ!」
そう吐き捨てると、レッドバロンは逃げるように退室していった。
*
黒森峰女学園の艦内にある捕虜収容所へと歩いていく道中、レッドバロンは奇妙な感情に苛まれていた。
「ウチは今まで数々のエースに勝ってきた……。今更、聖グロのエースなんて怖くないっての!」
そう自己暗示をかけるのは、彼女がサザーランドに対して抱く感情に違和感を覚えているからだ。
全ての学校のエースを倒して、エース狩りを完遂したい。そのためにサザーランドに勝ちたい。本来であれば、そういう気持ちを抱くはずだった。しかし―――
(何だろう、この気持ち―――)
どうも今のレッドバロンの感情は、本人にすら理解が及ばないほど複雑らしい。それは彼女の心の奥底にある、一種の破滅願望が原因だった。
(もしサザーランドを倒しちゃったら、ウチを満たしてくれる人は―――)
彼女は今まで、ありとあらゆる勝負を勝ち抜いてきた。エースの座を巡る校内競争に打ち勝ち、エース狩りで数多のエース対決にも勝利してきた。あとはサザーランドを倒すだけ。そうすれば、自分の望んだものが全て手に入る。なのに何故か、サザーランドに勝利したいという気持ちが湧いてこない。いや、むしろ―――。
レッドバロンは首を横に振る。
「バッカ!何考えてんのウチ!?サザーランドの奴は絶対にウチの手で倒す!ぶっ殺ーす!それ以外ありえないっしょ!」
自分の心に嘘をつきながら、彼女は歩き続けた。
レッドバロンは敵役ですが、全国のエースを倒して最強を目指すっていうのは、むしろ少年漫画の主人公みたいな考えです。
でもこの物語の真の主人公はサザーランドです。ハイ。
一番好きな学校は?
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大洗女子
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聖グロリアーナ
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サンダース付属
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アンツィオ
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プラウダ
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黒森峰
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知波単
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継続
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その他(BC自由等)